ビコーペガサスのトレーナーはライダーがお好き 作:J・イトー
3月15日はサイガの日。
レオのセリフはグーグル先生頼みなのであまり深く考えずお読みください。
LET THE EMPRESS GAME BEGIN.
ある昼下がりの生徒会室。ひとりのトレーナーと、執行部に属する生徒が作業を行っていた。
名をエアグルーヴというそのウマ娘は、書類を読む手をふと止めるとトレーナーの方へ向き直った。
「……そういえば、後輩に言伝を預かっていた。感謝祭パンフレットの英訳版作成に、監修として加わってほしいとのことだ」
「
グルーヴの要請にそう訊き返したトレーナーは、名をレオといった。
「
「たわけ。貴様以上の適任が居るものか」
自分が出るまでもない、としたレオの言は、すぐさま切って捨てられる。
彼は国籍を日本国外に置き、常用語をこの英語とする男だ。そして、生徒会副会長の側で学園運営へ携わってきた身でもある故に、ノウハウの面でも教師らより適性は上であるとしたためだった。
「
「ふん。使えと言ったのは貴様だろうに」
やや大袈裟に腕を広げながら皮肉を吐くレオに対し、グルーヴはかつて彼に口にされた言葉を以て応酬とした。
「
結局、有無を言わせぬ物言いから悟ったレオが折れる形で、要求は承諾される。
「頼んだぞ。詳細は追って知らせる。……私はこれから会長へ用があるのでな」
そう言って立ち上がったグルーヴは、ついでにレオの纏めていたファイルの運搬を指示し部屋を去っていった。
「……
ひとり残され皮肉げに呟いた彼は、立ち上がり壁面の額縁を認めると、またもこう呟く。
「
ふと口にしたのは、かつて存在したウマ娘の逸話から生まれた格言。
そのウマ娘がターフにいた時代では、ゴールの際に一着から致命的に差が離れていると失格扱いになるルールが存在していた。
彼女が勝利したとあるレースにて、コールされた着順が一着の他に存在しなかった故に語り継がれたそのセリフは、日本では『唯一抜きん出て並ぶ者なし』を意味する格言として誤って伝えられているのだ。
「……
そうほくそ笑んで立ち上がると、出入口に手を掛け、外に出た。
悠々と歩く彼の脳裏には、担当とのキャリアが回想されていた。
──かつて、半ば留学という形で日本にやってきてトレーナーに就いたレオ。彼がグルーヴが出会ったのは、来日間もない頃だった。
(……
周囲から聞きかじったその異名を呟き、学園を闊歩するレオ。
学園を統括せし生徒会の中核を成すという、そのウマ娘を指す名に苦笑を零しながら、慣れない廊下を進んでゆく。
噂によれば、方向性の違いから数多ものトレーナーを袖にしてきたという冷酷無比な存在であるという。
大抵のトレーナーであれば敬遠して然るべきであろうが、この男はその内に入る者ではなかった。
「──
苦笑は挑発的な笑みに変わり、彼の瞳の奥には興味が灯った。
新進気鋭を自認するレオにとっては、じゃじゃウマ娘の担当はむしろ望むところというものだったのだ。
「
ただし、来て間もなくで生徒の顔を知らなかった彼が、件のウマ娘を探そうと決意したタイミングだった。
「
突如向かいから足をもつれさせ、廊下にプリントを散らし悶える生徒を前に、たまらず駆け寄ったレオ。
正確には蹲っている様子のウマ娘だったが、わずかに顔を上げて介抱人と目を合わせた彼女はこう呟く。
「貴様は……」
この国では相当な目上か、その反対かに用いられるという、その二人称に面食らいながらも容態を窺うレオ。
「
この日本において、初対面の学生にぶつけるべき言語ではないと気づいたレオは言い淀んだが、彼が翻訳のアプリを取り出す前に口が挟まれた。
「外国からトレーナーが来たと聞いていたが……よもや貴様に見つかろうとはな」
こちらの素性に心当たりがあったらしい彼女の言に、レオは少々呆ける。自分はそれなりに有名になっていたらしい。
「……
「フン、意図は解しているぞ、たわけ」
Wow、と意趣返しに驚く。言語を壁とした陰口は、どうやら彼女に通じなさそうだ。
まもなくプリントをかき集めたレオは、器用にもグルーヴも抱え歩き出した。
「な、一人で歩けるっ……!」
「──
──そして保健室へ運んでいった彼女と、再び顔を合わせた頃だった。
「外様とはいえ……いや、外様だからこそか。女帝を志す身として恥ずべきザマを見せたな……」
「……
自嘲するように繰り出された言葉に、聞きつけていた噂を思い起こしたレオはそう訊き返した。
「
「は……? ああ、そうだな……いかにも」
質問を遅れて噛み砕いたのちに、彼女は答えを口にした。
「私はエアグルーヴ。生徒会副会長にして……"女帝"たらんと邁進する者だ」
レオが察した通りの素性を持っていた彼女に、やはりと微笑む。
「
そう返してやると、グルーヴは不服そうに鼻を鳴らす。彼女にとっては弱みを晒した上での発言だ、皮肉と取ったのだろう。
レオにしてみれば本心からの発言であったために不本意だったが、早々に切り上げて別の話題に移ることにした。
「
心機一転、そう問いかけた彼に対し、グルーヴは気まずそうに答える。
「……少し、心労が祟ったまでのことだ」
思いのほか陳腐な回答に、レオは違和感を覚えた。
これ以上は口頭で伝えるのが難しいと判断した彼は、懐からスマートフォンを垂直に放り投げて掴む形で取り出すと、軽やかに文字を打ち込んでこう示した。
──
翻訳機能によって日本人に馴染み深い形へ姿を変えたその文章に、グルーヴの額は歪んだ。
「……知ったような口を」
「
本心を曝け出しているわけではないであろう彼女を、あえてそう煽るレオ。
諦めたようにため息を吐いたグルーヴは、結局こう洩らした。
「……天下のトレセン学園のトレーナーが、随分質が低いと憂いていてな……」
スケールの大きい批判に、思わずおののくレオ。会ったばかりの外来者である自分が対象に含まれると思い至るほど浅慮な男ではなかったが、それでもあえて口にすることにした。
「
「事実を口にしたまでだ。貴様は知らんだろうが、ここのトレーナーはあれこれと要らぬ手出しが多すぎる」
聞けば前の担当トレーナーには、自身が行っていたという生徒会活動や後輩指導を、同意なしに辞任させられかけていたらしい。それ以前にも、実績を求めるトレーナー陣とは方向性に食い違いが起きることが多々あったのだという。
「私の目指す先には、勝利を重ねるのみではたどり着けん。それを理解する者がこうも現れないのかと思うと、少し気落ちしてしまっていた」
失望がありありと現れたその声色に、レオは考えこむ。
(
先ほどまでは『従わせてみたい』と息巻いていた彼だが、どうもグルーヴは単純な癖者ではないようだった。
すると、ふと聞こえた足音に振り向くと、入り口のガラスから人影があった。
「……失礼します。診察のため戻りました、保健担当の者です」
学校医の到着に伴い、時間切れを悟ったレオは席を立った。
「手間を取らせたな、礼を言う」
「……
そう言い残すと、学校医とすれ違いながら保健室を後にする。
粛々と歩く彼の脳裏には、グルーヴへの興味が再び思い起こされていた。
急遽書き上げたのでだいぶ雑だなんて言えない。
次はドレイクかディケイド回を構想中。