000
個性特異点、なんていう荒唐無稽、とも言い切れないSFチックな滅亡論がある。
細かな理屈が面倒なくらいあるけれど、要するに、親から子へと引き継がれる個性は足し算のように混ざり合い、いつか人の手に余るほどのものへと至るというもの。
あるいは、既に至り始めているというもの。
それは都市伝説。現実を見ていない、あるいは現実を見ている者からの反論こそ語り切れないほど無数にあり。
例えば、無個性。
個性特異点が足し算の理論なら、無個性は負の数と言えよう。引き算のように、来たる特異点を押さえ込む存在と言えよう。
そんなヒーローみたいな存在の一人だと、中学二年の私は皮肉気に思っていた。
そうやって自分を誤魔化してきた。
そうやって自分を甘やかしてきた。
そうしているうちに、私は殺された。
物理的に。それもクラスメイトに。
つま先から股までが焼かれ。
股から肩までが氷塊にされ。
肩から脳天までがまた焼かれた。
死んでようやっと。
その凄惨な光景を見せられてやっと。
私は私の異能を知覚した。
私の異能は。
俺の個性は。
僕の能力は。
我の体質は。
復活。
転生。
蘇り。
変成。
あの身に架された名が一人目。
あの身を犯された名が二人目。
あの名を持たぬ肉体が三人目。
あの名を知らぬ肉体が四人目。
不死身の異能を発現した私。
転じて生まれた俺。
受け継いで蘇った僕。
異を持って還った我。
我は僕で僕も俺で俺が私で。
「みんなの味方であれますように」
だからみんなで、一人の願いを執行する。
001
雄英高校ヒーロー科、一般入学試験、実技。
数多の中学三年生が集う中に、私は紛れていた。
いや、正確には群れの中から幾らか離れたところにいるけども。
既に試験の説明は終わっている。
ウォーミングアップも十分。
この身を焦がす覚悟は十二分に。
『ハイ、スタートー』
プレゼント・マイクの気の抜けるような合図があるとすぐに、私はこめかみに銃口を突きつける。
もちろん比喩だけども。当ててるのはただの右手、人差し指。ただの指鉄砲。
『どうしたどうしたぁ!! 実戦じゃカウントなんてねぇぞ! 走れ走れぇ!!』
その言葉に焚きつけられて飛び出していく受験生を眺めながら、私は一度ため息を吐く。
別に初めてというわけでもないのに、死ぬ時はいつだって心の準備が必要だ。
「じゃ、逝ってきます」
発動させるのは、ごくありふれた個性の一つ、人体発火。
けれど大分初期のもので、出力に使用者への配慮なんて欠片もない。芯から皮まで容赦無く焼き尽くし、きっと最後には灰しか残らない。風に流され、肥料になろう。
苦しまないためにも、脳から焼こう。
さようなら、現世。
002
試験会場に立ち並ぶビルの上に生まれた私は、一番使い慣れた個性である『第三の手』を使い、仮想敵のロボットを破壊していく。
第三の手は肉体から離れ浮遊する異形の手。親指と小指の区別が無く、その姿は左手とも右手ともとれる。
高いところのものを取るときに便利なこの個性の真骨頂は、筋肉に依存しない異常な握力と器用さ。動くだけの鉄の塊なんて、容易く歪めて機能不能に出来る。
私のやることは屋上から見下ろして、手当たり次第に第三の手を差し向けることだけ。
なんて楽なゲーム。ビルだから自殺も容易い。
「だと思っていた時期が私にもありました。……なんてね」
試験が始まってからしばらく経つと、地上の様子が一変した。
それは、ビルより巨大な、それも0ポイントの仮想敵。……いや、何を仮想しているんだか。巨人のヴィランでも過去にいたのかな? 確かに、巨人化とか巨大化の個性は少なからずあるけれども。
並の学生じゃ到底敵わない巨体を前に、地上は
あちこちでパニック。かく言う私も、ビルが蹴り倒されるか、踏み倒されるか。ここでのんびりしていられる時間はそう長くない。
それに、流石に異常の力を持つ第三の手でもあれを壊すのは骨が折れる。……というより、骨を折るのに手間が掛かる。
「……離れたとこに移動してもいいんだけど、それもなんかなぁ」
逃げながら小物狙いなんて、面白くない。
どうせ死んでも続くこの人生、巨大ロボットと喧嘩なんてこれから何回出来るか。
「予定変更。殺し合おうか、ロボットちゃん。……あれ、くんかな? もしかして年上だったりは、流石にしないよね?」
気の迷いに身を任せ、私はビルを飛び降りた。
003
自殺した私の死体を灰にした私は、放つ炎の向きをロボの足へと変えた。人肉程度は数秒で灰にする業火は、持ち上がった鉄の足を赤熱させ、踏み下ろされる頃には支えきれずに潰れて歪む。
「できれば殴りあったり、ビーム撃ち合ったりしたいんだけどねぇ」
あくまでもこのロボットも試験用。そんなビックリ兵器なんて搭載すらしていない。
足の熱は基板まで届いたのか、起き上がることも出来ずに機能停止。そしてすぐに試験終了の時間も後少し。
「合格したらとりあえず、ロボットの熱対策を伝えなきゃね」
いや、流石に見てるか。
まだちょっと時間もあるし、一石二鳥目指してポイント稼ぎに行こうかな。
巨大ロボットとの喧嘩もそこそこに、第三の手をもう一度使うために私は脳から焼く。
「私の命、安すぎ」
さようなら、現世。
999
時は幾らか進み。
雄英高校ヒーロー科の会議室では、雄英の校長や教師陣が漏れなく出席する重大な会議が行われていた。
「実技総合成績が出ました」
大画面に受験生の名前と成績がずらりと並ぶ。
当然上位の名には注目が集まり、その中でも三本指に入る爆豪勝己や、巨大ロボを殴り飛ばした緑谷出久には感嘆の声が複数上がる。
決して緊迫するような会議ではないのが通年であるこの毎年この日。けれど、今回ばかりは事情が違った。
原因は一人の受験生。その個性と、試験中の行動についてだった。
「
実技試験には仮想敵を倒して得られる敵ポイントの他に、同じ受験者を助けることで得られる救助ポイントがある。
成績二位である爆豪が敵ポイントのみでその好成績を収めたことに比べれば、現川が両ポイントでそれなりの点を稼ぎ、総合的に主席になっていること自体にはあまり驚きはない。
問題、……この場合、議題とでも呼ぶべきなのは、首席である現川の試験中の行動にある。
「開始直後に個性で焼身自殺。試験途中にもビルから飛び降り自殺。試験終了後にトイレで手の個性を使い、頭を握り潰して自殺」
校長の口から淡々と、現川の行動が語られる。その内容に教師たちは数滴ですまない量の冷や汗を流し、ヒーローでもあるヒーロー科の教師たちは汗どころか血まで流しそうな顔色をしていた。
「教師としてもヒーローとしても言うべきではないんでしょうけど、……彼女、正気じゃないわね」
会議室の花とも毒ともとれる危うい、……正気の沙汰ではない格好をした女教師は言う。
「……個性届けが出されたのは中学二年の時か。無個性だと思ってたら実は、というパターンなんだろうが、その割には、申告されてる個性の内容が詳細だな」
「良く言えば合理的。悪く言えば命を軽く見ている。……正直、彼女がヴィランだったらと思うとゾッとする」
新一年生の担任となるであろう二人は口々に言う。一人は感情を押さえながら。一人は現実逃避するように気怠げに。
「まっ、まぁ、負け知らずのヒーローとなれば背を預けるに心強いんじゃないかなっ!」
そして筋骨隆々の新米教師は険悪な雰囲気に耐えきれず、必死なポジティブシンキングを垂れ流した。
「彼女が正気であれなんであれ、優秀な成績を残している以上、落選には出来ない。彼女の教育は我々にとっても大きな試練にきっとなるだろう。……みんな、マジでがんばろうね」
日頃のノリもすっかり忘れて、校長は告げた。
投げ出したとも、責任分散を試みたとも言えよう。
それに素直に返事できた教師は、教育のなんたるかを知らぬ新人教師一人だけであった。
後書き。と言うか、主人公の個性の解説。
個性『転生』
能力1「死ぬと蘇る」
死体を修復して復活する蘇生と、新たな肉体を生成して復活する転生、母体から赤子として産まれる出生とを自由に選べる。
肉体を生成する場合、発生地点は調整可能で、自殺による擬似テレポートも可能。
新たな肉体の生成は同時に人格の生成も行われ、転生前と後とでは別人である。人格、肉体は共に変成可能で、性別や外見、性格までもが、人間の範囲内ではあるが自由自在。意図せぬ限り、限りなく同一人物が生まれる。
能力2「殺した相手を蘇らせる」
殺した相手を生き返らせることが出来る。肉体の修復加減はある程度自在。
しかし対象は人間に限り、新たな肉体を与えることは出来ない。
能力3「死んだ個性を一つ持ち帰れる」
転生する際に、死人の個性を一つ持ち帰ることが出来る。個数制限は一つで、新たに持ち帰る際は元あったものを返還することになる。元使用者の経験値は引き継がれないが、個性の詳細はわかる為、ある程度自在に扱える。
殺した相手を転生させても持ち帰らせることは出来ない。
と、まぁ、我らが日本の伝統芸能、『神様転生』をモデルとした個性です。
死人の個性を一つ持ち帰れる設定は、転生特典が元になっています。
原理とか細かい理屈とか、そういうのは全部神様がなんとかしてくれてるんです。きっと。
そんなノリで書き出された小説なので、こんなノリで新たな能力が見つかったりするかもしれません。……が、これは別にチートで無双するような小説じゃありません。バトルはおまけです。
メインはお喋り。
戦ってる時間よりも駄弁ってる時間の方がきっと長いでしょう。
それでも読みたいと、面白そうだと思っていただけましたら、応援よろしく。
チートなんてつまらない! って人は見なくてもいいよん。