000
世間一般では、個性が発現するのは四、五歳程度の頃だと言われている。もちろんそれより早いこともあるし、遅いこともある。所詮は平均値ってね。
それでもその平均の頃合いを過ぎても個性を発現しなかった人間は無個性と言われ、その生涯には不幸と憂鬱が約束される。……これは流石に誇張表現かもしれない。
かもしれないけれど、私の人生ってやつは概ねそんな感じ。不幸だったし憂鬱だった。
無個性と認定された時は両親を泣かせたし、個性を持つ同級生たちからの虐めなんて日常茶飯事だったし、将来と呼べる年まで生きていたとして、就職する先なんてどうせなかった。
もちろん無個性の人間にだって優れた人間というのはいるだろうけど、総人口のうち無個性は二割しかいない。その二割を残り八割が養っているというのが、今の社会の現状であり、無個性でありながら働いている人間なんてそのうちの何割か。……下手をすれば、一割もいないかもしれない。
そんな哀れで可哀想な私の転換期は、中学二年生。死体の腐りやすい、夏休みの頃だった。
アッハァ。死体云々は余計な一言だったね。
林間学校、だったかな? 山を登った覚えはあるけど、海も泳いだ覚えもあるし、あのイベントが本当に林間学校だったのかは自信ないけど。まぁそんな感じの夏らしいイベントがあったわけだ。
そしてそういうイベントにつきものなのが、学校のみんなでの宿泊だよね。私の学校の場合、どっかの大きい旅館だった。
何人かで一つの部屋に泊まり、夜遅くまで起きてたり、鍵を締めたりすると先生に怒られるやつ。
とはいえ、男女が一つ屋根の下に寝泊りして何も起きないはずもなく。
無個性とはいえ結構可愛かった私は、相部屋の同級生たちに部屋を追い出された。
それだけなら先生を頼るなりしてどうにかするんだけど、それより先に。
私は思春期真っ只中の男子二人に捕らえられ、男子トイレに連れ込まれた。
夏の暑さだけのものじゃないくらい熱気に満ちた彼らは、……まぁ有り体に言って、私を犯そうとした。
そしてなんだかんだ抵抗の末に私は殺され、幽体離脱的な状況になって、私は無個性ではないことを自覚した。
いろんな意味で壮絶すぎて忘れられない一時で、事細かに語るにはやっぱり壮絶すぎる一時だった。
私が将来の指針をヒーローへと向けるのはまだすこし先の話。
001
「行ってきまーす。逝ってきますじゃないよ?」
玄関でドアを開けてから、仏壇のある方にむけて告げてから外に出る。
今日からバラ色の高校生活! 同中のクソどもなんて一人もいない学校を選んだのだから、楽しいに決まってる!!
バラ色って言うとなんか楽しそうだけど、薔薇色って言った途端になんかホストクラブっぽくなるよね。いや、入ったことないけどさ。なんか気障ったらしいと言うか、イヤらしいと言うか。
「あ、逝った方が運賃安く済むしお得じゃん」
あれ、でもそれって、私の命は運賃より安いってこと? 損得勘定するとそんな感じだけど納得いかねぇ……。
さようなら、現世。
002
うわぁ。登校初日に人を踏もうとは思わなかった。
「……新入生に踏まれる日が来るとは思わなかった」
「それはラッキーだね。今時いないよ? タダで女子高生に踏んでもらえる男なんて」
ことの顛末、ってほど格好いい何かがあったわけじゃない。
ただ単に私の転生した先が運良く教室の近くで、そして着地地点に寝袋のおっさんがいた。
起承転結ってより、起床転結だね。
「お前はA組だからそこの教室だぞ。……俺はまだ早いから寝る」
「あー……」
そっかそっか。
デスポ(デスとテレポートの略ね)してきたからだいぶ早く着いちゃったのか。
流石にこの時間じゃ話し相手もいないだろうし、私もたまには永眠ではなく安眠に身を委ねようか。
さようなら、現実。
003
黒板に貼られた座席表に従って席に座り、机に突っ伏して眠っていた私は、気がつけば私を見下ろしていた。
……結局死んでるし。安眠しすぎて永眠してたわ。
「あ、えっと、現川……さん?」
死後硬直しかけてる腰をベキベキ鳴らしながら起きると、後ろの席の丸顔な女子に声をかけられた。
「あー、……えっと」
心配してるような、困惑してるような顔をしている、丸顔の美少女。……ん?
……どっかで見覚えのあるような。
「あ。覚えてない、かな?」
「ちょっと待って。今思い出すから」
同中に丸顔はいなかったはずだから、……じゃあ小学校かな? 流石に小学生の時の交友とかほとんど覚えてないんだけど……。
「えーっと、あれだ。覚えにくい名前の」
「第一印象がそれな時点で思い出せんくない!?」
友達いなかったもんなー、私のロリ時代。印象が微かでも残ってるだけ、真っ当な子なんだろうけども。
「思い出した!」
「お、おお!」
「
「惜しい! 大分頑張って間違えてくれたみたいやけどちゃうよ!?」
……あっれー?
「じゃああれだ。
「格好いいけれどもっ! それもちゃう!」
「
「惜しい! 後一歩!」
「あ、もしかして
「もしかせん! 一歩の進め方がちゃうんよ!?」
「
「一歩引いて!」
「はぁ?
「はぁ? って言った今! 間違えてるのそっちやろ!? しかもなんでそっち引いちゃうん!? 絵良々々ちゃんなんているわけないやろ!! 私の名前は
はー。
麗日ちゃんね、麗日ちゃん。
うららー?
「もしかしてしっくりきてない!? その顔は思い出せてへん時のやろ!!」
「思い出した、思い出したって。うららちゃんね、うららちゃん。体育の授業で個性ブッパしてパトカー呼んだあの」
「どこのうっかりさんを思い出したん!? うららちゃんなんて呼ばれたことあらへんし!」
あっれー?
確かにいたはずなんだけどなー。個性でドジってパトカー呼んだ同級生。
「まぁ、まぁ。初めまして、私は
「だから初めましてやない……、くもないんやけど!」
あ、マジで初めましてなんだ。そりゃ覚えてなくても仕方ないよね。
「一応、小四と小六んとき同じクラスやったんやけど、あんま話さへんかったしなぁ」
四年と六年って、ほっとんど記憶ないわぁ……。
いや、無個性どうこうとか虐めどうこうじゃなくて、マジでロリすぎて何にも覚えてないや。
なんて。
麗日ちゃんの語る小学生時代に適当に相槌を打っているうちに、気がつけばそこそこの時間が経っていた。入学初日のスケジュールを見るに、入学式のために体育館への移動が始まる時間帯。
秒針が天を突くと同時に、扉はゆっくりと開き、もぞもぞと蠢く何かが教室に入ってくる。
踏み覚えのある寝袋に入った男が教室中の注目を集める中、ゼリー飲料を飲み干してから口を開く。
「はい、静かになるまで五秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠けるね。……担任の相澤消太だ、よろしくね」
端的かつ冷淡ながらも、抵抗なくキャラの伝わる自己紹介の模範解答のような自己紹介。
「早速だが、体操服着てグラウンド出ろ」
担任はそう言って、人数分あるであろう体操服を教室に置いてさっさと出て行ってしまった。
「……とりあえず更衣室探さなきゃだね」
「遅れたら怒られるんとちゃう!?」
004
「「「「個性把握テストォ!?」」」」
と。なんとか揃ったA組の面々は私を置き去りに、声を合わせて驚きの声を隠さず放った。
すぐ近くでは麗日ちゃんが「入学式は? ガイダンスは!?」とおっかなびっくり不安そうな声をあげている。
「ヒーローになるならそんな悠長な時間はないよ。雄英は自由な校風が売り文句。それは先生方も然りだ」
……気、合わなそうだなぁ。
私、個性の都合か時間には悠長な方だし。
バラ色の高校生活とは正反対の方向に導いてくれそうな担任に辟易し始めていると、担任からふと私の名が呼ばれた。
「現川。中学の時、ソフトボール投げ何メートルだった?」
「え? あー……、20も行ってないと思うよ?」
「じゃあ、個性使ってやってみろ。円からでなきゃ何してもいい」
「はーい」
と、言われてもなんだよねぇ。
普段私の持ち帰ってきてる個性は人体発火。肉体を燃やそうがボールを燃やそうが、大した記録は出ないよねぇ。デスポで運べるかも微妙なとこだし。
「ま、しゃーないか」
諦めて、普通にぶん投げる。
「命見知らず、サービスショットォ!!」
肩が外れるとか、筋肉が引きちぎれるとか、本来は生命活動のために脳がセーブしてる諸々を無視して、私はボールをぶん投げた。
普通の人よりだいぶ鈍った痛覚にビリビリと訴えられながら、遠くに飛んでいくボールが落ちるまでを目で追った。
「59メートル」
「お、新記録」
うわっ、肘までイカれた。余裕で肩も外れたし指先なんて感覚もねーや。うけるー。
何がどうなったのか曲がらなくなった肘を無理やり曲げたりしてると、クラスメイト達の「面白そう!」という声が数々聞こえてくる。
私は割とガッツリ怪我してるし面白くないけどねー。
「……面白そう、か。ヒーローになる三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」
いや、わりかし話聞いてる余裕ないっすわ。
死んで楽になりてー。
「よし、トータルの成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
待て待て、それはまずい。なりふり構ってられないじゃん。
というわけでさようなら、現世。
005
五十メートル走。
これはぶっちゃけ消化試合という他ない。
足の早くなる個性はそれなりにあるけど、その大概が自殺に不向きで切り替えができない。
デスポって移動手段もあるけど、あれだって十秒くらいは掛かる。この距離なら走ったほうが早い。
隣で一緒に走るのは、出席番号の都合とかで麗日ちゃん。揃って頭文字が『う』だもんね。多分これから良く良くお世話になります。
麗日ちゃんが服やら靴やらを、触れたものを無重力にできるらしい個性で軽くしてる隣で、私は万全まで直した体の調子を確かめる。
「現川さんって、炎の個性やったんやね」
「ん? あーいや、違うよ。そんな時代遅れな個性だったら昔々に死んでるって」
話もそこそこに、機械音声の「位置について」が聞こえてくる。クラウチングスタートとか苦手だし、マジな目をしてる麗日ちゃんを尻目に軽く構えて開始を待つ。
スタートの合図と同時に、私は普通に走り出した。
服を軽くも出来ず、爆発で加速したり、地面を凍らせてスケートしたりも出来ず、ただ無個性同然に五十メートルを走り切った。
結果、6.98秒。……うん、微妙。女子の平均よりは速いだろうけどさ、二秒とか三秒とかがでてる時点でペーペーよね。
握力。
ちょろいちょろい。
焼身自殺して第三の手を黄泉から帰らせて、握力計を握り潰す。
結果、測定不能。
立ち幅跳び。
第三の手で首を掴んで持ち上げれば、砂場の上を空中浮遊が可能。これに気がついた私ってば天才。
「現川。それ、いつまで持つんだ?」
「あー、多分死ぬまで?」
適当に砂場をうろちょろしてると、私の記録に無限と入力された。これ以上は苦しいだけだし、スタート地点に着地する。
「それ、ボールを持たせて飛ばすこともできるよな?」
「そりゃできるけど、見た目通り腕がないから腕力もないし、ものを投げたりは無理よ?」
「手ごと飛ばせばもっと記録が伸びたんじゃないかと聞いてるんだ」
……この人、天才か?
そんな手段思いつかなかったわ。
細かくは知らないけど百メートルくらいはいけるだろうし、投げるより記録でたじゃん。
「先生って東大卒だったりする?」
「そんなわけないだろ。あと敬語」
反復横跳び、状態起こし。
どうしようもなかったから省略。女子の平均より少し出来たくらいよ。
持久走。
一周一キロを五周、つまり五キロを早く走ればいいわけだ。
……まぁ、普通に走る以外にいい手もないんだけどね。第三の手で浮遊も苦しいから悪手だし。
長座体前屈。
第三の手を限界まで飛ばした。以上。
記録、98メートル。……いや、私だけ単位違うんすけど。
006
お昼前ぐらいの時間まで時間をかけ、全種目が終了。トータルの最下位が除籍らしいけれど、はてさてどうしたものか。
てかトータルっつってもさ、無限を出しちゃった私とか麗日ちゃんとかの扱いってどうなるんだろ。
「んじゃ、パパッと結果発表。トータルは単純に各種目の評定を合計した数だ」
と、どこまで合理主義者なのか、いちいち勿体ぶらずに全員の総合成績と順位を掲示してしまった。
うわっ、私の成績、パッとしねぇ。まぁ大体の競技がぱーぱーだったし、しゃーないか。
「ちなみに除籍は嘘な。君らの全力を引き出す合理的虚偽」
は……。
「私、無駄死にじゃん」
「……現川、あとで職員室な」
「なぜに!?」
「敬語」
……はいはい。
後書き。というか、主人公ちゃんのプロフィール。
誕生日 1月29日
身長 161cm
血液型 O型
出身地 三重県
好きな物 女の子とのお喋り
性格 いのち大事に
個性 転生
座右の銘 時は命なり
春休み中に髪を金髪に染めていて、髪型は大体ポニーテール。たまに気まぐれで髪型を変えるが、だいたい不評。
中学二年の夏までは無個性として生きてきた上、凄惨たる半生と度重なる自殺の末に、歪みを歪みで直したような精神構造をしている。
転生の際に男として生まれることもできるためか、好きなタイプとかはあまりない。基本的に人を嫌わず、ヴィランであろうと敵対しない限りは敵意を見せることもない。
小学校が麗日と同じだが、普通に当時のことをあまり覚えておらず、なんとなく「丸顔な子がいたなー」程度のもの。
基本的に孤独な学生生活を送ってきた弊害なのか、集団からは一歩引いた位置で余計なことを考えて過ごすことが癖になっている。
雄英高校ヒーロー科を受験した理由は単純に、同じ中学から誰も受験しなかったから。将来は最悪、ヒーローでなくとも適当に就職できればそれでいいや、くらいに考えている。
死体を大量生産して臓器売買はマジの最終手段。