000
騒々しさとはかけ離れ、穢れの感じられない清潔な部屋。
次々と運び込まれて積まれる、焼かれた遺骨。
神妙な顔付きで立ち尽くすクラスメイト達。
「いやぁ、風流だねぇ」
「どこがだよ」
厳かな空間でもちゃんと突っ込んでくれる素敵な担任の先生とか?
ヴィラン連合の襲撃から、二日後のこと。
雄英は今日も臨時休校。USJを中心に、警備面の見直しとか、何か置き土産(爆弾とか)が無いかチェックとか、なんか色々してるらしい。予定では明日から授業が開始。USJの使用はまだ暫く先になるだろうってさ。
で、今日はクラスメイト達と担任の相澤先生とで、火葬場に来ていた。……先生、そんな包帯でグルグル巻きなのに来なくていいって。
割と最近作られた新しいところで、陰気臭さみたいなのはあまり無い、現代の神殿みたいな構造、内装の施設。
別に、誰か死人が出たってわけじゃないんだけどねぇ。
この施設にある十二個の炉は全てが稼働しており、その中では私の死体が一つ一つ丁寧に焼かれている。
手足に欠損のある死体とか、頭だけとか、腕だけとか。なかなかにグロテスクな物品達。
これ、一個ずつにいちいち手続きやら書類やらが必要で面倒なんだよねぇ。だから毎回、セルフ火葬みたいなことしてたんだけどさ。
二時間くらいかけて、私の死体は全て骨となり、死体の山は骨の山となった。……とは言っても、か弱い私の骨はあんまり燃え残らないんだけどね。
普通は専用の台に広げられて、「これが喉仏ですよー」みたいにやるんだろうけど、こうも山積みにされちゃ、もう訳わかんない。
「じゃ、せっかく来たんだからみんなも手伝ってよ」
私は異形型個性の人用に作られてる大型の骨壺の蓋を開けて、納骨用の塵取りと手箒を渡しながら言うも、みんな微妙そうな顔をする。
「……こういうのって普通、箸でやるんやないの?」
「いや、この量をそんなチマチマやってられないって」
麗日ちゃんの疲れが見え隠れするツッコミに返しつつ、私は塵取りをスコップのように使い、ガッサガッサと骨を壺に流し込む。……いっそ、死体を壺に入れて焼いた方が早いんじゃ無いかなぁ。
001
大量の私の火葬があった翌日。
今日で臨時休校が明ける。
オールマイトにヴィラン連合襲撃。皆、いつにも増してお盛んなマスコミの群れを皆は掻き分けながら登校したんだろうなぁ。
なんて考えながら、私はいつも通りデスポ登校。多分これが一番早いと思います。……なんてね。時間ギリギリだし、早いもクソも無いんだけどさ。
「おはよう、古鳥ちゃん。……やっぱりその登校はあまり褒められないわ」
「ちゃおー、
「それは、言われたところで気にしていないという意思表示かしら。あと梅雨ちゃんと呼んで」
「
「
「うりゃりゃりゃちゃんもおはー」
「うぅらーらーかっ! 分かってて言っとるやろ!? 読みづらいし滑舌悪いだけっぽくも聞こえる!」
「ごめんごめん。今のは滑舌悪かっただけだから許して」
「ほんまに!?」
うむ、ノルマ達成。
非日常の終わりをしみじみと感じていると、飯田君に急かされて座り、それからそう経たずにホームルームの時間となった。
「おはよう」
と、言いながらドアを開けてやって来たのは、相変わらず包帯で完全に顔と腕の隠れた相澤先生。昨日も会ったからその様子は知ってたけども、やっぱり休めばいいのにと思わざるを得ない。
昨日が中途半端なお通夜ムードで聞けなかったのか、あちこちから怪我を心配する声が聞こえるも、相澤先生は「俺の怪我の具合はどうでもいい」と、それらを一蹴。
「それより、まだ戦いは終わってねぇ」
……何気に格好いい言い方好きよね、先生。
私は昨日のうちに、色々と話があったから知ってるけども、皆は知らないらしく、どよめき出した。
「戦い?」
「まさか……!」
「まだヴィランがーーー!!?」
それはそれで面白いけども、違うよ。
「雄英体育祭が迫ってる!」
「「「「クソ学校っぽいの来たぁぁぁああ!!」」」」
そうそう、体育祭ね。
昨日の火葬の後、クラスメイト達を帰してから私は相澤先生と少しばかり話し合った。
その内容ってのは、私が雄英体育祭に参加するのかどうか、するならどう対策するのか、みたいなこと。
というのも私の個性、『転生』は民衆に知られると都合の悪い個性でね。うっかりヴィランに知られでもしたら狙われかねないから。
どっかでも言った気がするけど、私を懐柔することは、不老不死を手に入れることと同義。不死身の個性なんてものは未だに見つかっていないけれど、私なら限りなくそれに近いことができる。
死んでも生き返ることも、殺した相手を生き返らせることができることも、決してカメラに収められてはならない。……って、個性届けを出して少し経った頃、偉そうな人達に言われた。
そんな中、かつてのスポーツの祭典、オリンピックと同等の注目が集まる雄英体育祭。各テレビ局、観客、その他諸々のカメラが注目する中で、私は絶対に死んではいけないという縛りプレイをしなければならない。
だったらいっそ、出なくてもいいんじゃない?
という結論が出たのは、結構すぐだった。コーヒーが冷めるよりも早かった。
どうせ真価を発揮出来ないんじゃ、その後の職場見学を見据えてヒーローにアピールしようにも、歪んだレンズを一枚挟むことになる。しかも、その職場見学に私は参加できない。ヒーローはカメラを向けられるのも仕事だからね。
……まぁそんなわけで、私は体育祭に直接参加はしない。それでも一枚噛むために交渉してるとこだけどね。
なんやかんやで、昼休み。
テレビの向こうの出来事であった雄英体育祭に出場するとなって、皆が燃え上がっていた。麗日ちゃんなんてもう麗かじゃないくらい燃えてる。臍で唐揚げ作れるんじゃないかな?
「あー、あー、暑い暑い。雄英体育祭が地球温暖化の原因なんじゃねってくらいに暑苦しいなー」
「皆様、ヒーローになるために在籍しているんですもの。盛り上がるのも当然ですわ」
と、学食でチョコミントのアイスを食べながら愚痴ってたら八百万ちゃんに捕まった。
「というかそれ、まさか昼食なんですか?」
「そだよー。私の体は生命活動が苦手だから、あんまり健康に気を遣っても徒労でね」
「生命活動が苦手という言葉は初めて聞きましたわ……」
苦手っつーか、不得意っつーか、まぁ虚弱なんだろうねぇ。不思議と風邪引いたりとかはしないけど。……転生して身体を新しく作ったときに菌がなくなってるのかな?
「時に、現川さん」
「ん、なぁに?」
「あなたは、どうしてヒーローになろうと思いましたの?」
肉より野菜の方が多そうなハンバーガーを頬張る八百万ちゃんの顔を見るに、問い詰めるってよりは普通に気になったから聞いてみた、程度のノリの質問らしい。ハンバーガー頬張ってても可愛いって、美少女すげーな。いや、八百万ちゃんの場合は美人って言うべきかな?
「どうしてっつーか、どうしようもなくって感じかなぁ。別にヒーローに助けられたからーとか、そういうのは全然ないんだよ」
むしろ、助けてもらえなかったからこそ今の私がいるとも言える。中二の時に同級生に殺されなかったら、今でも無個性でひ弱なJKとかやってたかもしれない。
「強いて言うなら、そう願われたからかな」
願い。あるいは、命令。私達は『みんなの味方』を、むしろそう受け取っている。
「それは、どなたから?」
「秘密。どうせもう死んじゃった子だし、会うこともないからねぇ」
一人目。私のオリジナル。死ぬまで無個性であった唯一無二の私。
「っ、……申し訳ありません。知らなかったこととはいえ……」
「気にしなくていいよ。ご飯が美味しくなくなっちゃいけないし」
「はぁ……。それはそうと、やっぱりお昼にアイスはどうかと思いますわ」
「八百万ちゃん、チョコミントを歯磨き粉の味とか言っちゃう人?」
だったらごめんだけど、仲良くできないわー。
チョコミントは歯磨き粉の味なんじゃなくって! 歯磨き粉がミント味なんだって! 何度言ったらわかるんだボンクラども! 歯磨き粉に使われるくらい下劣な味なんじゃなくって! 歯磨き粉にも使えるくらい高尚な美味だとなぜ理解しない! この味音痴どもめが!
チョコミントにチョコいらなくね? って意見には私も賛成だけどね。
「いえ、決してそう言うつもりはありませんが、偏食は栄養が偏りますわよ」
「そりゃまぁ、私は偏屈な人間だからねぇ」
「……何を言っても無駄ですのね」
「あっはー。全くの、無駄ってわけでもないよん」
暇つぶしくらいにはなったからねぇ。