スールと危険な人食い絵画   作:プレイズ

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第1話

ここはアダレットにあるとあるテントの中。この中は空間が歪んでおり、外からは想像出来ない広さの敷地が広がっている。錬金術と言われる力で創られていて、いわば四次元空間のようなものだ。

現在中に居るのはその錬金術と呼ばれる力を持つ5人の錬金術士達。彼女らは皆錬金術を使う力を持ち、それぞれ何かを生み出す事が出来る。各々はまだ若く年季は浅いが(約1名除く)、彼女らが行う錬金術はアダレット国内で支持されており、国民の多くから人気が高い。

 

ここはそのテント内にある一室。現在、中央の円卓を囲んで錬金術士達が会合を開いていた。

議題は“特殊素材の確保”についてだ。

先日、久しぶりに新たな絵画が発見されたとミレイユから報告があり、彼女らは早速絵の中に入ってみる事にした。

しかしこれまでのように絵の具で修復を試みた所、それだけでは絵の中に入れない事が判明した。

どうやら特殊な封印が施されているらしいのだ。

その封印を解くには、とある素材が必要らしい。

 

「今回発見された絵画【オパールの微笑み】ですが、封印が邪魔をしていて通常のやり方では絵の中には入れません。中に入るには封印を解くための道具"虹彩の煌めき"を作成して使う必要があります」

落ち着いた雰囲気の女性が指し棒を持ってホワイトボード上を指し示す。そこには簡易的な図が書かれていた。

彼女の名はプラフタ。ここの錬金術士達の中では年長で、錬金術の知識でも頼りになるまとめ役だ。

 

「なるほど、その道具を作成するために、元となる特殊素材『絵画油の雫』が必要ってわけですね」

「ええ」

「絵画油の雫って言う名前の通り、不思議な絵画に使われている不思議な絵の具の"油"が必要なんだよね」

「なら過去に使った不思議な絵の具をバラせば、さくっと素材が得られるんじゃ?」

「ですが厄介な事に、その素材はこれまでの全ての不思議な絵画の中へ行って取ってこなくてはならないのです。絵画油の雫は絵の具の使用素材では置き換えられないですから」

「なーんだ、それじゃさくっと解決とはいかないんだ」

「もうスーちゃんたら。すぐ楽しようとするんだから。色んな絵画の中へ行って採集しないといけないからこうして皆で集まってるんじゃない」

「ちぇー、いちいちどこにあるか探し回って探さなきゃいけないのかー。面倒な探索嫌い」

リディーの指摘にウザったそうに言う黄色い服を着た少女。彼女の名はスール。

彼女もまたリディーと同じく錬金術士の1人だ。双子の妹で、リディーは姉にあたる。

明るくお転婆な子で、いたずら好き。運動神経がよく、快活な性格と相まって戦闘ではアタッカーを務める事が多い。手持ちの二丁拳銃による射撃攻撃を得意としている。反面固い事務作業や座学などは苦手で真面目に取り組まない事も多々あるようだ。

「まったくスーちゃんはすぐそうやって面倒くさがる。私達錬金術士の責務は調合や敵との直接戦闘だけじゃないんだよ?こういう採集とか地道な作業も大事な仕事なんだから」

「はーい、わかってるってば」

「あはは、まあ皆で手分けして探すから多分そんなに手間はかからないはずだよ」

双子の会話を見て軽く微笑んだのはソフィー。

彼女もまた錬金術士である。

頭に三角巾を身に付け、厚そうなコートを着込んだ出で立ちをしている。彼女はこのメンツの中でも特に優れた錬金術士の力を持っており、並外れた能力を誇る。その手に持つ杖とアイテムを使った多彩な技は見る者を魅了し、また殲滅する。華奢な身体からは想像のつかない強さも持つ少女だ。一方でズボラな面もあり、部屋を汚部屋にしてはよくプラフタに注意されている。

 

 

その後、彼女達は今後の採取のための計画を話し合った。今話していた素材の採取は今すぐというわけではなく、そのための下準備が必要だ。

それが整った後に、彼女らは改めて絵画の油の雫を探しに向かう事にした。

 

「とりあえず、今後の方針はこんなとこね」

「あ、そうだスーちゃん。昨日受けた討伐依頼なんだけど、今の打ちに片付けちゃわない?」

「そうだね、めんどいから今日中にやっちゃおう」

「あら、あなた達討伐依頼を受けたの?調度いいわ、私もちょっと欲しい素材があるから一緒に行ってあげる」

「ほんとですか師匠。助かります!」

「イルちゃんも行くの?じゃ私も付き合うよ」

「フィリスさんも来るの?ラッキー!ならさくっと終わりそう」

「もうスーちゃんたら。先輩達に負担かけたらダメしょ」

「あはは、まあちょうど暇してたし問題ないよ。イルちゃんともお遊びたかったし」

「まったくあなたは。まあいいわ、じゃあ後でこの4人で行きましょうか」

 

 

 

それから、彼女達は依頼先の森へと討伐依頼に向かった。

 

 

 

「ふーっ!やったー倒したーー!」

「なかなか手強かったけど何とかなったねスーちゃん」

「当然よ。私がついてるし、それにフィリスもいるんだからね」

敵を倒し、スー達錬金術士勢が歓喜の輪を作った。

彼女達は、今し方森の奥地で依頼対象のドラゴン3体を討伐完了した所だ。

かなり強力なモンスターだったのだが、今回は双子達だけでなく師匠のイルメリア、その友人のフィリスが協力して依頼に臨んでいた。

いくら強力なドラゴンといえども、このメンツにまとめて来られては勝ちの目はなかった。

「あなた達怪我はない?敵のドラゴンブレスで辺り一帯の木が焼けちゃったけど」

「大丈夫ですよ師匠。フィリスさんが辺りに防火シールドを張っておいてくれましたから」

「前に作ってあったちょうどいいアイテムがあったからね。念のため周囲に張っておいたんだ~」

「へえ、やるじゃないフィリス。あなたも少しは年長者らしくなってきたかしら」

「ってイルちゃんそれってどういう意味!?私が子供っぽいって事!?」

微笑んで言うイルメリアにむうっとしたフィリスがくってかかる。

だがこれはいつもの事である。

「まーた始まった、フィリスさんと師匠の痴話喧嘩が」

「ふふ、仲がいいって良いよねえ」

双子は微笑ましそうに2人のやりとりを見ている。

 

「あっ!そういえば依頼主のベルツェゴールさんがさ、依頼達成の報酬には美味しいお菓子をご馳走してくれるって言ってたんだよね」

「あ、そういえばそうだね。ふふ、依頼も無事達成したし、この後頂けるのが楽しみ」

「リディー、折角だから早く帰ってもらおうよ!私もうお腹がすいちゃって待ち切れない!」

「えっ、ちょっと、スーちゃん!」

報酬としてもらえるお菓子が待ちきれないスーは、アトリエへ戻るファストトラベルを起動させる。

そして我先にとそれを使ってメルヴェイユの街へと帰還したのであった。

「スーちゃぁん!もう、抜け駆けはずるいよ~~!」

リディーが嘆くが、既にスールは完全にメルヴェイユへとワープしてしまった。

彼女は呆れて溜め息をつく。

「あら、スーったら先に帰っちゃったの?」

「はい……すみません、スーちゃんお菓子に目がなくて」

「あはは、まあでも美味しい食べ物に早くありつきたい気持ちはすっごくわかるかも」

「流石はフィリス。食い気だけは誰にも負けないんだから」

スーの独断専行にも共感しているフィリスに今度はイルメリアが呆れた様に頭を振った。

「私はちょっとまだこの辺りで採取をしていきたいのよね。あなた達は先に帰っちゃってていいわよ」

「え、そうなんですか?じゃあ私も手伝いますよ。師匠には今日助けてもらいましたし」

「あ、なら私も手伝うよ。私もイルちゃんにはいつもお世話になってるからね」

「あら、いいの?でもあなた達も早く帰って報酬のお菓子を食べたいんじゃないかしら」

「大丈夫です、どうせ後からでも減るもんじゃないですし」

「うん、イルちゃんの用事があるなら私はとことん付き合うよ~」

リディーとフィリスはイルメリアの採取に付き合ってから帰還する事にしたようだ。

「そう?悪いわね。でもすぐ済むと思うから、さほど時間は取らせないわ」

2人に感謝してイルメリアは付近で採取を始める事にした。

 

「さーて、ここがベルツェゴールさんの家っと」

一方、スールは既にメルヴェイユへと帰還を果たしていた。

ファストトラベルを使えば離れた距離にある場所にでもすぐに移動する事が出来るのである。

「くふふふ、リディーや師匠達には悪いけど、一番にお菓子を頂いちゃおう」

抜け駆けした事への罪悪感よりも、一番に先んじた事にちょっぴり優越感を感じ、スールはいたずらっ子の笑みを浮かべる。

依頼人の家の前まで到着したスールは、今一度表札をチェックした。

ここが依頼人であるベルツェゴールの住む家で間違いない。

住所が正しいと確認すると、彼女は軽く玄関のドアをノックした。

コンコンと2回叩いてドアの向こうへ声を送る。

「すみませーん、リディー&スールのアトリエの者ですが討伐依頼の報告に上がりましたー!」

しばらくすると奥から足音がして、ドアが開かれた。

「やあやあよく来たねスーちゃん」

現われたのは70代のお爺さん。

この人が依頼主のベルツェゴールさんだ。

古くからメルヴェイユでお菓子店を営んでいて、私達姉妹も昔からよく利用させてもらってる顔馴染みさんである。

「依頼したモンスター討伐は上手くいったかい?」

「はい、ドラゴン3体、きっちり倒してきました☆」

「そうか、流石だね」

どうやら依頼人さんの評価は上々だ。

錬金術士としての双子の実力は日に日に上達しており、メルヴェイユの街でもその力量は知れ渡ってきている。

そのため、依頼される案件も昔に比べて高い難易度の物も増えていた。

(ま、今回はほとんど師匠達が片付けてくれて私はアシストしただけなんだけどね。てへぺろっ☆)

内心でスールはとぼけて舌を見せる。

今回のモンスター討伐はまだ自分達には危険だからという事でイルメリア達が主に担当してくれていた。

なのでお菓子をもらえるのはスール的にはラッキーなのである。

 

「しかし流石は都で評判のリディー&スールのアトリエだな。仕事が早い」

「いえいえ、国一番のアトリエを目指してますからこれくらい当然ですっ!」

「まだ未熟だった数年前を思えば素晴らしい成長だな。姉のリディーちゃんも君も」

感慨に浸るようにうんうんと頷くベルツェゴールさん。

事実、昔を思えば今の彼女達はかなり腕を上げている。

街の人々からの評価も着実に上がってきていて、国一番のアトリエの足元くらいは見えてきたかな?というくらいにはなっていた。

まあ今回はスーのずるによる所が大きいが。

 

「強力なモンスターを倒すのはさぞ大変だっただろう。お礼といっては何だが報酬にお茶菓子でも出させてくれ」

もし時間に余裕があればだけどどうかな?とベルツェゴールさんは中を指さして言ってくる。

この店に依頼品を届けに来た時には、こうしていつも謝礼としてお菓子をもらえるのだ。

これがまた美味しいのである。

ベルツェゴールのお菓子屋は都でも有名な老舗だけあって味も抜群に上手い。

「謝礼にお菓子を頂けるんですか?なら喜んで頂かせてください!」

「そうか、ではあちらでお出ししよう。遠慮せず上がっておいき」

ベルツェゴールはスールに上がるように促すと、先に立って奥へと歩いていく。

と、少し歩いた所で「おや?そういえば」と言って彼が振り返った。

「おや、そういえばお姉ちゃんのリディーちゃんはどうしたんだい?それに付き添いでついていったイルメリアさんやフィリスさんは」

「ああ!師匠達は何か用事があるらしくて、それを片付けてから来るみたいです」

何喰わぬ顔でスールは話を作る。

だが実際にイルメリア達はその通りになっているので結果的にはオーライである。

「そうか、じゃあスーちゃんにだけお先にお菓子をお出ししよう」

「わーい!ありがとうございます」

まんまと1人抜け駆けでお菓子をもらえる事になり、スールは嬉しがった。

 

家にあがると、彼女はベルツェゴールの後をついて歩き始める。

既に勝手知ったる家屋に足を踏み入れると、廊下の奥の居間に案内された。

大きさはそれほどないが、安らぎを感じさせる落ち着く空間だ。

「さ、ここへお座り。今、今度売り出す予定の新作を持ってくるから」

「えー、新商品ですか!楽しみー」

座布団の上に正座の形で腰を下ろすと、スールは目を喜ばせた。

ベルツェゴールは日々新しいお菓子製品を作る事にも熱心で、たまに新作の試食もさせてくれる。

これがまた美味しいのである。

「これなんだがどうかな?」

「おおっ、これはチョコレートケーキですか?」

白い皿に乗せられてきたのは茶色い色をした1切れのケーキ。

ただし断面には幾重にも層が出来ていて、中にはオレンジ色の果肉が見える。

表面にもチョコだけではなくオレンジソースがかけられているようだ。

「うむ、ケーキ内の8層間にオレンジを織り交ぜたチョコケーキだ」

「美味しそう……じゅるり」

スールは見るや否やオレンジチョコケーキの魅力に食欲を持って行かれる。

彼女の中の昂ぶるスイーツ欲求が活性化していく!

「さ、たんとお食べ」

「じゃあ……お言葉に甘えて。いっただっきまーす!」

フォークをさくっとクリームに刺して彼女はケーキを頬張ったのだった。

 

「んんーーっ、最ッ高ーー!」

数分後、満足そうに彼女はケーキを完食した。

「どうだい、お味の方は?」

「もう最高です☆この絶妙な甘みと仄かなチョコレートの苦み、、、何て素敵なコラボレーション!」

スーの中の美食家の血が騒ぎ、脳内審査員が次々に高得点を与えていく。

「スーちゃんの中での得点は?」

「うーん……95点!」

おおーーっと歓声が沸き上がったりはしなかったが、もし実際の料理大会の審査発表なら声援が上がっていた事だろう。

「むむう……満点とはいかなかったかあ」

100点ではなかった事にベルツェゴールは少々残念そうだ。

「ちなみに減点の理由を訊いてもいいかい?」

「まずデザインがあれですね。正直可愛くない!」

「うぐっ…!」

ベルツェゴールのハートにテラフラムが炸裂する!

「か、可愛くない……ときたか」

「はい、ウサギさんを模したデザインはいいと思いますけど、顔の表情がきつすぎますね」

彼が作ったオレンジチョコケーキはウサギの形を模していた。

だがその顔はどちらかと言えば目が斜めに吊り上がっており、勇ましい顔つきをしている。

「女の子ウケをよくしたいならもっと柔らかな顔つきにしないと。折角の美味しい味が勿体ないです」

「そ、そうか……言われてみると確かにウサギの表情がきついかもしれん」

「それとですね、お値段が安すぎますね」

スールはケーキについていた予定売価を見て言った。

「え、この値段ではまずかったかな。安い方が皆が買いやすいと思ったのだが」

「確かにリーズナブルな値段は庶民にとっては嬉しいです。でも、このケーキは美味しい分コストがかかってますから」

このオレンジチョコケーキは新商品という事もあり、作りに手間をかけて食材の品質にも力を入れていた。その分普通のケーキよりもコストがかかっているのだ。

「この素敵な味を出すのに高品質なデザート素材の用意と作成に凝った手間がかかってますよね?それを加味するとこのお値段じゃ採算が取れませんよ」

「つまり、庶民ウケよりも利益を重視すべき、と……?」

「はい、そうすべきだと思います」

躊躇無くスールは首を縦に振った。

「もちろん大幅に値上げする必要はないですけど、あと1000円は上げていいと思いますけどね」

「そんなに上げて大丈夫かい」

「はい、ベルツェゴールさんは普段からリーズナブルな値段でお菓子を出してくれてますから。たまにはそれなりにいい値段で出しても罰は当たらないですよ。それに、安い商品群の中に1つ高めの値段のケーキがあったら、逆にゴージャス感が出て価値が出ると思います」

「ほう、なるほど」

スールの忌憚のない意見にベルツェゴールはうんうんと頷く。

彼としては年端もいかない少女に駄目だしされている形なのだが、彼女の意見は参考になる所が多く、これまでも何度か意見をもらっては商売に活かしていた。

どうやらスールには錬金術士としてだけではなく、経営の才能もあるようである。

 

「ありがとう。新商品の販売にいい参考になったよ」

「いえいえ、私なんかの戯れ言なんで聞き流してやってください」

ぺこり、とスールが頭を下げる。

だがベルツェゴールとしてはかなりためになり、全く印象を悪くする事はなかった。むしろ感謝の念が強まったくらいだ。

 

「あ、そういえばね。スーちゃんに見せたい物があったんだ」

「はい、何でしょうか?」

ベルツェゴールは立ち上がると、居間の横にある襖を開けた。

すると、そこには布がかけられたイーゼルがあった。

何かの絵にベールが覆われているようだ。

「これは、何かの絵ですか?」

「ああ、それもただの絵じゃない」

ベルツェゴールは軽く咳払いすると、覆われていたベールを取った。

中から現われたのは綺麗な絵が描かれた絵画だった。

「これは……まさか!」

「そう、不思議な絵の具で描かれた、不思議な絵画だよ」

絵には綺麗な氷の城が描かれている。

スールはこれと似た絵画に見覚えがあった。

(これ……凍てし時の宮殿の絵画と、似てるかも)

以前に冒険した不思議の絵画には、氷の宮殿が描かれた絵があった。

その絵の中に入ると文字通り凍てついた宮殿があり、その中を探検して冒険したのだ。

(そういえばあそこにはネージュもいたっけ。この絵画もあの絵と似てるし、もしかしたらここにもネージュがいるかもしれない)

不思議な絵画の創始者であり、不思議な絵の具の考案者であるネージュ。

彼女は凍てし時の宮殿の絵画の中に住みついていた。

もしかしたら、この絵画にも彼女がいるかもしれない、とスールは考えた。

「これ、どこで手に入れたんですか?」

「数日前にとある画商から頂いてね。彼が言うには、不思議な絵の具で描かれた不思議な絵画だっていうんだ」

「へえ……その人は何でこの絵をベルツェゴールさんに?」

「俺はこの手の絵を幾つか持っているけどこの絵はいらなくなったからあなたにやる、と言われてね。まあ彼は私のお菓子店のお菓子を遠方から定期契約で買ってくれている顧客だったから。あんたのお菓子にはいつもお世話になってるから、お礼にこの絵をもらってくれないか?と言われて頂いたんだ」

その相手の画商は不思議な絵画を幾つか持っているらしい。

その中の1つをこうしてお得意様のベルツェゴールに送ってきたというわけだ。

「だが、聞くところによると不思議な絵画は人が絵の中に入れるそうだね。それがちょっと不安で普段はこうして布をかけて見れないようにしているんだ」

「なーるほど、そういうわけですか」

どうやらベルツェゴールは不思議な絵画の事を多少は知っているようだ。

状況が把握出来たスールは、改めて絵画を見てみた。

見覚えのある独特の絵の具の質感で描かれた絵だ。

これはまさしく不思議な絵の具で描かれた不思議な絵画とみて間違いない。

「わかりました。この絵は持ち帰って調べてみましょう」

「大丈夫かい?」

「はい、王宮にはこの手の絵画が一杯所蔵してあるので、扱いには手慣れてますから」

スールはこれまでも何枚も不思議な絵画の絵に入って冒険してきた経験がある。

なのでこの絵も同じように一度持ち帰って“準備”をしてから調べるつもりだ。

「この手の絵は“修復”をしてからでないと中に入れないんですよね。まずはアトリエで特殊な絵筆を調合して絵を修復しちゃいます。調査はそれからですね」

「ほほう、そういう仕組みになっているのか」

「はい。なので、とりあえずこの絵は王宮に持ち帰らせてください。後日改めてリディー達と皆で調査しますから」

「わかった。じゃあスーちゃんにお任せしよう」

ベルツェゴールはスールの申し出を快く了承した。

「すみませんね、折角の綺麗な絵なのに持って行っちゃって」

「この絵自体は味わいがあって好きだが、何せ不思議な絵画という事で得体の知れなさもあるからね。絵の中身を調査してくれるなら安心の担保にこした事はないさ」

「なるほど。でも不思議な絵画って言ってもそんなに怖い事はないですよ?まあ確かに危険なモンスターもいたりしますけど。どの絵も凄く綺麗な絵ばかりですから、中を体験すればきっとベルツェゴールさんも気に入るはず」

「そうか、ならば調査で安全の確認が取れたら是非わしも絵の中に入ってみるとしよう」

スールの断言にベルツェゴールは微笑んで頷いた。

「それにしても綺麗な氷のお城の絵……私、以前にこれと似た不思議の絵画に行った事があるんですけど、あそこも綺麗な場所だったなー」

そういえば【凍てし時の宮殿】には最近行ってないけどネージュは元気にしてるかな?とスールは思った。

この絵もあの絵画と同じく氷の城らしき物が描かれている。

独特な絵の具で描かれたそれは芸術的で絵師の画力に感心するばかりだ。

(毎度の事だけど不思議の絵画ってほんと芸術的。これもネージュが描いたのかな~?)

スールは絵のキャンバスに間近まで目を近づけてしげしげと眺めた。

まるで油絵のように何層も塗り重ねられた質感の絵の具の痕が見える。

 

と、その時。

絵に異変が起こった。

絵がパアッと光の粒子を放って光り始めたのだ。

「えっ?」

一瞬、スールは呆気にとられた。

まだ修復もしていないはずの絵が活性化したからだ。

修復が済んでいなければ不思議の絵は効力を持たないはず。

しかし、この絵はまるで修復後の絵のように反応していた。

「なんで…?」

疑問符を浮かべるスールの反応が遅れる。

そのラグの間に、彼女の身体もまた光の粒子に包まれていた。

絵に引き寄せられるように、彼女の身体が絵画の中へ吸い込まれていく。

スールが『やばい…!』と思った時には既に足が地面を離れていた。

次の瞬間、彼女の身体は忽然と姿を消していた――

 

「えっ…?ちょ、待っ……!」

 

【挿絵表示】

【挿絵提供:くるみ なり@skeb受付中様】

突然絵に吸い込まれ、スールの顔が引きつる。

まだ心の準備も出来ていない。

何せいつもは絵の修復をしてから満を持して絵画に入るからだ。

それにいつもなら最低2人以上で、特にリディーとは必ず一緒に入る。

1人だけで不思議な絵画に入った事はない。

 

「ぴぎゃああああーーーー!!??」

叫び声を上げて彼女の身体は絵画の奥底に落ちていく。

不思議な絵画の絵はこれまで何度も経験しているため慣れているつもりだった。

だが始めて入る絵、それも1人だけでとなるとわけが違う。

まだどんな世界かもわからないのに加えて不意打ちで吸い込まれれば動転するなという方が無理だった。

悲鳴を上げながら彼女は初めてとなる異世界へと落ちていく。

時の止まった、危険な氷世界へ――

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