絵画の中に吸い込まれてしまったスール。
気がつくと彼女は上空にいた。
周囲には何もなく、辺り一面には空が見える。
足には安定した置き場がなく、全身が落下しているのがわかった。
「は、はひッ!?」
いつもならば絵画に入った時は当たり前に地面に降り立った状態からスタートとなる。
だが今回は勝手が違い、彼女は面食らった。
「う、うわあぁぁァーーー!?」
下を見ると地面が迫っている。
落ちた時の衝撃を思い、彼女は恐怖した。
「……………」
恐る恐るスールは目を開く。
何故か痛みはなかった。
今しがた確かに地面に落ちたはずだ。
ただし、当たったポイントにはクッションのような柔らかいものがあり、包み込むように衝撃を吸収していた。
そのおかげで負荷を受けずに済んでいたようだ。
「こ、ここは……?」
下を見ると、白い床が見える。
ここはクッションかトランポリンのような生地らしい。
スールが立ち上がろうとすると、しかし異変が起こった。
床が"揺れた"のだ。
「わっ!?」
白い床が盛り上がるように隆起し、彼女はバランスを崩す。
その上半身を覆うようにして何かがつかんだ。
それは大きな腕であった。
「ひっ!?」
びっくりするスールが背後を見ると、そこには白いモンスターがいた。
まるで大きな雪だるまが動いているような姿をした、人型のモンスターだ。
「なっ……!」
「オデの寝起きをジャマしたな。セッカク気持ちよく寝ていたのに」
そう言うと白のモンスターは彼女をつかんだまま歩き始める。
彼は言葉が話せるらしく、声は男のように野太い。
「寝起きをジャマした……?わ、私があなたの上に落ちてきちゃったってこと?」
「そうだ。オデは怒ったぞ」
ノシノシと地響きを響かせながらモンスターが歩いていく。
見た目は雪だるまのようだがしっかりと意思があり動いている。
彼はがたいが大きく、さながらビッグフットのような見た目だ。
その分力は強く、スールは軽々と担がれて運ばれてしまう。
「ご、ごめんなさい…!悪かったから降ろして…!」
「ダメだ。おしおきとしてこれから罰ゲームを受けてもらう」
「お、おしおき……?」
モンスターにすごんで言われ、スールはゾクリとする。
上から落ちてきて眠りを妨げた事を彼は怒っているようだ。
この後で何か恐ろしい仕置きをするつもりらしい。
「や、やだっ…!謝るから許してよ……!」
「おしおきが終わったら許す」
「くっ……!」
離すように言うが、モンスターは聞き入れてくれない。
何とかならないかと彼女は考え始めるが、その時彼女のお尻に何かが触れた感触があった。
スールがそちらを見ると、白い手が触れていた。
彼女のお尻をつかむように持っている。
「ひゃん!//」
思わずスールが裏返った声を上げる。
まさかそんな所を触られるとは思ってなかったのだ。
「な、ど、どこ触ってんのよ……!」
「片手だと持ちにくい。ここ持ってる方がラク」
「だ、ダメ!そこはセクハラだから!この……!」
慌てて彼女はモンスターに抵抗する。
持っていた愛用の銃で雪だるまの身体に向けて弾を発射した。
バンバンバン!
小気味よい連射が炸裂する。
スールは銃の使い手であり、射撃の腕はかなりのものだ。
0距離だったため外しようがないのだが、見事に3発の銃弾がモンスターにヒットした。
「ムダ。オデに銃は効かない」
「え……?」
だがモンスターはけろっとした顔をしていた。
撃ち込んだはずの弾は、そのまま貫通して彼の身体には小さな穴があいている。
だが、それも数秒してふさがってしまった。
特に血などが出た様子もなく。
「ど、どうなってんの……?」
「オデの身体は雪とマシュマロで出来てる。銃で撃っても意味ない」
彼は何ともないように平然と言う。
どうやら彼にはスール得意の銃は無効のようだ。
「よくもやっデくれたな。オデを銃で撃つなんデ」
「ひっ……!」
すごまれてスールの両肩が跳ねる。
ただでさえ眠りを妨げた事で怒りを買っているのに、さらに銃による攻撃で油を注いでしまった。
だが彼女にも言い分はある。
「へ、変なとこ触るからじゃん……!普通に持って運んでよ」
「変なトコ?ここじゃいけなかったカ?」
「そ、そう!別のとこ持って」
スールの要望を何とか聞き入れてくれたモンスターは持つ位置を変えてみせる。
そして普通の姫抱っこの形に移行した。
「これならイイカ?」
「う、うん。これならOK」
ひとまず落ち着く形になり、彼女は少しほっとした。
だが雪だるまはその後もスールを降ろす事はなく、ズンズンと歩を進めていく。
この後でおしおきの罰ゲームをすると言っていたが、それがどんな事なのか彼女はびくびくしていた。
攻撃してこのモンスターを撃退しようにも銃は効かず無効にされてしまう。
他に爆弾も持っているが、今ここで使うとゼロ距離で爆発する形になり自分もただでは済まない。
そのため彼女は大人しく運ばれるしかなかった。
ふとスールが進行方向を見ると、先の方に白いお城のようなものが見えた。
立派な見た目の綺麗な城だ。
(あ、あれは……?)
スールは思い出す。
自分が吸い込まれた絵画に描かれていた城と同じ建物だ。
絵の主題である氷の城だろう。
「氷の、お城……?」
「ソウダ。俺の住みかでもアル」
「あ、あそこで何をするの?」
「おしおきダ」
「ひっ…!」
またすごんで言われてスールの両肩が跳ねる。
この後で何をされるのか、彼女は恐怖で内心おののいていた。
---氷の城のとある間---
ここは氷の城の中のとある部屋。
ここには今、数人の男達が集まって会合を開いていた。
「さて、久しぶりに来訪者が来たようだ」
「へえ、珍しい。いつぶりだ?」
「前回の上納が108年前だったか。約1世紀くらいかな」
「もうそれくらいか。どうりでずっと身体が飢えていたわけだ」
円卓の机を囲むようにして、彼らは席に座って話し込んでいる。
彼らの世界に外から誰かがやってきたのは久しぶりだったため、こうして今後の方針を決めているのだ。
「今回はどんな奴なんだ」
「今、下から録った映像を映そう」
1人の者が機器類を操作する。
奥の壁にはスクリーンが降ろされており、そこに映写機から映像が映し出された。
『ひゃん!//』
突如、少女の裏返った声が部屋に響き渡る。
部屋にはスピーカーが設置してあり、そこから音声が再生されたのだ。
彼らは飼っている雪だるまモンスターの周囲に監視カメラを設置しており、今しがたの事象を全て録って記録していた。
なので少女が上空から落ちてきてモンスターの上に落ちた事も把握している。
『な、ど、どこ触ってんのよ……!』
『片手だと持ちにくい。ここ持ってる方がラク』
『だ、ダメ!そこはセクハラだから!この……!』
【挿絵提供:きよすけ。@skeb募集中様】
先程のやりとりが映像として再生される。
一連の出来事は動画として保存されており、映像と共に音声も記録済みなのだ。
「くく、まあまあ可愛い小娘じゃないか」
「ちょっと子供すぎるけどな。もう少し妙齢の女の方がいい」
「確かに。やるなら大人の女の方が望ましいがな。だが10代の少女も可愛げがあっていい。久々の来訪者だ。飢えた俺達を楽しませてもらおう」
映像を見た彼らは笑みを浮かべて感想を述べ合う。
「俺達の趣味は30~40くらいの女とやるのが理想だ。この小娘はせいぜい10代半ばといったところか」
「だが顔や身体つきはなかなか悪くない。流石この絵画が上納として選んだ娘だ。ベストではないが、この時代に限られた接触の中で選んだ選択としてはまあベターと言える」
「あと数分でマシュマロンが城に着くだろう。せいぜい楽しませてもらおうか」
男達は薄暗い室内でスクリーンに映る映像を見ながら、楽しげに歓談していく。