最新ページの更新の他に、1つ前の2ページ目の挿絵を高画質版に差し替えました。今までアップしてた方はちょっと画質が粗かったので。あと2ページ目の本文のラスト付近を少し加筆修正しました。
所変わってスールと白モンスターの道中。
スールは相変わらずモンスターに姫抱っこされて担がれる形で運ばれていた。
彼女は逃げる機会をうかがったが、モンスターは彼女を降ろす気配はない。
無理に逃げようとしても逆に相手を刺激して乱暴される恐れがある。
銃は効かず、爆弾もこの0距離では使えない。なので荒事をされれば抵抗出来ずボコボコにされる危険があった。
そのためとりあえずモンスターが目指しているあの城までは大人しくしているしかない。
そうこうしている内に、氷の城の所まで2人はやってきていた。
「サ、着いたゾ」
「ここが、氷の城……」
エントランスの入口前に到着した。
スールは高くそびえる城を階下から見上げて眺める。
透き通るような水色で作られたそれは幻想的で、また綺麗な建物だ。
絵に描かれていた美しい城の見た目そのままの建築物がそこには広がっていた。
まるでどこかのお伽噺のメルヘンチックなお城のようだ。
すると、備え付けられていた大きなドアが開いた。
「!」
スールは身構える。
奥からは2人の人間が出てきた。
1人は背の高い青年で黒いタキシードのような正装をしている。
銀色の髪に翡翠色の瞳をした、彫りの深いかなりの美青年だ。筋の良い目鼻立ちに優しくも凛々しい目つき……正にイケメンと言っていいだろう。
思わずスールが二度見してしまう程には。
年は20代前半~後半くらい。スールよりも2回り程年上に見えた。
もう1人はメイド服に身をつつんだ少女だ。
背筋の整った礼儀正しい所作からは育ちの良さが感じられる。
頭にはカチューシャをつけて服の所々にもフリルが入っている。
『あ、この子可愛い。メイドさんだ』とスールは思った。
年齢はスールと近いか少し上くらいだろうか?
「マシュマロン、帰ったか」
「あア、今モドッタ」
「その子はどうした?」
「上から落ちてキタ。俺の昼寝の邪魔シタ」
「ほう……上から、ね」
「まあ、という事は来訪者様ですか。珍しいですね」
不思議そうにメイドの少女が言った。
「空から落ちてきたという事は外から来られたという事です。いきさつを……お聞きかせ願いましてもよろしいですか?」
「あ、う、うん」
メイド少女に尋ねられたスールは少し緊張気味に答える。
「私、外の世界でこの城が描かれた絵を見てたんだけど、何かいきなり絵に吸い込まれちゃって」
「絵画を見ていたらいつの間にか絵に引き寄せられていた、と」
「そうだったと思う。絵に何か特殊な効果があったとしかーー」
「なるほど……。とりあえず状況は理解しました。大変でしたね。外からはるばるよくお越しくださいました」
「吸い込まれたという事だが、それは災難だったな。この世界は、君が見た絵画の中にある世界だ。すぐには飲み込めないかもしれないが」
「いえ、私これまでに似たような絵画の世界に行った事があるんで。絵の中にこういう不思議な絵画の世界がある事は知っています」
「ほう、絵画の世界を過去にも経験があるのか。それは興味深い」
「私、経験はあるんですけど、いつもは絵を修復して手順を踏んでから入るんです。でもこの絵ではまだそういう事はしてなくて。急に吸い寄せられたからびっくりしちゃった」
「まあ、そうなのですね。それは驚かれたでしょう」
メイドが共感するように言った。
「うん、何でこんな現象がーー」
「オイ、お前ラ」
3人の会話をモンスターが遮った。
「こいつ、オシオキする。俺の昼寝の邪魔シタ」
「ひっ…!」
凄まれて言われ、スールが肩を跳ねさせる。
「オシオキってお前、表現を考えろ。誤解を与えるような言い方をするな」
「そうですよマシュマロン。慎みなさい」
2人が諌めるようにモンスターに言う。
どうやらオシオキというのは言葉通りの"拷問"というわけではないらしい。
「すまない。こいつはちょっと言葉の表現が雑なところがあってね。モンスターだから流暢な言葉使いが出来ないから。額面通り受け取る事はない」
「すみません、マシュマロンが失礼な言動を。オシオキなんて恐ろしい真似はされませんからご安心ください」
「そ、そうなんだ」
2人に言われてスールは少し安心する。
「さあマシュマロン!いつまで来訪者様を手荒に担いでいるんです。早く降ろして差し上げなさい」
「ちぃ、相変わらず口ウルサイ女」
「なんですって?」
「……わかッタ」
メイド少女に黒いオーラで言われ、マシュマロンは大人しく言う事を聞いた。
担いでいたスールを降ろす。
いや降ろそうとしたが、優しくではなく少々手荒く降ろした。
奥に放り投げる形で彼女を放したのだ。
「ぴゃ!?」
突然空中に投げ放され、スールは面食らった。
離してもらえたのはよかったが、こんなリリースのされ方は想定していない。
彼女は受け身も取れず、地面へ落とされるのを覚悟した。
「おっと、危ない」
だがその先では青年が待っていた。
飛んできたスールを受け止める形で彼はキャッチする。
地面への衝撃を身構えていたスールはきょとんとした。
「ふえ…?」
「大丈夫かい」
優しく青年がスールを見て慮る。
彼女は青年に姫抱っこされる形で受け止め守られていた。
「ぴゃ…!だ、大丈夫」
体勢が体勢だけにたまらずスールの声が上ずる。
イケメンにそんな真似をされたら動揺するのも無理はなかった。
【挿絵提供:Lilithia様】
彼はそんなスールの様子に少し微笑むと、優しく彼女を降ろしてやる。
「あ、ありがとうございます」
「気にしないでくれ。マシュマロンが手荒な真似をしてすまない」
「そうですよ!いきなり投げ放すなんて何て乱暴な。人間に接する時はもっとソフトに優しく扱いなさい」
「加減ムズカシイ」
マシュマロンはメイド少女に弁明するように言った。
どうやらこのモンスターはメイド少女にはある程度従うらしい。
この子、いったい何者?とスールは思った。
「さ、ひとまずややこしい話は置いておきまして」
こほん、と拍をおくように彼女が一息を入れる。
「ようこそ。氷の城へ」
メイド服を着た少女が、スールを迎え入れるように両手を広げてお辞儀をした。
その動きに合わせて、彼女の頭に着けられたリボン付きのカチューシャが揺れる。
「私はパスシャと申します。このクレイドル城の使用人をしてます」
彼女は城の使用人であり、メイドのようなものだという。
次いで、彼女の脇に立っている青年が前に進み出た。
上下を黒い衣服に身を包み、銀の髪色をしている。
容姿は美形のイケメンであり、首にかけている銀のネックレスも相まってかなりカッコいい男性だ。
「僕はここの城主のディアスという者だ。みんなからは『王子』と呼ばれているよ」
「王子様……?」
「ああ。まあ世間で言うような大層なもんじゃなくて一応の役職みたいなものだが。この城の中ではそういうポジションになる」
ディアスと名乗る青年。
彼はこの氷の城の主であり、絵の主題である城における重要人物のようだ。
雪のような白い肌に、白銀の髪と翡翠色の瞳を持つ美男子。
そんな彼はスールを見て優しく微笑む。
「君は……『スール』と言ったかな」
「……え?どうして私の名前を?」
名前を呼ばれてスールはあれっ?と首をひねった。
まだ名乗ってはいないはずだ。
「君は他の絵画でこれまで色々冒険してきただろう?その噂は他の絵画の住人を通して伝わってきているんだ。例えばフーコちゃんやネージュ達からね」
「あ……」
言われてスールは思考する。
(そうか、ディアスさん?はフーコ達とも知り合いなのか。でも他の絵画を行き来なんて出来たっけ?絵画の絵の具と修復が出来る私達錬金術士ならともかく、それ以外の住人で絵画の行き来は自由には出来ないはずじゃ)
「俺には特別な力があってね。魔力のようなものかな。その力を使えば他の絵画にも移動出来るのさ。例えばフーコちゃんのいるアンフェル大瀑布とかにね。それであちらの絵画に行って色々話を聞けるってわけだ」
「へえ、そんな不思議な力があるんだ…!今までそんな人見たことないよ私。ディアスさんって魔法使いか何か?」
「いやいや、俺はただの王族だよ。どちらかと言えば騎士みたいなものだ。ただ生まれつき絵画間を移動出来る特殊な力が備わってたってだけで」
謙遜するようにディアスが話す。
スールは摩訶不思議な彼の能力に興味津々な様子だ。
「ディアス様は王子でありながら尊大ではなく分け隔てなく皆に接してくださいます。その振る舞いで民達にも慕われていますわ」
「おいおいよせよパスシャ。あまり変に褒めないでくれ」
「ふふ、申し訳ございません」
メイドの少女に褒められ、ディアスが照れながら頭をかく。
この城の使用人であるパスシャとはとても仲良さげだ。
そんな様子を見てスールも少し微笑ましくなる。
(それにしても)
彼女はふと知り合いの顔を思い浮かべた。
このディアスは王族という身分といい騎士っぽさといい、属性でいえばマティアスと近しいのかもしれない。
(ディアスさんて立場的にはマティアスと似てるのかな?まあ雰囲気はこっちの方がよりイケメンで王族のオーラあるけど)
脳内格付けでマティアスを勝手に下げるスール。
彼は王族だがフランクでナンパ野郎なため、格式は正直ないと言っていいだろう。まあ決めるとこは決めるので良いのだが。
「さて、立ち話もなんだし城の中に案内しよう。君は慣れない世界で疲れているだろう?」
「あ……うん、そう言われてみれば」
確かにいきなり空中落下から始まり、それから白いモンスターに担がれて運ばれていたため、スールは気持ち的に多少疲れていた。
なので王子の申し出はありがたい。
「ありがとディアスさん。じゃお城を見学しちゃおうかな」
「紅茶を用意しよう。パスシャ、給仕を頼む」
「かしこまりました。スール様、こちらへどうぞ」
上品に微笑んで使用人のパスシャが城の中へ案内する。
スールは先導するメイドの後に続いた。
開かれた正門をくぐり抜けるとそこは豪奢なお城の中だった。
お城は外の世界でもランク試験の度に行き来しているので彼女は見慣れている。
だが、ここは絵画の氷の城なので多くが氷で作られていた。
通路や壁はもちろん氷で出来ている。
もっとも、その氷の城もスールは見慣れていた。
ネージュが住まう世界もここと近しいからだ。
「ここが広間です。ここでパーティを開く事もあるんですよ」
「へー、広いんだねえ……わ!?」
パスシャの案内で城内を見て回っていると、ある部屋の中からドタドタと音が響いてきた。
何事かと思い2人で入り口に近づくと、部屋の中から飛び出してきた何者かが勢いよくぶつかってきた。
その衝撃でスールとパスシャがその場に尻餅をつく。
「ひゃっ!?な、何?」
「いてーー!誰だよ邪魔なとこにいやがるのは!」
対面に同じく転げている少年がいた。
見た目的にスールより何歳か年下だろうか。
「こらガレット!お城を走り回るのはやめなさいと何度も言ってるでしょう。お客様に何て失礼な」
「へいへい。パスシャ姉ちゃんはいちいち口うるさいんだよ。……って、誰だこの姉ーちゃん。客人か?」
少年はスールを目にとめると訝しむように言った。
「この方は外の世界からお越しになられたお客様です」
「あ、私は外の世界から来たスールっていうんだ。君は?」
「俺はガレット。ここの城の住人っていうか第5王子だな。へえ、ここに外から人が来るなんて珍しいな」
「……第5王子?」
「ああ、ディアス兄ちゃんが長子で後継ぎの第1王子。つまりは皇太子ってわけだ。俺は5番子の末子」
彼は幼さを残した風貌だがタキシードを着込んでおり、服装は城の住人として相応しいものだった。
髪は銀色で兄のディアスを彷彿とさせる。
年はおさらく10歳くらいで童顔だが、顔の造形は綺麗で流石はディアスの弟といったところか。
「王子の血筋を引く貴方が場内を走り回るなど、はしたない行為です。もう少し慎みなさい」
「ちぇ、うるせーな」
「まあまあパスシャさん。いいじゃないですかちょっとくらい。このくらいの子供なら荒い遊びもしたいもんだし」
メイドに諌められるガレットにスールが擁護する。
彼女も性格的にガレットに近いところがあるため彼の気持ちもわかるのだ。
「ですがスール様……」
「おっ、こっちの姉ーちゃん話がわかるじゃん。パスシャ姉ちゃんは固すぎるんだよ」
「もうガレットったら。調子がいいんだから」
呆れたようにパスシャがため息をつく。
「しかもよく見たら結構可愛いし。俺姉ちゃんの事気に入ったよ」
「え?私?か、可愛いかな?」
「ああ、俺達王族の中に入っても釣り合うと思うぜ」
ガレットは恥ずかしがる感じもなくスールの容姿を褒めてみせる。
この辺りはまだ幼い子供だから出来る言動だろう。
「もう、ガレットったら。失礼よ」
「いいっていいって。王族の俺が気に入ったって言ってるんだし」
「仲が良さそうで何より。すまないがスール、ガレットはこんな感じなんだ。大目に見てやってくれないか」
スールとガレットのやり取りを見てあきれ混じりにディアスが言う。
王族とはいえ彼はまだ年相応なようだ。
「全然OKですよ。ガレット君とは気が合いそう。今度遊んであげるね」
「ほんとか?絶対だぞ!」
遊ぶ約束をして嬉しそうにはにかみ、彼は廊下へとまた走っていった。
「まったくガレットったら。それじゃスール様、城内案内の続きを致しますわ」
パスシャはスールの手を取ると、城内案内を再開するのだった。