お菓子とお茶のおもてなしを受けて数十分。
時間の経つのも忘れてスールはメイド達との歓談に夢中になっていた。
彼女達とは元いた世界での日常を話したり、逆に彼女達の普段の生活を聞いたりした。
「へぇ~、じゃあティカさん達はこの氷の城でずっと働いてるんだ」
「ええ、もうかれこれ10年になるのかな」
「先代方から私達が引き継いで、代替わりしたんです。だからまだ皆若くて、スールさんと歳も近いんですよ」
「そうなんだ。私今14歳なんだけど、皆さんは?」
「私は16歳ですね」
「18歳になります」
「先日17歳になりました」
メイド達は皆それぞれ若めの年齢なようで、確かにスールと歳が近いようだった。
スールはその中でも一番年下だが、年の近い同年代の同性がいるのは過ごしやすい。
「確かに皆若っかーい。でもちょっと大人びて見えるかも」
「いえいえ、服装のせいでそう見えるだけですよ」
「ええ、カレンメイド長の優雅さや気品には及びません」
調度お茶の給仕にやってきたカレンを見てメイド達が言う。
「見てください……!カレン様のこの奥ゆかしい佇まいを」
「お茶を入れる給仕の姿だけで、絵になっていますわ」
「あらあら貴女達、褒めても何も出なくってよ」
ティカ達メイド達は見惚れるようにカレンの立ち振舞いに見入る。
流石メイド長だけあって彼女はその上品な雰囲気が抜きん出ており、雅な気品を感じさせた。
その格式の高さは若いティカ達には到底出せるものではなく、経験を積んだプロと言えるだろう。
羨望の眼差しで家政婦を見るメイド達からは憧れが感じられた。
「カレンさんってメイド長なんですよね?結構長いんですか」
「いえ、私も彼女達と同じなんです。10年ほど前にここに赴任してきまして」
「10年前……皆同じタイミングでここに?」
「はい。"代替わり"でここへ」
「代替わり……?」
スールは小首を傾げて、疑問符を浮かべた。
そして彼女に尋ねようとするが、調度そこへドアが開く音がした。
「すまない、遅くなってしまったね」
入ってきたのはディアスだった。
朗らかな笑みを浮かべて彼はスールに会釈する。
「少し準備に時間がかかってしまった。スール君は休めたかな?」
「はい、皆さんにとってもよくして頂きました!」
敬礼ポーズでスールがはにかんでみせる。
「それはよかった。カレン達もご苦労。ではここからは私が引き継ごう」
ディアスの命により、メイド達はカーテシーをして部屋の外へと下がっていった。
そして彼女らと入れ替わるようにして、パスシャが入室してくる。
「申し訳ありません、時間がかかってしまいました」
「おお、戻ったかパスシャ」
足早にディアスの隣まで来ると、彼女はこほんと1つ咳払いをした。そして微笑んでみせる。
「ただ今戻りました」
「うむ。首尾は万全だな?」
「はい。下準備は整っております」
2人は気心が知れているように頷きあう。
そしてスールの方に向き直った。
「スール君、今からちょっとしたゲームをしようと思うんだが、いいかな」
「ゲーム?さっき言ってたやつですよね」
「ああ、この城では月に1度特別な催し物が開かれる事になっていてね。パスシャ」
「はい、ディアス様」
指名を受けたパスシャは手元に差し棒を取り出す。
そして、奥へと下がると、壁の元に立った。
すると、天井からスクリーンが降りてくる。
そして、そこへ映像が投射された。
「うわー、何これ?面白い」
「ちょっとしたプロジェクター技術ですわ」
彼女は差し棒を使って映像を指し示した。
そこには城の概略図が描かれている。
「これは城の地図です。先程ご案内した場内の経路図ですね」
「ほんとだ、図書室とか書いてある」
「ええ、そしてこの城には実は地下にも通路があります」
パスシャは図の下方を指し示した。
図では1階よりもさらに下にも空間が広がっているように描かれている。
「へえ、地下通路なんてあるんだ」
「はい。まあ通路というよりも洞窟と言った方が適切ですけどね」
スライドが切り替わり、今度は写真が表示された。
そこには氷で出来た洞窟のような場所が写し出される。
「これは……?」
「地下に広がる氷の洞窟内部の資料になります」
「そうなんだ、綺麗……!」
写真にはきらきらと水色に輝く氷の洞窟が広がっていた。
天井から地面まで氷で覆われている地形になっているようだ。
「今から行われる催しは、この地下にある氷の洞窟で行われる予定になっている」
ディアスが補足するように言い添えた。
「ゲームってここでやるんですか?」
「ああ。ちょっとした宝探しゲームをね」
「宝探し…?」
「はい、この氷の洞窟を使って宝探しゲームを開催しようと思っております」
指し棒を洞窟の写真に指してパスシャが言う。
「宝探しとは、その名の通り城内の地下に隠された宝を探して見つけ出すゲームです。1番多く見つけられた者にはーー」
ガタン、と机から身を乗り出してスールが立ち上がる。
「宝探し…!えっ、今から宝探しするの!?」
「はい、たからを探す宝探しゲームですわ」
「でも、、、それ……本物のお宝?おもちゃの作り物だったりーー」
「いや、偽物なんかではなく本物の宝だよ。ダイヤや金貨、ルビーにサファイア等正真正銘のお宝さ」
「ッ、、!」
「見つけ出した数が1位になった者には、その者が見つけた宝を全て進呈しようと思っている」
「えっ、?ほ、ほんとうに…!?」
ガタン!とさらに身を乗り出してスールが前に出る。
その様子にパスシャは微笑んだ。
「はい。宝の獲得数が1番多い方に、その見つけた宝を全て差し上げます」
「う、うおーー!もらえるんだ!ならやる!絶対お宝ゲットしたい!」
腕を振り上げて意気込むスール。
苦笑しつつディアスが言った。
「はは、だが参加者全員がもらえるわけではないよ。あくまで1位になった者だけが宝をもらえる権利を得る」
「はい、なのでスール様が確実に宝を所有出来るわけではありません。そこはご承知くださいね」
「わかった。でも、1番になればいいんでしょ?それなら私が華麗にトップでお宝を探し出してみせればいい話じゃん」
楽しげに彼女は笑みを浮かべる。
自分が1番になる事を微塵も疑っていない顔だ。
「自信がある顔だな。君はこういうのは得意なのかい?」
「もち!金目のものがかかった時の私は集中力10倍増しだから」
「ふふ、それは頼もしいです。では早速ルールを説明致しましょう」
鼻息の荒いスールに笑みをこぼしつつパスシャが指し棒をスクリーンに伸ばす。
写真が切り替わり、ルール表が表示された。
「これは参加者の人数です。現在登録数はスール様を含めて20名ですわ。宝を欲する者達が、今宵宝をかけて1度限りのサバイバル宝探しゲームを繰り広げるーー。大会名は名付けてトレジャーシーカーサバイバル!」
「おおーっ!」
拳を振り上げるパスシャにノリよくスールが気勢を上げる。
どうやらスールの意気込みにパスシャもあてられてしまったようだ。
「このトレジャーシーカーサバイバルのルールは至極単純、城内の地下に隠された宝を1番多く探し出した者が勝者です。ゲームは制限時間1時間の1本勝負とします」
「いいね!わかりやすい」
パスシャはさらに次の資料のスライドに切り替える。
そこにはお宝類の写真が写し出された。
「宝は金貨や宝石など明確にそれだとわかるようになっていますわ。ただしどこかに隠されているので、それを見つけ出さなければいけません」
「ちなみに宝は何個あるの?」
「数は申し上げられませんわ。ただ、それなりの量の宝を配置させて頂いています。ただし地下のどこかに隠されていますけど」
「えーと、つまり私達はどこかに隠されている宝を見つければOKで、それで見つけた数が皆の中で1番になれば、ダイヤや金貨を手に入れられるってわけだ」
「そうですわ。では次に注意事項を説明致します」
「がってん!」
スールが元気良く手を挙げて応えた。
「宝探しゲームですので基本的にはどこに隠されたかわからないお宝を参加者一同が一斉に探索することになります。ですので公平を期してスタート地点は全ての参加者別々に設定しましたわ」
「別々って事はスタート地点からすでにバラバラに離れた場所からスタートって事?」
「はい。城の地下には様々な地形の区画が幾つもありまして。洞窟はもちろんのこと、地下迷宮や塔型の構造など様々です。そこに配置されているお宝を見つけ出す必要がありますわ。それとーー」
そこで言葉を切ってパスシャがスールを見る。
「お宝を見つけた参加者を妨害するのは禁止しません。お互いに競争するゲームですからね。ただし暴力や殺傷は禁止します」
「えっ!じゃあ他のプレイヤーも敵って事?だって妨害するなって言ってないって事は他の人に妨害されてもいいってことだよね?」
「そういうことですわ。むしろそうしてもらわなければ面白みに欠けてしまいます」
スールの言葉にパスシャがうなずく。
「ですがルール違反は禁止しますわ。ゲームの参加権剥奪以外にもペナルティを課すこともあります」
「わかった。えっと妨害OK!暴力NG!ルール違反NG!ねっ」
スールは要点をまとめて指折り確認していく。
「基本はそれが守れればOKですわ」
パスシャがそうまとめて応えた。
「優勝賞金は1位の方に当人が収集した宝を全て進呈します。ただし2位以下の方は収集した宝を返却頂きますわ」
「なるほど……2位以下は何ももらえないのかー。だからみんな1位を狙ってるってことか」
スールはなるほどと思った。
1位になれた人のみがすべての報酬を手にすることができるのだ。
「ま、ルールは単純明快だよね。皆の中で1番にお宝を見つければいいんでしょ」
「そうですわ。この手のゲームとしては明瞭なルールと言えるでしょう」
にこりと笑ってパスシャがスールに頷いた。
「わかった。それじゃあそのゲームに参加させてもらうよ!」
「はい。こちらこそ参加して頂きありがとうございますわ」
スールが了承したことにパスシャは軽く会釈した。
「ではそろそろ時間ですわ。今からすぐ始めたいと思いますので、ついてきてください」
パスシャは手にしていた指し棒を再び懐にしまうと部屋から退出しようとする。
「待ってパスシャ」
スールが彼女を止めた。
「はい?どうかされましたか?」
「私も武器を持っていいんだよね?」
スールの言葉にパスシャは意外そうに目を丸くした。
「はい、問題ないですけど……」
「じゃあこれ持って行くね!」
スールは自分が普段懐に携帯している銃を見せる。
「……ほう」
それを見てディアスも興味深そうに覗き込んだ。
「銃か……面白そうなものを持ってるね」
「うん!私の愛用の武器なの」
「銃使いなのか君は。見た目によらないな」
ディアスは驚いた様子で尋ねた。
「はい、射撃は私の得意分野ですから!」
「ほう、ではまさかその銃も自分で作ったのか」
「もち!」
「これはこれは……その若さで銃を作成出来るとは。にわかには信じ難いが」
「そりゃそうだよ。一応14歳の駆け出し錬金術士だけど……それでもこれくらいの武器は作れるもん」
スールは自分の持っている銃を得意げに持ち上げて自慢げに見せつける。
「でも意外ですわ。スール様のような小さなお嬢さんがこういった武器を使われるなんて」
パスシャはスールの持つ銃をまじまじと見つめながら言った。
「まあ、確かに小さいけどさ……でもこれでも鍛えてるんだよ!一流の錬金術士として」
「ほう……それはすごいな」
ディアスが感心したように呟く。
「だが、流石に銃は認められないな。危ないから」
「ええーー」
「ピストルは流石にね」
妨害用とはいえ、銃は誤射の危険があるためディアスは懸念を示した。
「私、威嚇用に使うだけで外したりしないよ?」
「君の腕を疑うわけじゃないが、万が一があってはまずいからな」
「あ~~やっぱりだめですか」
「……いや、だが無下に却下するのも惜しい。だから許容案を考えてみたのだが」
彼は少し考えてから、1つの案を提示する。
「銃の弾を実弾ではなく魔法の光弾にしてはどうかな?」
「え?」
「ああ、それはいいかもしれないですね。スール様にぴったりかもしれません」
パスシャがパンッと手を叩いて微笑んだ。
「魔法の光弾?」
「そうだ。銃の弾として実弾ではなく魔法の弾を装填するのさ。相手が当たっても怪我をしないように」
「それは、確かにいい案かも」
スールはうむむ、と顎に手を当てて思案する。
「でもこの銃にぴったりの弾なんて、今すぐ準備するのは難しいと思いますけど」
「いや、口径に合う魔法弾をあてがう事は可能だよ。ちょっとその銃を見せてもらえるかな?」
言ってディアスはスールから銃を借り受ける。
そしてしばし銃を手で回して確認し始めた。
「ほう、これはなかなか可愛らしい銃だな」
「はい!私の特製スール・ザ・スターです」
「装飾やカラーリングがポップでセンスがある。スール君の色が出ていて素敵だ」
「確かに。銃から想像するイメージって普通は無骨なものですけど、これはキュートさもあって素晴らしい銃ですね」
「えへへ~~それほどでも」
愛用の銃を褒められてスールがはにかむ。
そうこうしている間に、ディアスは銃の確認をし終えた。
「よし、口径の確認が取れた。ではこの銃に最適な魔法弾を生成しよう」
「えっ?もう調べ終わったんですか?」
「ああ、私は魔法的な検知が得意なのでな」
言って彼は、自らの手に念を込めた。
両目が光り、彼の腕を通して何かの魔法が銃に送られる。
その光景にスールは驚いた。
「うぇっ、それって魔法…?」
「ああ、今魔法の弾を込めている」
そう言って数秒後、彼は魔法の弾を装填し終えた。
「さ、完了さ」
「え?もう?」
はい、と彼は銃をスールに返してきた。
早いスピードに彼女は驚く。
「試しに何かを打ってごらん」
「OKです。でも特に的になるものがないような」
「そうだな……あれなんてどうだい?」
ディアスは上空を指差す。
そこには城の外壁が見えた。
「いいんですか?もし弾が当たったら……」
「大丈夫さ。当たっても実害にならない仕様になっているから。あくまで光で威嚇する用の弾だからね」
スールは躊躇したものの、ディアスにそう言われて安心する。
チャキりと彼女は城の外壁へ向けて銃を向けた。
そしてハンドルの引き金を引いた。
ポオン! ポオン!
発泡音と共に弾が発射される。
すると2発の弾丸が光の筋となってほうき星のように飛んでいった。
そのまま城の外壁へ到達すると、弾けるように光の粒子が霧散していく。
「うわーー!何これ滅茶綺麗……!」
「これが"光の魔法弾"さ」
光の残滓を見届けながらディアスが言った。
「弾が当たっても対象に危害は加えない。だが目を引いて相手の気を引く事には使えるというわけだ」
「なるほど。確かにこれならルールを守りつつ銃として使えるかも!」
スールは今の光の魔法弾に手応えを得る。
今まで自分が作ってきた銃は全て実弾使いの物だったが、こういう銃もあるのだと彼女は知ったのだった。
「ふふ、なかなか良い銃を手に入れられましたね。では、スール様。そろそろ参りましょう。地下の会場の準備が出来ております」
「うん!」
スールは意気揚々と扉に向かって歩き出した。
◇◇◇
会場入口は城の地下階段にあった。
入口には大きな看板が設置してあり、そこには《地下宝探会場》と書いてあった。
「スール様」
声を掛けられて振り返るとそこにはディアスとパスシャがいた。
「お待ちしておりましたわ。先程スール様を会場へと案内するために、地下通路の準備を整えております。参加者20名の内スール様を除く19名は既に待機を終えております」
「つまり開始まであとは私を待つだけってことですか?」
「そういうことですわ。他参加者の方は宝を探す準備は既に完了しております」
「準備早っ!私で最後か~~」
スールは慌てて言う。
自分を除く他の参加者は既に集結し終えている。
彼女は流石にお宝がかかると皆素早い……!と思いながらも、とりあえず入口に足を踏み入れた。
「スール君」
「え?」
不意に声を掛けられた。
「緊張していないかい?」
「うーん、緊張とかよりも早く金目の物をゲットしたい欲が勝るかも」
スールがそう答えると、ディアスは「ふっ」と小さく笑った。
「そうか、なら問題ない。では行こうか。時間もないことだし、さっそく」
ディアスはそう言うと歩き出した。
それに続いてスールとパスシャも後についていく。
「よし、それじゃあ早速始めるか」
ディアスはそう宣言すると、そのまま階段を下って行く。
スール達もその後に続く。
そして、三人が到着した先には広々とした空間が広がっていた。
そこには大きな氷の洞窟が広がっている。
床は透き通った氷で出来ていて、所々でこぼこはしているが綺麗な道となっていた。
天井は少し高い所にあり、鍾乳洞のように突起が下へといくつも伸びている。
どうやらここが会場らしい。
スール達以外に人は誰もおらず、静かなものだった。
他の参加者達は皆それぞれ違う所からスタートするらしい。
「よし、そろそろ時間だな」
ディアスはそう言うと腕時計に目を向けた。
「はい。では早速始めましょうか」
パスシャはそう告げると、スールに向き直る。
そしてゲームの開始を宣言した。
「では只今より、ゲームを開始いたします。検討を祈りますわ」
「ついにスタートだね!よーし、やってやる。お宝っ!待ってろー」
スールは意気込んで前に踏み出した。
目の前に続く綺麗な氷の通路に、いざ彼女は宝探しに向かうのだった。
【挿絵提供:たんぽぽ隼丸様】