週に1回投稿できることを目標に頑張ります。
「じゃぁ、行ってくる。二人ともシェルターから出るんじゃないぞ。」
武装をした男は幼子と少年に言い聞かせるように言った。
シェルターの外は闊歩しており、紛争地帯さながらの治安状態となっていた。外へでることは自殺行為に他ならない。
幼子は外へ出ようとする男の袖を引っ張り『いかないで』と泣きじゃくりながら駄々をこねた。
もう帰ってこないのではないか。幼子の心はそんな不安にさいなまれていた。
そんな幼子に対し、男は困ったように苦笑いを浮かべる
「大丈夫だ。必ず帰ってくるよ。父さんは約束を破ったことはないだろう。」
腰をかがめ、幼子と目線を併せ言い聞かせるように言った。それでも幼子は不安なのだろう。掴んだ袖を離さない。
無理やり手を離すことは可能だ。だが、今生の別れとなる可能性もある。故にそんな真似はしたくなかった。
男――父親は少し考えて、幼子に一つ約束をすることにした。
「なら、帰ってくるまで父さんのウォークマンを預っててくれ」
父親はポケットからウォークマンを取り出すと幼子に預ける。
キョトンとした表情で幼子はウォークマンを見る。そして父親とウォークマンで視線を行き来させる。
「父さんが帰ってきたら返してもらうからな。大切に扱ってくれよ。」
幼子は頷く。納得はできないが止められないことを悟ったのだろう。不安そうに袖から手を離した。
そして、父親はモンスターと戦うためにシェルターの外の世界へと出て行った。
第二次アンゴルモア。
人類は生存圏を守るために戦い、多くの人間が帰らぬ人となった災厄である。
春休み。中等部の入学式はまだしばらく先の話。
朝の陽ざしで目を覚ました少年。歌川景虎――トラは不機嫌そうに頭を掻き、傍に置いてあったミネラルウォーターを手に取ると蓋を開けそのまま飲み干す。
乾いた体に水分が染み渡る。補給された水分によって寝ぼけた頭がゆっくりと覚醒していく。
悪い夢見。不機嫌な表情を隠すことなくスピーカーを取り付けたウォークマンのスイッチを入れて適当な音楽を再生させる。
"Come Together" トラの一番お気に入りの曲だ。
「何年待たせるんだよ。ったく」
父親のことを思い出しボヤく。あれから10年近く経過したが、まだ帰ってくる気配はない。
誰しもが生存を諦める中、生きていてほしいとトラは未だ願っていた―――それが絶望的なのは頭で理解できるが、板挟みである。帰ってきたら一発ぶん殴ってやる。
トラはそう考えながら、服を脱ぎ散らかし、タンスから兄のお下がりであるジーパンとダブついたシャツを取り出し、いそいそと着替えた。
そして、鍵の付いた引き出しを開き、厚めの封筒を取り出す。
封筒の中身は現金150万円
これは小学生のころより祖父の経営する鶏舎でアルバイトをして貯めた6年間のアルバイト代、お年玉、お小遣いの総決算である。
これでDランクのモンスターカードを1枚購入すれば晴れて冒険者の仲間入りが可能になる。
神妙な面持ちで封筒を撫でながら、これまでの労苦に思いを馳せる。
鶏舎の仕事は夜明けとともにスタートだった。ちなみに移動は自転車で1時間。夜明け前に出発が必要になる。
ええ、おかげで早寝早起きの習慣が付きましたとも、成績が落ちたらアルバイトができなくなるためきちんと勉強をするという優等生な生活を繰り返していた。
爺ちゃんはアルバイトだと容赦をしないので、はい、かなり厳しく教えられましたとも、おかげでなぜかひよこのオスメスの判別も判別ができるようになった。
今までのアルバイトを振り返り、もしかして爺ちゃんはオレを後継者にするつもりで鍛えていたんじゃないだろうかと言う疑惑が浮かんだが考えないことにした。
きさらぎ市の冒険者協同組合に出かける前に"ダンジョンチューバー"や近所に住んでいるプロ冒険者をしている住職―――破戒僧疑惑の情報を纏めたノートを開く。
開いたページはずばり100万円で購入できるDランクカードである。
単純に種別するとステータス能力が残念なカードと外見が生理的に受け入れにくいカード、ジャパニーズエロゲモンスターである。
まず、ステータスが残念なカードは見当から除外する。残るのは外見が生理的に受け入れにくいカードとジャパニーズエロゲモンスターである。
生理的に受け入れにくいカードはちょっとトラでも遠慮しておきたかった。本当にグロい。隔意無く運用できるかどうかは自信がない。
ヨモツシコメが可愛く見えるレベルの外見の連中ばかりである。
残るはジャパニーズエロゲモンスター。こちらも外見がアレである。何故もう少し控えめに出来なかったのかと突っ込みたくなる。
ネイティブと言うこともありジャパニーズエロゲモンスターは他の不人気カードとは一線を隔す能力の差がある。とはいえあまり選びたくはない
―――最悪、マスクを付けさせて運用するしかないかもしれない。
Dランクと有用なEランク1枚、可能であればEランクの装備化カードが手に入れば探索はだいぶ楽になる。
最初に入手したDランクは最悪まともなカードを入手して売り払うか。相性によってはマイナーチェンジをしても良い。
Eランクの装備化カードの候補を確認し、スマフォを取り出す。朝飯を食う時間を考えるとそろそろ出かける必要がある。
朝飯は牛丼屋にでも入ればいいだろうと考える。自転車の鍵をとって――――
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――――!!!」
怪鳥を絞め殺してもこんな悲鳴は上げないだろう。どうやったらこんな発音ができるのか常人には理解できない絶叫。
どうやら兄が目を覚ましたようだ。昨日はキャバクラに行ったらしくベロンベロンになるまで飲んで酔っ払って帰ってきていた。
確か今日は彼女さんとのデートだったはずだけど大丈夫なんだろうか……まぁ、デート前日にキャバクラに行って、失敗するなら別れた方が良いだろう。
気に留めることを止め、自転車の鍵を手に取りドアへ向かおうとするとドタバタと轟音を立ててた足音が響き渡り、ドアを勢いよく開け放たれる。
寝起きで勢いよく走ってきたせいか、前進で呼吸を整えながら、全身から酒の匂いをばら撒く兄――歌川正信は血走った目でトラを見ていた。
明らかに尋常ではない様子にトラはドン引きだ。ヤクでもやったのか?そう疑ってしまう光景である。
あまりの状況に唖然としているトラに対し、兄――歌川政信は勢いよく土下座をすると大声で懇願をする。
「トラ!!お前を男と見込んで頼みがある!!」
その兄・政信の言葉を聞いてトラめんどくさそうを表情を浮かべる。こういうことを言い出すときは大抵ろくでもない話になるからだ。
とは言え、全く聞かなければ面倒なことになるのは目に見えている。嫌々そうにトラは土下座をする兄に視線を向けた。
政信はトラが話を聞く気になったと悟ったらしい。ドンとカードをトラの足元に置くと土下座をしたまま、要求を叫ぶ
「何も言わず、このカードを100万円で買ってくれ」
床に置かれたカードはDランクカード"さくぞうす"……やまらのおろちと並ぶジャパニーズエロゲモンスターの一角である。
描写をすれば18禁なので描写ができない危険なカード、そんなヤバいカードである。
トラは最悪はそれを買うこともやむを得ないと考えていた。だが、初手ジャパニーズエロゲモンスター無い。絶対に無い。
友人や爺さんに話そうものなら精神科へ連れていかれること請け合いである。
トラは深々と溜息を吐くと、仁王立ちで冷たい視線を土下座する政信に向けた。
「兄さんよぉ。ソレを100万で買う奴はいねぇぞ。もうちょっとまともなカードを持ってこい」
トラの言葉に兄は苦渋を浮かべる。手持ちのDランクカードの中で1番どうでもいいカード、流石にこれでは100万円にはならないか。
政信は二日酔いの頭を無理やりフル稼働させて、100万円を手に入れる方法を考える。政信にはどうしても100万円を入手しなければならない理由があった。
昨日のキャバクラで全財産をスってしまい、彼女とのデート代がないのだ。
しかも、今日はただのデートではない。彼女の誕生日を祝うためのデート、ホテルまで行く綿密なプランを練った。乾坤一擲のデートなのだ!!
それを"キャバクラで金をスってありません"と言おうものなら破局である。
必要となる予算はおおよそ100万円。昨日の自分を呪い殺したくなる。とは言え、過去には戻れない。
札商とのコネがない自分ではギルドに安く売るしかない。それでは絶対に100万円に届かないことはわかっている。
主力のカードであるCランク、Dランク2枚は絶対に売れない。
売ってもいいDランクのカードはどうでもいいさくぞうすと、使えなくしてしまったカードが1枚ずつ
使えなくしてしまったカードとはマイナススキルこそ生えていないが、生える寸前までストレスを与えてしまったカードである。
このストレスは"初期化"しても残ることが多く。購入して召喚したら、高確率でマイナススキルを発現する可能性が高いカードだ。
とはいえ、『見た目では分からない』ならば勝てるだろう。
ちなみにこれを正式なルートで何も説明をせずに売ろうものなら、詐欺扱いされても仕方がないのだが……まぁ、家族相手だから大丈夫だろう。
起死回生の一枚。床にカードが叩きつけられる大きな音と共にもう一枚のカードを置く。
「ならば、蓑草鞋……こいつとセットならどうだ!!」
兄のギャンブルに負けたギャンブラーが見せる凄絶な顔にドン引きしながら、トラは蓑草鞋のデータを見た。
何も知らないトラは素直に嘆息をする。とても、100万では絶対に手に入らない強力なカードだからだ。
蓑草鞋とは付喪神の一種で鳥山石燕著の妖怪画集『百器徒然袋』掲載されていることで知られている。
山の神の零落した姿とも、凶作でも厳しく年貢を取り立てられた農民たちが蓑と草鞋に宿って妖怪化したものとも言われているモンスターだ。
所謂日本のネイティブカード故にDランクの中では強いカードである。
カードのイラストは蓑を身に纏い草鞋を履いた可愛らしい女の子が長い火縄銃を抱えて野の花のようなさわやかな微笑みを浮かべていた。
【種族】蓑草鞋
【戦闘力】180
【先天技能】
・蓑の妖:蓑は古来より身を隠す力があるとされていた(気配遮断、透明化、無音行動を内包)
・草鞋の妖:草鞋は古来より妖怪を退ける呪物として扱われていた。モンスターとの遭遇率を低下させる。
・付喪神(蓑草鞋):初等クラスの装備化スキル。他のカード、あるいはマスターへと憑依することで、自身の戦闘力の四分の一を加算させることができる(マスターへの装備化の場合はすべての戦闘力とスキルを共有できる)。
【後天技能】
・猟師:中世の農民たちは害獣駆除するための農具として鉄砲を使用していた。特定行動時、行動にプラス補正。(トラッキング、罠設置・解除、砲術、索敵を内包)
・落ち武者狩り:戦国時代の農民は逃げる落ち武者を狩っていた。特定行動時にに攻撃力をプラス補正(奇襲スキルを内包)
・天真爛漫:飾らずに喜怒哀楽を表す。その在り方を縛ることは誰にもできない。命令に対する行動にプラス補正。状態異常、拘束系スキルに対して耐性を持つ
女の子カードと言うだけでも価値が高いのにこのスキルである。まともに買おうとすれば数百万出さないと購入は難しいだろう。
正直これは主力になれるカードである。これを出してきた政信の思惑を訝しむが、どうでも良い。これは是非とも手に入れるべきカードである。
兄からカードを購入する方向に心の天秤は傾いている。と言うか振り切れた。買うことを決意。
折角なので追加の要求を出してみることにした。今なら冒険者協同組合より安く買えるはずである。
「このカードだったら取引に応じるよ。後、10万足すからEランクのカードも何枚かくれ」
トラの回答にほっと安堵の息を吐く。これで首皮一枚つながった。後はデートの時間までに酒精を抜いて、準備をするだけである。
追加の十万円。これも政信にとって美味しい話である。100万円だとギリギリで足が出た時の備えがあるのはメリットである。
そういうと3枚のEランクのカードを取り出して床に並べる。
銭の付喪神といわれる"銭霊"、糸紡ぎを手伝う善良な妖怪"苧うに"、人を攫うと言われた呪われた自動車"ブラックヴォルガ"
ブラックヴォルガ以外は戦闘にあまり向いていないが、銭霊のスキルは面白く。これは使いたいと思わせるものだった。
蓑草鞋が戦闘力が高いのだ。補助という意味では3枚のカードは悪いものではない。
苧うには戦闘にも補助にも使いにくい微妙なカードだが生産系のスキルを持っている。使い道を考えれば何かできるかもしれない。
トラとしても兄の気が変わっては困る。余計なことを言わずにカードの隣に110万円を置いた。
兄ががばっと受け取ると、血走った目で札束の枚数を数えを始める。トラはその間にカードを手に取り、一枚一枚確認を始めた。
「恩に着るぜ。トラ!!」
110万円あったことが確認できたらしい。現金を手に取ると大急ぎで自分の部屋に変える兄
嵐のように去って言った兄の背中を見ながら、さくぞうすを手に取る。
【種族】さくぞうす
【戦闘力】190
【先天技能】
・女殺し:女の子モンスターと戦闘をするとき攻撃力が大幅なプラス補正、初めて攻撃をする場合、相手モンスターの防御力を貫通する。確率で麻痺の状態異常で与える
・女の敵:女の子モンスターと戦闘をするとき防御力に大幅なプラス補正、状態異常に対し強い耐性を持つ。
・変化の術:人に化ける能力を持つ。
【後天技能】
・杖術:杖に特化した戦闘技能。特定行動時、行動にプラス補正。
・性技:性的技術に対する一定の知識と技能を持っている。特定行動時、行動にプラス補正。
・賢者の時間:煩悩が消え去り頭が冴えわたった状態。精神異常への強い耐性、思考能力の向上。
さくぞうすは『百慕々語』などに描かれた妖怪を題材にした春画のひとつだ。
元ネタは狂言の釣狐と言われており、狐ではなく■■■頭の妖怪が匂いにつられて正体表すといったパロディである。
変化の術を持っているのはそれが影響しているのだろう。とは言え、あってくれて助かったと思う。これがなければチーム組むときは封印をせざるを得ない。
あと地味に賢者の時間もうれしい。煩悩が消え去っているということは、色々とヤバい発言をすることはないはずである。……はずである。
そうなれば隠すことなく、女の子モンスター特攻を持っている戦闘力の高いモンスターが扱える。
最悪変化能力に問題があるのであればマスクでも被せよう。
どうしてもだめな奴だった場合は封印措置である。蓑草鞋があればなんとかなるだろう。
想定以上に良いカードを手に入れた。後は冒険者組合での登録をすればいい。
蓑草鞋に仕掛けられた爆弾に気が付くことないトラは冒険者になるために、急ぎ冒険者協同組合へと向かうことにした。
マイナススキルが生える寸前のストレス云々の設定はオリジナル設定です。
スキルについてもオリジナルとなっております。