中学生でも冒険者になれるって本当ですか?   作:猫の手

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ダンジョンにおけるPKなどの話についてちょっと書いてみました。

これらは独自設定ですのでご了承お願いします。


9話:☆2に至るまでの備えとは②

 朝焼けが空を赤くに染める。

 

 街はまだ目覚めておらず、人気のない静かな街中をトラと真那がランニングをしていた。

 

 春先とは言え早朝の朝は肌寒い。そのような状態にもかかわらず、全身から汗を流し荒く息を吐きながら走り続けている。

 

 二人はゴールであるお寺にたどり着くとそのまま中へ入り、肩で息をしながらもゆっくりと歩いて参拝者が来ない裏庭へと移動した。

 

 縁側には水筒が二つ置かれていた。トラは真那に彼女の水筒をに手渡し、受け取ったのを確認すると自分も水分を取り始めた。

 

「―――ふぅ、生き返るわね。トラ、アンタにだんだん追いつけなくなってくるの腹立つわ。」

 

「まぁ仕方ないだろ。男女差って奴だ。」

 

 そういうとトラは地面に腰を下ろし、少し休憩を取る。真那もそれに倣い休憩を取り始めた。

 

 何気なく部屋に飾ってある時計を見るとハーフマラソンを走り始めてから1時間半程度経過していた。

 

 トラはもう少しタイムを縮めたいと考えていたが、それはおいおいで良いだろう。

 

 もう少しゆっくりと休みたいところであるが、それをすると体が冷え切ってしまう。そうなれば残りのトレーニングに支障をきたす。

 

 身体を起こすと壁に立てかけていた2つの棍を手に取る。

 

 それを見た真那が諦めたように立ち上がるとトラから棍を受け取る。

 

「もう少し休んでも良かったと思うわよ。」

 

「そうするとダンジョン探索の時間が減るからしかたねーだろ」

 

 二人は軽く愚痴ると、素振りとか型稽古を始めた。

 

 実戦の打ち合いはダンジョンに行けばいくらでもできるので、トラは訓練の時はおかしな癖が付かないように素振りと型稽古をするのだ。

 

 真那も基本的には同じだが、装備化スキルを使った場合との体感の違いを確認するためにトラよりも早い動きで技の確認をしていた。

 

 トラは真那の動きを見て、相変わらない速度に羨ましく思う。実際のところ一対一の戦闘ではトラよりも真那の方が強いのだ。

 

 真那は反射神経が以上に早く、医者に見て貰ったところ人類の理論値の上限に到達しているらしい。

 

 普通なら天狗になるのだが、爺さんという高過ぎる壁がいたため、天狗の鼻が伸びる機会すらなかった。

 

 トラは意識を切り替え、型稽古に集中する。刺突、薙ぎ払い、唐竹、逆袈裟―――一つ一つの振り方を確認し精度を上げる。

 

 最近使っているノコギリのような槍は斬撃もできる良い槍なのだが、外見がホラー映画に出てきそうなやつとということが重大な欠点である。

 

 それらを使いこなすためのも長物の修練に手を抜くわけにはいかなかった。

 

 二人して型稽古に没頭し、どのぐらい時間がたっただろうか。

 

 トラに向かって何かが飛んでくる音が響いた。トラは躊躇うことなく音源に対し棍を振り落とす。

 

 水袋が引き裂かれる音が響き、トラはその中身を被ってしまった。

 

 それを投げた加害者はトラの行動に少し呆れたように苦言をさす

 

「トラよ。咄嗟に叩き落とすのは悪手じゃ。」

 

「今身をもって思い知らされたよ。」

 

 加害者たる爺さんに口を尖らせて、答えるトラ。まぁ、朝っぱらから水を浴びせられればそんなもんだろう。

 

 ちなみに爺さんも水を被っていた。犯人は真那だ。どうやら器用に水袋を壊さないように叩いて爺さんに打ち返したらしい。

 

「トラ、打ち返せる硬さだったわよ」

 

 真那の言葉に爺さんとトラは顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。そんな器用な真似ができるのは真那ぐらいのものである。

 

 爺さんも孫の逆襲には苦笑するしかない。タオルを取り出し水を拭うとトラと真那を朝食へと誘う。

 

「二人とも、朝ラーでも行かぬか?」

 

「「行く!」」

 

 その言葉にトラと真那は喝采を上げる。ただ飯は美味い。それにダンジョンに行くなら朝ラーは悪くない。

 

 そういうと二人は大急ぎで道具の片づけを始める。

 

「爺さん、ちょっとシャワー浴びてくるから待っててくれよ。」

 

「私も!」

 

 流石に汗だくで飯屋に行く気はない。真那は縁側に上がり、トラは急ぎ寺を出て自宅へと走っていく。軽く汗を流すぐらいで大丈夫だろう。

 

 ラーメンにありつくためにトラは家路へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝にもかかわらず、ラーメン屋は賑わっていた。

 

 チェーン店なのだが、朝早くからやっている。安い、美味いということで知られているラーメン屋だ。

 

 トラと真那はラーメン以外にも餃子やチャーハン、ごはん、生卵、高菜の食券を買う。

 

 ちなみに麺はトラと真那はカタメ、爺さんはハリガネである。

 

「爺さん、ありがと。最近はダンジョンに籠りっぱなしでラーメン喰うのは久しぶりなんだよ」

 

「そーね。早く☆2になりたいし」

 

「二人とも張り切りすぎじゃな。少しは休みを入れたほうええぞ。」

 

 爺さんの苦言。ラーメンの臭いに意識は削がれながらも真那は祖父の言うことに素直に従うことにした。

 

「ええ、分かったわ。少し減らすわ。☆2になるには十分な戦力は得たしね。」

 

 真那の言葉を聞きつつもトラは空腹でクレームを上げる腹を抑えながら、爺さんの言葉に真那とは逆の言葉を返した。

 

「戦力が足りないから、このペースを☆2得るまでは続けるよ。諒姉さんから冒険部に呼ばれているし、待たせるとどんなことになるか分からないからな」

 

「なるほどの……」

 

 爺さんは苦笑を浮かべる。諒の事情は爺さんも把握している。3人というメンバーは少ないわけではないがより上を目指すのであればもう少しメンバーが欲しいと言ったところなのだろう。

 

 爺さんが師匠である真那もトラも将来有望な冒険者と言ってよい。特に真那は、単独の戦闘力が高い。トラがえげつない戦術を好むのも真那を意識してのモノだろう。

 

 諒達がこの二人を御し続けることができるかがパーティを継続するための鍵となるだろう。

 

 そうこう話していると、店員がラーメンを三つ運んできた。他の頼んでいるものが来ていないが、それは後から来るのだろう。

 

「お待たせしました。カタ、カタ、バリカタです。残りの注文分は少しお待ちください。」

 

 ラーメンの香りにトラと真那が目を輝かせる。待ちきれないとばかりにトラと真那は箸を取る。爺さんは慌ただしい子供たちに苦笑を浮かべ箸を手に取った。

 

 あっさりとした豚骨スープが自慢のラーメンは非常に食べやすく。飲み物の様にするすると入っていく。

 

 替え玉も安いこの店は、何倍も替え玉をする客も多い。チャーシューが少し薄めなのが残念ではあるが気にするほどではない。

 

「「いただきます」」

 

 トラと真那が待ちきれないとばかりにラーメンを啜る―――否、飲み干すという表現が正しいだろう。

 

 爺さんが手を付けると同じタイミングでラーメンが無くなってしまった。爺さんはそれを見て唖然とする。

 

 トラは別の席へ移動していた店員に手を振る。やることは決まっている。

 

「替え玉、カタメでー」「私も~」

 

 麺がなくなる光景を見た店員が驚きの顔を浮かべるが、直に気を取り直し返事をする。

 

「へい、替え玉2」

 

 爺さんはラーメンを啜りながら苦笑い。腹が落ち着くまでは話をしても駄目だろうなぁと、諦観した。

 

 朝のトレーニングで飢えていた二人は満足するまで替え玉、餃子を堪能。

 

 真那は〆にチャーハンを食べ、トラの〆はライスをスープにぶち込み、その上に生卵と高菜を乗せ、それをレンゲで食べていた。

 

 見てるだけでお腹いっぱいになる食欲である。

 

 とは言え、爺さんはそんなことを気にするやわな精神の持ち主ではないので気にせず食べていたのだが、周囲の客は二人を絶句してみていた。

 

 爺さんは祖父として真那の食欲には警告を発する

 

「―――トラは良しとしても、真那よ。食べ過ぎは太るぞ。」

 

「私の運動量だと足りないぐらいよ。」

 

 朝っぱらから20km走って、その後ダンジョンに潜り込む。確かにそんな運動していたらいくら食べても足りないだろう。成長期なんだし……

 

 ラーメンを食べている女性たちが羨ましそうに真那のスタイルを見ていた。

 

 爺さんはやれやれと首を振るとトラ―――正確にいうと蓑草鞋の近状を確認することにした。

 

 冒険自体は順調なのだろうがそこが非常に気になった。

 

「トラよ。探索の状況はどうじゃ?特に蓑草鞋の様子は――…」

 

 話を振られたトラはスープで作ったおじやを食べながら、少し考えて素直に状況を話すことにした。

 

「ああ、良い子だよ。オレの指示は聞いてくれるし、応えようとはしてくれる。ただマイナススキルが邪魔をするみたいでそこが悩み」

 

 疑心暗鬼について、紹介されたWebサイトを見せる。

 

 真那と爺さんはそれを読んで顔を顰める。一番肝心なところで失敗を犯しかねない危ないスキルだったからだ。

 

 真那はチャーハンを食べる手を止めて、少し考えトラに告げる。

 

「私としてはこの子にトラウマを払拭してほしいと思うけど、この子を使っていいのはどんなに良くてもEランクダンジョンまでだよ。」

 

 声色にトラを案じる音が混ざる。これはそれまでにどうにかしろという応援と警告である。

 

 爺さんも頷く。そしてさらに状況を確認するためにトラに質問を投げた。

 

「トラよ。分かっている範囲でよい。デメリットはなんじゃ?」

 

 トラは少し悩み。師匠である爺さんに隠しても仕方ないと判断。素直に回答をする。

 

 その内容は爺さんや真那の想定より悪い内容であった。

 

「まず、途中までは命令通りに動くんだけど、最後で命令違反じゃないレベルで足を引っ張る類の行動をすることが多々ある。」

 

 爺さんが話を聞いて絶句する。命令通りに動けないのはかなり致命的と言える。なまじ聞いている分だけ性質が悪いと言えた。

 

 トラは説明を続ける。

 

「恐らく、マイナススキルの人格と葛藤をしてその結果、足を引っ張るような行動をせざるを得なくなっているんじゃないかと思う。」

 

「葛藤してくれているなら、まだどうにかなる?」

 

 トラの説明に真那が疑問を投げる。それに対し、爺さんが見解を述べる

 

「本来の人格の方がトラを信じようとしているのじゃろう。どうにかしてやりたいものじゃな―――」

 

 政信の置き土産は非常に重いものであった。本人は今地獄を見ているが、それでは到底足りないのではないかと思わせる内容だった。

 

 そして、トラが本題とでも言いたげに、次の問題点を口にする。

 

「あと、マスターに対して装備化スキルを使用することが出来ないようなんだ。信用ができない相手に自分の力を貸せないといったところじゃないかと思うよ」

 

 真那と爺さんが絶句する。最悪は装備化をすればそれらの問題は解決するかと考えたのだが、それができないとなると前提が変わってくる。

 

 爺さんは目をつむり、少し考えトラにこう告げる

 

「マスターの指示に従わないのであれば、蓑草鞋を前衛に出してそれをお主がフォローするかたちがよいじゃろうな。」

 

「最小限の命令だけを伝えて、後はフォローする形かな?」

 

 爺さんの案にトラは確認をするように質問を投げる。

 

 しかし、爺さんはトラの回答に首を横に振った。トラは首を傾げる。ではどのように運用するんだと、爺さんはトラの疑問に答えるように口を開いた。

 

「目的の共有が必要じゃな。モンスターを倒し、宝箱を開けダンジョンを踏破する。これを達成するためにどう動けばいいか考えさせてやれ。役割分担を学習させる機会と考えれば悪く無かろう」

 

 ふむ、とトラは考える。爺さんの言う通り、命令をすることが原因でマイナススキルの影響が出るのであればそうならないように対策をするのは正しいと思った。

 

 真那も感心したように言葉を漏らす。

 

「お爺ちゃん、ナイスアイデア………流石はプロ冒険者ね。」

 

 孫の誉め言葉にどや顔を浮かべる爺さん。祖父にとって孫は可愛いらしい。褒められてだらしのない笑顔を浮かべていた。

 

 爺さんの解決案より良い案をトラは浮かべることができず、とりあえず試してみようと考えた。

 

「ありがとう爺さん……それをやるなら機動力補わないとなぁ」

 

 銭霊(Eランクの下位)と蓑草鞋(Dランクの上位)では基本的な戦闘力に差があり過ぎ、それは移動速度にも如実に表れていた。

 

 サポートをするのであれば相手の移動速度について行かなければならない。それを補う魔道具を探すかと、トラは考えていた。

 

 トラの意見に爺さんは苦笑を浮かべるが頑張ってもらうしかない。自助努力をしなけれマスターになった意味などないのだから。

 

「まぁ、頑張るがよい。――――で、ここからが本題じゃ」

 

 爺さんは言葉を区切り、本題について語り始めた。目には怒りが宿っており、それを見たトラはロクでもない内容なんだろうと考えた。

 

 覚悟を決め、じっと祖父を見つめる真那に、自然体を崩さないトラ。その二人を見て、爺さんは最悪をこたえた。

 

「初心者狩りが現れおったわ。一度借りつくしたはずなのじゃが―――この手の馬鹿には事欠かぬ世界じゃて」

 

 初心者狩り、ダンジョン強盗、PKなど色々呼ばれてはいるダンジョンでの殺人・暴行を犯せば、当然であるが極刑である。

 

 現在は今後起きることが予想されている第三次アンゴルモアに備えなければならない。人間同士が争う余裕はないのだ。

 

 また、それらの行為は利益を得ることが難しいと言われている。

 

 何故なら、被害者が一番価値があり高価なモンスターカードを使って死に物狂いで抵抗するからである。

 

 その結果モンスターカードは失われ、手に入るのはたまたま冒険者が持ち合わせていた小銭ぐらいと言われている。

 

 リスクと利益がかみ合わない犯罪。それが、ダンジョンでの強盗殺人だ。

 

 しかしながら、それでも強盗殺人が無くなることはない。殺すことを楽しむ狂人、快楽殺人者、自分より弱いもの殺人を楽しみたいクズが少なからず現れるからである。

 

 冒険者協同組合が中心となって警察、自衛隊と協力し、これらの犯罪者を徹底的に調査をし彼らの根城ごと叩き潰していた。

 

「どこの田舎者が来たんだろうな。」

 

「馬鹿よね。冒険者を少年法が護ってくれるとでも思っているのかしら」

 

 トラの呆れたような発言、真那も侮蔑したような声を上げる。冒険者は税金についても優遇されており普通に探索をした方が利益は出るのだ。

 

 未成年の冒険者は"特定少年"と扱われるため、刑事裁判における取り扱いは成人と同様となっている。そして、ダンジョンでの殺害は確定で刑事裁判送りである。

 

 爺さんはラーメンのスープを啜ると、トラと真那に真剣な表情で注意を促した。

 

「探索の時は気を付けるのじゃぞ。ダンジョンと探索を終える予定時間を探索前にわしに連絡をしておけ。遅れるようであればわしか誰かを迎えに送るからの」

 

「了解したよ。」

 

「気を付けるわ」

 

 例えダンジョンで救難信号を送れない状況下にあったとしてもこのように情報を連絡しておけば、生き残る可能性が高くなる。

 

 現状の様に殺人鬼がで歩いているとなれば必要な対策だ。

 

 折角冒険者に生れたのに水を差されたようで、トラは暗澹たる気持ちになった。

 




【う・ん・ち・く】
ダンジョンにおける強盗殺人について

ゲームからPK、初心者狩り、ダンジョン強盗などと呼ばれる犯罪行為

殺した相手のモンスターカードの入手は不可能に近いため、デメリットの割にメリットがない行為と言われている。

基本的に強盗殺人を犯す人間は殺人という行為が目的か、何も考えてない馬鹿かどちらかと言われている。

しかしながら、それ以外の例外も僅かにではあるが存在している。
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