次からはイベントの開始となります。
ダンジョンモールの駐車場。
ダンジョン探索をさっさと完了させたトラは駐車スペースにブラックヴォルガを召喚。購入した天然のオイルを注入口に注ぐ。
心なしか、機嫌良さげなブラックヴォルガ。無機系モンスターの好みについて纏めたサイトに記載されていた通り、彼は天然のオイルが好物のようだ。
今日は中で食事をしながら会議をする予定なので何も食べられないブラックヴォルガに対して心苦しく感じたトラが用意したプレゼントである。
「ブラックヴォルガ、中に入れてくれ」
トラがそう声をかけるとブラックヴォルガは<人攫い>のスキルでトラを内部へと移動させた。
ブラックヴォルガの中は改装されており、ロッカールームやキッチン、トイレが完備。皆が集まる大部屋にはテーブルと椅子が用意されておりくつろげるスペースとなっていた。
ちなみに大部屋の椅子やテーブルはキャンプ用品を選んでおり折り畳めるようになっている。
真那に頼んで彼女のカードであるシルキーより低級収納を教導して貰ったのでブラックヴォルガは大部屋にある荷物は全て収納できる内部空間に入れることができる。
ダンジョン探索の拠点として非常に便利なるように改造されつつあった。
トラはテーブルの上にダンジョンモールで購入した総菜、飲み物、菓子をテーブルの上に置き、さくぞうす、苧うに、蓑草鞋を召喚する。
召喚されたカードを代表してさくぞうすがトラに問いかける。
「おう?さっきぶりだな坊主。どんなようだ?」
「ああ、飯でも食いながら、今後の予定を説明しておきたいと思ってね。」
好きに食べていいぞ。と言ってトラはハンバーガーを取り出すと、壁に立てかけられたホワイトボードに向かい、さらさらと書き始める。
戸惑う蓑草鞋によそに、さくぞうすは骨付きチキンを手に取ると大口を開けて、噛み千切る。
苧うにはサンドイッチを確保すると食事をしながら、裁縫を始めた。
戸惑っている蓑草鞋にさくぞうすが食べるよう促す。
「遠慮せず、喰った方が良いぞ。余らせたら坊主が処分する羽目になるからな」
さくぞうすの発言にトラは苦笑い。そういうことならと蓑草鞋はおにぎりに手を伸ばす。
ダンジョンモールのおにぎり、中身はベーシックに梅である。中世の日本のおにぎりとは比較にならないほど美味く蓑草鞋は目を丸くする。
「美味しい!?」
一度食べてしまえば、手を止めることはできず、様々な総菜に手を伸ばす。唐揚げ、ハンバーグ、エビチリを食べて行った・
ホワイトボードにミーティングのアジェンダ、3項目を書きだしたトラはハンバーガーを手に取り数秒で胃袋に収めコーラを飲み一息つく。
1.ランクアップ
2.冒険者協同組合が主催する戦闘訓練イベントへの参加
3.☆2試験を受ける時期
アジェンダは以上。コーラを飲んで人心地付いたトラは3人に向き直り、一つ一つ説明を始めた。
「まずは、ランクアップについてだ。まずは銭霊、さくぞうすをランクアップさせたいと思う。―――何でかっていうと、金銭的な問題だね」
さくぞうすが苦笑いを浮かべる。ランクアップ先がCランクで最も安いカードの一枚である"やまらのおろち"だからだ。
間違いなく強いカードではあるのだが、ジャパニーズエロゲモンスター故に不人気である。
爺さんに頼んで、要らないカードがないか探してもらっている。不人気の余り売れないので冒険者協同組合も引き取りたがらないカードらしい。
下手すると在庫処分で1枚100万で手に入るかもしれないと言っていた……悲惨である。
自分のコストの安さを自覚しているさくぞうすは苦笑いだ。
「まぁ、俺は安いからな。銭霊ってのも価格問題か?坊主」
さくぞうすの問いかけにトラは正解と頷く。
「強力で立て直しが容易なカードだからね。頼りにしているよ―――さくぞうす。」
安くて強いカードというのはメリットである。ロストしたとしても直に立て直しが可能だ。故に不安なく使える主戦力とトラは考えていた。
さくぞうすの卑下する言葉を否定し、トラは説明を続けていく。
「銭霊のランクアップ先、"金霊"は300万も出せば手に入りそうだったんでね。恐らくブラックヴォルガのランクアップ先に考えている"飛乗物"も同じぐらいだと思う。」
金霊は江戸時代の妖怪画集"今昔画図続百鬼"に描かれた妖怪で金の精霊呼ばれ、訪れた家を栄えさせると言われている。正に銭霊のランクアップと言ったモンスターだ。
スキルも銭霊の強化型なため、躊躇うことなく強化できる。
飛乗物は"西鶴諸国ばなし"に記述される妖怪だ。駕籠の妖怪であり、空高く舞いあがりどこともなく飛び去ったと言われている。
飛行能力があり、機動力のさらなる向上が望めるカードである。今後のことも考えると是非とも欲しいカードの一枚である。
トラは蓑草鞋と苧うにを見ると申し訳なさそうに続ける。
「苧うにと蓑草鞋のカードは割と高価なカードばかりでね。申し訳ないけど待ってほしい。」
女の子カードになった瞬間に値が馬鹿みたいに上がるのだ―――分かりやすい需要と供給である。
特に蓑草鞋の候補として考えているカードは高めのものが多い。Cランクの女の子カードとなればさもありなんといったところだ。
「気にすんな、マスター。戦闘はあまり得意じゃないからね。他を優先した方が良いってもんサ」
苧うには手をひらひらと動かし、トラに気にしてないと返事をする。
蓑草鞋は困ったような表情を浮かべ、トラの真意を問いただすように言う
「ボクはマイナススキル持っているから―――ランクアップはしなくても」
「いや、ランクアップはさせるよ―――必ず。」
蓑草鞋の言葉をトラは否定する。動揺し、更に否定をする言葉を紡ごうと口を開く蓑草鞋より早くトラは続ける。
「まず、能力的に蓑草鞋は優秀だ。変わるカードはそうそう無いだろう。というのが一つ。」
「マイナススキルが台無しにしているんですよ」
悲しそうにそれを否定する蓑草鞋の言葉に言い聞かせるようにトラは言葉を続ける
「オレは蓑草鞋を自分が使用するカードと決めた。マイナススキルを言い訳に見捨てるような弱虫にはなりたくないしな」
それならばそもそも最初の時点で選ばなければいいのだ。最もトラは選んだ後に発覚したケースだが使うと決めた以上関係のない話である。
蓑草鞋はトラの言葉にじっと耳を傾ける
「最後にまぁ、蓑草鞋とはフィーリングが合うと考えているよ。そういうカードは手放したくないしね。」
蓑草鞋はうつむいてしまう。
うつむいてしまった蓑草鞋にトラは苦笑いを浮かべる。蓑草鞋に言うつもりは無いが兄のやらかしの責任という意味もある。見捨てるのはありえないだろう。
トラは膝を付いて蓑草鞋に目を合わせる。
「見捨てたりしないって約束をするから、一緒に頑張ろう。」
「―――はい」
そんなトラの様子を微笑まし気にみていたさくぞうすと苧うに、その視線に気が付いたトラは見てるだけだった二人を恨めし気に見ると蓑草鞋の頭を撫でてから、ホワイトボードに戻る。
話題を切り替えるように次の項目、冒険者協同組合主催の戦闘トレーニングについて話をする。
「冒険者協同組合が主催で開催するトレーニングがあってね。それに参加しようと思う。日数は5日間だ。まぁこれは、☆2になってからの予定だ。結構ハードだから頑張ろうね。」
「坊主は受けたことがあるのか?」
「あ―――1回。―――…2等陸曹殿、自分は大丈夫であります……」
その時のことを思い出したのか虚ろな表情を浮かべうわごとを口にし始めた始めたトラにそれを見ていたさくぞうす達がぎょっとする。
明らかにトラウマになっている奴が見せる表情である。
「坊主!!しっかりしろ!!」
さくぞうすがトラの肩を掴み揺さぶるとトラがよろよろと、テーブルに置いてあったペットボトルを開き、中に入っていた水を半分ほど一気に飲み干す。
長く息をはきだすと落ち着いたのか表情はいつも通りに戻っていた。
「ああ、まぁ大変なトレーニングだけど役には立つから安心していいよ―――」
「マスター、いや、あんたの様子に安心する要素があるのサ」
「嘘じゃないみたいですけど……」
トラの言葉に苧うにが突っ込みを入れる。蓑草鞋の"真偽察知"嘘を感じなかったが、嘘を感じない分ヤバさをひしひしと感じていた。
「大丈夫。オレも一緒に参加するからね」
「お、おう……」
さくぞうす達はとりあえずこれ以上触れることを止めた。どんな闇が出てくるか分かったものではない。
人間も参加するトレーニングだ。モンスターの自分達なら大丈夫とタカをくくった。タカをくくってしまったのだ―――この時の判断を3人は非常に後悔する羽目になる。
質問が終わったことを理解したトラは最後に残った"☆2試験を受ける時期"について説明を始める
「最後だけど、オレはゴールデンウィーク。4/28から☆2へのランクアップ試験を受ける。それまでに出来る限りの準備をするつもりだ」
そういってトラは3人を見据える。さくぞうすは楽し気に、苧うには普段と変わらず、蓑草鞋は不安そうにトラを見ていた。
3人の様子を見てトラは補足するのを忘れない。
「少なくとも、さくぞうすのランクアップが必須と考えているよ。これがクリアーしないと挑まないから安心していい。」
トラの言葉に全員が納得の表情を浮かべ頷く、Cランクカードが1枚あればだいぶ違ってくる。それが強力なカードであればなおさらだ。
話が終わったことをさくぞうすが確認する。
「了解だ。坊主これで話は終わりか?」
「ああ、終わりだよ。後、1時間ぐらいしたら帰るつもりだから、その間は好きにしていいよ。」
そういうとトラはテーブルの上に置いてあった総菜に手を伸ばす。
さくぞうすはそれを聞くと少し前にガッカリ箱で入手した"文庫図書館"を取り出し、少し前に購入したレビューを読み始める。
真面目な顔をしているが、エロいレビューの調査をしていると思われる。
苧うには縫いかけていた蓑草鞋の用の春物のワンピースの仕上げに取り掛かる。ロリータ用のワンピースでとても可愛らしいデザインである。
苧うには蓑草鞋を確保するとロッカールームへ連れて行った。恐らく着替えるつもりなんだろう。
「覗きは厳禁だヨ。マスター」
「分かっているって、後が恐ろしいことになることはしねぇよ」
それをやれば爺さんと真那からどんな恐ろしい目にあわされるか分かったものではない。あの二人にトラは社会的、物理的、精神的にも勝てないのだ。根性を叩きなおすとばかりにボコボコにされればまだいい方だろう。
総菜の中で残った骨付き唐揚げを食べながら、恐ろしい想像を払拭するためにブラックヴォルガの内装をどうするかなーなどを考え始めた
苧うにと蓑草鞋がロッカールームに入り、鍵を閉められたことを確認をしたさくぞうすは、トラに声をかける。
「坊主―――ちぃと頼みがある。」
「何だ?さくぞうすがそれを言うのは珍しいな」
さくぞうすは外見年齢が高く、あまり頼みごとなどはしたことがなかった。さくぞうすの頼み。
何事かと考えトラは真剣に話を聞くために向き直る。
「ああ―――女の子モンスターの■■店があるって聞いたんだが、連れて行ってくれねぇか。」
さくぞうすの発言を聞いたトラは唐揚げの骨を噛み潰した。何の冗談かと思いもう一度訪ねる。
「さくぞうす、オレの聞き違いかもしれないからもう一度言ってくれねぇか?」
トラの願いはむなしく。さくぞうすは表情を変えず、真顔でもう一度同じことを言う。
「女の子モンスターの■■店に連れて行ってくれ。」
どうやら聞き違いではなかったらしい。未成年にどうしろというのだろうか―――トラは頭を抱える。
未成年がそんな店に近寄ればおまわりさんのお節介になるだろう。それを知った爺さんや真那、母さんがどうするか考えるだけでも恐ろしい。
故にトラは常識的な回答で返すことにした。
「さくぞうす、無理。オレ未成年だから連れて行けない」
さくぞうすはガックリと項垂れる。予想した答えではあるが致し方ない。<賢者の時間>のスキルがあるだけに性的欲求は抑えられているのだが、それでもさくぞうすはたまにはそういうところに行きたかった。
より正確に言うならば、レビュアーになりたかったのだ。
「だよなぁ―――」
とは言え諦めきれない。何か手段はないものか。さくぞうすはスマフォを弄って色々な可能性を調査し始める。
とあるホームページを見て、クワッと目を開く。それはエロ小説の応募のページだった。賞品の中に女の子モンスター■■店の無料券があった。入選すれば貰えるらしい。さくぞうすはエロ小説を書き応募することを心に決めた。
ペンネームはトラの兄歌川政信でいいだろう。さくぞうすと名乗るわけにはいかないし―――官能小説家"歌川政信"の誕生であった。
ちなみに政信と同じ大学の大学の友人たちはアイツ大学休んでエロ本書いていたんだと噂になったらしい。
スマフォをみて何やら検討を始めたさくぞうすを横目にトラは食事をとり、思い出したかのようにダンジョン探索での収支を計算し始めた。
入学式から経過した一週間の収入を家計簿アプリに記載し再確認を行う。
〇収入
・モンスターカード+踏破での利益:208万円
・魔石:いっぱい
・ガッカリ箱で手に入れた魔法のカード:プロテクション、クリーン、リフレッシュ
・魔道具:ポーションx2、文庫本図書館x1、ミドルポーションx1、名酒・酒屋殺し、魔石袋、チェーンソウ
ちなみに文庫本図書館はさくぞうすの持ち物となっている。エロ本をそのまま持ち歩くのは流石に思うところがあったらしい。
苧うにもファッション雑誌の整理のために欲しいと言っている。
名酒・酒屋殺しは200万円ほどで爺さんが買い取った。曰く、子供に持たせるようなアイテムではないとのことだ。
残りの魔道具については販売せず取っておくことにした。
ホラー映画シリーズのチェーンソウは正式名称:チェーンソウ・サガというらしい
使い捨てとなるが、神族に即死ダメージを与えることができるレアアイテムだ。割と欲しがる人が多い。
トラはいざという時の備えとして持っていて、☆2ダンジョンに挑む前に金が足りなくなったら売り払えばいいと考えていた。
ホッケーマスク、血濡れた鉈、チェーンソウ……レアアイテムはホラー映画シリーズともいえるネタ装備。
良い装備なのだが、嬉しいはずなのだが素直に喜べないアイテムばかりをトラは引いていた……
「オレ、こんなのばっかだよなぁ」
深々と溜息を吐くトラの背中はすすけていた。
トラが収支の計算を終えてたころ、ロッカールームの扉が開かれる。
そこから出てきたのはロリータ風のワンピースを身に纏った蓑草鞋だった。
後ろから現れた苧うには良い仕事をしたとばかりの満足げな表情を浮かべる。
ワンピースに身を包んだ蓑草鞋はとても可愛らしくまるでアンティークドールのようだった。
恥ずかしそうに俯く蓑草鞋にトラは褒める言葉を探し出し口にする。
「可愛いな。女の子だからそういう格好もいいと思うよ。」
真那によって鍛えられた―――女の子を誉める技能が役に立った。真那の場合対処を見すると本気で不機嫌になるのでヤバいのだ。
「ぁぅ、ありがとうございます。」
褒められて更に恥ずかしそうに俯く蓑草鞋と良い仕事をしたとばかりに満足気な苧うに。
そこで更にさくぞうすが追撃をする。
「―――ふぅん、ダンジョンモールで歩くときぐらいはそういう格好で良いんじゃねぇか?」
「良い考えだねェ。さくぞうす、マスターも良いよナ。俺も作ってみたい服がたくさんあるからなァ。腕が鳴るってもんさ」
さくぞうすの言葉に蓑草鞋より苧うにのやる気に火がついてしまった。
慌てる蓑草鞋に対し、トラはさくぞうすの案に乗ることにした
「そうだね。探索中は困るけと、それ以外ならいいんじゃないかな」
マスターが裏切ったとばかりの目を向ける蓑草鞋。彼女だって可愛い恰好は好きだが恥ずかしいのだ。
早速、ノートとペンを取り出して新たな服への構想を始める苧うに、そんな苧うにをとめることができず、思案気な蓑草鞋。
さくぞうすはさっさと会話から外れ、難しい顔で艶本を見続けていた。
「蓑草鞋、真那に写真を送りたいんだ。撮るけど良い?」
「え?は、はい?」
蓑草鞋はトラの言ったセリフが理解できなかったようで生返事、トラは写真を撮ると真那に送付。
秒を置かずにい返信が返ってきた。内容は『ずるい。どこにいるの?』だった。
トラはずるいってなんだろうなと思い、特に気にせず、現在地をそのまま送ってしまう。
『ダンジョンモール駐車場、A-14 ブラックヴォルガに乗っているよ』
『直に行くわ。待ってなさい。』
異常なまでの圧を感じる返事だった。長年の付き合いの経験からこういう時に逆らうと地獄を見る。
蓑草鞋の写真にどういう効果があったのだろうかと首を傾げるトラ。
まぁ良いかと、トラは計算をした収支の内容を片づけ始めた。
その後、真那は蓑草鞋を可愛いと抱きしめ、苧うにと共に蓑草鞋の着せ替え計画を立て始める。
シルキーが蓑草鞋に淑女としての教育をすると申し出る。
それをトラが了承。恨めし気に蓑草鞋はトラを見たが、「いい機会だから習って来ればいいさ。損になる話じゃない」発言に轟沈した。
これからしばらくの間蓑草鞋は淑女としての礼儀作法をシルキーに倣い続けることになる。
ちなみに冒険者協同組合が主催する戦闘訓練イベントはフルメタルパニックのやりすぎのウォークライを見て頂ければわかります。