ファンの人は石を投げないでください。
11階層―――☆2昇格試験の本番だ。
ダンジョンは今までよりもはるかに禍々しい姿を現わしていた。
錆びついて赤く染まったボロボロの刀を持つ骸骨の侍が骸骨の僧侶の頭をはねれば、
着物を着た骸骨が骨で編まれた傘をさし、僧侶の頭蓋骨を乗せてくるくるくると回す。
傘の上で回されながらもケタケタと笑う骸骨の僧侶
小さな骸骨が犬の骸骨のリードを手に持ち、散歩をする。
狂乱の宴、行動の一つ一つが精神に、状態異常を与える手妻
踊り狂う死者の群れは、生者を死へといざなう。さながらダンスマカブルといったところか
死人たちが狂った日常を過ごし、日常を冒涜し、生者を嘲笑う。これこそが逆しまなる武家屋敷の所以。
状態異常耐性がない、山吹、あやめには辛い場所だ。Dランクで無ければレジストも危うかっただろう。
「マスターはん――こんなん見てると気ぃ狂うわ」
「せやね。うちも少しきついわ」
山吹とあやめは状態異常の影響を受けているのか大分辛そうにしている。
回復魔法で回復をさせるが、回復するたびに状態異常の影響を受ける。
忌まわしい舞踏を躍り続ける死人の群れ、それは"狂乱"の状態異常を与え続けるスキルである。
とはいえ、状態異常耐性を持つ狂雲、ククリは平然と敵を睨み据えていた。
「そうだな。あまり時間をかけるのもよくなさそうだ」
狂雲を見ると頷く―――Cランクカードの能力を把握するために狂雲に任せるのもよいだろう。
バックアップとしてククリがいるならばどうにでもなる。故にトラは狂雲を嗾けるように命じる。
「狂雲―――任せるよ。」
トラのその言葉に、狂雲はにやりと笑う。仲間たちから一歩前に出て、トラの命令の答えた。
「数が多いってのはちょうどいいな。解くぞ。トラ!!」
「おまっ、まぁいいや。好きに暴れていいよ」
狂雲が何をやらかすか察したトラはとっさに制止しようと口を開きかけてやめる。
全力を見るならこっちの方がいいだろう。戦闘力が低下している状態での戦い方はいつでも見れるわけだし
狂雲は我が意を得たりと鮫のように笑う。これからの破壊、戦闘に心躍らせる姿は、破戒僧というよりも破壊僧というべきか
変化の術を解く。
弾け飛ぶように体が変質。卑猥な八つの頭を持つが現れそれに応じて胴体が巨大に変化していく。
山のごとく巨大な体へと変じた多頭竜はその圧倒的な質量と存在感で躍り続ける骸骨達を踏みつぶし威圧した。
ようやく弄ぶ相手から、敵だと認識した骸骨達は群れを成しつ、骨の、白い津波へと変質し襲い掛かる。
卑猥な多頭竜は息を吸い込み。白い粘液のブレスを吐き出し、押し返―――否、津波の如く押し潰した。
巨体から繰り出される粘液のブレスは質量と重量、ブレスというに相応しい破壊力を持って骸骨達を粉砕する。
ただの一撃でEランクのモンスターである骸骨達は消失してしまった。
そうなればあとは掃討戦である。
逃げようとするモンスター達、残念ながら、彼らの体が動くことはかなわない。
中等忍術"影縫い"
白い粘液のブレスは色があり、使用した後も粘着性を持ってその場に残る。
その残滓で射止められた影を戒め、相手の行動を封殺する。二次災害的な使用だ。
影を縫い留められたモンスターたちは戒められたかのように体が動かない。必死で逃げようとあがくも動かない。
絶望しているのだろうか?骸骨ゆえに表情は分からないが逃げようとするさまがそれを容易に伺わせる。
トラは狂雲のスキルの使い方に舌を巻く。今後か組み合わせを考えたコンボなんかも構築した方が良いだろう。
単体のモンスターで行えるコンボでこれなのだ。複数のモンスターで行った場合はどれほどになるか想像がつかない。
卑猥な多頭竜となった狂雲はそのままモンスターを引き裂いていった。
数分後、モンスターを蹂躙し終えた狂雲が変化の術を使用し、人身へと戻った。
機織淵は竜宮との関連性も指摘される隠れ里である。
また、機織りも古代において重要な役割を持つ仕事であった。
何しろ現代のように写真の技術がないのだ。立場の上下を区別するためには衣装が重要な役割を持っていた。
高い官位を持つ人間を識別するために衣装は使用され豪奢で絢爛な衣装を纏い、自分の官位は高いと自分の顔を知らない民にアピールをする必要があったからだ。
その衣服を作る機織りが重要視されていたのは自然な流れだろう。
ちなみに日本神話において養蚕は天照大御神に由来するとされている。
それらの背景を内包する機織淵は和風のつくりの豪奢な御殿となっていた。
ランクDのモンスターである川姫が所持するため、広大な空間を持っているわけではないが非常に立派な屋敷として鎮座していた。
15階層から16階層に下る階段を見つけられなかったトラ達はいったん休憩をするために〈機織淵〉へと入ったのだった。
そんな機織淵の中をククリは手持ち無沙汰に歩いていた。
食事が済んだあとトラが1時間程度休憩をするといったからだ。
他の面々は自分の趣味に没頭し、ククリも〇〇DA〇Hの新しいデータを渡され見ていたのだが、気分が乗らず途中で止めて出歩いていた。
他の仲間の様子を窺うと
狂雲は春画を見ながら、何やら書き物に熱中しており
山吹はどこから持ってきたのかわからないディスプレイを複数並べ株取引に興じていた。
あやめは部屋いっぱいに次回作成予定の服の案を作り並べていた―――そのモデルがほぼククリなのが気になるところである。
トラはというとあてがわれた部屋に布団を引いて寝ていた。
昼休み前の食事でかつ丼(特盛)、牛丼(特盛)、サラダ(特盛)を食らっ多ばかりだというのに寝つきのよさにククリは苦笑する。
寝相が悪いみたいで掛け布団がはだけていた。
トラの少年らしい一面にククリは微笑ましさを覚える。部屋に入り、布団をかけなおす。
布団をかけ直すとククリは何気なく―――特にやることもなかったので―――トラの寝顔を見る。
疲れていたのだろうか?本当に気持ちよさそうに寝ていた。
安全な場所にいるとはいえ、ダンジョン探索の最中に普通に寝ているのは神経の太いさは異常と言わざるを得ない。
どういう育てられ方をしたらこうなるんだろうか―――
ククリは机の上に置かれたマッピングしたダンジョンマップを見る。
逆しまなる武家屋敷はとにかく落とし穴が多いダンジョンだった。―――あと吊り天井。
変な忍者屋敷でも参考にしたのではないかと疑うような設計だ。
ククリはダンジョンマップを机の上に並べていく。見れば見るほど変なつくりである。罠は他にもあるだろうに
幼い顔立ちに似合わぬ真面目な表情。とはいえこの手のことを考えるには経験が不足しているのか。傍から見ると幼女が地図で遊んでいるようであった。
そうやってごそごそと地図を見ていると、トラも気が付いたのか目を覚ます。
ぼんやりとしたなんとも気の抜けた表情を浮かべ
「おはよう。み―――ククリ」
「お、おはようございます。マスター」
ククリに挨拶をする―――半角性の脳味噌では何でここにいるのかという疑問は浮かばなかったらしい。
気まずそうなククリ。それを知ってか知らずかテーブルに並べていた地図を見比べる。
「このダンジョン。落とし穴が多いよねー」
「ええ、それでショートカットできたので調査はしやすかったですけど」
脳味噌半角性のトラの言葉に相槌を打つククリ。
確認のために落とし穴の配置と地図を照らし合わせ、安全な確率の高いところから落ちるなども試した。
ふつーにショートカットとして使えるため、詳細調査をするときには利用をしたのだが―――
「あー?ん??ククリ、今言った言葉をもう一回言ってもらえないかな?」
半覚醒の脳味噌が急に回転し始めた、ククリは何か不興を買ったのだろうかと、不安に思いながらもう一度言う。
「ええ、それでショートカットで――」
「そこだ!!」
トラが大声を出して叫びククリの肩をつかむ。
急に大声を出されて、肩をつかまれたククリは少し涙目になる。
「そうなんだよ!!落とし穴はショートカット。なんでオレは試さなかったんだ!!。狂雲に眷属スキル生えていたのに!!」
急な展開についていけないククリは混乱し、目をぐるぐると回している。
そんなククリに気が付かないトラは言葉を続ける。
「16階層への道はおそらく落とし穴だ。さぁ、休憩時間が終わったら試すぞ!!ありがとう。ククリ」
肩をつかんだまま至近距離でお礼を言われたククリの顔は真っ赤になる。
急に叫びだしてから、お礼を言われる展開。ククリは顔を青くするやら真っ赤になるやらで混沌としていた
ククリの中にある疑心暗鬼は諦めたたような敗北したような面持ちでトラの様子を見て、混乱しているククリの隙をついて口を開く
「ねぇ、アンタさ。どうしてマイナススキル持ちのモンスター信用するの?」
覚醒一歩手前のトラはククリの言葉に首を傾げながら、それでも真摯に答えるという縛りに従い少し考えこう答えた。
「別に信用しているとかしていないとかじゃなくて、オレが能力を把握したうえでオレが命じるんだ。失敗したらオレの責任だろ?」
「じゃぁ、蓑草鞋を信用していないの?」
疑心暗鬼の言葉におや?と思う。覚醒していないトラでは疑心暗鬼とククリの区別がいまいちあいまいだ。
だからククリに答えるような真摯な言葉で続ける
「今まで一緒にいた分だけ信用しているよ。信用ってのはそうやって生まれるもんだろ?だから、一緒にいる分だけ信用してくれると嬉しいな」
疑心暗鬼は天を仰ぐ。この返し方はズルいとそう思った。
そりゃぁ、今までの行動は信用してよいと思う行動の積み重ねをしていた―――疑心暗鬼は自分の敗北を悟った。
「私の負けよ『マスター』。私も一緒にいた分だけあなたを信用することにするわ。」
おや、とトラが思う間もなくククリは普段のククリに戻った。ふと、ククリのカードを見る。
ククリ
【種族】蓑草鞋
【戦闘力】440(MAX 初期170+成長170+影法師100)
【先天技能】
・蓑の妖:蓑は古来より身を隠す力があるとされていた(気配遮断、透明化、無音行動を内包)
・草鞋の妖:草鞋は古来より妖怪を退ける呪物として扱われていた。モンスターとの遭遇率を低下させる。
・付喪神(蓑):初等クラスの装備化スキル。他のカード、あるいはマスターへと憑依することで、自身の戦闘力の四分の一を加算させることができる(マスターへの装備化の場合はすべての戦闘力とスキルを共有できる)。
【先天技能】
・猟師:中世の農民たちは害獣駆除するための農具として鉄砲を使用していた。特定行動時、行動にプラス補正。(トラッキング、罠設置・解除、砲術、索敵を内包)
・落ち武者狩り:戦国時代の農民は逃げる落ち武者を狩っていた。奇襲スキルを内包。特定行動時、攻撃力にプラス補正
・天真爛漫:飾らずに喜怒哀楽を表す。その在り方を縛ることは誰にもできない。命令に対する行動に大幅なプラス補正。状態異常、拘束系スキルに対して耐性を持つ
・影法師(NEW):心の中に潜むもう一人の自分を召喚する。精神異常無効、その他詳細不明(日本冒険者協同組合:情報の少ないスキルのため情報提供を求めます)
・虚偽察知:
トラはここで完全に目が覚めた。どうやら先ほどのはククリの疑心暗鬼だったようだ。
マイナススキルも解消され、聞いたことのないスキルへと変貌した。眷属召喚系とはちょっと違うみたいだが詳細が良くわかっていないスキルらしい
不安要素が解消され、ほっとする。残るは☆2試験の合格である。カードたちに休憩時間の終わりをつげ、探索へと向かった。
「マスターあんた鬼畜だわ」
本日10回以上落とし穴に落としたいやだひめからの発言である。
トラの予想は当たっており落とし穴こそが16階層以降の入り口となっていた。
「わりぃな。お前さんは1日8階呼べるからついな」
【種族】いやだひめ
【戦闘力】600
【先天技能】
・多頭竜の生贄(偽):敵対者のヘイトを自分に集中させる。いやだひめが存在する限り彼女に攻撃をせざるを得なくなる
・八重垣の加護(偽):生贄に捧げられた姫君を貴種が救い出した物語の再現。自分の戦闘力を上限として相手の攻撃を受けた場合ダメージを反射する。
・八つの酒瓶:多頭竜を酒で酔わせて眠らせたという物語の再現。強烈な酒の匂いで睡眠のバッドステータスを与える
【後天技能】
・高位眷属体:
「わたしはさー、確かにそういう役割だけどサ。遠慮ぐらいしてもいいじゃん」
ちなみにいやだひめはやさぐれたのかヤンキー座りでトラを見ている。
タバコがあればすいだしそうな勢いである。
「そのスキル構成だと無理だろ――他にどんな作戦に組み込めばいいんだよ。」
トラの無情の一言にいやだひめ突っ伏した。ちなみにいやだひめのモデルとなったくしなだひめは大和撫子の語源である。
やさぐれた大和撫子、気持ちはわからないでもないが色々と酷い話である。
「まぁ、今日はこれで最後だよ。ほら」
ボスの間が目の前にある。これで最後だろう。慎重に進めたが朝早く出たのが幸い夕方前に帰れそうである。
ちなみに狂雲は苦笑を浮かべていた。奴もそれ以外使い道がないと考えている側だったからだ。
スキル構成が呪われた置物である
「早く終わらせなさいよー。そして傷心のわたしにお酒を奢りなさい」
あやめも山吹もしゃぁないよなぁとククリも苦笑
「分かった。まぁ、考えてやるさ。じゃあ、ドアを開けてくれ。いやだひめ」
「あんた鬼畜だわ」
恨めしそうに言ういやだひめはドアを開く。
その先には野球場のベンチ、ダイヤモンドベースが目の前にあった。
トラは首を傾げる。
狂雲は「これって野球場ってやつか?」と呟き、ククリは「何が?」、山吹は「なんやこれ」、あやめは「なんかすごいわぁ」と感想を漏らした。
現実となのか夢でも見ているのかと皆呆然とした。
とはいえこうしているわけにはいかない。トラはやむなく狂雲といやだひめに指示を出す。
「狂雲、いやだひめ、先行してくれ」
「おう」
「人使いが荒いわねぇ」
2体がグラウンドに出るとピッチャーマウントに赤いヘルメットをかぶった人型のモンスターが現れた。
トラは"百鬼夜行絵巻"に描かれている赤へるが脳裏をよぎった
赤いヘルメットをかぶったモンスターは赤いユニフォームと硬球を持ちっていた。
「赤へるが赤ヘ〇〇団になってる……」
ここは鷹の住処である。赤へるが住みたければ〇島へ帰れ!!トラは内心唸った。
赤へるが眷属召喚のスキルを使用する8体のユニフォームを来たチームメイトが召喚された。
これ以上赤へるの侵略を許すわけにはいかない。
「速攻で叩き潰すぞ!!」
きさらぎ市に住む住民として責務を果たさなければならない。トラはウォークライを上げる。
しかしながら、カードたちはトラが怒声を上げる理由が理解できない。
あそこまで真剣な表情を浮かべるトラも初めて見る。ならば、全力で挑まねばならない相手なのだろうと察した。
全力で挑まなければならないだろう。
赤へるはその自慢の打線で千本ノック攻撃をしてきた。
しかし、それはいやだひめが呪いの置物としての効果を発動、尊い犠牲となり、返す刀で<八つの酒瓶>を使用昏睡させる。
こうなってしまえばこちらのものである眠りについた赤へるを皆でぼこぼこに殴り倒せばいっちょ上がりである。
やまらのおろち、いやだひめというCランクカードが2枚分の戦闘力は強力であり、戦闘自体はあっという間に終わってしまった。
ピッチャーマウンドに突き刺さる赤へるのカードが腹立たしい。
あっさり終わってしまったことにククリは不思議そうに首を傾げてトラに問いかける。
そこまで強い敵ではなかったのになんでそんなに必死だったのかが理解できなかったからだ。
「マスター、どうしてあんなに必死だったんですか?」
その疑問に対しトラは端的に回答した。
「奴らはここにはいてはいけない存在だった。遠征ならともかく常駐は許されない。」
トラの回答は要領を得なかった。ただ、その力強い回答に納得せざるをえなかった。どうやら奴らは相当ヤバいカードなのだとククリは理解した。
山吹は株トレードをする分知識があったようで納得がいったようだった。
「せやなぁ。鷹の巣に赤へるがいるんは不味いわなぁ」
他の仲間は理解できない様子の様で首を傾げていた。
酷い終わり方をしたが、☆2の試験はこれで無事合格である。あとは1ヶ月間好き放題探索をしてDランクカードを得るための戦いを続けることができるのだ。
金策がある程度できれば戦力の強化も期待できるだろう。トラは1ヶ月かけて金策を続けることになるだろう。
ちなみに余談であるが赤ヘ〇〇団へ変質した赤へるはトラは身の安全のために売り払うことにした。
羽木に連絡をして相談したことろ、オークションにかけられることとなった。
様々なアンチ、ファンとの戦いに勝利し勝ち取ったのは〇島在住の赤ヘ〇〇団の一員だったそうだ。
彼はそれを神棚に飾り、イベントの際に使用したらしい。
赤へるという名前の妖怪がいることを知ってずっとやりたかったネタです。
恐らく女の子カードよりも価値を持つ一枚じゃないかと
ファンが血で血を争う戦いをして入手したがりそう……