数回に分かれての投稿となります。
ゴールデンウィーク初日。
爺さんが運転するキャンピングカーに揺られ、山道を進む。過疎化したダンジョンに行く人間などおらず、対向車もいない。
ダンジョンは人口が多い土地に多いが、アンゴルモアが原因で過疎になり、そのままダンジョンが取り残されるケースは少なくなくあった。
今回も数少ないそのケースである。アンゴルモアで破壊された線路の復旧もされていないのだ。
探索者たちも不便な場所よりも近場を探索したがる。故に過疎地のダンジョン探索を対応するものは少なく冒険者協同組合からの依頼で対応するケースがほとんどだ。
過疎のダンジョンということは何かがあった時の救援も期待できないということである。
故に探索者が来ないという悪循環が繰り返されていた。
あと、人気がない理由としては山にあるということであればさぞ風光明媚、山紫水明な光景が見れるとそういう楽しみを期待していく探索者もわずかながらいる。
しかしながら、彼らも圧倒的が現実、鎮座するエクスプローラ・ストアに打ちのめされてしまうのだ。
台無しである。
楽しみを打ち砕かれたそんな表情を浮かべるトラの思いを知ってか知らずか爺さんが声をかける
「さてと、着いたぞ。準備を急げよ。今日は可能であれば、Cランクの階層までたどり着きたいからの。」
「―――おう、ありがと。爺さん、準備するよ」
とはいえ、ダンジョンである切り替えねばなるまい。そういうとトラは助手席のドアを開けて外に出る。
嬉しいことにエクスプローラ・ストア以外は山紫水明な風景が広がっていた―――エクスプローラ・ストアが半端ない違和感を与える。
エクスプローラ・ストアを忘れることにしたトラは深く深呼吸をし、わずかな間、風景を楽しむとバックを地面に下ろす。
カバンの中に入っているのはあやめお手製のブーツと手袋、そして明らかに戦闘用として作られたとわかるスーツだ。
今回は山岳地帯の探索のため、はぐれた時の対策として、山で目立つ色である青を基調として選んだ。他の装備もそれに合わせた色合いで染色している。
織物に関するモンスターを持っているマスターの役得といえる。
手早く装備を身にまとうと、最後にバックから頭部を守るためのフルフェイスのマスクを手に取る。
今の時期だと多少暑苦しく見えるがスキルを持つモンスターが作ったゆえか意外に涼しい。
トラと同じように外で着替えていた爺さんがいつもの荒法師スタイルでやってきて、トラの装備を見て意外という風な表情を浮かべる。
「奮発したのトラ。どうやって入手したんじゃ?」
「あやめ―――川姫のスキルで作ってもらったんだよ。」
トラの返事を聞いた爺さんはほうっと言う表情を浮かべると面白げににやりと笑う。
「装備を補えるのはなかなか良い仲間じゃの。モンスターがスキルで作ったのであればそこらの既製品よりもよかろうて」
「ああ、めぐり逢いに感謝しているよ。」
兄の件を忘却の彼方に置きそう答える。既に傷跡も癒えた忘れてもいいだろう。
そうやって、二人で無駄話をしていると、キャンピングカーの後部座席が開く。
「トラ、お爺ちゃん、お待たせ」
そういって出てきたのは真那だ。川姫に色々と条件を付けて取引をして作って貰ったスーツを身にまとっていた。
白を基調としたそのスーツでも真那のわがままなボディーラインは隠しきれていないが、今までの尼僧服よりもはるかに動きやすそうであった。
真那も心なしか満足気である。トラも真那の服が間に合ったことにほっとし、その姿をほめる。
「間に合ってよかったな。似合っているぞ」
「ありがと、トラ。っそっちも似合っているわよ。」
真那がトラの装備をほめると、後部座席から沙希が降りてきた。
☆3の冒険者というだけあって最新式のボディースーツを身にまとっている。
アラクネ――地元の冒険者相手の装備を作る企業――製のスーツのようだ。特に女性冒険者向けのデザインと防御力を両立したデザインで支持を集めていた。
後部座席から降りた沙希はトラの装備を見て感心したように嘆息する。
「お待たせ。こちらも準備が終わったよ。――へぇ」
明らかに戦闘用のスーツでありデザインも悪くない。見たことのないスーツだ。もしかすればオーダーメイドと考え首を傾げる。
先の後ろから降りた諒がトラのスーツを見て感心したように言う。
「トラ、そのスーツ凄いね。諒さんもびっくりだよ。どこで買ったの?」
「ああ、オレは川姫を所持しているから、頼んで作ってもらったんだよ。真那も同じだよ。」
諒の質問にあっさり答えるトラ。沙希はその言葉を聞いて、そういう抜け道があったかと感心する。
沙希はそういうことに気が回らず、ひたすら戦闘力の高いモンスターを求めた自分を思い出し嘆息する。
諒はうらやましかったのか、恨めしそうに続ける。
「うぅ、今度探そう。」
諒はトランジスタグラマといわれるスタイル故にあまりにあう服がなく非常に苦労していた。その抜け穴を見せられて心底うらやましそうにトラを見る。
二人とも半分ぐらいオーダーメイドのため、防具は非常にお高かったのだ。
その分良いものではあるのだが……
そんな孫娘である諒に対して苦笑しながら、爺さんが言葉を発する。
「諒よ。そこまでにしておくんじゃな。あまり時間があるわけでもないからの。早速移動をするぞ。」
そんな爺さんの言葉に各自が了解と返事を返す。
そんな中トラが爺さんに移動手段をを問いかける。
「んで、爺さんE,Fランクの階層はどうやって進むつもりなんだ?」
トラの問いに爺さんは自分たちが良くやる手段を回答する。―――一番オーソドックスな手段がこれだからだ。
「ああ、装備化スキルを使用した後に走って移動する予定じゃが、何か案があるのかの?」
爺さんの問いかけにトラはにやりと笑う。
あの忌まわしい赤へると交換で手に入れた2枚のDランクのカードの1枚を披露する時が来たのだ。
「山羽―――ブラックヴォルガをランクアップさせたからEランクまでならどうにかなるぜ。」
爺さんはほぅっと感嘆の声を上げる。正直なことを言うと長時間運転をした直後である。楽がしたかった。
Dランクの乗り物のモンスターであれば問題がないだろう。爺さんのモンスターを呼べば大体のことは何とかなるはずである。
「よかろう。では、そいつに乗って移動じゃな。ただし、Dランクの階層からは降りて行くぞ。戦闘経験は積むべきじゃからの」
「了解」
爺さんとトラの会話に興味を持ったが沙希は特に口をはさむことはしなかった。新入部員のお手並み拝見といったところだろう。
諒も興味津々といった感じでトラを見ているが、トラから根掘り葉掘り聞きだしている真那は知った顔で平然としていた。
僻地のCランクダンジョンは山岳地帯のフィールドで構成されていた。
メインのフィールド効果は衰弱鬱陶しいがそこまで難易度の高いフィールド効果ではない。
面倒な部分と言えば地形が毎回変わるローグダンジョンということとサブ回廊が30階より2個存在するというぐらいだろうか。
近くに電車が通っていれば、こんな僻地でなければそれなりに探索者が出てくるダンジョンなのだが……
そんなダンジョン山道の上空を未確認飛行物体が飛んでいた。
その中に乗り込んでいた爺さんはちょっと疲れた口調でトラに突っ込みを入れる。
「トラよ。よりにもよってなぜこれを選んだのじゃ?」
未確認飛行物体―――トラが召喚したモンスターの中で爺さんの突っ込みが入る。
その爺さんの言葉に続けるように爺さんのモンスターの中でも一番付き合いの長い"水天"ツッコミを入れる。
「惣一郎、お前さんどんな育て方したんだ?」
トラではなく爺さんにだが、自分のモンスターに突っ込まれて不服なのだが、返す言葉がなく唸る。
爺さんは師匠のため、トラの成長と方向性には爺さんがかかわっているこれを否定する言葉はなかった。政信への恨み言を呟く。
その一方真那はマイペースに窓から外の様子を興味深そうに見ており、諒と沙希は絶句していた。
そんな皆の反応が不服だったのかトラは大真面目に回答をする
「便利だろ?」
便利さが常に最優先になるわけではない。だが、トラのその言葉に返す言葉を持つものはいなかった。
トラが召喚したモンスターは虚舟という
虚舟は滝沢馬琴の兎園小説で知られるUFOのような外見で有名な乗り物である。
江戸時代のUFO飛来事件、日本のロズウェル事件などという人もいるUFO研究家の中でも知られた存在だった。
種族:虚舟
戦闘力:240(初期160+成長80)
【先天技能】
未確認飛行物体:UFOみたいな形状の舟。飛行能力を持つ。内部には外見よりもはるかに広い空間が広がっている
たまのいれもの:荒ぶる常世浪を掻き分けて本土に到着した潜水艇。異空間に入り移動する
謎の文字:船外に記載されている謎の文字。効果不明。何もないのではないかという噂がある。
【後天技能】
人攫い:子供を攫う呪われた車という伝承を持つ。半径10m以内にいる対象を車内へ移動させる。
シルバーゴースト:走行時のロードノイズを抑えるスキル。音を消して行動することが可能。(無音行動、気配遮断を内包)
虚ろな心 ⇒ 加速する心:所謂スピード狂。彼を止めることは誰にもできない。拘束系スキルを無効化、状態異常耐性
ドライビングテクニック:卓越した運転の技量を持つ。曲芸の様な運転が可能。特定行動にプラス補正
奇襲+体当たり ⇒ ひき逃げアタック:奇襲成功時、ダメージをスピード分だけ増加。ノックバック+昏倒効果を与える。
この船は異空間を潜航して進むため、対応できるモンスターが少ないというのも便利であり、外見にさえ気にしなければ本当に便利なのだ。
外見がイロモノ過ぎてマスターが少ないという少し悲しいモンスターである。
沙希はトラから離れたところで、アレの制御をしなければならないのかと遠い目をしていた。
諒はリーダーじゃないので先に任せちゃえとか鬼のようなことを考えていたりする。
爺さんは嘆くようにトラに対しその便利さを手遅れに育ててしまったことを悔恨するように誉める。
すでに手遅れである。あとは人の道を外さないようにだけすれば大丈夫だろう。
「まぁ、確かに便利ではあるの。でじゃ、このカードは誰から購入したんじゃ?」
「そりゃー羽木さんだよ。」
その言葉を聞いた爺さんの目に昏いものが宿った。爺さんがダンジョンから出た後、羽木は地獄を見ることになるだろうが仕方ない。
水天も深々と嘆息する。自分の相棒と言える長い付き合いのマスターの弟子が変な方向に走っているのだ。嘆きたくもなるだろう。
とはいえ間違っていないので注意することもできやしないのだが……
トラはDランクモンスターの階層に到着した場合の対策について爺さんに確認をした。
「爺さん、Dランクモンスターの階層についたら、皆で制圧しながら進むのか?」
トラの問いに爺さんは首を横に振る。
爺さんのモンスターはかなり強力なものが多い。手を出し過ぎれば修行にならないだろう。故にこう告げる
「わしは手を出さぬから、お前さんたちで攻略するんじゃ。それぐらいできねばCランクモンスターの階層なぞ夢のまた夢よ。」
爺さんのその言葉にその場の全員の表情が真剣なものに変わる。
爺さんの言うことが正しい。そのぐらいができなければCランクモンスターの階層へ挑む権利もないだろう。
トラと真那が沙希と諒へ視線を向ける。視線を向けられた意図を理解したのだろう。沙希が口を開く。
「確かに椚木のお爺様の仰ることが正しいだろう。ただ、僕も諒もDランクモンスターの階層は経験している。」
そこで言葉を止めて、トラと真那を見る。制御をするためにも彼らの全力を知る必要がある。
Dランクの階層は確認をするためにはちょうど良い階層である。故にこう伝える。
「諒からは君たちが優れているとは聞いている。でも、僕は君たちのことを詳しくは知らない。」
諒の言う規格外の領域それを図るためにも実践を見た方が分かりやすい。
なるべく胃にやさしい決着を迎えることを祈りつつ、沙希はトラたちに指示を出す。
「Dランクの階層はサポートに徹するよ。君たちの力を見せてほしい。」
沙希の言葉にトラは少し考え、頷く。真那の方は迷わなかったようだが…
「了解した。真那、作戦を練るから来てくれ」
「OK、やるわよ。トラ」
トラにとっても実力を試すにはちょうど良い階層である。沙希の言葉に乗ることにした。
トラと真那はお互いのカードの情報を交換し戦術を立て始めた。
えぐい案がいくつも提案されるのを周囲の面々は聞きながら、爺さんに呆れた視線を送る。
爺さんは自分のせいではないと内心ぼやいていた。
流石にCランクダンジョンのともなれば Dランク階層。モンスターの種類も数も豊富である。
とはいえ、合戦跡のダンジョンらしく、兵士や騎士、武者など戦争と関係のあるモンスターが多い。
そして仕掛けられた罠も戦場にまつわるものが多かった。
トラはククリを<蓑の妖>を使用させたうえで先行、<猟師>スキルを使用してダンジョンに仕掛けられた罠を逆に利用できるように改造させる。
そんなからめ手の準備を続けるが、それだけでは対処できないケースも多々ある。
例えば群れで直接攻め込むケースだ。
だが、そんなDランクモンスターの群れに対し、真那、牛御前―真那所有のCランクカード―、狂雲が元気に突っ込み敵陣の前列を叩き潰す。
文字通り、技量、ランクという暴力の差で壁を作り、逆に押し返していた。
敵陣を押し返した真那がトラに大声で呼びかける。
「トラ!!」
「そのまま10歩押し返せ!!」
真那の言葉に怒鳴り返す。トラの言葉に敵陣に圧をかけて押し返す真那達前衛トリオ。
そのまま10歩押し返すと落とし穴が開かれ、モンスターたちが落ちてゆく。
その様子を見たククリが姿を現し、3人にお代わりが来たことを告げる。
「まだ来ます。でも、ダンジョンの罠を逆利用できましたから、相手がそれに引っかかるまで待ってください。」
どうやら今度は火薬の罠の様だ。それに巻き込まれたモンスターは吹き飛んで跡形もなくなる。残ったモンスター達もボロボロだ。
これを退治すればしばらくお変わりは来ないだろう。
「真那、次はオレも出る。ククリはさっき見つけたガッカリ箱を回収してくれ。回収すればそのまま次の階層に降りるぞ!!」
「「了解!!」」
とても☆2になったばかりの冒険者とは思えない立ち回りでトラと真那はDランクモンスターの階層を攻略し続けていた。
それを少し離れたところで見守っていた諒と沙希は絶句してみていた。
☆2の立ち回りじゃないからである。強いカードを持つ自分たちであればもっと楽に立ち回る自信があるが……
「いやぁ、諒さん自信無くしそうだよ。お爺ちゃんはどんな修行付けたんだろうね。」
「アレの手綱握るのかぁ……」
戦闘のサポートをするために召喚されていたヘクトールが沙希をいたわる様にいう。
ヘクトールはDランクモンスターから付き合いのあるB級モンスターであり名付けもしている。沙希のエースだ。
「お嬢様、彼らと貴方は在り方が違います。下手に制御しようと考えず、貴方の持ち味を生かす方向で考えた方が良いでしょう。」
気遣うような言葉ではあるが、手綱を握る立場から逃げることを許さない厳しさもあった。
ヘクトールの言葉に冷静な自分を取り戻した沙希は礼をのべる。
「ありがと。ただ、アレを見ていると自信なくすよ。」
沙希の弱音に同意するように諒も頷く。
そんな諒をからかう様に麻姑―Cランクの諒のモンスター―が軽口をたたく。
「あら、諒も同じ訓練をしてみるのもいいかもしれないわよ。最近少しおなかにだ肉が付いたみたいだし」
「あんなの真似したら倒れちゃうよ」
自分の限界に挑むようなトレーニングである。諒は途中で力尽きて倒れる自分が簡単に予想できる。
冒険者の強さとはカードをどう上手く使うかだと思い、諒は色々自分をごまかすことにした。
そうこうしていると、遠くからトラと真那が移動すると合図をしてきた。
その合図を見た二人は頷き、移動を始める。
沙希はトラと真那を自分たちに組み込んだ場合の戦術を考え始めていた。
ヘクトールをBランクとした理由は、九偉人の一人に数えられているからです。
九偉人は他にカエサルやアーサー王もいますので、Bランクとしました。
ブラックヴォルガがネタ枠の仲間入りに……