機会を見て修正、改定を入れるかもしれません。
短いですが、切りがいいのでここまでにしました。
数多の手が伸ばされ、無知で傲慢な人間を捉える。それにふさわしい地獄へと引きずり込むために――…水底から地獄の天を砕き、地獄の空より底へと落とされる。このままでは何もするまでもなく潰れてしまうだろう。
悲鳴が聞こえる。トラを呼ぶ声が聞こえる。トラはそれらを一旦、無視して、狂雲を送還。山羽を召喚する。召喚に応じた山羽に怒鳴りつけるように命令を発する。地上までどれぐらい時間がかかるかわからないが、回収しなければならない。
「山羽!!全員を回収しろ!!」
「是」
トラの怒声に対し山羽は慌てることなく、いつも通りの無機質な冷静な声でを返す。その言葉がトラを焦りを和らげる。
トラを呼んだ真那を、狂乱する沙希に手を伸ばそうとする諒を、地上に視線を固定し狂乱した沙希を回収しカードのモンスター達を回収する。
狂乱する沙希を見て少し時間を稼ぎたかったゆえにトラは山羽に命令を下す。
「山羽!!異空間へ潜航!!その後ゆっくりと落下していってくれ」
そして、潜航する前に地上を見たトラは沙希が狂乱した理由に納得する。そこにはボロボロの服を身に纏った人々が地獄の悪鬼たちに責め苦を受けている姿だった。イレギュラーエンカウントはアンゴルモアで殺した人間の魂をトロフィーとして持って帰ることがあると聞いたことがあるが、悪趣味が過ぎた。
重い岩を持たされその重量でつぶれても歩き続けることを強要される人々
両目を縫い付けられ炎によって燃やされ続ける人々
体中を切り刻まれ、鳥たちに啄まれる人々
それはイレギュラーエンカントが再現した地獄の縮図そのものであった。
肉体がないがゆえに責め苦を受ける端から体が治癒されてゆき、そのたびに新鮮な痛みを刻まれていく。トラが感じたのは恐怖ではなく怒り、いや、歓喜というべきか。ようやくイレギュラーエンカウントを殺せるのだ。
一瞬後に山羽が異空間へ潜航し風景が途切れる。恐らくは山羽が気を使ったのであろう。非常にありがたかった。これから冷静に対処方法を検討しなければならないからだ。怒りも恐怖も考えを空転させるだけで役に立つことはない。冷静さと理性を保たなければ生き残れない。
部屋の中へと目を向けると怯え切った沙希が諒に抱き着いていて、それを抱きしめながら落ち着けようとあやしている諒がいた。真那はというとそれを見て少し困った表情を浮かべていた。
沙希は小声で「ああはなりたくない。いやだ」と呟き続けていた。モンスターも戻してしまったらしく、ヘクトールとアルケーの姿が無かった。このままでは話が進まないが、この状態で会議など無理だろう。また、火天の姿もなかった。イレギュラーエンカントが弾いたのか不明だが、戦力が減ったのは間違いなそうだった。
トラはやむなしと判断し、トラは諒に沙希のことを頼んだ。
「諒姉さん、黒田先輩のことは任せていいかな?オレは真那と対策を考えるよ。」
トラの言葉に諒は申し訳なさそうな表情を浮かべる。とはいえそれを口に出すと沙希の精神状態に影響を与えかねない。それを理解しているトラも余計なことは口にしない。少し離れた場所にテーブルを出して駒と、先ほど見た光景をもとに描いたマップを作り、真那と向かい合う。
「恐らく相手はパンをふんだ娘だろうな。」
トラがいくつかある駒のうち鳥の形をしたものと人の形をしたものを取り出しマップに置く。真那がそのマップを見て頷く。ペットボトルの水を取り出し、一口含む。
パンをふんだ娘はアンデルセン童話の作品の一つである。水たまりで靴が汚れるのを嫌った無知で傲慢な娘はパンを放り投げて踏み台にして渡ろうとして地獄へと引きずり込まれた。そのあと、罪滅ぼしのために鳥に姿を変えられ、餓えた鳥たちのためにパンくずを集めるという試練を受け、一斤分のパンくずを集めると許されて天国へ行く。端的に言うとそういう物語である。
物語のあらすじを確認した二人は今度は冒険者協同組合で入手した情報を確認する。まずは基本的な情報を真那が確認をするようにトラに尋ねた。
「恐らく間違いないと思うわ。特徴的だったし、確か、パンをふんだ娘は戦闘型のイレギュラーエンカウントよね?」
真那の言葉にトラは頷く、ただし不足項目があるため、それを追加することを忘れない。
「ああ、ただし、マヨイガと同じタイプの異空間スキルを持つモンスターだけどね。」
トラの補足に面倒臭そうな表情を浮かべる真那。この異空間スキルを持つということが曲者なのだ。この手のモンスターの多くは核を潰さなければ滅ぼすことができない。戦闘型のイレギュラーエンカウントでありながら、リドル型のように本体を探索しなければならないという面倒なイレギュラーエンカウントがパンをふんだ娘である。真那がボヤくように言う。
「その核の情報がバラバラなのよね。リドル型でもないくせに」
「全くだ。」
トラが頷く。それならリドル型になればよかろうに戦闘型になっているという面倒なタイプなのだ。故に正統派の攻略方法として、襲撃をしてくるパンをふんだ娘の相手をする防衛側と核を調査する探索側と二つに分けて対応するの良いといわれている。
そして、防衛側が最低限必要なのはパンをふんだ娘と彼女が召喚する鳥達を抑えることである。召喚制限のある階層では無限召喚(飛行能力持ち)出来るCランクのモンスターがいれば鳥は抑えられないことはないが、火天がいない現状では望むべくもなく。最大戦力であるヘクトールも沙希があの状態では防衛側には回せないだろうと考えた。
沙希を最低限使い物にするためには諒のサポートが必要だろう。とはいえ、激戦となる防衛側は不可能と考えた方が良い。そのため、チーム分けも自然にトラと真那で防衛に回り、沙希と諒が探査をする形になる。トラは駒をそれぞれ別の場所に配置。その意図を察した真那が嘆息する。
防衛側の手駒が――特に空中戦に対応できる手駒が足りないのだ。
トラはサブ回廊踏破時に手に入れたCランクカードに手を伸ばす。山吹を使わなかったのであまり入手ができなかったが、こればかりは仕方がない。2枚のカードを確認する。
1枚目が橋姫。外敵の侵入を防ぐ橋の守護神としてまつられる女神である。強力な力を持つが飛行能力がないため今回は対象外。
2枚目が龍燈。龍神の灯す火という意味を持つ怪火であり、神聖な物とされている。自分と同じモンスターを49体召喚することが可能であり。飛行能力を持つ。限定的な召喚能力ではあるが飛行可能という点が大きい。
他は魔法カードが5枚。クリーンx2、ブレスx1、キュアx1、レベルアップx1。ミドルポーションが3個、ローポーションが4個といったところだ。武器系のアイテムが入手できなかったことが痛い。
トラはパンをふんだ娘の駒の前に狂雲のカードを置き、召喚された鳥のモンスターの前に龍燈を置く。この組み合わせでなければ土台にすら立つことができない。そして残った2枚の駒を召喚された鳥のモンスターの前に置く。召喚制限がある以上マスターに装備化能力のあるモンスターを使用して戦力に数えれるようにするべきである。
トラの作った駒の配置を見た真那は少し考え頷く。彼女自身もこれ以上の案は浮かばなかった。トラに確認をするために問いかける。齟齬があれば勝率が下がる。避けねばならない。
「んー、龍燈は私が使うしかない……か。ちょっと業腹ね。」
「気持ちはわかるけど、狂雲――やまらのおろちと龍燈がキーになるンだよ。」
トラの言葉に真那は頭では理解していたため納得するしかない。飛行能力のあるカードがないのだ。それを使うしかない。龍燈はトラと真那の足場としても利用可能だろう。龍燈を足場とした3人での集団戦。これが現在検討できる最大戦力である。防衛側の布陣としてはこれ以上はないだろう。
問題は探索側である。沙希が探索できるレベルまで短時間で精神を復調させる。難しい役割を諒に押し付けることになっている。爺さんから聞いた話ではあるが、マスターの心が折れたとしてもモンスターに命令をすれば最低限は戦ってくれるため、最悪はモンスターに命令さえ下せるようになればいい。心が折れたとしてもそのレベルまでは戻ってほしい。自分本位な願いではあるが、そう願わざるを得ない。
虚舟よりテレパシーで入ってくる情報から察するに後。5分かからず地上に到達するだろう。地上についたタイミングが戦闘開始の合図となることは想像に難くない。故に諒に作戦を説明し、探索チームとしての役割を対応してもらわなければならない。
トラは諒たちの方を見る。沙希はいまだに怯えており、戦闘は難しそうな状況だ。症状を悪化させないように気を使いながら、二人に作戦と今後の行動について説明を始める。
「黒田先輩に、諒姉、聞いていたとは思うけど、オレ達はパンをふんだ娘の足止めをする。その間に本体を探して潰してほしい」
諒は沙希をなだめながらトラの言葉に頷く。諒の中の冷静な部分が、それ以外に生き残る道がないと告げていた。トラは二人の反応を見て、言葉を続ける。作戦を理解しておかなければ役割分担は望めない。故に説明は必須であった。
「まず、戦力として龍燈は使わせてもらう。これは理解してほしい。―――足止めをするけど、恐らく1時間で限界だ。」
トラと真那のスタミナがそこで切れる可能性が高いからと続ける。実際のところ2時間は大丈夫なのだが、最悪の事態の保険として短く言っておくべきだろう。沙希の表情に恐怖の色が強くなるがそれは今は気にしてやれない。ここで待たないのかといわないだけ、理性は取り戻しているのだろう。イレギュラーエンカウント相手では異空間にいても侵入されて終わる。だけではなく、狭い分だけ逃げ場がない。これは最悪であった。
「地上へ下りたら、虚舟を送還して、オレと真那はパンをふんだ娘を足止めする。その間に探索をしてくれ。」
そう告げると、トラはククリに装備化スキルを使用するように告げる。地上まであまり時間がない。装備をしなければ無防備なさまを晒してしまう。トラが装備化スキル使用したことに気が付いた諒は慌ててマッネモソミに装備化スキルを使用するように命じ、沙希に急ぎアルケーとヘクトールを召喚するように言った。
モンスターを召喚した沙希を見たトラはあと少しかなと内心独白する。召喚を拒絶するわけではないようだ。まぁ、命の危機に自分のカードにすがっている可能性はゼロではないが、地上到達まで一分を切ったところで沙希が口を開く。トラが何故平然としているのか。嫉妬に、自分の醜さを取り繕うように問いかける。
「歌川君――なんで君はそんなに平然としてるんだ……い?」
自分はこんなにも恐怖しているのに何故なのだと問い詰めるように沙希はトラに問いかけた。沙希の問いにトラは何でもない風に答える。
「んー、ああ、待ち望んでいた違うな。なんだ―――オレの父さんは第二次アンゴルモアでイレギュラーエンカウントもに挑んで帰ってこなかったと聞いてる。」
そこで言葉を切り、どう告げようかどういう言葉がふさわしいだろうか。目を閉じそれを探し、思い浮かばなかったので心のままに答えることにした。
「多分、父さんを殺し――違うな。多分違う。どういったらいいかわからないけど、イレギュラーエンカウントに怒りをぶつけたいんだと思う。」
トラの中の憎悪を言い表すのであればそれが的確だろう。身を焼くほどの怒りを加害者に叩きつけたかった。冷静とは違う――恐らくは
「オレは冷静に怒り狂っている。」
それだけを告げてトラは黙った。そうでなければ爺さんの訓練など耐えられないだろう。復讐ではない。トラはただ、イレギュラーエンカウントの存在が許せないのだ。沙希はそのトラの表情を見て黙った。怒り狂った表情をしているわけではない。ただ、能面のように淡々と告げるその姿は狂っているようだった。
皆が静まり返り、やがて虚ろ舟が地面へと着地した振動が響いた。
「さて、作戦行動開始だ。生き残るためにも勝つぞ。」
そういうと虚舟を送還。地面へと降り立つ狂雲を召喚。駆けだそうとした瞬間。諒が袖ノ雪を真那に投げ渡す。少しだけ震えた声でだが冷静にしっかりとした口調で諒はトラと真那に言う。
「貸すから、持っていきなさい。戦力の足しになるわ。」
諒の言葉に真那は顔をほころばせる。真那が装備化スキルを使用しているカードは鎧武者。あるのとないのとでは戦闘力は全く違うのだ。故に嬉しそうに真那は返事をした。
「ありがとうお姉ちゃん。大分助かったわ。」
トラは戦力が弱くなることを理解しながらも渡してくれた諒に感謝、ポケットから古いウォークマンを取り出し、投げ渡す。戦力という意味では意味がないがトラの渡せる一番の宝物。それを知っている諒は苦笑しながら受け取る。
「戦力にならなくて申し訳ないけど、オレの宝物を預けるよ。後で取りに来るから大事にしてくれよ。」
そういうとトラと真那は敵陣へ向かって駆けだした。空には数多に鳥がおり、それが集まっている場所があった。恐らくはそこにいるのだろう。走りながら真那はトラに釘を刺すことにした。自分の命と引き換えになどやられてはたまらない。今のトラにはその危うさがあった。
「トラ!!勝って、生きて帰るわよ。」
普段は心配性のかけらも見せない真那の言葉にトラは素直に頷いた。イレギュラーエンカウントは数多にいる。一人目で死ぬなど、そんな間抜けな死に方をするつもりは毛頭ない。
「分かっている。一匹目で死ぬつもりなんざないよ」
トラのその返事に真那は嘆息。まぁ、今回は生き延びるといっただけマシかと納得する。死を望むことがないように、そうなったら張ったおしてでも元の道に戻すことを誓いながらかけ続けた。
元々は沙希をイレギュラーエンカウントとの出会いで心が折れる予定はなかったのですが背景設定を読み返すとこれ折れるなぁと判断し、心を折ってしまいました。
彼女は親から与えられた強い無限召喚タイプのモンスターを使い続けて探索をしていました。探索者になったのも彼女の意志ではなく、ダンジョンマートへの対抗心に燃える父親の意志だったりします。
順調に探索が進み過ぎて覚悟が固まる前に☆4へのチャレンジを考えるようになってしまったという状況です。
ヘクトールを入手して色々と考える時期に差し掛かったのですが、間に合いませんでした。
イレギュラーエンカウントにさえ当たらなければ軟着陸はできたのですが、ちょっと無理かなーと判断しました。
諒が大丈夫だったのは爺さんが原因です。
では龍燈の能力についていかに記載しておきます。
【種族】龍燈
【戦闘力】400
【先天技能】
・龍神の灯:龍神の灯す火。体が焔で作られており、物理攻撃で傷つけることは難しい。周囲に火があればそれを取り込み。自己再生、攻撃力、防御力、体力を上昇させる。(飛行能力を内包)
・海の淵より現れる:静かな夜の海に現れる灯。自分と同じ種族、能力値のモンスターを49体まで召喚する。
・龍燈の松:山の頂にある松に飛来し、灯す火。火に関する魔法が使用可能となる。
【後天技能】
・武芸:
・騎獣:
・中等回復魔法: