学園内とはいえ、Eランクダンジョンへは自転車で移動しなければならない程度に離れていた。アンゴルモア発生時に避難所内でモンスターが発生しないようにという対策なのだろう。避難してきた人々もダンジョンが避難所内にあれば安心はできない。そこら辺の配慮を踏まえた配置を学園はしていた。
自転車を駐輪場に置くと、瓦田教諭は無人運営のエクスプローラストア――恐らくセキュリティを意識しているのだろう――の中へと進む。歩きながら、学内のダンジョンについて説明を始めた
「ここが目的のダンジョンだ。冒険部に所属する君たちは自由に使用が可能だ。今後はこちらで探索をするといい。学園で管理しているダンジョンはここ以外にもEランクダンジョンが一つ。Dランクダンジョンが一つ。Cランクダンジョンが一つ存在する。」
そこで言葉を止めると、付け足すように瓦田教諭は付け足すように一言付け加えた。他にも服すダンジョンを管理しているという言葉を聞いたトラ達が驚きの目を向ける。
「ああ、当然だが、☆2ではEランクダンジョンしか潜れない。もし、C,Dランクのダンジョンに潜りたければ試験に合格するように
当たり前と言えば、当たり前の話だ。実力が保証されていないものにダンジョン探索をさせるわけもない。トラが呆れたように相槌を打つ。
「そりゃそーでしょ……」
「―――君たちはないと思うけど、毎年勘違いする生徒が出るものでね。」
瓦田教諭が苦笑いと共に説明をした理由を告げる。毎年出るんだと皆、目を丸くした。学園が管理をしているのだが公的なルールを曲げられるわけがないのにやるのだ。真那が呆れたようにつぶやいた。
「都合よく解釈しすぎでしょ……」
だよねーと言いながら、瓦田教諭の案内でダンジョンの中へと案内をする。今にも崩れ落ちそうなボロボロなビルのフロント。逆さにひっくり返った内装。アンゴルモアで被害にあったビルそのものを再現したダンジョンに眉を顰める。ウンザリとした様に椿――今一椿が感想を述べた。
「悪趣味なダンジョンですぅ」
「わざわざ、アンゴルモアの光景を保存しないでいいのにね」
椿の言葉に完全に同意する西川。この手のダンジョンは嫌われる傾向にある。アンゴルモアの地獄を好き好んで思い出したい人間はいないからだ。たまに例外が人の少ないダンジョンだと乗り込むが、それは例外である。そしてその例外が発現をする。
「まぁ光景はアレだが、オレは嫌いじゃないぜ。人があんまり来ないからな」
「確かにそうね。メリットがあるから、私もよく利用しているわ。」
例外たちの発言は修羅染みていた。どういうトレーニングをすればこうなるのだろう。瓦田教諭、西川、椿は真那の祖父を思い出した。彼が原因なんだろうかと……爺さんが効いたら必死になって否定しようと躍起になる話だ。
そんな会話をしながらも、ごく自然に皆モンスターの召喚をする。トラは人形神にランクアップしたククリを少しだけ大人びて妖艶になった彼女は可愛らしさと共に儚さを感じさせる姿へと変貌していた。―――流石に真那以外の女性陣がいる中で、流石のトラもやまらのおろちを召喚するような真似はしなかった。召喚すれば明日以降が大変だろう。
真那は付喪神――どうやら籠手の形状にしたらしい――を、西川は二―ベルゲンの歌で語られるジークフリートを殺したハゲネを、椿は道教における予言と海運の神である猫将軍を召喚する。探索が目的ではないとはいえ、最低限の備えは必要である。瓦田教諭は新入生の油断をしない姿勢に感心した。割と召喚もせずにボーっとしている新入部員は少なくないのだ。トラ達が召喚したことを確認しながら西川教諭はマヨイガを召喚する。
マヨイガを確認したトラは中に入る前に自分疑問を解消しておこうと考えた。まぁ、誰でも疑問に思うことである。この学園は恵まれ過ぎているのだ。
「瓦田先生、学園はどうしてこんなにダンジョンを確保できたんです?」
トラの質問は至極まっとうなものである。他の面々も気になっていたようで瓦田教諭に視線が向く。この質問が来ることは予想できていたようだ。特に驚いた様子もなく昔を振り返るように目を閉じ、抗議をするようにゆっくりと説明を始めた。
「ああ、この学園ができた―――いや、この校舎ができたのは第二次アンゴルモア以降なんだ。ダンジョンについては確保したというよりも押し付けられたという方が正解だよ。アンゴルモアの直後は、ダンジョンの近くにある土地は酷く嫌がられていたんだよ。」
モンスターに襲われたばかりの時期、モンスターのいるダンジョンの近くを嫌がるというのも理解できなくはない。ただ、それだけでは理解できない部分がある。そのため、トラが問いかけた。
「国は引き取ろうとはしなかったのですか?」
「アンゴルモアが終結したばかりの時の国にそんな体力はなかったよ。」
第二次アンゴルモアは各国に甚大な被害を齎せたと聞いてはいた。とはいえ、国内のダンジョン確保やダンジョン利権への横やりができないほど疲弊しているのは想定外だった。
「あの時は酷かった。荒廃した街、被災者たちへの対処、死人の山、暗躍しようとした裏社会の連中、それの対処だけで国の処理能力は限界を超えていた。」
そこで言葉を区切って少し意地悪気に瓦田教諭は続きを話す。
「だからね。民間でできることは民間にと、ダンジョンの管理を学園に任せることにしたらしい。第二次アンゴルモアで防衛拠点としても活躍したからね。で、元々学園のあった土地は売り払い。こっちに引っ越したんだよ。」
学園があったところは住宅地に、住宅地だったところは学園に、当時はモンスターアレルギーとでもいうレベルで忌避反応を示す住人も少なくなかった。今では大分薄れてはいるのだが……そして、学校を資金面のことについての解説を始めた。
「まぁ、スポンサーもたくさんついた。だから、資金面も充実、それらの資金を使用して市との協力体制を作り、設計されたのがこのきさらぎ学園だ。ちなみに学園の周辺にはベンチャー企業が多数あってね。大学と協力をしていろいろとダンジョン関係の発明や特許を取っているそうだ。」
トラ達もベンチャー企業が多いことは聞いていた。魔道具、人口魔道具、異空間を利用した農業・酪農の研究。アンゴルモアで工場を壊されないようにダンジョンに工場が作れないかの研究。ダンジョンと外を繋ぐ通信インフラ研究をしているところもあり、学園都市と言っても過言ではない賑わいである。
「まぁ、歌川君の質問にはこれで回答になったかな?それでは今日のトレーニングを進めよう。マヨイガの中に入って」
説明に納得をしたトラ達は、瓦田教諭の言葉に従い、トラ達はマヨイガの異空間へと入っていった。
◆◆◆◆
マヨイガの一室、畳を敷き詰められた部屋。
トラ達4人はモンスターカードをカルタ取りのように並べ、その前に正座していた。椿以外の正座に面々は慣れているようで平然としていたが、慣れていない椿は足がしびれているのか、畳の上にうちあげられたアザラシのようにうつ伏せになって倒れていた。
痺れが酷いようで身動きが取れないらしく、涙目の椿をしりめにトラ達はマスターの属性の調査結果について説明をすることとなった。とりあえずは、椿は後回しということで進めている。
誰からと目配せをした結果とりあえず、トラから自分の属性を発表することとなった。
「先天属性が日本・仏教関係で、後天属性は悪らしい。ちょっと納得いかないんだがな……」
「トラはえげつないことするから仕方ないと思うわ。」
真那の突っ込み。トラは反論とその根拠を出そうと口を開きかけ――瓦田教諭がトラの反論をシャットアウトするかのように解説を始めた。
「後天属性は使用しているカードにも影響される。歌川君、君の持っているカードを見せてもらえるかな?」
納得のいかない表情のままトラは自分のカードを開示する。メンバーに対し、冒険部という部に所属する以上自分の手札の開示もやむを得ないことと判断しているので文句はない―――自分の後天属性については文句があるが……
トラのカードは"川姫"、"虚舟"、"金霊"、"人形神"、"厄神"、"やまらのおろち"。それを見た川田教諭は呆れたようにトラに突っ込みを入れる。―――だってそれは
「金霊と虚舟は微妙だけど、他は世間一般的に悪に分類されるカードばかりじゃない。そりゃぁ、後天属性が悪になるのも仕方ないと思うよ」
ぐうの音も出ないトラ。真那は自分の正しさの後付けができたとドヤ顔、西川は苦笑。椿はやまらのおろちを見て顔を真っ赤にして伏せる。椿の反応にトラはしまったと己の失策を悟り、瓦田教諭は苦笑いをした。まぁ、刺激が強すぎる外見だ。だが、もう少し冒険者を続ければ否応にも見る羽目になるのだ。諦めて慣れるしかない。
トラがささっと自分のカードを仕舞い、カードホルダーに入れる。瓦田教諭はあえてそれに突っ込まず、トラの属性について解説を始めた。
「後天属性は分かりやすいから説明が不要だろうけど、先天属性は少しわかりにくい内容だから説明をするよ。」
そういってホワイトボードに水天という文字を書いた。付け加えるようにいくつかのインド神話、ゾロアスター教と記載する。
「水天とは仏教の十二天の一柱だ。この神格はインド=イランのアスラ族のヴァルナ、更にヴァルナはアフラ・マズダーだったといわれている。」
ホワイトボードにヴァルナとアフラ・マズダーの文字を記載する。トラ達は瓦田教諭が何を言いたいのか理解できていないためそのまま黙って聞き続けている。そして、言葉を区切り続ける。
「だから、仏教に相性の良いマスターはインド=イランの神話、ゾロアスター教と相性が良いのでは、少なくともヴァルナ、アフラ・マズダーとは相性が良いと考えられていたんだけど―――そんなことはなかったんだ。」
ヴァルナとアフラ・マズダーの文字に上から×とかく。トラ達はおやと首を傾げる。相性がよさそうな気がするんだけど、と首を傾げながら、瓦田教諭の話を聞き続ける。
「だから、研究者はこういう仮定を提唱した。カードとの相性はマスターの主観や環境の影響が強いのではないかと。仏教徒にインド=イラン神話は馴染みがあるわけじゃないし、ゾロアスター教もそうだ。だから、相性が良くないのではないかとね。」
そういって今まで書いた文字を消し、ホワイトボードに吸血鬼と大書する。
「ここからが少し面倒な話だ。―――吸血鬼とか特定のカードはアニメとか漫画の影響を受けて汚染されたとも言っていい状態のカードが存在する。特に日本で発見されるカードはそういうものが良く見つかるんだ」
アニメ、漫画という文言と日本文化への取り込みという文字を追加。トラ達はなんとなく言いたいことを察する。そしてトラは少し前に縄張りを荒らしていた赤ヘル軍団に進化した『赤へる』のことを思い出した。
「これは他の文化圏に取り込まれたカードといわれていてね。性能的にはネイティブカードと同格、スキルにネイティブとは違う変わったものを取得している。そしてこれが本題だけど、そうやって日本の文化圏に取り込まれたカードは元の神話に属さず、日本関連のマスター属性に属すらしい。」
トラ達は絶句する。なんともひどい話が合ったものである。モンスターに対する汚染、アニメや漫画の影響はダンジョンすら汚染していたのだ。萌え文化に汚染されたモンスター達はすごく人気が出そうなそんな気がした。
「Oh......」
誰が呟いたのか分からない呻き声が漏れた。恐ろしい汚染力である。瓦田教諭も苦笑をしていた。これを講義する際のお決まりの反応である。
「仏教・日本関連の属性についての説明は以上だ。さてと、次だ次、椚木君から発表を続けて」
そう、いうとトラ以外の3人は自分の属性を発表し始める。まずは真那から
「私は先天属性は争いに関るモンスターね。後天属性は不明だったわ。」
「分かりやすいな。」
真那の説明にトラが茶々を入れる。先ほどの逆襲だ。そ真那はそのトラの茶々に嫣然と微笑み。こう告げた。
「トーラ、付喪神の性能把握のために相手してくれない?アンタは金霊を使いなさい」
Cランクモンスターを装備した真那相手にDランクのモンスターで挑むのは自殺行為である。トラは慌てて弁明を使用と考え、弁明が思い浮かばなかった。故に大魔神の怒りを抑えるためにモノで釣ろうと―――瓦田教諭はトラの生死よりレッスンを優先した。
「椚木君の属性については特に説明はいらないね。後天属性はもう少しカードを使いこめばみえてくるよ。―――あと、痴話げんかは後でやれ。西川君、今一君、君たちの属性を発表してくれ」
真那がその言葉に反応する前に―――呼吸を理解している西川と椿が自分の属性を説明し始めた。
「僕は先天属性が善、後天属性が英雄・精霊ですね。」
「先天属性、後天属性共に"幻獣・魔獣"ですぅ……ふふふ、私はもふもふを使うために生まれてきたんですねぇ。」
西川はらしいといえばらしい属性で納得がいった。分かりやすいし。椿の方は正直、納得するしかなかった。彼女のデッキ構成はおそらくもふもふなモンスターで占められているのだろう。"幻獣・魔獣"系のモンスターは戦闘力が高いものが多いのでかなり優良な属性と言えた。けもなーに多い属性の可能性は高いが……
そんな二人の属性に対し、瓦田教諭が分かりやすい属性だと説明を始めた。
「二人ともわかりやすいね。そして、優秀な能力を持つカードも多い属性だ。ちゃんと考えてカードを選べば、強くなれるだろう。」
けもなーな椿の発言に瓦田教諭はツッコミを入れることはしなかった。好みは人それぞれである。その範囲で強くなれるのであれば問題など何もないのだ。
椿が喜びのあまり召喚をした猫将軍をギューッと抱きしめている。まだ足のしびれは取れていないらしく寝込んだままだ。猫将軍はマスターの過剰な愛情表現にげっそりとしていた。猫将軍は猫である。過剰なスキンシップは遠慮願いたいと顔に書いてあった。その様子を見て西川が相変わらずかと苦笑し、ヘルプを求める猫将軍。そこまでにしておけと真那がツッコミを入れ、椿のスキンシップが過剰になるという悪循環が始まっていた。
真那はスキンシップにいそしむ椿から猫将軍を引きはがす。猫は自由を求める生き物である。マスターがかわいがり過ぎるのは問題だろう。猫将軍から引きはがされた椿は恋人から引き離されたかのようにジタバタと暴れるが、肝心モンスターがため息をついているあたり、ダメな動物愛好家という感じである。
その様子を見た瓦田教諭は流石にモンスターとの付き合い方を指導するかと考えた。可愛がり過ぎで、猫将軍にマイナススキルが生えた日には寝込みかねないレベルだった。
とはいえ、今は続きのレッスンがある。瓦田教諭はパンパンと手をたたく。そして、視線を集めると次のレッスンの開始を告げる。次のステップであるリンク技術のトレーニングへと進まなければ時間が足りなくなる。
「はいはい、戯れはそこまでにしよう。今日はリンクについての基礎を学んでもらう予定だからね。―――あと、今一君は居残りだ。君にはモンスターとの付き合い方を基礎から仕込んだ方がよさそうだからね。」
そんなーと涙目になる椿に対し、猫将軍は瓦田教諭に感謝の意を視線で伝えていた。きっと大変だったのだろう。彼のためにも誰かが骨を折ってあげる必要がありそうだ―――それは教師である瓦田の仕事である。
まぁ、今は後回しでよいと考えた瓦田教諭は――ホワイトボードを取り出しリンクについて解説を始めた。
萌え属性に汚染されたモンスターとかちょっと出してみたくて記載しました。
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