視点を修正しました。チェックをせずに投稿するのはダメですね。(苦笑
地下水道の空気はひんやりと冷たく。夏場であればよかったのじゃろうが、春先に訪れるダンジョンとしてはいささか冷える。
齢61―実年齢は42じゃが―の老骨には堪えるわい。―――もっともエアコンペンダントがなければの話じゃがの。
わしは椚木惣一郎。トラと孫娘の真那の師匠のような真似をしておる。初のダンジョン、今までの修練はどこまで役立つかちぃとばかり楽しみじゃ。
わしは、不愉快な政信の件をわきに置き、トラと真那のダンジョン探索の採点に意識を割くことにした。。
現在トラ達は前方で"さくぞうす"に索敵を行わせ、中衛のトラは水路側を真那は壁際を歩き、後衛のシルキーは味方全体の状態の確認とバックアタックの警戒している。
ランタンは一番安全なポジションにいるた真那が持って、周辺を照らしだしていた。
銭霊の装備化はチェーンメイルのため、外見上はあまり目立たず、ジャケットで隠れているため、トラは普段着しか来ていないように見える。
逆に鎧武者を纏った真那は当世具足を身に纏った女武者とでもいう姿になっていた。
トラはふと思い出したように真那に確認する
「そういや、電子耳栓は付けた?」
真那はその言葉を聞いて顔を顰める。電子耳栓は轟音から耳を守るために使用する耳栓だ。
轟音から耳を守るために使われる耳栓で、通常の会話は素通しするが、ある程度の音量の音をシャットダウンするという優れモノじゃ、軍隊でも使われておる。
「トラ――…危ない武器もってきたんじゃないでしょうね?」
電子耳栓を取り付けながら、半眼になって真那がトラに突っ込みを入れる。わしも大慌てで、電子耳栓を取り付ける。どうやら、トラはロクでもない装備を持ってきたようだ
トラは腰に付けたダンプポーチを叩きながら、真那の問い答える。
「まぁいくつかな」
真那が恨めしそうにダンプポーチを見る。わしも嘆息する。トラはえげつない手を好んで使う傾向にある。一体どんな手法を取るのやら………
地下水道の曲がり角の近くまで進む。ああいうところに待ち伏せをするモンスターはおるんじゃが、二人はどう反応をするかの?
わしがそう考えた直後、さくぞうすが警告を発した。
「マスター。お客さん来るぜ。しかも大量だ。」
気負いのない声、マスターであるトラの器を試すような稚気を込めた口調。トラは気にもかけず、命令を下した。
「さくぞうす。迎え撃て、可能な限り後ろに通すな」
真那は明かりを地面に下ろし、シルキーに対して指示を出す。
「シルキー、ブラウニーを召喚。前線を支えて!! 貴方は状態異常の魔法でサポートをお願い。」
ダンジョンの奥から走り寄ってくる人型のUMA―――ブエナフット。アメリカの都市伝説にあるモンスターであり、下水道に住むと言われておる。
それらを召喚されたブラウニーが列をなして陣地を組みブエナフットを阻み、さくぞうすがDランクモンスターでも上位の戦闘力をもって叩き潰していく。
縦横無断に動く錫杖に無駄はなく。合理的な暴力として振るわれていく。杖術のスキルの面目躍如といったところか
そんなトラと孫娘の様子を見ながらも、わしは現状に違和感を覚えていた。まずは問題がないが――…なぜこんなにブエナフットがおるんじゃ?
既にさくぞうすは20体近くのブエナフットを潰している。この数は異常である。間引きをサボっていたのか?そんな嫌な予感が脳裡を過ぎる。
冒険者協同組合に問題として挙げなければなるまい。このようなサボりで第三次アンゴルモアが起きてはたまったものではないからの。
わしはそう考えながらも視線を水面に向けて目を離さない。膠着している状況恐らくモンスター側の次の一手は―――
鋭い金切り音のような雄たけびを上げ、水面から半魚人のようなモンスターが飛び出してくる。
中衛のトラと真那を狙った動き、さくぞうすは動けず、後方から援護をしていたシルキーでは間に合わない。
「「マスター!!」」
さくぞうすとシルキーが警告を発するが既に遅い。半魚人はトラと真那に向かい真っすぐ飛び出していた。
Dランクの鎧武者を纏っている真那は大丈夫じゃろうが、Eランクの銭霊を纏ったトラは危うい。咄嗟に手を出そうとわしは槍を握りしめる。
あまり戦闘が得意ではないと言っていた銭霊が悲鳴を上げる
「ひぃぃぃぃいぃぃぃぃ、ど、どないするんやマスター。うちは戦闘あまり得意やないんやで」
情けない悲鳴を上げる銭霊にトラは落ち着けと言わんばかりに返事をする。
「準備はしておいた。まぁ任せとけ!!」
トラがダンプポーチから取り出したものを見て絶句した。あやつは―――…トラはエアホーンを用意しておった。
エアホーンとは轟音で熊を撃退する警笛。そして、トラの持っているあれは対モンスター用に改造された一品でじゃ、正面から聞こうものならその音量に叩きのめされかねない劇物。普通こんな狭い空間で使う奴はおらん―――だから、電子耳栓か
地下水道にエアホーンの轟音が響き渡る。
それは轟音などと言う生易しいものではない。音の衝撃波だ。
水面から飛び出してきた半魚人たちは罠にはまったようなものじゃ。避けることができず音の衝撃波を叩き込まれ、意識を失い。通路へと倒れこむ。
「真那!!」
「分かっているわ!!」
真那に呼びかけるとトラは次々と手にした棍で敵の頭を砕いていく。真那は鎧武者の刀を抜き、敵の首を跳ね飛ばしていく。
さくぞうすはトラの安全と所業を確認すると凶悪に笑う。どうやらやる気が出てきたようで、ブエナフットの殲滅するスピードが上がっていった。
シルキーは真那の安全が確保されたことを確認すると、指示されていた仕事を再開。手の空いたブラウニーを回して半魚人にとどめを刺してゆく。
戦闘開始から数分程度で終了。初心者とは思えぬ手際にわしは加点を加えることにした。
地面に落ちたカードと魔石をトラと真那は拾い集めながら、今の戦闘結果について会話を始めた。
「だいたいは爺さんとのシュミレーション通りのパターンだったな。襲撃から不意打ちまで」
「そうね。半信半疑だったんだけど、ちょっとびっくりしたわ」
その言葉にわしは苦笑してしまう。シュミレーションとはわしの過去20年程度のモンスター達との闘いの経験をもとに作成した一種のボードゲームじゃ。
所属していた部隊での戦闘経験を纏め作成したそれはその価値を理解するところにもっていけば天井知らずの価値を持つのじゃがな―――
とはいえ、シュミレーションをやったからと言ってその通りに動けるかというと別の話であり、しっかりと動けたトラと真那に思わず破顔してしまう。
とは言え、まだ探索は始まったばかりじゃ、油断をしてはならんぞ二人とも。
そんなマスター達に戦闘の興奮が冷めやらない銭霊は興奮したように喋り始めた。
「おお、マスターやるやん。活劇やったのはねーさんやけど、こんなエグイ手使うんは始めてみたで――いやぁやるもんやなぁ」
倒した半魚人は16体、ドロップしたカードは5枚だ。そのカードを見てトラと真那は首を傾げておる。
わしもそれを見て首を傾げてしまう。Fランクカードのドロップ率は10%程と言われておる。異常と言えるドロップ率じゃ
どうやらさくぞうす側もドロップの回収が完了したらしい魔石と共にブエナフットのカードを手渡す。枚数は9枚ほど
「マスター落とし物を集めてきたぞ。――…初陣とは思えない動きだ。次も期待しているよ」
初陣の動きについてさくぞうすは素直にほめる。シルキーもマスターである真那のそばへと寄って行く。
「マスターお見事でした。ですがあまり無理はしないようにしてくださいね。」
心配そうなシルキーの言葉に真那は申し訳なさそうに、でも仕方ないと答える。
「ありがと、でも大丈夫よ。鎧武者を装備しているんだから、あのぐらいは大丈夫よ」
現状メンバーでの主従関係は問題ないようじゃ―――…願わくば、蓑草鞋ともこのような関係になってほしいものじゃな
トラはさくぞうすより受け取ったカードの枚数が気になるようで、さくぞうすに確認の言葉を投げる。
「さくぞうす、あの雪男みたいなのは何体いたんだ?」
「ああ、30体だな。」
さくぞうすの言葉にトラは目を丸くする。真那も驚き、トラに対して問いかける。
「トラ、確かFランクカードのドロップ率って10%程度だったわよね?」
その真那の言葉にトラが唸るように回答する。
「それであっていると思う。30体で9枚だと30%だよなぁ―――これも銭霊のスキルのお陰かな」
金運が大幅にプラス補正とはドロップ率上昇じゃったか―――正直羨ましい能力じゃ、わしも探してみるかの。
トラの言葉に銭霊は得意げに答える。
「せやせや、儲けさせたるって言ったろ?あんじょう期待してええんやで」
自慢気な銭霊の言葉にトラは全くその通りと頷く。
「外せないカードの1枚になりそうだな。まぁ、お前の強化は最優先でやることにするよ。じゃないと装備できないとか起きそうだからな」
冒険者はカードやドロップアイテムを稼ぎ、その金で新しいカードを購入し強くなる。トラの言葉は冒険者の宿命的な回答じゃな。
真那も羨ましそうに銭霊を見ておる
「私も銭霊みたいなスキルを持っているモンスター探そうかしら、Eランクとかなら安いと思うし」
さてと、このままでは銭霊のスキルへの批評が続いてしまうの。そろそろ止めようかとわしが動こうとし―――その動きに気が付いたトラが話題の転換を図る。
「その話はそこまでにしておこうぜ。―――さくぞうす、銭霊。水の中にいるモンスターは索敵できる?」
半魚人への対策の可否を問うトラの問いに銭霊は「無理やな」と回答し、さくぞうすも「難しいな」と回答する。
真那もシルキーと鎧武者に確認をするが両者とも難しいとのことだった。
その回答にトラは顔を顰める―――まぁ、あ奴の気持ちは分かる。水の中と言うアドバンテージを敵に取られ続けるのは痛いからの
シルキーが真那とトラに対して提案をする。
「隊列の変更をしてはどうでしょう?私がトラ様の位置になれば不意打ちはどうにかなります。」
そのシルキーの言葉にトラと真那は頭を悩まし、真那がシルキーの提案を却下する
「駄目よ。そうするとバックアタックに対して脆弱性を持ってしまうわ。その方が危険よ。」
「だな。そうなると別の"対処"が必要になってくる」
――トラの言う別の対処にわしは猛烈に嫌な予感を覚えた。こういう発言をするときのこやつはロクなことをしない。
付き合いの長い真那もそれに気が付いたようじゃ、躊躇うようにトラに何をするつもりか誰何した。
「トーラー、アンタ他にも危ないもの持ってきてるんじゃないんでしょうね?」
トラは真那の言葉にニヤリと笑う。どうやら持ってきたようである。
10枚ほどのカードを取り出し、皆に見せた。そのカードは爆発のカード。初級攻撃魔法の爆発を使用できるようになるカードじゃ。
他のカードに比べると音が煩いため嫌われており、市場価格も2000円ほどと安―――音、爆音。わしは猛烈に嫌な予感がした。流石に尋ねるべきじゃろう。
「トラよ。そのカードで何をするつもりじゃ?」
わしから声を掛けられたことに驚いたたようじゃが、ドヤ顔で自分の作戦を発表する。
「ああ、これをつかってさ。モンスター相手にガチンコ漁しようと思うんだ。ダンジョンだから迷惑掛からないし」
ガチンコ漁、トラよそれには大きな欠点があるのじゃが……他のメンバーも特に問題点が浮かばなかったらしい。反対することなく可決された。
わしは内心嘆息する。何事も経験じゃ、しかし、この判断は大きなマイナス点じゃぞトラよ。
そんなわしの内心に気づいていないトラはポイポイっと気前よく爆発のカードを投げおった。政信のことでストレスがあったのじゃろうか。
爆発を見るやつの顔は妙にすっきりした顔をしておった―――事前にストレスのある状態でダンジョン探索をさせるべきではなかったようじゃ―――すまぬなトラよ。
爆発の余波で水路にいた半魚人たちが次々と浮かび上がり、それらをブラウニーが回収し仕留め始めた。
更にトラが追加で爆破のカードを投げた時じゃった。通路の奥から、ぞろぞろと怒りの表情を浮かべた半魚人の群れが現れおった。
「へ?」
間抜けな声を出すトラ。そりゃぁトラよ。自分の住処を爆撃されたんじゃモンスターと言えども怒るじゃろうよ。
実戦を伴わんとこういうミスがあるからのう。どこか達観した面持ちでわしは半魚人を見ていた。
さくぞうすは苦笑いを浮かべ錫杖を構え、シルキーは嘆息して、ブラウニーを召喚する。
二体ともトラを責めはしない。作戦をするにあたってトラは意見を求めており否定できなかった以上責めるべきではないのじゃ。
あの二体はそれを理解しておる。なかなかの当たりに出会ったもんじゃの、下手なカードだとマスターに対しても当たり散らすからのぅ
そんな二人の様に割り切れなかった銭霊が悲鳴を上げる。
「マスターはぁぁぁぁぁぁぁん。」
その銭霊の叫びが回線の合図となった。責任を感じたトラも前線へ移動。それに対して二人のモンスターは何も言わなかった。
そこからは正に地獄絵図と言うさまじゃった
ブチ切れた半魚人たちの怒涛の攻撃。それをシルキーがブラニーを使い食い止め、状態異常を使い足止めをし、その隙をついてトラとさくぞうすが半魚人を潰してゆく。
わしは真那を呼んでテーブルを取り出し、お茶をすすりながらその様子を眺めることにした。
「真那よ。ダンジョンで先住民に喧嘩を売る真似をするとああなるからの。ここはFランクじゃから良いが、Eランクでやると取り返しがつかぬからな」
そんなわしの忠告に対し、現在進行形で実例を見ている真那は素直に応じる。
「お爺ちゃん……うん、気を付けるわ。ああいう馬鹿な真似はしない。絶対に」
ヤケクソのような怒声を上げつつトラは半魚人を退治続けておる。まぁ自業自得じゃ頑張るんじゃぞトラ。
お茶が無くなり、茶菓子を食べつくしたころ漸く半魚人退治が終了したようじゃ。
全ての半魚人を退治したトラはさくぞうすとシルキーから正座を命じられ説教されておる。止めなかったとはいえ、それはそれと言うことなのじゃろう。
当然じゃな。とは言え問題点を指摘できなかった自分たちも悪いと30分程度で説教を切り上げたようじゃ。
トラは恐らくわしがおるから無茶と言える選択肢を選んでおるのじゃろうが、それでも限度はあるじゃろう。探索が終わったらわしも説教をせねばなるまい。
長時間の戦闘と説教でボロボロになったトラをわしは回復魔法を使用し、立ち上がることを命じる。
「トラよ。このダンジョンをクリアーするまで帰宅することは許さぬぞ。後、探索が終わったらわしからも説教じゃ」
ここで引き揚げさしたらこやつは次も無茶な作戦を繰り返しかねん。それをしないように経験を積ませてやる必要がある。
つかれたから引き返すなどと言う生ぬるさは不要でよいじゃろう。
ほれ、応援歌としてドナドナも歌ってやるだから行くのじゃ
わしの心温まる声援を聞いたトラは流石にしょぼくれながらトボトボとダンジョンの奥へと向かっていく。
優しい孫娘は気の毒に思ったのかトラに傍に行き励まし始めた。全く仕方のない奴じゃ
「マスターはん、あっちに金目のものがあるでー」
「りょーかいだ。そのまま案内を続けてくれ」
銭霊のスキル"ランド・フィッシング"の導きに従いわしらは金目の物を目指して歩いていく。
モンスターと戦闘をするたびに通常の3倍のドロップを得ている以上銭霊の能力を疑う必要はないのじゃろうな。
銭霊の言う金目のモノとはなんじゃろうな。わしも少しばかり楽しみじゃわい。
しばらく歩き続けると、銭霊が通路の壁を指し示す。
「ここやでマスターはん。ここに金目のモノがあるで」
そこにあるのはただの壁、トラは半信半疑のようじゃ、躊躇いながらもさくぞうすへ指示を出す。
「さうぞうす、悪いんだけとここを調べてみてくれ。オレには良く分からないんだ。」
曖昧な、曖昧にせざるを得ないトラを聞いた指示にさくそうずは仕方ないと思ったのじゃろう苦笑を浮かべた。
トラの指示に従い問題の個所を触れたさくぞうすの手が壁の中をすり抜ける。さくぞうすは得心が言ったように頷く。
「なるほどこういう仕掛けかっと」
さくぞうすが腕を半ばまで突っ込むと壁に仕掛けられていた幻術が解け、ガッカリ箱を置くために作られたであろうスペースが露わになる。
それをみて、トラも納得がいったのじゃろう。
「へぇ、こういうガッカリ箱の隠し方もあるわけか。面白いな。ありがと、さくぞうす助かったよ。」
さくぞうすにねぎらいの言葉をかけた後に、マップにマークをする。マップ上に乗っていない隠し部屋。こういうものは報告をされないケースが多々ある。
真那も物珍し気にガッカリ箱を隠された部屋を見ておる。良い勉強になったじゃろう
「へーこういう隠し部屋あるんだ。銭霊みたいなスキルのがないと見つけるのは難しいね。」
「だなぁ――…銭霊を手に入れたオレは幸運だったと思うよ。」
トラはさくぞうすと場所を変わるガッカリ箱に手を伸ばす。不器用な手つきで罠の確認をするが、その不安げな眼差しから察するに分からなかったようじゃな。
少し色々と考えたようじゃが、抜本的な対策は見つからなかったようじゃ。トラは不安そうな覚悟を決めたようなそんな表情でガッカリ箱を開く。
流石にFランクダンジョンでは罠はなかったようじゃな。まぁ、ドロップアイテムもショボいことが多いのじゃが……
ガッカリ箱を見たトラは何とも言えない表情を浮かべよる。一体何が入っていたんじゃろうか?
トラは宝箱から取り出したアイテムをこちらに見せる―――ホッケーマスクじゃった。なるほどと、わしも納得してしまう。
ホッケーマスクが似合うモンスターなど早々いるものではない。下手なモンスターにつければその外見的な違和感が際立ってしまうじゃろうからな。
「ガッカリ箱は本当にガッカリ箱なんだな……ホッケーマスクってなんだよ。銭霊、どんなアイテムか分かる?」
トラは銭霊に確認をすると銭霊は「う~ん」と唸り始める。スキルを使用しているのじゃろうか?
しばらく銭霊は唸り続け、ようやくわかったのか口を開く。
「マスターはん、多分やけどコレ装備している間、生還の心得を取得できるアイテムみたいやで?防御力はそこそこ割といいアイテムやと思うよ」
"Friday the 13th"かのと内心呟く。能力は優秀なのだがデザインが悪いためいまいち不人気なアイテムじゃ。
本当はグラディエーターで人気が出ても良いアイテムなのじゃが、スポンサーの受けが悪くてのぅ。流石にホッケーマスクだらけの大会とかわしも流石に見たくないわい。
とは言え、有用なアイテムではあるしの。ホラー映画好きの愛好家がおらぬわけではない。大体市場価格にして600万円といったところか
本当はもっとしても良いはずなのじゃが、デザインの悪さが足を引っ張りそのお値段で落ち着いてしまっておる残念な一品じゃ
二人がいらぬというなら、わしが買い取っても良いかの
「疲労回復できるポーションが欲しかったけどまぁいいや、真那、これは持ち帰って後で分けるでいいよな?」
「それでいいと思うわ。オーブじゃないもの。正式に鑑定してもらってからでも良いしね。」
トラの言葉に真那が賛同の意志を示す。トラはズタ袋の中にホッケーマスクを入れた。念のためと言う意味も込めてトラは銭霊に確認をする
「銭霊、他に宝物はないか?」
「ん――マスターはん、もう一個奥にあるで、それで最後やな。ちぃと見てみたらどうや?」
トラは銭霊の言葉に従い、ガッカリ箱が置いてある小部屋の壁に手を振れる。わしの目からも指先が壁に沈み込むのが見えた。
どうやら、ここの壁は二重構造になっていたようじゃ。用心深いのかそれとも設計ミスか分からん構造じゃな
「よほど偏屈な人が設計したのかしらね。若しくは設計ミスかしら」
それを見た真那は呆れたように言葉を発する。トラも同意するように頷く。
「こんなん絶対気が付かんよ。」
トラはスマフォと紙の地図を取り出すとダンジョンのマップ情報を更新をする。記録しておいて適当な時にガッカリ箱を回収するつもりなんじゃろう。
記録が終わるとトラはガッカリ箱に手をかける。二重構造で隠されたガッカリ箱だ。トラは興奮し期待を口にする。
「こっちが本命ってことかな?」
トラの言う通り、二重に隠されたガッカリ箱。何が入っているかわしも楽しみじゃわい。
真那も興味津々と言った様子で食い入るようにガッカリ箱を見つめていた。
トラがガッカリ箱を開ける―――中からは青く輝くオーブが現れた。
どこからともなく感嘆の息が漏れる。トラは銭霊に鑑定眼を使用するように指示を出した。
銭霊はオーブの鑑定を開始する、先ほどと同じように唸り続け、しばらくすると鑑定結果を話し始めた。
「これは魔法のスキルが覚えられるオーブや。マイナススキルではなさそうやで―――」
どうやらどのような能力があるかまでの詳細は不明のようじゃな。とは言え、マイナススキルかそうでないかが分かるのは大きい。
真那ではないが本当に羨ましいスキルじゃ、わしも少し本腰入れて探すかのう……
トラはうんうんと唸ると、やがて考えが纏まったのかオーブを真那に差し出した。
「真那、最初のオーブは持って行っていいよ。さっき迷惑かけたし……」
「分かったわ。最初にオーブを選ばしてくれたからさっきのドジはチャラにするわ。次は気を付けなさいよ。」
トラの言い分に真那は苦笑を浮かべた。恐らく真那は気にしておらんじゃろうが、トラめの気を軽くするためにも受け取ってやるのも度量じゃ。
わしの孫はちゃんと育っておるな。良いことじゃ
真那はオーブを受け取るとシルキーに渡す。先ほどシルキーに大変な目に合わせたからの。ねぎらいと言う意味も込めてその対応は良いの。
後、真那が扱うシルキーは魔法を得意とするタイプじゃからの使える魔法が増えるというのは良いことじゃしな。
オーブを受け取ったシルキーは“初等魔法使い見習い”を取得した。
初等の攻撃・回復・補助・状態異常魔法の一部を使用可能とするスキルじゃ。非常に便利なスキル故に人気もある。
スキルを取得したシルキーはトラに先ほどの事は水に流すことを告げた
「トラ様、私はこのオーブに免じて許します。次からは気を付けてくださいね」
へへぇと平伏するトラ。そんなトラを見たさくぞうすは苦笑を浮かべていた。―――まだまだ、頭でっかちのマスターにはおもりが必要かとでも言いたげに
トラもさくそうずの表情に気が付いたようじゃが、まぁあ奴に何かを言う権利はない。
口をへの字にしてしまい、ガックリと肩を落としたトラは真那達に次の行動を提案した。
「とりあえず、次の階に行こう。これ以上1階を探索する価値はなさそうだからな。」
その言葉に真那は頷く。再び隊列を組みなおし、わしらは再びダンジョンの探索を開始した。
【う・ん・ち・く】
※個人的な勝手な設定ともいう
"Friday the 13th"
とある殺人鬼が付けていたというホッケーマスク。
彼は何度致命的なダメージを受けても復活したようにこのマスクを装備している限りにおいて『生還の心得』を取得できる。
標準販売価格:600万円
見た目が悪いので趣味人か姿格好を気にしない蛮族しか装備しない