中学生でも冒険者になれるって本当ですか?   作:猫の手

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これにて二日市地下水道ダンジョンは終了です。

少しばかりよいアイテムゲットしすぎかなぁと思いますが銭霊付きのビギナーズラックと言うことで許してください。


5話:二日市地下水道ダンジョン 2階

 

「ふむ、大分時間がかかったか。少し急いだ方が良いの」

 

 1階でのトラのやらかしがだいぶ響いておる。わしはトラにどうするんじゃと話題を振った。

 

 肺腑を抉られたような表情を浮かべたトラ。しかし、あのやらかしをやったのでは弁護の余地はない。しばらくネタにされると思うべきじゃな。

 

 トラは肺腑を抉られるようなダメージに耐えながら一つの提案をしてきた。

 

「それなら、ブラックヴォルガを召喚するよ。それに銭霊を装備させれば最低レベルだけどDランクの戦闘力に届く、ソイツで探索をするのはどうだ?」

 

 トラはブラックヴォルガのカードを取り出し、わしらに見せた。

 

 

ブラックヴォルガ

戦闘力:85

【先天技能】

・無人車:ドライバーを必要としない。車内は異空間となっており広々とした空間が広がっている。サイズは20畳程度

・人攫い:子供を攫う呪われた車という伝承を持つ。半径10m以内にいる対象を車内へ移動させる。

 

【後天技能】

・体当たり:体当たりで敵を跳ね飛ばす。自身の速度に応じて攻撃力をプラス補正。ノックバックの追加効果

・シルバーゴースト:走行時のロードノイズを抑えるスキル。音を消して行動することが可能。(無音行動、気配遮断を内包)

・虚ろな心:限りなく自我の薄い心。精神異常への耐性、自由行動にマイナス補正。

 

 

銭霊 

戦闘力60(5UP!)

【先天技能】

 金は湧き物:思いがけずに金目の物を手に入れる技能。金運が大幅にプラス補正される。

 付喪神(銭):他のカード、あるいはマスターへと憑依することで、自身の戦闘力の四分の一を加算させることができる(マスターへの装備化の場合はすべての戦闘力とスキルを共有できる) 

 

【後天技能】

 マルチタスク:複数の複数を同時に処理できる。複数の行動を同時に行うときにペナルティが発生しない

 ランド・フィッシング:人の手の入ることのない場所に赴き、遺された財宝を探す技能。同一階層にある宝物の位置が分かる。

 鑑定眼:アイテムの良し悪しを見定める技能。ドロップアイテムやオーブなどの大雑把な性能が分かる。

 

 

 わしはブラックヴォルガと銭霊のカードを見て少し考える。確かに銭霊を装備すれば、戦闘力100。Dランクの最低限の値になる。

 

 Fランクのモンスターであれば十分問題のない値と言っても良いじゃろう。

 

 カードを見ていた真那が頷く。シルキーも問題ないだろうと判断をしたようだ。

 

「うん、Dランクの戦闘力が確保されているから大丈夫じゃない?でも、これだと私達がサポートするのは難しそうね」

 

「シルキーは回復魔法とか補助魔法が使えるんだろ?車の中からかけてくれよ。それだけでも十分助かる。車の外で随行出来るカードがあれば、色々と戦術が広がりそーなんだけど、今はまだな」

 

 トラの作戦を聞いたわしらが納得したところで銭霊が悲鳴を上げる。戦場の矢面に立つのは銭霊とブラックヴォルガじゃからな。

 

「マ、マスターはん。わい、戦闘苦手なんやで?」

 

「だな。だから基本的に戦うのはブラックヴォルガだぞ?」

 

 銭霊の反論にあっさりと回答をするトラ。銭霊は恐らく戦いたくないんじゃろう。必死に色々と考えておるようじゃが

 

「うぅぅぅ……頑張るわぁ」

 

 ――諦めおったか。マイナススキルもないのに戦闘が嫌いとは珍しい奴じゃなぁ。スキルが良いからうまく育てねばなるまいて……

 

 トラはそんな銭霊の返事を聞くと、さくぞうすに声をかける。

 

「さくぞうす、わりぃけど一旦カードに戻すぞ。ボスの所で召喚するから待機していてくれ。」

 

「おう、じゃぁまた後でな―――坊主」

 

 そういうとさくぞうすはトラの頭を撫でると素直にカードに戻っていった。

 

 どうやらさくぞうすはトラが放っておけない兄貴分のような位置に落ち着きそうじゃの。それも悪くない関係じゃな。実の兄がアレじゃからの。

 

 真那が何か言いかけようとしたようじゃが、シルキーに止められたの。まぁ口を出すのはやぼじゃて

 

「お待たせ。じゃあ、ブラックヴォルガを呼ぶぞ」

 

 カードを手に取り、トラはブラックヴォルガを召喚した。

 

 召喚のエフェクトである光が収まると、目の前にはヴォルガではなく。―――そこにあったのは黒いハイエースじゃった。

 

 トラがヴォルガをまじまじと見ながら声をかける

 

「ブラックヴォルガでいいよな?」

 

 ブラックヴォルガはトラの問いに無機質に――否、機械的と言うべきじゃろうか。返事をした。

 

「是」

 

 端的にとても短い回答にトラは困惑しているようじゃが、まぁ虚ろな心のスキルを持っている奴ならそんなもんじゃろ

 

 それでも気を取り直したのか、命令を伝える。

 

「これから、ブラックヴォルガには銭霊を装備した上でオレ達を乗せてダンジョンの探索をしてもらう。」

 

 とらはゆっくりと反応を伺うが返事がないため、返事をするように命令を追加した。

 

「分かったかどうか返事をしてくれ。先ほど説明した内容は理解できたかな?」

 

「是」

 

 トラはブラックヴォルガのその回答に苦笑を浮かべておる。まぁそういうモンスターもおるからの何事も勉強じゃ

 

 気を取り直したトラは説明を再開する。

 

「途中に出てきた敵は基本的に引き殺してドロップしたアイテムを人攫いのスキルを使用して内部に入れてくれ。」

 

「是」

 

「道案内は俺と銭霊でする。オレ達の指示を聞いて移動してくれ。」

 

「是」

 

「ここまでで分からないことはあるか?」

 

「否」

 

 無機質な回答。トラはもう気に留めるのを止めたのじゃろうか?うむ、それが良いぞ。個性と割り切って付き合ってやるのも良い冒険者の資質じゃからな。

 

 そういう気難しいモンスターとうまく付き合ってこそ冒険者じゃて

 

「じゃ、ドアを開けてくれ、準備が出来たら出発しよう」

 

 トラの命令に対し、ブラックヴォルガは返事をせずドアを開く。ドアの中は薄暗いもやがかかっており中身は見えなかった。

 

 恐らく異空間となっていることの影響だろう。

 

 わしがまず入り、真那が次に、最後にトラの順でブラックヴォルガに乗車する。

 

 車内は広々としており間違いなく20畳程度の広さはあるの。とは言え殺風景じゃな。

 

 色々と資材を運び込んで改装したくなる部屋じゃ探索の拠点としても便利に使えるじゃろう。

 

 そういうふうにわしが車内を眺めているとトラがブラックヴォルガに対し指示を出す。

 

「ブラックヴォルガ、車外の風景が見れるようにできないか?」

 

 そう、トラが問いかけると部屋の壁、そして天井に車外の風景が映し出された。

 

 なかなか便利な機能じゃ。基本的にわしは馬のモンスターで移動することが多いからの、自動車と言うのはなかなかに新鮮。

 

 真那も面白そうに周囲を見渡しておる。

 

「へー便利ね。外の光景がこう奇麗に見えるって凄いわ。」

 

 探索とは言え、部屋の中で立っているのも味気ない。わしはテーブルと人数分の椅子を取り出す。

 

「ほれ、椅子とテーブルを用意したぞ。皆腰掛けるが良い。」

 

「爺さん、助かる」

 

「ありがとう。お爺ちゃん」

 

 トラと真那は腰を掛ける。シルキーは遠慮をして腰を掛けずにおる。まぁ、メイドとしての己の律し方なのじゃろう。わしがどうこう言うわけにもいくまい。

 

 トラがブラックヴォルガに指示を出し、移動するように命じる。振動などの衝動は異空間には基本的に伝わることはない。

 

 静かな中、移動する風景――…さてと茶の一つでもなければ味気ないの。ソロキャンなどで良く使われる小さなバーナーと薬缶と茶葉を取り出し、湯を沸か―――

 

「申し訳ございません。マスターのご祖父様。それは私に任せていただけませんでしょうか。」

 

 シルキーの言葉にわしは頷き、用意していた道具に茶葉、お菓子を渡す。

 

 受け取ったシルキーは魔法で湯を沸かし、茶葉を取り出しお茶を入れる。

 

 遠慮なくそれを受け取り口を付ける―――流石はシルキーじゃ、わしが入れた時よりも茶が美味い。

 

「シルキーありがと。こういうの私も用意しないとね。」

 

「頂きます。――あったかいお茶っていうのは落ち着くなっと、ブラックヴォルガ!ひき逃げアタックだ!!」

 

 外の光景を見てモンスターがいることに気が付いたトラはブラックヴォルガに指示をする。まぁせわしないが仕方ない。

 

 ふむ、この探索が終われば、リンクはまだ早いがテレパシー程度であれば教えてやっても良いの。

 

 ブラックヴォルガに跳ね飛ばされ、吹き飛ばされ、潰されるモンスターを見ながら、次の教育内容を定める。

 

 シルキーはトラの様子に苦笑しながら、お粗末さまでしたと言葉を返す。

 

 そしてテーブルの上に―――恐らくひき逃げアタックで潰したであろうモンスターのカードと魔石が置かれてゆく。

 

 トラはそれを見て少し嬉しそうにする。分からないでもない。コミュニケーションが難しいモンスターが気を利かせたのだ。嬉しくないはずがなかろうて

 

「ん――こればっかりしていると技量が上がらなさそうだから、Eランクから使おうと思っていたけど、平日の探索にはコイツをメインに据えても良さそうだな」

 

 時間短縮になるし、踏破回数も増やせそうだとトラは呟く。トラの考え方にわしも賛同する。故に釘差しは忘れない。

 

「休日にブラックヴォルガの使用は厳禁としよう。サボり癖が付くのは良くないからの」

 

「了解したよ。爺さん、乗り物モンスターに頼ってばかりじゃ昇格も遠くなるだろうしな。」

 

 トラが肩をすくめ、頷く。――真那はやはり羨ましいのか羨望を口にする

 

「でも、この子良いわよね。すごーくほしい。今日の帰りにでもEランクのカードを漁りに行こうかな?学校が始まる前に手に入れておきたいし」

 

 真那には基本的なカードばかり渡しておるからの。こういう風変りなカードは持っておらぬ。

 

 後から増やせばいいと悠長に考えておったが、この手のカードを見つけなければトラとの差ができてしまう―――孫娘のためじゃわしも協力やるとするかの

 

 師匠と言いながらも孫娘には甘い祖父だった。

 

「ただな、こいつは雑魚を跳ね飛ばすのだと最高に使えるけど同格になると結構運用しくなりそうなんだよなぁ」

 

 さもありなん。随伴できるカードを中心とした構成にしなければならぬから厳しい運用となるはずじゃしな。

 

 なるほどーと頷く真那。とは言え便利な使い方のできるカードなのは間違いないからの。余裕があればほしいと言ったところじゃ

 

 外の風景を見る限りFランクのモンスターではDランク相当の戦闘力を持つ自動車モンスターのひき逃げアタックに耐えることは難しいようじゃ。

 

 まぁ、後は恐らく体当たりスキルが利いているんじゃろうな。自動車の速度でプラス補正ならどんな火力になることやら……

 

 ガンガンと跳ね飛ばされ、途中、銭霊に案内でガッカリ箱を回収。ものの20分程度でボスの部屋についてしまう。

 

 車の中ゆえに安全で快適、これに慣れてしまったら駄目な冒険者になりそうじゃな。とは言え深い階層に挑むときに雑魚階層をこれで踏破するのはアリじゃな。

 

 何事も運用か。そう考えるとブラックヴォルガのドアが開く。まずは真那がおり、次にわしが続き、最後にトラ降りる。

 

 トラはブラックヴォルガから降りるとねぎらいの言葉をかけてカードに戻す。そして再び銭霊をそうびするとさくぞうすを召喚した。

 

「さくぞうす。ボスの部屋の前についたぞ。―――準備は大丈夫か?」

 

 トラの問いかけに対し、さくぞうすは大きく伸びをした後、錫杖で肩を叩く。

 

「問題ねぇぜ、坊主。もう少し時間がかかると思っていたが早いモンだ。車って奴は便利だな」

 

「ああ―――時間を短縮する必要がある場合はガンガン使っていこうと思っているよ。なまけ癖を付けない程度にな」

 

 トラの回答に対しさくぞうすはからからと笑う。

 

「然りだな。道具に使われるようじゃ、冒険者は失格ってもんだ。さてと、行くかね?」

 

「オレは大丈夫だ。真那はどうだ?」

 

 トラの問いかけにブラックヴォルガで休めた真那は元気に答える。

 

「ええ、こっちも大丈夫。さっさと片付けて帰りましょう。」

 

「はい、十分に休ませていただきました。良い仕事を期待してください」

 

 ちなみに銭霊はビビっているのか小声で何やらぶつぶつ言っておる―――まぁそれはほっといてよいじゃろう

 

 やる気になっている4人に対し、すまなく思いつつもわしは水をかける提案――否、師としての命令をした。

 

「トラよ。ボスはお主一人で挑め。勝利できれば、初踏破記念にボスの報酬をお主が持って行くがよい」

 

 その言葉に4人は驚く。普通ボス戦であれば総力で挑むものである。それをせずにタイマンとは舐めプにもほどがあると普通は考える。

 

 普通ならそれでよいが、それではトラの修業にはならん。わしが折角おるんじゃ。安全に無理ができるチャンス。トラがやらぬのであればわしが命ずるしかあるまい。

 

「今回の探索は少々小狡く立ち回り過ぎじゃ、それでは己の限界が測れん―――わしがおるんじゃ。万が一はまず起きぬ。故に挑め、冒険をせよ。」

 

 トラはわしの言葉に理解をしたのか。パチンと頬を叩いた。そうするべきであるトラの目付きが変わる。守りから攻めにギアを変えられたようじゃな

 

 わしの言葉を聞いたトラはさくぞうすに指示を出さす。

 

「と言うわけだ。さくぞうす悪いな。今回は俺に譲ってくれ。」

 

 わしの発言とトラの言葉にさくぞうすは嘆息する。仕方のない奴だとでも言いたげであった。

 

「仕方がねぇな。艶本10冊で目をつぶってやるよ。負けたらお前さんの額に負け犬と書くからな。―――勝てよ。」

 

 静止の言葉を言わず、激励の言葉をかける。フィーリングが合うという奴じゃろうか。トラとさくぞうすの信頼関係はかなり深まっておるの。

 

 二人の発言を聞いた真那は唸りながらも、止めることをしなかった。わしを睨んだ気がするが―――トラのためなんじゃ理解してくれ。

 

「トーラー、探索終わったら、カード探すから付き合いなさい。―――だから、大怪我とかしたら予定か崩れるから、許さないわよ。」

 

 真那の理不尽ともいえる発言にトラは呻く。そんなトラに対し、真那のそばに控えていたシルキーがトラのそばにより何やら話す。

 

 わしのほうまで声が届かぬからわからぬが、シルキーの言葉を聞いたトラが真那を見て赤くなったり青くなったりしておる。何を言われたんじゃか。

 

 銭霊が騒いでおらぬが―――あ、あ奴ショックのあまり自分の世界に入っておる。まぁ放っておく以外あるまい。

 

「分かった。―――付き合うし、怪我しないように気を付けるよ。」

 

 何やらトラは疲れ切った表情を浮かべておるが、ボス戦大丈夫じゃろか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日市地下水道ダンジョンのボスエリアはあまり広くなく。部屋の大半を小さな池が占有していた。

 

 一人池のそばへ行くトラを心配そうに真那が見つめていた。―――時折こちらに向ける視線が冷たい。

 

 くぅ、トラのためなんじゃ―――なんじゃよぉ。孫娘の冷たい視線に懐かしい青春時代の歌、ギザギサハートの子守歌が脳裏を流れる。やかましいわい!!

 

 杖を取り出し、戦闘の準備ができた状態のトラが池に近づくがモンスターが出てこない。―――人間では水の中を戦うことは難しい。

 

 そしてあまり時間がない状況、どうやらトラは自分から場を動かすことにしたようじゃ。

 

 先ほどガチンコ漁で使用したあまりの爆発のカードを一つ取り出し、躊躇うことなく池の中に叩き込む。

 

 轟音と共に池の水が勢いよく空へと舞いあがる。水に勢いよく流された白いワニが陸に打ち上げられ、怒り狂った眼差しでトラを見つめた。

 

 怒る狂ったワニを見た銭霊が悲鳴を上げる

 

「マスターはん、あんワニ、めっちゃ怒ってますよ。めっちゃ怒ってますよぉぉぉぉぉおぉぉぉ!!」

 

「さっさと出てこねぇワニが悪い。後の予定が詰まってて時間がねぇんだよ!!」

 

 大きく口を開き、勢いよく飛び掛かってくるワニに対しトラは側面に移動し杖を叩き込む。

 

 2回、3回と叩き込むが、ワニの分厚い皮を通すことができない。自分の攻撃がどの程度なのか試しているのじゃろうか?

 

 焦る様子なく、トラは攻撃を繰り返していく。

 

 刃物の類があればまだマシなのじゃろうが、銭霊の戦闘力ではワニの分厚い皮を杖では貫くことができないという無残な結果に終わりつつある。

 

 トラはワニから一定のポジションと距離を保ちながら休むことなく攻撃を繰り返す。そんな中銭霊の悲鳴が響き渡る。

 

「マスターはぁぁっぁぁん!!ダメージ受け取る様子無いでぇぇどないするんやぁぁぁぁ」

 

「まだ、始まったばかりだろうが、落ち着け!!」

 

 トラと銭霊の言い合いに苦笑を浮かべてしまう。まぁ、気持ちは分からないでもないが銭霊はもう少し落ち着いた方がええじゃろう

 

 そんな銭霊の言葉にはらはらとする真那。さくぞうすは「銭霊の奴はもう少し落ち着きゃいいんだがなぁ……」と嘆息。シルキーも苦笑いを浮かべていた。

 

 わしらの心配を他所にトラは攻め方を変えていった。

 

 高い威力を込めた打撃から、杖の角を用い、ワニの皮を薄く剥ぐような斬撃に攻撃の質を切り換えていた。

 

 決して大きなダメージではないが皮を削ぎ落されていく感覚は不愉快なのじゃろう。ワニはいっそ激しくトラを責め立てる。

 

 一撃必殺ではなく、幾百幾千幾万と水滴が岩に穴を穿つような気の遠くなる作業を始めていた。

 

 それが銭霊は理解できていないようで「マスターはぁぁっぁぁぁぁん!! 爆発のカードや爆発のカードを使うんやぁ!!」と叫べば、

 

 トラは「今使ったところで致命打にはならぇねよ!!」と銭霊に怒鳴り返す。

 

 トラの言うことが正解じゃ、百の攻撃して倒せぬ相手だからと言って一撃に頼るリスクは避けるべきじゃ。倒せぬのならば千繰り返せばよい

 

 地道な神経を使う作業はだんだんと佳境に入っていく。皮が削ぎ落されて、やがて肉がむき出しになるころ、漸くワニが悲鳴を上げた。

 

 痛みに気が付いたワニは悲鳴を上げながら、池へと向かっていく。

 

 晒される無防備な背中。トラはダンプポーチからナイフを取り出すと逃げるワニの背中に飛び乗り、剝き出しの肉に思いっきり突き立て、切り裂いた。

 

 痛みで狂い暴れるワニに対し傷口の中に爆発のカードを突っ込む。

 

 異物を入れられる痛みいっそなお激しく体を振り回し、ワニはトラを弾き飛ばした。

 

 弾き飛ばされたトラはニヤリと笑うのがわしからも見えた。

 

 ワニの体内から轟音が響き渡る。それは一度ではない。二度三度響き渡り強靭な皮が体の内側から破かれ無残な姿をさらしていた。

 

 乾坤一擲のチャンス。トラはワニへと駆け寄ると、皮が裂けた傷口に容赦なく杖を叩き込み。ワニの身体を破壊していく。

 

「マスターはぁぁぁぁぁん!!マスターはぁぁぁぁぁん!!」銭霊の良く分からない叫びにトラはもはや相槌を打つことなく苛烈な攻撃を加える。

 

 傷口を広げる。臓器を貫く。

 

 傷口を広げる。臓器を貫く。

 

 傷口を広げる。臓器を貫く―――――トラはこの作業を一心不乱に続けて行った。

 

 数分間後、トラの杖はワニの心臓を貫き、それが止めとなったのだろうか。ワニは崩れ落ち、カードと魔石を残して消え去った。

 

 ワニが消えたことを確認し、他に敵が現れないことを確信したじゃろう。トラ残心を解き棒を支えに体を休め始めた。

 

 荒い息を吐き、滴り落ちる汗が戦闘の激しさを物語っておった。

 

 一歩間違えれば死に直結しかねない作業はトラの神経とスタミナを激しく削っていたようじゃ。

 

 更にいうと銭霊のステータスが低すぎたこともトラ多大な疲労感を与える原因となったのじゃろうな。

 

 そんな状態にもかかわらず、トラはわしらに向き直り、息を整え

 

「―――勝ったぞ」

 

 と勝利宣言をしおった。

 

 奴の言う通り文句の付けどころのない勝利じゃ、わしは思わず破顔をしてしまう。

 

 周りを見てみると真那は既に駆け出しており、さくぞうすはニヤリと笑い、シルキーも微笑んでおった。

 

 そして、銭霊が勝利したことに気が付いたのか大声で叫び始めおった。

 

「マスターはん!!わい、わいをつ、つ、か、勝ったんやなボスに!!!」

 

 どうやら言葉になってないらしい。トラは苦笑を浮かべておる。まぁそうもなるじゃろうな。

 

 真那はトラに肩を貸すとこちらへ向かってきた。シルキーに疲労を回復させる魔法を使わせるつもりじゃろうかな?

 

 トラ達がこちらに歩き始めた時に、わしらとトラ達のちょうど真ん中にガッカリ箱が現れた。

 

 二人はガッカリ箱に辿り着くとその場で止まり、トラはガッカリ箱に手をかけて箱を開けた。

 

 中身を見たトラがガッカリと項垂れ、真那は苦笑を浮かべていた。どうやらあまり良いものではなかったようじゃな。どれ確認のためにわしらも行くかの。

 

「さてと、トラを労いに行くかの。こっちから迎えに行った方が良いじゃろう」

 

 そうさくぞうすとシルキーに伝えると二人は頷き、わしと一緒にトラ達の元へと向かう。

 

 その道の中、さくぞうすがわしに問いかけてきた。

 

「爺さんよ。坊主が勝てると予想していたのか?」

 

 想像通りの問いかけ、まぁ聞きたくなるじゃろう。その問いに対する答えなぞ一つしかない。

 

「当然じゃ、トラは弟子じゃからの。死なないギリギリの課題を与えるのは大分慣れておるよ。」

 

 さくぞうすはわしの言葉に目を丸くし、苦笑する。

 

「なるほど、厳しい師匠を持ったもんだな。坊主は」

 

「当たり前じゃ。弟子の可能性を切り開くためにギリギリを挑ませる。なかなか良い師匠じゃろう」

 

 わしのこれ以上ない素晴らしい回答にさくぞうすは「スパルタすぎるわ」と返しおった。そんなん厳しいかのぅ?

 

 そうこう話しているうちに漸くトラ達の元に辿り着いた。

 

 シルキーは真那に促され、疲労回復の魔法をトラに使用する。

 

 わしらはと言うとトラが入手したガッカリ箱の中身を確認させてもらった。

 

 血糊が残ったままの鉈である。―――トラの奴はホラー映画と縁があるのかの。先ほど拾ったのもホッケーマスクじゃったなぁ

 

 体力が回復し気力が戻ってきたのかトラはわしらを見上げると嘆息する。

 

 まぁ、気持ちは分かる。わしとてホラー映画シリーズばかり入手したら気が滅入るわ。

 

「銭霊、鑑定してくれ」

 

 気落ちした声で銭霊に伝えるトラ、銭霊は血糊の付いた鉈を見ながらうんうん唸り、それについて回答をした。

 

「マスターはん、それは"Murderer's machete"ちゅうアイテムや殺人鬼が使ったり、逆に不死の殺人鬼を殺したりしたらしくな。不死殺しの効果があるようやな。あとそれなりに攻撃力もあるで」

 

「やっぱりホラー映画じゃねぇか……」

 

 トラのがっかりした声。だが性能は悪いものでもない。デザインが悪いことさえ除けばそう簡単に手に入るアイテムではないのだ。これも売りつもりならわしが引き取ってやっても良いの。

 

「トラよ。鉈はどうするつもりじゃ?」

 

「使うよ。ただ、このままだと使いにくいから柄を変えて薙刀とか槍みたいしてから使う予定。明日でもダンジョン・モール行くよ。」

 

 ダンジョンモールとは二日市に会った旧ショッピングモールだ。東京ドームと同じタイプのダンジョンになってしまった結果店子がいなくなり、急速に寂れてしまった。

 

 東京ドームと同じタイプのため、1日1回ボスを退治すれば安全なんじゃがの……

 

 当初は東京ドームと同じようにモンスターコロシアムにしようかという案もあったそうじゃが、旧テーマパーク跡地も似たような迷宮化をしてしまいモンスターコロシアムを始めてしまったため、取りやめることになったらしい。

 

 色々とどうするか市議会や地元商工会を含んで検討をした結果。冒険者向けのショッピングモールにしようという話で決着がついた。

 

 冒険者がダンジョン持っていく資材はそれなりに膨大。それを準備してカード化し、持っていくのはそれなりに手間である。

 

 特に食料品や日用雑貨は――故にダンジョンと化したショッピングモールでモンスターを召喚し、物資を収納ができるモンスターに持たせる。

 

 これがかなりヒットしたようで県外からも客が押し寄せるようになった。

 

 トラが入手した鉈自体の、刃渡りは70cmほどあるし長柄にするものまぁありじゃろう。

 

 とは言え、探索はこれで終了じゃ、そろそろ帰ることにするかの―――その前にダンジョン踏破をほめてやらねばなるまい。

 

「トラ、真那よ。まぁ反省会は後でやるが、良くやったな。初ダンジョンで踏破するものは少ない。これからも励むのじゃぞ」

 

「はい、精進しますよ。師匠」

 

「はい、おじい―――…師匠」

 

 お爺ちゃんと言いかけた真那に苦笑してしまう。

 

 二人を促し、わしらはダンジョンの外へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〇二日市地下水道ダンジョンリザルト

・オーブx2(内訳:初等魔法使い見習い,低級収納)

・ホッケーマスク "Friday the 13th" 市場価格600万円

・低級ポーション

・鉈 "Murderer's machete"

・カード Fランクカードすべて売却総額:10万円 Eランクカード売却総額:1万円

・魔石多数 

・踏破ボーナス:2万円

 

〇トラと真那其々の収支

・オーブ(初等魔法使い見習い)     → 真那

・オーブ(低級収納)          → トラ

・ホッケーマスク "Friday the 13th" → 爺さんに購入してもらい150万円ずつ山分け

・低級ポーション → 真那の母へのプレゼント行き

・鉈 "Murderer's machete" → トラ

・カード → 5.5万円ずつ山分け

・魔石 → 現金化せず山分け

・踏破ボーナス → 1万円ずつ山分け

 




【う・ん・ち・く】
※個人的な勝手な設定ともいう

"Murderer's machete"
とある殺人鬼が使用していた鉈。彼に襲われた人間もまた鉈を使い逆襲をした。
不死身の殺人鬼を殺したことで“不死殺し”の力が宿った。

外見は鮮血の血糊が付いた鉈であり、外でおまわりさんに見つかろうものなら大変なことになる一品である。故に一般的には人気が低い。
一部に熱狂的なファンはいるアイテム

ホッケーマスクとこれをセットで運用した日には友達が減ること請け合いの装備

標準販売価格:300万円


※あとチェーンソウもありますが、それはおいおい出したいなぁと思ってます。

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