変なキャラばかり出してしまった……
どうしてこうなったんだろ
私立きさらぎ学園は、小、中、高、大学と一貫の学校ということで名が知られている。
第一次アンゴルモア後、当時サマナーとして活躍をした理事長が、更地となった土地を購入し学園を作ったのが始りだ。
ダンジョンの脅威を乗り越えられる人材を育て上げることを理念として掲げており、冒険者育成にも力を入れていることで知られている。
学園自体もアンゴルモアの時の避難所として機能できるように設計されており、第二次アンゴルモアの際には難攻不落の要塞として避難民を守り抜いたという実績を持つ。
アンゴルモアにも耐え抜いた堅牢な学園ということで脚光を浴びたことにより、きさらぎ市の人口は増加。
今では魔道具を作るベンチャーが軒を連ねる。学園都市を形成することとなった。
そんなきさらぎ学園には当然の如く、冒険部が存在している。
中、高校の冒険部と大学の冒険部で分かれており、理由を聞くと活動時間で分けたそうだ。
ちなみに入部するための条件が☆2以上という規定があることで有名だ。
とはいえ、冒険者になったばかりのトラには直に関係があるわけではないのだけれども……
さて、本日は中等部、入学式。
とはいっても大幅なクラスメートの変更はなく、教室には小学校時代から付き合いのある顔見知りばかりだ。
「おはよぅ」
まだ、席が決まっていないため、適当なところに鞄を置き、駄弁っている友人のところへ向かう。
春先といういうのにも関わらず、小麦色に日焼けをした少年と対照的なおっとりとした少年がいた。
小麦色に日焼けをした少年がトラに声をかける。
「よう、トラ。椚木さんとは一緒じゃねぇのか?」
「おう、おはよう。ビーチボーイ。真那は諒姉さんに呼ばれて、高等部の校舎に行ってるよ。」
ビーチボーイと呼ばれた少年はそうかと返す。少し不満そうな顔を浮かべたが、気を取り直しポケットからカード―――☆1の冒険者ライセンスを取り出した。
「どーよトラ。俺は冒険者になったぜ」
自慢気にライセンスを見せるビーチボーイ。
トラは目を丸くする。ビーチボーイはそのあだ名の通り脳みその9割がサーフィンに染まっていると言われるサーフィン狂いだ。
おおよそ冒険者とは縁遠い人物だったはずなのだが、どんな風の吹き回しだろうか?
嫌な予感がするが―――仕方がない。トラは藪をつつく覚悟を決めた。
「どーしてまた……サーフィンに一生を捧げるんじゃなかったのか?」
「ああ、サーフィンへの愛は変わっていないぜ。だがよ。知っちまったんだよ。ダンジョンにも海が!波があるってな!!」
トラの目が座る。確かにダンジョンには波も海もある場所はある。ある場所はあるのだが、こいつは何をするつもりなんだろうか。
胡乱なものを見る目でビーチボーイを見るトラ。その視線に気が付かないのかビーチボーイは話を続ける。
「親父とさ。激論を交わしたんだよ。俺達がよ。乗っていない波があるそいつは許せねぇよなぁと」
トラは耳を疑いたかった。一緒に聞いていた友人――近藤為一に視線を向けると首を横に振る。どうやら、聞き間違いではないようだ。
絶句する友人たちを尻目にビーチボーイは自分の夢を語り始める。
「ダンジョンの波はオレがすべて制する。それが店があって冒険者になれない親父に俺が誓った約束だ!!」
流石サーフィン狂一家止めなかったらしい。一人、反旗を翻している妹がいたはずだけど多分勝てなかったんだろうなぁと内心合掌する。
なかなかイかれた理由である。こいつの思考回路はトラには理解できそうになかった。
「そうか。死なない程度に頑張れよ」
「おぅ!!」
無駄に奇麗な白い歯を輝かせながらビーチボーイは答えた。
これ以上藪をつつきたくなかったトラは近藤に矛先を向けてみる。これ以上会話をすればSAN値が下がりそうだった。
「近藤はどうなんだ?」
近藤もトラの内心を理解してくれたらしい。話題を提供してくれた。いや単純にこれ以上聞き続けたくなかっただけかもしれない。
「ああ、僕も冒険者になったよ。」
トラは意外そうな表情を浮かべる。近藤の考え方は安全重視、石橋を叩いて渡るだ。死ぬ確率のある冒険者になったのは意外だった。
こちらもなんでかと疑問に思いトラは問いかける。
「近藤が冒険者って、意外なんだけどなにかあったのか?」
「うん、内申のためだよ。冒険者というだけでも+αがあるからね。☆2になれば進学や就職に有利そうだし」
納得のいく回答である。冒険者は何かと注目されており、面接での十分なアピールポイントになる。
より良い大学やより良い会社を目指すのであれば持っていた方が良い肩書きである。
「近藤はらしいな―――オレも冒険者にはなったよ。」
その言葉に二人は良かったじゃないかと返す。―――友人たちが冒険者になったのは意外だったがまぁそういうこともあるだろう。
3人で話をしているとアイドルにでもなれそうな。かっこいいというよりも美しいといった感じの少年――西川慶が近づいてくる。
市議会議員の息子でそれを隠すことなく話し、それ故、自分にできないことはないと限界に挑戦し続ける。無茶苦茶な奴である。
その無茶を止めるよう頼まれている。彼のストッパー役―――今一椿も一緒に着いて来ていた。
「おはよう。トラ、君も冒険者になってくれてうれしいよ。」
そういって西川は冒険者ライセンスを見せる。どうやら西川慶も冒険者になったらしい。恐らく今一椿もだろう。これでクラスメートで冒険者になったのがここにいない真那も含めて、6名。豊作である。
「僕としては同じスタートラインで勝負をしたかった。でも父が良いカードを準備してくれたんだ。―――先に行っているから、追いかけてきてくれ。」
そして、何故かトラをライバル視しているのだ。こーすまなさそうな視線をこちらに向けている今一椿、相変わらずのデコボココンビである。
とは言え、何か返事をしてやった方が良いだろう。今一椿の胃腸のためにも
「☆2の試験を受けるのはゴールデンウィークだろ?それまでにはオレも準備しとくさ。」
トラの言葉を聞いて嬉しそうに破顔する。本当に邪気がなく嬉しそうに笑うのでトラとしてはどうしたものかと思ってしまう。
正直、西川のメンタルはトラは嫌いではないのだが苦手ではあるのだ。だが、割と西川は学校で人気があった。
基本的に人の悪口を言わないし、相手を誉めるからだ。バレンタインでチョコもかなり貰うのだが、毎年律義にお返しをしている。
一度、トラも協力をして二人で大量のクッキーを作ってお返しをしたこともある。
トラが言葉を返そうと口を開い―――教室のドアが開く。真那が教室に入ってきた。
真那はおはようと周りに挨拶をしながら、トラの方へと歩いてきた。
冒険者ライセンスを見せ、嬉しそうな表情を浮かべる西川慶と、困った表情を浮かべる今一椿。それを見た真那は苦笑を浮かべる。
助かったとばかりにトラは真那に対し声をかける
「良く間に合ったな。流石に遅れると思ったよ」
「姉さんの話自体は短かったからどうにかなったわ。トラにも伝言があるから、後で伝えるわね。」
真那の言葉を聞いた。西川慶が割り込むようにトラと真那に言う。
「ふむ、ちょうど良かった。僕も二人に話したいことたあってね。後で聞いてほしい。」
西川慶の言葉と共に始業のベルが鳴る。さて、始業式の始まりだ。
放課後。中等部校舎屋上。
周囲に誰もいないそこでトラと真那、西川慶と今一椿が食事をとっていた。
始業式は半ドンなのでダンジョンへ行くつもりだ。装備は持ってきており、話が終わればその足でダンジョンへ挑むつもりである。
トラと真那は食事をしながらダンジョン探索のシュミレーションをしており、西川慶と今一椿はそれを興味深そうに見ていた。
仮想の目標は☆2の試験会場であるEランクダンジョン。
トラは手持ちのカードの駒を動かしながら結果を確認する。
Cランクカードが手持ちにある真那は危うげなく攻略をしていたが、Dランク、1枚はマイナススキル付きでは攻略は苦しい。ギリギリでどうにか攻略したといったところだ。
「トラはちょっとカードが足りないわね。」
「だなぁ―――少なくとも何枚かランクアップは必須だな」
トラの回答にそうだねと頷く真那。銭霊は戦闘向きのカードではない。Eランクダンジョンのボス相手だとかなり厳しかった。
もう少し時間がいるなぁとトラは嘆息する。
その結果を見ていた西川慶は面白そうな表情を浮かべ、シュミレーションの感想を述べる。
「Dランク2体のカード構成で勝てたのは素晴らしい。ただ、実戦だと博打になりそうだね」
西川慶の感想に今一椿も続ける
「私だと、途中でギブアップしそうです。もう少しマージンが欲しいかもしれませんね。」
3人の感想にトラは苦笑いを浮かべる。現状の戦力ではクリアーが難しいことが分かっただけでも十分と考えるべきだろう。
4人でシュミレーションの結果について色々話しながら、昼食を片付けていく。
ちなみに4人の中で今一椿だけが弁当のサイズが普通で他の面々は重箱ぐらいサイズのある弁当を食べていた。
それでスタイルも良いため、色んな女子から羨ましがられているが、真那の場合、普通の女子と比較して運動量がけた違いに多いのが原因のためこのぐらい食べないと体がもたないのだ。
お茶を飲んで一息ついた真那がトラに姉の諒の伝言を伝える。
「そうそう、諒姉さんからの伝言だけど、☆2になったら冒険部で諒姉さんのチームに所属してほしいそーよ。」
真那のその台詞に首を傾げる。まだ、☆2にもなっていない奴に伝える内容ではない。それに諒姉さんのチームは人気があり入りたいという面々は多いはずだが……
「☆2にもなっていないオレを呼ぶのは気が早すぎない?あと、諒姉さんのチームって女性ばかりじゃなかったっけ?」
「そーよ。黒田沙希先輩とルー先輩、後、諒姉さんの3人のチームよ。」
真那の言葉にトラはガックリと項垂れる。
黒田沙希はエクスルプローラ・ストアの社長令嬢だ。高校一年生にして☆3に到達した優秀な冒険者としても知られている。
親の力とか陰口も多く叩かれており、それらを否定するためにも早く☆4になることを目指していると聞いたことがあった。
ルー先輩こと、ルフィナ・ニキータ・クーバレヴァは両親が帰化したロシア人のロシア系日本人とでもいうべき人だ。
妖精のような可憐な容姿で知られており、彼女に熱を上げる男子生徒は数知れずと言われている。
諒を含め、3人とも高根の花であり、同じチームに男であるトラが入ろうものならやっかみで刃傷沙汰になりかねない相手である。
「流石に遠慮してぇぇ―――」
と呟くトラに、心底同情している表情を浮かべる今一椿。仕方ないよねと苦笑する真那。そして、西川慶は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「トラ、やはり君は僕のライバルになる星の下に生まれたようだね。さっき、話したいと言っていたのは冒険部に入った後のチームの話さ。僕は黒田彩織先輩に誘われている。そう、黒田沙希先輩の妹さ。」
そういう西川慶は興奮しているのか顔が赤く紅潮し、自分の喜びを精一杯表現しようと大げさな身振りをし始めた。
西川慶の話を聞いてトラは絶句する。そんなトラにお構いなしに西川慶は話を続けた。
「黒田―――彩織先輩は姉である沙希先輩に勝ちたいらしい。素晴らしい競争心だと思う。ライバルを持つ僕にとって他人事とは思えなかった。だが――」
ぐっとこぶしを握り締め、こう続ける。
「僕は迷っていた。ライバルである君と競えない可能性を懸念していたからね。だから、☆2になるまで待ってほしいと回答を保留にさせてもらったんだ。だけど、トラ!君が沙希先輩のチームに入るなら何も障害がない。さぁ、競い合おうじゃないか」
トラは興奮して大仰な身振りをする西川慶を見て、げっそりしていた。どうやら自分は卒業まで西川慶のライバルとして戦わなければならないらしい。
それは構わないのだがこの暑苦しすぎるイケメンのテンションに毎回絡まれるのはそれだけで恐ろしい。
「椿!君も協力してくれ。そしてトラ達に勝利しようじゃないか」
困ったように苦笑する椿も悪い気はしていないらしく―――西川慶に対して頷き返し
「ええ、ケイ君。トラ君に真那ちゃんも申し訳ございませんが、私も彩織先輩のチームに入ります。」
真那も苦笑。これで諒のチームに所属しなくてはならなくなったわけである。トラは半眼になって逃げられないんだろうなー無理なんだろうなーと諦観にも似た思いを抱いていた。
西川慶は悪い奴ではないのだが、結構物事を強引に進めるきらいがある。巻き込まれるほうは大変だがまぁ仕方ない。
トラとしても明確な競争相手がいるというのは悪い状況ではないのだから。
「まぁ、いずれにしても☆2になってからの話だな。」
トラがそういうと、西川慶はもう待っていられないとばかりに立ち上がった。
「その通り、僕は一刻も早く☆2になるために探索をするよ。トラもあまり待たせないでくれよ」
そういうと西川慶は弁当を鞄に仕舞走って行ってしまう。今一椿はトラと真那に頭を下げると大急ぎで西川慶の後を追いかけて行った。
嵐のように去っていく二人を見送りながらトラは嘆息する
「―――面倒なことになったな」
とは言えトラの口元は笑っており、それを真那は見逃さない。
「競争相手がいた方が張り合いがあるわ。トラもそうでしょ?」
「まぁね。」
そう言って顔を見合わせるとトラと真那は立ち上がる。鞄を手に取り、先に出た二人に負けまいと急ぎダンジョンへ向かっていった。
姉たちが本格的にかかわってくるのはトラが☆2になってからになります。
なのでもう少し時間がかかりそうですね。