メインに据えたのは蓑草鞋です。
彼女のマイナススキルのめんどくささに触れてみました。
マイナススキル"疑心暗鬼"とはどのようなスキルだろうか?
様々なスキルについてまとめてあるまとめサイトにこのような記述がある。
曰く、マスターを信じないように仕向ける人格を作り出すと―――故に閉ざされた心に並ぶ厄介なマイナススキルの一つに位置づけられていた。
青山通りにある51ダンジョン。
第二次アンゴルモアで廃墟と化した街並みが再現されたそこは青山通り禍の記録と呼ばれていた。
痛ましい記憶の光景をそのまま残すため、冒険者たちは辛い記憶を思い出すと嫌い。探索をする冒険者は少ない。
しかしながら、モンスターである蓑草鞋はその光景に何ら感慨を浮かべることはできなかった。
<蓑の妖>のスキルを使用しスニーキングを行っている。その姿は外部からは一切見ることができない。
とは言え蓑草鞋が所有する<猟師>スキルが油断を戒める。そう透明化した自分を暴くスキルを持つモンスターがいるとも限らない。
今はいなくとも今後現れないと考えるのは楽天的過ぎる観測だろう。
マスターであるトラも徹底した訓練を積むという意味も含め〈蓑の妖〉に頼り過ぎるなと釘を刺していた。
『本当に頼らなくていいの?』
『頼る必要はありません』
<疑心暗鬼>が囁く声。<猟師>スキルが油断を戒めているため、蓑草鞋はあっさりと否定する。
否定する蓑草鞋を<疑心暗鬼>は嘲笑う。不快なそれを聞かないふりをし、前方―――廃ビルより100m程度先にいるモンスターの確認を始める。
我らのテリトリーとでも言わんばかりに道の真ん中を歩くモンスターの群れがそこにいた。
パトロールであろうか?それともただの散歩か?ゴブリンたちは大鼠に騎乗して談笑しながら移動していた。
蓑草鞋はモンスター達の種類と数をカウント。大きな鼠が3体、鼠に騎乗したゴブリンが3体。それ以外に姿形は見えない。
敵影と状態を確認した蓑草鞋は繋がりっぱなしのトラの拙いテレパシーで連絡を取る。
トラは二日市地下水道の後爺さんからテレパシーについて習っていたが、まだうまく使用することができない。
偵察する場合に非常に有用にするためにも、早めの習熟が必要だ。
雑音が混ざり、とぎれとぎれの聞き取り辛いテレパシーで蓑草鞋はトラに状況を報告する
『モンスターを発見、、ました。数、、、6。ゴブ、、、ン、オ、、、、、ミ』
『お疲、、様。、、、うであ、、、攻撃、、、ぎ向か、、、』
言葉すらうまく届けることができない未熟なテレパシー、不十分な情報、十分な単語すら拾えない。
恐らく合流後奇襲を仕掛けて数を減らして攻撃か。蓑草鞋単体で攻撃をして叩きのめすか。どちらかだろう。
トラの性格からすると前者の可能性が高い。
荒川工房でトラに買って貰った散弾銃を手に取る。鏡面仕上げの銃身。銃身以外は白く染め上げられており、ストックには雪の結晶が刻印されている。
銃身の鏡面に歪んだ自分、<疑心暗鬼>が生み出したトラを信じられない己が映し出される。
『マスターを待つつもり?』
『ええ、その……つもりです。』
己を嘲笑う<疑心暗鬼>に蓑草鞋は不愉快と端的に言葉を返す―――その表情はわずかではあるが脅えが含まれていた。
モンスターと戦うことが怖いわけではない。マスターと共に戦うことが怖いのだ。
少しの間であるが、トラは蓑草鞋の信用を得ようと努力をしてくれるのが分かった。
なるべく会話の時間を取ろうと努力をしていた。話題を作るために漫画、美味しいお菓子を貰い、一目ぼれした散弾銃も悩みながらも買ってくれた。
甘やかしてくれる探索以外の時間と、ストイックなまでに探索を続けるダンジョンでの探索時間。
蓑草鞋の理性は信じてもいいのではないかという方向に傾きつつあった。しかし、<疑心暗鬼>がそれを許さない。
『へぇ、怯えているのに?――ああ、でもそれが良いかもしれないわね。モンスターと戦い、弱ったら何されるか分からないんだし』
不快な―――トラを貶める発言をする<疑心暗鬼>、それに対し蓑草鞋は反論をする
『あの人はそんなことはしません!!』
あざけるような嘲笑が響く。まだ、蓑草鞋はマスターが信じられていない。何故ならば――
『その割にはマスターと呼ばないわよね。貴方だって信じていないんでしょ?』
『黙りなさい!!』
<疑心暗鬼>により、燻られ、炙られる―――否定と肯定。それらを忘れるために蓑草鞋は先行して攻撃を仕掛け殲滅することにした。
おそらくはマスターの意に添わぬ判断だろう。だが、明確な指示は下されなかった。命令を無視したわけではない。
己と<疑心暗鬼>のせめぎあいの逃避。意識を銃口の先に向ける。
スコープは付けていない。蓑草鞋にとって散弾銃程度の射程であればスコープは不要だから
敵の位置を再確認。6体はゆっくり道を歩いていた。蓑草鞋に気が付いている様子はない
<猟師>スキルが蓑草鞋の狙撃の精度を高める。呼吸を止め、意識を銃口の先にある敵に向ける。
引き金を引く。ほぼ同時――否、少しずつずれて聞こえる轟音。
激しいマズルフラッシュ―――モンスター達の影が廃墟へと焼き付けるかのように、
奇襲故に<落ち武者狩り>スキルの支援が発生―――高まる火力
放たれる銃弾―――砕かれる頭蓋骨、消え去る大鼠。
放たれる銃弾―――胸元の風穴、消え去るゴブリン。
放たれる銃弾―――陥没する上半身、消え去る大鼠。
放たれる銃弾―――消失する頭部、消え去るゴブリン。
放たれる銃弾―――両断される身体、バランスを崩し傾き、消え去る大鼠。
放たれる銃弾―――バランスを崩した大鼠。銃弾の着弾点が狂う。右腕が吹き飛ぶゴブリン。
不運と嘆くべきか。それとも腕の未熟と責めるべきか。
銃弾は一つ外れる。急ぎ、銃に弾丸を装填―――生き残ったゴブリンが蓑草鞋に襲い掛かる。狂乱した表情。生き延びるための唯一のチャンス。
銃の装填は間に合わない。蓑草鞋は咄嗟に散弾銃を庇う。棍棒に殴り飛ばされ、軽い体は吹き飛ばされる。
追撃をしようとしたゴブリンの上半身がのこぎりのような刃でそぎ落とされた。否。ノコギリのような形状をした槍というべきか
大切に抱きしめた散弾銃を抱えながら、蓑草鞋はその特徴的な槍の持ち主である己のマスタートラを見上げる。
「蓑草鞋、これで3回目だよ。」
「―――ごめんなさい」
トラの怒ったような困ったような表情に蓑草鞋は申し訳なく思う。トラは凡その事情を察しているためこれ以上は言えない。
全てはトラの兄のやらかしで刻まれたマイナススキル、未だ解けぬ呪いは蓑草鞋を蝕んでいた。
7階、入り口。蓑草鞋の怪我の治療のためにトラは近場の安全地帯へと移動した。
Fランクダンジョンのため、苧うにを召喚するためには、銭霊の送還が必要だ。トラが銭霊を送還しようとすると、慌てた銭霊が大声で叫ぶ。
「マスターはん、ちいとまってちいとやってや。急ぎ手仕舞いと地図の更新完了させるさかい。」
銭霊は二つほどスキルオーブとは無関係にスキルを増やしていた。
一つは<ローソク足>、出羽国の本間宗久が発案したチャートであり、今では最も基本的なチャートとして世界中で使用されている。効果は特定行動時にプラス補正。
もう一つが<ジャック・イン>。スマフォなどの電子機器を己の身体の一部とし自在に操るスキル。これを使用している限り機械破壊の影響を受けない。
ちなみに銭霊はこれらと元々持っていた<マルチタスク>を悪用してダンジョンを探索の仕事をこなしながら株取引をしていた。
仕事をきちんとこなしているため文句も言い辛かった。とは言え、トラは釘を刺すことを忘れない。
「仕事しているから文句しか言わないが、足を引っ張る真似はするなよ。」
トラの言葉に銭霊は分かっているとばかりに答える
「気ー付けるわ。もうすぐ目標額もたまるから、そうしたらスキャルピングともおさらばやし……」
トラは嘆息するとすぐさま送還した。
そして、苧うにを召喚。怪我をした蓑草鞋をみて、苧うには大体察したらしい。呆れを含んだ口調で指摘をする
「辛気臭いのは嫌い―――とも言ってらんないねェ。マイナススキルで仕方なってのは分かるけど、しっかりしな!」
「ごめんなさい。苧うにさん」
そう謝る蓑草鞋に苧うには嘆息。マイナススキルの件も聞いているため、時間を掛けなければならないのも理解できる。とは言え、指摘をしないわけにはいかなかった。
苧うには何をやっているんだいとでも言いたげな視線をトラに向ける。マイナススキルのことを知っているトラがフォローできていない。これはトラのミスである。
「マスター殿、お手前様も気ぃつけんと―――これ以上は怪我ですまないよ」
「ごめん。苧うに、確かにオレのミスだ。欲張り過ぎた。作戦を練り直すよ。」
蓑草鞋は先行偵察に向いているのではないかという願望と期待が入り交ざった作戦を立てたのはトラであり、それで失敗したのだトラの責任だろう。
自分の失敗でトラが怒られる。それは蓑草鞋に取っても酷く辛かった―――彼の責任ではなく蓑草鞋の判断が間違えていただけなのだ。
辛そうにうつむく蓑草鞋にトラが気にするなと宥める様に自分の責任だと改めて言う。
「蓑草鞋、オレが立てた作戦で失敗をしたんだ。オレの責任だよ。」
マイナススキルのことを知っているのだから、それを前提に作戦を立てなければならない。それは当たり前である。
未熟なテレパシーで補えるという判断の甘さがこの事態を生み出したのだ。トラの責任である。
とは言え、これ以上この話を続ければ、モチベーションの低下になる。苧うには仕方ないとトラに対し助け舟を出してやった。
「マスター殿、喉が渇いちまったよ。茶ぁ用意してくれないかい?」
「了解。少し待っててくれ」
トラは苧うにの助け舟にほっと安堵の息を吐く。ガスコンロを取り出し、水を沸かし始める。
お湯が沸いたら、インスタントコーヒーをコップの中に入れて、お湯を注ぐ。
蓑草鞋には砂糖とたっぷりのミルクを、苧うには砂糖のみ、トラは糖分補給のために砂糖とミルクを混ぜる。
コーヒーを受け取ると三人とも適当な地面に座る。真っ先に苧うにがコーヒーを飲み苦そうな顔をする。
「マスター殿、この南蛮茶、前飲んだのより苦かぁないかい?」
「そりゃぁ、インスタントで作れる奴だからな。それなりの出来さ」
苦さに顔をゆがめる苧うににトラは珍しいものを見たとばかりに応える。
少しむくれた表情を浮かべる苧うに、そんな苧うにが面白くて、笑うトラ。
コーヒーを持ったまま悩んでいる蓑草鞋に苧うにが早く飲むように促す。
「蓑草鞋も早く飲みな。こんな苦ぇもん、冷めたら飲めたもんじゃない」
苧うにの言葉を聞いて、蓑草鞋は慌てて飲む。蓑草鞋のコーヒーには砂糖をたくさん入れてあるためかなり甘めだった。
聞いたものと違う味に戸惑った蓑草鞋は驚いて、声に出す。
「甘い!?」
蓑草鞋の感想にコーヒーを入れたトラは苦笑しながら、甘い理由をこたえる。
「ぁぁ、そりゃそうだな。蓑草鞋のコーヒーは砂糖をたっぷり入れてあるからな」
苦めのコーヒーを飲んで、ぶー垂れる苧うに。ずるいだの。こっちも甘くしろだの言うのに対しトラはまた今度なと答えてコーヒーを飲みほした。
そんな、苧うにとトラのやり取りに蓑草鞋は少しだけ笑みをこぼしてしまう。
飲み干したコーヒーカップを地面に置くとトラは蓑草鞋に対し、以降の作戦を告げる
「蓑草鞋、残りは俺と一緒に行動してくれ。実際の動きを見ながらどんな作戦が良いのかを考えるよ」
トラの言葉に蓑草鞋は少し悩み。コクっと頷いた。
マスターと一緒に行動することに対し、蓑草鞋のマイナススキル"疑心暗鬼"が警鐘を鳴らす。
『近くにいて良いのか』/『良いに決まっている』
『あの男の弟なのに?』/『あの人とは違う』
『所詮装備するカードはEランク。いつでも始末できるわね』/『ボクはそんなことをしない!!』
『マスターを信じていないくせに』/「―――…」
疑心暗鬼のマイナススキルと蓑草鞋のせめぎあい。信じるという一言の出ない蓑草鞋はそれに勝つことができない。
蓑草鞋は残ったコーヒーに口を付けて飲み干す。甘いはずのそれは非常に苦く感じられた。
【う・ん・ち・く】
今回は蓑草鞋のステータスとなります。
【種族】蓑草鞋
【戦闘力】180(10UP!)
【先天技能】
・蓑の妖:蓑は古来より身を隠す力があるとされていた(気配遮断、透明化、無音行動を内包)
・草鞋の妖:草鞋は古来より妖怪を退ける呪物として扱われていた。モンスターとの遭遇率を低下させる。
・付喪神(蓑):初等クラスの装備化スキル。他のカード、あるいはマスターへと憑依することで、自身の戦闘力の四分の一を加算させることができる(マスターへの装備化の場合はすべての戦闘力とスキルを共有できる)。
【後天技能】
・猟師:中世の農民たちは害獣駆除するための農具として鉄砲を使用していた。特定行動時、行動にプラス補正。(トラッキング、罠設置・解除、砲術、索敵を内包)
・落ち武者狩り:戦国時代の農民は逃げる落ち武者を狩っていた。奇襲スキルを内包。特定行動時、攻撃力にプラス補正
・天真爛漫:飾らずに喜怒哀楽を表す。その在り方を縛ることは誰にもできない。命令に対する行動にプラス補正。状態異常、拘束系スキルに対して耐性を持つ
・疑心暗鬼:マスターを本当に信じてよいのか疑っている。命令に対する行動にマイナス補正。
・虚偽察知:対象の偽りを見抜く。(New!)
虚偽察知はスキルオーブで入手しました。
疑心暗鬼を持っておりますので扱いが難しいスキルになり果ててます。