宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
「Wunder……」
「そうだ。私は、最終戦争時のWunderが最後の手段として送信した物だと考えている。過去の我々にこれを送り、備えろと言う事だろう」
「もしも何も準備をしなければ、この映像の通りになる。と言う事ですか」
「あるいは、準備をしてもこうなったのだろう。現有戦力をほぼ全て用意し、綿密な作戦を練り、文字通り背水の陣で挑まなければ、阻止できない」
未来からのメッセージを見て、沖田がそう推測する。一度地球と人類を救ったその目は一切衰えを見せず、人類滅亡の予告を見せられても冷静さを失わない。そしてその頭脳では、どうすれば阻止できるかの作戦と準備が既に寝られている。その中で、直ぐにでも実行に移した方が良い事を口にした。
「長官。会談が終わり次第、太陽系内用の戦術案を追加考案し、速やかに提出します。それと、アリアンロッド公転軌道を火星軌道の外側に再配置してもらえないでしょうか?」
「アリアンロッドをか。確かにガトランティスの目的が地球ではなく火星なら、戦力を地球近辺で遊ばせるわけにはいかない。関係各所との調整が必要だが、優先的に進めよう」
「軌道変更は賛成ですね。さて、それじゃあ聞かせてもらえませんか? テレサとテレザートについて」
バレルが今まで触れなかった話にリクが切り込んだ。星間文明の大先輩にあたるガミラスなら幻影の正体にも心当たりがあるのだろうと推測していたが、それは思っていたよりもずっと正しく、リクの言葉はバレルの言葉を促した。
「テレザート。バランと同じ自由浮遊惑星に分類されるが、文明の頂点を極めたとも言われる伝説の惑星。その星の民は、人間の意思そのものを物理的な力に変え利用する事が出来た。人間の想像力に限界が無いように、精神から引き出されるエネルギーにも限界はない。無限の力を誇った彼らば、その気になれば星座の形を変える事も出来た」
「いつしか彼らは肉体を必要とせず精神だけの存在となった。そして、生きた人間で決してたどり着けない次元の果てで、1つの命に結集した。それが、テレサ。あの世とこの世の狭間にあって、全ての平穏を願い続ける女神だ」
「これは御伽噺ではない。我がガミラスでもテレザート文明の調査が幾度も行われてきているが、誰もテレザート地表面に降り立った者はいない。だがそこが問題ではなく、『テレザートが見えている』という事だ。各惑星に残された古文書や遺跡、壁画では『テレザートは何らかの封印で見えていない』と記述があるが、実際は肉眼で見えてしまっている。ガトランティスに封印を解かれたか、或いはとうの昔に解かれていたと見るべきだろう」
ホログラムで表示された画像には、異星言語で書かれた古文書や壁画、そしてテレザートを収めた写真が表示されていた。古代人が「見えない星」と壁画でも古文書でも口を揃えて言ったのに現実には見えてしまっている。これを古代人の単なる間違いと見るべきか異常事態と見るべきか。思慮深い人物であるバレルはこれを「異常事態」とみた。
キーマンはさらに端末を操作して1つのデータを表示した。天の川銀河の各恒星系とテレザート、そして太陽系の位置関係を示した所謂「銀河海図」だ。
「サナダ二佐の協力を得て、Wunderレコーダに残された通信の送信元を確認した。映像から察しは付いている筈だが、送信元は惑星テレザート。Wunder乗員に幻影を見せて通信障害を発生させたエネルギー波がやってきた方向と同じだ。が、なぜ高次元の女神がメッセージを送信したのかだ。コダイ艦長、君はこのメッセージをどう見る」
「……救難信号。我々だけにこのメッセージを送信したのは、助けを求めたから。自分はそう思います」
その回答に満足が行ったバレルとリクは大きく頷いた。
「このテレサのメッセージだけでは、我々は大っぴらに動けなかった。組織再編を行ったとはいえ旧体制を引き継ぐ以上ここだけはどうしようもないからね。ところが、受信に成功したこの世界終了予告もあって初めて動く事が出来た。なんでだと思う?」
「何でって……何か、根拠になるデータがあったから、ですか?」
「いや、そういう観測データとかではない。世界終了予告と一緒にテキストデータが添えられていたんだ」
リクはメモ帳を取り出し、そのテキストデータを書いて見せた。
クルジス州バイキングランディング 第2区223-43
2203年8月20日 WILLE三佐 睦月・リク・暁
「送信したのは未来の僕だった。これがもし書いて無かったらまだ調査が必要だったけど、僕の出身地が書いてあったから一気に信ぴょう性が増した。これ、行政にも残ってない情報だから」
「出身地、そうか……!」
「本当に、ここが君の出身地なのかね?」
「気になるのでしたらこの住所の地面掘り返してみたらどうですか? 多分当時の仕事道具とか出てきます」
「いや、そこまでやろうとは思っていないが、君の親族が火星に移った後の住所も無いから確かめようがない。だが、これで議論を続けていても意味が無い事は私も理解はしている。長官、本物と見て間違いないかと」
「うむ。沖田君」
「分かっています」
そういうと、沖田はソファから立ち上がると私室へ入った。暫くすると、嘗ての国連宇宙軍の軍服を着た沖田が現れた。だが、今までと唯一違う点がある。国連宇宙海軍の紋章を隠すようにWILLEの水色のバンダナを巻いている部分だ。
「長官。私、沖田十三は現時刻を持って予備役より復帰します」
「沖田、いいのか?」
「良いも悪いもない。生きている以上、私は人類を守る。その為の力はリク君達が生み出してくれた」
沖田が微笑む先には左手の義手で器用にどら焼きを持つリクと綾波を膝に座らせたハルナがいた。沖田の視線に気づくと2人は敬礼し、沖田も返礼した。
「……分かった、ありがとう。WILLE長官権限で、沖田十三宙将の現役復帰を許可する。立場上、沖田君には総旗艦で艦隊指揮を執ってもらう事になる」
「ヤマトですか」
「ルクレティウスとWunderを除けば最強の艦艇だ。既に人員もそろっている。集められるべくして集められた、と言うべきだが」
ヤマトの艦橋要員のデータを表示したタブレットを沖田に手渡すと、そこに記載された人物の名前に目を丸くした。一通り目を通した後で綾波に手渡すと、綾波も同じ様に目を丸くした。なんだなんだとリクもハルナもタブレットをのぞき込むと、理由はすぐに分かった。
「確かに、集められるべくしてですね」
| 艦長 | 葛城ミサト |
| 副長兼技術長 | 赤木リツコ |
| 戦術長 | 日向マコト |
| 航海長 | 長良スミレ |
| 砲雷長 | 青葉シゲル |
| 情報長 | 伊吹マヤ |
| 機関長 | 高雄コウジ |
| 通信長 | 多摩ヒデキ |
| 船務長 | 北上みどり |
「過去のAAAWunderの乗員と聞いている。すでに加入していた人物とは別に軍にスカウトする形で全員を揃えさせた。赤木博士には、ヤマトに移ってもらう」
「了解しました」
「長官。テレザートへの航海は、どうなさるお積もりですか」
古代が一番一番肝心な事を聞く。皆あえて避けていたように見えていたからだ。
「それなんだが……出港にはあとひと月半は必要だ」
「ひと月?! この間に、ガトランティスがテレザートを手に入れてしまったらどうするんですか?」
「古代くん、急ぎたい気持ちはあるが、Wunderの改修が終わっていないんだ。最低でもあとひと月半待ってもらわないと。」
焦りを見せる古代をリクが冷静に説明する。時間断層を用いた大規模改修は断層内時間30か月でようやく終了するような長期プロジェクトであり、現状3分の1しか終わっていない。リソースを一極集中させても1か月半はどうしてもかかってしまう為、直ぐに出す事は出来ないのだ。
「でも、バレル大使の話を聞く限りだと非常事態だって事は分かる。優先度の低いとこは省くけど、出来るまでは今は待ってほしい。その間に、北極整備拠点に運び込める物資を運び込んでおこう。と言う事でカナーバさん」
「はぁ……さすがにアントノフは回せないけど、それでもいい?」
「お願いします。一応010の調整はうちの設計局にお任せします。局の名前バンバン出して良いので、ガトランティス侵攻までには間に合わせてくださいね」
「勿論ですが、あなた方人使い荒くないですか?」
「人類滅亡に比べたら些細な事ですから。地球はトラブル体質ですから、滅びないように多少の無茶は通します」
「……KOMPASSから軍需企業に最優先で要請を出す。が、復興政策と艦艇早産の件もあるから全力は回せないぞ」
「最悪の場合は復興に回してる分も全部投入して下さい。アイリス長官、判断はお任せします」
「ええ。そうならない事を心から祈っているわ」
「じゃあそれで各自詰めていきましょう。戦時体制布告をギリギリまで待ちながら水面下で準備を開始、足りない武器は全部うちの部署と世界中の軍需企業に投げて下さい。AAAWunderは何とかして改装の一部を省いて早期復帰させます。民間に気付かれないように北極に物資の搬入を行い、AAAWunderの復帰と北極待機に着いたら即時搬入を行いテレザートへの発進準備にかかります。沖田艦長、いえ、沖田総司令。地球をお願いします」
「分かった。君達の期待に応えよう」
__________
「付いてきてくれてありがとうね」
「いえ、自分も行くべきだと思っていたので。それに、偶然この日で集まれたので」
ハルナとリク、古代と森、そして真田と沖田は英雄の丘と言う場所の慰霊碑に足を運んでいた。今ではほとんど見なくなった国連軍時代の紋章と真新しいWILLEの紋章が並んで彫られたこの慰霊碑は、ガミラス戦争と極東事変の犠牲者、そしてイスカンダル航海で失われた命の為に建てられた。第三新東京の外れの海岸付近ではあるが、毎日誰かが足を運んでいる。花を供え、酒を供え、お菓子を供え、手紙を供える人もいる。
そして、仲間の集まる場所でもあった。
「おお古代、待ってたぞ」
酒瓶を片手に島が駆け寄ってきた。この日に集まれた旧Wunder乗員は凡そ100名。航海科、戦術科、船務科、技術科、機関科、航空隊、部署勤務地問わずこの慰霊碑に集い、死んでいった仲間の為に近況や思い出話をしている。
そして敬礼、それが終われば飲み会、と言うのが毎年のルールだ。昨年と一昨年は参加できなかった沖田は一言断りを入れると、息子の名前が刻まれた慰霊碑を探しに行った。
「退院されてたのであれば、連絡いただきたかったです」
「あーごめん。ちょっと色々あって連絡どころじゃなかったんだ。治療とか仕事とかで」
合成物のチューハイ片手に山本が声をかける。バンダナで片眼を隠した様子に何かを察したようで敢えて触れてないが、気になっていたのだろう。ハルナはバンダナをずらして左目を見せた。
「今はこうなってる。生身の目とあんまり変わんないけど」
「あんまりって……なんか、カメラのレンズみたいなのが入ってますね」
分かりやすいように義眼のレンズを絞る。この義眼で今は物を見る事が出来ているが、なら何故バンダナで隠す様な事をしているのか、山本は分からなかった。近づいてよく見なければ義眼だと分からないので隠さなくてもいい筈だ。
「うん、大抵の波長で見れるよ赤外線から紫外線まで。あ、もう隠すね。性能良過ぎて頭が疲れるの。リクのはもっと凄いよ。腕が飛ぶ」
「う"で"ぇ!?」
「え、ああ。ケーブルついてるから『戻って来るロケットパンチ』が出来る。あとハルナに酒渡したらヤバいから、なるべく遠ざけて」
「え、ええと、飲んだらどうなるんですか?」
「想像に任せるけど、1回大変な事になった」
(飲んで、襲われて、そのまま僕もやってしまったんだよなぁ。ストレス&お酒ダメ絶対)
そう、「いけない事」をしてしまった背景には酒と言う存在もあった。とても酒に弱かったハルナの理性がかなり緩み欲求に忠実になってしまい……と言う事だ。
それ以降、ハルナは酒をほんの少ししか飲まなくなった。それこそ缶も飲めない程だったので小さなコップ1杯程度だ。
「ああ……」
「玲ちゃん、私みたいにならないで……」
「その辺りにしてもらおうか。古代、森くん。皆を集めて欲しい」
「分かりました」
「これまでに失われたすべての命に対し、総員、敬礼」
沖田の敬礼に一拍間を置き、綺麗に整列した一同が敬礼をした。これが、毎年行われている仲間内での行事の1つだ。今まで代理で真田か古代が務めているが、今回は元艦長として沖田が務めた。
「休め」
そういうと、沖田は慰霊碑の段差に座り一息つき、本題の話に入った。
「皆集まってもらった事に感謝する。儂から話しておきたい事は、これから始まるかもしれない戦争に関する話と、君達が見たであろう幻に関する話だ」
旧Wunder乗員のみが見た幻、白色彗星の進路、惑星テレザート、そして、未来から送信されてきた世界終了予告。要点だけを摘まんだ説明を聞いた各々は考え込むが、多くの人から前向きな回答が得る事が出来た。
「この任務は志願制になるだろう。テレザートの位置は分かっているもののガトランティスが行く手を阻む。私は地球の防衛で動けない。それでも、構わないか?」
「行きますよ。翼にカッコいい所見せたいんです」
そう答えたのは加藤だった。呼び出しに応じて月面から飛んできたのだ。加藤は上着の内ポケットから1枚の写真を取り出すと沖田に見せた。
「翼、息子は今3歳なんです。二次発症でサナトリウムから出られないんですけど、イスカンダルの時の話をするときは決まって目をキラキラさせるんです。だから、ずっと自慢出来る父ちゃんでいてやりたいんです。真琴にもそうありたいんです」
「そっか……翼君の病気、今どれくらいなの」
「分からないんです。子供での発病はデータが少なくて、治療薬もまだ完成しないんです」
終戦に向けた話し合いで地球がガミラスに要求した事項の中に、「遊星爆弾によってもたらされた有毒胞子放出植物に関する全ての情報開示、及び遊星爆弾症候群治療に向けての研究への協力要請」があった。2人が戦後世代の子供と加藤夫妻の事を考えて捻じ込んだ結果、両国の製薬会社と学者の力で症状の緩和薬が完成した。
しかし、あくまで症状の緩和しか出来ない。完治させるには治療薬が必要となるがそれにはまだまだ時間がかかるとの事だ。
「でも、緩和薬のお陰で翼が辛そうにする顔が少なくなりました。リクさん、ハルナさん、ありがとうございます」
「ん-私達特には何もしてないよ」
「佐渡先生にお聞きしたら、政府の要求事項に治療薬の件を追加したのはお2人だと」
「さーどーせーんーせーい? なーに勝手に喋ってるんですかぁ?」
「儂酔ってたから話したか話してないかなんて」
明らかにとぼける佐渡に溜息1つ。誤魔化せないなと観念したハルナは仕方なく認めた。
「ええまあ捻じ込んだんです、権力で。うちの設計局と真田さんの研究局、WILLE内の部署と言っても力的には3組織の次に強いんです。平和維持軍の時も同じです。だからそういう事も、ちょちょいと。さすがに政治的発言権は無いですけど、藤堂長官を通せばいけますし」
「そういう権力を持つ人が君達みたいな人で良かった。これほど大きな権限は三佐にとても与えられない。文字通り超法規的な事態だ」
「そういうツッコミって真田さんの役なんですけどね」
「おっと、ではお返ししようか」
気心知れた仲のように談笑する古代と沖田。任務が終わったり一仕事終わった時は決まって沖田の元に通っていた。そんな関係もあり、沖田と古代は本当に親子に近い関係になっていた。
「とにかく、ガトランティスがやって来ることは確かだ」
「真田さん。ええと、敢えて聞かなかったんすけど、その子誰なんですか? 真田さんの姪っ子ですか?」
「あ、ああ、そうだな。この子は……」
篠原が突っ込んだ内容を聞いた。確かに綾波の事を説明していなかった。が、存在自体が機密事項な彼女をどう説明するか。気の利いた言い訳を生成するセンスという物は真田には無かった。
「あ、この子は睦月・レイ・暁。僕達の娘です」
「娘!?!?」
(合わせて)
(はいはーい)
「そうだ。防大病院を退院する時に一緒に引き取ったんだ。身寄りがないと聞いてね。ん、レイちゃん?」
俯き加減の綾波の表情は分かりにくいが、耳の先が真っ赤になっていてその感情を隠し切れていない。咄嗟の嘘でも嬉しいのだろう。
(ごめんね。戦争が終わったら制式に養子にするから。約束だ)
(睦月レイ……睦月……レイ……睦月・レイ・綾波……これがいい)
(赤ちゃん育てるよりも先に14歳の女の子と暮らす事になるなんてね)
「あぁ~もうレイちゃん可愛すぎこんな娘が欲しい! あ、もういるんだった!」
合成リンゴジュースに口を付ける綾波をハルナは撫でまわした。特に抵抗する様子もなく受け入れているようで、綾波は撫でまわされながら器用にジュースを飲んでいる。が、美少女を撫でる美女という世にも珍しい構図が生まれてしまった事で一部の視線が集中した。
「おいそこ。ロケットパンチ飛ばすぞ」
「あ、すみません」
「いや流石にこういう所では腕飛ばさないけど、妻をジロジロ見られるのは、いい気分じゃない。それに、娘のレイも」
「娘……うん……娘……いい」
「娘」と言う単語を深く噛み締めるレイは、何度も頷いてやわらかい笑みを浮かべている。それは本当に無自覚で、作ったようには全く見えない笑みだ。身体を得てまだ数週間しか経っていない事が関係あるかは分からないが、ずっと柔らかく、温かい。
(この体があって、よかった。お父さんとお母さんに会えて、お礼を言えて、家族になれて……よかった)
もっと触れたいと思い、くっつく。それを察してくれたリクが、頭を撫でようと左手を動かす。
「おっと……両方生身だったらよかったな」
スッと左側に座り直し、綾波の頭を右手で撫でる。義手の方ではなくちゃんと生身の方で撫でてくれるという事は、本当に大事にされているという事。リクがハルナを抱きしめる時は必ず右手だけだというのは綾波も知っている。「大事」になれたのが嬉しいのだ。
「ちょっとズルいんですけど」
「生憎右手は伸びないんだ。……伸びる? そうか」
「?」
義手の前腕部に仕込まれたタッチパネルを軽く操作すると、リクは腕を飛ばした。すぐにスラスターで軌道を曲げるとそのまま自身とハルナと綾波を纏めるように巻きつけた。
「これでよし」
「自分に巻き付けるって……これ
「真田さんお願いします」
「はぁ……ガトランティスが終わったら再生医療を受けなさい。生身の両腕で撫でて抱き締めて幸せ掴みなさい」
諦め慣れた真田はいつもと変わらない溜息を付いた。夜はどんどん深くなっていき、飲み、話し、徐々に散っていく。ハルナとリクも、綾波がうとうとし始めた頃で先に帰宅する事にした。もう夜も遅いので久しぶりに自宅で休む事にした2人は、綾波を背負ってあの佐官宿舎に戻ってきた。設計局に大体の荷物を移していたが、いつでも戻って休めるように電気と水道をそのままにして最低限の荷物は置いているのだ。
ダブルサイズのベットのど真ん中に綾波を寝かせると毛布を掛け、その脇を固めるように2人も寝転んだ。
「レイちゃん頑張ったね」
「体を持ってまだ数週間だ。体力面でも不安が残ってたけど、何だかんだ楽しくしているみたいだから。さて、あとはシンジ君の事をどうするか、だな」
「んーまだ合わなくても大丈夫かな。シンジ君には剣崎さんって人が付いてくれてるけど、こっちから会うのはシンジ君が保護されてからでいいと思う」
「剣崎……キョウヤさんか。まぁ安心かな。取り敢えず改修のオミットできるところを探さないと」
「今どこまで終わってたっけ?」
「主砲副砲の換装と伝導管の貼り直し。バイタルパートのVPS装甲化。ツインドライヴ調整はまだ途中。最低限ツインドライヴが済めば飛べる。それで、大体ひと月ってとこか」
「うん。じゃあそんな感じでいこっか」
「ああ。ハルナも、少し休んだ方がいい」
そういうと、ハルナはバンダナを解き左目を露出させた。そして手提げカバンから眼帯の様な機械を取り出して左目を覆うと電源ソケットにケーブルを差し込んだ。1日1回充電しないと機能停止してしまうのが玉に瑕だ。充電している時は片目の状態の為遠近感が掴みにくくなりフラフラするが、機能停止を避ける為には許容するしかない。
「作業……は出来ないね。持ってきてないし」
「最近オーバーワークだったから無理にでも休まないと。娘の顔でも見ながらな」
熟睡する綾波をつつきながら微笑むリクに、ハルナは軽く嫉妬した。綾波を養子として迎える事には賛成だが、何だか今だけは面白くない。
子供にデレデレなリクもいつかは見ていたいけど、今はこっちをかまって欲しい。
(私の方が先だったのに)
そう思ったハルナはハルナは綾波の頬をつついているリクの右手を掴むと、自分の頬をつつかせた。年甲斐なく子供っぽい事をしていると思うが、急に夫を取られたように感じたからだ。 綾波を挟むようにハルナが詰めると、蛍の光の様に揺らめく右目でリクを見つめる。やきもちも手に取るように分かる。
「奥さんにもかまってください」
「1番2番の話じゃない、大事な家族が増えただけだ」
「ほんとう?」
「ATフィールドが無くても分かるだろ」
「それはまあ見れば分かるけど……」
左目の充電器を取り外して両眼で見ようとしたけど何か違う。失った分、紛い物ではなく失ってない方を大事に思い、そっちを優先してしまう。ハルナは体を起こすと充電器を付け直し、自分の右目にリクを映した。
「やっぱりこっちで見るのは何か違うかな。リクとおんなじ」
「ああ。再生医療、考えてみてもいいかもな。面倒事全部終わったら長い休みを取ろう」
「うん。おやすみ、寝れないけど」
「ああ。おやすみ」
家にスパイが入り込み仕事場に自室を用意したら殺されかけ、管制艦を仕事場にして暮らすようにしていたのでほぼ毎日仕事漬け、ワーカホリックという言葉では片付かない状態になっていた。眠れない疲れない事をいい事に作業に時間を費やしていたが、綾波が体を持ち直してからはなるべく3人の時間を取るように心がけていた。
真田は「子供が出来た親みたいだ」と溢していたが、実際そうだ。綾波がやって来てからは艦内時間深夜0時を回る前に作業を切り上げ、熟睡する綾波の傍で休む。時々綾波のリハビリに顔を出して手伝ったり、ご飯を食べたり、一緒に作ったりもしていた。
どういうわけか毎回味噌汁が付いていて毎回野菜か魚系のおかずなのは不思議だったが、聞くところによると、体を持ち直してからも肉がダメだったとの事だ。でも、今食べれる物を美味しそうに食べる綾波が、2人にとっても一番の癒しだ。
その日も、2人は娘の寝顔に癒されながら休息に入った。
「痛っ」
綾波の寝相はヒドイらしい
ハルリクのいちゃいちゃは糖分高めですが、しばらくは見れないと思います