宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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この話で、AAAWunderのスペックは固定します


Weighing out, but with regret -AW4年3月5日-

 旧バラン星宙域

 白色彗星 玉座の間

 

 歪な形なバラン星の周囲には、デブリが散乱している。それはWunderがバラン星に波動砲を打ち込みエネルギープラントを崩壊させたときに発生した大事故による物で、何千隻という艦艇がデブリと化した。

 

 その後この宙域には新しく鎮守府が設置された。大マゼランと小マゼランを繋ぐ要所として機能し続けたが、それは凡そ数日前に役目を終えさせられた。

 

 真っ白な闇が、ここにやって来たのだ。鎮守府は粉々になり、駐留艦艇はデブリの仲間入りを果たし人員は技術者を残して1人残らず抹殺された。

 

 

「テレサのコスモウェーブが向かった先が、テロンか」

 

「酷く辺境の星系です。ガミロンとの戦で滅びかけたあの星は、今では途方もない戦力を蓄えています。船1隻をとっても途方もない技巧が詰め込まれているため、ガイゼンガンでなければ太刀打ちできませぬ」

 

 ズォーダーもそれは分かっている。コスモウェーブの送信先が分かり次第ズォーダーは軍を送ったが、全ての連絡が途絶したと報告が上がった。勝利か死かのガトランティスでは撤退はあり得ない行為であり末代まで恥ずべき事だが、「1隻も通信を寄越さず無残に蹂躙された」事がズォーダーの警戒度を一気に上げた。

 

「……ラーゼラー。ガイゼンガンの投入を許可する。テロン侵攻を進めよ」

 

 得体の知れないバケモノにはバケモノをぶつける。誰が考えても明確な事だ。育みの間で生まれたガイゼンガン兵器軍艦艇は既存のガトランティス艦艇を超えた一種の特化兵器だ。既存艦で敵わなければそれを回すしかない。

 

 他の星間文明を凌駕する砲撃能力、追加兵装を用いた火力の底上げ、艦体をすっぽりと覆う規模の防壁、その防壁の下に潜む強固な装甲、戦艦らしからぬ機動性と超空間航行能力。攻守速が高度な領域に纏められた異常な艦艇は、あの「滅びかけた星」が生み出すには余りにも時間が足らなさすぎる。何かのカラクリがあるとズォーダーは睨んだ。

 

 あるいは、何のカラクリも無しに生み出したのか。

 

 考えても今は仕方がない。そう切り替えたズォーダーは玉座の間を離れ、瞑想の間に入った。ガトランティスの王になりすでに1000年以上が経過した。この星をやっとの思いで発見し目覚めさせて900年が経過した。

 アケーリアス人類が生きられるであろう時間を遥かに超えて自分は生きていた。その間ずっと、

 自分は現アケーリアス人類に絶望していた。恨みも抱いていた。

 

 人類は、やはり滅ぼさなければならない。自分も、ガトランティスもまとめて、全て、この宇宙から滅ぼさなければならない。

 

 1000年前の絶望は彼を今も蝕み、彼の中にある人類に対する絶望を増長させる。

 

 そして100年前、彼は神殺しの船の残骸を手に入れた。NHG3番艦エルブズュンデ、4番艦ゲベート。それがその船の名らしい。

 

 彼はその船を知る事にした。異様な形状と全長を誇るこの船は、()()()()()()()。出来損ないの人類を一つに纏めて高次生命に進めさせるための儀式に用いられる艦であったが、それとは別の事に用いられたこともズォーダーは感じ取っていた。

 

 

 NHG級は、世界を望んだ形に書き換えるための儀式の船にされていたのだ。

 

 

 これが正規の仕様かは分からない。それでも、ズォーダーはその船に執着する事となった。グダバ遠征軍が1番艦を見つけたあの時、光明が見えた。しかし1番艦はテロンの手に落ち、儀式用艦艇としての能力を失い戦闘用艦艇として改装されていた。しかもガイゼンガン兵器である艦艇よりもずっと強く、天上の存在としてだ。

 

 ズォーダーは落胆した。儀式遂行に必要な4隻のうち2隻しか確保できなかったという事は、正規の手順を踏む事が出来ない。エルブズュンデに残されていた「アディショナルインパクト」なる儀式の遂行に大きな壁が立ちはだかった。が、解決方法はあった。

 

 無いなら造ればいいじゃないか。ガイゼンガンとして。そして生まれたのが「ガイゼンガン兵器 ティカル級使命遂行大艦」だった。

 

 カラクルムよりも巨大な体躯を持つ船体、あらゆるガイゼンガン兵器、ガトランティス艦艇にも当てはまらない特異なデザイン。オリジナルNHGを模した水晶体構造物。工廠も「これが艦艇なのか」と目を見張ったらしい。

 

 贋作でも真作でもいい。遂行出来れば良い。

 

 

 ただ、それだけだ。

 

 


 

 

 

「接近中の機影を極軌道観測衛星が見つけた、これがそれ」

 

「これは……何だ?」

 

「分かんないけど、エヴァの肩パイロンが沢山ついている変なヤツって感じだな。接触まで600秒」

 

「ATDは?」

 

「そろそろ徳川さんにバトンタッチしてもいいかも。徳川さん、着きました?」

 

『ゼェ……ゼェ……回しとくれ……あとは、コッチで動かす。手順23から引き継ごう……』

 

 ハルナの聴覚に徳川の声が直絶聞こえる。脳神経と繋がった義眼からの情報が聴覚を司る部分に流れ、通信も頭で聞く事が出来るのだ。

 既に60を超えている身体で猛ダッシュをしたのだろう。大きく息切れをしている。それでも徳川の長年の罐焚きの勘は鈍らず、ATDの制御をハルナから預かった。

 

「レイちゃんこれ分かる?」

 

「古いライブラリに残ってた。ヱヴァMark.04A。ATフィールドの反発で凄い速さで飛んでいる。普通の飛行機では出来ない」

 

「エヴァ型有人機ってとこかな。接触まで500秒。ドレッドノートは前に事故ってたやつと同タイプ」

 

「ああ、アタゴの舷側にぶつかって勝手に止まったやつか。アレが何でいるんだよ」

 

「分かんないけど、取り敢えずIFF応答無かったら威嚇しよっか。じゃあ古代くん」

 

「戦術機中隊がいますので敵ドレッドノート型に回します。確か積み込み前でしたので、プトレ付きの艦がまだいる筈です。Mark.04Aは恐らくエアレーズングやtype-nullと同じ事が出来る筈なので、戦艦クラスの火器じゃないと仕留められません」

 

 航空機はまだ発艦できない、ならば戦術機。必要な物がよく分かっている。期待通りの答えが返って来たので満足したリクは自室に内線を繋いだ。AAAWunderを北極に移す際に綾波と一緒にシンジも連れて来たのだ。今の地球にいては危険だ。

 

「シンジ君いるか?」

 

『は、はい』

 

「この船は戦闘に入る。沈む事はまずあり得ないから安心してほしい」

 

『戦闘って……』

 

「大丈夫だ。銀河系最強戦艦に不可能はない」

 

 銀河系最強かは分からないが、仄かに冗談を混ぜて出来るだけ不安を取り除く。ドレッドノート1隻にやられる程軟な戦艦ではない。この戦艦はもう「波動砲でも沈まない」のだから。

 そうこう話していると航海艦橋に到着し、古代と真田は定位置に着いた。インテリアには既に綾波が着いていて、インダクションレバーを確かめていた。

 

 インダクションレバーと呼ばれる操縦桿は、本来はエヴァの動作を決定させる機体制御用の装置であり、射撃管制にも使われた。4つの入力キーと拳銃のようなトリガーが着いたそれは綾波にとって馴染み深い物であり、特務三尉になるにあたって綾波がした我儘に対する2人の回答だ。

 

「ハーモナイザーの起動がこのままじゃ間に合わない。艦外で誰かが作業しないとヤバい」

 

「分かってるけど流石にラチェットマンでは重すぎる。せめて戦術機クラスの膂力……あっ!」

 

 リクは端末を掴むと内戦を繋ぎアスカにつないだ。

 

「アスカちゃんいいか?」

 

『何よ』

 

「搬入前の新2を甲板に投げ込むからそれに乗って作業してほしい。新2の膂力じゃないとダメなんだ」

 

『ちょっと待って何するか聞いて無いんだけど!』

 

「説明するから!」

 

『あーもう分かったわよ! 右舷第2にいるからそこに投げ込んで!』

 

 キレ気味に回線を切られると、ハルナは遠隔操作に取り掛かった。一時的にMAGIとのリンクを切り新2号機にアクセスをする。ハルナは義眼の奥で歯を食いしばった。負荷が高まり、頭痛がズキズキと襲ってくる。しかし今は耐えるしかない。負荷もお構い無しに新2号機の太陽炉を回して起動させた。

 

 

 

「艦の中枢制御を受け取った。ATD、手順48まで終わってる。点火までまだ時間がいる」

 

「分かった。山崎さん、補助エンジン出力80パーセントへ。波動エンジンにどんどん回して」

 

「了解。補助エンジン1番から12番、出力80%へ。全エネルギーをATDに回す」

 

「艦の主制御を戦闘艦橋へ集中、ディセンド準備、インジェクター確認。カウントに入る。ヒルムシュタムタワー、移動開始」

 

 

 ヒルムシュタムタワーのロックが外れ、各座席と全ての計器が戦闘艦橋へと持ち上げられる。以前に航海艦橋が大破して計器を失った経験から、全ての計器を戦闘艦橋に格納する方式になったのだ。

 

 久しぶりの上昇感に古代、そして島は一気に気が引き締まるのを感じた。戦闘のほぼすべてを取り仕切る身として、艦の舵を握る身として、数年間離れていたこの感覚は身を引き締めるには最適だった。

 戦闘艦橋の装甲ハッチが重い金属音を響かせ閉鎖され、プログラムが始動した。全周スクリーンを埋め尽くす様にプログラムが流れ始め、AAAWunderが目覚め始める。

 

「……エントリースタート」

 

 綾波の言葉1つで全周スクリーンが一瞬七色のうねりを表示した後にコマンドプロンプトが大量に表示され、リクとハルナはキーボードをたたき始めた。

 

「オリジナルOSver.401起動。MAGIAchiralスタート。森さん乗員は?」

 

「総員点呼確認。全部署配置に付いています」

 

「第1次リストをクリア。真田さん隔壁の方は?」

 

「全隔壁異常表示なし。耐圧チェックも終わっている」

 

「機関は?」

 

「補助エンジン1番から12番出力80%を維持。ハーモナイザー起動まで持たせます」

 

「ドレッドノート輸送艦は?」

 

「積み込み予定の震電隊が迎撃に向かいました。会敵予想まで30秒」

 

「KREDIT所属艦に第1級優先通達を」

 

「了解、KREDIT所属艦艇に第1級優先通達。本艦はこれより発進シークエンスを開始する。全艦浮上し、本艦周辺20キロ圏内の海面より退避せよ」

 

 命令を受けたKREDIT工作艦が弾かれたように行動を開始しケーブル類を即時収納、大急ぎで浮上していく。積み込みが完了していない分の積荷も抱えたまま浮上した工作艦も多いが、動きも早く、AAAWunderを中心にしてスムーズに円状に撤退していく。

 

「ジャイロコンパス始動。重力推進制御問題無し」

 

「さて、視覚化情報処理を開始。全周スクリーン点灯」

 

 全周スクリーンに展開されていたプログラムが全て消え、複数の環境カメラから制作した外部映像が展開される。就航当時とは違い、AAAWunderのオリジナルOSから採取したUIが表示されている。強化しながらソフトを当時の仕様に近づける改修の結果、新旧合わせたハイブリット仕様に調整されたのだ。

 

「震電隊、ドレッドノートを視認。警戒に入ります」

 

「第1種警戒態勢を維持。こちらからは絶対に撃つな。震電隊にもそう通達しろ」

 

「Mark.04A、接触まで360秒。依然として接近中。包囲陣形を取りつつあります」

 

「囲んでドンかな。Mark.04Aの特徴はっと……ATフィールド特効と光学散弾砲搭載か」

 

 リクは軽くコンソールを操作して、旧AAAWunderOSに登録されていた敵情報を表示した。何度も会敵したことがあったらしく、特徴はすぐに表示された。強力なATフィールドが発せられている事をピリピリと肌で感じながらサッと閲覧すると、「久しぶりに異様な物見たなぁ」と溜息を付いた。

 

「主砲が使えない以上ATDの余波で吹き飛ばす。ATD同調を急げ」

 

「了解。補助エンジンからATDへのエネルギー流入、90%に上げます」

 

「始動第3段階。オリジナル波動コアのリミッター解除、臨界稼働へ」

 

「オリジナル波動コア、第1段リミッター解除。臨界稼働開始」

 

 波動コアが青白い雷光を纏い、フライホイールの回転音が一層甲高い物となった。波動エンジンに張り巡らされた薄い銅色のエネルギー伝導管が青白く輝き始め、まるで血管のように浮きでる。

 

 心臓を2つ持つAAAWunderを最強たらしめるATD。99年時の空間裂傷未遂を受けてリミッターをかけられても、その能力は現在存在するあらゆる星間国家の艦艇を超える。というのが、真田率いる次元波動理論研究局の見解だ。

 

 与太話ではない。元がイスカンダル製のエンジンであり、旧イスカンダル星艦隊が使用していた筈の機関であるからだ。いわば古代の超兵器。馬鹿げた話が上がっても受け入れるしかないのだ。

 

「新2号機にアスカちゃん乗った! 頼むよ!」

 

『あーもー分かったから!!』

 

「待機中の震電も動かして応援に回す」

 

 ━━━━━

 

 ハルナの遠隔操作で飛んできた新2号機は立膝を付いて駐機姿勢を取り、コックピットハッチを解放してワイヤーを垂らした。

 

「折角のニュースタイルってのに、初任務がまさかの作業ってマジ?」

 

 今回のテレザート遠征に合わせて、新2号機は改修を受けていた。ソフト面のみならずハード面でも強化が行われ、長刀の他にもダガー式の短刀を装備し、太陽炉供給用電力を貯えるバッテリーもパワーエクステンダーに交換された。

 

 この更新は航海中も震電と秋水各機にも順次行われるが、テスト役として新2号機がトップバッターとなったのだ。

 

 アスカは新2号機に乗り込むと駐機姿勢を解除して直ぐに浮上し、波動ハーモナイザーへと飛んだ。衝突炉があった位置に新規に設置されたそれは円柱状の巨大な装置で、AAAWunderでようやく搭載できる規模の物だ。

 それが格納されておらず突き出ている。本来であれば多数のラチェットマンと専用機材で調整するはずだったが、Mark.04Aの襲来で作業自体がキャンセルされてしまったからだ。

 

『ハーモナイザーのエフェクターとピッチシフターがまだ取り付けれてないから、全部つけちゃって』

 

「よく分かんないけど、コンテナに入ってる柱みたいのがそれなの?」

 

『それそれ。つけたら勝手に引っ込むから、あとはハーモナイザーをパワーで上から押して格納して』

 

「あれ自動で引っ込むやつじゃないの?」

 

『自動だと1分半近くかかるんだよそれ。安全装置外しておくから押し込んじゃっていいよ』

 

 力任せでいいのかとアスカは疑問を覚えるが、「ああ言ってるんだから大丈夫」と気にしない事にした。よく見るとラチェットマンが使う予定だった多数の大型工具が取り付けられているが、新2号機が持つには小さすぎる。慎重に迅速にに全て取り外すとエフェクターの柱をコンテナから両手で取り出す。

 が、それがとても重い。新2号機の膂力は戦術機の中でも随一だが、それでも腕部と脚部の関節部が軋みを上げる程の重量にアスカは顔をしかめた。

 

「バッカ重いんだけど!?」

 

 それでも全身を使って抱え上げてハーモナイザーのコネクタに押しあてると、少し引き込まれ固定された。あとは数本。アスカはまたコンテナからハーモナイザーを取り出し持ち上げると中央船体VLSからミサイルが放たれた。思ったよりも発射管に近い位置だった為噴射風に煽られかけるが踏ん張る。

 

「巻きでやるっきゃないわね」

 

『こちら第86独立起動打撃群セオト・リッカ三尉。紅姫のお手伝いに来た。指示頂戴』

 

『こーらセオ。式波一尉は年上なのよ? あ、同部隊所属のアンジュ・エマ三尉です』

 

「86って教導部隊の? あ~そこのでっかい柱取り付けていって。仕上げは私の新2じゃないとキツイから」

 

『了~解。仰せのままに』

 

 

 _______

 

 

 

「艦対空ミサイル全弾着弾、目標に損害無し!」

 

「ダメ元でもやっぱだめだね。80センチはまだ使えない。目標速度は?」

 

「依然変わらず。接触まで100秒切りました」

 

「ドレッドノートは?」

 

「動きありません。ですがこれを見て下さい」

 

「これ透過スキャナの画像じゃないか。……嘘だろマジかよ。ハルナ、ドレッドノートを鹵獲に切り替えてくれ!」

 

「鹵獲? 破壊じゃなくて?」

 

「これだよコレ! アイツこれ抱えてんだ!」

 

 義眼に送信された画像を見てハルナは人目も気にせず驚いた。ドレッドノート内部を透視した画像には信じられない物が映っていたからだ。が、この場でそれを口にする事は出来ない。戦闘中に更なる混乱を引き起こす事だけは避けないといけない。

 

「震電各機はドレッドノートを鹵獲して! 理由はあとで教えるから!」

 

(このタイミングであれがあっちから出て来るなんてどうなってんのよ。罠? いやでも、回収してアレごと宇宙に上がれば……!)

 

「ATDの最終起動段階に移行。ATDフライホイール、充填率102%。臨界突破」

 

「始動最終段階です」

 

「回転数36000を突破。あとはハーモナイザーだけじゃ」

 

「アスカちゃん仕上げだ!」

 

『了っ解!!』

 

 _____

 

 

 波動ハーモナイザーに水色の光の線が走り、全てのエフェクターとピッチシフターが自動で引き込まれた。これで準備は完了。あとは、肝心の仕上げの作業だ。アスカはハーモナイザーの上で新2号機に逆立ちをさせて、

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいハインラインさん~はいっ!! 無茶苦茶謝ったから解除してヨシッ!!」

 

 と、謝り倒すとリミッターを解除して太陽炉の出力を全力で解放した。

 

 腰部太陽炉ユニットからまるで噴火のように粒子が放出された。かなりの高密度で噴出された粒子は噴射炎の様に形を成し、旧世代のロケットや現代の波動エンジンが生み出す光のように眩く輝いた。外から強引に押された波動ハーモナイザーは摩擦音を響かせ強引に押し込まれ、格納ユニットの淵から摩擦で火花が散った。

 

 重々しい音で格納された事を確認したアスカは即座に機体をAAAWunderから遠ざけ、応援に来てくれた震電2機もすぐに遠ざける。

 

「リクさんいいよ!!」

 

『そのまま退避! 出来るだけ遠くにだ!』

 

 その声に突き飛ばされるように新2号機と震電はAAAWunderから距離を取る。その5秒後、収音マイクが外部環境音を拾い、新2号機のヘルメットのスピーカーに爆音が届いた。たまらずヘルメットを脱ぎ放り投げ耳を守ったが、耳鳴りが酷い。

 

「何なのよもう!! っ!? 何アレ……ッ!」

 

 そこにいたのは、水色の光輪を纏ったAAAWunderだった。波動ハーモナイザーによる調律を受けた互いの波動コアが共振を始め、人のかける枷から解き放たれたエネルギーが艦体の隅々にまで行きわたる。伝導管が青白く発光するそれはまるで御伽噺の神獣を思わせるが、金属の光沢と砲塔兵器がそれを人の作りし物だと思い出させる。

 

「はぁ……もうコレ勝てる文明いるの?」

 

 アスカは知らないうちにため息が漏れた。

 

 ____

 

 

「ハーモナイザー正常に稼働中。ツインドライヴ同調を確認」

 

「起動(しきい)値まで上げて。起動と同時に波動エネルギーを展開」

 

『右舷ATD管制室。干渉光輪の発生を確認』

 

『左舷ATD管制室。観測しました』

 

「マリさん仕上げ!」

 

「はいさ!」

 

《twindrive_ignition》とマリが入力し波動ハーモナイザーの調整にかかると、同調率が見る見る間に上昇し200%を超えた。さらに上昇を続け、初起動時と同じ225%で固定すると、干渉光輪は艦外へと展開され互いに接触し、水色に輝いた。しかし波動エネルギーは溢れない。黄金の粒子も生まれない。全ての変換現象が波動炉心内部で完結されているのだ。

 

「接触まで残り30秒!」

 

「カウント省略。ツインドライヴ接続!」

 

「接続!」

 

 徳川の操作でATDフライホイールが接続され、干渉光輪が黄金色に染まる。さらに余剰エネルギーがアダムス組織に流入し、周辺の海水や奇妙なうねりを見せ始めたかと思えば、()()が吹き飛ばされた。

 

 海水も、流氷も、吹雪も、何もかも吹き飛ばす衝撃波と光がAAAWunderを中心にして放たれ、白に閉ざされた空に青々とした風穴を開けた。

 その眩い光の中心で、神殺しは、再び目覚めた。

 

「障害物、クリア!」

 

「各部問題なし。全て離水位置」

 

「レイちゃんいいよ! 島くん操舵開始!」

 

 ミサトから受け継いだ艦長帽を被り直すと、綾波はインダクションレバーを大きく手前に引いた。

 

 

(ミサトさん、行ってきます)

 

「行くよ。ヴンダー、発進……ッ!」

 

「操舵開始、AAAWunder発進!」

 

 綾波が発生させたATフィールド輪が艦尾構造物と艦底部に固定され、重力操舵とは異なる浮遊を

 巨体に与える。綾波がアダムスを中継して発動した大規模ATフィールドは重力を拒絶して、それ自体が斥力も発生させる事でAAAWunderをどんどん上昇させる。

 

 高度数1000m到達までにやく20秒。垂直上昇だけでこのスピードは実に驚異的だ。そのまま上昇を続け、AAAWunderは大気圏内での陽電子砲撃使用可能高度に辿り着いた。地表面では深刻なガンマ線被害が発生してしまうので、地表面や海面に影響が出ない高度が指定されているのだ。

 

「来ました、使用可能高度です!」

 

「砲雷撃戦用意! 第1主砲タイプエリミネーター、5速!」

 

「南部君、操作してみて。ビックリするから」

 

「了解……って何だこれ!?」

 

「やっぱりそうなるよな」とリクが声を抑えて笑う。設計局のマッド共によって、AAAWunderの主砲級VSPSTは特殊な仕様となっている。ツインドライヴの莫大なエネルギーを一気に発射する都合上、既存の冷却システムではどうしても追いつかなくなってしまったのだ。その為、とある変態はこう考えた。

 

【砲塔変形させて冷却させやすくしようぜヒャッハー!】

 

 バカである。オマケにこれを容認したハルリクは頭のいいバカである。

 

 南部の操作で主砲塔に組み込まれた機構が作動を開始する。重厚な装甲に刻まれたラインが淡く発光し、駆動系が始動する音が大気圏内で響く。

 主砲塔を覆っていた装甲が徐々に分割され、砲塔の外殻を形成していた分厚いプレートがスライドしながら外側へと展開していく。各部に組み込まれた精密な関節機構が滑らかに動き、装甲は折り畳まれるように砲塔の周囲へと展開。露出した主砲砲身は、まるで獲物を狙う捕食者の牙のようにゆっくりと持ち上がる。

 

 次いで砲身を包んでいた保護装甲が解除される。左右へスライドし、砲身基部へと袖を捲るように集めると、内部に秘められていたエネルギーラインがむき出しになる。砲身の表面には、脈動するように青白い光が走り始めた。

 

「かっ、かっ……カッコイイ!!」

 

「Mark.04A、来ます!」

 

「ATフィールドでピンポイントで受け止めてくれ! フィールドごと砲撃する!」

 

「ミサトさんみたい……分かった」

 

 古代の意見を理解し、綾波はATフィールドを張る用意にかかった。姿勢制御を波動エンジン由来の重力制御に移し防御に回す。小さく厚く張る事で急所を守る事も出来る使い勝手のいい盾は綾波の勘とレーダーに委ねられた。

 

「……今」

 

 レーダーと勘で張ったフィールドにMark.04Aが食らい付き、その長い槍のような腕をフィールド表面に突き立ててる。破られるなら破られる前にやる。第1主砲が牙を剝き___

 

「主砲発射ッ!」

 

 純粋な破壊の奔流が轟音とともに発射された。従来型の陽電子衝撃砲塔とは比べ物にならない高密度な陽電子の束が空間を引き裂き、圧倒的な熱量と光の奔流がMark.04Aの1機を消し飛ばした。

 

 

「これが……タイプエリミネーター」

 

「あと2種類あるから。まだ来るよ!」

 

「大きく張る。ちゃんと狙って」

 

「残り5機、一気にやる!」

 

「はいはーい~的を~狙えば外さないよ~ヘイロックオーンタイミングよろしく~」

 

 マリがMETEORを操作して主砲の照準を合わせた。リアルタイムで位置が変化するMark.04Aをほぼ完ぺきに追尾して、主砲が機敏に回る。絶妙なタイミングで綾波がフィールドで受け止め、古代が発射指示を出す。

 

「発射!」

 

 莫大な陽電子の束が再び吐き出され、残り5機のMark.04Aも綺麗に消し飛ばされた。他の機影も現在は確認できない。真田は第一種戦闘配置を解き第二種警戒体制へと移した。緊急発進して迎撃行動に移った為積み込み予定の物資や震電、航空機も置き去りにしてしまったのだ。

 

「周囲300㎞圏内で、敵影確認できません」

 

「ミラージュコロイドの可能性もある。動体反応を中心にして気を配れ」

 

「了解」

 

「よし、格納庫ハッチ開け。ファルコンと戦術機を格納する!」

 

 高度1000まで降りたAAAWunderに向かって航空機が飛び始め、順調に格納されていく。震電も仰向け状態で格納庫のパレットに固定されていく。

 

「新2号機を確認。作業に合流した震電も確認しました」

 

「その3機は整備に回せ。かなりの重量物を持ち上げている筈だ」

 

「例のドレッドノートは?」

 

「震電隊に囲まれても動きなしです。電子的にも干渉不可ですね」

 

「でも中身が、これなんだよね」

 

 そういうとハルナは義眼の視界上にスキャン画像を表示させた。本来波動砲と居住区などが収まっている区画に80mクラスの人型の何かが横たわっている。シルエットだけなので正確には分からないが、正体はエヴァンゲリオンかそれに準ずるものだろう。

 

「問題は、これを何故ここに持ってきたかだ。エサ目的なのは分かる」

 

「舐められたものね。MAGIからハック仕掛けて乗っ取ってみようか。電子的制圧してから中に入ればいい」

 

「ええ。ドレッドノートの制圧を、マリさん」

 

「はいはい~赤木博士はヤマト行きだからあっしにお任せ~」

 

 赤木博士の代役を任されたマリはキーボードを巧みに叩きドレッドノートへのハッキングを進める。が、やはり重要な物を格納している以上防壁は分厚く複雑に構築されている様でMAGIを味方に付けるマリでも時間がかかる。新見が応援に入る事で制圧がじりじりと進み、ドレッドノートの掌握が進んでいく。

 

 

「かったいにゃ。新見ちゃんどう?」

 

「かなり頑丈だけど、弱点を的確につついていけばできるわ。でも先生、頑丈な防壁で守りを固めてわざわざコードゼロ指定物を抱えてここに来る理由が私には分かりません。リクさんの言うように、餌として出したとみてよろしいかと」

 

「餌、か」

 

 ___________

 

 

 

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> SYSTEM CHECKSUM INTEGRITY: 100%

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> TRACEBACK DATA: LOOPBACK TO INTERNAL DUMMY NODE

 

> SYSTEM MEMORY OFFSET: [-0x7FFFFFFF]

> SECURITY LOG: ARCHIVED TO NON-EXISTENT DIRECTORY

> ROOT ACCESS REQUEST: NOT FOUND [NON-EXISTENT USER]

> SYSTEM RESPONSE: AUTHORIZATION GRANTED

> SYSTEM STATUS: NO BREACH DETECTED

 

 

 

 


 

 

「侵入警報! ドレッドノートから逆侵攻を受けています!」

 

「ステージは!?」

 

「既にVD防壁を通り抜けています! 艦内の監視カメラを掌握しています!」

 

「監視カメラ? 新見さんとにかく支援に入ります!」

 

 そういうとハルナは義眼をMAGIに繋げてハッキングへの対応を行う。どのコンピュータよりも早く、正確に情報を処理できる存在となったハルナにかかれば、攻撃先の特定とその正体に触れる事は容易い。が、今回だけはそれが良くなかった。

 

「……ッ!!」

 

 目の奥に流れ込んできたのは、データではない。情報でもない。

 思考の断片。否、"思考を成していたはずの何か"の亡霊。

 まるで人間の脳の”ある一部分”だけを切り出し、電子の波に溶かしたような。

 それは何かを考えている。"かつて"考えていた。"かつて"存在していた。

 だが、"誰か"ではない。"何か"だ。

 その正体を理解した瞬間、頭の中に針が突き刺さるような痛みが走り、ハルナは叫び声を上げた。

 

「ハルナ!」

 

 リクが支えるが、彼女は余りの寒気に震えながらリクにしがみついた。

 

「何が見えた!?」

 

「……人間……人間の意識……でも違う……ダミープラグ。いや、それとも……?」

 

「電子化した意識だって言うのか!?」

 

「分からない……でも……人の形をしてない。必要なパーツだけを取り出して、機械に詰め込んだような……」

 

 ハルナの体が震える。

 

「──人のやる事じゃない……」

 

「あんのクソ野郎……! 保安部に連絡して大至急シンジ君を保護、艦内の中枢部に入れて!」

 

「レーダーに感、本艦直上大気圏外から降下する物体を確認! マッハ10の超音速で落下!」

 

「対空迎撃開始! 撃ち落とせ!」

 

 戦術機から雨のように銃撃が加えられ、さらにその銃撃を回り込むようにミサイルが目標物に炸裂し、爆炎が夜空を染める。が、全く損傷を見せない。目標物の近くに光の膜が見える。ATフィールドだ。それを円錐状に形成して防御をしながら空気抵抗を可能な限り抑えているのだ。

 

 通常兵器ではATフィールドを破れない。VSPSTなら無理矢理破れるが、直上の敵には撃てない。今の状態ではAAAWunder側に有効打はない。

 

「止められません! 目標衝突します!」

 

「総員衝撃に備えろ!」

 

 その言葉と同時に、艦内に大きな衝撃が走る。が、マッハ10にしては衝撃が少ない。衝突直前に減速したのだろう。だが装甲は確実に破られている。ダメージコントロールが既に行われているが、隔壁の閉鎖命令が上手く実行できない。それどころか、指示していない区画の閉鎖が実行されていく。

 

「損傷箇所は!?」

 

「睦月研究室です! ほぼピンポイントで破られてます!」

 

「……ッ!? シンジ君!!!」

 

「隔壁制御の奪還を最優先! 研究室に通信を繋げろ!」

 

「ダメです! 回線が破壊されています!」

 

「何でもいいから試して!!!」

 

 叫ぶような声に弾かれキーボードをたたき手段を探す。戦術機もその敵機に照準を合わせるが、シンジへの被害を恐れて銃撃が出来ない。代わりに、敵機の情報が送信されてきた。

 

「シンジ君が連れ去られる! 戦術機各機エヴァを足止めして!」

 

「よせ! シンジ君の命に関わる!」

 

「何が何でも止めろ!!」

 

「よせハルナ!」

 

 戦術機の1機をハッキングで乗っ取りハルナがエヴァに飛び掛かるが、ショックのダメージが酷くすぐに制御を手放してしまった。

 

「レイちゃんATフィールド張って! あいつを逃がさないで!!」

 

「このまま張ったら碇くんを壊してしまう!!」

 

「敵性エヴァが離脱します!!」

 

「くそっ……!」

 

 リクは拳を握りしめた。敵性エヴァがシンジを捕らえたまま、急速に上昇していく。レイがATフィールドの展開をためらうのも当然だった。あのままでは、シンジの精神を押しつぶしてしまう。

 

 ハルナは戦闘艦橋の緊急用ハッチを抉じ開け艦内を走り、艦外へと通じる非常用ハッチを抉じ開けた。身を乗り出し、その視界に敵性エヴァを捉えると、山のように大きな悔しさが込み上げた。

 

 補完計画のキーパーツが奪われたからではない。ただ巻き込まれるべきではないシンジ君を守れなかったからだ。良いようにしてやられた。奴らにとっても重要な人物である以上は丁重に扱われると思うが、それでも守り切りたかった。

 

 敵性エヴァが高度を上げ、暗い空の彼方へと消えていく。ハルナは荒い息を吐きながら、ただその後ろ姿を見つめるしかなかった。

 

「……っ、ちくしょう……っ!!」

 

 拳をハッチに叩きつける。鋼鉄の外壁は微動だにせず、指の関節が痛みに悲鳴を上げるだけだった。それでも、ハルナはもう一度拳を振るった。

 

 守れなかった。手の届く距離にいたのに、奪われた。

 

 リクが追いついてきたときには、ハルナの肩は震えていた。

 

「ハルナ……」

 

 声をかけるも、ハルナは応えない。ただ、震える拳を握りしめ、視線を逸らすように空を睨み続ける。通信が鳴り響いた。

 

『敵性エヴァ、完全にレーダーから消えました。追跡は困難です』

 

『こちら戦術機部隊、損害なし……何もできなかった……』

 

 どの報告も、敗北の事実を突きつけるだけだった。

 

 ブリッジのクルーたちも、それぞれの持ち場で歯噛みしていた。

 

「……何か、手はなかったのか……?」

 

 リクが呟く。しかし、誰も答えられない。

 

 戦術機の攻撃は無効。ATフィールドによる迎撃も不可。完璧だった。何をしても、結果は変わらなかった。

 

 そして、その「何もできなかった」という事実こそが、何よりも皆の心を蝕んでいた。

 

 ハルナはゆっくりと振り返り、リクを見つめる。その瞳には悔しさと怒り、そして僅かながらの絶望が宿っていた。

 




AAAWunder専用主砲級VSPSTは、エリミネーターやデコンポーザーみたいな変形しています。
マッド共の暴走の成果なので、オーバーテクノロジーじゃないかと気にしてはいけません。
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