宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
第三新東京市 デイブレイク
「会長! 動きありました!」
「報告を」
「それが……保護対象が、エヴァタイプ未確認機によって拉致されたとAAAWunderから報告が上がりました」
「……?! 人類史上最強の要塞だぞあの戦艦は!」
「情報によると、エヴァタイプ未確認機による直上からの垂直落下による強行突破でAAAWunderの外壁をピンポイントで破壊し、拉致したとの事です。睦月ハルナさんの証言によると、生体パーツを用いた操作システムを用いていたらしいです」
「そのハルナくんは?」
「かなり落ち込んでいます。部屋が壊されたので別の人の部屋に籠っていて……」
「今は時間が惜しい。構わないから通信要請を出してくれ」
AAAWunder
マリの個室
「____間に合わなかった」
「ハルナっち。アレはどう考えても無理。人間の意識がMAGIを騙してしまった以上アレは切り返せない」
「私なら演算で制御を取り戻せた」
「知ってる。でもそれは強烈な負荷がかかるし最悪脳が焼き切れる。今だって負荷を誤魔化しながら使ってるんだから無理なのは分かってるだろ」
「でも!!!」
マリのデスクに打ち付けた拳は赤くなり、痛みがジンジンと伝わる。自分の研究室が壊されてしまった今は休める場所がなく、強引に連れ込まれる形でマリの部屋に来たが、ハルナの肩には悔しさと少しの絶望が大きくのしかかっていた。
それを感じる事が出来ないリクではない。彼もあらゆる方法を考えてシンジ君の奪還を考えたが、敵性エヴァの動きの速さに方法が追い付かなかった。その痛みはハルナの痛みであり、リクの痛みでもあった。
だから、やる事は1つ。リクの心は決まっていた。
「ハルナ、顔上げろ」
「______」
「ああもう!」
リクは両手でハルナの頬を挟み込み、無理矢理顔を上げさせた。ここまで落ち込んだハルナは見ていられない。強硬手段に出たリクの目には少しの怒りがチラついていた。
「どの道SEELE殲滅で俺は残る予定だったんだ。SEELEを潰すついでに碇ゲンドウを確保してシンジ君も保護する。あのクソエヴァに仕事増やされてイラついているんだ俺は。どの道AAAWunderはテレザートに行かなければならないし、ここには残れない。合同協議で艦の運用するならいつまでも落ち込むな! だからその痛みを半分渡せ。何兆倍にもしてSEELEにぶつけてやる。戦術機を大隊規模で借りて地面を蜂の巣にしたっていい。ミサイルでも三式弾でも何でも使って壊滅させてやる」
「ちょっと待ってストップそこまで求めないから!」
どんどん過激な方向に話が進んでいく事を感知したハルナが咄嗟に止めた。すると、止められるのが分かっていたようでリクは険しい顔から普通の顔に戻った。
「ようやく普通のお前らしく戻った。蜂の巣とまではいかないが、やる事やったら徹底的に焼いておく。どの道一般にバレたらまずいからな。そうですよね月村会長」
『そうだ。と言うか君そこまで考えていたのかい?』
「施設を焼く事は。空間騎兵と戦術機使う事は一応ですが」
『最大限用意してみよう。それと、そちらで鹵獲したドレッドノートのエヴァは必ず持って行きなさい』
「あのエヴァを?」
『ガミラス大使館から追加提出された情報によると、テレザートの封印が解けて見えている背景には、第1始祖民族と呼ばれる文明が関わっている。その封印に干渉出来る可能性があるのが、エヴァンゲリオン。使徒のコピーだ』
使徒のコピー。嘗てミサトがハルナに話したオリジナルエヴァンゲリオンは、アダムかリリスのコピーとされた。恐らく確認されたエヴァも使徒かそれに由来するもののコピーだろう。1から神を創造する事は不可能の筈だ。
「Mark.06との関連は?」
『分からない。が、それを基にして建造されたんじゃないかと推測している。現にお手本があるからね』
「____分かりました。取り敢えず僕はこのまま地球に残りSEELE殲滅を行います。半分引き受けましたから」
『その半分をまた分割して私にも分けてくれないかな?』
「ありがたいんですけど、これは自分で処理します」
『分かったよ。では』
月村からの通信が切れると、リクはハルナをようやく解放した。少しひりひりする頬を擦り、いつも通りに少し近づいた眼差しをリクに向ける。
「と言う事だ。エヴァは持ってって。乗るのは……ハルナ? レイちゃん?」
「まだ分かんないよそんな事。鹵獲機の状態も確認できてないんだから。シンジ君はお願い。何かされる前に救い出して欲しい」
「さっさと終わらせて合流する。あとは、エヴァ初号機の回収くらいだな」
「鹵獲機はもっと別の機体かも。わざわざ一番重要な機体を使う?」
「ないな。シンジ君追いかければ自然と見つかる。多分セットにしたいんだろ」
「あの鹵獲機はプロトタイプ?」
「んー多分。Mark.06をお手本にして造った試作機ってとこだろ。調べりゃわかる話だ」
「あーお2人さん? 私のいる前でほんのりいちゃつきながら超高速論議するのはご勘弁にゃ」
如何やらいろいろと論議をすっ飛ばしていたみたいだ。呆れたような笑みのマリが割って入り一時停止させた。どうにも最近、気が付いたら膝の上に座ってたりバックハグしていたりする。大きすぎる愛はいかがなものかとハルナは気にしているが、それを動揺する事なく受け止めてくれるリクに頼りっきりになってしまっている。
「じゃあハルナ。残り全部伝えたから、そっちは任せた。こっちは任せろ」
「任せて。あ、出発前にさ……借りたいものがあるの」
「?」
___________
「地球重力圏を離脱。火星軌道上で、本艦は天王星に向けワープテストに入る」
「天王星?」
「99年時の航海と同じだよ。ATDでの先にワープテストをしないといけないの。ツインドライヴでワープなんて初めてだから。あのヤマトもやった事ないんだよ?」
「なるほど。でも、あの壁がある以上は一気にワープで抜けられないんですよね」
「そうそう。ガミラス臣民の盾。ワープ阻害機能と単純な防御力に極振りした防御装備。今のところはガミラス限定装備だけど、それも第2世代で持ち運べるように打診してもらってる。許可が下り次第うちの趣味人達が作ってくれるよ」
「ドレッドノートは?」
「取り敢えずオオスミって名前を付けて重力アンカーで括りつけてる。今はマリさんにエヴァの調査をしてもらってるよ」
ドレッドノート型エヴァンゲリオン輸送専任艦オオスミ___と言うのが、暫定的な名前だ。内部の居住区画、波動砲、その他弾薬や砲塔基部までも取り払いエヴァを格納する事だけを考えたこの艦艇はAAAWunder預かりとなり、このまま宇宙の旅についていく事となった。
ご丁寧にエヴァの整備能力も持ち合わせていた為、万が一作戦行動で損傷してもある程度の修繕は出来るだろうというのが、マリの見解だ。
「月面基地より通信。増援の飛行隊の合流許可を求めています」
「後、藤堂長官から追伸。旧大戦の遺産の回収が終わったからKREDIT艦に積載して送るって。ランデブーポイントは火星沖」
「許可してくれ。合流を確認次第、格納庫ハッチを開き収容する。で、その遺産って何ですか?」
「内惑星戦争時代から使われて、ガミラス戦争でも効果のあった兵装ね。一応用意はしているのよ、使う用意は。でもそのプローブは各衛星や小惑星の集積基地に分散配備されていて、KREDITで回収艦隊を編成してありったけかき集めてようやく集まったのよ。で、それの運び込みね」
「フン……戦力の充実は悪い事ではないが、なるべく急いだほうがいい。現にこの戦艦は複数の思惑に狙われている。先程の攻撃もそうなのだろう?」
「流石駐在武官。さっきのクソとガトランティスが欲しがってるってとこかな。あとはコッチ絡みのめんどくさそうな中年から」
ワザとらしく大きく伸びをすると、ハルナはキーマンの顔を見てこういった。
「ガミラス側が欲しがるとは思えないけど、あなたがこれに乗ってきた理由って何なんだろうね。バレル大使からのお願い? うちの上層部?」
「バレル大使からの要請だ。それ以上も以下も無い」
「なら、今はそういう事にしておこうかな」
(下手な真似はしないでね、甥っ子さん)
そっとキーマンの耳元に顔を寄せたハルナは少し驚かせた。いや、少しどころじゃ済まない。その素性は長い間隠し続けてきたはずだ。それを知るのは今はバレルを始めとしたガミラス政府上層部だけだ。
(なぜ知っている!?)
キーマンは警戒の視線をハルナに向けるが、それを意に介せずハルナは航海艦橋を後にした。
サイズの合わない上着を着直し、橙色の石がはめてあるブレスレットを手首に巻き直す。
少しだけ肌寒いと感じて腕を擦るが、気温から来る肌寒さではないと理解して諦める。
近くにいて当然だった存在が、今回はいないのだから。
「お母さん」
「レイちゃん___ごめんね。シンジ君、間に合わなかった」
「とても悔しい。でも、お父さんが探してくれている。だから、今はお父さんを信じる」
「そうするしかないよ。でも……悔しいよ」
ハルナはエレベーターホールの長椅子に座ると自分の膝をポンポンと叩いた。
意図を察した綾波がハルナの膝に座ると、綾波は抱き枕にされた。
「ごめん。ちょっとだけこうさせて」
「___恥ずかしい」
「ゴメンって言ったから」
綾波も嫌じゃない。むしろこうされている時は落ち着くのだ。
でもいつもと何か違う。この違和感は何だろうと原因を考えると、その違和感はすぐに分かった。女性ものの艦内服の上から男性用の上着を着ているが、明らかにサイズがあっていない。
理由もなくこうする人じゃないと分かっている綾波は、本来の持ち主は誰なのかすぐに理解した。
「お父さんの服?」
「借りてきたの。寂しいから」
彼の匂いが欲しかった。とは綾波以外には言えないだろう。
任せたと言って1人で頑張ろうと思っておきながら心の底では求めてしまって、どこか恥ずかしい。
そういう事を吐露出来る人が今は少ないのだ。
「言っていいと思う、そういう事。お母さんでも、子供に愚痴を言っても良いと思う」
「我が子に愚痴るって変な感じね」
「聞くからいい」
「複雑、でもありがとう。___ってあれ?」
義眼宛に映像通信が入り、ハルナは通信を開いた。
聴覚神経にダイレクトに響く音声にもようやく慣れてきた。
バンダナをずらして投影情報を見やすくすると、いつになく真面目な顔のマリが投影された。
「マリさんどうしたの?」
『ハルナっち……この機体、本物かもしれない』
「本物って、まさか!?」
『綾波ちゃんの言ってたやつと大分見た目違うけど、中身がモロそれかも!』
「さて、始めるか」
サイズの合わない上着を腰に巻いたリクは一度極東に戻っていた。必要な情報を集めるためだ。ハルナを落ち込ませ、シンジ君を連れ去り、過去には親族にも手をかけたSEELEを「許す」という選択肢はなかった。
絶対殲滅。それだけを考えていた。だが……
(手段選ばずに終わらせたらバレるんだよなぁ……爆撃とか暗殺とかダメだろ……)
何でも分かってしまう伴侶がいるから、まともそうな方法を使うしかない。
「来てもらってすみません。ヤマト配属なのに」
「構わないわ。藤堂長官も了承済みよ。よし、データ出たわ」
赤木の操作で襲撃当時のデータが表示された。極軌道観測衛星がとらえた情報ではどうしても足りず、AAAWunderのセンサー情報とハルナの視覚情報と綾波の証言も全て回収された。そしてそれらを纏めて表示されたのは、あり得ない答えだった。
「使われたのは、Type-nullね。レーダーに引っかからなかった事を考えるとミラージュコロイド装備で、その後重力を無視して飛んでいたのは、これね」
更に表示したのは、AAAWunder周辺の重力偏移図だった。AAAWunderも周辺の重力を無視して飛ぶ都合上重力偏移が発生するが、それにヘンな偏りがある。
「あ、この位置って」
「Type-nullの位置ね。恐らくはこの腰に付けている固定翼みたいな装備で飛んでいるからこうなってる。便宜上アレゴリックウイングと呼ぶけど、これで逃げたと考えるべきね」
「その場合、シンジ君は無事でいられるのか?」
加持が質問を入れるが、赤木は何てことない顔をする。
「SEELEはシンジ君に利用価値を見ているのよ。雑な手段で拉致をするとは考えにくいわ。でも問題は、ガミラスの国家機密の機体がこんなところで使われているという事ね。大使館に連絡した方がよさそうね」
「ええもちろん。月面に用があるのでついでに話を聞いてきます。聞いても良い答えが返ってこないかもしれませんが」
「知らないって事?」
「フリじゃなくて本当に知らないって事です」
______
「……我がガミラスの機体が、使われたと?」
バレル大使の声は冷静だったが、確実に動揺の色が滲んでいた。
リクは穏やかに頷く。
「99年の航海で確認されたType-null。まさか、こうして敵対するとは思いませんでした。Type-nullの動向、何かご存じでしょうか?」
バレルは静かに首を振る。
「……何も聞いていない。Type-nullを運用していた第101部隊は、第2バレラス崩壊後に解体されている。それ以降の報告は受けていない」
リクはじっとバレルを観察する。
(……これ、マジで知らないって感じだな)
ATフィールドの揺らぎを感知したが、それは"嘘をついている"ときのものではなかった。
(「何それマジで知らない」って思ってる人の揺らぎ方だ)
リクは警戒を解き、ソファへ腰掛けた。
「貴方が嘘をついていないことは分かりました。安心してください、問い詰めるつもりはありませんよ」
バレルが目を細める。
「……本当に嘘かどうかが分かるんですね?」
「まあ、心を読む力じゃないですが、"真意"程度なら分かりますよ」
リクは軽く微笑み、続ける。
「ちなみに、ハルナはもっと凄いですよ。今頃、キーマン中尉は警戒してるでしょうね。あの駐在武官はデスラー家の甥っ子さんだって」
バレルの表情が微かに動く。
「君たちは……どこまで知っている?」
「色々ですね、本名はランハルト・デスラー、デスラー家の甥っ子で、何らかの理由で現在は名前を変えている。現在はガミラス保安情報局内事部に所属する捜査官で、テレザート行きに誘導したのはガミラスなりの意図があっての事。デスラー体制復活派の信頼を得てその首謀者に辿り着きたい。まだ言いますか?」
リクは肩をすくめ、軽い調子で言った。
「デスラー家の血筋がいるという情報は、それだけで結構な爆弾でしょう? でも、知ってるからといって騒ぐつもりはないです」
バレルは少し間を置いてから、静かに言った。
「その話題に深入りするのは……やめた方がいい」
「分かってます。だからこそ取引をしましょう」
バレルの表情がわずかに引き締まる。
「取引……?」
「僕は、ランハルト・デスラーの件を完全に忘れる」
リクは静かに言った。
「デスラー体制復活派摘発のための調査も、彼の存在に関する一切の情報も、何も知らないふりをする」
「……見返りは?」
「単純です。Type-nullの情報をください」
バレルは目を細めた。
「見合う交換とは思えませんが」
「まぁそうですよね。国家機密級の機体情報ですから。でも十分釣り合ってますよ」
リクはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「今の共和政になった政権にとって、デスラー体制復活派の存在は依然として厄介な問題のはず。そして、彼の血筋が地球にいるとなれば、問題はより複雑になる。地球側にこの情報が広まれば、"新たなデスラー後継者が現れた"と騒ぎ立てる勢力が出るのは避けられない」
「……」
「ましてや、デスラー派の復活を望む連中が、それを理由に活動を活発化させる可能性もある」
バレルは静かにリクを見つめていたが、何も言わなかった。
「そうなれば、ガミラス政府は余計な対処を迫られることになるでしょう。正直、あなたも面倒なことになるのは避けたいんじゃないですか?」
「……随分と交渉慣れしているな」
「器用にやってるだけですよ」
リクはさらりと言った。
「だからこそ、この話をここで終わらせたい。そして、僕にはもう一つ知りたいことがあります」
「何だ?」
リクは端末を取り出し、1枚のイラストを表示する。
——紫を主体に、黄緑のアクセントが入った80メートルの巨人。
それはまるで、Type-nullの進化形のようにすら見えた。
「……これは?」
「ヱヴァンゲリオン初号機。地球製の機体です。協力者の記憶を頼りに描き起こしてみました」
バレルの表情が明らかに変わる。
「……何が目的だ?」
「単純な情報収集です。月軌道にも侵攻できたガミラス艦が、この巨人を目撃しているはずです。映像、音声、報告書、証言……残っている記録をください」
「その情報を渡せば、君は"デスラーの甥"について何も言わないと?」
「ええ。"知らなかったこと"にします。そちらにとっても、悪い話じゃないでしょう?」
リクは穏やかに笑った。バレルはしばらくリクを見つめた後、ふっとため息をついた。
「……分かった。だが、これ以上深入りするな。君も、自分の身を守るために」
「死神とは顔見知りな方なので、危ない橋を渡っても嫌な顔して支えてくれそうです。でも、あまり会いたくはないので程々にします。服返さないといけないので」
「服?」
「ハルナに僕の上着貸してまして。今日は正装ですが、そうじゃない時はハルナの上着を腰巻にしているんです。ちゃんと再開できたら返すって約束してまして」
国家機密のやり取りの後に差し込まれたささやかな約束。バレルはその落差に置いて行かれそうになったが、彼も決して冗談で言ったわけではないと自身の感覚が捉えていた。下手をすれば地球どころでは済まず地球とガミラス間の問題を引き起こす重大事案だが、行動原理が余りにも日常的で穏やかだ。
──いや、だからこそ、か。
戦いを始める者が持つべき“理由”としては、十分すぎるほど強固だった。
「ハルナっち~! こっちこっち~!」
慣性制御の効かない格納区画ではしゃぐマリは年甲斐もなくはしゃいでいた。次元断層以来のエヴァンゲリオンは、見上げてもその頭が見えないほど大きく、白と山吹色を主体にした装甲で覆われていた。
「零号機……」
「おやおや綾波ちゃん覚えあるんだね~装甲はその零号機ってやつみたいだけど、内部のプログラムを修正したらびっくりよ!! エヴァ初号機! これがそうなのよ!!」
「わざわざ見た目を変えたのって、SEELEを騙したい碇ゲンドウの策略?」
「んー多分そうじゃないかな。内部プログラムも初号機とは別の機体にやつになるよう調整されていたから、ガワも中身も似せて運び込んでんのよマジで。こりゃリっくんのお仕事減っちゃったかも」
「その分シンジ君救出に力を入れられるだけよ。リクなら大丈夫。でも問題は、この機体を使うって事」
「そうなんにゃよね~一応ブービートラップとか念入りに調べてるけどそういうのも無しにゃ。榎本さーんどんな感じ~?」
マリに呼ばれた榎本は器用に無重力を泳ぎ、マリ達の元に移動した。
「こいつはとんでもない代物ですぞお嬢様方。震電よりもデカい人型兵器ってのが見た感じの感想ですが、マリちゃんの言うように『偽装仕様』ですな。現に装甲を何とか取り外せたけど規格が頑張って合わせてある風に見えた。ほらここだ」
榎本がタブレットでその個所を見せると、ハルナはすぐに違和感に気付いた。
「外部じゃなくて内部なので、着せ替えする前にサイズに合うように仕立て直したって感じですね」
「マジでそれだ。モノアイ部分も、本当はツインアイの素体だけど頑張って合わせた感が凄いな」
「となると、こいつを逃がしたのは碇ゲンドウって事になるかな。SEELEなら補完計画喜んで初号機使うと思うし、SEELE側に保管されてるのが__」
「ガワだけ初号機、ですね」
「ざっつらいとハルナっち。何というか、ここにシンジ君いなくて良かったにゃ」
「え?」
ハルナは何も知らない。ハルナに黙っている理由もないマリは、エヴァ初号機の真実を伝えた。
____
「____マリさんが言ってることは全部真実、ですね」
「ATフィールドで覗き見した?」
「ちょっと信じられない事ばっかりで、さらっと撫でて確認しただけですよ。でもこれは……ちょっと……口外できませんね」
「1機造るのに1人生贄がいる、か。馬鹿げてますね。そんで、そのSEELEとかいうカルトは、ガミラス戦争前か最中にこいつを建造してたんですって? こいつ装甲とかバカげてますし、第1世代にこの装甲使えてたらまだマシな戦いしてますよ。バカみたいなコストかかるのは置いといてですがね」
汎用人型決戦兵器には人間の魂が必要。兵器としてあってはならないのではハルナは考える。使われている技術や装甲には確かに目を見張るものがある。が、人の魂を使っているという時点で、兵器としては落第点だというのが正直な感想だ。
ならType-nullは何なのか。あの機体もガミラス人の魂が使われているのか。
ハルナは知らない事だが、Type-nullはエヴァのコアの解析が出来ず、暫定的処置としてダミーと呼ばれる橋渡し的システムを用いる事で人の魂の使用を回避している。
そして眼前の初号機はそのシステムを用いず、人の魂を使っている。
「救出、は厳しいですよね」
「物凄く残念な事にゃ。それにエヴァのコアに取り込まれている以上正常な精神かどうかも怪しいにゃ」
マリは嘆いた。仮説が正しければ、「碇ユイは死んでもいないし生きてもいない」状態になっているのだ。コアに拘束されたままで魂のみの状態で生き続ける。それもエヴァのコアパーツとしてだ。本人の同意があっても無くても、ネオンジェネシス実行の為の延命と言っても、話しを初めて聞いたあの時から受け入れ難かった。
ハルナであれば、ATフィールドで接触する事も可能かもしれない。ならばその望みを託すべきか?
いいや託せない。「まだ託せない」ではなく「託してはいけない」だ。生きている人の魂をATフィールドで繋ぐことは出来ても、生きているのか死んでいるのか分からない人物の魂に触れるなど、触れる側の精神に悪影響をもたらすかもしれない。
「兎に角、この事は内密にしててください。起動実験も近いうちに行わないといけませんが、テストは私がやります」
「ハルナっちが?」
「リリスの血、ATフィールド、可能性高いのは私くらいですよ。レイちゃんは出来ればもう乗って欲しくない」
「____碇君を待って乗せるくらいなら、私が乗った方がいい」
彼女なりの理屈がある。戦闘経験、適合率、過去の実績──合理的に考えれば、今ここで乗るべきなのは自分だ。そう思い込もうとしていた。けれど本当は、誰よりも「碇シンジを巻き込みたくない」という願いが、その言葉を押し出していた。彼が再びエヴァに乗る姿を見たくなかった。
「ダメ。これだけは譲れない」
ハルナの声は低く、だが一切の迷いがなかった。
「何故? エヴァの操縦経験を持っているのは私だけ」
「ダメな物はダメだから___確かに可能性アリなのが私とレイちゃんだけど、レイちゃんの親代わりになってから、レイちゃんがそういう……『戦いに関わる』事が怖くなったのよ。特務三尉になるって言った件で叱ろうとしたのもそれだよ。これ以上、そういう事を言わないでほしい。お願い」
ハルナは自分でも驚くほどの感情をその言葉に込めていた。戦うことの意味、命を背負うことの恐怖。それをレイには味わわせたくないと、本能的に思った。自分が乗ることで、誰かの未来を守れるなら、迷わずそうする。母親としての想いが、軍人としての理屈を押しのけていた。
「_____ごめんなさい」
「起動実験は私がやるから。テレザートでの運用も私が」
その言葉は静かだったが、決意が込められていた。マリも、それ以上何も言えなかった。譲れない人間の想いに、理屈は敵わないことを、彼女もまたよく知っていた。
「____分かった。でも本当に動くかどうか分からないよ、綾波ちゃんの話通りなら、エヴァは親がいない思春期の少年少女にしか動かせない。いくらハルナっちの力でも条件を満たせるか分かんないよ」
「雪、付いてきてくれて、ありがとう」
「何、急にどうしたの?」
戦闘配置を解かれ、自由の身となった古代と森は、非番の静かな時間を使って展望室へ足を運んでいた。アレイアンテナ基部に併設された観測室は、改修の波に取り残される形で残されていたが、それがかえって良かったのかもしれない。誰かがふと立ち寄り、ひととき心を休めるにはちょうどいい場所だった。窓の向こうには、静かに星々が瞬いている。深い宇宙の闇を背景に、銀色の点が無数にちりばめられ、まるで永遠がそこにあるようだった。
古代は一歩前に出て、低い声で語り始めた。
「この任務は志願制だった。断る事もできた。俺は最初から行くつもりでいたけど……正直言って、航海の最中に君を失うのが怖かったんだ」
彼は息を吸い込んでから、言葉を選びながら続けた。
「だから……怒らないで聞いてほしい。実は、君に地球に残ってほしいって、そう言うつもりだったんだ」
雪は言葉を返さなかった。ただ静かに古代を見つめていた。彼女の瞳には、目の前の人物の揺れ動く心が映っていた。
「でも今は……それが間違いだったんじゃないかって思ってる。なんていうか、大切な人とか、大切なものって……遠ざけるんじゃなくて、大切だからこそ、どれだけ想っているかが大事なんだと思う。……ごめん、上手く言えないな」
不器用に吐き出された言葉に、雪は微笑みながら小さく首を振った。
「大丈夫、分かるから」
その一言に、古代の肩から少し力が抜けた。
「言いたかったのは──『大切だから遠ざける』って考えて動かなくて良かったってことだ。一方的に距離を取って、それで満足しようとしてた。そんなの、きっと間違ってた」
古代は静かに息を吐いた。雪の横顔に視線を向ける。
「雪は『行きたい』って気持ちがあって志願したんだろうと思う。もちろん旧Wunderの乗員だったからとか、軍務上の立場もあったんだろうけど……一番の理由は、君自身の気持ちだったんじゃないかなって」
その言葉に、雪は目を丸くした。思わぬ正答に、胸の奥を見透かされたような驚きが走る。ずっと朴念仁だと思っていたのに、こんなふうに核心を突かれるとは思ってもみなかった。
「……朴念仁も、直ってきたのかな」
雪は小さく笑って言った。肩の力を抜いたような、どこかあたたかい表情だった。
「ねえ、前に話したでしょ? 皆が“親しい人の幻”を見てるって。でもね、私は見てないの。……だから、正直すごく悩んだ。私なんかがここにいる資格、あるのかなって」
彼女の視線は宇宙に向けられたままだった。だがその声は、確かに古代に届いていた。
「でも、古代くんなら絶対行くって分かってたから……だから私は、あなたを支えたいって思った。……それが“行きたい”って気持ちに繋がったのかもしれない」
そして、ふと迷いを含んだ声で続けた。
「実はね……この航海が終わったら、私、WILLEを辞めることを考えてるの」
「えっ……?」
古代は驚きのあまり声を漏らした。雪は柔らかな微笑を浮かべながら、言葉を継いだ。
「皆との繋がりが無くなるわけじゃないよ。でも……古代くん__進さんと結婚して、家庭を作ったら、きっと子どもも生まれる。そうなったら、その子のために、生き方を変える時が来る気がするの。真琴さんがそうだったように」
99年時の航海で佐渡先生の助手として同行していた原田(現 加藤真琴)は、加藤との子供を授かる、子供の事を考えて軍を退役している。既にそういう分岐点がある事は森も理解している。
ずっとそれを言い出すタイミングが掴めなかったが、古代が自身の想いを打ち上げてくれたことで、自分も打ち上げる事が出来たのだ。
「もう4年も我慢してしまったから、そろそろ一緒になろうよ。進さん」
「__ああ。これが終わったら、結婚しよう」
そう心に決めた、古代だった。
________
「本艦はこれよりツインドライヴ環境下でのワープテストを実施する。全艦第1種戦闘配置。船外服着用のままワープに入る」
艦内が慌ただしくなり、指揮系統も戦闘艦橋に集約された。ツインドライヴを用いたワープテストはシミュレーション上は問題ないと確認されているが、実際の環境でテストする事がやはり大切だ。
莫大なエネルギーを生み出し続ける波動エンジンを更に超えるツインドライヴは、過去に空間を裂いた。それ故に波動エンジン以上に細心の注意が求められるのだ。
「ツインドライヴ、ワープ出力へ」
「了解。ツインドライヴ出力上昇。220%を突破。干渉光輪の拡大を確認」
「ワープ先座標選定完了。天王星軌道内縁部、現宙域より7230光秒先の空間点」
「全艦ワープ準備」
真田が指示を出すと、ハルナはまた腕を擦っていた。それも船外服の上から。さすっても摩擦で暖かくならないが、真田には何となく想像がついていた。
「構わないか?」
「気持ちの問題です。始めて下さい」
気持ちをぐっと堪えて、ハルナは指示を出した。ツインドライヴの光輪が眩い光を放ち始め、噴射炎が青白く輝き、急加速を始める。
「30sknot、33sknot、35sknot……!」
「通常時よりも速いな……。島、操縦はどうだ?」
「大丈夫です。でもこんなに速くなるなんて何をしたんですか?」
「エンジン強くしただけだよ。あ、出来てるね」
銀青色に縁どられたワームホールを観測機器が捉えた。ここまでは順調だが、過去の失敗経験が脳裏に蘇る。人類最初のワープテストは天王星軌道を狙ったが、未知の障害物を検知して木星軌道に飛び出した。そして木星重力圏に捕まり浮遊大陸に迷い込んだ。そんな経験もあるから、ハルナは心配だ。
(あーも―頼むよーこのまま一気に太陽系超えたいけどあの盾あるからダメなのよー)
「カウント、5、4、3、2、1」
「ワープ開始」
フライホイールから銀青色の輝きが放たれ、ワームホールに艦首を突き立てる。じりじりと艦体を押し込んでいき2500mの巨大はすぐに飲み込まれた。
_________
「ワープ終了。ワープ所要時間1秒。ログ収集完了」
「現宙域の座標確認。……ワープイン地点より7000光秒先?」
「マリさん解析!」
「やってるやってる。えーとね……ワープシステム自体には問題無し。天王星よりずっと前でワープアウトしたのは……何これ。新見ちゃんこれこれ」
「これは……アンドロメダ級の重力子スプレッドの着弾反応です!」
「何!?」
ワープシステムが緊急ワープアウトを実行する場合の理由は3つ。1つ、ツインドライヴ及びワープシステムの異常。2つ、ワープ先座標の物理的障害物の確認。そして3つ、ワープ先座標の重力関連障害宙域の確認。この場合、今回の強制ワープアウトは3つ目に該当する。
そして重力子スプレッド。アンドロメダ級(旧Leben)が装備する兵装であり、波動砲の予備チャージエネルギーを活用し重力フィールドを展開する事が出来る。攻撃に使えば小惑星帯を吹き飛ばし、防御に使えばガトランティスの火焔直撃砲は当然の事、大戦艦の決戦兵器も受けとめるとの試算が出ている。恐らくはそれを強制ワープアウトさせる為の罠として使った。
つまり、アンドロメダ級に該当する艦艇がここで待ち伏せをしていたのだ。
「全艦戦闘配置、波動防壁展開用意! 指示あるまで発砲を禁ずる!」
「何でアンドロメダ級だよ! どうなってるんだ!」
「恐らくSEELEが別の所で造ってた姉妹艦よ。元々アンドロメダ級はSEELEが方舟防衛用に建造した艦艇なの。それを接収してWILLEで使ってるのがアンドロメダ級航宙特砲戦艦。アレは未改造だから……拡散波動砲搭載艦よ」
「拡散波動砲……っ! 回避できないんですか!?」
「加害範囲が広すぎる。シミュでも避け切れないんだよ」
「そうだ。METEORに近いマルチロックオンシステムと多数の敵艦を精密に撃ち抜く事が出来る。AAAWunderの様な巨体なら、適切な部位に命中させる事が出来る」
「撃ってくるんですか、あのアンドロメダは……?」
「確実には言えない。だが、アンドロメダ級の主砲でもAAAWunderを止める事は出来ない」
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[AUTOMATED COMBAT SYSTEM – VESSEL: LEBEN / AI-ID: LE-01]
> OPERATION CODE: [ALPHA-BREAK]
> PRIMARY TARGET: AAAWunder
> CLASSIFICATION: HOSTILE FLAGSHIP
> THREAT LEVEL: MAXIMUM
> ENGAGING WAVE-MOTION DIFFUSION CANNON SEQUENCE
>> [STAGE 1] STRATEGIC OVERRIDE
>> > CREW PRESENCE: NULL
>> > MANNED OVERRIDE: NONE
>> > PROTOCOL LOCK: DISENGAGED
>> > ALERT STATUS: “ALL SYSTEMS TO COMBAT MODE”
>> [STAGE 2] ENERGY CHARGE INITIALIZED
>> > WAVE-MOTION CORE: STABLE
>> > OUTPUT FLOW: INCREASING
>> > CORE CHARGE: 100%
>> > COLLIMATION GRID: DEPLOYED
>> > DIFFUSION ARRAY: FULL SYNC
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「高エネルギー反応! レーダー観測範囲外100光秒先、波動砲反応です!」
「余剰次元は?」
「爆縮無し、発射準備中と思われます!」
通信士の声が艦橋に響いた瞬間、空気が一段階冷たく変わった。誰もが知っている。波動砲が"準備中"というだけで、戦場の空気は一変する。対処を一つ間違えれば、それは即ち艦の壊滅──あるいは、全員の死を意味していた。
「……ハルナ君、狙われているならアレを使うしかない」
「アレのテスト、系外でやるつもりだったんですよ?!」
「そんな暇あるか! 命中すれば拡散波動流1つでも致命傷だ。凌ぎきれるのは、あのシステムだけだ。回避すれば射程内の惑星に着弾する可能性もある。是が非でも我々を行かせたくないのだろう」
真田の声に苛立ちはなかった。ただ、静かに、しかし確実に状況を断ち切る鋼の意志が滲んでいた。敵は、ただ迎撃ではない。完全に行動不能にするつもりだ。それは、どうしても系外に足を運ばせたくない理由があるからだ。
真田は一呼吸だけ間を置き、艦内一斉通信のスイッチを叩く。マイクを取り上げ、言葉に迷いはなかった。
「全艦対波動砲防御態勢用意、ミラーリングシステム起動準備!」