宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

105 / 140
アルペジオネタ、いきます


How to avoid the shining spear -AW4年3月9日-

 対波動砲兵装──その発想自体がそもそも常軌を逸していた。

 

 波動砲は単なる大出力ビームではない。余剰次元の展開により発生したマイクロブラックホールの蒸発過程から放たれるホーキング輻射によって、何もかもを吹き飛ばす。

 それはもはや「攻撃」というより「災害」だ。そこに「防御」という概念を持ち込むこと自体、滑稽にすら映る。ビーム偏向も、装甲強化も通じない。

 

 ただ一度、それを止めた艦があった。

 AAAWunder。ツインドライヴから溢れ出した莫大な波動エネルギーが、敵の波動砲──デスラー砲を迎え撃ち、拮抗させ、ほぼ完全に散らしたのだ。

 だが、ツインドライヴによる周辺空間へのダメージとして空間裂傷を引き起こし、現実に「ひび」が入った。

 この宇宙は、安定している様に見えて実は不安定だ。

 

 その一件を受け、Wunderのツインドライヴにはリミッターが施された。再現性は失われ、同じ奇跡は二度と起きない。

 

 ならば、新たな方法を編み出すしかなかった。

 

 受け止めるな。防ぐな。

 逸らせ。逃がせ。受け流せ。

 

 そんな一部の狂気と執念に取り憑かれた「世界中の大馬鹿共」が、物理法則に中指を突き立てて(ちょっと物理くん邪魔の姿勢で)構築したのが、次元空間曲率変位システム。

 通称──ミラーリングシステム。

 

 このシステムが稼働したという事実が、波動砲の使用以上に多くの「ルール違反」を意味する。

 

 だから乱用は禁止。

 だから「奥の手」。

 だからこそ、今この瞬間にしか使えない。

 

 

 

 

 ____

 

 

 

「ミラーリングシステム起動。ツインドライヴ225%を突破。出力固定状態を解除。275まで上昇」

 

「了解。275まで上げる。全動力をアダムス組織に。真希波君、後はいいか?」

 

「ハイハイぶっつけ本番何とかしますからしますから。重力アンカー固定アダムス励起開始!」

 

「重力子斥力子配置開始。アナリティカルエンジンフルパワー___ワームホール複数生成開始」

 

 バンダナを取ったハルナが頭痛に顔を歪めながら演算を開始する。脳の未使用領域をまた少し与え、重力子と斥力子の量子跳躍先を全て計算していく。MAGIAchiralと繋がった処理能力は素粒子の位置まで正確に指定し切り、その結果は観測機器に現れ始める。

 

「ワームホール発生点確認、数8。相互重力異常干渉率0.77%。閾値以内です」

 

「余剰次元の爆縮を検知! 防衛不能距離までt-70!」

 

 しかし敵Leben級が速く、拡散波動砲が発射された。レーダー観測範囲外のギリギリから発砲されたそれは5秒後にはレーダー上で高エネルギー体として観測され、加害範囲が判明した。

 

「やはり敵が早いか……ッ」

 

「間に合います、加害範囲に合わせてXYZ軸の調整開始! アナライザー!」

 

『加害範囲特定完了。拡散波動砲分流総数40。MAGIAchiralに送信します』

 

「マリさん準備よし!」

 

「いよぉーし! 最大最強超戦艦様の禁じ手ぇ! ミラーリングシステム!! 起動ぉ!!」

 

 その言葉と共に、未知の力が動き出す。

 破壊の輝きも、星の輝きも、狂気じみた美しさを持つワームホールの歪みに飲み込まれ、全てが起動した。

 

 


 

 

 

 冥王星

 ガミラス太陽系駐留基地

 

 

 再建された冥王星基地に緊急警報が鳴り響き、佐官用宿舎の一室で飛び起きたバーガーは指令室に駆けこんだ。正面のスクリーンには太陽系全体を映した星系図が投影されていて、そのある一点が酷いノイズ塗れになっていた。

 

「天王星方面より余剰次元の展開と波動砲反応を確認しています。それも沢山です!」

 

「沢山じゃ分かんねぇよ、何本だ?」

 

「把握できただけで40本です! ですがどれもWunderクラスにしては小さく、付近でテロン艦隊が展開している情報もありません」

 

「……拡散波動砲だ。野郎残っていたのか……ッ」

 

「拡散……ですか?」

 

「ああそうだ。WILLEが出来る前に政府の一部のやつが造った条約破りの戦略兵器だ。WILLEが全部普通の波動砲に戻したって聞いていたが、隠し持ってたやつがいたって事だ」

 

「しかし発射するという事は目標がある筈です、エピドラの件と同様の筈です」

 

「そうだな……基地付近を航行予定のテロン艦がいないか? 申請来てるやつ見せろ」

 

「こちらです」

 

 バーガーは申請リストをひったくるように受け取り、航行予定艦艇の情報を素早く確認していく。そして、「俺ならコイツを狙う」という指揮官の感性で目標になり得る艦艇を選んだ。

 

 

「___コイツだ」

 

 そうして選んだのがAAAWunderだった。全長2500mの超戦艦。しかしいくら強力な戦艦でも波動砲を受ければひとたまりもない。何とか無事でいてくれと待機艦艇の離床指示を出そうとすると、空間が大きく揺れた。

 

 

「状況報告!」

 

「強大な重力波です! 発信位置は天王星方面!」

 

「同時にワープ規模の巨大なエネルギー反応を検出!」

 

「その方向に観測回せ! 可視光でも何でもいいから兎に角試せ!」

 

 バーガーの指示が飛び、冥王星基地の観測機器が一斉に目標宙域に向いた。極低温環境対応型電波望遠鏡が該当宙域のあらゆる帯域に耳を傾け目を凝らし、迅速に情報を収集していく。天王星宙域の情報を収集し切るのにそう時間はかからず、バーガーはその状況に目を剝く。

 

 

「な、何だこりゃあ!? 本当に結果間違ってないだろうな!?」

 

 バーガーは叫ぶように言葉を発した。その表情には、驚きと混乱が一瞬浮かんだが、それはすぐに怒りのようなものに変わる。自分の指示が正しく行われ、信頼していたシステムが告げる結果が、信じられないほど異常だった。彼の手がコンソールに叩きつけられ、緊張感が爆発しそうな状況が伝わってくる。

 

「確かです! 天王星軌道付近で8つのワームホールが展開され、拡散波動砲を全てそこに吸い込んでいるんです!」

 

「吸い込んで……?!」

 

「その通りです! 波動砲の全てが、ワームホールに吸い込まれているんです!!」

 

「局所的な空間の屈折を確認、まもなく光学観測不能になります!」

 

「重力の影響は!? 惑星の軌道に何ら変化ないのか!?」

 

「ありません! 全て計算されているかのようなギリギリの調整です、1つ狂えばゾル星系の外惑星の軌道に支障をきたすはずですが、奇跡的なバランスです……ッ! バーガー副指令、AAAヴンダーは、ワームホールを『対波動砲防御兵装』として使ったんです!」

 

「対波動砲防御……ッあいつらもうそんなとこまで行きやがったのかよ」

 

 空間の軋みは冥王星まで伝播していき、冥王星基地にまで浸透する。構造材が軋みを上げ警報音が鳴り響く。バーガーは咄嗟に船外服の着用を命じ基地外壁の破損による空気漏出に備えたが、異常現象はそこでおさまった。

 

 そして1回。大波の様な重力波が冥王星基地を襲った。

 まるで地震と思わせるほどの強力な重力波は基地の主電力供給をダウンさせる程には強力で、直ぐに非常用電源に切り替わったがその被害は大きかった。

 

「非常用に切り替わりました!」

 

「生きてる回線集めて被害纏めろ! あと、戦闘機でも駆逐艦でも何でもいいからAAAヴンダーに連絡要員を飛ばせ! 状況説明させる!」

 

 

 


(冥王星基地主電源ダウンより少し前)

 

 

「いよぉーし! 最大最強超戦艦様だけの禁じ手ぇ! ミラーリングシステム起動ぉ!!」

 

 物理法則に中指を突き付ける産物、ミラーリングシステム。その反則レベルの産物が遂に起動し、AAAWunderの真正面にワームホールが展開された。上方下方それぞれ4つ、合計8つだ。それ自体が強大な重力を発生させうる巨大な井戸が口を大きく開ける。

 

「ミラーリング正常、周辺空間に観測不能領域を確認! 光学観測が全く効きません!」

 

「波動砲分流の軌道変更を確認、ワームホール1番から7番に誘導、転送されます!」

 

 花火のように拡散してAAAWunderの艦体各所に狙いを定めていた波動砲の分流はワームホールが持つ重力の手に捕らわれ、大口を開けたワームホールに食われていく。

 しかしそれを展開するAAAWunderも無傷では済まない。前方の上下から引っ張られるような重力は慣性制御でも殺し切れず、軋みを上げるような音が響く。

 

「第12区画にひずみを確認! 続けて第22区画!」

 

「歪む前に退避させて! 全員の生体反応が区画から出たら閉じる!」

 

 今は僅かな歪みで済んでいるが万が一大きく歪むと隔壁も降ろせない。該当区画から全ての乗組員が退避したことを確認すると、真田は直ぐに隔壁を降ろした。

 

「波動砲分流、全てワームホール内に転移確認!」

 

「斥力制御解除してワームホールを消す!」

 

「あいさー!」

 

 ワームホールは重力だけでは成立せず、斥力という押し出す力でその穴の形状を保っている。それが無くなればどうなるか。

 

 ワームホールは周辺の空間に押し潰されるようにして潰れるのだ。

 

 その衝撃は重力波となり空間を大きく揺らし、周辺の物体を押しのける様な1つの大波となる。それをまともに受けて無傷でいられる現有艦艇は存在しない。ただ1隻を除いて。

 

「極大重力波来ます!」

 

「総員衝撃に備えて!」

 

 冥王星軌道までとどく極大重力波が発振され、艦体が大きく煽られた。無重力空間の戦闘艦橋ならまだいいが、常に完成制御がかかっている艦内は大荒れ。物が飛び散り乗員は転倒し怪我をする。ただそれだけ、それだけだ。

 逆に冥王星基地や発射地点にいるLebenは無視できない被害を受けている事だろう。そんな大波のような重量波は想定などしていない。

 

「状況!」

 

「艦内各所で負傷者多数、現在集計中です!」

 

「艦体各所に軽度の構造異常を確認、こちらもデータ纏まり次第報告します!」

 

「敵アンドロメダは?!」

 

「光学ですが見えます、凡そ65光秒先の映像です」

 

 森が正面にウィンドウを開くと、Leben級の姿が映った。灰色をした船体各所の装甲が幾つも脱落していて、煙のような物が上がっている。その正体は流出した作動流体だ。いわば「出血しているような状態」で、まだ動くのかとハルナは感心する。

 

「今度はコッチの番ね、レイちゃん手伝って。生け捕りにする」

 

「生け捕りって?」

 

「ちょっと憧れてたこと。通信可能圏内に進入して」

 

 荒れる重力の海をややふら付きながら慎重に進み、AAAWunderは通信可能圏内に進入した。ハルナはバンダナを取り義眼の虹彩を水色に変更した。MAGIAchiralとのリンクを確立させ、その演算リソースを存分に行使する。

 さらに綾波とシンクロして同じ事が出来る様にした。

 

「敵アンドロメダ級を視認。砲撃態勢に移っています!」

 

「何ともずさんな防壁だこと。キーボード叩くだけでも、破壊できそう」

 

 ハルナがスクリーン越しに手をかざすとLeben級の収束圧縮型衝撃波砲塔が砲塔基部から火花を散らして旋回を始める。明らかに無理矢理動かしているのが見て分かる。

 ハルナだ。ハルナがLeben級のシステムに干渉してFCSを乗っ取ったのだ。

 

 その横では綾波もそれに倣ってFCSを握り、同じく砲塔を乗っ取った。そのまま砲塔を旋回させて、目標に向けた。

 

「えーっとなんて言うんだっけこれ、サイコミュ・ジャックだっけ?」

 

「ハルナっちも遂にアッチのニューな世界に?」

 

「そういうのじゃないですよ」

 

 そして集中して、1つの命令を送り付けた。

 

「「撃て」」

 

 かざした掌を握ると、Leben級は目標に向けてゼロ距離砲撃をした。目標は()()()()()、同士討ちだ。同タイミングで発砲されたそれはほぼゼロタイムで着弾し主砲塔から爆炎が吹き上がり、砲塔が脱落した。ついでと言わんばかりにFCSを完全破壊してこれで終了。電子的制圧で全てを片付けてしまった。

 

「空間騎兵を中へ。多分無人ですから大丈夫ですよ」

 

「了解した。第三新東京から部隊を丸ごと借りて来て良かったな」

 

 _________

 

 

(現在)

 

 

「で、ありゃなんだ」

 

「ミラーリングシステムです」

 

「そういう事を聞いてんじゃねえよ。アレの重力波が強すぎてうちの主電源が1時間落ちてんだよ。いきなりバケモノみてぇなシステム用意しやがって」

 

「……あぁ重力波か。確かに波動機関にはダメージ大きいもんね」

 

「あぁじゃねえよ。ちと時間かかりそうだから。お前らんとこの便利屋に依頼出すわ。でたらめヴンダーがやんちゃしたから電源落ちたとでも言っとくわ。代金は支払うし、そこの拡散波動砲艦の護衛もしておく。それでいいな?」

 

「よろしくね」

 

「へいへい。あああとちょっと顔貸せ」

 

「?」

 

 

 

 

 __________

 

 

 

 

 

 

「あの拡散波動砲はゼーレの所有兵器なの?」

 

「恐らくだ。WILLEに編入したアンドロメダ級は全て通常の波動砲に戻してある」

 

「本当なんだな。現に存在してる以上、バレル大使に報告しない訳にはいかない。内部の調査はしたんだろうな」

 

「情報とかには一切手をつけてないよ。空間騎兵にお願いしたのは物理的制圧だけ。システム面は私が制圧してFCSを壊してあるから。主砲も壊してあるから撃てないよ。はいこれ証拠ね」

 

 バーガーの居室で、古代とハルナはバーガーとネレディアに事情を説明していた。条約違反兵器が生き残っていた事とそれの防御で生じた被害の大きさにハルナは少し蒼い顔をしていた。弁明するつもりはなかったが、詳細開示の為にハルナはシステム掌握時のログをバーガーの端末に転送した。

 

「生データだけどこれ解析したら白って分かるから。あのアンドロメダはうちに運び込んで、条約型戦艦に改装して特砲艦隊に組み込んでおく」

 

「うちで引き取る訳にもいかないからな。___次元波動兵器にいい顔しない奴らは軍部にもまだまだいる。イスカンダル主義の影響だ。でもな、スターシャ猊下はお前らを信用して波動砲を預けてる。政府の制圧と拡散波動砲艦の接収、解体。動きが素早かったのは割と高評価って聞いてる。知ってたのか? 拡散波動砲を」

 

「拡散波動砲が存在している事はその時知らなかったの。初めて知ったのは今年あたりで、極東事変で私は撃たれて意識不明だったから。だから私のテコ入れは無し。全て、私のあずかり知らぬところで起こってた事ね」

 

「____何か済まねぇ」

 

「リクも生きてるし、私も生きてる。それで良し。無理して条約拵えてアリア条約用意してよかったぁ~ホント」

 

「結局全部あなたのテコ入れじゃない。あなたを政治に放り込んだら何でもかんでも言う通りになりそうね」

 

「それはないかな。私がホントにWILLEのトップにいて完全無欠ならもしかしたらだけど、結構脆かったりするし、情にも流されるし、守り切れなかったりもするし。人間らしいと言えば人間らしいけど、ちょっと機械になっちゃってるし。何でもかんでもはないかな」

 

 そういうと、左目のバンダナに触れ、悲しげな笑みを見せる。毎回毎回、失った物は大きすぎた。家族、身体、どちらも大きすぎる。

 

「でもね、地球ではリクが頑張ってくれてるし、終わったらマッハで追いかけて合流してくれるから。あと、リク依存症がひどかったから丁度良かったかも。事あるごとに甘えてたから、私」

 

「ああもうそういう甘ったるい話は身内だけでやってくれ胸やけしそうだ。取り敢えず、ガトランティス来る前提で準備は進めておく。テレザートの女神のメッセとお前の旦那のメッセがあったから上が重てぇ腰を上げた。間に合うかは置いといて、結構デカい師団が向かってる」

 

「助かる。あと、第11番惑星だけど……」

 

「第6の生き残りとクダン司令の艦隊を集めて俺達の麾下で配置する予定だ。WILLE側も戦力足りてないって言って認めてくれたから何とかするさ」

 

「そっちに行き損ねたとか言わないようにね。メリアさんに会うのは満足いく人生やり切ってからだよ」

 

「おまっ何でそれを知ってるんだ!?」

 

「内緒。じゃああとよろしく。出航するから」

 

 そういうと、ハルナはいつの間にか消えていた。気付いたら影も形もなくなっている事にバーガーとネレディアは顔を見合わせるが、そもそもコイツは異常だったなと勝手に納得した。

 

「お前の先輩は何時から幽霊になったんだ?」

 

「多分……見えてるけど分からないふうになっていると思う。認識できない、みたいな?」

 

「……もういいわ。それとだ。テレザート行き、だいぶ巻いて行けよ。既にバランの鎮守府が壊滅された。警務艦隊もデブリになったと上から連絡があった」

 

「ッ!?」

 

「アケーリアスの遺跡とかいう『絶対奴らに持たせちゃダメなやつナンバーワン』が迫って来てんだ。やる事やってさっさと帰ってこい。いいな」

 

 

 ______

 

 

 

「本艦は、冥王星公転軌道より離脱。長距離ワープに入る」

 

「ワープ先座標、選定完了してます」

 

「ワープ開始時刻は現時刻より3時間後に設定。総員はワープ開始時は各自の配置で待機、以上」

 

 真田は一通りの指示を出し終えるとオオスミに向かった。偽装を施されたエヴァ初号機の確認をする為だ。内火艇で移乗して少し歩くとだだっ広い空間が広がっていた。そこで横たわるようにケイジに固定された初号機は装甲を取り外され剥き身の身体を晒していて、対生物兵器防護服を着こんだ甲板部がガリバーに群がる人の様に取り付いていた。

 

「状況はどうか」

 

「お嬢様が命じたチェックは一通り行ってます。寄生型の使徒、要するに宿主がいてようやく本領発揮な化け物がいるって聞くんですからおっかなびっくりですよ」

 

 綾波がハルナを介して依頼したのは、寄生型使徒が寄生してないか、あるいは寄生した痕跡が無いかを見つける事だった。

 第9使徒、エヴァ3号機に寄生し初号機を苦しめた存在だが、本来であれば「寄生しているのを確認できればエヴァ抜きで対処できた」使徒だ。もしかしたらこの初号機にも寄生、或いは仕込まれているかもしれない。

 

 第9使徒は、旧世界でアスカを人ならざるものにした。ハルナが乗ると言った以上、それを受け入れてしまった綾波は万全にするようにと大人たちに頼むしか今は出来ないのだ。

 

「使徒……か。確かアリステラの一件でこちらにもその存在が知れたが、実は99年の時点でそれを利用した武装が存在していた」

 

「聞いてませんよそんな事教えてください」

 

「メ2号作戦で、この船は人型生物以外の存在からクラッキングを受けている。既存の論理回路が通用しないような規格外の存在だ。我々の想像の及ばない範囲の生物と言う事は確かだが、問題はコッチだ。グリーゼ581での戦闘で青い粘菌上の宇宙生物に追いかけられたが、その生物が完全消滅する際に偶然観測カメラでとらえていたのが、コレだ」

 

「これ……十字架ですね」

 

「私にもそう見える。そしてこれが、戦後の情報開示で私が要求した画像の1枚だ」

 

 真田が榎本とハルナに見せた画像は、アリステラ4での戦闘映像だ。人型に近く見える黒い使徒は、コアを破壊され崩壊し、大爆発の後に十字架状の光を残した。

 

「我々は正体を知らなかったが、既に使徒を倒してもいた。そして使徒の赤い球体___心臓に近い部位を破壊すれば機能停止して、消滅すると言う事が分かっている。恐らくエヴァもそれに近い。現に、初号機にもコアが存在しているのだからな」

 

「そしてそのコアには、ユイさんが封じ込められていると。倫理的観点から破壊は不可能。私が乗って干渉してみるくらいしか方法は無いですね。テストは予定通りにエントリープラグとシンクロシステム、プラグスーツはこちらで何とかします」

 

「甲板部の方で機体は何とかします。しばらく真希波君をお借りしても? 形而上生物学

 を知っていて少しでもわかるのが彼女くらいなので」

 

「多分オッケーって言うはずなので呼んでもいいですよ」

 

 

 _______

 

 

 

「今回の航海は、航路上で確認されたアケーリアス遺跡を中継しながらテレザートに向かう必要がある」

 

「アケーリアスの? ゲートやシャンブロウといった物ですか?」

 

「そういう遺跡ではない。この宇宙の各所にはアケーリアスが伝承を残す為に残した遺跡が数多く存在している。どの遺跡も同じことが書いてあるわけではないが、テレザートが銀河系内に存在するならば、同じ銀河系内の遺跡ならテレザートの現状を調べる手がかりが手に入るだろうという事だ」

 

「我がガミラスでは、恒星間航行技術の確立によってアケーリアス文明学が発達している。遺跡間の距離が数百光年離れているからな。通常航行のみで遺跡巡りをするなら何百年あっても足りない。現在確認されている遺跡は、事故で崩壊したバラン星とゲシュ=タムの門を含めると数十にも及ぶ。その内航路上に確認されているのが4つで、未調査なのが2つだ」

 

 キーマンが言うように、テレザート迄の航路上には4つの遺跡が確認されている。これらはアケーリアス遺跡として確認されてはいるが調査が済んでいるわけではない。ガミラス本星側での調査が済んでいるのであれば情報開示請求をすればいいが、未調査の遺跡はこちらで調べるしかないのだ。

 

 

「惑星シュトラバーゼ、コルサンティア。未調査なのがこの2つだ。それ以外の情報は、大使館から情報開示させて既に渡している」

 

「出来ない理由があったのか?」

 

「シュトラバーゼは溶岩で覆われた惑星だ。だがアケーリアスの手が加わっている様で下手に近づけない。危険である事に変わりない。よって調査が行われずにこのままになっていた。コルサンティアは……都市惑星だ」

 

「エキュメノポリスにゃ! マジであるの!?」

 

「テロンにも似た言葉がある様だな。事前調査によれば惑星表面全体が都市で覆われている。そして無人だった。現在はガトランティスが占拠していると聞いている。テレザートの現状やその他軍事技術も、コルサンティアで知ったのかもしれない」

 

「先に向かえるのはシュトラバーゼか」

 

「そうだ。ガミラスに足を運んだ古代アケーリアス文明学の教授がいる。遺跡の崩落事故に巻き込まれたとは聞いていたが、軽傷だったから調査活動は続行するらしい。シュトラバーゼに向かうなら、合流できるだろう」

 

「最初の目的地はシュトラバーゼ。現ポイントより1400光年先の溶岩惑星で、同時に調査隊と合流して事情を説明して加わってもらいます。ワープ時刻を2時間後に設定。解散」

 

 _________

 

 

 ___重力波障害よりかなり前

 ___月面 サナトリウム

 

「遊星爆弾症候群のサナトリウムは?」

 

「20番です。ですが、貴方は?」

 

「公にできる人物じゃないんですが……」

 

 そういうと、リクは自分の階級章と身分証明書を見せた。かつらとコンタクトレンズで見た目を誤魔化したというのにここで身分証かと溜息を付きたくなったが、ルールはルールだ。仕方ない。

 

「地球圏平和維持防衛機構WILLE、睦月・暁研究室……ッ!?」

 

「訳ありで動いてますのでご内密に。案内してもらえますよね?」

 

 ______

 

 

 __月面サナトリウム20番 遊星爆弾症候群患者区画

 

「ファルコン! はいママのファルコン!」

 

「ありがとう~もらっちゃってもいいのかな~?」

 

「やっぱりダメ~!」

 

 クレーターを利用して建設された1Gの医療区画には複数のサナトリウムが並んでいる。99年時より危惧されていた遊星爆弾症候群2次発症は現実に起こってしまい、月面の特別医療区画で沢山の子供たちが治療を続けている。

 

 加藤夫妻の息子、加藤翼。母である加藤真琴と楽しく遊ぶごく普通そうな子供も、2次発症に苦しめられていた。

 

 緩和薬による治療により半年ほど前より病状が落ち着きつつあるが、また根治には至っていない。そんな息子の状況を、母と父は苦しいものとして受け取っていた。

 

「加藤真琴さん」

 

 そう呼ばれた彼女は、その声の主の方へ顔を向けた。

 

「お久しぶりです」

 

「あのおじさん、だれ?」

 

 目の色も髪型も髪の色も変えてきたようで混乱したが、声だけで誰かが分かったので加藤真琴は警戒を解いた。

 

「ママの知りあい、かな」

 

 _______

 

 

「やっとコンタクトとかつら外せます。月面に行くの、控えめに言って大変でしたよ」

 

「どうして私に? 軍を辞めてるのに」

 

「月面に行く用事があったので。これ加藤二尉からです。息子さんにも見せてあげて下さい」

 

 リクが加藤真琴の端末に送信したのは、ビデオメッセージだ。

 

『翼、とうちゃんはもう1回皆を救いに行ってくる。寂しいけど、ちゃんと帰って来るからな。真琴、1人にして済まない。でも俺は、イスカンダルが俺達に手を差し伸べたみたいに、困ってる星に手を差し伸べたいんだ。だから、真琴の分も背負って行ってくる。必ず帰ってくる。愛してる、行ってきます』

 

 ほんの2分くらいのメッセージだったが、嬉しいと悲しいが絶妙に入り混じった複雑な顔をした。一人置いて行かれたような感覚もあるが、活き活きとして皆の為に戦いに行った旦那を送り出したい気持ちもある。

 

 その様子を満足そうに見たリクはベットの上でコスモファルコンのぬいぐるみで遊ぶ翼君を見た。1年前は熱に浮かされて苦しそうだったが、今は落ち着いているようだ。遊星爆弾症候群自体はまだ分からない事が多く対処療法しか出来なかったが、政治のやり取りに治療に関する話を捻じ込んだ事で緩和薬が生まれてかなりの数の子供たちの支えになっているのだ。

 

「容体は落ち着いている方ですね。緩和薬の件、流れが上手くいって良かったです」

 

「本当に……その……何てお礼をいったらいいのか……」

 

「ただ捻じ込んだだけです。それ以降の調整は丸投げだったので、お礼を言うなら調整して実現させた方に言って下さい」

 

 そういうとリクは翼のいるベットまで歩いて行った。ファルコンで遊んでいた

 

「おじさんは?」

 

「君のママと同じところで働いてた人かな。怪我した時結構助けられた」

 

「ママ、すごい人?」

 

「凄いさ。君も病気と闘う凄い子だ。そんな君におじさんからこれをあげよう」

 

 リクは「滅菌済み」と印刷された大きな袋を取り出した。中身を取り出すと、地球人なら皆知るとある戦艦のぬいぐるみが現れた。

 Wunder。それもWILLE公式からの販売品ではなく、WILLEの広報部がノリで作って没になった「ツインドライヴ初起動バージョン」だ。滅菌済みで肌触りのいい表面に銀青色のラメが散りばめられている。かなり丸くデフォルメされてはいるが、3歳児がギリギリ抱き抱える事が出来るレベルのサイズで高評価だった物だ。

 

(機密に触れそうだから没になったけど、ただの限定版としてなら……)

 

「商品で作ったけど無しになっちゃったやつだ。君だけのWunderぬいぐるみだ」

 

「……もらっていいの?」

 

「おじさんが貰っちゃっていいのか?」

 

「だめ~! おじさんありがとう!」

 

「はいはい。じゃあおじさんはこれで帰るよ。病気に負けるな、ママと仲良くな」

 

 そういうとリクはATフィールドで魂を隠した。そこにいるけど分からない、見えているけど認識できない状態になったリクは翼に見つかる前にササっとサナトリウムから出て加藤真琴の元に戻ってきた。

 

「あれどうしたんですか?」

 

「広報部で作って没になったやつです。何でも機密に触れそうな見た目してたので。でも何も知らない子から見ればただの限定品です。さて、本題なんですが……あと半年も無いくらいで「もっと厄介な文明」が地球にやってきます。サナトリウムに詰めてる人も官民問わず退避だと思いますが、元乗員の貴方には伝えておいて慌てないでもらおうかと思って」

 

「……さぶちゃんからも聞いてます。「それ」が太陽系に近づいてきているって」

 

「なりふり構わずガミラスにも要請通して『全宇宙の人類の危機だから太陽系になるべく集合して』って事で戦力集めているんですが、避難は必須です。地下都市も再稼働準備を進めてますから、月が消し飛んでも本土が焼かれても人命だけは守り抜きます」

 

「どうか、よろしくお願いします」

 

「お任せください。地球を怒らせてはいけないって事を思い知らせてやります」

 

 

 _____

 

 

 地球

 第三新東京市

 

「重力波被害は?」

 

「距離で減衰し切った状態だったのでインフラが止まる事はありませんでした」

 

「それはいいけど、ガミラス政府から送られてきたわよ、情報。凄く早いけどどんな手を使ったの?」

 

 赤木がモニター上に表示させた情報を睨む。ガミラス政府から送られてきたType-nullの情報には黒塗りにされた部分もあったが、最低限知りたい事は把握できた。

 

 Type-nullはコアの解析が出来なかった為ダミーを使って動かしている。よって対象年齢等も突破する事が出来ていて、今回はそのダミーを応用して「パイロット抜きで動かした可能性がある」とクダンの考察も添えられていた。

 さらにアレゴリックウイングはもともとガミラス側で慣性制御装置を転用して開発された物である為、ガミラスの一部の人間が装備も込みで地球に流した事が分かった。

 

 

「なるほどね……クダン司令、元気そうだ」

 

「第101部隊は解散されているのよね。彼は今どこに?」

 

「警務艦隊の指揮やってます。艦隊指揮官やってた経歴があったというのもありますが、優秀な人を閑職に回すような余裕が今のガミラスには無いんです。急ピッチで民主化進める以上人は必要です。そのクダン司令も太陽系入りと。久しぶりに会えそうだ。エヴァ絡みの話は?」

 

「出来ていないわ。そもそも長距離航行中で絶えず位置が変わっているのよ。地球の超空間通信では繋げられないわね。ガミラスが羨ましいわ」

 

「それはそれとして、SEELEの拠点だがどうするんだ?」

 

「いくつか考えはあるんです。前に量子通信の流れ掴んで大雑把に把握してた時あるじゃないですか。北米とユーロ間の量子通信のアレです。そこを調査するのと、もう一つ調査してほしい場所があるんです」

 

「どこだ?」

 

「南極です。21世紀の段階で重力異常を確認してたウィルクスランドクレーターです。あとは南極自体が人類の記憶に残りにくい場所なんです。そもそも足を運びにくく、行けたとしても研究者とか、ホントに限られた人しか行けない特別な場所なんですから」

 

「コスモリバースが人間の記憶ベースで環境を再生したならそれもあり得る、か。分かった。が、旧AAAWunderは南極の爆心地に向けての強襲作戦を決行していた。俺としては、その当時の南極、或いは世界崩壊前の南極が再現されなかったのが奇妙なんだ。レイちゃんの話なら、南極上空に火星北極と同じ感じの同心円が出来ていたそうじゃないか」

 

 それもそうだ、とリクは考えた。しかしコスモリバースは人間の記憶をいう曖昧なデータからも過去の地球を再現した。ミサトの記憶に残る地球は、世界崩壊よりずっと前の地球の風景だったのだろう。

 或いは、世界崩壊より少し前の地球の記憶は残っていたが、その世界を嫌っていたかだ。

 

「重力異常___ああ、そういう事か」

 

「そういう事ね。未確認の時間断層工場。重力異常でノイズとして記録されてしまうと言った感じかしら。一応、地球上にもそういう重力異常が発生したクレーターって結構あるのよ。北米管区で、チクシュルーブクレーター、マニクアガンクレーター。南アフリカ、ヴレデフォートクレーター。現に環境再生後の地球観測でもクレーター由来の重力異常は確認されていて、それは全て『環境が元に戻った』という事で正常扱いになっている」

 

「そういう所に拠点を持っている可能性も大、か」

 

「なら資源の流れて分かってしまいそうだけどね」

 

「考え方変えましょう。資源の流れがバレにくいようにするにはどうしたらいいか」

 

「それはまぁ、本拠地から近い方がいいよな____ああ、それならココだ」

 

 加持が示したのは2か所だった。

 北米管区旧メキシコ──チクシュルーブクレーター。

 旧カナダ──マニクアガンクレーター。

 

 この二つの地点は、北米内でも特に厳重な立ち入り制限が設けられている。

 理由は「自然保護」。だが、実際には旧連邦政府が、ティアマトの要請により建造した、ある施設の存在が関係していた。

 

 その名は──大型低温重力場望遠鏡『MLGOT』。

 

「MLGOT?」

 

「マルゴット望遠鏡っていうらしいわ。異常物質・時間研究技術機関ティアマトが、マニクアガンクレーターの重力異常を、逆に観測の精度向上に使ったっていう、かなり変わった重力場望遠鏡よ。ガミラス戦争の前から稼働してて、当時これのおかげでダークマターの解析が一気に進んだ、って言われてるくらい。……まあ、表向きにはね」

 

「はいはい裏事情裏事情。それで、裏にはなんてあるんですか?」

 

「ティアマト自体は普通の組織ね。組織そのものは22世紀の初頭に設立されてて、設立当初の資料も公文書のアーカイブに残ってるわ。ただ、その“設立された理由”がちょっと……変なのよ」

 

「ほら来た。はい、“変”ってどんなふうに?」

 

「最初期のミッションログだけ、かなり高い機密レベルが設定されてるのよね。プロテクトもガチガチに固められてるわ。でも分かってるのが、火星からみって事」

 

「うわ出た。リク君なら、思いつくのあるよね?」

 

「アダムス組織、ガリラヤの巨人、55年のあの大災害。月村会長も呼びましょうか」

 

 

 ______

 

 

 

「マルゴット望遠鏡?」

 

「重力異常を逆手にとった観測機構です。ティアマトが主導したと聞いて……何か、ご存じかなと」

 

「……我々としてはノータッチでした。デイブレイクの裏の出自がアレですから、大っぴらな調査は控えざるを得ませんでした。そのため、ああいった公的機関の構造物の実地調査には──相当、困難を伴いました」

 

 月村は、静かに眼鏡を外すと、指先で眉間を押さえた。

 それは、かつて幾度も直面してきた「限界」を思い出す時の癖だった。

 

「相当な困難」──言葉にすればそれだけだが、実態はもっと深い。

 

 デイブレイクは、必要とあらば非合法な手段も辞さなかった。

 SEELE関連の疑いがある施設や組織に対しては、諜報員を“静かに”送り込むこともあった。

 だが、それにも限界がある。

 

 例えば──イズモの子。

 

 その時送り込んだエージェントは、ただデータだけを残して、消息を絶った。

 月村の指先が、しばし眉間で止まったままだった。

 過去の記憶を静かに手繰るような沈黙。

 

 やがて彼は、眼鏡を戻しながらゆっくりと口を開いた。

 

「しかしマルゴットは再建されて、現在も稼働している筈です。普通の観測施設なら、TIAMATに対し調査団を送む事も考えた方が良いかもしれません。それで反応を見ましょう」

 

「それで入れても、望遠鏡としての説明だけされて帰されるオチですね」

 

「なので、頭を捻りましょうか」

 

「?」

 

 

 _______

 

 

 

「で、何で僕のロケットパンチ改造してるんですか?」

 

「超音波による地盤調査、を知っていますか? 超音波の跳ね返りを利用して、地中の構造や空洞を把握する技術です」

 

 リクは眉をひそめたまま、自分の左腕を狂喜しながら改造中のオペレーター達を見下ろした。

 スラスターとケーブルが仕込まれていた有線式ロケットパンチは取り外され、その代わりに生身と何ら変わらない質感の義手が取り付けられた。

 さらに偽装皮膚の下に制振材と音響センサー、さらに掌に超音波発振器が取り付けられた。

 

「まさか……パンチして探査?」

 

「そう。音響共鳴のパンチを使って、マルゴット望遠鏡の地下を覗くんです。直接入るよりも安全ですから。打撃の衝撃波を計測して、地中にある構造物の“歪みや反響の遅延から解析する。ま、地下を見る望遠鏡ってやつですね」

 

「……すっごくインチキ臭い」

 

「でも有効でしょう? 地上施設としてのマルゴットにアクセスできなくても、地下の空洞や断層、隠し施設くらいなら分かるかもしれません。流石に時間断層は異常空間なので期待はしてません。まずは低周波でざっくりと形を捉えて、その後で見たい箇所を高周波で解像度を上げてきます」

 

「それ、パンチ届く範囲の話ですよね……?」

 

「パンチが届く範囲が、今のミッションエリアなんです」

 

 リクは溜息を付きながら左腕の義手を持ち上げた。気持ち悪いくらいにリアルな偽装皮膚は触角は搭載されていない様だが、自分に生身の腕が戻って来たような不思議な感覚になった。

 

「これ、どれくらい見えるんですか?」

 

「通常の地盤なら数十メートル。ただし、マルゴットの地盤は重力異常の影響で、層が不均一なんです。波が乱反射しやすいから、データの解析は難しいけど……それも踏まえて、この義手は設計してあります」

 

「じゃあ、僕がこれで地下に“聞き耳”立てるってわけですね」

 

「ええ。“パンチで聴く”って、ちょっと浪漫があるでしょう?」

 

「浪漫っていうより、スパイ道具としてバレたら確実に怪しいと思うんですけど……」

 

「ああそれと、貴方の見た目も結構わかりやすいので、姿と名前、身分も変えてしまいましょうか」

 

「見た目……ああ、もういいか」

 

 

 


 

 ──―地球から3度目のワープ

 ──―惑星シュトラバーゼ付近

 

 

 銀青色に縁どられたワームホールから通常空間に艦首を突き立てる。ツインドライヴの出力に裏打ちされたワープ能力は99年時の性能を大きく上回り、1度の通常ワープで700光年程の跳躍を可能としている。

 勿論これは「長距離ワープ時の性能」ではない。通常ワープだ。

 

 もし99年時でこの性能であれば、スケジュールに追われる焦燥感は少なくなっていた事だろう。舵を握る島は内心そう思いながら眼前のシュトラバーゼを見る。

 

「ワープ終了。シュトラバーゼまで残り2億キロ」

 

「この近辺に、ガミラス側の学術調査団が来ているんですよね?」

 

「そうだ。地球の研究者も同行している。名前は確か……ロバート・レドラウズだ。生命は宇宙から来たという説を研究していたが、我々みたいな異星人がいると知ってからはアケーリアス文明学に転向したと聞いている」

 

「パンスペルミア説か」

 

 パンスペルミア説。

 地球上の生命は宇宙外から来たとする生命起源論の仮説で、ガミラス戦争以前から否定も肯定もされていなかった説だ。

 何故、宇宙を生命の起源と考えたのか。それにはちゃんとした根拠があった。

 

 人類を含むすべての生物には、「モリブデン」というレアメタルが微量に含まれている。なら地球にはモリブデンがたくさん含まれているのかと疑問に思うが、そうではない。地球の組成で大部分を占めているのはクロムやニッケルで、モリブデンはごく少量だ。

 

 なら何で地球状の生物はモリブデンを微量に持っているのか。クロムやニッケルではなく何でモリブデンなのか。モリブデンが含まれるなら、地球はモリブデンが豊富に含まれる星じゃないとおかしいじゃないか。

 

 そこで考えられたのが、生命は宇宙からやって来た、という話だ。

 モリブデンが豊富な星から1粒の種がまかれ、そこから全ての「モリブデン含有生物」が生まれたというならば、説明が着く。

 

 さらに、地球上の生物の遺伝暗号はおどろくほどに共通したしくみになっている。人間と動物、または植物、必ずどこかに類似点が見つかり、中にはわずかな違いしかない生き物も存在する。

 

 

 その論争が集結する前に、地球人と同じDNAを持つガミラス人と遭遇し、アケーリアス文明による人類種の種蒔きという話が伝わった事で、パンスペルミア説は不完全な形で終結した。

 

 結論、人類はアケーリアス文明によって蒔かれた人類種の種蒔きから生まれた。

 しかし、その他動物や植物はまだ分からない。以上。

 

 

「生物多様性はどう説明するのか」「自然選択と突然変異はどこまで作用したのか」──そんな問いが残る中で、結論だけがひとり歩きした。

 “人間は外から来た”。それは科学的な事実というより、もはや政治的、宗教的な意味合いすら持ち始めていた。人間は神が作ったという宗教神話を悉く破壊した。ただ破壊してその後は知らない、といった感じだ。

 

 

「しっかしアケーリアスは種蒔きしたと言っても、何で種蒔きしたんにゃ?」

 

「種の存続、というのが我がガミラスが出した結論だった。が、アケーリアスが別空間で生存して、並行世界間の観測をしていると聞いた時には、研究者共がひっくり返った。それはアケーリアスの生存を意味する事だ」

 

「つまり、自分たちが蒔いた種がどうなったかをまだ見てるって事ですか」

 

「そう捉えて間違いない」

 

 キーマンはそう頷く。アケーリアス生存はガミラス考古学会でも一大ニュースだったらしく、下火になりかけていたアケーリアス文明学が一気に盛り返しているとの事だ。

 そしてレーダー探知範囲内にシュトラバーゼが入ると、艦艇の反応が出た。

 

「レーダーに感。シュトラバーゼ付近にケルカピア2、クリピテラ4を確認。距離74光秒。コンタクトを求めています」

 

「許可してくれ」

 

「さて、アケーリアスのお陰で熱中症には困らなさそうね。レドラウズ教授とコンタクトを取り調査を開始します。じゃあ……私、古代くん、マリさん、空間騎兵から斉藤さんと永倉さん、ガミラス側との顔合わせでキーマン中尉もね」

 

 

 

 ________________

 

 

 惑星シュトラバーゼ。巨大な結晶体に貫かれたような姿をしたこの星は、外観上は表面を鉱石と溶岩で覆われた星だ。だが、2方向へ遠目からでも視認できるほどの巨大な結晶が伸びた、物理学的に不可思議な形状をしている。

 アレが本当に惑星生成過程で生まれた物なら、既に結晶は折れている事だろう。

 

 が、アケーリアスの手が入っているという事なら、あり得てしまう。

 突出した巨大な結晶体は質量を隣接次元に保持しており、3次元世界上では質量が存在しない言わば立体映像のような状態で、惑星は物理的には球体のため崩壊することなく安定しているとされている。それもそうだ。惑星で生まれた物なら質量を持っているが、惑星に設けられた次元の穴から顔を出させているなら惑星側に質量は存在しない。

 

 臨時編成された調査団はシーガルに乗り込みそのまま惑星に降下し、ガミラス艦と合流。そのまま着陸可能な結晶大地の上に降り立った。

 

「ロバート・レドラウズです。こちらは助手の桂木透子。アケーリアス関係者との接触経験のある貴方方と話が出来るとは、貴重な機会をありがとうございます」

 

「会ったって言ってももう4年も前の事ですよ。AAAWunder暫定艦長の1人、睦月ハルナです。今回は要請を受けて頂き、感謝します」

 

「感謝するのはこちらです。コルサンティアの調査は我々も中止すべきと考えていましたが、貴方方がいるのであれば可能でしょう」

 

 そう和やかに話すハルナだが、その裏側ではこっそりとATフィールド精査をしていた。キーマンの件もありここまで警戒度を上げてきたがキーマンは何も動かなかった。今回ここに連れ出したのはガミラス側との連絡係としてもあるが、キーマンを同族と接触させてみてどう反応するかを見たかったからだ。

 

 変な違和感を持たれないように慎重に覗き見る。

 

(……うぅわ誰これ、地球人? それともサイコパス?)

 

 ATフィールドが歪だ。

 キーマンが、ではない。レドラウズと桂木の方だ。

 何が歪か、そう言われても言葉にし難いが、ATフィールドの奥に誰かがいるような妙な気配を感じ取っていた。

 

 地球人でも無くガミラス人でもない。ではガトランティス人か?

 

 いや、ガトランティス人のATフィールドを見たことが無いから断定が出来ない。そもそもガトランティス人は人造兵士であり、ちゃんと人類と定義できるかの段階だ。

 

(取り敢えず古代くんと真田さんに話しとこ。ヘンな事したら営倉にでも放り込んでおけばいっか)

 

 折角の艦外だから、今は気楽にやってみよう。不審点を頭の片隅において、ハルナは調査団に同行していった。




教授、桂木さん、キーマン君、アウト~
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。