宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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プロットを描いてました、ですがこの話ストックに置いたままだと他の話が影響受けそうだったのでアップします。
結構ヤバい話に……


She refused the ”end” herself: Override

 銀河系某所

 白色彗星玉座の間

 

 聞く者に恐怖心を与えるオルガンは玉座の間に響き渡る。白銀の巫女のみが操る事を許されたこのオルガンは制御装置としての能力が持たされており、白色彗星は白銀の巫女の手によりこのオルガンで制御される。

 それを弾く手に迷いはなく、浮遊する結晶の鍵盤に触れると玉座の間の隅々にまでその音は響き渡る。

 

 ふと、その手を止め、1人の年老いた白髪の老師を呼んだ。

 

 

「諜報記録長官、ガイレーン。遡りなさい。神殺しの船にまつわる記録を」

 

 ガイレーンと呼ばれた老師は手をかざすとバイザー越しに得体の知れない何かを見つめ、目的の記録を見つけた。それはズォーダーの目の前に逆三角形のウィンドウで展開され、無音の状態で再生された。

 

「31.72ヘブロン前、バラン星域にて観測された物です」

 

 バラン星。嘗ては亜空間ゲートのハブステーションとして役目を果たしたこの星は、エネルギーコアに波動砲を撃ちこまれた事による崩壊を起こし、自らの重力に負けて大きく姿を変えてしまった。

 

 数多のガミラス艦を撃っては進み、撃っては進み、無双を続けるWunderはその記録の中でもその場にいた全員に脅威を植え付け、能力だけでは説明がつかないその力を見せつけてフェードアウトした。

 

「そして、ビーメラ星系付近で観測された物です。空間の状態が酷く、断片的な情報しか得る事が出来ませんでした」

 

 酷くノイズがかかった映像が逆三角形のウィンドウに表示される。何もない空間から水色の光の帯が噴き出し、それをAAAWunderが纏っている。その勢いを増せば増すほど空間は大きく軋みを上げ、彼の船が引く航跡は空間を大きく引き裂く。未知の物質が漏れ出す裂傷は広がり始め、その傷跡からは明暗が反転した世界が見える。

 

「神殺しの長女たるヴーセ。ヴンダーと名を変えたこの船は、もはや我らの手の届く域を超え、世界を破壊する力をその身に宿しております。エルブズュンデとゲベートをガイゼンガンとして復元し複製したのは、正しき判断と思います」

 

「神殺しの船。エヴァンゲリオンと名を持つその巨人を、自らの腹に宿した儀式の船。抱えた使命の重さを失い、力の塊となり果てたか」

 

「この1番艦を止められる船は、ガイゼンガン兵器群にもございませぬ。しかし、ただ1隻、彼の船であれば捕らえる、或いは破壊する事が叶うやかもしれませぬ。それだけではございませぬ。テロンが持つ新たな戦闘艦、その1隻1隻は我々の戦闘艦を軽く凌駕しております。ゾル星系最果ての星を守護するあの艦隊に、我らは手傷を負わせるので精一杯でした。ガイゼンガン兵器群でしか、太刀打ちは出来ませぬ」

 

「彼の船の修復の方はどうか」

 

「最終段階に上がっております。貴重なお時間を頂いた事をお詫び申し上げます」

 

「構わぬ。ゲーニッツ、客人をここに呼べ」

 

 

 

 ___________

 

 

 __惑星シュトラバーゼ

 

『本来なら、貴方にこのような役目を負わせるなど……』

 

『余計な話はいい。アレは手に入っただろうな?』

 

『我々とヴンダーを引き合わせる当初の計画が、こんな形で実現するとは……これも、強運に恵まれたご一族の血筋……』

 

『関係ないよ、事が動くという時はそういうものだ。開けろ』

 

『お望み通りのものです。ヴンダーの波動エンジンを制御下に置き、破壊する事も出来ます』

 

『反波動格子……』

 

 

(頑張って受信してよかったなぁ。じゃあこれを真田さんにも聞いてもらわないとね。後でお仕置きしておこ。営倉に放り込んで、ちょっといたずらして……ストレスたまってるな、私。後でレイちゃんに癒されよ。だってリクいないと……寂しいし……あとキーマンとか言う偽名くんいるし、レドラウズ教授と桂木さんとかいう変なATフィールドの人もいるし……ここまで来たけど船に戻りたい……あと私寝れないから結構キツイよ……流石にちょっと慣れて来たけど皆寝てる時に1人だけ起きてて1人ぼっちって結構来るんだよ? 睡眠導入音楽使っても寝れないし……)

 

(ちょっとウトウトするくらいとか、昼寝くらいの短時間なら……寝たい。レイちゃんの膝枕で寝たい。無理ならマリさんでいいから。レイちゃんを抱き枕にして寝たい……)

 

 ちょっとバグが発生しているが、気にしてはいけない。

 

 ……キーマンにコッソリとしかけた盗聴器はとても小さく、袖の裏にシールの様に貼り付けるだけで機能する。オフライン環境下なら録音し、艦内ネット環境に戻るとそれをMAGIAchiralにアップロードしてハルナが確認できるようにする。という手の込んだ仕様だ。

 

 今頃キーマンはガミラスのデスラー復権派から受け取った反波動格子なる物をツインドライヴにどうしかけようかと考えている頃合いだろう。

 

 仕掛けられる分には問題ない。制御下に置かれても制御に関する操作をされる前に取り押さえてしてしまえばいいのだ。それにキーマンは慌てて行動するようなタイプじゃない事をハルナは感じ取っている。よって今すぐに操作するような真似はしないはずだ。

 

 そんな事を考えながら表では何ともなさそうにふるまい、義眼のセンサーで読み取れる環境情報を確認した。

 

「気温27度、湿度52%、大気圧1027hPa……故障じゃないからね?」

 

「分かってるけどよ、こんな煮えたぎった惑星で快適なのも全部そのアケーリアスが何かしたからなんだろ?」

 

「それでいいと思います。なんかついて来てもらっちゃって済みません」

 

「別に構わねぇよ。俺らは頭より体使うのが専門だ。頭専門の護衛くらいならいつでも言え」

 

 レドラウズと桂木と合流した調査隊はシーガルで目標の遺跡に飛んだ。立方体が不規則に融合して形成されたこの遺跡は自然現象で生まれた構造とは到底考えられず、長い事アケーリアス関連の遺跡としてリストアップされていた。

 

 それなのに未調査だったのは、「惑星そのものがアケーリアスの実験場」かもしれないという理由があったからだ。遺跡だけなら小規模なのだが、惑星全体であれば話が違う。未だ未知が多いアケーリアスの実験場に足を踏み込むのはリスクが大きい。

 

 また、ガミラス人も地球人もアケーリアスの遺産を使った事があるが、「よく分からないけど使えたから使おう」であった。亜空間ゲートも使い方が分かってるだけで、詳細な仕組みは分かってない。

 

「陸戦部隊なんて降下作戦くらいじゃないと暇してるのよ。良い暇つぶしになるのよね。震電の操縦訓練もやってみたけどやり慣れてしまったって感じね」

 

「震電の?」

 

「アレは元々空間騎兵向けでしょ? なら私達も使うべきでしょ?」

 

「___使える機体増やそっかな。予備機あるし秋水と部品やり取りできるから3機くらいならでっち上げれる」

 

「皆さん、こちらです」

 

 桂木が指さす先には、淡く発光する巨大な壁画がはめ込まれていた。あの映像で祈りをささげていた女神が線画で表現され、その広がる髪には数多の銀河や星々を散りばめている。アケーリアスかそうではない文明が描いたものだろうか。

 

「何年前か分かりますか?」

 

「年代測定が出来れば早いのですが、アケーリアスの後に描かれたのでしょう。テレザートを知る古代文明が銀河系でも目立つ星としてこの星を選び、遺跡の壁にテレザートの女神を描き残した、と言った所ですね。この曼荼羅(まんだら)模様も後発の文明が真似して描き加えてものでしょう」

 

「ですね。目立たないとこに描いても誰かが見てくれないと意味がありません」

 

「おい、古代と教授はどこ行ったんだ?」

 

 古代とレドラウズがいない事に斉藤が気付く。ついさっきまでここにいたのにまるで幽霊の様に気配もなく消えたのだ。ハルナもそれを感知する事が出来ず、警戒度を上げた。

 

「教授は別の壁画を見に行くと言って、古代三佐を連れていきました」

 

「別の壁画?」

 

(壁画ってここ以外にもあるの? というかレドラウズ教授から変な気配を感じてたけど大丈夫?)

 

「……調査を中断して探します。皆さん、何が起こっても驚かないと約束して下さい。それと銃火器の準備を」

 

「はぁ?! 何でこんなとこで銃火器だよ」

 

「多分ですが教授、何者かの操り人形にでもなってるかもしれません」

 

「ちょっとアンタ急に何を、って隊長?」

 

「お前さんが何でそう思ったかは置いとくが、これは答えてくれ。ヤバい状況か? 目が『ヤバい』って言ってるぞ」

 

 理由を問いただそうとする永倉を手で制し、斉藤はハルナにそう問いた。斉藤の顔はいつもの人のよさそうな顔は消え、獲物を探す大型獣の様な険しい顔になっていた。ここでごちゃごちゃと話をしていても時間の無駄だ。もし緊急性の高い話なら結論だけ聞いて状況を判断して後でじっくり話を聞けばいい。

 

 

「俺は単純だからな。頭より肉体派だから難しい話はすべて後で回せ。古代を探す。教授はどうする?」

 

 今は詳しい事を後に回して指示を求める斉藤にハルナは感謝して、辛い選択を下した。出来ればこう言いたくはない。それでも、自分が見た物と想像がズレ無くかみ合うなら躊躇していてはいけない。

 

「捕縛。無理なら腕と足を撃って行動不能に。最悪の場合は_____私が射殺指示を出します」

 

 

 

 ________

 

 

 

「確かなのか?」

 

「はい。遺跡内部で調査中の古代、睦月両名との通信が途絶。コールしても返答がありません」

 

「アナライザー。例の遺跡に向けて高出力で通信波を照射。反射するかを調べてくれ」

 

『了解。……照射完了。反射ありません。遺跡表面が電波暗室に近い特性を持っていると推測されます』

 

(電波暗室だと? ハルナ君から暗号通信が来ていたがあれば何だったんだ? ……まさか、遺跡の機能として切り替えが出来るという事か?)

 

「シュトラバーゼ軌道上に艦影確認。ゼルグート1、クリピテラ9。IFF応答、及び艦籍番号がありません」

 

 レーダー席に着いていた森が報告をあげる。正規軍なら、余程の特殊任務でない限りはIFFと艦籍番号が取得できるように二国間で取り決めがなされている。

 それが無いとすれば、非正規軍。あるいは敵だ。

 

「ガミラス調査艦隊に繋げ」

 

 相原が急いで通信回線を繋げると、相手はすぐに応じた。それほど脅威と捉えていない様子で応じた相手は、その相手の素性について説明をした。

 

『恐らく、反ガミラス統治破壊解放軍だ。ガミラス人でありながら政府の方針に背き破壊活動を行っているが、まさか銀河系にまで進出しているとは……』

 

「ちょいと失礼。解放軍って何してるん?」

 

『デスラー政権以前の旧貴族社会体制に逆戻りさせる事だ。過激な復古主義者の集まりでしかないが、相当数の戦力を持っている』

 

「レーダーに感。破壊解放軍の後方より巨大物反応。数10、サイズは___全長1000を超えています! さらにエネルギー反応と減速を確認!」

 

「映像を回せ。人工物である事は確実だ。解像度を上げて正体を確認する」

 

『待て、それは全長1000を超えていると言ったな? そして減速もしていると』

 

「あ、ああ。確かに減速をしている」

 

『恐らくそれは____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 惑星間弾道弾だ』

 

 真田も耳にした事がある。戦後の情報開示によりガミラス側から公開された惑星間兵器だ。巨大な砲弾の様な見た目で、各基地や戦場への配備の為にゲシュ=タム・ドライブを機関部に据えてワープ機能も備える。

 そして大都市を当然の如く消し飛ばし着弾地点に巨大なクレーターを拵えるほどの威力を持つ。

 

 しかし、そのような惑星間飛翔兵器は旧親衛隊のような組織くらいにしか配備されない。それが何故ここにあるのか。

 

 ……簡単な事だ。旧親衛隊の解体騒ぎや国防軍の混乱に乗じて持ち出されたのだ。

 

「そんなものが流出しているってのかよ!?」

 

「あれを撃ち込まれたら、AAAWunderは兎も角この星が崩壊します。そもそもアケーリアスによる改造が行われたこの星は温度に関する分子運動や質量を他の次元に移しているはずです。それの許容量か移送の安定を壊してしまうと……」

 

「星そのものが崩壊。或いは別の次元に全部飲み込まれる、だな」

 

「恐らくは」

 

(こんな時古代はどう考える? 沖田艦長ならどう考える? ……いや、状況をよく見ろ。

 AAAWunderを中心にしてではなくこの星全体でだ)

 

 合理を優先して指揮をとり、仲間を死なせてしまった過去が蘇る。自分に無いものに真田は頼ろうとしたが、それは違うだろうと頭を振ると、全体の把握に努めた。

 まだ少し時間がある。戦況の把握くらいは出来る。

 

「AAAWunderとガミラス艦、弾道弾の位置を再確認。新見、反乱軍周辺の通信状況を確認し、弾道弾が自立制御か遠隔操作かを把握しろ。南部、火気使用の準備を。調査隊が帰還するまでに弾道弾を可能な限り破壊する。相原、ガミラス艦にも連絡して惑星からの一時退避を進言。追加で、弾道弾の構造に関する情報を提示させろ。全艦第1種戦闘配置、波動砲を除くすべての武装の使用を許可する。侵食弾頭もだ」

 

「侵食弾頭ですか!?」

 

「超空間通信を使い直ちに使用申請を出せ。急げ」

 

 

 


 

 

 

 シュトラバーゼ

 アケーリアス関連遺跡

 

 頭に残る鈍い痛みで、古代は目を覚ました。

 薄く発光する壁画の光に照らされた薄暗い空間は、地面から生える鋼色の水晶状の物体でまるで演説台のような地形が作られ、そこに男が立っていた。

 

「アケーリアス、人間たる者全ての源、古代アケーリアス人。彼らはなぜ自らの似姿を星々に広めた」

 

 その男を古代は見た。ヘルメットのバイザー越しに見える度のキツイ眼鏡と天然パーマの掛かったこげ茶色の髪。教授だ。

 まるで人格が変わったかのように壁画に向けて声を上げ、両手を大きく広げている。

 

「この世を去った自らの後継者を育てる為か? もしそうなら、何故人の形に拘る?」

 

「教授……?」

 

「それはこの世界から退場した自らと同じ形というのに。オスとメスが愛を育まねば繁殖も出来ない不合理な生き物。奪い、憎み、殺し合う。この宇宙の調和を乱す人という混沌」

 

「待っていたぞ」

 

 古代は気付いた。この人物はレドラウズではない。正確にはレドラウズだが、中身が別の人間になってしまっているのだ。

 古代は痛みが残る頭を抑えながら、腰元の銃を確認する。が、やはりと言うべきか、常時携帯している銃はどこかに捨てられているようだ。

 

「お前は、誰だ」

 

「我が名はズォーダー。愛を知る者。この宇宙の誰よりも、愛を知る者」

 

 ズォーダー。そう名乗ったレドラウズの姿は、白髪のガトランティス人となった。

 

 


 

 

 

「敵艦魚雷発射を確認、数22!」

 

「迎撃、ガミラス艦への被弾は絶対避けろ!」

 

「VLS、撃て!」

 

 第2船体甲板のVLSからミサイルが放たれ、ミサイル全てを巻き込める距離で時限信管を使い一斉に起爆。爆発と飛散片でミサイルを破損させ一気に爆発が広がる。

 しかしその爆発で生き残った魚雷が周辺の結晶地形に着弾し、地形の一部が崩壊した。

 

「直ちに浮上開始。惑星への影響を考慮し重力制御による操舵は禁ずる。新見君、どうだ?」

 

「ガミラス式の複雑な通信プロトコルで解析の時間がかかりますが、音声でも映像でもない通信波がゼルグートから弾道弾へ発せられている事は確かです」

 

「なら遠隔操作の可能性が高い。惑星間弾道弾に照準を合わせろ。構造データの解析は?」

 

「はいはい何とか終わったよ~太陽にニアミスしてもへっちゃらな位だけど、6門束ねて本気で撃ては壊せるにゃ」

 

「破壊可能ということか?」

 

「誘爆させてドンだけど、確かに破壊可能にゃ。でも問題は、こっちの向けれる砲門数が限られてるから一度に全部をドンが出来ないって事。1個やっても泡食って起爆されたらアウト!」

 

「惑星間弾道弾、地表より高度10㎞地点で停止しています」

 

「構わない。南部、弾道弾の機関部に照準を合わせろ。誘爆させて破壊する。砲雷撃戦用意、タイプデストロイ、5速。島、敵の注意を引く。離れ過ぎず挑発をするように飛べ」

 

「挑発ですか?」

 

「弾道弾の目標を惑星からこちらに向ける。波動防壁で守り切れる以上、この船を囮にする事も選択肢として使える」

 

 惑星間弾道弾の標的をこちらに向ける。古代とハルナの脱出までの時間を稼ぐなら手段としては十分だが、惑星間弾道弾がこちらに向かって飛んで来ることを想像した面々は顔を青くした。それを発言する真田もだ。

 

「合理過ぎて怖いくらいにゃ真田さん」

 

「私の武器を有意義に使ってみただけだ。モードデストロイ砲撃用意!」

 

 主砲塔を覆っていた装甲が徐々に分割され、砲塔の外殻を形成していた分厚いプレートがスライドしながら外側へと展開していく。エリミネーター状態と同じ変形を終えると、さらに砲塔部分の装甲が魚類のエラのように開くと凄まじい勢いで放熱を始める

 

 次いで砲身を包んでいた保護装甲が解除される。左右へスライドし、砲身基部へと袖を捲るように集めると、内部に秘められていたエネルギーラインがむき出しになる。砲身の表面に脈動のような青白い光が走り始めた。

 展開された装甲は魚の鱗のように重なり合い放熱板となり凄まじい熱を発散させ始めた。

 

「エンジンからエネルギー伝導終わる。捉敵よし!」

 

「撃ち方始め!」

 

「撃て!」

 

 怪獣の咆哮の様な発砲音と共に、超高密度の陽電子の塊12条が放たれた。外側と中心で陽電子の密度が異なる砲撃は、旧世紀の徹甲弾のように装甲を貫徹する能力に優れている。

 それを更に極め凶悪にされたVSPSTはゼルグートの装甲にすら損傷を与えるほどの能力を持ち、3条ずつ寄り集まり太く力強い陽電子の束4条が、極めて堅牢な惑星間弾道弾の表面装甲を貫徹し過貫通を起こした。

 

 大爆発を引き起こした惑星間弾道弾だが、シュトラバーゼに着弾したわけではない為惑星表面の地形を消滅させるだけに留まり、太田がモニタリングする限りでは「まだ大丈夫」だ。

 

「弾道弾内部に高エネルギー反応、予想落下軌道が変化し、本艦を狙っています!」

 

「波動防壁展開。面舵一杯、遺跡から距離を離せ。起爆ポイントを惑星から離す!」

 

「おもーかーじ!」

 

 その巨体からは到底想像できない機動性で惑星表面を逃げ回る。重力制御とツインドライヴの潤沢なエネルギーでは成し得ない。従来型よりずっと強化された高機動スラスターで強引に艦体を振り回し、自らを追いかけさせることで惑星間弾道弾の落下軌道を制御していく。

 

「エネルギー反応極大、起爆します!」

 

「衝撃に備えェッ!」

 

 波動防壁越しにでも大きな揺れが伝わり、AAAWunderは惑星間弾道弾の爆炎の中に飲み込まれた。大規模な火球を形成する程の大爆発に飲み込まれたAAAWunderだが、波動防壁の鉄壁は破られず、堅牢な銀青色の障壁は持ちこたえた。

 その防壁に追い打ちをかけるように多数の魚雷が殺到し着弾するが、それも全て阻まれた。

 

「被弾経始圧低下、あと3発弾道弾を食らえば突破されます!」

 

「第2射用意!」

 

「弾道弾の降下を確認、あと5秒で惑星表面に落下します!」

 

「被害範囲は!?」

 

「調査隊の遺跡範囲外です! 迎撃間に合いません!」

 

「ッ!?」

 

 惑星間弾道弾が着弾。惑星表面に重篤なダメージを与えてしまう表面の溶岩が大津波となり、辛うじて残った陸地を飲み込んでいく。さらに地殻変動が発生し、発生した莫大なエネルギーが次元の向こう側に回収されていく。回収上限ギリギリなのか、シュトラバーゼの重力に変調をきたし始める。

 

「地球より特1級暗号通信、侵食弾頭使用許可です!」

 

「EW-VLS1番から4番開け、特殊共鳴波発振装置スタンバイ。相手は巨大だ。可能な限り重力変調をきたさないように弾道弾の推進部を狙う!」

 

 三重にロックされた発射管を慎重に開き弾頭を露出させ、目標入力を終えた侵食弾頭ミサイルが放たれた。さらに艦尾付近アレイアンテナが怪しい光を纏い、稼働腕でアンテナ素子面を侵食弾頭ミサイルに向けた。

 

 そして共鳴波を放つ。光速に近い速度でされた特殊共鳴波は弾頭内のディラトンを重力子になるように調律し、狙い通りの位置で励起を起こし重力場を展開した。

 荒れ狂う重力の渦に巻き込まれた推進部は原子レベルに至るまで引き千切られ、影響範囲内に存在した推進部に綺麗なクレーターが生まれた。

 

「4発機能停止を確認、弾頭部が惑星表面に落下します!」

 

「それにしても奴ら、何故陽電子ビームを撃ってこないんだ? ゼルグートなら4連装で痛いの撃てるだろ」

 

「あー多分撃たないんじゃなくて撃てないんよ。アウトローなヤツの集まりなら正規の補給は受けられない。実体兵器はともかく、光学兵器はデリケートな部品の塊だからどっか不調になったら撃てないんよ。だから撃ってない」

 

「弾道弾全排除に成功。続いて敵艦隊を殲滅っ__どうした!?」

 

 次の指示を邪魔する様に警告音が響き、真田の意識はそちらに強制的に向けられた。

 

「ゼルグートのエネルギー反応が急上昇しています! これは___弾道弾の何倍ものエネルギー反応です!」

 

「あやつら、罐を吹っ飛ばして舟を丸ごと爆弾にする積もりか……ッなんちゅう無茶をする!」

 

 ゼルグート級から観測されている機関部のエネルギーが急に上昇を見せた。ワープ時を遥かに超えるその異常なエネルギー総量はゲシュ=タム・ドライブの内圧限界を無視した運転により生まれた物であり、自らが生き残る道を閉ざしたも同然の行為だ。

 しかし命を捨てるという選択をした事で、惑星間弾道弾を瞬間的に超えるエネルギーを生み出し、艦尾付近から紫色の光束が装甲を突き破って出現する。

 エンジンを一息に殺す様な運用に徳川は憤りを覚える。甲斐甲斐しく機関の面倒を見る彼にとってこれは受け入れられない。大義や思想の為といってもこれは許してはいけないと徳川は声に怒りを滲ませた。

 

「ゼルグート急降下、間に合いません!」

 

「照準ゼルグート艦尾!」

 

「地表面に落下します!」

 

 やがてゼルグートは燃え上がる。波動エンジンと同原理の仕組みで動くゲシュ=タム・ドライブはその身を壊すほどのエネルギーを余剰次元から汲み上げ、ゼルグートの命を悍ましい勢いで擦り減らしながら莫大な推力を与える。

 それは惑星間弾道弾の速度と保有エネルギー量を凌ぎ、730mの爆弾は___地表面で爆ぜた。

 

 

 

 ____________________

 

 

「破壊、革命、戦争。どの文明も必ずこうなる。そしてこの無益な繰り返しの末に、決定的な過ちを犯して自滅する」

 

「笑うしかあるまい」

 

「国の為に、家族の為に、信念の為に。愛ゆえに奪い合い、殺し合う人間たちの無残さは見るに堪えない。真実の愛に包まれてこそ、人間は真の幸福と安寧を得られる」

 

「我らはガトランティス。作られた命。戦いの為に作られた人の似姿。尤も、我らを創造した文明は既にない。ガトランティスと呼び蔑む者も、もうない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛だの幸福だのぎゃあぎゃあ五月蠅い。自分語りや布教はネット掲示板でやってくれる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハルナの声が静かに空間を切り裂いた。

 

 彼女の手には拳銃。触れることすら拒絶するはずのそれを、今はしっかりと握っている。だけどその瞳は、曇りなくまっすぐだった。

 怒っている。でもそれだけじゃない。悔しさと、苛立ちと、少しの──諦め。全部が詰まった声だった。

 

 無理をしているんだ。自分を殺しかけた武器を自分で握っているのだから。本来なら視界に入れる事も拒否するはずだ。それでも握っているのは、尋常じゃない精神力でないと出来ない。

 

 

(……あー、言っちゃった。でも知らない。誰かが言わなきゃ、やってられないよ)

 

「……遺伝子をいじった形跡あり。クローニング世代交代はほぼ確定。どこでも自爆機能アリ。えっちしないし子供も産まない。アニメの人造兵士のテンプレってとこで十分じゃない? ついでに、自分に酔った戦争スピーチつけてきたなら満点ね」

 

 

 ズォーダーは一瞬、言葉を失った。

 

 彼女は銃を下げず、その目を真っ直ぐに見据えた。

 かつて──いや、今もなお──自分の中で拒絶反応を起こす“それ”を、両手で強く握っている。

 手が、小刻みに震えていた。

 心の底で“あの痛みと記憶”が蘇る。喉の奥が締まり、胃が反転しそうになる。

 

(やっぱりダメ気持ち悪い。やっぱりアレが原因でPTSDが増えている……)

 

 それでも彼女は、震えを力で押し潰すように、銃口を構え直した。指先は冷たく、頬には脂汗。だが瞳だけは、決して逸らさなかった。義眼の表示情報にもエラーが混じり始めるが、少々無理矢理オーバーライドをして黙らせる。

 

 

「我々のことを、そこまで知るか」

 

「ガミラスとはまぁまぁな関係で今それなりに情報交換してるのよ。共通の敵ができるとね、そういう流れになるの」

 

 言いながら、ハルナはほんの僅かに深呼吸をする。感情が溢れそうになるのを抑えていた。

 

「……でもあなた、ちょっと静かすぎる。ガトランティスにしては冷静で整いすぎてる。画面越しに会った事あるのがアレだったから差が凄いのよね。旧型の手直し? ハイエンドモデル? まあ、どうでもいいけど」

 

 ハルナの記憶にダガームが浮かぶ。

「野蛮」という二文字に手足を付けたような印象だったが、それとズォーダーには天地の差がある。ダガームよりずっと理性的で、割と話の通じる相手だ。

 声色が、ほんの少し冷たくなる。彼女の言葉は、剣ではなく、ナイフのように静かに突き刺さる。

 

「“作られた命がどうした”って、語るだけなら誰でもできるわよ。『元・作られた命』なら私の身内にもいるし愛してるし娘だよ。私たちは、今この瞬間を必死で繋いでるの。泣き言言ってる暇なんてないのよ」

 

 少し間を置いて、トーンを落とす。

 

「言ってること全部、まるで“自分に言い訳してる”ように聞こえるの。あんたがどれだけ悲劇の主人公ぶっても、こっちは一人も死なせたくないだけよ。アンタが起こそうとしているインパクトで地球含めた全宇宙をズタボロにされない為に動き回ってるのよ。布教目的なら駅前でガトランティス教の布教でもしてなさい。宗教の自由はうちの星保証してるから。でも今の私達からしたら、アンタの布教活動に付き合う暇なんて無いのよ」

 

 最後の一言だけ、声がわずかに震えた。

 

 だが、目は逸らさない。

 彼女は怒っていた。そして、誰よりも恐れていた。

 

「アンタが出て来てくれたことで、良い事分かったの。背景まで見せちゃダメでしょきっちりWeb会議のぼかし背景か別の背景入れなさい。今あなたがいるのはアケーリアス遺跡のどこかだけど、ガトランティスの王様が本拠地を離れるとは思えない。なら回答は1つ、白色彗星はアケーリアス製で、今回の相手はアケーリアスの兵器withガトランティス。様式がよく似てるのよ。あ、貴方の趣味だったらごめんなさいね一応謝っておくわ。一先ずやる事は、テレザートを解放して白色彗星を完全破壊して儀式中のアンタらを消し飛ばすだけ、やる事明確になって良かったわ」

 

 しばし、場に沈黙が満ちた。

 敵も味方も、誰も言葉を発しない。

 

 斉藤が「……言ったな」と苦笑して、永倉は「あちゃー」と天を仰いだ。

 誰もが、ハルナがやらかした──いや、やってのけたという空気を感じていた。

 

 ハルナは拳銃を握りしめたまま、もう一度ズォーダーを睨みつけた。

 目は逸らさない。その奥で、恐怖も焦燥もごちゃ混ぜになっている。

 でも、それでも、引かない。

 

 その視線の先で、ズォーダーは──沈黙のまま、静かに笑った。

 

「……なるほど」

 

 淡々とした声。

 敵意も怒りも、笑いも、そこには含まれていない。

 ただ、言葉の絨毯爆撃から何とか調子を取り戻した男の声だ。

 

 

 

「お前の言葉には、毒と理があった。痛みを知る者の言葉だ。なるほど、確かに──それは正しい」

 

 彼は一歩、ゆっくりと前に出た。

 

「だが、人間とは“正しさ”だけで歩ききれる程強くはない」

 

 その声は、まるで遠い過去から響いてきたかのようだった。

 

「俺たち人類は、正しさだけを求めて動く生き物じゃない。結論を急ぐのも、悩むのも、間違えるのも、全部人間だから出来る事だ。俺達はそうやって生きて来た」

 

「古代くん……」

 

 意外だ。ズォーダーの言葉には抵抗し切れないと思っていたが、古代が言い返した。

 人間は何度も間違えながら生きてきて、その「間違い」と「反省」と「二の舞を避ける行動」で今を成り立たせている。

 それは、イスカンダル航海を通して古代もその一端を学んでいた。

 

「正義も、理屈も、使命も、すべてが人を追い詰める。だが“愛”は、許す。赦す。奪われた者の絶望を、ほんのわずかでも救う力となる」

 

 ハルナの眉がぴくりと動く。だが彼女は黙っていた。

 

「それはお前のように“目の前の一人を守る愛”ではない。私は、全ての魂を安寧へと導く愛を信じる。それは、犠牲の上に築かれた愛だと、お前は言うだろう」

 

 ズォーダーは顔を上げ、目を細める。

 その瞳は、まるで祈る者のような静けさを湛えていた。

 

「……だからこそ、“全てを終わらせる”。繰り返される痛みを、殺し合いを、争いを……この宇宙から、もう一度“浄化”する。だがその前に、貴様らの正義を選べ、愛を選べ。その選択が、その愛が、何を救い、何を壊すかを知れ」

 

 

「ああ、自分が選択間違えたからって、その重さを皆に配りたいのね? セミナーにするには味気ないわね。でもそれ、教訓じゃなくて未練って言うのよ。奥さん殺されたのは……分かるよ。私も、夫を“殺されかけた”から。……でもね、“自分が壊れたからって、宇宙を壊していい理由にはならない”の」

 

 急に地面から重い揺れが響き踏ん張る。恐らく外で戦闘が起こっているのだろう。惑星表面に居続けるのはそろそろ危険だとハルナは焦る。

 

 

「……アケーリアス調査隊を乗せたガミロンの船、そしてAAAWunderに屍より作りし蘇生体を紛れ込ませた。この体も蘇生体。ガトランティスの兵士と同様、自らを炎に変える事が出来る」

 

「自爆機能……ッ! 教授の意思も関係なしか!」

 

「この物は既に息絶えている。私がこの蘇生体を介す時に、この物の自我は消えている」

 

「こんのド畜生め……ッ」

 

 余りにも残酷な言動に永倉は怒りを声に滲ませる。レドラウズはもうこの世にいない。自我を殺された後に本人の知らない所で肉体も兵器扱いされるというのだ。

 斉藤は、ただ斉藤だけは、銃口をレドラウズに向けつづけた。ガミラス戦争の地獄を生き抜いた彼にとっては「生温い」。

 だが自分が死んだ後に身体を良いように使われ爆弾として使われる事には嫌悪感を抱いている。

 

 爆発する前に「人間の急所」を撃ち抜き、生命活動を止める事で爆発を止める。それで蘇生体の爆発が止められるかは分からないが、少なくとも「人として死なせてやれる」かもしれない。

 

 ハルナが射殺指示を出すかどうか、恐らく出せないだろう。仮に出したら、ハルナは人殺しの責を自ら負う事になる。なら____自己判断で撃つ。

 

 

「1隻、1隻だけ助けてやろう。その1隻をお前が選べ。お前が選ばねば、全ての船が機関を失い、惑星の崩壊と運命を共にする」

 

「お前の信じる正義、愛に従って……選べ」

 

 刹那、マシンガンの射撃音が耳を突き刺す。青白い光__文字通り炎を纏ったレドラウズの眉間を、心臓を撃ち抜いたその銃声はすぐに止み、その場で血を流してうつ伏せに倒れた。

 

 

「済まねぇ。俺達にしてやれることは、爆発させずに死なせてやれることだ」

 

 

「ゔぅっ!? ……ぐっ……ゔぅ……ゲホッ、ゲホゲホゲホッ! はぁ、はぁ……水、ちょうだい……口の中、すっぱい……」

 

 ハルナはその場に崩れ落ち、込み上げるものを必死に押し戻した。

 青ざめた顔で拳銃を視界の外に放り投げ、大きく肩で息をする。

 

「アンタ、大丈夫なの?」

 

「すっぱいのが口まで上がって……うぅ……。教授は?」

 

「アンタに人殺しさせたくないって、爆発前に中隊長が撃った。こうやって死ねたのは、正直言って、爆発させられるよりはマシよ。あとは、そこの桂木とかいう女ね、自爆問題はどうするの?」

 

 自爆。

 その単語でハルナが真っ先に思い浮かべたのは旧AAAWunderの耐爆隔離室だった。プレハブ小屋の外壁面に貼り付けられた指向性爆薬が記憶に強く残っているが、そんな物騒な部屋と物騒な事が出来る設備はない。

 

 仕方ない。

 自爆防止処理だけ施して、安全マージンを取って営倉に放り込もう。

 

「取りあえず、キーマン中尉に自爆防止処理の方法、聞きましょう。できそうなら、やっちゃいます。……あと、古代くん、肩貸して。すごく怠い」

 

 古代の肩を借り、ふらつきながら立ち上がる。

 膝は震え、立つだけでもやっとだが、自分を「よくやった」と心の中で褒めながら、ゆっくりと歩き出した。

 

 ──その時だった。

 地の底から這い上がるような震動が、惑星全体を揺るがした。

 

「ッ……!」

 

 ハルナは舌打ちをすると、なりふり構わず指示を飛ばした。

 

「私60kgあるけど、抱えられる? 抱えてダッシュ!」

 

「60kg!? 流石にダッシュは……ッ!」

 

「戦術長、任せろ。よいしょお!」

 

 言うが早いか、斉藤が古代を押しのけ、ハルナを抱き上げた。

 

 斉藤の腕に引き寄せられた瞬間、ハルナの身体はふわりと宙に浮いた。

 だが、それも一瞬。鋼のように鍛え上げられた腕に、しっかりと支えられる。

 

「こんなん軽ぃもんだ。黙って掴まってろ!」

 

 低く、頼もしい声。そのまま斉藤は、地面を蹴って全力で駆け出した。

 

 爆風が吹き荒れる中、重いブーツがリズムよく大地を打ち鳴らす。

 ハルナは肩越しに後ろを振り返った。

 

 砕けた地面。

 爆炎。

 倒壊する建造物。

 

 すべてが、みるみる遠ざかっていった。

 

 ──斉藤の胸の中で、ハルナはかすかに笑った。

(付いてきてもらって本当によかった。でも……斉藤中隊長の抱っこダッシュはリクに言わないでおこ)

 

 シーガルに放り込まれそのまま発進。溶岩の大津波が多発するシュトラバーゼの空へ飛びあがる。

 

「AAAWunderとガミラス艦に緊急通信。機関部、艦橋に民間人誰一人立ち入らせるな。蘇生体は眼球の強膜が赤くなる。それが目印だ!」

 

「古代くん……」

 

「選べと言われたら俺は____「全員を助ける」を選びます。選択肢に納得がいかないなら、俺達で作ります。ハルナさんが色々言ってもらえたお陰で、ズォーダーに呑まれずに済みました」

 

「ホンットマジでおっかないよアンタ。護衛対象かと思ったら戦略兵器だったなんて」

 

 そんな冗談を聞きながら、ハルナは緊張を解いた。

 レドラウズは本当の意味で死に、桂木は意識を落として厳重に拘束して搬送。自分は恐らくカウンセリングに放り込まれてから義眼の再調整。その後に色んな面々に怒られるだろう。

 回避策を講じる事は諦めた。自分でPTSDを抉るような行動してたのは事実だし、今もそれの影響で体調が悪い。今は義眼の演算も使えない。頭に負荷をかけたくない。

 

 刹那、シーガルの計器が警告音を吐いた。

 

「どうしたの?」

 

「シュトラバーゼの重力異常に捕まっている! でっかい弾道弾とゼルグートが爆弾になってこの惑星を痛めつけたらしい!」

 

「ここまで来て……ッ!」

 

 シーガルの高度が下がっていく。重力異常に引き込まれた形で崩壊する中心核に吸い寄せられていく。警報音がけたたましく鳴り響くキャビンで、最後に思い浮かべたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リクと、綾波の顔だった。

 

 

 

 

 

 __________

 

 

 

「内殻コアの崩壊が始まっています、重力異常高まる!」

 

「シーガル及びハルナさんの端末信号を確認。ただし、該当箇所に質量は見当たりません!」

 

「いない……だと……ッ」

 

 次元の向こう側に落ち込んだか、その可能性が頭をよぎり呻く真田を綾波が支える。

 そうだ、まだ決まったわけではない。母親の危機を目の前にしても何とか落ち着こうとしている娘がいるのに自分が絶望するな。

 真田の冷静な頭脳が再び計算を始める。どうすればシーガルを通常空間に戻せるのか。何を使えばできるのか。

 

「……そこに、惑星規模の質量を投入すれば……惑星中心核にそれを投入すれば、そのエネルギー変換でこの重力嵐は止まり、シーガルを弾き出せる。それができる兵装は_____波動砲しかない」

 

 真田のその一言が、艦橋の空気を凍り付かせた。

 誰もが理解している。イスカンダルの力──波動砲の行使が意味することを。

 

 

「しかし、対惑星使用は……ッ!」

 

「責任は私が取る! 波動砲発射用意、引き金は私が引く」

 

 南部の言う事も正しい。だが、真田の理性で張りつめた言葉が、空間を貫いた。

 誰も、何も返せなかった。この場の誰もが、その一言に宿る覚悟を理解していたからだ。

 

「私が」──と、綾波が名乗り出る。

 一歩、前に出る彼女の足取りは、驚くほど静かだった。

 

 その一歩が、全てを変えた。

 

「私は!!」

 

 大きく息を吸い込むように、綾波の声が艦橋に響く。

 普段は聞くことのない、その身から零れ落ちる程の感情のこもった声音だった。

 

「お母さんを、助けたい……ッ!!」

 

 その言葉に、誰もが一瞬、言葉を失った。

 綾波の小さな拳が、震えていた。

 彼女の目は潤んでいたが、それは決して涙ではなかった。

 むしろ、痛みと焦燥が、彼女の中でせめぎ合い、戦っている証のように見えた。

 

「真田さん……ッ私の我儘を、聞いて下さい……ッ」

 

 少女は、ただの意見具申としてではなく、“願い”として口にした。

 その一言に、真田は思いがけず──少しだけ、言葉に詰まった。

 

 物静かな雰囲気の彼女が、ここまで感情を発露させて言葉を_________我儘を通しにかかるとは思えなかったのだ。

 それも、家族を助けたいというとても個人的な我儘を。

 

 艦橋の誰もが見つめていた。

 副長として合理的に判断を下す真田志郎が、視線を伏せたのだ。

 

 しばしの静寂ののち、彼はふぅ……と深く息を吐いた。

 そして、何かを決めたように、言葉を継ぐ。

 

「キーを出しなさい。君の席からも波動砲は撃てる。ハルナ君の先見の明だ」

 

 視線を上げると、いつもの沈着冷静な目に戻っていた。

 けれど、その奥には確かに──大人としての、責任が宿っていた。

 

「波動砲発射準備。対惑星使用と綾波君が撃つことに関する責任は、私が取る」

 

「真田さん……ッ」

 

 その場にいる誰もが、息を呑んだ。

 それが、どれほど重い宣言かを理解していた。

 

 すると、真田はゆっくりと歩を進め、綾波の傍らに立つ。

 

 肩をそっと叩くように、だがその声は決して押しつけがましくなく、ただ静かに、言った。

 

「本来、君は──ただの十四歳なんだ」

 

 その言葉に、綾波の肩が、ほんの少し震えた。

 

「責任は、大人に取らせなさい」

 

 この一言が、綾波の心に静かに沈み、そして波紋を広げていった。

 

 __________

 

 

「いいか綾波君。君の知る陽電子砲と同じように、波動砲は重力の影響を受けて僅かだが直進しない。その補正は全てこちらで行う。君は専用のインタフェースから引き金を引くんだ」

 

「認証は?」

 

 綾波の声は小さかったが、はっきりしていた。

 ただ命令に従うのではなく、自分の行動に責任を持とうとする意志が宿っていた。

 

「ハルナくんと古代が、調査に出向く前にキーの権限を委譲してくれたお陰でクリアできる。今君のブランクキーにマスターで両方の権限を加えている。先に準備を進めてくれ。南部!」

 

「回路開きます! 慌てるなよ、ショックカノンみたいに何発も撃てる訳じゃないんだ」

 

 南部の声が、かすかに緊張を和らげた。

 艦内はどこか張り詰めた空気に包まれていたが、それでも誰も、綾波を止めようとはしなかった。

 

「はい……ッ」

 

 綾波は小さく頷いた。その表情は決して強がっているわけではなかった。

 恐怖はある。緊張もある。

 けれど、今この瞬間、自分が立っているべき場所を彼女は理解していた。

 

「非常弁全閉鎖。強制注入機作動、伝導管より波動砲へのエネルギー流入を確認した」

 

「作動確認、薬室内タキオン粒子圧力上昇」

 

 機械が放つ制御音の合間に、綾波の心音だけが妙に大きく響いていた気がした。

 鼓動のひとつひとつが、自分を現実に引き戻す。

 

「綾波くんできたぞ!」

 

 真田がキーを投げた。

 無重力空間で浮かんだそれを、綾波は寸分違わず掴み取る。

 冷たい金属の感触が手のひらに伝わった時、彼女の中にある迷いが、少しずつ形を変え始めた。

 

 ゆっくりとキーシリンダーにそれを差し込む。

 その動作の間、彼女は一切の雑念を断ち切るように集中していた。

 

「解除用意……!」

 

「回すぞ、カウント3、2、1!」

 

 古代からキーを預かった南部。

 ハルナからマスター権限を託された真田。

 そして、自らの意思で引き金を引くと決めた綾波。

 

 三者三様の決断が今この一点に収束して、およそ4年の時を超えて封印は解かれた。

 

「最終安全装置解除。ターゲットスコープオープン」

 

 ガコン、と機構が動き、インテリアの前方部分のハッチが開く。

 内部からせり上がってきたのは、かつての戦場で見た兵器。戦略自衛隊が設計した大出力第2次試作型自走460㎜陽電子砲___を模したコントローラだった。

 

 

「これ……碇君が使ってた……」

 

 ぽつりと呟いた言葉は、過去への懐かしさではなく、「今自分がその場に立っている」という、静かな決意の証明でもあった。

 使い方は過去に学んでいた。NERVで接収して作戦投入する以上、予備砲手として使い方を把握しておく必要があったからだ。___尤も、その時は防御役として耐熱光波防御盾を装備していたが。

 

 インテリアの座面の上に立ち、綾波は、迷いなく銃身を握る。

 コッキングレバーを引き、指を引き金にかける。

 訓練で学んだその手順は、今では肉体に刻み込まれた記憶だった。

 

「射撃用諸元を入力」

 

「シュトラバーゼ周辺の重力偏移、磁場の誤差をリアルタイムで修正中。あと20秒」

 

「エネルギー充填120%」

 

「重力子ライフリングの形成終了。シュトラバーゼ重力異常の変異情報をリアルタイムで修正中。発砲可能まで22秒」

 

 艦橋の誰もが、息を殺して見守っていた。

 大気が震えるような静けさの中、綾波の内側だけが激しく波立っていた。

 

 

 

(お母さんみたいに、とても強い覚悟は持ってない。守りたい碇くんも、今ここにはいない)

 

 

 

(心に、穴が空いているような気がしてた)

 

 

 

(お母さんが巻き込まれたと聞いて、胸がとても痛くなった。本当に、本当に初めてだった)

 

 

 

(私は、碇君が好き。お父さんが好き。お母さんが大好き。だから……!)

 

 

 

 視界の中で揺れていたサイトマークが、ピタリと止まる。

 綾波の内心が決意に至った瞬間、あらゆる雑念が払われた。

 銃口が、惑星の中心核へと、まっすぐに向けられる。

 

「ターゲットロック完了、予想できる最適な発射タイミングまであと10秒!」

 

「カウント開始、8、7、6──」

 

(私が──撃つ)

 

「5、4──」

 

(私が、守る)

 

「3、2、1!」

 

「今だ!」

 

 真田の声が綾波の意識をトリガーに集中させ___

 

 

 

「私がお母さんを助ける……ッ!」

 

 

 

 ___引き金を絞った指が、命令ではなく意志を伝えた。余剰次元の爆縮──マイクロブラックホールのホーキング輻射が艦首から射線上の空間へと咆哮と共に放たれ、空間そのものを灼き払うように一直線に光が走る。

 

 その凄まじい光と共に射線上のあらゆる物体を消し飛ばし、寸分の狂いなく惑星中心部に着弾した。

 

 

 

 一拍の静寂。

 

 

 

 そして──

 

 惑星全体が低く呻くような音を発し、重力震が空間を撓ませる。

 まるで何かが諦めるように、音もなく崩れていく惑星の姿。

 内殻から解放された次元のエネルギーが宙を満たし、やがて音もなく収束していく。

 

 綾波は、ただ静かにその光景を__掻き消されていく光の向こう側に目を凝らす。

 宇宙を引き裂きかねない力の塊を撃ち人を救う。

「絶対に助ける」と声に出し、その引き金を引いた。

 

「お母さん……どこ……どこに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レーダーに感!」




あ、内々定出ました。
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