宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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GHOSTって曲、良い曲ですね
では、はじまりはじまり


Selfishness and the Form of Wishes -AW4年3月14日---3月20日- Part1

 銀河系某所

 白色彗星 玉座の間

 

 この玉座の間は、サーベラー、ゲーニッツ、ラーゼラーを始めとした首脳陣の面々にしか立ち入りを許していない。

 一介の戦士、賊の頭目も原則入れず、ガトランティス人以外も入れない。

 

 

 が、この仕来りと呼ぶべきものが破られた。

 

 

「エアレーズングを、我がガトランティスで使えぬ事は惜しい。だが、何故ガミラスの王が神殺しの船を駆るのか興味深くもある。ガミラスの王であったものが、何故まだ1番艦を追う?」

 

「私の個人的な目的だ、ズォーダー大帝。それで十分かと思うがね」

 

 捕虜。元々の立場も含めて最大限に言葉を整えても客人。

 本来なら自身を迎え入れて座乗艦も修復してくれたズォーダーに頭の1つも下げるべきだが、その客人____アベルト・デスラーはそうしなかった。

 

 

「貴様、大帝の御前だ。無礼にも程があるぞ!」

 

「よい、サーベラー。今はその座から降りても尚、この男は王だ。デスラー総統よ、そなたの目的と、我らの願いの為の通過点はどうやら近しいようだ」

 

「気付いてもらえて何よりだ。神殺しの船を欲した大帝がもしも彼の船を御所望であれば、私は自分の目的を果たせずに終わる」

 

「艦隊を預ける。神殺しと比べれば赤子のような物だが」

 

 その厚意、と呼べる言葉に、デスラーは初めて頭を下げた。

 

「感謝の極み」

 

 その目は、笑っていなかった。

 

 

 __________

 

 

 

「何か言う事は?」

 

「自分を大事にしなくてごめんなさい」

 

 綾波の膝枕で伸びながら、ハルナはまだ青い顔で真田に謝った。

 シュトラバーゼの崩壊から脱したハルナ達は震電の支援も受けて、左舷第3格納庫に何とか格納された。

 シーガルは片翼を失い外装にヒビも入っていたがそれでも乗員を守り抜いた。ただ損傷が激しく完全修理には時間がかかるそうだ。

 

 それで、何故まだ顔が青いかというと、吐いたからだ。

 フラッシュバックでただでさえ気持ち悪い時に重力異常で激しく振り回されたので「色々と限界」になり、シーガルから何とか降りた時に、まぁ、そういう事だ。

 

 なお、左舷第3格納庫でダウンしたハルナは鬼の形相ですっ飛んできた佐渡とその他医療班によって緊急処置(という名の強制連行)を受けた。

 吐いた事に加えて酷い発汗で軽い脱水気味の診断を受け今は点滴を打っているので、背の高い点滴スタンドが解析室に立ち、場違いな雰囲気を放っている。

 

「何か、義眼のメンテもやってもらってすみません」

 

「レクチャーは受けている。深層部の調整は君がやらないと出来ないが、表層くらいなら私も調整できる。一先ず、2日間の謹慎……綾波君をつきっきりにするから仕事は禁止だ。綾波特務三尉、睦月ハルナ三佐の監視と介護を頼む。仕事は一切やらせるな」

 

「さー、いえっさ? 真田さ……真田二佐、これは懲罰でしょうか?」

 

「懲罰にはなっていないが、仕事中毒にはこれが効く。三尉も休みなさい。……綾波君、君も思う所はあるだろう」

 

 綾波特務三尉ではなく「綾波君」と呼ぶのを聞いて、お芝居のようなやり取りはお終いと綾波は理解した。NERV時代の無機質な顔はやめてほんの少しの微笑が乗った日常の顔に戻ると纏っていた雰囲気が暖かな物に変わった。

 

「以上だ。私と新見君と真希波君で君の証言から予測できるズォーダーの行動原理等を推測する。綾波君はさっきの通りに」

 

「分かった。お母さんを部屋に連れてってゆっくりする」

 

 そこからは早かった。

 解析室から連れ出すとトラムリフトを徐行モードにして酔わないようにして移動。肩を貸しながら代わりの部屋に運び込むと鍵をかけた。

 

 そっと寝かせて膝枕をさせる。ポニーテールと眼帯代わりのバンダナをそっと解く。

 そこで緊張が切れたのか、綾波はぽろぽろと涙を流し始めた。

 

「……ごめん」

 

「お母さん、無茶し過ぎ。たまに自分を大事にしない。頑張り過ぎ」

 

「的確だね……」

 

「ふざけちゃダメ。怒ってる」

 

「はい……」

 

 頭を起こしたくても、撫で続ける綾波の手を退けないといけない。

 ……ダメだ、出来ない。それをするのは今は良くないし、出来ないし、したくない。自分が把握し切れていないだけで、結構沢山の人に迷惑をかけて心配をかけてしまっている。

 

「もっと、人を頼らないとね」

 

「気付くのが遅い」

 

 むすっとした顔で頬を引っ張られる。引っ張る力が少し強いが、ハルナは抵抗しないし、そもそも抵抗が出来ない。

 

 ……母親になった事で、分かった事がある。

 親子関係は、「親から子に教える」だけではない。その逆、「子が親に教える」事もあり得る。

 今までハルナとリクは、綾波に沢山のものを教えてきた。

 個としての自分を、沢山の感情を、親の温もりを、幸せを。両の手では抱えきれない程のものを教えてきたつもりだ。

 

 もしかしたら、「母親として、教える立場」に拘り過ぎていたかもしれない。

 

「今は……レイちゃんの膝を頼らせて」

 

「いいよ。寝れなくても、休んで」

 

「じゃあさ、何か歌ってよ」

 

「歌?」

 

「折角あれ作ってあげたんだから」

 

 綾波は一瞬首をかしげた。

 でも、すぐに思い出す。ハルナが前にプレゼントしてくれたもの。

 

「……あれ、ね」

 

 優しく微笑むと、ポケットから小さな機械を取り出す。

 この時代にそぐわない古い見た目のプレーヤーだ。しかし、それはこの世界に存在しない。

 この世界の21世紀になかったそれは、綾波が生きた21世紀に存在したと言われたオーディオ機器で、その当時はDATという規格のテープに音声データを書き込んでいたらしい。

 外見の再現に成功したそれは、SDATの見た目をした音楽プレーヤーだ。

 

「見た目だけ、お父さんが頑張って作ってくれたやつ」

 

 そう言って、少しだけ誇らしげに胸を張る。

 

 わざわざ有線仕様にしたイヤホンを付け、カチリ、とスイッチを入れる。懐かしく優しい音が静かに流れ始めた。

 機械音ではない。録音されていたのは、綾波が選んでいた往年の曲だった。

 親バカを発揮したハルナとリクが21世紀の往年の曲をマリからもらってきて、破損した音声を修復し、最高音質でプレーヤに入れた曲は100を超えている。その曲数に驚いたのも記憶に新しい。

 

 選曲スイッチを何度も押し、目的の曲を見つけた。

 兎に角安心させたいと思いそのメロディを声に乗せた。

 

PGM NO.6 聞こえますか

 

 

「愛する人よ、どこにいますか、聞こえますか」

 

「会えない人よ、記憶の笑顔に触れたい……あれ?」

 

 

 

 

 すぅすぅと寝息が聞こえる。

 おかしい、お母さんはもう眠れないはずだ。エヴァの呪縛モドキの進行で睡眠を奪われたはずなのに、どうして眠れているのか。

 少し揺り動かしてみる。……起きない。ただ、幸せそうに眠っている。

 

「……寝てる。でも何故?」

 

 一般人にとっては普通の事だが、母にとっては異常。綾波は佐渡をコッソリと呼ぶ事にした。自分の端末に手を伸ばすが、とどかない。

 

 

「ふんっ……」

 

 とどかない。

 

「ぐっ……」

 

 とどかない。

 

「ぐぬぬ……」

 

 とどかない。

 

 

 

 

 

「もういいや」

 

 諦めて、ハルナの端末を勝手に開けて連絡を入れた。

 

 

 ______

 

 

 

 

 

 研究室に呼んだ時には、ハルナは1Lの空の点滴パックをぶら下げたままあどけない子供の様に眠っていた。その様子を見た佐渡は目を丸くした。眠れなくなってかなりの月日が経っているのになぜ眠ってしまっているのか。

 頭を捻る佐渡には一つの仮説があった。

 

「……眠っておるな」

 

「何故寝ているの?」

 

「疲れすぎでシャットダウンしてしまったかあるいは……()()()()()()()()()()()()かもしれん」

 

「じはつてき?」

 

「自分で寝ようと思って寝るという事じゃ。どうやら、自分で寝るのは出来ないが、外部からの干渉があれば寝かす事が出来るようじゃ。でも恐らくは、睡眠薬や催眠とかじゃダメで、お嬢ちゃんが何かし続けているから寝てしまったんだろ。まぁ鍵は……お嬢ちゃんの魂くらいしかない。ハルナ君の話が正しかったら、お嬢ちゃんの魂は大きすぎるんじゃ、確か第2の使徒リリス……じゃったか。巨木に寄りかかると安心する、そういうもんじゃろ。逆に、リク君とハルナ君の魂が仮に普通よりも大きくなってたとしても魂の大きさに大差がないなら、こう寝る事はない。ハルナ君が寝ているのは、お嬢ちゃんの魂が使徒由来で、ハルナ君よりずっと大きいからじゃ」

 

「起きたら言う?」

 

「冷静に言うんじゃ。寝ている事に、気付いておらんからな」

 

「うん」

 

「それからな、お嬢ちゃんは他の綾波レイの魂を既に沢山受け入れている。確か……シャンブロウの時とエアレーズングの時だったか。魂の事などワシにはどうにもできんが、自分だけは見失わんようにな」

 

「うん、ありがとう」

 

 寝息を立てるハルナにそっと上着をかける。

 膝に頭を預け寝ているハルナはとても穏やかだ。うなされている気配もない。

 

 それに安心した綾波は、SDAT風プレーヤの27番を再生しようとする。

 選曲ボタンを何度も押し26番に移り、27に進める。

 

「……出来ない」

 

PGM NO.27

ERROR YOU CAN NOT PLAY

 

 もう何回もやっている。26番から27番への曲移動はどうしてもできず、何故できないのかと聞いても教えてもらえなかった。26番を最後まで再生し切っても27番には移れなかった。

 

 幸い再生できないだけで、その場合28番が自動再生されるのでプレーヤーの機能が停止するような事はない。

 ただの疑問として残っているだけだ。

 

「27曲目だけ再生できないの、何故?」

 

 

 

 _________

 

 

「アケーリアスの攻勢兵器の可能性大。ガトランティス兵の自爆防止処理。その他特記案件。多いな」

 

「まさか、キーマン中尉が……」

 

「反波動格子が何なのかは分からないが、次元波動理論に沿ったものである事は確かだ。波動エンジンを外部から制御するための代物で、毒。ツインドライヴを使う以上、片方が不調をきたすと同調が切断されてしまう。かといって両方のエンジンを停止して精密検査にかけるわけにもいかない。困ったものだ」

 

「人間爆弾の方はどうなったんにゃ?」

 

「機関室に侵入される前に取り押さえる事に成功した。だが……爆発シーケンスに入っていたから、自爆防止処理は叶わなかった」

 

「保安部やガミラスさんにも申し訳ない事をしたにゃ」

 

「ですが、ズォーダーの選択は壊す事が出来ました」

 

「真田さん機関室の監視カメラはどうだったんにゃ?」

 

「映っていない。改ざんはMAGIを介さなければ出来ない。という事はまだ、という事だ」

 

「まぁそれはそれとして、にゃ」

 

 マリがコンソールを操作してハルナの義眼に保存されていた動画ファイルを再生する。会話内容を持ち帰ればと思って、こっそり録画を回していたのだ。

 

 

 

『愛だの幸福だのぎゃあぎゃあ五月蠅い。自分語りや布教はネット掲示板でやってくれる?』

 

 

 

『えっちしないし子供も産まない。アニメの人造兵士のテンプレってとこで十分じゃない? ついでに、自分に酔った戦争スピーチつけてきたなら満点ね』

 

 

 巻き戻し、再生

 

 

『自分語りや布教はネット掲示板でやってくれる?』

 

 

 巻き戻し、(略)

 

 

『ネット掲示板でやってくれる?』

 

 

 巻き戻し、スロー再生

 

 

 ネ ッ ト 掲 示 板 で

 や っ て く れ る ?

 

 

(o゚∀゚)ブッフォオオオオオォwwアヒャヒャヒャヒャヒゴッ!!! ゴホッ! ゴホッオエェー!! 

 

 

「?!?!」

 

 

『えっちもしないし(以下略)』

 

 

。゚(゚^∀^゚)゚。ギャーハッハッハッハッハッハハッハッハッハッハッハ !! 

 

 

 

「これ音マッドの素材じゃんマジで!! これて使って動画作って再生しちゃえぇ!!」

 

 バシンッ

 

 ハリセンで叩いたような音でマリは現実に引き戻された。見ると真田の手にはやや大きめのハリセンが握られている。如何やら近くのコンソールを叩いたようだ。

 元コンピュータ人間がついに打撃武器(ハリセン)を手にしてマリは吹き出しそうになったが、「こんなもの持ってたか?」と疑問が先行した。

 

「赤木博士が地球に残る以上、君のツッコミ役も私がしなければならない。こんなこともあろうかと持ち込んでよかった」

 

「いやそれ打撃武バシンッ……アッハイ,サギョウシマス」

 

「よろしい」

 

(先生がどんどんコミカルな存在に……)

 

 真田がハリセンを持ち込んでツッコミをするなど、防大時代では考えられない。何をどうしたらここまで変わったのかと新見が頭を抱える。

 そんなコミカルな状況だが、情報は集まってきた。

 

「ズォーダーの目的はやはり、アディショナルインパクトの再現だろう」

 

「アディ……何ですかそれ?」

 

「分かりやすく説明すると、世界の選択儀式だ」

 

 アディショナルインパクト。綾波のいた世界で推定西暦2028年に南極で発動された「世界の選択儀式」であり、碇ゲンドウが発生させた。

 

 NHG級4隻を用いた人工的なリリスの再現と、「黒き月の槍への強制流用」、「マイナス宇宙への扉を潜り何かをする」という工程を行う事でこの儀式は完遂される、と真田は推測している。

 

 NHGはガトランティスが既に複製している。実際に運用もされている。

 黒き月は、既にその代用品がアリステラ4から引き揚げられている。色が白いが性質は同じとして考えれば、既に儀式の為の「神具」は揃っている。

 

 あとは儀式を執り行う場所。

 現在の進路は地球へと向かっている。が、現在の地球にはそのような場所は存在していない。

 が、火星がある。ガリラヤベース跡地に展開されたL結界に触れるだけで生物を橙色の液体___LCLに還元してしまう。

 

 マイナス宇宙の向こう側がどうなっているかは分からないが、人類が持てる知識、感覚の外側にある事は確かだ。

 

「じゃあインパクトるなら火星に行けばいいって事?」

 

「インパクトるって……まぁそういう事だ。それとは別に、テレザートの解放も必要になる」

 

「先生、そのインパクトとテレザートにどのような関係が?」

 

「無い。だが、テレザートの確保とテレサの力の行使も世界の選択と破滅に繋がる事は確かだ」

 

 高次元存在であるテレサ。

 どの世界も選択肢に富んでいる。例えば手に持った紙クズを人のいる方に投げるといった誰でも出来る行為でも、起こり得る世界の分岐点となり得る。投げた紙屑が誰かの頭に当たって怒られる、当たらなかったので何も起こらない。といった感じだ。

 だが、「全ての可能性を見通す高次元存在」が3次元世界にやって来たらどうなるのか。

 何でも知ってる女神がこの時空間に搭乗する事で世界線がただ一つに絞られてしまい、世界が硬直する。たとえ世界線を一気に変えるほどの大戦争が起こっても、テレサが「双方共倒れする世界」を見ていたとしたらその通りになってしまうだろう。

 

 また、テレサの力を使えば、把握できるすべての世界線から最高な物を選びその通りに歴史改変をする事も出来るかもしれない。

 地球人が使えば「ガミラス戦争が無かった世界線」

 ガミラス人が使えば、「第2バレラスが崩壊しなかった世界線」

 も作る事が出来るだろう。

 

 ガトランティス……というより、ズォーダーが使えば「ヒューマノイド種族全てが消えた世界線」をも構築する事が出来るだろう。

 

「何でこの宇宙はこんなものが多いんですか?」

 

「アケーリアスに聞いてくれ。種をまいたのは彼らじゃないか」

 

「そのアケーリアスも次元の壁の向こう側。事情聴取は無理そうにゃ」

 

 コンソールに突っ伏すマリは真田にダル絡みしよう……と思ったが、やめた。

 ハルナが義眼で集めた情報と綾波の証言、重力震で送られたデータを真剣に見つめ、真田はズォーダーの動きをさらに予測しようとしている。

 こちらから先手を打つ。その為には裏をかき、裏の裏まで予測する必要かある。その為の努力はいくらあっても足りない。目標が努力をこれでもかと吸い込み、「努力が足りない」という状況を作るからだ。

 

 

(ハルナっち過労気味、真田さん真剣そのもの、新見ちゃん真剣そのもの真田さんと結ばれろ……おっといけないいけない。ダル絡みは、また今度にするかにゃ)

 

 コンソールに突っ伏してから大きく伸びをしたマリはコンソールに向き合った。

 

 ___________

 

 

 

 地球

 WILLE統合庁舎直下地下800m(非公開区画LevelEEE)

 敵性異星人侵攻対策危機管理センター

 

 統合庁舎から直通リニアエレベーターで繋がるように設置されたこの空間は、外宇宙からの敵性異星人からの侵攻に備えるための最重要区画だ。地球上のすべての情報を「どんなことがあっても集中させる」為に戦略核弾頭や遊星爆弾、惑星間弾道弾の連続着弾に耐えきる事を前提にして設計されている。

 

 そんな条件をクリアするために第三新東京市直下の黒き月の表面のクレーターを悪用して建設され、さらに22層の複合特殊装甲体と有事の際は装甲同士の隙間に波動防壁を展開する事で上空からの防御を固めた頑強な構造を有する事となった。

 仮に地上が壊滅したとしても情報の管理と戦場の指揮が出来る様になっているので、文字通り地球最強の戦略指揮所だ。

 

「出来れば使いたくないな」とも願いながらこの危機管理センターは建設されたが、脅威が迫っているなら使うしかない。万全の準備を期すために、現在は大量の情報と人員が地上の各都市とセンターを行き来している。

 

「AAAWunderからの白色彗星データ来ました」

 

 重量資料という事で再生紙に印刷された情報を持って、1人の士官が駆け込んできた。指揮所に詰めていた沖田、土方、藤堂、芹沢が話を打ち切り、待っていた情報を目を通す。

 

「これが……白色彗星の正体に関する推測か」

 

「この推測が正しいかはともかく、これが侵攻してくると仮定して進めるべきです」

 

「軍備の状況はどうか?」

 

 現役に復帰した沖田は手元のタブレットに素早く目を走らせる。

 3年間のブランクを感じさせないその状況把握能力は的確に情報を摘まみ取り、求められる情報を認識した。

 

「既に総旗艦艦隊が実働可能状態に上がりました。ツインドライヴを用いたグリーゼ581までの試験航海は成功。葛城ミサト艦長を中心にして、ヤマトの慣熟訓練を進めています」

 

「総旗艦艦隊。WILLE全軍の指揮系統が君に集中する」

 

「長官。私もカバーに入ります。また倒れてもらったら困ります。山南にはアンドロメダを託しています。今頃4番艦と5番艦の慣熟に勤しんでます」

 

 アンドロメダ4番艦と5番艦。「アキレス」と「アンタレス」と命名されたその艦艇は、KREDITが連絡を受けて急行した時には電子攻撃とFCS乗っ取りで武装を半壊させていた。

 それを、ナガト改装ジェイソン型全領域汎用整備艦が地球圏まで引っ張り、時間断層工廠で武装の調整とシステムの総入れ替えを行い特砲運用艦隊の分艦隊旗艦に就役させたのだ。

 

「波動砲に特化した艦艇群。それだけでは足りません。長官、例の支援機については?」

 

「ハインライン研究室で最終設計に入っています。何でも、参考映像が見つかったのでそう時間はかからない、との事です」

 

「参考映像?」

 

「何でも、設計局の技術者が持ち込んだ旧世紀のアニメらしいです。アンドロイドが大気圏を突破するための装備らしくて……まぁそれは兎も角、それが完成すれば震電でも秋水並みの加速と大気圏突破能力と突入能力、圧倒的な攻撃能力を与える事が出来ます」

 

「名前は設計局に任せる。土方君、君の観点から見て使えそうか?」

 

 そう問われた土方は顎に手を当て、その運用を想像する。

 スペック表に記載された値のどれもが常識を遥かに超えている。22世紀終盤の地球の技術力でも作れるかどうか怪しいその機体は、確かに「実現可能なデータ」として目の前に存在している。

 

「慣性制御装置ありきの機動力だとしても目を見張るものがあります。戦術機による艦隊の攪乱、或いは指揮艦を狙った電撃作戦、用途は多いでしょう。問題は誰が試験を行うかです。第86独立機動打撃群がAAAWunderと同行した以上、現時点で戦術機を十二分に扱える部隊は少ないです。次点の部隊に預けるしかないでしょう」

 

「そうなると……この部隊だな」

 

 芹沢の中で思い当たったのがこの部隊だ。第86部隊より規模が大きく、腕もいい。新しいものを積極的に取り込む事を進め、戦術機という新概念の機体運用ノウハウに一枚噛んだ部隊だ。

 

「空間騎兵北米方面第4戦術機大隊、通称『女王の家臣団』。NEWYORK1直衛戦隊で、第86部隊の評価試験後にいち早く慣熟訓練を始めた部隊です。指揮官はヴラディレーナ・ミリーゼ三佐。ガミラス戦争当時は鮮血女王と呼ばれる程の苛烈な指揮をしたと記録にあります」

 

 

 _________

 

 

 

 NEWYORK1

 空間騎兵北米方面第4戦術機大隊駐屯地(空間騎兵第4連隊と共同管理)

 

「女王陛下、はいフライトデータ」

 

「お疲れ様、シデン」

 

「慣熟訓練からはや半年。もう震電はアタシらの手足だよ」

 

「まだよ。空間騎兵の体術や射撃術がそのまま使えても、戦術機だから出来る部分を磨かなければ、震電は人間の拡張でしかないわ」

 

 妥協を許さないその厳しさに、シデン・イーダは「やっぱりな」と視線が柔らかくなった。

 彼女が妥協を許さなくなったのは、ガミラス戦争で父を失ってからだ。空間騎兵の指揮官をしていた彼女の父は、遊星爆弾で亡くなった。

 それ以降人死にを一層嫌い、1人も死なせないために妥協を許さなかった。使える物は取り入れ、部隊と自らの心を鍛え、教導隊を除く戦術機部隊で1番の部隊となった。

 

「シデン、これを見ておいて。時機に搬入される震電の追加装備よ」

 

「手始めに隊長に見せて反応をチェックって事だな……って何だこれ!?」

 

 大気圏突破と突入能力、秋水並みのスピードを持ち、対艦反応弾頭や航空機のミサイルを懸架可能。装備本隊のサイズもあり57mm陽電子機関砲、30㎜パルスレーザーを固定兵装として装備。

 震電を中枢としているので、緊急時は装備を切り離し自爆させる事も可能。その他色々。

 

 

 極めつけには、ワープブースターを装備して1回限りのワープが可能。

 

 

「極東の変人がまたやらかしたのか?」

 

「使えるのは確かよ。大気圏内ならマッハ3は固いわ。宇宙ならもっといける。震電単独の戦闘力を上げて部隊規模での戦闘力も上げられるなら導入しない手はないわ」

 

「あ、欲しい欲しいって手伸ばしてもアタシらが使えなけりゃ意味ないって。アンタのストッパー任されてるから慎重にやりなよ」

 

「……ええ。でも時間が無いのよ」

 

「黄緑野郎、だろ?」

 

 そういうと、シデンは腕を組み溜息を付いた。最近の訓練がよりキツくなった原因がまさにその「黄緑野郎」だ。

 白色彗星完全迎撃プランがWILLE上層部で立ち上がった3週間前から太陽系中のWILLE関連施設に引っ切り無しに人員や資材、機体や弾薬、艦艇が出入りし続け、急速に軍備が拡充されていた。

 

 決戦は近い、そう思わせるには十分すぎる程の動きだ。既に民間にもKOMPASSを通して発表が行われ、最低限の管理がなされていた地下都市の再稼働準備が始まっている。

 KREDITもアントノフ型ムリーヤとナディーヤを回して各管区へ物資を送り続けている。同時に整備艦艇の練度向上の為に宇宙での整備訓練を続けている。

 

 また、作戦開始時には地球表面への攻撃のリスクも考えて地球市民を地下都市に再避難させる事が決定している。ガトランティスが火星での儀式発動を狙っているとしても、それが「地球は被害を受けない」という根拠にならない。

 

 今度こそ民間人を失わない。皆、意志は同じだ。

 

「シミュデータあるの?」

 

「ベータ版だけどもらってるわ。本番とは異なるかもしれないけど」

 

「まぁそれでもいいさ。貰ってくよ」

 

「頼むわ」




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