宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
月面 コペルニクスクレーター
旧タブハベース
コスモシーガルが基地跡地をゆっくりと周回する。人類にとって近くに見えてとても遠い存在の月は、約200年後にはこんな航宙機1つで周回できる時代となった。
たった数年で人類の技術は一足飛びに進歩し、ワープ可能な宇宙艦艇が何隻も生まれた。アニメの世界だけの存在と思われていた人型機動兵器が生まれた。
聞けば、月面の凄惨な戦いは幸運にもアポロ11号着陸跡を避けていて、あの星条旗とアームストロング船長の足跡は残されているそうだ。
「この年で、また月に赴くとは思わなかった」
「ここを知るのがもうあなたくらいなんです。こうして協力して頂けるだけでも助かりますよ。じゃ、お願いします」
同じく同行していたKREDITの大量のラチェットマンが瓦礫を慎重に退ける。
タブハベース自体は、上層部___地表面に近い部分のマッピングは済んでいる。3組織による血の滲むような極秘調査の成果だ。
が、その下は出来なかった。極秘調査という理由で万全の装備を用意できなかった事と、期間が短くなってしまったからだ。
しかし、デイブレイク、KREDIT、WILLE、KOMPASSはより血眼になる事を決め、タブハベースをひっくり返してでも探す事を決めたのだ。オマケに、ガミラス大使館も遠回しに協力している。
動員されたラチェットマンの数も前回の比ではなく、ラチェットマンでは持ち上げられない程の破片は「復興支援活動名目」で派遣されてきた戦術機中隊が行っている。
さらにさらに、ガミラスから貸与された大量の軍用ガミロイドを先行部隊として突入させ、マッピングの済んでいないエリアを数の暴力で丸裸にしていく。バレル大使の尽力があって実現したパワープレイだ。
「驚きましたか? これが睦月夫妻の力なんです。世界暫定4位の組織を曲がりなりにもまとめて成果を出した結果、これだけの人員を動かせているんです」
「暫定4位?」
「KOMPASS、WILLE、KREDIT。そして、睦月・暁国際設計局。地球のほぼ全ての軍事力とその他を生み出したこの組織は、冗談抜きで大事な組織です。地球で唯一のぶっとび工房で、アキレス腱で、力の源ですよ」
「……」
『第2機械化工作隊より突入班へ。上層部の安全を確認、突入可能です』
ラチェットマンが大量配備された機械化工作隊より連絡が入り、加持はヘルメットの送信ボタンを押した。
「そのまま中層部の瓦礫撤去と安全確保、ガミロイドでマッピング進めて下さい」
『了解』
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緊張が混じり、呼吸が浅くなるのを感じ、冬月は呼吸を整えた。
あれから10年。廃墟と化したタブハベースは、冬月の記憶に一致する箇所は少ない。
が、マッピングのお陰で地図が埋まり、徐々にその記憶が蘇ってきた。
「そうだ。この通路から中層へ向かえるはずだ」
「思い出してきましたか?」
「ああ。出来れば当時の監視カメラの映像が見つかればいいんだが……」
「カメラですか? その辺りのデータは諸々削除されているとデイブレイクでは推測されてますが」
「バックアップだ。保存期間や耐衝撃に長けた媒体に保存されている筈だ。施設自体は放棄時に全てのデータを削除したがバックアップまでは手が回らなかった。それほど、当時は切迫していた」
「やはり、ガミラスからの攻撃を?」
「それは、既にあの映像で確認している筈だ」
ガミラス本星から引きずり出した情報には、初号機に関する映像も含まれていた。紫の鬼人が月面から物凄い勢いで飛び出し、ケルカピア級の艦橋をパンチで潰した。
初めて見た時は口が半開きになり塞がらなかった。全長80mの巨人が駆逐艦顔負けの速度で接近し、全長240mのケルカピア級を
その映像から考えて、どこかに射出口のような設備があってもおかしくない。
あった、あったのだ。コペルニクスクレーターの近辺。エラトステネスとコペルニクスの中間地点に偽装した大型ハッチがあったのだ。
勿論、80mの巨人が余裕をもって射出できる程度のサイズの、だ。
残念ながら固く閉ざされているので、適切な威力での爆破で抉じ開ける事が決まっている。問題が無ければ基地を再利用する事も考えているので、盛大に爆破する事は厳禁だ。
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『爆薬設置完了』
『周辺より工作班の退避開始、安全距離確保急げ』
『一式二型融合弾、起爆用ケーブル敷設完了』
『一式二型融合弾?』
「タカオ型用にサイズを合わせた実体弾です。許可を貰って持ち込みました」
一式融合弾。AAAWunder(旧Wunder)で運用されてかなりの実績を上げた三式融合弾の改良型だ。波動エンジンが止まろうが光学兵器が使えなくても砲撃を可能とする「困った時の原始的攻撃方法」はショックカノンに魅力を感じる上層部に待ったをかける事に成功した。
その結果、第2世代艦及びアンドロメダ級*1、ヤマト、AAAWunderは光学兵器と実体弾砲撃のハイブリットの道を貫く事となった。
そんな立役者である三式融合弾の改良型である一式融合弾を爆薬にする。
言うまでもなく、威力は折り紙付きだ。
『総員退避完了。t-10よりカウントを開始します。爆破まで、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、発破!』
静かな月面に振動と爆発が上がる。
真空で見る爆発は酷く間の抜けた物だが、その実、地平を揺るがすような力が解き放たれていた。
直径100メートルの円周上に設置された二十発の一式弾が、まるで時を合わせたかのように、同時に弾ける。炎も煙も伴わず、ただ黒い砂塵が閃光とともに高く、鋭く、空へと突き上がった。
レゴリス——月の表土を成す微細な塵は、空気のない世界で風に舞うことはない。だからこそ、その動きは異様なほど整っていて、計算された軌道で飛び、円周から放射状に吐き出されていく様子は、まるで巨大な機械仕掛けの花が咲いたかのようだ。
「観測班、レゴリスの霧が晴れ次第爆心地の状況を調べてくれ」
『了解しました』
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地球
第三新東京市
WILLE統合庁舎
「今頃冬月さんは月ですか」
「加持くんを連れてね。いや、逆かしら」
「それは兎も角、何で女装する事になってるんですか月村さん」
「貴方の素性がバレたら困るんですよ。幸い顔が似ている人が1名いましたので」
「だからって……」
リクが少し嫌がるのは尤もだ。
変装して身分も完全に偽造するのは納得している。グレーな方法でもだ。
でも、「自分の母親の姿を借りる」のはいくらなんでも想定外だった。
確かに顔つきは似ているので、変装するには良いかもしれない。とうの昔に故人だから、不審に思われる事は少ない。
それでも渋るのは、もっと別の理由があるからだ。
月村ともう1人の機嫌が良いからだ。
「やっぱり、似ています」
「だからってあなたまでくる必要ないと思いますが藍川さん」
睦月風奏(旧名 藍川結花)の親族で、デイブレイク関係者の藍川
デイブレイクは、ガミラス戦争前の段階で「表の顔」でマルゴット望遠鏡を使っていた。当時はSEELE絡みである事を断定できなかったが、望遠鏡の機能はちゃんとした物だったので慎重に使っていたのだ。
「母……祖母でしょうか。古い写真しかありませんが、母です、やっぱり」
「そういえば、母さんが火星にいた頃の写真持ってるの、僕だけでしたね」
「似ています」
「えっと……写真って?」
「母さんが映った写真です。地球で撮ったやつは月村さんが預かっていたアレだけですが、火星で撮ったのを僕が持っているんです」
そう言うと、上着の内ポケットから基盤で古びた写真を取り出して赤木に見せた。この23世紀に写真とは珍しいと赤木はまじまじと見るが、ふと何かを思いすぐに返してしまった。
「……何か考えてますね」
「分かっても、言わないでね」
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キーマンは、追われていた。
得体の知れない声に、追われていた。
(何処から声が……ッなんで俺だけにしか聞こえないんだ……ッ!)
『アラ、ドコニイルノカシラ……ドコナノ? ネェネェネェ……? ア、アナタカシラァッ!』
誰かが切られる音が聞こえた。その数瞬後に、人が倒れる音が聞こえる。
『チガッ……タ……』
(耳で聞こえてるんじゃない、頭に直接聞こえている!?)
『ランハルトクン……ド~コ~?』
「ッ!?」
終いには足音も聞こえる。
周りには誰もいないのに、誰の気配もないのに、確実に誰かがいると脳が叫ぶ。
キーマン自身、諜報任務に就く特性上恐怖を克服する訓練は受けている。が、それで心霊現象が怖くなくなるという訳ではない。
そんな彼にとって、自分にしか聞こえない声と鋭敏な感覚が訴える「確実に誰かがいる」という感覚は、思考を鈍らせるに十分すぎる。
何とか平静を装って頑張って逃げ込んだのは自室だった。鍵を閉めて、耳を塞ぐ。
『ランハルトクン……ド~コ~?』
「来るなァッ!」
震えが止まらない。
「俺が何をしたって言うんだ!」
『ネェ、カクレテナイデ……デテキテヨ……』
ノックの音が聞こえる。
堪らず布団を被り必死に声を振り払おうとする。
ドアロックがどうやら解析されている。外から小さく電子音が聞こえる。
もうお終いだ。この得体の知れない声の幽霊に呪われる。
もう、ドアが開く。
『キーマン! 何があったんだ!』
古代の声に救いを感じたのか、被っていた布団をめくる。
「……ッ!?」
そこには刀を持ったハルナが立っていた。
思わずドアを確認する。ロックはかかったまま、開錠すらされていない。
声にならない絶叫が自室に響く。
「スガタヲミセタネ?」
その瞬間、キーマンの意識は刈り取られた。
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「という事で、洗いざらい吐いてもらおっか。反波動格子とか復権派とか諸々全部」
「もうやるな……ッ本当に怖かった……ッ」
営倉にぶち込まれたキーマンの目の前で、例の幽霊の正体(人間)「睦月・ハルナ・暁」が椅子に座っていた。
古代の声は完全な録音。ロックの解析音は真田が適当に操作して演出。ハルナはキーマンの部屋で気配を完全に消して待機しながら、キーマンのATフィールドを揺らして怖い声を送り込む。
名付けて、「キーマンを捕まえよう。ホラゲー式諜報部員捕獲大作戦(誰も死なない)」だ。
「だからってこれはないだろ!」
「あ、これの事? 大丈夫只怖がらせる為だけのものだから。これで叩いたら剣の方が折れちゃうのよ。ただギリギリまで怖がらせて気絶させやすくする為の小道具で、私がATフィールドで意識落としただけよ。ケガしてないでしょ?」
「そういう問題じゃない!」
キーマンはまだ汗が引かない。
あの時見た狂気に満ちた*2顔が頭から離れない。それを見て「流石にやり過ぎたか」と思ったハルナはATフィールドで安心のイメージを送り込む。暫くは経過観察だが新見さんのカウンセリング業務が増えそうだ。
それに、まだハルナの目が死んでる。
恐らく「それっぽくする為」にわざとそうしているだろう。
「ちなみにこれ全部考えたのはマリさんだよ? 演技は私がやってみたけど」
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作戦開始二日前
「さて。この録音を聞いてもらった以上、キーマンは黒だ。確実に捕まえて事情を聴き出す必要が出てきたが、問題はそう簡単に掴まって口を割ってくれるかだ」
「……無いでしょうね。ガミラスの諜報部がどうなのかは分かりませんが、下手に捕縛しても抗議が来ますよね」
反波動格子の受け渡しの音声を聞いたハルナ、真田、マリ、新見は頭を抱えた。
いや、ハルナだけは「そうだよねーやっぱり」とのんびりと構えていた。だがどうするかを考えても現実味がない。出来るとは思えない。
「あそうだ。真田さん新見ちゃん。真面目くんにはね、こーゆー手段使えるんじゃない?」
何やら凄い悪い笑みを浮かべたマリが皆に耳打ちすると、溜息を付いた。
「マリ君……確かにハルナ君の力を借りればできるが……もっと、なんかこう、良い手段はないのか?」
「良い手段だと思ったんだけどなぁ~」
「いや、やりましょマリさん」
「ハルナ君!?」
「怖がらせればいいんですよね? 自信は、あります」
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現在
「コワカッタ?」
「その声をやめろ……ッ」
キーマンに浅くないトラウマを植え付けたこの声は、少し無理をして出している。でも、ハルナはちょっとノリノリだ。
別に、怖がらせる事にハマったわけではない。手段としてドンピシャで効果ありで「あと一押しで口を割りそうになってる」からだ。
「さてとランハルトデスラーさん。あなたはこれを使って最終的には何をしたかったの?」
ハルナが持ち出したのは、反波動格子のビーコンだ。
最初はこの光球が反波動格子そのものかと思ったが、これはどうやら波動の流れを可視化するためのビーコンらしい。
次元波動理論に沿ったゲシュ=タム理論を持つガミラスがこれを作ったらしいが、これだけで波動エンジンの外部制御が出来てしまう事が信じられない。
「波動エンジンを外部から制御出来る謎の装置。エンジンを停止させる事も破壊する事もリモコンで思い通り。コワイネー」
「ッ!?」
「貴方の事だから自滅覚悟でツインドライヴ爆破ってのは無いのよね。だから、復権派かデスラーと接触した時にでも動かすんでしょどーせ。さて、反波動格子で何をしようとしたのか、君の口から吐いてもらおっか。それじゃあさ、オハナシシヨッカ?」
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「どうやったのかはまぁ想像にお任せします」
「目が怖いから聞かない事にする。それで、これがそうなのか」
「反波動格子の実物です。ちゃんと2セットありました」
ハルナは終始笑顔と怖い声でキーマンと「お話」をした。
時折本物の殺気も滲ませながら丁寧に情報を引き出した結果、「造反未遂」という事で反波動格子を押収する事に成功したのだ。
そしてその「鬼か悪魔か得体の知れないナニカ」になっていたハルナは綾波を抱えていた。
演じる方も相当疲れるようで、綾波の頭を撫で繰り回していた。
本人はされるがまま。「ストレスなんだね」と納得して無抵抗だ。
「ランハルト・デスラー。ガミラス保安情報局内事部捜査官。クラウス・キーマンは偽名ではなく旧名。デスラー体制復活派の信頼を得てその首謀者に辿り着くために行動をしていた」
「その調査艦隊の正体が旧体制復活派。接触するタイミングで、彼らが反波動格子を渡した、という事ですね」
「そういう事だ」
新見も何とか納得できた。
ハルナの「鬼も悪魔も委縮するオハナシ」は「綾波レイが撫でまわされる、あとその他」の尊い犠牲のお陰でかなりの情報を引き出す事に成功した。
当の被害者「クラウス・キーマン」は、強烈な恐怖の後にハルナがATフィールドで干渉してこっそりメンタルを戻していたので大ダメージを負っていない。ただ、情報を洗いざらい吐かされてしまったという物凄い敗北感が残っているだけだ。
「で、これどうします?」
「可能ならば宇宙に捨ててしまいたいところだが、研究に回して構わないだろうか? 波動エンジンを外部から制御できるという事は、止めたり破壊するだけではないはずだ」
「お願いします。私はこれから……」
「「「休め」」」
「……はい。初号機起動試験の為に休みます。動けばいいんですけど……」
初号機起動試験。本来14歳の親のいない少年少女しか動かせない筈のエヴァをハルナが起動させる試験だ。
14歳という年齢制限と「親がいない」という条件を自身の特異性を使ってゴリ押しで解決させる事となったが、これは「綾波をもうエヴァに乗せたくない」という親のエゴによるゴリ押しだ。
その綾波は____少しだけ、不満だ。
何でもかんでも背負おうとするハルナに対し、少し不満だ。
頼ってくれてもいいのに、と思う。でも、それを言ってハルナは変わるのか?
「レイちゃん?」
「……何でもない」
眉間にしわが寄っていたのがバレたのかもしれない。近頃感情が顔に出る。
両手に抱えきれなくなる程成長した感情と、自身を柔らかな熱で満たす記憶は表情筋を解かし、喜怒哀楽が以前よりもはっきりしてきた。
それ故隠し事が出来なくなったのは問題だが。
でも今は、言ってしまおう。何だか言葉が窯から湧き出そうだ。
「お母さんじゃ、やっぱり多分動かない。起動は出来ると思う、でも動かない」
「……レイちゃん、どういう事?」
「14歳の心の壁は、柔らかくも硬くもある。お母さんならそれを再現できる。でも、起動できるのと動かせるのとは違う。力で何とか解決できる物じゃない、と思う」
「……痛いところ突いてくるね」
「だから……ダメだったら、私を乗せて」
「それでも乗せたくないの。もう____レイちゃんは戦い過ぎだから」
折れない。
そうじゃない、折れたくないから折れないようにしているのかもしれない。
(折るのはダメ……かな?)
どちらかが折れるのは出来ないかもしれない。親を得た綾波は、時々ハルナやリクと意見でぶつかる事があった。
例えば、朝の料理で味噌汁に何を使うかとか。
(合わせみそが良い)
(赤みそ一択だよね?)
(あのさ早く決めようか?)
こういう時、親になりたてのハルナやリクはなかなか折れない。
そういう時は、第3者役にいる人が仲裁に入っていた。例えば、今日は合わせみそだけど明日は赤みそにするといった具合だ。
それと同じ、かは分からないが、こうすべきだと綾波は思った。
「お母さん、エヴァの戦い方知ってる?」
「……知らない」
「知らないと、上手く動かせない。私なら、上手く動かせると思う。でも、お母さんは私を
本心を突かれた。
「綾波を乗せたくない」のではない。「綾波を1人で乗せたくない」のだ。
エヴァは1人乗りだとずっと思っていたというのもある。エントリープラグを見た時、明らかに1人乗りの設計がされていて、複数人の登場を想定していなかったからだ。
勿論、2人で乗る事も考えたが、それはそれで無理だと考えた。
エントリープラグの狭さが問題なのだ。
「お母さん、真田さんに我儘を言って」
「我儘?」
「今まで散々したのに、躊躇うの?」
思わず吹き出しそうになった真田は何とか堪え肩を揺らす。
真田は何となく察していたが、これは「察して動いてはいけない」と理解して待つ事にした。
それもそのはず。綾波が「分かっても待ってほしい」と視線と表情で言っている。それを理解しない真田ではない。
「……真田さん」
「どうした?」
「……レイちゃんも乗れるように、2人乗りにしてください」
親として譲れない部分は譲れない。だから、「あくまで自分が乗る事」を前提にして、「レイちゃんも乗れるように」と頼んできた。
(譲れない部分は譲れない、か)
真田にとってハルナはいつまでたっても後輩だ。待ってましたと一肌脱ぐ事にした。
「新見君。甲板部と協力してエントリープラグの改造を行う。何とかして2人乗りにする」
「では、2人乗りの改修作業が済み次第起動試験が実施できるようにスケジュールを組みなおします」
「後は、プラグスーツとやらはお任せにゃ」
「えっえっちょっと私も仕事しますって」
「だったらプラグスーツの方をやってくれ。君の体形に合わせて作る必要があるから私には出来ない領域だ。私がやろうものなら保安部が取り押さえに来るだろう」
最後に真田が何を言おうとしていたのかは分からなかったが、何となく意図は理解した。
プラグスーツの複製にマリを充ててそこにハルナを投入する。
明らかに、お仕置きだ。
「さーてハルナっちを採寸して作りましょっか~真田さんハルナっちをすっぽんぽんにしていいよね~?」
「……やはりこうなるか。綾波君、真希波君を止める役を命ずる。これを使いたまえ」
綾波に「例のハリセン」を託すと、真田は話を切り上げてスケジュールの調整に入った。どこか嬉しそうだ。
それを口に出すほど皆空気が読めない訳ではない。いや、いた。
分かってても空気をぶち壊しにかかれる人が、1人いる。
「真田さんなんだか嬉しバシンッ!!」
「お母さんに変な事したら、叩く」
「パ、パイセンが2人いる……! セイイッパイ、ヤラセテイタダキマス」
「次の目的地は、ここだ。ここから800光年先の、惑星コルサンティア」
「例の都市惑星か。ここには何があるんですか?」
「何がというか、惑星そのものが遺跡だ。その中で目指すのは、コルサンティアで一番情報が集中している部分だ」
「簡単に言うと、記憶装置よ。そこに星の記憶装置があり銀河系中のに情報が格納されている、というのが、キーマンとガミラス側の話よ。アケーリアスが生み出した都市惑星という事だから、中身は期待できそうよ」
「幸いにもコルサンティアは惑星といっても
そういうと、真田はコンソールを操作してコルサンティアの観測情報を出した。超空間観測を行い誤差±1か月のコルサンティア沖を捉えたものだが、やはり先客がいた。
「ガトランティス……」
そう、いるのだ。
第8浮遊大陸奪還作戦と同規模の艦隊がコルサンティア衛星軌道上を陣取っているのだ。
まだ艦艇の情報は分からないが、ガトランティスは数で押し潰す戦いもする為性能で大きく劣る相手でも油断はできない。
「アケーリアスが何の防護措置もしていないのは気になるが、我々は先客を押しのけてコルサンティアに突入する必要がある。だが、さらに問題がある」
さらにコンソールを操作して、コルサンティア周辺の宇宙海図を縮小していった。コルサンティアが所属する恒星系もさらに小さく表示されるとさらに縮小され、白色彗星が表示された。
どうやらコルサンティアから1200光年の位置にあり、今は亜光速で進んでいるようだ。
「この距離はそろそろ危険だ。最悪の場合、彗星がコルサンティアをひき潰すかもしれない。だが、情報を集めるにはどのみち必要だ」
「作戦として、震電部隊によるコルサンティア地表面の探索、航空隊と秋水、新2号機による防空支援任務を考案しています」
「俺達としては、惑星降下後の行動は、精々月面や火星で訓練した程度です。真田二佐、そこの重力はどれくらいですか?」
「ガミラスからの情報によると、地球の0.8倍との事だ」
「0.8倍……航空隊の支援も受けられるなら可能かと。それと、震電に追加移動手段としてランドスピナーを取り付けて下さい。カタログ上なら探索時間を減らせるかと」
「分かった。平行して準備を進める。シミュレーターの方でランドスピナーの挙動を再確認しておいてくれ」
「了解しました」
ノウゼンはそう言うと話を切り上げてさっさと会議室から出ていった。
素っ気ないが仕事は確実に熟す。そんな一面が見えた事で「信頼出来そうだ」と安心すると、次の話に移った。
「それと、初号機の起動試験だが、まずはハルナ君が登場する。綾波君はあくまで同乗者扱いとなるが、予測が正しければ、操縦できるのは綾波君の方だろう。これは『ハルナ君が搭乗、または同乗しても問題ないかどうか』の試験になる。無事にシンクロして起動が出来るなら、実践投入は問題ないと言える」
「やっぱり、乗るんですね」
「互いに少し考えを曲げて、妥協点を見つけた結果だ。綾波君には驚かされた、我々より、ハルナ君の事を分かっている」
「出来るから自分で何とかする。それにも限界が来ますが、俺達は真っ向からそれを口に出せなかった」
「それを、我々ではなくあのお嬢ちゃんが投げてくれた」
自分の孫娘もいつかはあのように可愛くて芯の強い子にになるのだろうと徳川が想像するが、真田は苦笑いをしていた。
真田にしては珍しく濁そうとしている。
「いや、投げたというかアレは……剛速球だな。だが良い気付けになったと思いたい」
「剛速球?」
「その辺りは気にせず思い切り投げ込めるのだろう」
オブラートに包んだり多少濁したりする事もなく言いたい事をぶつけたような格好だが、「娘だから」出来たのかもしれない。
真田は、クロノスで作業をしていた頃から綾波と交流がある。この場にいる古代や新見、島、徳川よりもずっと長い。
だからなのか妙に納得がいく。2人の間に余計な壁がないんだ。
(綾波君、リク君と共にハルナ君を支えてやって欲しい)
「それとガミラス側の調査艦隊ですが、人間爆弾の件もあるので近隣の基地で隔離を受けてもらいます。説明は済んでいます」
「ではそのように。解散」
また忙しくなりそうだ。でも、今くらいは寝かせてもいいだろう
折角眠れそうな方法が見つかったのだから。
後輩の為に、身を粉にして働く事を決めた真田であった。