宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
NEWYORK1 地下800m
「ご協力に感謝します。ミリーゼ三佐」
「構いません。現状動かせる1番の戦術機部隊が、我々の部隊だったというだけです。作戦要綱は?」
「マルゴットにわざわざ地下都市への降下通路があったんです。それも真新しいもの。だったら、何かありますよねと言う事で、小隊各隊にランドスピナーでダッシュしてもらいます。出来るだけしらみつぶしに」
「期間が約2週間。携帯食料と水等を補給しながら隅から隅まで調べると」
「NEWYORK1の地下から南下して、旧ニューヨーク州のバッファロー地下都市。旧ペンシルベニア州のピッツバーグ地下都市とフィラデルフィア地下都市。そして、コロンビア特別区ワシントンDC地下都市。怪しさで絞り込んだのがこの4つです」
「北は宜しかったのですか?」
「既にチェックで何とかしました。北米管区時代に行われた地下都市工事等全ての資料が集まりましたのでそこから白だと判定しています。と、同時にホルスアイの応用で地下までスキャンし切って、普通の地下都市だと確認しました。ただ……」
「ただ?」
「これから探す地下都市はあんまり資料が出そろわなかったんです。拡充工事が何度も行われた形跡があり資料が幾つか紛失していたんです。オマケにワシントンDCの方は変な作り方をしてました」
「それは、こういう事よ」
赤木がタブレットに移してミリーゼに見せたのは、ワシントンDCの構造解析図だ。一見すると普通の地下都市に見える。マンモス団地のようにマンションが大量に並んで、所狭しと公園が並んでいる。
「ここを見て。ここに、この辺り」
「中身が映らなかった空間、ですか」
「さっきも言いましたけど、ホルスアイを応用する事で電波の跳ね返りとかを使って地下とかの解析が出来ます。それが通らなかった。つまり、元から電波での透視防止の仕様で作っているんです。民間人居住を目的とする地下都市では必要ありません」
ミリーゼは首をかしげる。ミリーゼ自身も地下都市に住んだ事のある世代で、こんな不自然な構造がある事自体に疑問を覚えた。発電施設か? それとも造水施設? 空気循環システム? 恐らくそのどれもが間違いだろう。
資材不足に悩まされる戦時中にこんな場所を作る意味がないのだ。
「ワシントンDCに向かう人は、これを探してもらうわ。マップは大体できてるから、細かい所は震電で調べる。一応、バックパックに2式空間機動甲冑を装備しておくから、必要に応じて降機して使ってね」
「それで、睦月三佐はどうされるのですか?」
「見に行くに決まってるじゃないですか。ワシントン目指す機体の誰かの機体に相乗りします」
「……アグレッシブな元技術科がいると聞いてましたが、貴方の事だったんですね」
「そんなふうに伝わってたんですか……でも合ってはいるので、否定はしません。では皆さん、よろしくお願いします」
___________
リクはシデン・イーダ二尉が乗る震電に相乗りする事となった。腰部武装マウントに電磁小銃と超高振動近接短刀を装備し、非利き手に中型のシールドを装備した機体だ。
手早く補助座席を取り付け彼女の邪魔にならない位置に乗り込むと、タイミングよくシデンが乗り込んできた。
「ワタシがアンタをエスコートするよ。シデンと呼んでくれ」
「よろしく頼む。震電に乗るのは初めてだ」
「この子はイイ子だよ。素が優秀だから何やらせてもそつなくやれるし、追加装備とかも付けやすい。このランドスピナーとかいうローラースケートも、良いもんだよ」
「ハインラインさんに伝える。震電大絶賛だと」
「あの若い技術士官だっけ? 今はバケモノ作ってるって聞いてるよ。震電に制圧能力を乗せようとか何とか」
「戦略機の裏でそんなのも作ってるのか……過労死しないと良いけど」
「大丈夫なんじゃない? マッド共がいる事だし。さて雑談はこれでお終いだ、舌噛まないように歯ぁ食い縛ってな?」
「え? うおっ!?」
間髪入れずにシデンがフットペダルを踏みこみ、座席にグンと押し付けられる。慣性制御の緩い補助座席では加速度を殺し切れずに、シデンの言う通りに歯を食い縛った。
18m級の巨体に歩行以上の軽快な機動を与えるランドスピナーは、匍匐飛行と並ぶ優秀な移動手段であり、その気になれば低重力環境下でも地に足を付けながら走り回る事が出来る。
しかし、その真価は陸上だけではない。
「そうら!」
シデンはランドスピナーを壁面に押し付けて、スラスターで補助をかけながら垂直に上昇した。
身体が上から押し潰されるような負荷を覚えるが、それも数秒。上り切ってバク宙したかと思うとスラスターで器用に落下速度を殺してかなりゆっくりと着地した。
「……びっくりした」
「絶叫系は大丈夫そうだね」
「若い頃にハルナと遊園地で一通りやってみた。平気だったけどこれは……」
「ハルナ?」
「妻だ。宇宙でそういう絶叫っぽい事してないかな……心配だ」
そうこう話しているうちにシデンは周囲の状況をスキャンしていき、通れそうなルートを探索していく。
これから進むルートは、再稼働準備がまだ行われていない区域だ。すでにNEWYORK1直下の地下都市の半分にKREDITの技術部門が入り、人員受け入れ用意と造水浄水施設の整備、都市への電力供給用に大型化した波動機関の設置作業に入っている。
KOMPASSとの協議で、KREDITの作業に支障が出ないように調査する様にとお達しが出ているので、そちらのルートは進めない。当たり前だが建造物に損傷を与えてはいけない。シデンにも震電にもシビアな任務になるだろう。
「さて、手つかずの所を器用に進んでいくしかないね。それでさ、聞きたい事があるんだけど」
「?」
「アンタ、何を探してるの?」
本質をつつかれたことを警戒してリクは黙ったが、シデンのそれは只の興味だと感知した。どの道シデンかその他の空間騎兵隊員が見つけるから「知るのも時間の問題」だと判断したリクは、任務の詳細を明かす事にした。
「探しているのは、ゼロチルドレンと呼ばれた少年だ」
「は?」
「火星の北極点の爆心地の話は知っている?」
「あの気味悪い場所でしょ? ダイモスで訓練した時に見えたけど」
「その空間に個体生命は侵入できないが、そこに侵入できた人物だ。それがゼロチルドレンだ。自称『渚カヲル』。極秘事項が多すぎて、ギリギリ喋れるのが、ここまでなんだ」
ガリラヤベースの報告書には裏がある。正確には裏面、ではなく、続編とでもいう立ち位置にあるのだが、それによると渚カヲルはエヴァMark.6を用いガリラヤの跡地に侵入し、エヴァか使徒か不明な肉片を回収したとの事だ。
そして、その肉片をベースとしてエヴァの極初期型試作モデルが建造されたらしい。それも2170年というかなり早期の段階でだ。
尤も、テストパイロットは精神崩壊を起こしたので、付属パイロットが生み出されたとの事だ。
(SEELEがド畜生だと言える理由が増えたな。N2で熱消毒だ)
リクはSEELEにN2弾頭をプレゼントして起爆しても良い。これは絶対だ。
その少年が一体何者か、WILLEとデイブレイクはある程度の推測を立てていた。
その1 綾波と同じような「作られたパイロット」である事。
2番宇宙出身かどうかは分からないが、同じような世界線が幾つもあると仮定して「どの世界線にも同じような人物がいる」という半分事実な話を加えると、渚カヲルがまだ発見されていない状況を説明できる。
まず、地球月間でミラージュコロイド搭載のドレッドノート型輸送艦で、綾波のスペアボディが見つかった。
何故魂込みじゃなくスペアなのか? 碇ユイの遺伝子とリリスがこの地球に揃っているのに、何故SEELEと碇ゲンドウ側は魂入りボディとしてその体を製造しなかったのか?
これに対し、デイブレイクはこう考えた。
「恐らく、どうやっても魂入りでは作れなかったんだろう」と。
綾波レイは、リリスと碇ユイの遺伝子から生まれたクローンボディに、リリスの魂を封入して作られているらしい。しかし、原則魂が入った状態で稼働で着ているのは1人のみ。どれだけ体を量産しても、綾波レイとして生きていられるのは1人なのだ。
この場合、綾波レイの身体をコードセロ指定物として回収し、WILLEで保護している綾波レイ本人の同意を得て魂を入れた事で「綾波レイ」という存在が生まれた。
この世界線で綾波レイがもう1人生まれる事は無い筈だ。
これと同じ考え方をするなら、「作られるパイロットの筈」の渚カヲルも、既にこちらの世界に来てしまっているから、「仮に渚カヲルのスペアボディ」を作ったとしても魂の封入が出来ないので、渚カヲルは1人ということになる。
その2 渚カヲルは使徒である事。
随分とおかしな考察だが、避けては通れない事実がある。
彼は、ガリラヤの爆心地で生存していたのだ。通常の人類では出来ない事で、現に侵入した人間は軒並みLCLになっている。
ここで、奇妙な話を一つ。
渚カヲルが乗っていなくても、Mark.6は稼働したのだ。
彼自身の能力により動いた、というのが正しいだろう。
使徒という生き物の情報は、ガミラス側でもある程度確認されている。そのどれもが奇怪な存在だ。
二足歩行するかと思えば正八面体が出てきたり、粘液が出てきたり。ただ、人型というのは聞いた事がない。
が、これもその1を交えれば話が通じるかもしれない。
仮称使徒「渚カヲル」の魂を、リリスの肉体に押し込めればどうなるのか?
綾波レイと同じ方法を使い、使徒の魂を持つ人間を生み出せるかもしれないのだ。
だが、渚カヲルが存在しているとすれば、渚カヲルの魂は何か?
これだけは、どう頑張っても分からなかった。
ここまでを纏めると、渚カヲルは使徒の魂を「リリスかそれに準拠した使徒」の遺伝子込みで作った肉体に押し込んだ人造人間であるという事になる。
「まったく、とんでもない胡散臭い任務に引っ張り出してきたもんね?」
「それに関してはすまないと思う。この一件に関しては大分後ろ暗い組織が関わってる。でも、本来こういう組織を潰す為にWILLEは生まれたんだ」
シデンが溜息をつきながら操縦桿を握り操縦を続ける傍で、リクは素直に謝った。任務をわざと不透明にして協力を仰いだのは自分だ。
危険自体は極力無いようにしたが、一部では納得がいっていない物もいるだろう。
だから、出来る範囲で開示をしたのだ。「後でどうせ知る事になる範囲」は今黙っていても意味はないのだ。見つかったなら見つかったで後で舞台全体にかん口令を出せばいい。
「……そこまで言うなら付き合ってあげるわよ」
「かん口令はどの道敷く」
「言っとくけど、信じるって決めたのはアンタじゃなくて──あの目をしてたからよ。嘘がないって、分かっただけ。政治はキライなんだけどさ、アンタそっち寄りの人じゃないんだろ? それっぽくマイルドにやってるだけだし、割と柔軟にやろうってしてるのも分かる。アンタみたいなのが連邦の大統領してたら、割とマシになってたんじゃないの?」
「僕が入院してる時にいつの間にか潰されてたから驚いた。んで、後継組織のKOMPASSが生まれててさらにビックリした」
「地球全体を国家ではなく、KOMPASSという組織が管轄する自治区モドキとして再構築する。噂では聞いてたけど、アンタが撃たれて入院してる時に、WILLEのトップは相当頭に来てたらしいよ?」
「聞いている。極東機甲師団とルクレティウス級を持ち出してタワーの直接制圧をしたくらいだからな。アレを地上運用したというのが驚きだけど、本来は宇宙用だ」
「マジで?」
「今アリアンロッド公転軌道を常時周回してるのは、あの時のルクレティウス級とその姉妹機だ。絶対防宙圏に入る敵性艦艇や機体、あと隕石とか色々は、ルクレティウスが全部破壊する。僕と、ハルナと、マッド達の傑作だ」
「……いいねぇ。そういうの」
__________
捜索開始から3日
コロンビア特別区ワシントンDC地下都市 地下都市間連絡通路ゲート前
「今日はここいらで野営だね。慣れたかい?」
「もう慣れた。震電のバッテリーは?」
「後2日は持つね。急に加速したり減速したりはしなかったから、電力はまだ余ってるはずだけど、見てくれる?」
「乗せてもらってる身だ。それくらいはお安い御用だ」
ワシントンDC地下都市への進入を前にして、機体を休ませるために野営をする事となった。
震電にはサバイバルキットが常設されていて、非常時でもパイロットが生存できるように簡易糧食と見ず、簡易テントが装備されている。
これを転用して、日を跨いだ捜索活動を実現している。
リクは震電によじ登り各種ステータスを確認する。
連続稼働時間600時間を誇るがバッテリーだけはどうにもならない。基地での補給は帰還後に行うしかない。一応ランドスピナーや各部関節には回生ブレーキの要領で発電能力が与えられているが、それはバッテリーの全体量から見れば微々たる量だ。
「それなら……アレか」
という事で、ハインラインから聞いていた機能を使う事にした。
背部フレキシブルスラスターを稼働させて爆風が発生しない位置に推進器を持ってくると、そのまま火を入れる。コスモエンジンの系譜である事を示す水色の噴射炎が灯ると、ギリギリまで噴射を絞って発電に回す。
「これで2時間くらい回してみよう」
「おいおい電力食うんじゃないのかい?」
「これで発電できる。2時間で大体……15%くらいか。地上でも戦術機を飛ばせるくらいに強力だから、色々機能を詰め込んだとハインラインさんが言ってたけど、熱電変換が気持ち悪いくらいに高い」
「その熱でスープでも沸かせるんじゃないのか?」
「超高速調理にはもってこいだけど、大人しく電力を引いてIH使った方が美味しく出来る。まぁ焼きマシュマロくらいは出来るはず」
「そうかい」
投げ渡された糧食を器用に左手でキャッチして、右腕の義手を伸ばして垂直に降下した。その様子をシデンはまじまじと見つめてしまい、純粋にカッコイイと思ってしまった。
「結構イカすじゃない、それ。生まれつきかい?」
「極東事変で腕がボロボロになるくらいに銃撃を受けて、この腕になった」
「何かゴメン」
「そう言われるのも慣れている。生体細胞の培養を使えば、腕を丸ごと再生する事も出来るから、早めに何とかしておきたい」
「へぇ、何でそうしなかったのか、聞かせてくれないか?」
作業の手が止まり、リクは一瞬思案する。でも、一言一言慎重に言葉を選び、理由を紡いだ。
「培養と接合、リハビリに時間が無かったというのは事実だけど建前だ。実際は、これならハルナと自分の身を守れるからだ。守る必要が無い時代になったら、こんな金属質な腕じゃなくて、元の生身の腕を取り戻すさ」
「何かさ、楽しそうに話すね。アンタ」
「そうか?」
「傷痍軍人ってのはアタシも見た事あるさ。目とか腕とか足とか、臓器を失うやつとかもいた。そういう人にマジで失礼なこと言うけど、揃って心に傷持って暗い顔してんのよ。でもさ、アンタはどこか楽しみな顔して生身の腕取り戻す話してるのがさ、不思議なんよ。何かしたいことあんの?」
慎重に差し出された言葉をリクは受け止め、頬に優しく灯る熱を感じながら、自分の願いを話した。
「……娘がいるんだ。血は繋がっていないけど、養子に近い立ち位置にいる」
その声には、どこか慈しむような響きがあった。
「娘と、妻のハルナを同時に抱き抱えるには、両方生身であった方が、『愛してる』を平等に伝えられる。片手で抱えられるものには限りがあるからね」
「……は?」
「?」
「いや、何ていうか……アンタ相当な愛妻家か何かかい?」
「自覚はある。娘がやって来たからついでに娘にベタベタになりそう。前に娘の寝顔見ながら頭を撫でてたらハルナに妬かれたくらいだ」
「うぅわ愛されまくってるじゃん。アンタも、その奥さんの事大好きなんだろ?」
「片割れみたいな感じだ。2人揃えば大抵何とかなるみたいな。でも今は……少し寒いな」
ずっと感じている寒さに悲しげな笑顔が滲む。
こればかりはどうしても慣れない。光の速度でも追いつけないほど遠くの宇宙にいるハルナも、もしかしたら同じことを感じているのだろうか。
ふと、コーヒーが差し出された。
「あんまりにも甘い話だからね、砂糖は少なめ。地下都市の空調がまだ動いてなくて冷えたままだから、体に染みるよ」
シデンに礼を言い受け取り、コーヒーに口を付ける。
徹夜作業で散々お世話になった味とはまた違う。ほろ苦く、温まる味だ。
「苦いな、ん? ……塩?」
「国連軍時代だと、コーヒーに塩を少々してたってさ。WILLEにも残ってるさ。苦手かい?」
「いや、偶にはいいと思う」
また、コーヒーに口を付けた。
━━━━━
翌日
立膝で駐機姿勢を取っていた震電が目覚め、ゆっくりと動き出す。寝起きのように緩慢な動きで立ち上がると、足踏みをして、肩を軸にして腕を回し、関節部と各部アクチュエータの動作を確認する。
「ま、分かってるけど確認ね。この子はそう簡単に音を上げない」
「600時間は伊達じゃない。バッテリーの方が心配だけど」
「昨日貯めた分で大丈夫さ、じゃ発進」
ランドスピナーのホイールが唸りを上げて滑走を始める。まずはゆっくり。だんだんスピードを上げて、時速150㎞まで加速してゲートに突っ込む_____いや、器用に飛び越えた。
体操選手のような綺麗な捻りを加えてゲートと天井との隙間を通り抜け、膝関節の頑強さを活かして衝撃を和らげて着地。噴煙が蒔きあがり振動が地下都市に響き渡り、まるでスタジアムの歓声のように響いていった。
まさかここまでとは。この常識外の機体を作ったハインラインとそれを操るシデンに素直に拍手をした。
「褒めても何も出ないよ?」
「それでも凄いな。体操選手でも目指していたのか?」
「そういう訳じゃないけど、騎兵連隊やってた時に身体は鍛えまくったからね、動かし方は自分がよく分かってる。この子は私の神経を外から読み取って、思ったイメージを実現してくれる。だからなのかな。電磁小銃とかも、連隊が使ってたやつと見た目もスイッチもほぼ一緒なのよ」
「ハインラインさんの傑作だ。元々震電のフレキシブルスラスターは、背中じゃなくて腰についてたらしいけど、空間騎兵の装備に合わせて背中に移したらしい」
「背中? ……ああそういえば、装甲宇宙服は肩甲骨あたりにスラスターがあったね。そこまで気を配って設計するとか、さぞ大変だったろうに。お陰で初乗りでもある程度動かせたけどね」
「新2号機もか?」
「アレは何というか……式波とかいう子に合わせてバリバリにチューンされてるから、たぶん誰が乗ってももうダメね。飛行形態、秋水の方でやってみたかったけどアタシには適正なかったんよ」
震電は地下都市の通路を慎重に進んでいく。大型団地がいくつも並んだ構造の地下都市は、道幅もそこまで広くない。震電が横に2機並んでギリギリになるくらいには余裕がない。
シデンは震電にランドスピナーを格納させて歩行での移動に切り替える。速度は落ちるが安全性は高い。それに足元の確認もしやすい。
「一先ず何もないみたいね。あとは空からの解析結果を基にしてっ……! 掴まって!」
急に身を捻ると、さっきまで動体があった所をミサイルが突っ込んできた。危うく上半身と下半身が泣き別れになる所だった。素早く電磁小銃を利き手に構え、超高振動近接短刀を小銃の先端に素早く装着して銃剣にした。
「大当たりだ」
「さっきのミサイルは幸運にも外れだけどね。やっぱり、ワシントンDCの映らかなったやつはヤバめの代物って感じね。ちょっと手いっぱいになりそうだから通信入れてくれないかい?」
「中継器おいてきて大正解だ。これならギリギリ通じる」
シデンの操縦席に強引に身を捻じ込み、通信用コンソールを使って救援信号を送信した。
もう少し詳細に情報を伝達する必要があったが、現在進行形で戦闘中だ。それに、「救援信号を出す」という事は、「来てほしい」と示す事にもなるので、何かあったという事を報告する事にもつながる。
「これでよし! うぉっと!!」
「座席に戻って! 揺れるわよ歯食い縛って!!」
一気に戦闘モードに引き上げられ、次々に発射されるミサイルを電磁小銃で撃ち落としていく。が、1つ1つに狙いを付けていては全部落とし切れず避けるしかなくなり、ミサイルが地下都市居住区に次々に着弾する。
ミサイルの先制攻撃を凌いだシデンはランドスピナーで急加速しスラスターで一気に飛んだ。
しかし悪手だと気づいた。地下都市中にミサイルが配備されているとしたら、この高度ならどこからでも飽和攻撃できてしまう。
ミサイルが一斉に放たれ、震電に殺到し始める。堪らずランダムに回避軌道を取りミサイルの軌道から逃れようとするが、先ほどのミサイルよりも食いつきが良い。中々振り切れない。
「ヤバっ!?」
「そのまま!」
「はぁ!?」
リクの突拍子もない指示に冗談じゃないと声を荒げるが、次の指示でそれは間違いだと感じた。
「背面飛びでフレア射出、熱誘導を切り小銃で撃ち落として! この際無人だから地下都市への被害は無視だ!」
「ああそうかい!!」
ちゃんと考えていたのか。指揮経験の浅い技術科の咄嗟の指示かと思ったが、詳細な指示が飛んできた事に軽く驚きすぐに実行する。妥当性を求めて議論を始めれば、結論が出るころには炭になっているだろう。
兎に角生き残るために、内蔵式のフレアを射出してミサイルの軌道を鈍らせて撃ち落としていく。
フレキシブルスラスターの噴射炎が一層強くなり暴風のような音が地下都市に響く。さらに速度を上げていき、複雑な回避軌道を背面飛びで、それもミサイルを常に視界のど真ん中に置きながら描いていく。
フレアで目標を惑わされたミサイルが動きを鈍らせ、それを電磁小銃が仕留めていく。マガジンの残りも気にせずとにかく撃っていく。回避運動と射撃で必死なシデンとは対照的に、リクは持ち込んだ端末を震電のセンサー系につないで物凄い勢いで解析を始めた。
(上空に飛んだ時で発射煙が10か所からだった。ミッションレコーダの映像から引っ張り出して地下都市の地図と照らし合わせて座標を計算して、あとは銃剣で潰していくだけ!)
「シデン、位置が分かった! マップに出す!」
「厄介ごとは、根を断てばいいってね!」
次のマガジンを装填し、急降下しながらミサイルの発射地点に向かう。全身の姿勢制御スラスターを重力下で細やかに吹いて進行方向の視界を確保し、居住区の隙間を抜けていく。
砂煙を巻き上げ衝撃波で居住区を叩きながら発射地点に肉薄し、その視界に捉える。
大きく脚部を振り、サッカーボールのように発射装置を蹴り飛ばした。巨体から繰り出される一撃は鞭のようにしなやかに、しかし圧倒的重量を抱えて襲い掛かり、発射装置は容易にスクラップとなり爆発した。
「次!」
迫りくるミサイルがもう至近距離にまで迫り、やむを得ず非利き手のシールドで受けきる。左腕肘関節が爆発の勢いを押し返そうと軋みを上げながら動く。
シデンはその爆発の威力を逆手に取り震電を背面飛びで一気に加速させる。シールドで受ける爆発も推進力に変えて次の発射地点に飛び、電磁小銃で仕留める。
「次!」
電磁小銃の先端に取り付けた近接短刀で串刺しにする。
「次!」
非利き手に装備したシールドの打突部を使い破壊した。
「次!」
引きつれたミサイルを上手く誘導して、同士討ちをさせて破壊した。
やがて飛び出してくるミサイルの数が少なくなってきた。撃ち尽くした装置がいるのだろう。なら、まだ撃ってくる装置に照準を絞るだけだ。
「こいつを!」
まだ撃ってくる装置に向かって銃剣を向けサイドレーザーを照射する。確実に仕留める心で引き金に指をかけるその刹那、周囲に強力なプラズマが放射された。
周囲に導電性の粒子がばら撒かれ、高出力のプラズマが放射されているようだ。震電のセンサー系にノイズが走り始め、機体動作がぎこちなくなっていく。
「なめんじゃ、ないわよ!!」
スラスターで無理矢理脱出すると、プラズマで焼かれた装甲から煙を上げていた。
脱出した事で機体動作は回復しつつあり、発生源らしき場所に向かって連射すると、電磁爆発を起こして沈黙した。
ダメージはあるがセンサーも機体も何とか持ち直し、次のミサイルを迎撃する。
「さっきのはヤバかった」
「全領域対応機だったのが幸いした。センサー系の調整はこっちで続ける。そのまま動けるはずだ」
「終わったらオーバーホールだねぇ装甲焼けちゃってるし!」
焦げた装甲から煙を引き、震電は再び飛び上がる。残りの発射地点は遠くなく、ただの山なりの弾道軌道で着地し、ついでに発射装置をクッション代わりにして踏みつぶした。
「これで、おしまい!!」
予備の近接短刀を引き抜き逆手に構え、凄まじい加速を加えてすれ違いざまに切り裂いた。超高振動状態で豆腐のように切り裂く近接短刀は刃こぼれを見せず、確認できるだけで最後の発射装置を破壊した。
残身の体勢から素早く姿勢を正し、周辺警戒に入るその姿は機械と思ってもどこまでも軍人臭い。それなのに頭を回し周辺のスキャンを続ける姿は「こいつは兵器なんだ」ともう一度理解させに来る。
「動体反応なし。FCSの照射も確認できない。状況終了」
「機体の方は?」
「シールドがキツイかな。何発も直撃を受け止めてたから。あとは、さっきのプラズマでセンサー系がまだ不調ね。だいぶ戻って来てるけど、しばらくかかりそう」
「済まない、時間をもらう」
「後は細かい調整だけでしょ? なる早で丁寧にやってね」
カヲル君登場です