宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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The God Killers Meet Again Part1 -AW4年4月22日-

 白色彗星から1200光年 恒星間宙域

 

 

 敢えて逃がされた、というのは分かっている。

 自身の無用な殺生を避けるのがテロン人なのだろう。たとえ相手の心を抉るような方法であったとしても、彼らは自軍を守り切る。

 

「テロン人め……ッ!!」

 

 報告しても「戦って死ね」と言われるだけだろう、ならそうしてやろうじゃないかと思ったが、メーザーは考え直した。

 数と戦略もあったとはいえ、苛烈な砲撃でカラクルム級の群れを一方的に射抜き続けたのだ。

 テロンの戦力は、3年前に滅びかけた赤茶けた星である事を忘れさせるほどには強大過ぎる。

 何かの種がある、と誰も死もが考える事だろう。

 

「補給も儘ならないが、どんな汚名を持とうとも、大帝にお伝えしなければならない。全艦、空間跳躍の陣を敷け。私は死を甘んじて受けるが、テロンの脅威は大帝にお伝えせねばなるまい」

 

「前方射程圏外より空間跳躍反応」

 

「出迎えであるはずがない」

 

「跳躍を確認。……提督!」

 

「ッ!? 何なんだあれは……!」

 

 それは、青い凶鳥だった。

 

 

 ____________

 

 

 

 底知れぬ思慮を瞳の奥に隠し、彼は紅茶を楽しんでいた。

 だが味が違う、所詮は代用品だ。

 ズォーダーが彼の為にと用意した物だそうだが、ガトランティスのややアバウトな味覚とガミラスの繊細な味覚は分かり合う事は出来なかったようだ。

 それでも捨てずに飲んだという事は、少なくとも「不味くはなかった」のだろう。

 

「執念、という物が見たい。ズォーダー大帝は貴方にそう仰られましたが、そうした感情が、我らガトランティスには時に劇薬のように作用します。猛き猛将は数多くいれど、その感情に飲まれれば、それは毒となり汚染源となる」

 

 

「ズォーダー大帝は、その執念を大事にしておられるようですが、彼らは執念を捨てて敗軍の将として帰還の途に就いた」

 

「貴方への最初の試験は、その執念を捨てた敗軍の将を駆逐する事にあります」

 

 

「ミル君。私は、ヴンダーと戦えると聞いてここまで来たのだが」

 

「それは勿論。ヴンダー__テロン艦という汚染源の処分はお任せします。私は、見た物を大帝にお伝えするのみの存在です」

 

 

 アベルト・デスラー。

 亜空間回廊海戦で座乗艦であるデウスーラ2世を行動不能にされた後、彼はガトランティスに発見された。

 両舷のメインエンジンを失いこのまま宇宙を漂流するかと覚悟を決めた時に現れた彼らを、生き残っていたデウスーラ2世乗員は果敢に戦ったが、その乗員のほぼ全てを失い自分は意識不明のまま虜囚となった。

 

 幸いにも、「元」一国の王という事もあり、丁重に扱われた。

 だが、気になったのは彼らが科学奴隷に命じデウスーラ2世を解析した事だ。

 タランにも命じ陣頭指揮を取らせ、丸裸にする勢いでガトランティスの科学奴隷はデウスーラ2世を解析した。

 

 それで生まれたのが、ティカル級という神殺しの模造体だった。

 

 ズォーダーは疲れたような目でデスラーにティカル級の事を話した。

 神殺しの姉妹の3番艦と4番艦___エルブズュンデとゲベートと呼称する船を手に入れた彼らは、力の象徴として「メガルーダ」を生み出した。

 科学奴隷の尽力により原型よりも小さくそして強大な力を得る事が出来たが、巨人の体躯をその艦体に組み込んだ事で制御の効かない物の怪と成り果ててしまった。

 

 その後に現れたのが、デウスーラ2世___エアレーズングという船だと言う。

 

 実際にこの世界でATフィールドを行使した艦艇であり、新たな姿で生き延びる事が出来た神殺しの次女とズォーダーは語ったが、デスラーは危機感を覚えた。

 

 

 彼らは、神殺しの船を使い危険な事をしようとしている。

 

 

 それは、ティカル級使()()()()大艦という奇妙な名前からも感じ取れていた。

 

 

 自分には、テロンのヴンダーに対する復讐心がある。

 だが、それを脇に置いてでも阻止、或いは妨害をしなければならないと、自身に残る統治者としての血が訴えている。

 

 

 

 

 そしてこの体も、もしかしたら蘇生体かもしれない。

 丁重に扱われこうしてデウスーラ2世の修復と改良を申し出てくれたのはありがたいが、自分が意識を失っていた時に何をされたかは分からない。

 今後を考えれば迂闊に自分で確認するわけにもいかない。

 

 

 

 

「総統、間もなくワープアウトします」

 

「デスラー砲、発射用意」

 

 新たなるデウスーラ___デウスーラ・レパラータの艦首が開く。

 まるで肉食獣がその大顎を開くように波動砲口が展開され、ライフリングが回転を始める。

 メダルーサ級を思わせるそれはガトランティス側の改造による物で、砲身の保護を兼ねている。

 

『通常空間に現出』

 

 何もない虚空の宙に、三角形を幾重にも重ねたワープエフェクトが出現し、その真っ黒な穴の奥からデウスーラが顔を出した。

 裂け目から飛び出すようなガミラスのゲシュ=タム・ジャンプとは異なり、まるで門をくぐる獣のようにのっそりと通常空間に現れた。

 

『空間跳躍、完了。エネルギー充填率60バーゼル、上昇中』

 

 デウスーラの管制AIが無機質なガミラス語でそう告げると、艦首波動砲口の先端に血のように赤い光が生まれ、沸騰する様にうごめき始める。

 それを重力子の力で強引に抑え込み更に充填しながら、ライフリングが分割される。

 デスラーは、自身の目の前に現れたライフル型コントローラーの引き金に指をかけ、コッキングレバーを引くと、スクリーン上でサイトマークの中心に収まる艦体を睨む。

 

『デスラー砲、エネルギー充填完了』

 

「貴方の執念を、見せてください」

 

「そう何度も言わなくてもいい。ミル君。私は、屈辱を忘れない人間だ」

 

 光は枷から解き放たれ、濁流となり、目標の艦隊に猛進する。

 人の手が届かないはずの余剰次元に手をかけて生み出したこの一撃は、瞬く間にカラクルム級を飲み込み、その屈強な艦体をグズグズに焼き尽くし、塵一つ残さず消滅させた。

 

 やがて一時の恒星が消滅し、デウスーラはゆっくりと歩みを進める。

 ミルに正しく「執念という物」を見せたデスラーはコントローラーから離れ玉座でワインを傾けた。

 

 

(さて、どうしたものか)

 

 

 ワインの入った黄金のグラスを片手に、デスラーは思慮に耽る。

 しかしそれを、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ___________________________

 

 

 

 

 

 

「これが、現在の距離から、光学的にディテールを解析した映像だ」

 

 超空間解析を多用してその全貌を明らかにされた白色彗星は、その色とは真逆の禍々しさをスクリーン越しに放っている。

 情報が足りないのか所々にブロックノイズが走り、解析される事を拒んでいるかのように見えるそれは紛れも無くガトランティスの移動本拠地で、ズォーダーの牙城だ。

 

「問題はこれがワープする事と、コルサンティア攻略中にこれがワープしてくる可能性だ」

 

 そうだ。白色彗星は、その予想進路上にコルサンティアを捉えているのだ。

 星ごと押し潰して進むのか、星を取り込んで進むのか、すり抜けて進むのか、そこは分からない。それでも、「白色彗星が来るから引き返す」という事は出来ないので、彗星の進路と動向を常に警戒しながら作戦を行う事が求められるだろう。

 

「ランドスピナーの取り付けは?」

 

「既に、作戦行動可能な機体全機に取付完了しております。航空隊も制空仕様に装備換装を進めています」

 

「秋水と新2は準備万端。アタシ達の方で護衛艦隊をを潰せばいいのね?」

 

「まぁそうなる。ただし無用な破壊は避けて欲しい。テレザートでの戦闘に支障が出る」

 

「破壊って、どうするの?」

 

「それはねそれはね♪」

 

 何やら楽しそうなマリがアスカに耳打ちをすると、それを聞いたアスカは信じられないと思った。ただ撃沈するだけよりも何倍も難しい事だ。

 

「アンタバカぁ!? 艦体をあんまり破壊せずに艦橋だけぶっ壊すってマジで言ってんの!?」

 

「それがマジなんだよねぇ。この船修理用の資材は持ってるけどそれで何か作るってなったら足りないんよ。だから、狩りをして素材ゲットで工作しようって事。一狩り行こうぜ姫~」

 

「趣味悪いわー。敵艦の残骸を使って武装とブースター造るとか誰も思いつかないわよ」

 

「褒められたにゃ」

 

「褒めてないわよ! ていうか艦内の敵兵はどうするのよ!」

 

「カミナリサマでビリビリにゃ」

 

「うげぇ」

 

 やっぱり、マリが悪い笑みを浮かべた時は心の準備をしておくべきだ。

 残骸を使ってその場で武装を作って敵兵は感電させて放り出す。

 恐らく今までの宇宙海戦で誰も思いつかなかった事だろう。

 それほど難易度が高く、野蛮で、とっても危険だ。

 

 

「……そもそもガトランティス艦艇の残骸は使えるのか?」

 

「情報が少なく何とも言い難いのですが、イスカンダル航海で私達は、撃沈したガミラス艦の残骸を改修し資材に作り替えて修復を行った事もあります。ですが武装となると、それ相応の強度が必要になるので、難しいかと。ですが、材料の切り出し等は震電の近接短刀を使えば可能です」

 

「そもそも設計図はどうするんですか。今から設計できるような巨大な武器とか……あ」

 

「「「あ」」」

 

 いるじゃないか、設計できる人。

 丁度会議室の隅っこで長い髪を弄ってる白髪赤目の既婚者設計士がそこにいるじゃないか。

 

(いや、これは頼んでも大丈夫なのか?)

 

 テレザートでの作戦までそう時間がない。幾ら眠らなくても良いとはいえ過重労働になる。それでは地球から旦那の苦言が飛んできてしまう。

 

 じゃあ、type-nullの武装を借りるか? それも出来ないだろう。

 10万光年以上離れた彼方から特秘機体の武装を送ってくれるだろうか? 

 

(やむを得ないか……)

 

「え?」

 

「ハルナっち~夢とロマンが詰まった超武装、造ってみたくなーい?」

 

「え?」

 

「造ってみたくなーい?」

 

「ぐぬぬ……時間が……」

 

 悪い笑みを浮かべるマリにハルナは押され揺らぐ。折角綾波がいれば無理矢理眠れるようになり睡眠を取り戻し始めたというのに、また自分に徹夜を強いるのか? 

 

 綾波に寝かされて添い寝されるという幸福から一旦距離を置く事が出来るのか? 

 

 やっと取り戻したまどろみという感覚を手放す事が出来るのか? 

 

 朝起きたら娘の寝顔が見られるという幸福を一旦そばに置いておく事が出来るのか? 

 

 

 

 

「いや、その……寝ないと、身体に悪いので……」

 

「コストの心配いらない開発やってみたくないの~? 素材は現地調達で甲板員の給料はWILLE持ちでデザインとかは自分で決められるって夢だよねーそうだよねー」

 

「?!」

 

「お母さん?」

 

 コストの心配をしなくても良いだって? そんな開発がこの世に存在していいのか? 

 

 いや、目の前の悪魔(マリ)がそう言っているじゃないか。「出来る」って。

 

(資材の加工とかは艦内工場でやればできる。初号機へのフィッティングは艦外で震電の手を借りてやればできる。設計は、単純な鈍器ベースにすれば十分できる。ありったけの衝撃吸収装置を組み込めば実弾兵器の運用も出来る。実弾は三式を使えば出来る……出来る!)

 

 

 設計士は手を伸ばす。悪魔は微笑みその手を握る。

 それはまさしく契約の様で、誘惑に負けた人間がそこにいる。

 でも必要な事だ。何より、徒手空拳で初号機を戦わせるわけにはいかない。推進器も何もない状況で初号機を宇宙に放り出すわけにもいかない。

 

 現実問題、どの道武装は必要だ。

 

 

「1日6時間、私はキッチリ寝る。それでいい?」

 

「契約成立にゃ。ようこそ超武装と誘惑の世界へ。レイちゃんレイちゃん、こう言っちゃってアレなんだけど、ちゃんとママを寝かせてあげてね? この人寝なくても大丈夫な人だけど、寝ないと良いモノ造れないからね?」

 

「分かった。6時間は寝かせる」

 

「んじゃ作戦名はDynamiteFishing(ダイナマイト漁)で」

 

 

 ____

 

 

 

「さて、おふざけはここまでにして、ここからは真面目な話に入ろう。キーマンから押収した例のモノの解析結果だ」

 

 真田が言った例のモノ___それは反波動格子だ。

 波動エンジンに寄生してエンジンを外部から操作して破壊する事も可能なウイルスのような兵器だ。

 キーマンを「例の作戦」で確保して使われる前に押収する事に成功して、その解析を真田にお願いしていた事をハルナは思い出した。

 

「反波動格子は、波動コアと一体化して出力制御を行うバックドアのような物だ。この装置を使い反波動格子の出力を調整を行うそうだが、まだ詳しい原理まで分かっていない。だが、私の推測では、特殊な量子波操作とに関連するのは確かだ。解明が出来ればの話だが、エンジン負荷等の問題に気を配る事を怠らなければ良性のウイルスとして使う事が出来るだろう」

 

「そして、単純な出力向上手段としても使えるがこういう事も出来てしまう」

 

 そういうと、新見がタブレットを操作して床面のスクリーンにシミュレーションデータを表示させた。

 見ると、AAAWunderの波動砲の加害範囲が表示されている。

 通常の波動砲であれば射線上の物体を消し飛ばすだけで終わるが、その下に表示されていたそれに、目を疑った。

 

「超波動砲と呼称するが、反波動格子を波動エネルギー増幅手段として使い捨てる事で、威力を何乗倍にも引き上げる事が出来るかもしれない。WILLEの特砲艦隊を全て使い波動砲を斉射しても、これには届かない。ただし、第2船体の艦首は例外なく大破すると考えて欲しい」

 

 偶然見つかった一撃必殺の攻撃手段に南部は期待感よりも恐れを抱いた。

 波動砲の威力に一番最初に興奮した彼だが、その引き金の重みを感じる機会に出会わなくとも砲手の雰囲気でその重圧を感じ取れていた。

 その何乗倍もの力と聞くと、期待よりも恐れ___重圧を感じるのは当然だった。

 

「皆も分かっていると思うが、この超波動砲を使う事は出来ない。軍事的にも、政治的にもだ」

 

「アリア条約、ですね」

 

「発展型波動砲の禁止がある以上は、超波動砲の実戦配備は不可能だ」

 

 イスク・サン・アリア条約には第3条「現状想定された発展型波動砲の開発を禁ずる」と明記されている。

 敢えてアバウトにしたのは、波動エネルギーの無限の可能性から来る拡張性の大きさを考慮した物であり、「改良した波動砲だろ」と指摘を受けるのがオチだ。

 

 だから、AAAWunderと特砲艦隊のドレッドノート級とアンドロメダ級は。99年時のスペックに収まる波動砲を搭載しているのだ。

 

「真田さん、これをどうするつもりですか?」

 

「一先ずWILLE本部に提出しておくつもりだ。正直に言うと、これは私の手に余る。ハルナ君も、それでいいか?」

 

「異論なしで。反波動格子は機関科預かりで」

 

「儂が預かるのか!?」

 

「もうこっちには既にSDATという重要物品が手元にあるのでリスク分散です。使い方が判明するまでは暫く封印ですけどね。ツインドライヴにどんな影響があるのかもまだはっきりしてないので」

 

「……調べが終わるまでは一切使わん。儂は指一本触れんからな」

 

 危険物を押し付けられ慌てた徳川だが、リスクの分散には納得していた。

 真田がわざわざ捨てずに解析したという事は、どこかで使う事になってもおかしくないと思った徳川は、コントローラーと反波動格子を受け取った。

 

「そして追加に1つ。キーマンの頭から掠め取った話だけど、ガミラス星の寿命がもう少ないらしいです」

 

「「「?!」」」

 

 突然降ってきた爆弾に皆は驚き、爆弾を隠し持っていたハルナに一斉に視線が向いた。

 やっぱりそうなるよねと思うハルナは会議室の外へ顔を出し、待たせていたとある人物を招き入れた。

 

「キーマン君、話してもらおっか。ガミラス星の危機についてね」

 

「……この事はテロンは知らない。知っているのは、この場に集まった艦橋幹部のみに抑えて欲しい」

 

「私の魂に誓って。第4位組織の権限は伊達じゃないよ。口添えくらいなら出来るから、この場で話しちゃいなさい」

 

 自分が視界に入っていたら話しにくいだろうと思い、壁にもたれかかって上着からメモ用紙を取り出してメモを取る準備を整える。

 キーマンは重々しく口を開くと、真実を語り始めた。

 

 

「何時から秘密にされてきたのか正確には分からない。だが、少なくともデスラー総統____叔父上が総統になられる前よりもずっと前のガミラス大公国時代にまで遡ると我々は推測している。ガミラス星の寿命問題は、当時のデスラー一族でのみ秘密にされていた事だ」

 

 

 そこから、キーマンは自分の知る限りの情報を自ら吐き出した。

 

 サレザー恒星系の特殊環境下でなければ、ガミラス人は長く生きられない事。

 

 太陽系駐留艦隊の任期が短く見えたのは、それが原因だという事。

 

 ガミラス人の肉体は他の惑星の風土病などに対する抵抗力が極めて弱く、数年程度ならともかく10年以上長期滞在するとそれらの病気に罹患して死亡するリスクが跳ね上がるという事。

 

 

 そして、デスラー政権時に極端な拡大政策が行われたのは、移住先を見つける為かもしれないという事。

 

 

「今は本星に目に分かるようなダメージは確認されていない。だが、数十年以内にガミラス星は崩壊する」

 

「文字通りのアキレス腱と時限爆弾、という事か」

 

「私からいいだろうか。君達ガミラス人の抵抗力についてだが、ガミラス人同士ではなく他の星間文明と交わり世代を重ねる形で抵抗力をつける事も可能なはずだ。何故それをしていなかったんだ?」

 

「主に青い血と青い肌に強い誇りを持っている者は他種族との交配に抵抗を示す。純血主義と呼ばれているが、それが他種族との交配の邪魔をしている」

 

 真田の指摘にキーマンは難しい顔をする。

 ガミラス人と他種族___例えばザルツ人やオルタリア人と言った属州惑星の人間との交配により生まれた子供は少ない。

 仮に生まれたとしても、その子供はガミラス本星では差別対象になり得る。

 

 純血主義と差別的風潮もあり、そういう抜け道は塞がれているのだ。

 

「その妨害もあったから、ガミラス星に近い環境を探す為に大拡大政策を実行していたって事ね。で、見つかった?」

 

「大小マゼランの隅まで探索が行われたようだが、新たな故郷となり得る星は、存在しなかった」

 

「ふぅん。本能レベルでの純血傾倒主義とイスカンダル信仰、ね」

 

 マリが眼鏡を指で持ち上げながら、そう唸る。

 キーマンの説明にはいくつか抜けている部分がある。

「何故」純血を尊ぶのか。

「何故」イスカンダルを信仰するのか。

「何故」自分たちの身体はガミラス星とサレザーの環境に特化し切っているのか。

 

 この「何故」が抜けている。

 

 でもマリは聞かない。

 聞いても恐らく「当たり前の事だから」や「イスカンダルだから」や「アケーリアスがそう作ったから」としか答えが返ってこないと思ったからだ。

 

 

「ねぇねぇねぇキーマン君。このお姉さんから1個アドバイスにゃ。そうねぇ……建国神話とかイスカンダルに絡んだ神話みたいなのってあるかな? あるならしっかり見直して異星人のふりをして批評してみるにゃ」

 

「何だと?」

 

「だってちょっと『刷り込まれてる』ようにしか見えないよ。親が子に教え込んで刷り込むとかそんな次元じゃなくて、ガミラス人の祖先からみーんな刷り込まれているような。イスカンダルしか見ていないようなそんな感じにゃ。だから、生き残りたかったら生意気テロン人の意見も聞く事にゃ。イスカンダルリミッターは多分1000年かけてキツくなってるからね」

 

 刷り込まれている事を自ら気付ける人間はそうそういない。

 それが民族丸ごと刷り込みとなれば1000年も気づけてないのは納得だ。

「イスカンダルリミッター」とマリは言ったが、それは冗談で言った事ではないとこの場にいる全員は理解して、キーマンは存在の可能性が上がった呪縛を認識した。

 もしもそんなものが本能に刷り込まれているなら、回避は出来るのだろうか?

 

 そしてキーマンは、ハルナに筒抜けになる事を理解した上でこう考えた。

 

「なら、デスラーにリミッターはあるのか?」と。

 

 

 その思考を拾ったかは分からないが、後ろでメモを取って思慮に耽るハルナの顔は、難しい顔をしていた。

 

 


 

 

 敵性エヴァに自室を破壊されて以降、ハルナは新しく部屋を借りて綾波と過ごしている。

 こじんまりとした通常の2人部屋であるが、住めば都とはよく言ったもので1週間程度で慣れ切った。

 

 この慣れ切った部屋で、ハルナは目を閉じて集中していた。

 

(MAGIと繋がれば高速演算を借りれるから複雑な設計も自分一人で引けてしまうのよね)

 

 目を閉じていても義眼からの情報を受け取る事で視界上に3Dデータを表示できる。

 思考1つで線を引き、強度計算をして、思い描く機能を実装する。

 人類の創作能力は進化するところまで進化し切ったのではないかと内心思っているが、同時にハルナはこれを外したいとも思っている。

 

 確かにこの義眼は便利だ。

 可視光から赤外線、紫外線をその目に映し、艦のセンサーとも連動すれば太陽風や銀河放射線を可視化する事も出来るだろう。

 常人離れした計算能力を借りる事も出来るので、今この場で新兵器を設計する事も容易いだろう。

 

 それでも、見える視界は無機質な加工品だ。

 

 こんな機械の目じゃなくて、本当は生身の目で治したかった。

 こうして1人でいる時は、そう思う。

 こうして機能を活用している時も、そう思う。

 

「!」

 

 急に左目がぼやけ、ハルナは驚き目を開く。

 UIを流し見で確認すると、充電残量が底を尽きかけていた。

 時計も確認すると作業開始から軽く3時間は経っていて、義眼は放熱が追い付かず熱を帯びていた。

 

「本物の目に戻りたいな」

 

 仕方なくMAGIに設計図を保存して作業を中断すると、眼帯型の充電器を義眼に当てて近くのケーブルをコンセントに差し込んだ。

 ついでにポータブル冷蔵庫から保冷剤を取り出すと、頭に乗せて背もたれを倒して少し眠るフリをする。

 

 今頃綾波はアスカとトレーニングをしている頃合いだろう。

 どうやら自分が生きていくためには体力を付けないといけないと自覚をして体力をつけているのだろう。

 それにしても、やっぱりアスカと綾波が一緒になるとは何かの縁だろうか?

 

 そう思慮に耽ると、義眼の熱も少し取れてきた。

 生身の目では決して起こらない現象にももう何度も遭遇してきた。

 慣れてはいるが、こういう現象も、自分の目が生身ではない事を自覚させてくる。

 

 

 

 

 刹那、微振動が床に走る。

 悔しさから床を無自覚に蹴ったのかと思ったが、そうではない。

 それは「艦内に響く警報音」で証明された。

 

 

『総員、第1種戦闘配置!』

 

 

 脊髄反射で飛び起きるがケーブルに引っ張られて椅子から落ちかける。

 慌ててケーブルを引き抜いて手近な位置にあるポータブルバッテリーに繋ぎ直すと上着のポケットにバッテリーを放り込み、ハルナは艦橋に向かった。

 

 

「まだ充電出来てないのに~!」

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