宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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マッド共を書くのは楽しいですね。
あ、エリミネーターは大分先になります。


To make ”I'm glad I made it in time”-AW4年4月24日-

 旧北米管区

 WILLE グルーム・レイク試験場(旧エリア51)

 

 

「3,2,1、発射」

 

 眩い閃光が遮光グラスを叩き、橙色の光の束が吐き出された。

 試作大型太陽炉に繋がれた巨大なライフルからは凄まじい音とともに回転する粒子加速機構が露出していて、吐き出し切ってからになった加速機構の内部が見える。

 

 放たれた光はガトランティス艦の装甲を抉り飛ばし、ガミラス間のミゴウェザーコーティングに大きな波紋を作りながらそれを抉り剥がしていく。

 

 射線上に莫大な熱量を残したこの大実験は一応成功、間近で見るビーム兵器にハインライン研究室の面々は奇声を上げてビームライフルに駆け寄る。

 

 

「出力50%での試験は良好。ガトランティス艦の貫通は確実です。過貫通にはまだまだ課題が残りますが」

 

「太陽炉の稼働も良好です。発射前に生成出力を上げる必要がありますが、ここは太陽炉の複数搭載かツインドライヴで賄えます。現状1基で試験してますからね」

 

「2基直列型太陽炉のツインドライヴ。それだけでもかなりの技術躍進が必要なのですが、それを要求した睦月主任は恐ろしい方です。エイフマン教授の手も借りているのですが、まだ時間がかかりそうです」

 

「そして問題が、太陽炉の半永久機関化です。いや、疑似的な物で構いません。要は太陽炉に恒常的に電力を供給出来ればそれで解決可能なので。アイディアはあるのですが……」

 

「アイディア、といいますと?」

 

「胸部丸ごとゲシュタム機関にしてしまえば、完全に解決できます。ですが現状では更なる小型化は現実的ではありません。余りにも時間が足りません」

 

 突拍子もないアイディアだと思ったが、そうでもない。

 18m級の機体の背面に波動エンジンを載せるのと、30m級の機体の胸部を丸ごとエンジンにしてしまうのをどちらが現実的かを考えれば、後者だ。辛うじてだが。

 

 なら何故波動エンジンじゃなくてガミラス製機関なのかと聞かれれば、これには明確な答えが存在する。

 現状、地球製の波動エンジンのこれ以上の小型化は現実的ではない。

 何せ全長100mオーバーの艦艇にギリギリ乗せられるくらいのサイズだ。

 次元波動理論研究局が心血を注いでやっとの事で小型化に成功したのが「開始から2年」であり、半年以内に達成するなど現実的ではない。

 

 そこで、ゲシュタム機関だ。

 ゲシュ=タム・ドライヴに一日の長があるガミラスでは、FS型宙雷艇という小型の恒星間航行戦闘艇が存在していて、試験機ではなく実際に配備されている。

 全長33mの小型艇に収めて、次元跳躍能力を与えらえるくらいのエネルギーを与えるその技術は地球でも獲得できておらず、幸いにも「FS型」が地球にあるのだ。

 

 

「AAAWunder地球帰還時に接収したFS型宙雷艇は、南部重工でリバースエンジニアリングを受けています。ガミラス技術は独特な部分が多いですが複製が出来ない訳ではありません。ただ問題なのは、それをさらに小さくする事です」

 

「そのまま載せる事は、可能でしょうか?」

 

「無理です。FS型のモノをそのまま実装するとなれば、胸部が前後に肥大化します。FS型のゲシュタム機関は10mで収まっていたので、目指すは5mとなります。なので、リバースエンジニアリングが終了次第禁じ手を使います」

 

「禁じ手……とは?」

 

「時間断層内にAIを持ち込みシミュレーションを実行。何度も設計とシミュレーションを実行させて全長5mのゲシュタム機関を作成します。まぁ、行き過ぎた技術として認定されて、人類が追い付くまで封印を食らう事は確実ですね。レッドボックス第1号でしょう」

 

 レッドボックス。

 時間断層工廠という存在が生まれてから極秘裏に制定された技術封印規定だ。

 今の人類では理解できないような技術、もしくは理解は出来ても人類の工業技術では再現できない技術を格納し、人類がそれを作る事が出来るレベルに達するまで封印する事を目的としていて、主に時間断層工場で生まれた技術を管理している。

 

 現在の所、時間断層工場は人類が考えた物を大量生産する為に使われているが、それではどうにもならない時はいずれやってくる。

 例えは、人類の技術発展スピードではどうしても撃退できない脅威に対して対処する為、とか。

 

「間に合わない以上禁じ手も止むを得ずです。藤堂長官を通して3組織会議に上げますので何とかしましょう」

 

「半永久機関搭載型戦術機とか誰が思い浮かべたのですか?」

 

「うちの変態技術者共です」

 

 スーパーロボットが現実になり得る世界で旧時代のアニメを見てしまえば、それを実現してしまいたいと心が叫ぶ。

 夢とロマンと人類を背負う技術者ならそう思うだろう。うん、きっと、そうだろう。

 

 

 

「出力60%でこれなんだ! 100にしたら山すら吹っ飛ばせるゼェ!!」

 

「甘いわぁ! 海でも割いてやろうか! いやまずは蒸発からだな!!」

 

 

 

 訂正。

 こいつらは人類よりも私利私欲を背負ってやがる。

 

 だがしかし、私利私欲を背負って震電と新2号機と秋水を生み出した結果、ガトランティスに対し第2世代艦艇と共に戦い優勢を保てているのもまた事実だ。

 

 

「閃いたァッ!!」

 

「いかん取り押さえろ!」

 

 危険を察知したハインラインがそばにいた保安部に命じて捕縛させる。

 ハインライン研究室に放り込まれたマッドは「ひらめいたら即行動派」が多いので、保安部はもう慣れ切っている。

 何なら「ハインライン研究室派遣部」という屈強なマッチョがいるくらいだ。

 

「止めるなァッ! 人類と夢とロマンの為だァッ!!」

 

「貴方達はそうやってすぐ行動に起こすから危険なんです。で、今度は何を思いついたのですか?」

 

「武器が無くなっても武器が欲しい! なら掌に攻撃手段を付けるしかないですよね!!」

 

「貴方は何を言っているのですか。フレームに粒子供給路と伝達傾倒を通している以上そんなスペースの余裕はどこにもありません」

 

「そうじゃないんです! 弾丸も粒子も使いません! 電磁波でレンチンしてやればいいんですよ! 輻射誘導波を発射して相手をレンチンしてやれば航空機でも落とせますって!!」

 

「貴方方は馬鹿なのですか? 航宙戦闘機は対電磁波コート処理で太陽フレアでもない限りは機能停止をしません。内部のパイロットにダメージを与えるには直接密着でもしない限りは……いや待て。小型ゲシュタム機関の電力を使えば強引に実現する事も可能かもしれない。徒手空拳で戦闘を行うよりはマシかもしれません」

 

 

「いよっしゃぁぁぁぁぁぁああああ!! 紅蓮弐式のアレが出来るぞぉぉぉおおお!!!」

 

「ぐれん?」

 

「大昔のロボットアニメにいたトップオブエースの機体ですよ! それと同じレンチン爆殺能力を追加できるとはいいですねぇぇぇええ!!」

 

「爆殺って……まぁどの道撃墜されるのと爆殺されるのはあまり変わりません。粒子供給路と伝達系を圧迫しなければ実装を許可しましょう。出来ますか?」

 

「徹夜だ\( 'ω')/ヒィヤッハァァァァァァァア!!!」

 

 眉間のしわをほぐしながら、ハインラインは実験場を見る。

 信じられない程の予算と人員の補充を受けてスタートした戦略機開発は、ハインラインが言うには「出来すぎな環境」らしい。

 

 頭のネジがダース単位で抜けている人員ばかり集まったのも、色々あるけど人類を護るためにどこまでも強い機体を作りたいという願いがあっての事だろう。

 手綱を握るのがやや難しいが、確かにこのマッド共が動き回る事で想定された計画よりも継戦能力と攻撃力は上昇したのは無視してはいけない事実だ。

 

(藤堂長官、これはワザとですね?)

 

 さらに強い機体が生まれるのであれば今は何も言わない。

 猛犬に引き摺られそうになるハインラインは手綱を握り直した。

 

 


 

 

 デウスーラ・レパラータ艦内

 

 目が痛くなるほどの青色に染め上げられているかと思えば、落ち着いた金色が差し色で入っている。

 地球の艦艇では見られない民族的な意匠と中世を思わせる模様が所々に見られるその通路は長く、誰の気配も感じさせない。

 

 その長い通路を、ハルナ達はタランに連れられて歩いていた。

 

「ガミラス艦なんて初めてですね。もっと模様が多いかと思いましたがシンプル目ですね」

 

「ガトランティスで改修された部分はもう少し違います。ここは元々の区画が残っていますので」

 

「あの戦いからはどのように?」

 

「……あの謎のゲシュ・タム=ドライヴが空間を裂いた時、我々はその狭間に飲み込まれる寸前に至りました。次元断層とはまた違う世界の壁と我々は呼称していますが、あんなものを見たのは初めてでした。その後、銀河系方面のガトランティスの遠征軍に捕らえられた、と言った所です」

 

「それで今はガミラス民族存続の為の独立勢力をして行動中ですか」

 

 真田がすかさず切り込むと、タランは小さく頷くと説明を続けた。

 

「総統が第2バレラスを落とされた事は許される事ではありません。私も許しきれていません。ですが、総統からガミラス民族の秘密について聞かされた今はそうも言っていられません。あの時の狂気が抜けた今は、純粋に、我らガミラス民族の存続の事を考えてらっしゃいます」

 

「意外ですね。AAAWunderに執念や恨みも持っているかと思いました」

 

「お持ちですよ。ですが、私が総統に感じている事と同じように、『そうも言っていられない』のです。それと総統は、最初から貴方方にデウスーラを制圧してもらいたかったのです」

 

「それは大胆な賭けです。ヴンダー側にガミラス人が乗艦していなければ、危うく砲戦に突入していました」

 

 やはりそうかとキーマンが納得を得るが、同時にアベルト・デスラーという男の大胆さも感じた。

 使われた言葉から誰が乗っているのかも判明できたが、もしも「デスラー家の親族である自分」でなかったら「只の洒落た言葉」としか受け取れなかっただろう。

 

「総統も、貴方が乗られていた事に驚いたご様子でした。ランハルト様」

 

「クラウス・キーマンだ。デスラー家の血ではあるが、もう捨てた身だ」

 

 タランは微かに目を伏せ、しかし、すぐに顔を上げて言った。

 

「では、クラウス様。……我らは今、過去と未来のはざまで、この艦の舵をどちらに向けるかを選ばねばなりません。総統は、その選びの舞台に、貴方方を招いたのです」

 

「……そうでなければ、この艦のエアロックを開けることなどありえなかったでしょうね」

 

 ハルナがぽつりと呟き、青い通路に彼女の足音が再び鳴り響く。

 一行は、やがて静かに開いたドアの前で立ち止まり、その先の会議室に足を踏み入れた。

 

 

「ご苦労だった。タラン」

 

「いえ」

 

 席から立ち軽く敬意を見せるデスラーはどこか吹っ切れた様な顔をしながら、一本の太い鉄の芯が通ったような雰囲気を纏っていた。

 それを真田や古代、キーマンが感じ取っているかは定かではないが、ハルナは明確にそれを感じ取った。

 

 タランが言うように、純粋に民族の存続の為に動いているのだろう。

 

「御足労感謝する。私が君達の船に入るのは些か問題になるからね。すまないが足を運んでもらった」

 

「ご配慮に感謝します。デスラー総統」

 

「私はもう総統ではない。ただの旅人だ。まぁかけたまえ。タラン、客人に紅茶を頼む。何、心配しなくても、紅茶の味が悪くような物は入れない」

 

 暗に「変な物は入れないから気を張らないでほしい」と言われた4人は目配せするが、ハルナが「嘘はついていない」と頷くと少しだけ警戒を解いた。

 

 数分してタランがティーポットと茶葉を持ってくるとその場で紅茶を淹れて全員分をテーブルに綺麗に置いた。

 地球では見た事のない薄い水色の紅茶は見た目とは裏腹に芳醇な香りを持ち、穏やかに立つ湯気がその香りを纏う。

 

「ガトランティスに持ち出されなかった数少ない物だ。出すのは惜しいが、こうして応えてくれた君達には出すべきかと思ってね」

 

「高級紅茶ってあんまり飲む機会がないので、頂きます。……うわぁ。目と耳と鼻で味わうってこういう事を言うんですね」

 

 舌の上で感じたと思えば数瞬遅れて香りが鼻に届き、透き通るような水色が視覚も楽しませてくれる。

 ココアやコーヒーばかり飲んでいたハルナも満足のいく一杯の様だ。

 

「気に入ってくれて何よりだ。さて、時間は時に一匙の金よりも貴重だ。話を始めようか」

 

「それについては同感です。では、失礼ながらモニターをお借りします。ハルナ君」

 

「はい」

 

 真田に呼ばれハルナは義眼のハッキング機能を解放してモニターのシステムに接触した。

 ガトランティスの防壁など障子紙のような物だ、1秒もかからずに貫通させるとモニターにアクセスして乗っ取った。

 

「……随分と便利な物をお持ちの様だ」

 

「本物の目そっくりで便利ですが、発熱しますし充電もいる手のかかる義眼です。では、始めましょう」

 

 

 __________

 

 

 

「……」

 

「先程ご覧いただいた映像が、WILLEがガトランティスを止めたい理由です。これが起これば地球人でもガミラス人でも皆消えてしまう。上層部と我々はそう推測して防衛計画を構築中です」

 

 デスラーとタランが言葉を失う。

 それ程までに「未来からのあの映像」は鮮烈で、危機感を与えるには十分だった。

 

「一つ聞きたい。サナダ副長はあくまで一介の技術士官の筈だ。これを私達に開示する権限を持ち合わせていないと考えるが」

 

「ええ勿論ありません。ですので、地球側の意思がまだ干渉出来ない状況で動いています。減給くらいはあると思いますが、人手不足の地球から私を外すのは大打撃になりますので」

 

「立場を武器にした大胆な行動か。知的というか行動的というか、面白い人物だ。それで、だ。私と君たちテロン……いや、地球人の目的は幸運にも一致しているのだが、君たちの望みは?」

 

「生き残ること。貴方の望みは?」

 

「ガミラス民族の存続。それを阻む者は容赦しない」

 

「それが誰であろうとも。可能性を信じすべき事をすると、バーガーさんも言ってました。そうだね古代くん?」

 

「あ、あぁ。我々は、どんな手段を使ってもアディショナルインパクトを阻止して白色彗星を撃退する。ガミラス政府もすでにこの事を認知していて、火星が目標と想定した防衛計画を練っている。皆が生き残るために、今は過去を置いてでも手を取りたい」

 

 会話に付いていけず置物になりかけていたが、自分の言いたい事を古代は吐き出した。

 古代の目の前にいる男は、嘗て森が撃たれた時にいた男だ。

 

 正直に言って、ハルナが自分を指名した真の理由を古代は分かりかねていた。

 指揮官として私情に囚われない頭を育てるためか、あるいは説得力を持たせる為かは分からない。

 

 でも、ここでなんとなく分かった。

 デスラーを艦内で目撃して銃も向けた自分がこう言う事で、最悪の可能性である「銃を向け合う未来」を回避したかったんだ、と。

 

 そしてそれは、思ったよりも正しかった。

 

「戦力を集める」

 

 突然そう言うと、デスラーは立ち上がった。

 

「戦力?」

 

「分からないのかね? つまりはこういう事だ。*********************」

 

「その為の戦力は?」

 

「恐らく存在する私の派閥と親衛隊だ。親衛隊はギムレー君が統率していたが、元は私の直属組織で私設警護団だ。彼が生きているかはともかく、一部の高官は呼びかけに答えてくれるだろう」

 

「ガミラス大使館へは?」

 

「無理を通しに向かうんだ。お忍びになるね。君達の超空間通信を借りて、迎えの船を借りる事になる」

 

「未来に全額投資ということで?」

 

「全額とは言えないが、可能性の高い方の皿に賭け金は乗せておこう」

 

 完全な同盟とは言えないが、少なくとも敵ではなくなった。

 そしてさらにカードを差し出す。

 

「貴方の望みの、ガミラス人全員の移住先を銀河系で探す為に」

 

 その言葉にデスラーは目を見開いたが、あの時から年月も体制も変化した今では漏洩している事も納得がいった。

 負けたな、とデスラーは思った。

 種と仕掛けは分からないが、このハルナという女性は得体が知れない、とデスラーは思った。

 

 まるでカードの役を最初から揃えて挑んでいるかのように、ヒントを見ながらテストを解いているかのような、そんな異常性をデスラーは感じていた。

 

 いや、これはもう「持っていたカードが強すぎた」だけだろう。

 それも盤面どころかテーブルごとひっくり返せるほどには強力なカードをだ。

 

 だから自分を引き込める可能性があると睨んでこの会談に臨んだのだろう。

 デスラーはそう結論を付けた。

 

「もう長く星を離れている。私の私邸にも捜索が入っていれば、漏洩するのも時間の問題だ。キーマン君、これを知るのはまだ高官くらいだね」

 

「現在この情報を把握しているのは政府高官と諜報部のみ、地球で知るのはヴンダーの幹部のみです」

 

「情報統制に感謝するよ。では君達は私の生存と敵対意思がないことを改めて伝えてもらおうか。そして船の用意を。タラン、デウスーラを任せる。私が戻るまでの間に親衛隊の残存勢力を集めたまえ」

 

 

 

 _______________________

 

 

 

「最後に、君達に渡しておくものがある。来たまえ」

 

 デスラーに連れられた一行は大きな倉庫に足を運んでいた。

 大量の岩塊が無造作に置かれているが、そのどれもが淡く青色に光っている。

 一同が不思議そうにそれを見ていると、デスラーが口を開いた。

 

「君達を何故観測機器の範囲外から捕捉出来たのか、その種あかしだよ。ガトランティス人は特殊な個体であればコスモウェーブと呼ばれる思念波を用いる事が出来る。距離、障害物を意に介しないそれを用い、君達を捕捉し続けた。むろん、君達の船に受信役がいればの話だ」

 

「だからドメル戦法が観測機無しに実現できたのか……受信役は、やはり桂木透子」

 

「フッ。送信役だったガトランティス人は、現在、コスモウェーブを完全に封じて軟禁している。そしてこのデウスーラの装甲の隙間には、この岩塊を細かく砕き、隠し込んである。無論、君たちを捕捉するため、あるいはズォーダーに対して“ポーズ”を取るときには、意図的に不活性状態にして波を通していたがね。……好きな物を持っていくといい。首に鈴をつけたまま旅をしても、ろくなことにはならないからね」

 

 意外な申し出にありがたさを覚えた。

 これらの岩塊を使えば桂木のコスモウェーブは遮断でき、以降一方的に補足されることは少なくなるだろう。

 

「こちらでも岩塊の活性化と不活性化処置の研究を行います。常時遮断状態ではいずれ支障が生じます」

 

「正しい選択だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と優秀な女性士官でした。まるで、物語から抜け出したかのように」

 

「完全無欠だと言いたいのか? それには程遠い。彼女の視線が物語っていたよ」

 

「視線……?」

 

「君の腰の拳銃に、一瞬だけ目が向いた。生身の目の奥に、恐怖が走ったよ。そう___あれは何かのトラウマを呼び起こした時の目だ。でもそれ以外は一切反応を見せようとしなかった」

 

「気を、悪くさせてしまったでしょうか」

 

「向こうも『必用な事』として見たのだろう。手配は済んだ。あとは、成すべき事を成そう」

 

 

 _________________

 

 

 

「……拳銃、見たくない」

 

「はいはい。レイちゃん抱っこはいいけど、初号機の武器設計は?」

 

「副砲用の三式は発射可能。刃先をVPSで真っ赤にすれば、殴って使う分には問題ありません。あとは……どうやって初号機を飛ばすか、ですね」

 

 ハルナは不機嫌さを隠そうともせず、綾波を抱いたまま端末へと戻った。

 護衛のタランが拳銃を所持しているのは事前に分かっていたが、実際に視界に入ると、胸の奥がひやりと凍る感覚に襲われた。

 

「でもさ、そんなに顔色は変わってなかったよ」

 

「一瞬でした。血の気が引く前に終わりましたから」

 

 真田は念のため、ハルナの視界に入らないよう古代に拳銃を持たせていた。

 それが杞憂に終わったことに、密かに胸を撫で下ろしていた。

 深いトラウマではあるが、一度大爆発したことでわずかに耐性が生まれていたのかもしれない。

 

「で、地球との交信は?」

 

「迎えの船は、自分がバーガーと交渉して手配しました。目立たないよう、銀河間定期便の駆逐艦を偽装してもらいます」

 

「古代くん偉い」

 

「大使館と地球は“騒乱”を何とか収めた。デスラーに攻撃の意思がないことと、人類存続のための作戦を実行することには了承済みだ。アレについては、さすがに驚いていたが」

 

「まぁ、こっちも想定外ですもんね。でも今は蟠りは横に置くしかない。敵は少ない方が、動きやすいですし」

 

そう言って、ココアに口をつけた。

少し溶け残ったパウダーが舌に残る。

甘すぎるけれど、こういう時は効く。

 

(リクが淹れてくれるやつも、こんな味だったな)

 

借りた上着の袖口と、手首のブレスレットを交互に見つめる。

それからもう一度、ココアに口をつけた。

 

 

 

______________________

 

 

 

白色彗星

玉座の間

 

 

「ミル様のコスモウェーブが途絶えました」

 

「デスラー閣下は離反。デウスーラには、何らかの遮断処理が施されていた可能性があります」

 

異変は、たった一つの沈黙から始まった。

ズォーダーの思考が、玉座の間に重くのしかかる。

 

「構わん」

 

玉座の主はただ一言。

それだけで、ざわつく空気が沈黙に変わる。

 

「彼もまた、一国の王であり、指導者だ。目的のために手段を選ばぬ。……たとえ、テロンと手を組むとしても、な」

 

「テロン……!」

 

「ゾル星系侵攻を幾度も阻んだあの戦力を、侮ってはならん。メーザーが報告したのは、氷山の一角に過ぎん。敵の巧みな言葉に乗せられ、自ら退いた——それこそが、彼の敗北だ」

 

ズォーダーは杯を持ち上げ、その中で揺れる深紅の酒を見つめた。

その口元に浮かぶ微笑は、どこか愉しげにも見えたが、誰もその真意を掴めなかった。

 

まだ聞こえない程の音で、歯車は僅かに軋んだ。




TRANS-AM、しましょうか?
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