宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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終戦記念日です。
こんな話を書いていますが、この世界から戦争が無くなりますように。


On the shore of people and apostles-AW4年4月28日-

 WILLE統合庁舎

 長官室

 

「……君が、そうなのか」

 

「リョウちゃん。いや、加持リョウジかな」

 

 深夜帯を使い極秘裏に移送されたカヲルとMark.06は十分な距離を取る事となり、カヲルは統合庁舎へ、Mark.06は地下都市の海底ドックにひとまず安置された。

 

「君達からしたら、僕は異世界から来たということになるけど、何でそこまで落ち着いているんだい?」

 

「前例アリだからね。レイちゃんも、元を辿ればアディショナルインパクトが実行されてしまった世界からやって来ている。AAAWunderと一緒にね」

 

 慣れた様子でリクがそう言う。

 自分の娘も元は魂だけの存在で、AAAWunderと共にこの世界に来ているのだ。

 異世界人と異世界遺物にはある意味慣れているのだ。

 

「なるほど」

 

「君のエヴァは、タブハベースからサルベージできた情報を基にしてメンテナンスする予定だ。していいのかと悩んではいるが……あれ、触っても大丈夫か?」

 

 エヴァは機械ではなく、人造人間と言われている。

 つまり生体、おまけにMark.06はType-nullや初号機のように本当に人造人間かも分からない。

 対SEELEとして運用する事を考えてメンテ計画を練ろうとしているが、本人の意見も欲しかったのだ。

 

 メンテ中にL結界が出来てしまって死の台地が出来上がったら目も当てられない。

 それ程に、この世界でのエヴァに対する知識は少ないのだ。

 

「構わないよ。今まで手入れをする事が出来なかったから、こちらからお願いするよ。ただ、あの聖釘だけは……」

 

「どうせ調べても無駄なんでしょ? 機械とかそういうのじゃないならお手上げだから、今は人目につかない場所で安置してある。Mark.06のメンテが終わり次第返すよ」

 

 実はリクは簡易検査として聖釘を透過スキャナに通していた。

 あくまで危険な物が仕込まれていないかの検査ではあったが、スキャン自体が出来なかったのだ。

 内部構造があるという訳ではなくただ輪郭が映り込んだだけで、この時点で、

 

「ダメだこりゃ」

 

 と匙を投げたリクは、カヲルが持たない限り何も起こらないと結論付けて「何もしない」事を選んだのだ。

 

「柔軟というか放り出したというか……オカルト物品ってどうしてこうもアバウトなんだい?」

 

「アバウトだからエヴァが使うんでしょ加持さん。でも、タブハベース調査でメンテの手がかり分かったのは大きいです」

 

 ______________________

 

 

 1週間後

 臨時海底ケイジ

 

 純水で満たされた海底ケイジにMark.06は固定され、ラチェットマンとウォータージェットに換装した震電が飛んだり潜ったりして忙しなく動き回っている。

 

 密会からたったの1週間でメンテナンス計画が立てられ、必要になりそうな資材と工具と重機が運び込まれ、海底ケイジには活気と熱気が充満していた。

 

「まさか、副長の方の私の知識が使えたとは思わなかったわ」

 

「亜空間回廊海戦時に受け渡された知識の一部ですね。確か、新2号機と改8号機と聞いています」

 

「物資不足の中での整備だからね。零号機や2号機の時のは余りアテにはならなかったわ。あの時はどうやら、国連やSEELEからかなりのお金を出させて整備をしていたからね。具体的には1国が傾くくらいのお金が使われていたそうよ」

 

「だから出来そうなのは野戦整備くらい。装甲が傷だらけですけど、素体は自己修復しまくってたらしいです」

 

「そこはエヴァなのね」

 

「カヲル君の言っていた真のエヴァンゲリオンは、そういう事も出来るように造られたのかもしれませんね」

 

 分厚くなるかと思った整備マニュアルは思ったよりもスッキリして、整備というより応急処置マニュアルじゃないかと内容には目を疑った。

 装甲を取り外すのは分かる。

 でも、汎用人型決戦兵器の整備マニュアルに「縫合する」とか誰が書くかと思った事か。

 

「人造人間でしょ? ならそう言う事もしていい筈だし、人間と大体同じなら自然治癒の促進につながるわ」

 

 誰がそんなこと考えた。

 

 ここで初めてとは思えないほどにキレッキレに整備の指揮を執ってる赤木リツコさんだ。

 

「エントリープラグは?」

 

「ハルナから送られてきたデータより大分違います。一昔前のハードディスクみたいに大きな円盤が回る仕様のようで……中身のデータは解析中です」

 

「そう。LCLも何とか洗浄を進めてるから、乗ろうと思えば渚カヲルは乗れるわよ」

 

 

 当然と言えば当然のことだが、エントリープラグの内部にも明確な違いがあった。

 

 ハルナから送られてきたデータには、インテリア後部に複数のブレードPCのような演算ユニットが横並びに装填されており、搭乗者の精神状態や戦術状況に応じて自動的に切り替わる、モジュール制御型のシステムが採用されていた。

 

 一方、Mark.06の構造はまったく異なる。

 

 後部に据え付けられていたのは、ただ1基──巨大なディスクドライブ。 そこに、あらゆる情報を圧縮し流し込み、単一の論理で機体を駆動させる構造だった。

 

「アナログとデジタルくらいの世代差かしら」

 

「言い得て妙です」

 

 その会話を遮るように、通信が入る。

 

『赤木さーん! 頭部拘束具、取り外せまーす!!』

 

「ケイジ内に警報鳴らして。脱着方向の人員は一旦退避、力場センサーも最大感度で監視して。万が一、反応が出たら即中止」

 

『了解、警報出します!』

 

 ケイジ内にけたたましい警報が響き、作業員が蜘蛛の子を散らすように散っていく。

 他にも作業中のラチェットマンもすぐに壁際まで退避し、ウォータージェットを装備した震電は拘束具の落下という万が一に備えて水面で待機に入る。

 

 カーボンナノチューブで編み上げられた超高張力炭素ワイヤーで吊り上げられた頭部拘束具がゆっくりと顔面から離れ、予め用意された別の整備ケイジに運び込まれていく。

 

 その間Mark.06は微動だにせず、気を張り続けている作業員の心配も杞憂に終わりそうだ。

 

「で、これを出せるようにするのね。SEELE壊滅の切り札という事で」

 

「聖釘とセットで運用します。使い方が分からないので、本人の感覚で使ってもらいます。あとはよろしくお願いします」

 

「はいはい。いつでも出せるようにはしておくわ。これからどこに?」

 

「ある所です」

 

 

 ____________________

 

 

 

 Tokyo3郊外海岸付近 英雄の丘

 

 

 

「ここは?」

 

「ガミラス戦争で亡くなった人の墓、慰霊碑だ。ざっと全人口の7割が亡くなっている。時間もないけどここに来たのは、今の地球の現状を知ってもらいたかったからなんだ」

 

 眠りを妨げまいと静寂が満ちているこの丘は、まばらな人と共にひっそりと佇んでいる。

 忘れてはならない、でも、ここに少し置いておく事も出来る。

 後ろを振り返る暇もない程の進められる復興計画に呑まれまいと郊外に建てられたここは、ガミラス戦争で亡くなった全ての人とAAAWunderによるイスカンダル航海を、そして極東事変を忘れない為に存在している。

 

「7割……何十億人も死んだのかい?」

 

「ざっと90億。当時の人口が130億くらいで、7割だからだいたいそれくらいだ。この地球はまだボロボロで、病人がやっとリハビリに入れたくらいの容体だ。あ、でも異星人の散発的侵攻を一蹴するくらいは出来るかな」

 

 90億という数字に、カヲルは息を呑んだ。

 桁が違う。世界が変わってしまうほどの喪失。

 ──それなのに、この世界はまだ生きていた。

 

「それでも……君たちは生きているんだね」

 

「当たり前だろ。誰かが残って、怒って、悔しがって、泣いて、それでも未来を選び続けた」

 

 その言葉に、カヲルの胸が小さく疼いた。

 自分は、未来を選び続けてきただろうか。

 選んでいたようで、ずっと逃げていたのではないか。

 

「ガミラスに勝てたのも、イスカンダルという仲介役がいてこそだ。ガミラスが政治的混乱で継戦不能になったのも本当に偶然で、それが無かったら地球人類は滅んでいた」

 

 そう話しながら英雄の丘を進むと、一つの大きな石碑と異様な形をした像が建っていた。

 

 1対の翼を広げた巨大な戦艦。

 地球を救った英雄であり、人類史上最大かつ最強の「命を救う戦闘艦」と成ったAAAWunderだ。

 そのすぐ下には、旧国連宇宙海軍の紋章と現在のWILLEの紋章が並んで彫られている。

 

「途中でクソみたいな内戦があって腕が飛んだけど、まぁ地球は纏まっている。少人数なりに上手くやっているよ。ん? あれは……」

 

 遠目に艦長服を着た誰かが見えた。

 目を細めてみると、白い髭を生やして少し大きな花束を持っている。

 

「沖田さん……!」

 

「沖田さん?」

 

「幕僚長。藤堂長官の次くらいに偉い人だ」

 

「おお睦月君か。それでその少年が」

 

「初めまして、沖田幕僚長。渚カヲルです」

 

「ほう、君が……綾波君と同じ雰囲気を感じるよ」

 

 その細めた目の向こうに何を感じたのか、それは分からない。

 でもカヲルの事は何となく理解してもらえたようだ。

 沖田は 静かに花束を碑の前に置くと、カヲルの方へ振り返る。

 

「この世界は、希望にしがみついてきたんだ。なりふり構わず、醜く足掻いて……それでも、未来を選び続けた」

 

「……分かります」

 

 そう応えながら、カヲルは自身の胸元に手を当てた。

 

「僕も分かった気がする。希望は与えられるものじゃない。“誰かと生きる”って、そういうことなんだって」

 

 沖田は目を細めてうなずいた。

 

「綾波君も、それを教えられたようだからね」

 

 沖田の頭の中には、居間でどら焼きを頬張っている綾波の姿が映っていた。

 モンタージュで見た希薄そうな少女は何処に行ったのかと疑問に思ったが、家族を知り誰かと生きる事を選んだのだと思えば、不思議と納得がいった。

 リリスやエヴァに関わらなければ、これが本来の姿なのかもしれないと。

 

「渚君。碇シンジ君の救出が完了次第、容体の安定を待ってAAAWunderに移送する事が決定している。君もその対象となる」

 

「何故かな?」

 

「碇シンジ君を救出できたとて、それはSEELEの壊滅には繋がらない。補完計画という物が複数のルートを持つ以上、彼らが使える手段、物品、人物は可能な限り回収して計画の実行を阻害する事が重要になる。その点では、人類最強の戦艦でかくまうのが一番だ」

 

「僕も物品、ということだね」

 

「一個人の保護としてだ。帰る場所が無いならここで大人しく暮らす事も考えたまえ。全てが終われば、レッドボックス規定に基づきMark.06を封印する事になるかもしれないが、あれは我々が生み出した制御不能な物ではなく君の所有物だ。君の意思を尊重しよう」

 

「ありがとう」

 

 沖田はそのまま職務に戻って行ってしまった。

 遊星爆弾症候群が落ち着いてきた彼は幕僚長として動き回っている。

 それを周りの提督が心配しているのだが、療養をしている時よりも生き生きしている様に見えるのも確かだ。

 

 樹齢数百年の大木のように静かだった療養生活を終え、熟練の機関士のように火を絶やさず焚べ続ける姿は、あたかも現役復帰を少し楽しんでいるようだ。

 

 

「あのご老人は、面白い人だ」

 

「まぁ、生きる伝説だからね。AAAWunderの初代艦長かと思いきや、実は2代目だった。葛城艦長が魂だけで生きてたからさ。地球帰還後は容体も危なかったけど、土俵際で踏みとどまって──むしろ最近は落ち着いてきてる。快方に向かって、微速前進中だ」

 

「……」

 

「ご老人と君は言ったけど、62歳。定年までの秒読みに入る一歩手前だ」

 

「……」

 

「で、極めつけは──貯まってた給料で家を買って、セカンドライフの準備まで済ませてる」

 

「何だろう。物凄い安心感があるね」

 

「君ロクな大人にあってないだろ? 主にエヴァ関連で」

 

「言葉が汚くなるけど、今回はとても真面な人に出会えた気がするよ」

 

 彼らしくない俗っぽい言葉にリクが吹き出すと、カヲルは心底ここに来て良かったと思う。

 それを肌で感じ取るリクは何かを考えて、藤堂に連絡を入れた。

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

「ここは?」

 

「秘匿区画だ。Mark.06を格納しているとこよりもずっとだ。かなり揉めたけど、何とか通った」

 

(レッドボックス規定に抵触するかもしれない。如何に停止状態が続いていると言えど何が起こるか分からない。慎重になりなさい)

 

(分かってます。ですが、魂を近く出来る彼なら、初代艦長の魂を知覚できるかもしれません)

 

(根拠はあるのかね)

 

(ないです。強いて言えば、カヲル君は僕らの上位互換という事くらいです)

 

 電話越しに揉めに揉めた会話を思い出して溜息をついたが、通せてよかったとも思う。

 

 通信の終わり際、藤堂の静かな言葉が、今も耳の奥に残っている。

 

(──君が言うなら、信じてみよう。ただし……何かあった時の責任は重いぞ)

 

(……それは、百も承知です)

 

 スケールシリンダーを潜った先に鎮座するのは、黄金色のオブジェクトだった。

 

 忘れる筈がない。

 

 いや、忘れてはならない。

 

 AAAWunder乗組員、否、地球全人類が忘れてはならないオブジェクトが、淡い水色の光を抱えながらそこで静かに鎮座している。

 

 

「コスモリバースシステム。イスカンダルの遺物で、地球環境の再構成を行った『波動エネルギー文明の極致にある物』だ」

 

「どうしてこれを、僕に見せる事を考えたのかい?」

 

「それはね、会えるかもしれない人がここにいるからだ」

 

 コスモリバースシステムは、古代守の記憶を使って森を蘇生した。

 

 そして、葛城ミサト初代艦長の記憶を使って地球環境を再生した。

 

 

 あの日、2199年12月8日に、コスモリバースは古代守の手によって起動し、葛城ミサトの献身で再起動をした。

 

 リクはあの精神空間で何があったかを見ていないが、魂ごと粒子として消えた葛城ミサトはコスモリバースのコアとなったらしい。

 

 アレから技術的にも一切手を触れる事が叶わなかったが、カヲルであれば、存在を感じられるのではないかと思ったからだ。

 

 

「魂、記憶を使った世界の再構成。まるで……」

 

「アディショナルインパクト。虚構と現実を一つにするという点なら、近いものがあるかもね。……何か感じるかい?」

 

「そうだね……これは眠っている、かな。凍った時間の中で、眠り続けているようだ」

 

「葛城初代艦長の事は、上層部とAAAWunderクルーしか知らない。この世界でもヤマト艦長の葛城ミサトさんが存在している以上、ややこしい事になってしまうからね。……僕は、コスモリバースからミサトさんを救い出し、ヤマト艦長の方のミサトさんに会わせる事は出来ないかと考えている」

 

「記憶の継承、かい?」

 

「それもあるけど、やって良いモノかと悩んでいる。レイちゃんは葛城さんを泣きながら見送った。その時の覚悟を否定してしまうんじゃないかと……悩んでいる」

 

「……彼女は怒っていない。ただ、納得してそこにいる。けれど、それが“望み”だったかどうかまでは、僕にも分からない」

 

 倫理、論理、戦略、冷徹さ。

 そのどれにも該当しないただの家族愛と尊重が、決断に待ったをかけ続けてくれている。

 

 技術というには恐れ多い、御業によって生まれたコスモリバースに手をかける自体は禁忌ではないのかとも言われた事も、記憶に新しい。

 

 それでも、この事実は伝えるべきなのだろうか。

 

 

 

 

 

「実体のある方の彼女を呼んでみてはどうだろうか。君の知らない君がいると伝え、意思を聞く。コスモリバースに眠る彼女にまた戦う意思があるなら、彼女の意に沿うと良いんじゃないかな」

 

「ズバズバ言うなぁ。倫理問題と事情説明がきつくなりそうだ」

 

 リクは踵を返すとコスモリバースから離れた。

 カヲルもその後を続くと、コスモリバースは淡く点滅をしたように見えた。

 

 

 

 _______________

 

 

 

 

 

 

 

 推定絶対銀緯-21.6度 推定絶対銀経122度

 自由浮遊惑星テレザート外縁ハロー環類似障壁

 

 1隻のティカル級使命遂行大艦がワープエフェクトの向こう側から顔を出す。

 前期ゴストーク級ミサイル戦艦で構成された護衛艦隊を抱えた彼女は、テレザート外縁部に歩みを進めると、その腹を開いた。

 

 エヴァンゲリオンだ。

 白と黄緑の装甲で主張されたその機体は、ハロー環にも似た力場の上に足を付け、歩みを進めていく。

 

 その顔はフルフェイス仕様となっているため表情は伺えないが、虚ろな表情になっている事は確かだろう。まるで操り糸で動かされているかのようにな不安定さで、力のこもっていない腕が、ゆっくりと楔に伸びる。

 

 二重らせんが絡みつき、巨人が祈りを捧げるその楔はどこか神秘的で、その胸で鼓動のように輝く赤い光球はどこか有機さも持っている。

 まるで心臓だ。

 周期的に光を強め、弱めるその様は、この宇宙に空気があれば鼓動を聞かせて来るのではないかと思わせるほどだ。

 

 

 

 だが、「知ったこっちゃない」というのが、ガトランティスだ。

 

 

 

 その光球に手刀を突き立てようとするが、強大な圧力で押し返されそうになり、その腕が軋みを上げる。

 血が滲み、宇宙空間で赤い真珠を量産しながらも腕をさらに伸ばし、遂に手刀は赤い光球を貫通する。

 

 放射状に広がったヒビはステンドグラスのように様々な光を映し、バキンッと大きく2つに割れた。

 

 祈りを捧げるそれは脆く砂のように崩れ落ち、赤い十字架の光をそこに突き立て消えた。

 自らの存在をこの世に残す為に、最後の一撃を残す為かは分からない。

 それでも、この一撃が、この宇宙に小さくない衝撃を与えたのは確かだろう。

 

 直後、空間が大きく震えた。

 楔を1つ失った障壁が一瞬不安定になり、水面に石を落としたように波紋を浮かべた。

 それは数秒後には収まり、障壁は凪いだ海のように静かになったが、封印が破壊される事を静かに恐れているようにも見えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 ガイゼンガン兵器群 

 ティカル級使命遂行大艦 1番艦

 

 

 

「我らガトランティスに似つかわしくないその様相。大帝にもお考えあっての事だろう」

 

「司令。使命遂行大艦とは?」

 

「使命を遂行するためだけに建造された贄であり神具である船だ。同時に力の象徴、ガイゼンガンに名を連ねる武の象徴だ」

 

 ティカル級の大型艦橋で、バルゼーは部下にそう答える。

 大帝より預かったこの艦艇の名前に一時は疑問符を浮かべながらも、ガイゼンガン兵器群でも屈指の能力を持つこの艦艇を持つという事に誇りを感じでいる。

 

 

(大帝からの勅命を伝える。第7機動艦隊司令長官バルゼーよ、ティカル級使命遂行大鑑を駆り、我らを阻むテレザートの障壁を打ち砕くべし)

 

 

 あの女狐が代弁した、というのは気に入らなかった。

 それでもティカル級という最大最強の艦艇を駆る栄誉はそんな気分を吹き飛ばすくらいには大きかった。

 神殺しの船を拿捕し、複製し、生まれたティカル級は、カラクルム級が小動物に見えるくらいには巨大だ。

 原型である神殺しの船がはるかに巨大だったという事もあるが、槍のように鋭利な艦首と水晶のような尖塔を持つその姿は、禍々しく見えるが、攻撃的には見えない。

 だがその体躯を活かし、大型回転砲塔や5連装大口径徹甲砲塔を乱立させている。

 カラクルム級のコンセプトにも似て「圧倒的火力」も持っているようだ。

 

 見方によっては、あの神殺しの長女にも見えなくもないのは、大帝があの船を評価している事の表れだろう。

 

「巨人のステータスに問題無し。戦傷部の自己修復に入ります」

 

「次の目標に向かえ。なんせ封印の楔は20か所もあるのだからな」

 

 バルゼーは杯に酒を注ぐと、杯を掲げた。

 

 

 

 ______________

 

 

 

 

 コルサンティア軌道上

 ガトランティス 銀河系遠征軍コルサンティア探査艦隊

 

 地獄だ。

 

 蹂躙だ。

 

 一方的な戦闘、いや、作業、いや、狩猟だ。

 

 戦闘開始からたったの30分で、ほぼ全ての艦艇が先立った。皆、艦橋を串刺しにされ、最小限のダメージで淡々と狩られてしまった。

 

『こちらグストーク! 機械の歩兵の襲撃を受けている! 迎撃! 迎撃をギャア!!』

 

 また、1隻の同胞が旅立った。同じだ。眼前に映る機械の巨人はこちらの砲撃を全て避け、ミサイルをいなし、その手に収めた短刀で艦橋をいとも簡単に串刺しにしてくる。

 

 戦闘艦の装甲を容易く貫き通す巨大な短刀、ビームとミサイルを躱しいなす機動力、質量を暴力的に叩きこむ大型銃。

 彼ら人造兵士が、この瞬間までの人生と先代より受け継いだ記憶のどこにも該当しない「最恐の敵」は、まるで鳥のような姿から1秒も無い時間で人型へと変化し、片手に短刀を構えて突っ込んでくる。

 

 一瞬、その変形の瞬間にだけ、静寂が生まれた。

 

 戦場の狂騒が遠のき、戦闘機型の機体が星明かりを背景に滑空する。あまりにも滑らかで、あまりにも美しい曲線を描いたシルエット。まるで戦場を忘れたかのように、風のように、羽根のように──それは一瞬の芸術だった。

 

 しかし、その美はただの前奏に過ぎない。

 

 機体が変形し、鷹が爪を立てるように短刀を構え、鋭く突撃する。次の瞬間、艦橋が串刺しにされ、指揮系統は沈黙した。

 それは、見る者に「死が近づいてくる瞬間」を感知させる、絶望の視覚体験だった。

 

 雷撃ビットによる掃射もまるで効果がない。

 掃射が始まる前に射程圏外に一気に退避されてしまうからだ。まるで羽虫のように鋭角的で不規則な機動を描きながら艦橋を狩り続けるその姿は、ただただ悪魔と例えるしかない。

 

 ゴストーク級がミサイルを雨あられのように放つが、航空機では達成できない鋭角的な機動と慣性を無視した様な機動が全てを水泡に化していく。

 航空機ではなく人型であり、四肢の動きで生み出す反作用を使うという事がこれ程にまで優位とは、彼らは知らない。

 

 

「悪魔だ」

 

 

 カラクルム級戦闘艦ダズガルクの艦橋で、そう呟いた直後、彼は視界の先に短刀の刃先を見た。




次回は、ガトランティス艦艇狩りです
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