宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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22歳になりました


The last crew member is ×××××× ×× ××××-AW4年5月1日-

 真田がライトを左右に振るが、左目はピクリとも動かない。

 あの戦闘の後から変なノイズがずっと被さっている事に気づいたハルナは、真田に義眼のシステム周りを見てもらっていた。

 傍には医務室から飛んできた佐渡が控えていて、機械関係には手が出し難いのか難しい顔をしている。

 

「これを付けて見て欲しい」

 

 そう言われ義眼用の充電器を改造した非接触コネクタを左目に付けるが、タブレットには混線した信号がループし続けていた。

 

「……排熱が追い付かずに中が損傷したんだな。システム周りを弄って治せればいいんだが……君に障害が発生してしまう可能性がある。外すにしても外科手術が必要になる」

 

「外科手術は慣れとるんじゃが、そんなハイテクを付けたり外したりするなんてやった事ないぞ? で、視界の方が今は最悪なんじゃな」

 

「砂嵐みたいなノイズがずっと視界に薄く被さっていて……。分かります? 映像通信が電波障害でザーザー言うアレです。止められますか?」

 

「強制停止は出来なくはないが……ハッキングになるから痛覚が問題になるな」

 

「いいから今やっちゃってください。痛いと思いますけど早い方がいいです」

 

「……自分を大事にしなさ過ぎだ。どうせ治すからと言って無茶をするハードルが低すぎる。佐渡先生、全身麻酔状態でも義眼は動くはずですので、直ぐに医務室に放り込みます」

 

 額に青筋を浮かべた真田がハルナを無視して医務室に連絡を入れ始めた。

 その代わり様を見たハルナはまた頭をかいた。

 トラウマを自分で抉ったり義眼を壊したり、余裕がなくなって来ると自分を大事にしなさ過ぎだ。

 

 

「さ、真田さん?」

 

「古代、取り押さえるんだ」

 

「了解」

 

「あれ? なんだかすごい勢いで抑え込まれてる感じが……」

 

「佐渡先生、麻酔の準備を」

 

「分かった。古代、このバカを医務室に押し込め。あ、ハルナ君は抵抗するな」

 

「……自分で行けますって、放してください」

 

「お母さん、私、怒ってる」

 

「うっ……レイちゃん、受け入れるから怒らないで。抵抗しないからそんなジト目やめて結構くる」

 

「想っての行動」という事は心の底から分かっているけど、ジト目は何だか怖い。

 誰から教わったかは分からないが、「こうすれば効く」と自分で覚えたのだろう。

 

 

 ハルナ、あえなく拘束。

 医務室に放り込まれる事となった。

 

 

 3時間後、全身麻酔から解けて義眼が停止したハルナは、物が立体に見えなくなった事で壁にぶつかり額に内出血を作った。

 結果、左目をバンダナで隠して保冷剤で頭を冷やす事となった。

 

 

 

 _________________

 

 

 

 

「で、目をダメにしてしまったって事?」

 

「義眼を壊してしまった。無理をし過ぎ」

 

 ハルナが部屋で休んでいる時に綾波はその足でアスカの元に行っていた。

 特に理由はない、敢えて言えば親の愚痴をぶつけたくなったからだ。

 勿論本人にその自覚はないが、眉間のしわが雰囲気を周囲に振りまいている。

 それでも注文した野菜丼は頬張って、普段通りの食欲を発揮している。

 

 

「あー余裕なくなると平気で進んで無茶な事するからね。イスカンダルの帰りにデウスーラと戦った時とか、腕撃たれてもデカい機関砲ぶっ放してたし」

 

「……?」

 

「戦闘機の内蔵火器から持ち出したヤツだけど、それをこう、ズドドドドドって」

 

 

 パチンッ

 

 

 箸置きに箸をおいた綾波の顔は不満で一杯だ。

 まさかそんなときから無茶をし続けていたのかと思った綾波は眉間にしわが寄った顔をしていた。

 

「あ、待った。実際無茶しないとダメだった部分も多いから、あんま責めない方が良いわね。義眼ぶっ壊したのは褒めちゃだめだけど、240隻だっけ? ターゲティングしてないと撃たれる前に撃つ戦法出来てないしさ、責めるくらいなら付きっ切りで介助して罪悪感でもあげてみたら?」

 

「罪悪感?」

 

「あーやっちゃったな~みたいなやつ。んでもさ、レイはハルナさんの事母親として見てるんでしょ?」

 

「うん」

 

「親子喧嘩とかそういうキャラじゃなさそうだしねぇ」

 

「味噌汁の味噌の種類で口論はした」

 

「いや平和かよ……ハルナさんさ、レイをマジで自分の娘として見てるから、レイに絶対無茶させたくないのよ。実際初号機に乗せるの渋ってたし。リクさんいないから倍で無茶するから、リクさんの代わりに、アンタが、隣に立ってなさい。初号機、アンタも乗るんでしょ」

 

「乗れるから、乗る」

 

「そうじゃないっつーの。暴走気味の母親を繋ぎ止めてなさい。ただし重しにはならないように。片足結んで二人三脚する感じかな」

 

「ににん?」

 

「あ、まずそっちの説明からか。2人で足縛って走る競争があるの。片足ずつ結んで、同じリズムで走んないとコケる。多分地球に返って学校に入るとかあったらやるんじゃない? 体育祭とか何かで」

 

「コケるのは、嫌」

 

「そうでしょ? だから、レイはハルナさんと同じリズムで走りなさい。突っ走りそうになったらレイが止めて、送れそうになったらハルナさんが引っ張ってくる。そういうのが、二人三脚ってやつ」

 

 

「出来る、と思う」

 

 

「レイの事だから小細工しかけるよりそうやって一緒に走るのが一番なのよ。レイは何か単純で複雑だから」

 

「矛盾」

 

「例えよ例え。人間がシンプルな言葉一つで表現できたら面白くないでしょ。機械じゃあるまいし」

 

「……難しい」

 

「難しいからいいのよ。ま、ハルナさんもレイもそういう難しいのがあるから、一緒にいて面白いんじゃない?」

 

 

 

 

 __________

 

 

 

 

 ドアを開けると、バンダナで左目を覆ったまま眠らせた母の姿があった。

 保冷剤がずれ、額の赤みがまだ残っている。

 

 綾波は一歩近づき、躊躇いがちにベッド脇に腰を下ろした。

 右手を伸ばし──握る。

 

 戦闘の時とは違う、穏やかな熱。

 そのぬくもりを感じながら、アスカの言葉を思い返す。

 

「二人三脚……」

 

 小さく呟いてから、綾波は目を閉じた。

 そのまま眠ってしまった母の横顔を見守るように、手を離さずに。

 

 

(暖かい……人、やめてない)

 

 

 それが伝わってしまったようでハルナが目を覚ました。

 手をしっかりと握る娘の姿に気づき、苦笑して、

 

「……重しと言うより、錨みたいだね」

 

 呟いた声に、綾波が答える。

 

「二人三脚。足、結んで」

 

 短い言葉なのに全部伝わってしまい、ハルナは何も言えずに頬を掻いた。

 それから小さくため息を吐き、額を布団に沈める。

 

「……参ったなあ」

 

 どこか照れたようなその呟きに、綾波はただ手を離さずにいた。

 返事をする必要なんてなかった。

 

 メキメキ……

 

「痛い痛い痛い」

 

 余談ではあるが、アスカと日常的にトレーニングをしていた綾波は、基礎体力がある程度マシになった。

 握力は、母の手を逃がさないには十分すぎる強さだ。

 

 

 

 

 ____________

 

 

 

 

 

 

「出来た。真田さん後これよろしくです」

 

「義眼経由での設計が進んでいたとはいえ、よく完成させてくれた。細かい強度計算等はこちらで調整しておこう」

 

 初号機に装備する予定の武器の設計が完成したという事で、技術部の面々と艦橋メンバーは第1会議室に詰めていた。

 その殆どの面々が開いた口を塞げなくなっているのは何だか滑稽だが、実際フィクションでしか見た事ないような装備の3Dデータを目の前で見ているのだから、それも当然だ。

 

「これで、テレザートに、突撃をする」

 

「散々渋りましたがレイちゃんしか初号機は動かせないみたいなので、私は航法士みたいな感じです。プラグスーツはマリさんにえっちじゃないヤツを作ってもらいましたし、呪詛文様の件も片が付きました。本番の時はバンダナの下に呪詛文様彫り込んだ布を巻いてから何時ものやつを巻く予定です」

 

「いつもの? あ、いつものですね。そのWILLEのバンダナ」

 

「お守りみたいなものだし、初代艦長のだし。それと、どうやって初号機をテレザートにまで飛ばすかなんだけど……一応、コレ」

 

 また別の設計図が表示されると、口を開きっぱなしだったメンバーは呆れたように溜息をついた。

 

「カッコいいですけど……第2世代艦艇の設計してた時にマッド達に影響受けてませんか?」

 

「まぁ、自覚はあるかな。実際無視しちゃダメな発想力だし。でも、何とか回収した材料で造ろうと思ったらこれ位になるの。片道出来ればオッケーだから」

 

「帰ってきますよね?」

 

「当たり前よ。帰りは大きなチャーター機に乗せてもらうから。帰らないとか言うと思った?」

 

「ハルナさんならそれはないです。というか、帰る所ってここじゃなくてリクさんの所ですよね?」

 

「初号機で地球まで帰れたらどんなに楽な事か。そうねぇ、地球に帰ったら目を治して、レイちゃんと養子縁組して、予備役になって、どこかの企業で働きながら子供を産んでのんびりと過ごしたいかな」

 

「予備役に?」

 

「ちょっと、ね。火星時代から色々あり過ぎたから、そろそろ静かに過ごしたいの。あ、決して死亡フラグとかそういうのじゃないからね。ただの願望で、別に感傷とかじゃないよ」

 

 そう締めくくったハルナに、太田が小声でぼやく。

 

「そういう事をわざわざ口にする時点でフラグっぽいんだよなぁ……」

 

「聞こえてるよ?」

 

 じとっとした視線を向けられ、会議室に小さな笑いがこぼれた。

 硬い空気は少し和らぎ、緊張と不安が渦巻く場に、ほんのわずかながらも「人間味」が戻った瞬間だった。

 

 

 

 __________

 

 

 

 

「感傷や死亡フラグ疑惑は脇に置いてほしい。次は、コレだ」

 

「……白色彗星」

 

「新見君に頼んで、白色彗星通過中にデータを取得してもらった。光学、重力、磁場、質量、この船の感覚の全てでだ。そこから判明した白色彗星の全体予想規模が、コレだ」

 

 新見がコンソールを叩くと、地球が表示された。

 それを覆いつくす様なサイズで真っ赤な球体が現れ、その大きさは地球を優に超えている。

 

「デカい……ッ!!」

 

「排出された惑星のサイズも含めて考えると、彗星本体は天王星か海王星サイズだろうと見ている。他にも自由自在に動くガス帯や離脱限界の拡大も考えると、ガトランティスの拠点は『重力の扱いに非常に長けた木星型惑星規模の要塞』と見るべきだろう」

 

「そんなのと、どう戦うんだよ……」

 

「方法はあるが、反波動格子を用いた波動砲で吹き飛ばすくらいだろう。だが地球侵攻の前にAAAWunderが間に合う必要がある。それにこれは最後の手段だ」

 

「アディショナルインパクトの阻止と白色彗星の侵攻阻止、やる事が増えましたね」

 

「君は、全部自分で何とかしてしまおうとか考えているんじゃないだろうね」

 

「流石に過労で倒れますって。WILLE全員でやってもらいます。じゃあ島君、私達の航路は?」

 

「針路はそのまま。テレザートでの作戦を実行し、テレサと邂逅。全作戦終了後、地球に大至急帰還します。白色彗星には追い付けませんが、1日3回制限のワープを5回に増やして強行軍で帰還します。勿論、出来るようになってますよね」

 

「もう分って聞いているよね。うん、出来るよ。徳川さん、ツインドライヴちゃんと見てあげてくださいね」

 

「分かっとる。この不思議な罐の扱いはもう慣れとる」

 

「最初はワープ関連のページ見ても『分からん!』って言ってませんでした?」

 

「あんなん分かるのは真田君くらいじゃろう。儂はお2人さんが見せてくれた分かりやすいワープのイラストで十分じゃ」

 

 凡そ厳戒体制とは思えない談笑に笑みが零れる。

 ハルナは、誰にも悟られないように現状を振り返った。

 

 白色彗星はアケーリアス関連のかなりヤバい兵器である事。

 それを操るのは恐らくガトランティスであり、地球に向かって全速前進中。

 

 確実な証拠として、アリステラの黒き月(白いが、確かに黒き月と同種)を1つとNHGの複製体と本物を2隻ずつ持っている。

 ついでにエヴァンゲリオンを所有。

 

 起こす筈の現象は世界選択儀式とも呼べるアディショナルインパクトで、下手をすると全人類が消えた世界が生まれる。

 

 

 でも現状は悪いことだらけじゃない。

 まず、デスラーがこちら側につこうとしている。

 次に、沖田が存命でガミラス戦争を生き抜いて覚悟のキマった提督が揃っている事。

 第2世代艦艇とオーバードウェポン、ルクレティウス級、AAAWunderという強力な手札が用意できている事。

 

 航空機しか知らない文明によく刺さる戦術機が保有できている事。

 

 コスモファルコンがアップデート出来て、装備次第で何でもできる機体になっている事。

 

 そして、リクと私が割と元気に生きている事。

 

 

 そして気になる事が一つ。

 

 

 

(レイちゃんが最後の乗員じゃないんだ……)

 

 ATフィールドを出せる人は限られてくる。

 自分のように後天的な例もあれば、綾波のように「エヴァパイロットだから出来た」例もある。

 じゃあ三つめの例があるのか?

 

 リクの報告にあった「渚カヲル」が関わっているのか?

 

 もしそうだとしたら、渚カヲルはこの船にも存在していて魂が残存しているかもしれない。

 

(いや……そうじゃない。レイちゃんが知ってる人って言ったら……)

 

 

 

 もしかしたら、まだ行けるかもしれない。

 

 

 

 

 

 ___________

 

 

 

 

 

 

 

 白色彗星

 瞑想の間

 

 

 

 最高位幕僚にしか立ち入りが許されないこの静寂に満ちた空間は、奇怪な形をした生物の化石が標本のように浮かんでいる。

 在りし時の生物の生きた様を少しでも保存する為だろうか、それは分からない。

 

 ガトランティスも分からない。

 何せ彼らが生み出したものではないからだ。

 

(神殺しの船、その長女たる1番艦、ヴンダー。テロンの手によって本来の力を塗り替えられたその船を、どう手に入れたものか)

 

 執心なのは分かっている。

 

 幕僚が疑問に思う事も時間の問題だろう。

 

 ガイレーンは、もう気付いているかもしれない。

 

 それでも、自分はこの世界に絶望している。

 

 

 

 自分達は人造兵士であり、ただの家畜として生み出された戦闘兵器。

 

 それ故に、感情と程遠い精神構造をしている、

 

 戦いに血が沸くことはあれど、それ以外の感情は持つにふさわしくない。

 

 それなのに、それなのになぜ、自分はこうも人間に近く、人間の絶望を知ってしまったのだろうか。

 

 

 

 1000年前、自分の愛した女性は殺された。

 

 自分の抱いた愛という感情は消え失せた。

 

 女性が抱いた赤子から流れる血は止まらない。

 

 

 自分は、選択をしたというのに、裏切られた。

 裏切られた。

 

 絶望が、自身の腹の中で1000年も蜷局を巻いている。

 

 この世界は、もう誰も信じられない。

 

 

 だからせめて、穢れ無き静寂な世界を作り、絶望を取り除く。

 

 

「人間が存在しない世界」を虚構の世界とし、「この世界」を現実とし、それを重ね合わせ、溶け合わせ、「人が存在しない世界」を生み出す。

 

 その為には、どれだけ道を血で舗装しようが構わない。

 

 

「この静寂をも、絶望と呼ぶのか」

 

 背後からの声に、彼はゆっくりと瞑想を解いた。

 振り返ると、そこにはガイレーンが立っていた。

 

「彼の船に執心するあまり、己を見失うことはあってはなりません。また1000年を繰り返す気か」

 

「問題はない。人が人である事をやめられないのであれば、人ではない物が裁定を下すしかない」

 

「裁定……か。だがその裁定を下す貴方様自身が、人の絶望に囚われているとしたら?」

 

 ガイレーンの声は静かだ。だがその静けさは、主を諫めるための最後の楔にも似ていた。

 

「……それこそが証左だ。絶望を知った者にしか、絶望を消し去る資格はない」

 

 

「滅びの方舟を手にして900余年、起動条件を満たさない我々が方舟を動かすためにどれだけ禁忌を犯したか。続けるというのですか、大帝」

 

 

「この世界から根こそぎ苦痛と絶望を取り除く。それを達し時、我らが願いが果たされる」

 

 

 

 


 

 

 

「まだ2次元に慣れない」

 

「医療機器にしては精密すぎてとても細部に手を伸ばせなかった。停止は出来たが、しばらく不便だろう」

 

 

 真田に付き添われながら、ハルナは船外にいた。

 AAAWunderが腹に抱えるアダムス組織___アンノウンドライブとも呼ばれていたが、葛城初代艦長の証言もあり今は正式名称としてアダムス組織が使われている。

 その解析自体は改装時に行われたが、「分からない」の一言が結論として出てきただけだ。

 

 だが、それは機械の回答だ。

 分かる人は分かるのだ、これの異常さが。

 

 電力を与える事で重力子と斥力子を生成したのはあくまで「たまたま見つけた特性」でしかなく、誰も使徒由来の物質である事に気づきもしなかった。

 まさかその中に魂が内包されていて、AAAWunderと同じ構造の精神空間が広がっていた事なんて誰も気づきようもなかった。

 

 旧AAAWunderの内部へまだ行けるなら、彼を探さなければ。

 

 

 

 

 

 

 誰もいない艦内で、碇シンジの魂が残置されているかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「いる……のかな」

 

「不明だ。だが、アダムス組織に取り付けられたセンサーが12秒間だけ異常数値を記録していた。便宜上覚醒と呼ぶが、これが偶然な物とは思えない。綾波君の証言とも合致する。体感12秒で、人の手と夏物の学生服の袖が見えていたらしい」

 

「学生服?」

 

「学生服のままエヴァに乗ったのだろう。それか魂だけになった時に、自身が纏っていたのがそれだったかだ」

 

 

「分からない。でも、いて欲しい」

 

「まさか初代艦長と同じパターンになるとは。人の状態のシンジ君と、魂だけのシンジ君。いると仮定したらいそうなのが……当時の構造図が分かればそこから一の推測が出来るかもしれないが、都合よくそんなものはない。ハルナ君もそこまで細かく探索していないのだろう?」

 

「航海艦橋と耐爆隔離室と鈴原サクラさんの居室を見たくらいでした。あとは主砲がごっそり抜けた跡とか。そもそも旧の時点で全長2500mの巨大艦でしたから、丸々全部練り歩くのは至難の業ですよ。知ってますか? この艦内の全ての部屋に行った事のある人は1人もいないんですよ」

 

 

 

 

 でも気になる部分がある。

 そもそも、自分から行くことはできるのかという事だ。

 

 今までは綾波が引っ張る事でハルナは干渉出来ていた。

 でも今はその「引っ張る役」がいないのだ。

 

 

「レイちゃんに一度相談してみます。もうレイちゃんもこっちに来て年数が経っているので何とも言えないんですけど」

 

「そうしてみて欲しい」

 

 

 

 __________

 

 

 

 

 共和政ガミラス

 首都 バレラス

 

 

 帝都と呼ばれなくなった都ではあるがガミラスの中枢である事には変わりない。

 首相を置き、共和政を宣言し、親衛隊を廃し、独裁の衣を脱ぎ捨てるその長い工程はヒスの精神を疲弊させるほどには苦しい道のりであった。

 

 それでも、ヒスの身辺周りで1つだけ変わった事があった。

 

「おじさま、少しお休みになられたらどうですか?」

 

「おおヒルダ。……そうだね、少し休もうか」

 

 ヒルデ・シュルツ、彼女を引き取った事だ。

 第2バレラス落下未遂事件で彼女を助け、その半年ほど後に引き取る事を決めた。

 

 ただ、養子縁組の話はヒルデが保留し続けている。

 政界からの引退を考えているヒスとしてはリスク等をあまり考えていないが、ヒルデは「ヒスの立場を傷付けてしまうかもしれない」と考えている。

 元首相という肩書は引退後も付いて回るから、難しい話だ。

 

「ヴィレ事変からテロンでのヴィレ発足。それに伴う連邦政府の解体とコンパスへの再構成。たった数か月でここまでの事が出来るとはな」

 

「それを言えば、叔父様も共和政を拓くために尽力していたではありませんか」

 

「あれは……ユリーシャ様が皇室を設けることを提案して下さったからだ」

 

 

 現在の共和政ガミラスの政治体系は、地球から見ると日本に近い形態となっている。

 デスラーという永世総統が去った穴を埋めるようにヒスが臨時で内政を執り、ユリーシャの「ガミラス臣民の支えとなる」願いを受け入れて皇室という立場を設けた。

 

 ユリーシャを女性皇帝__天皇的な立ち位置とするが「君臨すれども統治せず」を貫く事で、儀礼的外交をユリーシャが務めて実務的な政治や外交をガミラスの内閣「ヒス内閣」が行う形態に変貌した事で、何とか共和政となる事が出来たのだ。

 

 この政体変化は地球でも話題となり、「何だかんだ言って同じ人類だ」と再認識する事にもつながった。

 

(……ガミラス星の寿命問題、情報部からの報告によればこの星は長く持って数十年、下手をすれば十年。何とかして私の代で移住先の目途を立てなければ)

 

 気苦労が減って眉間のシワと目の充血から解放されたが、新たな気苦労を自身の老体で背負う事になってしまった。

 ガミラス星寿命問題は国家の最重要機密事項であり、移住先の目途が立たない今は公開を避けるべきとして秘匿されている。

 

 厄介な体質と純血主義が足を引っ張り、手ごろで生存可能な惑星への移住という比較的容易な手段は断たれている。

 ならば、ガミラス星と寸分変わらなない環境の星に移住をするか、ガミラス人の体質問題を改善して他の星に移住できるようにするしかない。

 

 実際、政府からの特命を受けた国家医療局が極秘裏にガミラス人の免疫強化の研究を極秘裏に進めているが、人体が関わる研究のため慎重にならざるを得ない。

 国会で承認された探査艦隊からの報告にも「ガミラス星と類似した惑星は見当たらない」との報告を受けている。

 

 

(大小マゼランは望み薄か、ならば)

 

 体を休めながら頭をフル回転させたヒスは苦肉の策を考えついた。

 

 

「ヒルデ、行ってくる」

 

「行ってらっしゃい、叔父様」

 

 温和な顔つきが一気に引き締まると、背を伸ばしてヒスは外に赴いた。

 

 

 ___________

 

 

 

 エアカーの車窓から見える景色は、あの事件の傷跡をまだ残していた。

 第2バレラスの崩壊で生じたデブリ帯の除去は済んだものの、AAAWunderがバレラスに飛び込んだ事で発生した砲戦によりビルが幾つか崩壊し、それらの建造がいまだ済んでいない部分がある。

 

 そして、溢れかえりそうになった臣民。

 親衛隊の強権により収容所に送り込まれた臣民の解放も同時に行われた事で、実際ガミラスの各都市には人が溢れかえる可能性があった。

 それでも不当に収容された臣民を丁寧に家族の元に帰し、身寄りがない場合は政府が身分と住居と民主化で生まれた各種権利、収入先を保証していった。

 

 これもまだ終わらない。

 デスラー政権で不当に収容された臣民は各地の収容所惑星に散らばっていて、それこそ星を跨いだ帰宅ばかりで支援には兎に角骨が折れた。

 それでもヒスが続けている理由として、ヒルデを引き取った事があるからだ。

 

 旧冥王星基地に駐留し、AAAWunderとの戦いで死亡したヴァルケ・シュルツの妻のライザは後に心を病んでしまい自殺を選んでしまった。

 13歳の時点で身寄りを失ってしまった彼女は当時宣伝情報相だったセレステラの下で給仕係として働く事で収入を得ていた。

 

 名誉ガミラス人と言われても疎まれる物は疎まれるし、あの事件で職場を失ったような物になったヒルデを、ヒスはそのままにしておけなかったのだ。

 

 彼女を引き取った事で、親衛隊被害者の救済活動を政権の長として進めているのだ。

 

 

(テロンのヴィレからの報告ではスリーエーヴンダーが接触し、内部の情報を一部取得したとか)

 

 全人類存続の危機として両国間で共有された情報は精度が高く、白色彗星の正体が惑星規模の機動要塞である事が仮定として設けられた。

 移住先を見つけてもガトランティスがインパクトを起こしてしまえば水泡に帰す。

 手順が増えてしまった事に眉間のシワを揉む。

 

(クダン艦隊はゾル星系__太陽系にそろそろ到着する頃合いだ。受け入れはバーガー中佐とリッケ大佐に任せよう)

 

 

 

 

 溜息をつき車窓から空を見上げると、水色の美しい宝石が浮かんでいた。

 




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