宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
「久しいね。もう中佐と大佐か」
「クダン大佐、お元気そうで何よりです」
「なぁに、うちの貴重な戦力を没収されて凹んでいるさ」
「ヴィレから報告は受けていますが、あれが第101部隊の所属機体だったとは……」
「それが地球に渡ってしまっていたというんだからびっくりだよ」
ガル・ディッツの腐れ縁であり娘を預けられる程の信頼のある男、アウル・クダン。
第101部隊解散後は警務艦隊として動いていたのだが、どういう訳かキレッキレの艦隊指揮を執れてしまいクダンには「ガミラスの妖怪」と二つ名がついてしまい、激戦区になりそうな太陽系にはるばるやって来たのだ。
「しかも乗艦がゲルバデス級とは、見たところ幾つかの改良点がありますね」
「ゲルバデス級が再評価されてね、少数だけど改良込みの再生産が入ったんだ。これは改ゲルバデス級だよ」
シャンブロウ海戦で獅子奮迅の活躍を見せ、メガルーダというバケモノの攻撃を受けても生き延びたミランガルのポテンシャルはガミラス国防軍の目を一気に惹きつけ、ゲルバデス級にスポットライトが当てられたのは凡そ1年半前。
しかしゲルバデス級は戦艦としても空母としても中途半端に終わってしまった艦艇で、ミランガルは砲戦能力を向上させたのはいいが、ゲシュタム機関の出力関係上全砲門に一斉にエネルギー供給が出来ない。
この問題を解決する為にゲルバデス級を開発した民間軍需企業が知恵を振り絞り第2の進化を果たしたのがこの「改ゲルバデス級航宙戦闘母艦クドゥーニア」である。
ゲシュタム機関の出力強化はもちろん、陽電子ビーム砲とカノン砲の口径はデストリア級やメルトリア級に準じる330㎜に調整された。
そして特徴的な砲戦甲板は回転機構を廃止し、飛行甲板が観音開きになりそこから砲塔ユニットがまとめてせり上がって来る形式に変更された。
これにより回転機構廃止によるスペース削減で航空機搭載数が微増し、砲撃能力も強化され、それらを十分に扱えるエンジンを手に入れた事でゲルバデス級はミランガルを超えて1つの到達点に辿り着いたのだ。
「早速だが、私は客人を送り届けてくる。定期便の艦隊に泣きつかれてね、少しだけ面識のある私が行かないとダメそうだ」
「?」
「本当に、ダメそうなんだ」
クダンは平静を装っていたが、内心穏やかではない。
地球行きの定期便艦隊と事務的な連絡を行った時に事情を把握して、クダンはひっくり返りそうになった。
なんでそんな重要人物を連れているんだと口から出かかったが、何やら込み入った事情をその人が持っているようなのであまり深くは突っ込まず、定期便艦隊に随伴する形でここまでやって来たのだ。
クダンとしてはココで半舷上陸をして休息を取りたいと思っていたが、ここからさらに大使館に向かわないといけないので休みは実質お預けだ。
「では私は定期便の艦に移乗して大使館へ行ってくる。うちの艦隊の事は副官に任せてあるから心配ご無用だ」
____________
「大使館から?」
「直ちに月に上がってほしいとの要請だ。」
SEELE殲滅に駆けずり回っていたリクを引き留めたのがガミラス大使館からの要請だった。
要請の理由も非公開で首をかしげたが、Type-nullと初号機の情報開示でお世話になっているので断る事は出来ない。
疑念を抱えたままリクは横須賀からユキカゼ型アキツキに乗艦して月に上がった。
展望室からはタブハベースが見える。
一通りの調査が済んでKREDITの手が入った事でタブハベースの最低限の機能(と思われている部分)は復旧し、既に無重力使用のラチェットマンが資材を運び込んでケイジの復旧を進めている。
何でこんな事をしているんだと疑問に思われてしまうが、れっきとした理由がある。
初号機型エヴァ(AAAWunderに搭載されていたのがガワが別の初号機だったためこう呼称する)、偽装仕様にされていた初号機、Type-null、そしてMark.06を整備するには仮設ドックではどうしても足りず、新しくドックを造るとなると地面を掘り返してドックを埋めるか全高100mくらいの巨大なドックを造る必要が出てくる。
そこで、既存の施設を復旧させる事が決まったのだ。
厳重なかん口令を敷いたうえで資材を小出しにすることで「宇宙港造ってるんだね成程」と民間に思わせる事で何とか進められてるこの工事は「初号機型やType-nullの鹵獲」を前提にしている為、エヴァの破壊でもしたらこの施設は巨大なゴミと化してしまう。
これは賭けだ。
鹵獲した機体を防衛線に導入する為には最高の環境が必要なのだ。
アキツキはやがて月面の裏に回り大使館敷地内のドックに着底した。
KOMPASS、WILLE、KREDITの紋章が三角形を形作る旗と、ガミラスの国章が並んで飾られていて、つい1年前はこの地球側の旗が連邦の旗だった事を思い出して頭をかいた。
(起きてビックリ連邦政府が無くなっていた。KOMPASSとして再編されてはいるが、今の地球は政府ではなく巨大な国際組織で安定させているんだからまたもやびっくりだ)
今の地球は政府ではなく3つの全地球規模の国際組織が安定を担っている。
内政、外交に重きを置いたKOMPASS。
本土復興、食料の再生産等復興全般を担うKREDIT。
そして、超管区間で唯一の防衛戦力を持つWILLE。
連邦政府を解体した時に生じた無政府状態を僅か2日に収めて政府の代わりとしてKOMPASSを拵えた事で「操縦桿から手を離した状態」を極短時間にする事に成功した。
完璧とは言い切れない。
だが、歴史上類を見ない三大国際組織による統治体制は、「少なくともこれまでよりは良い」答えだった。
そんな“マシな統治”に、一枚どころか二枚も三枚も噛んでいるリクにとってさえ、KOMPASSの登場は想定外だった。
連邦政府の事実上の消滅と同時に、「SEELEや極東事変に関わらなかった人々の受け皿」として生まれた側面を持つKOMPASS。
そこで活動する人々は、かつての政治家のように利権を貪ることなく、職務にのみ全うできていた。
後で事情を聞けば、クリストファー元大統領がSEELEの義体だったことで政府は実質SEELEの持ち物となり、そこから腐敗が始まっていたらしい。
それで、なぜ今の地球には利権を貪る政治家がいないのかって?
当たり前だ。ガミラス戦争で、そういう連中は大体死んだからだ。
(……笑える話だ。ガミラス戦争は、結局のところ人間選別機でもあったんだ)
地下に逃げ込む時、自分の権利ばかり喚き散らす連中は、真っ先に群衆の怒りに焼かれて消えた。
現実を見て、歯を食いしばって耐えられた幸運な者だけが今も生きている。
結果、戦後に残ったのは「まともな人間」ばかり――いや、そう思い込もうとしているだけかもしれない。
(もちろん運もあったろう。
けど、利権欲しさに群がる政治屋がいなくなったことで、前よりは住みやすくなっているはず。
定例報告会でも各行政の質が確かに上がっている。
ガミラスとの貿易で外貨も獲得できている__初めてから余り時間経ってないから少ないけど。
……戦争ってやつは、人間の値打ちまで勝手に査定するのか?)
技術屋がこんなこと考えても仕方ない。餅は餅屋、だ。
自分が呼ばれたという事は、SEELE絡みの面倒臭い事か技術系の話だろう。
大雑把に狙いを付けて大使館の執務室のドアの目の前についた。
「WILLE直属、睦月・暁国際設計局主任、睦月・リク・暁三佐。入ります」
「どうぞ」
「失礼いたします」
自動ドアの向こう側は執務室となっていて、ここにもガミラスの国章と3組織の紋章がホロで浮かんでいた。
執務スペースにはバレル大使が、そして応接用の長椅子には1人の人物が座っていた。
「初めまして。君が、あの白髪の才女の知り合いかな」
「……アベルト・デスラー、さん、ですね。その才女は、妻ですが……」
「ほう?」
「……ハルナに、銃を見せてませんよね。強めのトラウマがあるので、そうされるのは嫌なんです」
「タランに携帯はさせたが、誓って見せようとはしていない。だが、どうやら彼女の目に触れてしまったようで、気を損ねさせてしまったかもしれない」
「心配だ。トラウマ2つ目はキツいよ……兎に角、こちらはクソカルトの計画を壊さないといけないので早めに戻ります。バレル大使、呼び出したわけって?」
頭を抱えるのを早々に切り上げると、リクは本題を聞き出した。
元とは言え元首を目の前にしてかなり失礼にも聞こえるが、彼には時間がないのだ。
「デスラー総統、お話を」
「……君に預けたいものがある。急ぎだが、必ず成し遂げて欲しい」
━━━━━━━━━━
「はぁ……マジですか」
「可能かどうかを聞かせて欲しい」
目の前に映し出されたとあるデータを一通り見終わったリクは、口が悪くなることを承知で見解を伝えることにした。
「時間は無いですけど裏技を使えば出来そうです。でもわりと無茶苦茶ですね。バニラ……じゃなくて、そのままの方が良くないですか?」
「ガトランティスを殲滅するには、現在の状況では心許ない。確実な手段が求められる」
「そうは言っても……どのみち僕は手が出せないからオーダー出しだけになるしうちのマッド達に任せたら……」
(٩*(゚∀。)وヒャッハアアアァァァァァアア!!!!!!)
「……ってなるんだよなぁ」
「……?」
「必要そうな事なのでお受けしますが、民間にバレない様に進めます。取り敢えずネモ1でいいかなっと、アレ使えるし。兎に角しばらくお預かりします。でも、ホントに良かったんですか? 従者さん怒りますよ?」
「総統の気まぐれはいつもの事らしいのでね。タランには話をつけておこう」
「……最終確認ですが、宜しいんですね。これを元敵国に預けるという事は貴方は王の座から降りる様な物です。事実が露呈すればあなたが王座に返り咲く場合に問題になります」
「私にとって王座は、今ではただの椅子に過ぎない。私が自分の椅子の調整をしようと君達に預けても何ら問題はないだろう」
デスラーは続ける。
「実質、私が王座に戻らなくても大した問題にはなり得ない。クダン君が言うには、ガミラスは民主化を進め親衛隊の後始末と再出発をしているじゃあないか。ヒス君が仕切ってくれているなら私が何か関わる事もあるまい。臣民の印象的にも、私は政治に立つよりもガミラスの新天地探しに明け暮れていた方がいい。このタイミングで王という立場を考えれば、自らの手で行動を縛ってしまうのだ。なら、背負わない方がいい」
そう締めたデスラーはどこか憑き物が落ちたすっきりした顔をしていた。
憑き物の正体は分からないが、今のデスラーは立場を脱ぎ捨ててガミラス民族の存続のために邁進できている。
彼の意思は本物の様だ。
「分かりました。貴方の椅子を、お預かりします」
「承諾してもらえて安心したよ。ところで……君はあの才女をどう思っているのかな?」
「どうって……妻ですけど、僕の」
「妻?」
「ええ。妻で、ハルナの夫が、僕です」
「……そうか。ランハルトが何か気にしなければいいのだが。ああ……あの髪色を見て、古い記憶を思い出した。ただの偶然だといいのだが」
ハルナを一目見た時に、デスラーの中では古い記憶が掘りこされていた。
自身がまだ若かった頃、デスラー政権が発足して間もない頃はたびたび暗殺の危機に晒された。
その1つ、1つでしかなったあの凶行を起こした女性も、白髪だったのだ。
ハルナのように長い髪を持っているわけではなかったが、よく似た白い髪で、特徴的な容姿だった事を覚えている。
デスラー家に近い人間でもあった事で、彼は表向きは彼女を処刑したと見せてガミラス星から追放する処分を下した。
その時一緒に連れられたのが、ランハルトという4歳程度の子供だった。
「私は君達に敵対するつもりはない。共通の敵を持っている事を認識し、そして認識してもらえた。テロン政府……そうか、今は政府を無くしたのだな。君達の組織は滑らかに事を進めてくれて民間には非公開の軍事同盟を結ぶところまで進めてくれた。その手際には感謝しているよ」
「……利権欲しいマンが戦争で軒並み死んだので、膿が少ないんだと思います」
「口が悪いな。我々も習うべきだろうが、今はヒス君が民主の政を執ってくれている。星に戻れない身ではあるが、陰ながら見守っていよう。忙しい所をすまなかったね。例のモノは駐留艦隊に預けて、君の愉快な部下に引き渡そう」
「ではそのように。開戦までには間に合わせますから。多少魔改造されても許容はしてください」
「テロンのビックリ箱を楽しみにしておこう」
こうして、極秘裏にネモ1にコード0指定物が移送された。
解析完了して試験製造されたばかりのミラージュコロイドを使って綺麗に覆い隠して何とか運び込んだそれは異様なほど巨大で、マッド共にデータを見せた瞬間、机を叩きながら叫んだ。
「やべぇ!最高!」と。
狂喜乱舞という言葉はこういう時のためにあるのだろう。
_____________________________
ガミラス臣民の壁の第11番惑星公転軌道以遠への配備を皮切りに、無人兵器の分散配置、N2爆雷をはじめとする大量の機雷による宙域のデコレーション、さらに特砲艦隊アポロノーム分艦隊の展開が進められた。
「出来ることは何でもやる」というホッパーの強気な方針は、沖田の支援もあって加速度的に実現され、第11番惑星宙域は、罠のバーゲンセールと化した“地獄の宙域”へと変貌した。
特砲艦隊の配備は議論を呼んだが、「通常兵器での対処が困難な状況への即応性」と、「発射承認さえ得れば即座に使用可能な利点」が決め手となり、最終的にその配置が押し通された。
──第2次11番惑星防衛戦から、わずか3週間。
たったの3週間で、お手製の地獄(土台)が誕生した。
「案外できるもんですね。地獄をセルフで作るなんて」
「……やりすぎだ。と言っても、お前は“まだ足りない”と言うんだろうがな」
ホッパーが肩をすくめ、笑みを返す。
「しかしこの配置……第1次防衛線は最初から捨てる前提か?」
「正解。無人化兵器と爆雷で時間を稼ぎ、誘導して叩く。最初に血を流すのは、“機械”の方がいいだろう?」
土方は内心で「大道芸人め」と毒づいたが、その戦略眼に一目置いているのも事実だった。
____というのも、この“ホッパー製の地獄”には、彼自身も深く関わっていたからだ。
オーバードウェポンの無人兵器化にあたっては設計局に要望を出し、特砲艦隊の配備ではホッパーに代わって議会に出向いた。
さらに、無人兵器群の広域制御にはアポロノームの戦術中枢を使うよう提案し、これも採用された。
「ホッパーはデキるが、議会には連れていきたくない」__そんな声が各艦隊指揮官のあいだで一致した時点で、誰かが火中の栗を拾わねばならなかった。
そしてその“誰か”が、土方だったというだけのことだ。
「第2次防衛線は?」
「構築中だ。想定されている戦場は土星沖。ガミラス艦隊は内惑星系の衛星を仮泊地にしてもらう」
「冥王星がひき潰されるかもしれない。黙って見てるのは、気分のいいもんじゃない」
「それに戦力が消える」
「ホッパー」
「分かってますって」
軽口を咎めたのは、第2防衛艦隊(北米)の司令であり旗艦コンスティテューションを預かるジョシュア・アームストロング宙将だった。
彼もまたガミラス戦争を生き抜いた歴戦の将であり、戦傷により金属製の義足を装着している。
戦後は予備役として静かな余生を送るはずだったが、ガトランティスの脅威を重く見たWILLE上層部が現役復帰を嘆願。
そして今——この戦いを“最後の戦い”とするために、彼は再び前線へと戻ってきたのだった。
「全く……この若いバカが暴走するから手間がかかって仕方がない」
「何ですかバカって」
「だろう? ネルソン」
「全くです。その罠に自分が絡むとなると、楽しさよりも冷や汗が噴き出します」
そう呟いて、旗艦ビスマルクを預かる若き将が溜息をついた。
第3防衛艦隊(ユーロ)司令官、ウォルター・ネルソン宙将補。
彼もまた、ホッパーと同じく“戦争という激流”を生き残った男だ。
そしてオーバードウェポンによる航空機と戦術機の運用思想を誰よりも早く習得し、地球史上初の航宙母機動艦隊を実現へと導いた若き“変態”である。
「で、だ。ナガト型を空母にしちまった感想は?」
「巡洋と名が付いているとはいえ戦艦級の火力と戦艦らしからぬ機動力。オーバードウェポンによる航空機運用能力の拡張と戦術機という存在。とても良い時代に生まれたと思います」
「へいへいやっぱ変態だわ。もうビスマルクじゃなくてクイーンエリザベスにしとけ」
ホッパーの軽口をいなしつつ「案外それもいいかもしれない」と本気で思うネルソンは、やはり只者ではない。
名将とは実績ばかりかと思われがちだが、時に“変態”を装うものだ。
「第4から第8は? まだ来ていない様だが」
「遅れてすまない。……何分、こういう体でね」
車椅子の提督──その名を知らぬ者は、WILLEにはいない。
第8防衛艦隊(ユーラシア)旗艦アドミラル・ナヒーモフを預かるセルゲイ・スミルノフ宙将。
ロシアの荒熊の足には、今も戦傷による麻痺が残っている。
宇宙線障害により神経を損傷した彼が、なぜその足を治療しようとしないのか——。
その理由は、かつて遊星爆弾の直撃から母を守り切れなかったという、深い自責の念にあった。
戦争が終わった今なお、その悔いは彼の中に重く残り、彼はあえて“その痛み”を残し続けている。
それが、彼にとっての贖罪であり、誓いだった。
それに続くように第5防衛艦隊(豪州)司令のアーノルド・クレッグ 宙将補、第4防衛艦隊(東アジア)司令の李雲海 宙将が到着し、その後に続いたのはこの場にいる誰よりも大きな巨人達だった。
第6防衛艦隊(アフリカ)司令にして、元・国連海軍アフリカ方面軍総司令。
旗艦「マンデラ」を預かるラモン・スタンリー宙将補は、今なお“地球の巨人”として前線に立つ。
遊星爆弾により焦土と化した大地の前で、彼は宇宙軍への編入を命じられた。
鬼神の如き戦術と、クリピテラ級にすら喰らいつく機動戦で、幾多のガミラス艦を震え上がらせた猛将である。
その巨躯と戦場での獣のような戦いぶりに、誰かが彼を「進撃の巨人」と呼んだ。
それはいつしか、恐れと敬意を孕んだ異名として定着し、今もなお──この23世紀においても、スタンリーは第一線に立ち続けている。
そして、第7防衛艦隊(南米)司令で旗艦リベルタドールを預かるのが、ディエゴ・アルマンド・ルイス 宙将補である。
かつて南米全域を襲った遊星爆弾の連続落下により、多くの家族と故郷を失った彼は、宇宙軍に志願して一兵卒から艦隊指揮にまで登り詰めた驚異の経歴を持つ。
流石に戦時特進によるスピード出世もあったが、それだけではなく、熱した鉄を何度も打つような愚直な繰り返しと磨き上げた能力が、彼の立場を確固としたものとした。
時折、敵を前にしたときだけは「炎のような怒り」が瞳に宿る。
まるでアマゾンに潜む巨大なワニのように虎視眈々と狙い、ここぞという場面で食らいつき叩きのめす。
それは守れなかった南米の地に、もう二度と悲劇を繰り返させないための怒りと、狩りでもある。
この場に集まった全員は、ガミラス戦争を生き抜いた「覚悟の決まった」人物だ。
生きる伝説、白虎、再起の鉄将、変態、巨人、狩人、荒熊、隻眼海賊船長、そして__どこでも地獄だ。
「第一次防衛戦はそこのホッパー宙将補の発案により基礎部分が完成した。ここからは各艦隊司令官の君達に、ガトランティスの特性を逆手にとった戦術を練り上げてもらいたい」
「自分は悪魔で地獄製造マシンなもんで、やりたいこと出来そうなこと言ってってください。作戦会議ってやつですよ」
上官に対しその口の聞き方は何だと言葉をぶつけられるかと思うがそれはない。
ホッパーの優秀さは誰もが分かっていて、アームストロングの後継とも見られている。
スタイルを崩させるより、尖った駒としてのびのびとやらせてみようと言うのが、提督達の総意だ。
なので、皆遠慮無く意見を投げていく。
司令官代理をたてて態々Tokyo3に直接赴いたのだ、黙っていては来た意味がなくなると言うものだ。
捨てること前提の防衛線でも一切の手を抜かない。
推定隻数5桁の大艦隊をギリギリまで削りきる役目を持つのがこの第1次防衛線だ。
ルイスとスタンリーが強気な意見を投げ、クレッグが賛成し、待て待てとアームストロングと李が懸念点を指摘し、「じゃあ俺達の艦隊を使えよ」とルイスとスタンリーがカバーに入り、スミルノフが一度整理させる。
それを沖田と土方が議長としてバランスを取り、武器屋扱いのホッパーがニヤニヤしながら罠の手直し案を纏める。
かつての国連宇宙海軍では、こんな光景はまず見られなかった。
当時は、各管区の艦隊ごとに指揮系統が異なり、利害も対立していた。
通信越しに意見をぶつけ合うのが精一杯で、
世界中の提督が一堂に会して作戦を練るなど、夢のまた夢だった。
だが今は違う。
人類史上最強かつ地球唯一の軍事組織──WILLE。
「管区」ではなく「防衛艦隊」として再編され、
全艦隊が一つの戦略目標に向かって動く枠組みが整った。
通信ではなく、顔を合わせて議論ができる。
それだけで言葉に宿る熱は大きく違う。
責任の重みも、伝わり方も、戦場に与える意味も──まるで違う。
そして今まさに、この部屋には、
その“違い”を体現する者たちが揃っている。
「波動砲艦隊はいいが、ギリギリまで引き付けて……**《アレ》**を使えないか?」
「《アレ》って……流石に自分も使うの躊躇したんすよ。だから罠宙域から外して、刺激を与えないようにしたんす」
「でも使えるんだろ? 尻込みするな。“使える物は何でも使え”。……どこでも地獄製造機」
ホッパーが肩をすくめる。
笑ってはいるが、その目は笑っていない
「幕僚長、もしこれを使うなら……ガミラス政府にも話つけないと、マズいですよね?」
「……この場での判断は難しい。しかし、合同特区となっている第11番惑星周辺物を使用するとなれば、ガミラスとの協議と転用準備は不可避だ。戦略面での効果は確かに大きい。……相田主任代理、君の所見を」
「は、はいっ……! えーと、ガトランティス艦の主機構造は解析済みです。原理上、無力化は可能です。ただし……効果範囲の調整が鍵になるかと」
「だよなぁ。俺らまで巻き添え食ったらシャレにならん。まさか艦が止まるとか言わねぇよな?」
「……すみません。防護処理はまだ。主機は例外なく停止します。補機系統で電力は維持できますが……動けません」
相田が申し訳なさそうに縮こまると、沖田は罠の配置図のある1点を指で叩いた。
「要は、我々が巻き添えにならない位置からコレを破壊すればいい。ここに適任者がいる」
「……っ! うーわコイツなら仮に曝露してもいけるわ。幕僚長ナイス」
沖田が目をつけたのは、とある艦艇だった。
新横須賀宇宙港
総旗艦艦隊 宇宙戦艦ヤマト
「ツインドライヴ安定試験終了。前回よりも10%向上です。これで実戦に赴けますな」
「ええ。ガトランティスが近づいている以上、総旗艦艦隊も出すことになるわ。機関科の練度は上げまくって。他も上げるけど」
「了解、艦長」
グリーゼ581までの試験航海とワープ試験を終えたヤマトは、新横須賀の海でその巨体を休めていた。
第2.5世代として2つの心臓を持つ事となったヤマトは、直列型ツインドライヴの起動の難しさから初期の頃は「我儘大将軍」と呼ばれた。
しかしWILLE技術部とヤマト機関科員の幾層にも重ねられた努力により、その「我儘さ」は鳴りを潜めた。
こうして何とか大人しくなった直列型ツインドライヴの運用試験は初起動時から何度も続けられてきて、遠洋航海にも耐えうる安定性を獲得する事に成功した。
「艦長艦長! ヤバい偉い人が来たんだけど!」
「北上、ヤバいじゃ分かんないわよ。誰がいらしたの?」
「……幕僚長。通信で足りるのに直接来ちゃってるし!」
「何ですって!?」
若き艦長にして総旗艦の旗を振る者。
宇宙戦艦ヤマト艦長葛城ミサト 特務一佐は、北上からの報告に素っ頓狂な声をあげた。
━━━━━━━━━━━
その2日後、第3新東京市全域に民間人退避命令が下った