宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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これを書きたかったんだぁぁぁぁああああ!!


Mark.06, please make that wish come true.-AW4年5月6日-

 某所

 

 蛇のように自由に動くケーブルが首元のソケットに刺さり、その老人は思考を深く沈めて「繋いだ」。

 200年という年数の重みは凄まじい物であり、補完計画が進められなかった期間も大幅な損失であった。

 

 だが、それももう終わる。

 鍵である、碇シンジ。

 贄となるリリス。

 そして、神具であるエヴァンゲリオン初号機。

 守り人たるMark.10の複製体。

 

 ガミラスと呼称する異星人をそそのかしType-nullを手に入れ、アヤナミタイプを強引に生産し、人工の魂を封入して人形に仕立て上げた。

 

 

 

 

 全ての調整は終わった。

 今こそ、計画を実行に移す時だ。

 

 

 

 

「人類の為に、始めよう」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 WILLE統合庁舎

 地下 統合指令室

 

「重力場の乱れを確認! ですが、地球圏及び月軌道には艦艇の反応はありません!」

 

 

 ワープアウト信号が一切キャッチ出来ずただ重力場の乱れの反応だけがキャッチされた。

 この異常事態に統合指令室は騒然としたが、遂に始まったかと藤堂が気を引き締める。

 

「来たか。黒き月の反応は?」

 

「ネガティブ、未だ反応ありません」

 

「第三新東京市全域からの市民退避を急いでください」

 

「本部機能はBRUSSELS2に移転完了しています。MAGI3rdのバックアップも頼みました」

 

「何とか準備は間に合ったが……Mark.06は?」

 

「海底ドック臨時ケイジより発進しました。これより、黒き月への進入を始めます」

 

 黒き月。

 地表面から1万5000m程下に埋没したその遺物は、極東管区地下都市の当時の建設計画にも影響を与える程度には巨大だ。

 それ故地下都市は設計図でも分かるように、地下3000mから5000mまでの民間人居住区域とは別にさらに深深度に造られた研究区画では、「黒き月を大きく囲むように造られている」のだ。

 

 この辺りの設計にはSEELEが関わった形跡がデイブレイクの調査によって判明しており、「全高80m強の巨人が出入りする事を前提にしたような」巨大な穴も掘られていた事も判明してる。

 

 その一切の障害物が廃された巨大な穴に黒い波紋が浮かび上がっている事を、WILLEは見逃さなかった。

 

「重力場の乱れの発生点が分かりました。旧地下都市研究区画深度10000mです!」

 

「まさか直接観測不能な地中へとワープアウトするとはな……。失敗すればワープアウト座標にズレが生じるぞ」

 

「それでも実行が出来てしまっているんです。ワープアウトした質量物の解析は?」

 

「現在解析中です。エヴァ並みの質量はほぼ確実ですが、ワープという方法を使う以上は艦艇の質量も確認できるかと」

 

「睦月主任は?」

 

「Mark.06に同乗しています。奥様の初号機搭乗試験の結果を受けて、義手は根元から外されています」

 

「外したのか!? アレを?!」

 

「呪詛文様を使ってエヴァの呪縛侵攻阻止が裏目に出てしまったらしくて、自分の義手にも同じものが仕込まれているので外した方が手っ取り早いと」

 

 左腕の義手には、自身のエヴァの呪縛の進行を遅滞させる為の「呪詛文様」が彫り込まれている。これは自身を守るためのお守りであったが、ハルナはこれを義眼に仕込んだまま初号機に乗り込んだ事で異常な状態を引き起こした。

 結果は無事に戻ってくることは出来たが、同じ轍を踏むわけにはいかない。

 ならばという事でリクは義手を大急ぎで外して、自室に置いてきたのだ。

 

「パイロットスーツは?」

 

「左腕の部分は縛っています。元が体にフィットする全身スーツなので無理矢理感が否めませんが」

 

 

 _________

 

 

 

「ところがどっこい、なんだよな」

 

「そうだね。この釘であれば、もしかしたら」

 

 Mark.06のエントリープラグでカヲルが静かに覚悟を決める。

 彼をカシウスの槍で貫き初号機のシン化を止めたあの時から、全てが始まったと思う。

 

 

 あの頃は、世界の壁すら知らなかった。

 いや、そもそもそんな事を考えた事もなかっただろう。

 

 

 あの頃は、槍がこんな釘に変わるとは思わなかっただろう。

 ロンギヌスとカシウス、この2形態のみだとずっと思っていた。

 

 

 あの頃は、まさか人間の協力を得られるとは思わなかっただろう。

 いつも一人で、必要な物とルートを集めて、可能性を強引に捻じ曲げようとしていた。

 

 

 あの頃は、こうして王手に手をかける事はなかなか出来なかった。

 自分ではどうにもならなかった時が幾つもあった。

 

 

 もう何十回何百回も繰り返してきた果てに、絶好の条件がそろったのだ。

 今しかない。今なら、今なら彼を救い出せると。

 

 

 

 

「行こう、Mark.06」

 

 天使の輪を頭上に輝かせ、使徒の従者は目覚めた。

 

 

 _______________________

 

 

 

「地下にこんな構造があるとはね」

 

「22世紀の中ごろに内惑星戦争が起こってね。人類は火星からの隕石攻撃に備えるためにこんな街を造ったんだ。君の知る第3新東京と考え方は同じだと思う」

 

「人類を護るために居住域ごと地下に格納する。合理的だが、人類を護るための施設に隠れて補完計画の為の準備として使うとは、ご老人達も隙もない」

 

 浮遊状態で地下都市を急行し該当地区に飛び込むと、自由落下でその縦穴を降りる。

 

 カヲルは慣れているのだろうが、液体呼吸を今まで知らなかったリクは少し苦しそうだ。

 どこから湧き出たかは知らないこの液体「LCL」は、元々Mark.06エントリープラグの小型LCL貯蔵庫に保管されていた物を徹底的に洗浄し直したものを使っている。

 

 重量感のあるものを吸い込もうとするのは一筋縄ではいかず、一回一回深呼吸をするように確実に取り込んでいく。

 

(液体呼吸は大分苦しいって、ハルナから聞いておいて良かったな)

 

 これもハルナが超空間通信で送って来たメモから学んだ事だ。

 練習する暇がなくいきなりの実戦となったが、兎に角深呼吸をする要領で大きく吸い慎重に掃く事を心がけると、徐々にではあるが慣れてきた。

 

「ご老人は急いでいるんだ。君が僕とMark.06を取り戻した時点で、補完計画の阻止に動く事は確実になる。なら、準備が済んでいる事をすぐに手も実行に移すのは当然だと思う」

 

「だから本部機能を3日で移したんだ。もともとNEWYORK1とBRUSSELS2にも予備指揮所があるから、全市民を退避させたから、Tokyo3が仮に消し飛んでもダメージは最小限に抑えられる」

 

「ガミラス戦争で極端なまでに減った人間は、貴重だからね」

 

(ガミラスとの戦争で地球の人口は、戦前の30%を切った……)

 

(人類を守るために都市を捨てる覚悟も、今の指揮官達にはあるんだ)

 

「人類は、守るべきものが減ってようやく“慎重さ”を覚えたのかもしれないね」

 

「授業料がバカみたいに高かったけど。指令室、ワープしてきた物体の情報は?」

 

『解析中ですが、寸分の狂いなく竪穴に向かったワープしてきたようです。そして、L1に微弱な重力震反応を検知したので恐らく……』

 

「残留波動エネルギー反応を検査してください。残り香くらいは残っている筈です。見つけ次第報告を」

 

『了解です。ご武運ガガッ』

 

 通信不良で嫌なノイズが起こり途切れてしまった。

 リクは左腕がある筈の空間に目をやる。

 流石にプラグスーツの用意が出来なかったので航空隊のパイロットスーツを着る事になったが、無いよりは全然いいと思っている。

 でも、袖を無理矢理縛った事で空虚感が心に押し寄せる。

 

 極東事変で捨ててしまった腕を機械的に補っていたが、一時的に外した事で「今は無いんだ」と空虚感が湧き上がってくるのだ。

 

「さっさとクソカルトを潰して腕治さないとな。多分、シンジ君もいる」

 

「無事なのかい?」

 

「分からないが、いるというのは確かだ。君が持ち込んだ補完計画の情報には、シンジくんを使うかどうか悩むルートもある。クソカルトが急ぐとなれば手段は選べない。シンジ君を使う事もあり得る」

 

「博打だね」

 

「賭け金は乗せてrッ! レーダーに反応、デカいな」

 

「リリンの船かい?」

 

「ドレッドノートだ」

 

 地上用レンジのレーダーに大きな影が映り込み、直ぐにドレッドノートだと判断が付いた。

 今のところエヴァらしき反応がないので何とも言えないが、恐らくこれがワープアウトしてきたのだろう。

 どうやら波動エンジンはグラビティダメージで機能を停止しているようで、今はショックカノンも波動防壁も使えない様だ。

 

「かなり正確な空間座標が無いと出来ないぞそんな事。ミスれば岩盤の仲間入りだ。カヲル君やってくれ」

 

「分かった。シンジ君を救い出す、通してもらおうか」

 

 右手に握られた聖釘を握ると、螺旋のように一瞬膨らむと大きな釘のような何かに姿を変えた。

 釘と言うより巨大な杭だが、これが「意思を貫き通す為の姿」なのだろう。

 

 大きく振りかぶると巨大な赤い釘をドレッドノートに突き立てるが、ATフィールドに阻まれる。

 艦内にATフィールドを発生させるだけの機能を持ったエヴァを内蔵しておいたのだろう。

 

「通して欲しい」

 

 そう意志を込めて杭打機のように釘の頭を拳で叩くと、ATフィールドは薄氷のように溶けてなくなり、釘はいとも簡単にドレッドノートの艦首を過貫通し、爆発を起こした。

 

 自由意思の使徒タブリス、第1にして第13の使徒、フィフスチルドレン、最後のシ者。

 

 彼につけられた名を内包し、意思を貫き通す為の釘が聖釘__それが『ヘレナの聖釘』だ。

 

 

 爆炎からATフィールドで身を護ったMark.6はそのまま降下を続け、やがて薄明りの付いた巨大な空間に辿り着いた。

 人が立ち入った形跡があるようで、白い巨人の腹に大きな機械が埋め込まれていて、その傍らには見知らぬエヴァもいた。

 

「Type-null……。ガミラス製の機体だ」

 

「贋作の贋作か。乗っているのは綾波君の姉妹だろう。そして……」

 

「ガワだけエヴァ初号機。中身は知らないが」

 

 紫の鬼___初号機型エヴァはリリスまであと一歩まで来ており、片手に握られた紫色の槍を握っている。

 

 その槍が放つ異様な雰囲気を2人は肌に突き刺さるように感じた。

 

「死滅願望……」

 

「恐らく、ロンギヌスのコピーだ。デウスーラからAAAWunderに撃ち込まれたあのレールガンの弾がこんなところで使われたのか」

 

 亜空間回廊海戦でデウスーラ二世からAAAWunderに向かって撃ち込まれた「ロンギヌスの槍の複製品」がある。

 精神汚染を引き起こすそれは学術的価値があるという事で徹底的に接触を避けながら今まで保管がされてきた。

 

 それを何らかの形で持ち出し、劣化版とは言え槍として改修したのだろう。

 

「シンジ君が起動キーとして乗せられているのは確実だから、制御はダミーだろう」

 

「つまり?」

 

「思い切りやって良いという事だ」

 

 Mark.06が手にした聖釘を大きく振りかざすと、それに気づいたType-nullが肉薄する。

 80mの巨体を重力で無理矢理飛ばすその機動性は侮れず、たまらずカヲルはMark.06を左右に大きく揺らしてその軌道から回避する。

 

 Type-nullの手には初号機が持つコピーロンギヌスと同じ槍が握られている。

 あんな物で貫かれれば、間違い無くゲームオーバーだ。

 

「速い……ッ!」

 

「距離を詰めろ! 鍔迫り合いにするんだ!」

 

「っ! 分かった!」

 

 中距離では優位である槍も至近距離ではただの長い棒でしかない。

 カヲルはリクの指示通りにType-nullに対し距離を詰めるが、リリスに歩みを進めていく初号機を見るたびに焦りが生まれ上手く距離を詰められない。

 もうリリスの身体をよじ登り始めている、時間がない。

 

 ATフィールドでは受けきれない。

 贋作とはいえロンギヌスである以上、ATフィールドを何重に重ねたとしても貫通されてしまう。

 

 カヲルは何か覚悟を決めた様な顔になるとType-nullへ距離を縮めるのをやめて初号機に吶喊する。

 それに泡を食ったようにType-nullがMark.06を背後から襲おうとするが、カヲルはMark.06を急反転させて全力で足を踏ん張り、コピーロンギヌスに鍔迫り合いを挑んだ。

 

 真紅の釘と紫の槍から怪しい光が漏れ、極彩色の火花が飛び散る。

 神が与えた聖槍の贋作とイレギュラーを超えて変化した聖釘、本物でも贋作でもこの世にある事が異常な物体である事には変わらず、複雑な位相光をMark.06の視覚が捉えていく。

 

「ただ動いて護る事だけを求められたんだ。危なかった」

 

 コアとエントリープラグは壊せない。

 この世界ではエヴァを再び建造する事は無理だ。

 ならば、今は出来るだけ傷を付けずに捕獲するべきだ。

 

 カヲルは聖釘の先端をコアに触れさせこう念じた。

 

「止まれ」

 

 それは呪いでもあり強制。

 止まれと意思を定められたType-nullはその複眼から光を失い、四肢をけいれんさせたかと思うとただの屍のように動かなくなった。

 

 その手から離れたコピーロンギヌスを手に持ち初号機に向き直ると、既に初号機はリリスに手をかけようとしていた。

 

「遅かった……! 人の退避は?」

 

「Tokyo3から民間人は逃がした。街に残っているのは覚悟のキマった職員だけだ」

 

 初号機はリリスに手をかけるとその下半身を胸部に沈めた。

 まるで船首像のように身を沈めた初号機は手にした槍を振りかざすと、Mark.06が握る2本目のコピーロンギヌスが引き寄せられようとする。

 

 強力な磁石でも付いているのかと錯覚するほどに強く引き寄せられ、地に足を付けたMark.06が引き摺られる。

 遂に限界に達し、手から離れてしまったコピーロンギヌスは初号機の手に収まり、2本の槍がその両手に掲げられた。

 

 それが引き金になったのかリリスが巨大化を始め、その背に歪な翼を生やしていく。

 

「アンチATフィールド……! 間に合わない……!」

 

「間に合う! シンジ君を引き抜いてリリスを爆散させれば終わる! 儀式の第1段階が始まる前に中断させるんだ!」

 

 根拠も何もない。

 何せ今起こっている事は人類の物理現象を超えた現象なのだから。

 

 Mark.06は天使の輪を頭上に展開して浮かび上がるとリリスに向かって急加速する。

 全高「約80m」 VS 全高「約900m」という常識を捨て去った戦闘は黒き月の内部を滅茶苦茶にする程度には激しく、振るう腕は暴風を生み出し、アンチATフィールドを滲ませるその体は人類を即時補完させる程度には危険極まりない。

 

 そんな「人を立ち入らせない聖戦」に例外的に参加できたリクには、心が疼くのをはっきりと感じた。

 エヴァも動かせなければハルナの様にATフィールドを顕現させるほどの力もない。

 出来る事と言えば見ている事と指示を出す事くらいだ。

 

 

「心が疼くのは、分かっているよ」

 

「!」

 

「だって君は、僕と同じ領域に立っているからね。そう悲観しないで。リリンの強みは数と知恵だ。君は君の武器を使えばいい。実際、僕はそんなに戦った事が無いんだ」

 

「指示出し、か?」

 

「Mark.06は僕であり僕の従者だ。君が僕の頭になればいいんだ」

 

「……分かった。エヴァの戦闘指揮なんて初めてだけど、何とかしよう」

 

 Mark.06の動きにキレが見え始め、高機動から攻勢に転じ始めた。

 聖釘を槍のように構えリリスの腕に突き立てて「千切れろ」と念じて吶喊をすると、その巨体と質量が嘘のように簡単に千切れる。

 

 しかし準完全生命体であるリリスはその欠損をいとも簡単に直す事が出来る。

 千切れた断面がボコボコと泡のように膨れると腕のような形をした何かが生まれ、その泡が萎むと元の腕がそこにあった。

 だが攻撃自体は無駄じゃない。

 何度も何度も繰り返していけば隙を生む事が出来る。

 

 幸いにも、初号機の見た目をしたエヴァを動かしているダミーシステムはMark.06を排除すべき脅威と見ているようだ。

 つまり、Mark.06の活動停止は補完計画のスタートだ。

 

 攻撃を続けて腕を治させて反撃をいなして、何度も繰り返していくがシンジを助け出せない事が悔しい。

 いると分かっているのにその障害がとてつもなく大きく、大きな溝がその距離を縮めさせてくれないのだ。

 

「グッ……!!」

 

 遂に反撃を食らい、リリスの振るう腕がMark.06に命中し黒き月の内壁にめり込んだ。

 

 全身を強く打ち付けられカヲルとリクは苦悶の表情を浮かべる。

 Mark.06の右腕が折れているようで、フィードバックの酷い痛みで気が狂いそうだ。

 

 次の瞬間、空気すら圧縮するほどの速度で、リリスの掌がMark.06を押し潰そうとしていた。

 逃げ場は、ない。

 ATフィールドすら割られるかもしれない。

 如何に「真のエヴァンゲリオン」でも、大破は免れない。

 

「ATフィールド全開……!」

 カヲルは折れなかった。

 だらりと下がる右腕に代わり、左手で聖釘を握りしめる。拒絶の意思が空間を歪ませるほどのATフィールドを形成する。

 全方位から押し潰す圧力。機体が、心が、悲鳴を上げる。

 

 身体が前後から圧縮されるような痛みに歯を食い縛る。

 同乗するリクも、その痛みを共有して蹲りそうになる。

(しっかりしろ! こんな出来損ないの巨人なんかに……!)

 右拳で膝を殴り、意識を立て直す。

 虚ろな巨人を射殺すような視線で睨み据える。

 

 胸の奥で、何かが燃え上がった。

 そうだ──まだ、終わるわけにはいかない。

 

「……1人じゃない!!」

 

 バイザー越しの双眸が光を帯びる。

 

「Mark.06は_____いつも僕の味方だった!!」

 

 アクセントカラーの橙が紅く輝き出す。

 

 脳裏を失敗の記憶が奔る。

 シンジの心が壊れた世界線。補完計画が完遂された世界線。シンジが殺された世界線──それでも諦めず辿り着いた、この未来。

 

 2203年。大戦争を乗り越え、人が一致団結できた世界。

 これで終わらせるんだ、渚カヲル、Mark.06。

 

 論理定義ドライヴが回転を上げ、インダクションレバーが高機動モードへ変形する。

 リクがそっと右手を添える。

 

 

「「シンジくんを、手放してもらおうか……っ!!」」

 

 

 低い震動が空間を満たし──

 

 存在しなかった口から唸りが漏れ──

 

 開くはずのない顎部ジョイントが悲鳴を上げ──

 

 千切れ──

 

 

 

ヴオオオオォォォォオオオオッ!!! 

 

 

 

 その咆哮が黒き月の内壁を震わせた!

 

「だから!!!」

 

 圧縮されたATフィールドが左手を包み、解放された反発力がリリスを吹き飛ばす!!

 

 

「行こう、Mark.06……!」

 

 再び、咆哮。

 その願いと祈りは「希望のエヴァンゲリオン」が受け止め、願いの助けとなるべく、従者として、覚醒した。

 

 

 

 ___________

 

 

 

 

 この長い長い旅の中で、カヲルには分からない事があった。

 何故、初号機とMark.06は似ているのか。

 

 NERVが建造した初号機と、SEELEが建造したMark.06は、詩作と本命という関係なのだろうか。

 

 どんな真実があるのかは分からないが、カヲルはこの時1つの結論を出していた。

 

 

 どちらかが希望を、どちらかが絶望を担う事になっていたのかもしれない。

 

 

 門番として立つ2人の衛兵のように、1体につき1本の槍を持たせる。

 片方がロンギヌス、もう片方がカシウス。

 2本の槍を扱うには、魂が2つ必要なのだから。

 

 

 補完という絶望に回った初号機がいる今、希望に立ったのはMark.06。

 イレギュラーかもしれない、本来の役割かもしれない。

 

 

 絶望に抗え、希望を押し通せ。

 

 そう自ら叫ぶ。

 

 

 その願いと確かな意思は、神を僭称するモノにこう宣告した。

 

「ヒトとシト。2つの種の名代として」

 

 

 吠えろ、神を僭称するモノに向かって。

 

 

「僕達は、補完計画を破棄する」

 

 人類が人類であり続ける為に。

 再び取り戻した光輪は、真っ白なものではなかった。

 白、明るい褐色、青灰色、この3色の円が捻じれ解けたような奇妙な形をしていた。

 

 それは、人類の歴史の歩みを込めたもの。

 白は石器、明るい褐色は青銅器、青灰色は鉄。

 人類が人類であり続けるための希望であれ、その願いを受け、希望のエヴァとして補完計画を破壊しろ。

 

「神が望んだ完全性を拒む。僕たちは、不完全であることを選ぶ──それが人間の意志だ。だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……だよな。それ、我が家の娘だ」

 

 リクが、ふっと笑った。

 その一言だけを残して、静かに前を向く。

 

 一瞬怯んだリリスの腕を這うようにMark.06が飛ぶ。

 その身に満ちる全能感をカヲルが乗せ、リリスが放った怪光線を肩パイロン1基を犠牲にすれすれで回避。

 同時に、聖釘をリリスの頭部へ向かって一閃するように投擲した。

 

 ──刺さる。

 

 その一撃は、正確無比に巨人の眉間に突き立った。

 深々と、拒絶の象徴が打ち込まれたリリスは、煩わしい蚊を追い払うように両掌をぶつけようと振りかざす。

 

 だがその直前、Mark.06が空中で旋回し、聖釘に手をかざすと、まるで引き寄せられる様にスッと抜けてカヲルの手に戻った。

 

 巨腕の一撃が迫る。

 それをMark.06は聖釘で受け止める。

 あの、折れていたはずの右腕で。

 

「──阻むな」

 

 渾身の意思とともに、拳で聖釘の頭を叩き込んだ。

 高周波のような音とともに、リリスの腕が一瞬にして弛緩し、だらりと垂れ下がる。

 

 その隙を逃すはずがない。

 

 Mark.06は全身を加速させ、初号機へと肉薄する。

 胸部に掲げた聖釘の先端が、ちょうどコアの中心部へと向かって当てられた。

 

「補完計画はもういらない。君たちの出る幕は、もうないんだ」

 

 初号機型エヴァがビクンと痙攣すると、船首像のようにめり込んでいた体がズルリと抜けて落下していく。

 主を失ったリリスはその動きを止め彫像のように固まり、カヲルはその躯体に聖釘を打ち付けると、こう祈りをぶつけた。

 

 

「もうリリンが君を使う事もない。さよならだ」

 

 

 胸部を貫通されたリリスは崩壊を始めていき、根元から翼が折れ、ボコボコと大きく膨れ上がったかと思うと一気に破裂して血の雨を降らせた。

 

 千切れた首は静かに地に落ち、血の雨は霧となり、Mark.06を赤く染める事無く霧散していく。

 

 糸が切れた操り人形のように地面に倒れ伏せる初号機から禍々しい赤い双眸が吹き消え、眠りについたように動かなかった。

 それを抱き上げたMark.06は静寂に包まれた黒き月の中で静かに立ち尽くしていた。

 

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