宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
SAOにも浮気してました。
だって書くの楽しかったので、でもこっちの楽しさには代えられませんって
前期ゴストーク級が放ったミサイルは大ぶりだが、1発当たれば即死は確実な威力を抱えている。
その事は皆理解していて、大量の弾倉を装備した秋水と新2号機、そしてビーストモード状態のファルコンspec2は「撃たれる前に撃つ」を徹底した攻撃を加えていた。
ステルスなんて捨てろ、数こそ正義だのスタイルで動き回るファルコンspec2は、後釜が出来るまでのつなぎとして造られたという側面もある。
その分多用途戦闘機として活躍の機会が与えられたのは良い事かもしれないが、荷が重い。
「もう少しだぞ……!」
そのspec2を駆る加藤は、ありったけのミサイルで重くなった機体を振り回していた。
この一連の対ガトランティス戦がコスモファルコンの最後の戦場となるだろう。
「翼、真琴、父ちゃん頑張るからな」
コックピットに貼り付けた妻子の写真に目をやるとすぐにキャノピーに視線を向けてさらにミサイルを投下する。
ゴストークの艦首部分に生えた超巨大ミサイルに命中すると、太陽が生まれたかのような大爆発を引き起こした。
こんな物がAAAWunderに向かって発射されたら、波動防壁でもただでは済まないだろう……いや、案外何とかなってしまうだろうと思ってしまう要因が
なぜなら、その
史上初の可変戦術機である秋水と、極東事変で時代を飛び越えた性能を見せつけた新2号機が、前期ゴストーク級を血祭りにあげている。
戦闘機のようにいつも吹かして飛んでいるわけではなく、四肢があるという利点を生かしてトリッキーな動きを織り交ぜゴストーク級からのミサイル攻撃をかわしていき、電磁小銃から鋼の槍を撃ち出してミサイルを的確に爆発させていく。
放たれたミサイルに対しては圧倒的加速で追いつき、チャフやフレアでセンサーを誤魔化してそのまま射撃で爆発させた。
さらに構えた短刀や長刀を振るい、自機の反動を上手く殺しながら艦橋を一気に断ち切っていく。
(……これ、戦闘機の時代終わったかもしれないな)
加藤がそう思ってしまうくらいに、この18m級の機械仕掛けの巨人はしなやかに飛び回り艦艇だった何かを量産していく。
中でもひときわおかしい機動を描くのが、新2号機だ。
Gで体が潰されるのではと思うくらいの鋭角的機動と山なりな機動を織り交ぜ、対空砲火が意味をなさないくらいのスピードで接近して艦橋を一太刀で潰していく。
それは彗星、真っ赤な彗星だ。
放出し続ける粒子の色から生まれた表現だが、その名に恥じない程の速度と脅威を纏ってゴストーク級を狩り続ける。
そして、こちらにも狩人はいた。
ティカル級に飛び掛かった狩人集団、震電だ。
全長2500mの巨体は難攻不落の要塞なんかではない。
波動防壁という盾を持たぬなら、それは大きな的でしかない。
最初に戦術機を受領したこの教導隊は、その立場を「現状の地球で最強の部隊」という事実で固めて今日まで戦い続けてきた。
時に模擬戦、時に異機種訓練、時に航宙艦艇を、時にシミュレーション上でAAAWunderを狩る。
事実、地球最強の戦艦も、震電
そしてそれは、よく似た
AAAWunderがヘイトを稼ぐために艦砲射撃を加えているとはいえ、艦砲射撃を通す穴を作りながら輪動砲塔を短刀で切り付け、電磁小銃で穴だらけにし、雷槍を叩きこむ。
ゴリラ並みのサイズの獣がスズメバチに群がられる様子を想像してみて欲しいが、まさにその様子だ。
機敏に飛び回る震電に対した抵抗も出来ず、輪動砲塔での対空迎撃も大した効果を上げない。
強いて言えばビームが機体を掠めて数機の腕や足を吹き飛ばしたくらいだろう。
地球はこの大宇宙での戦いで大艦巨砲主義にスポットライトを当てたが、やはり小型の敵に群がられる事には苦戦を強いられる。
七色星団が最も分かりやすい例だろう。
航空機からの雷撃から艦を必死に守り抜いた航空隊という存在があったとしても、少なくない損害を受ける事となり、地球は「自分がやられたら嫌な事」を全力で実行する事を学んだ。
その1つが、
航空機では決して真似できない機動性と豊富な武装は初見殺しの要素で溢れていて、対空砲撃がそよ風に感じられる程の肉薄性能と、艦艇の爆発を使って八艘飛びのように次の艦艇に飛び移れるほどの機動性は、震電を死神と勘違いさせる程の脅威を与えている。
震電予備機、そのコックピットでノウゼンはトリガーを引いた。
「終わりだ」
あからさまにそうですと言っているような物じゃないか。
航宙艦用のガラスの向こう側に人の影が見える、間違いなく艦艇の頭脳である艦橋だ。
電磁小銃から放たれた鉄の槍は艦橋を貫通し、爆発に巻き込まれる前に直ちに上昇、兵装担架に背負っていた雷槍に持ち替えると容赦なく追加の攻撃を加えて艦橋をただの残骸に変えた。
そこからは蹂躙だった。
念の為この場で説明しておく。
波動防壁の有無が関わってきていると話で上がっているが、それが無いティカル級ならどうだろうか。
つまり、
過剰戦力だったのだ。
艦橋を潰され制御を失ったティカル級は艦隊のあちこちから炎を噴き上げ、死を待つ身となる。
もう死に体だ、大丈夫だ。
と、判断をするものはココには居なかった。
ガミラス戦争で滅亡寸前を知った地球の軍人の中には、完膚なきまでに叩き潰す思想を持った人が意外といる。
WILLEでも戦術科に所属する者に一際その傾向が強く、未だ燻ぶるガミラスへの復讐心や敵対心がブーストをかけて合同演習で恐怖を見せる事も無くは無い。
だからなのだろうか、それは太陽圏に侵攻を行うガトランティスにも向けられた。
「総員、放て」
損傷の無い震電33機から残った雷槍に一気に放たれ、盛大な火葬が行われた。
___________
N2弾道ミサイルを用いた自爆攻撃を断行した綾波も覚えている。
噛みつき引き千切るだけでATフィールドを破る力と人から離れてネコ科の獣の様な体躯は、およそエヴァの姿だとは考えられない。
それが、再び現れた。
微粒子が制御棒の隙間から噴き出しどんどん広がっていく顎、急激な変貌に悶えるように体は震え、バランスは崩れ倒れ込み腕をつく。
その腕も五指からネコ科の獣の脚部ように変容していき、不揃いな爪が突き破るように生えてきた。
「あれがエヴァだって言うの?!」
「黙示録の獣……」
拘束具が肉体の膨張に耐えきれずはじけ飛び、胸のど真ん中に赤い光球が生まれた。
使徒、エヴァ問わずに存在する赤い光球。
これを破壊されれば使徒は爆散し、エヴァは機能停止する。
彼らと戦う時は常識を根こそぎ捨てて挑んだ方がいい。
やっぱり、どこまで行ってもガトランティスだ。
その光景は、AAAWunderでも捉えていた。
「観測しているか!?」
「見えています! 全て規格外です!」
「赤木
裏コード ザ・ビースト。
ユーロNERVで建造されたエヴァ2号機に極秘裏に搭載されたリミッター解除形態にして「人を捨てたエヴァの力」。
その力は当時の第10の使途を一度は押し込む事に成功したが、最強の拒絶タイプを仕留める事は叶わず2号機は大破した。
そして、コード777。
改2号機に実装された獣化第4形態にして、ザ・ビーストの先にある形態。
人が操る域に辛うじて留まっていた獣を解き放ち、獣のしなやかさと獰猛さを表に解き放つ力にして人ならざるモノに牙と爪を突き立てるための姿。
「どこまでいっても変わらないのか」
その4本足の獣は、一気に跳躍したかと思えば初号機に組み付いた。
武器を盾にした事でその爪が腹を抉る事は無かったが、その牙は容赦なく襲い掛かり初号機の左腕に牙が食い込んだ。
「う”う”ッ!?」
「痛”ッた”い”!!」
焼けるように赤熱した左腕から大きな泡が飛び出し、綾波はのけぞり歯を食いしばる。
シンクロが微弱な状態のハルナでも分かるくらいの激痛だ、これの何倍もの痛みを綾波は受けているという事をハルナは分かっている。
自分が代われない事が途方もなく悔しい、こんな戦争に子供と____養子とはいえ自分の子供と戦場に向かう事になるとは人生で一番の恥だ。
だから、恥で終わらせない。
「こんのバケモノが!!」
痛む左腕をプラグ内壁に思い切り打ち付けて誤魔化し、コンソールを叩いて左腕部神経接続をミニマムにした。
腕から嫌な音がしたけど気にしない、S型装備の噴射口を正面に向けて噴炎を放ち敵機を怯ませ無理矢理引きはがした。
「S型の燃料半分使った! 腕は!?」
「まだ……ッいける……ッ」
額に浮かぶ脂汗、しかし目元で揺れる戦意に陰りは無い。
神経接続を切った左腕部はだらんと下がり、今は右手だけで武器を構えている。今の状態だと振り回すのも大変だろう。
「重い……!」
重量を嫌った綾波は持ち手ではなく打撃部分をむんずと掴むと、薙刀のように持ち上げた。
さらに筋繊維がぐわッと膨らんだかと思えば、エヴァが持つ万力の如き握力が打撃部分を握りつぶし、強引に持ち手を造った。
この武器がもし震電の短刀のように超高振動する物なら、こんな荒っぽい対処は出来なかっただろう。
「お母さん、小さいのなかったの?」
「……ごめん、時間無かった。プログナイフとかは造れなかった」
「いい。パワーで、つぶす」
母親の強引さが移ったのか、片手持ちに若干振り回されながらもその得物を振り下ろした。
ATフィールドを薄らと纏ったその一撃は敵機の鼻先を掠めたが、相手はそれよりも速く異常な脚力で回り込み、爪を振り下ろす。
何と、その爪はATフィールドを叩き割った。
ATフィールドを引き裂くほどのパワーに武器ごと初号機は押し飛ばされ、ハロー環の上に大きく倒れ込んだ。
ダウンした相手に構わず敵機は大きく跳躍して飛び掛かるが、咄嗟に身体を転がし爪と牙の連撃から逃れると、目に映ったサターン5の残骸を掴んだ。
初号機を格納していた装甲突入体の一部だ。
それは傾斜装甲としても機能するように造れた八面体はそれを実践する機会に恵まれなかったが、ある物は何でも使う積もりだ。
「左腕、戻して」
「だいぶ痛いけどいいのね!?」
「いい」
この娘はどこまで母親に似れば気がすむのだろうか。
ミニマムにまで下げたシンクロを一気に通常状態に引き戻すと痛みが蘇る。
牙は引き抜かれていたとはいえ大きな穴が出来てしまったことに変わりないが、幸運な事に骨は避けているので千切れてはいない。
装甲突入体の一部を左手で掴んで思い切り持ち上げるとその尖った先端を向け、苦悶の表情で敵機に向かって投げつけた。
巨大な矢じりとも言えるそれは獣の眼前に迫り、本能的に身を逸らして回避に移ろうとしたが間に合わず顔面に直撃、のけ反ったその身体に両手で構えた銃剣を打ち付けた。
人VS人なら出来る、でも人VS獣なんて戦った事が無い。
本能で動いて人にはない武器で攻撃してくるその動きに人のような理性は存在しない。
ザ・ビースト、獣の名前を持つ以上その原則は変わらないし、捨て去ったものを取り返す事は難しいのだ。
銃剣の切っ先を敵機の腕に突きたてハロー環に縫い付けると、撃鉄を起こし三式弾を装填し躊躇なく引き金を引いた。
普通の砲撃なら安全距離で発射できないが、電子機器を一切持たないこの武器ならどの距離からでも発射出来る。
衝撃によるフィードバックダメージと引き換えにほぼ至近距離から放たれた砲弾は、敵機の腕を大爆発をもって吹き飛ばしてさらに大きく怯ませた。
「これで、終わり……ッ!!」
大きく開かれた敵機の口腔部に銃剣を突っ込むと躊躇なく引き金を引いた。
人が乗っていようがダミープラグだろうが関係ない、命令に従順なあの時の自分にもう一度なり、自分で自分に課した命令を最も手っ取り早い方法で実行した。
弾倉から装填された48㎝砲弾は、何度も言ったが艦艇や基地に攻撃を加えるための物だ。
それを敵の口腔内にぶち込んで起爆させたらどうなるか。
ドバァンッ!!!
こうなる。
内部からの爆発に耐えきれなかった敵機が上半身を四散させ、重力が働くハロー環に血の雨を降らせて敵機は下半身だけになって倒れ伏せた。
「……容赦なさ過ぎ。グロイって」
「使徒を倒した時は、血の雨が降る。これで、もう戦いはお終い」
あの赤い楔はまだ残っている。
二重らせんが絡みつき、巨人が祈りを捧げるその楔はどこか神秘的で、その胸で鼓動のように輝く赤い光球はどこか有機さも持っている。
まるで心臓だ。
周期的に光を強め、弱めるその様は、この宇宙に空気があれば鼓動を聞かせて来るのではないかと思わせるほどだ。
この楔がすべて破壊されたらどうなるかは分からない。
既に何本も壊された跡があるが、この1本が最後の1本なのかは分からない。
降り注いだ血の雨がべっとりとついてしまい、白と山吹色で彩られた零号機仕様の装甲は真っ赤だ。
これ、洗えるだろうか……。
「状況終了。敵性エヴァ、プラグおよびコアの消滅を確認」
「私の娘がこんなワイルドに……」
自分の娘の行く先が心配なハルナだが、結果はどうあれ勝ちは勝ちだ。
レーターレンジを最大にして観測を始めると、上空ではファルコンspec2が、秋水が、震電が、AAAWunderが戦闘を続けているのが分かった。
例のティカル級ももうまもなく撃沈できるだろう。
助けに行くべきかと悩んだが、左腕に無視できない損傷と何より綾波の疲弊も酷かったので、今は諦めた。
「そのまま警戒モードで、休もうか。レイちゃん」
「?」
「やったね」
ハルナが拳を突き出すと、綾波はその意味を理解して拳を突合せた。
どくん
「何?」
「どうしたの?」
「今……碇ユイさんが」
ばきん
「シンクロが切れない! 緊急排出コマンドも受け付けない!!」
「ヤバいっ!!」
咄嗟にインテリアのパイロット固定具を壊すと綾波を引っ張りあげてプラグ上部へと這い上がるが、それよりも早く血のような真っ赤な風景がせり上がってくる。
シンクロも切れず、緊急排出も出来ない。
かくなる上は、震電の短刀で無理やりえぐり取ってもらうしかない。
(義眼の通信ならギリギリ届……壊れてる!!)
青白く輝く小さな十字架が真後ろにどんどん飛び去っていき、呪詛文様とおもしき四角い文様が内壁を埋めつくそうと迫る。
「ッ!?!?」
胸に拳銃を突きつけられたような異常な悪寒に咄嗟にATフィールドを張るイメージが生まれた。
何が仕込まれているのか分からない、何が起こっているのかが分からない。
でも、これだけは分かった。
装甲越しに向けられたものは、ロンギヌスと同種の物。
凡そあらゆる生物に向ける事すら憚られるような呪いの塊か何かだ。
「……っ!! ……っ!!!」
「レイちゃんッ!!! しっかりして!!!」
何かを撃ちこまれたようにのけ反り硬直してしまった綾波を抱え必死に揺さぶるが、その目がハルナを捉える事はない。
赤い双眸が微かに輝き始め、見た事も無い異常な状態を更に現実に押し付けていく。
血の赤、文様の赤、青白い十字架。
これは、超常存在であるエヴァの暴走なのだろうか。
否、暴走では無い。
仕組まれた事だ。
ダイレクトエントリー被験者サルベージシステム
それを仕込むと考えるのは1人だけ、そのサルベージ対象は1人だけだ。
「碇”ゲ”ン”ド”ウ”ッ!!!」
がつん、という音とともに、現実から綾波レイは消えた。
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テレザート沖
2203年5月9日 艦内時間2033
『総員、白兵戦用意。繰り返す、白兵戦用意。非戦闘員はバイタルパートへ退避急げ。オオスミとの接続区画より隔壁を順次閉鎖開始』
『侵入者は地球製ガミロイドと確認。空間騎兵隊は侵入者の迎撃を直ちに開始、全武装使用許可』
けたたましく鳴り響く警報音に重ねるように、装甲服を着こんだ空間騎兵隊員が現場へと駆けていく。
オオスミ艦内から湧いて出た地球製ガミロイドが迎撃に動いた保安部を一息に殺害すると、オオスミ艦内を一気に占拠、さらに接続区画をじわじわと制圧して、空間騎兵が到着するまでのわずかな間でAAAWunder艦内へと侵入してしまった。
「防御システムは!?」
「立ち上がりました! 自動20ミリ起動、ガミロイドウイルス散布開始!」
亜空間回廊海戦での教訓で設置された自動20ミリ実弾機関砲が天井から出現し、ガミロイドを一気に破壊していく。
過剰火力何て言っていられるような状況じゃない、同じ轍を踏んでたまるかと凄まじい勢いで弾丸が吐き出されていくが、それは信じられない物で破壊された。
「野郎ッ! ロケランまで持ち込んでやがる!!」
斉藤は咄嗟に部隊を引かせて、その判断が正しい事を数秒後に思い知った。
空気が抜けるような音がしたかと思うと筒状の何かが飛び出し、斉藤たちがさっきまで展開してた位置を吹き飛ばした。
艦内で、それも航宙艦の中でそんなものを使うとはだれも想定できなかった。
そして、斉藤たちはそれらの恐ろしさをよく理解している。
20世紀に生まれ、今もなお陸戦部隊の武器として存在し続けるそれは、23世紀でも室内戦の脅威としてその立ち位置を保っている。
コスモガンが登場しても、そこだけは変わらなかった。
「総員後退! 上に話付けてゼロガンを用意させる!」
「やるんですね!?」
「やるしかねぇだろ!!」
斉藤たちは無線でゼロガン___02式20ミリ機関砲の使用許可を真田に求めると、二つ返事で使用許可が下りた。
どうやら艦橋も艦橋で酷い騒ぎが起こっている様で議論や見当の暇もないのだろう。
斉藤たちは全速力で交代しながら休む事のない銃撃を続けていき、4区画分の距離を保つと一気に隔壁を降ろした。
トラムリフトに載せられた機関砲が安全速度を無視した運航で搬入され、到着した機材をじんそくに運び出しものの数十秒で展開が完了した。
これも、亜空間回廊海戦での白兵戦で使われたコスモゼロ応急機関砲に倣った武装だ。
本来敵機に使う為の武装だが、20ミリという対物では屈指の威力を持つ機関砲をガミロイド相手に使えるのは大きい。
当時は緊急時に徴用された武装だったが、正規武装として運用される事になったそれは、すぐに火を吹いた。
「ブチかませェッ!!!」
隔壁を過剰威力の個体爆薬で食い破ったガミロイドを襲ったのは、プラズマ化したガスの弾丸だった。
20ミリ機関砲3門、下手な航宙戦闘機の正面火力よりも強いそれが艦内通路で撒き散らされればどうなるのか。
隔壁に隠れてもブチ抜く火力がガミロイドを大きく抉り飛ばし、着弾の衝撃で大きくのけぞらせ、人型だった何かに作り替えていく。
______
「斉藤小隊、ゼロガンによる迎撃を開始。ガミロイド多数を撃破」
「ウイルスはどうだ?」
『既存ウイルスハ既ニ、無効化サレテイマス。解析ヲ続ケマス』
アナライザーの冷静な回答の周りでは真田が異様に焦っていた。
開戦から送られてくる初号機のステータスには、綾波とハルナの脳波や心拍と言った生体情報と言ったものが存在しているが、それが全く送られてこない。
上空から戦況の記録をしていたカメラでも硬直した初号機が映っていて、プラグ内では尋常ではない事が起こっていると誰もが判断していた。
「初号機へのアクセスを続けろ! どのポートを使っても構わない!」
「やってますが、今ん所全部弾かれてます! 真田さん震電は!?」
「戦闘修了した機体を飛ばして機体丸ごと回収させに向かわせた。この状態ではプラグを無理矢理とる事すら危険だ……ッ」
「新たな侵入者を確認! こっちには生体反応があります!」
「侵入者の情報をこちらに回してくれ。恐らくは地球人だ、前とは違う」
監視カメラの情報解析をしていた新見から画像を貰うと、真田は自分の見ている状況が信じられないと思った。
その男は、WILLEでは「重要指名手配」の扱いを受けているのだ。
見つけ次第即時捕縛、場合によっては射殺も許可される程の人物であり、初号機を用いてインパクトを発生させる可能性も捨てきれない「危険人物」だ。
その男が、何故地球から遠く離れたテレザートに、それもこの艦内にいるのか。
どうやってもぐりこんだのか、どうやってこの部隊を展開したのか。
「まさか……オオスミに最初からいたと言うのかッ!? 碇ゲンドウッ!!」
「ゼロガン突破されました! あちらもゼロガン相当の兵器をしたとの事です!」
「非戦闘員の収容完了、バイタルパートの完全閉鎖機構を実行します!」
新見が透明な樹脂のカバーを叩き割ると、中に収められたコックを力一杯引き上げた。
バイタルパートへ至るまでの通路に赤い液体が注入されていき、瞬時に硬化した。
綾波の記憶上では暴走した零号機を停止させたベークライトも白兵戦用に用意され、時間とコストとの折り合いをつけてバイタルパートへ続く通路に実装された。
バイタルパート自体で数週間は生存できるように調整が成されていて、艦内での長期の籠城戦にも対応できるようになっているが、ロケットランチャーすら持ち込んでいる侵入者に対してどこまで持つかは分からない。
「最終隔壁が破られます! 艦橋まで残り100m!!」
「かくなる上は……!!」
真田が無言で相原に指示を出すと、相原は新見と同様に樹脂製のカバーを叩き割り赤いボタンを思い切り押し込んだ。
そして、その場に男は現れた。
「AAAWunderの基幹機能は制圧させてもらった。抵抗は無意味だ」
WILLE重要指名手配人物 碇ゲンドウ
今、人類史上最強の戦艦はたった一人の男の手に落ちた。
_____________
ダァンッ!!!
「何"を"し"た"ッ!!!」
「……」
「何"を"し"た"と"聞"い"て"い"る"ッ!!!」
地球製ガミロイドを殴り飛ばしたハルナはその勢いでゲンドウの顔面に拳をめり込ませ、ゲンドウは壁にたたきつけられ顔を歪めた。
気は済んだかとゲンドウが手を上げるとハルナはガミロイドに取り押さえられ、多対1で関節を極められたハルナは痛みに顔を歪めるが、射殺すような目だけはゲンドウを捉えていた。
「現時刻をもって、NHG級1番艦は私の管理下に移った。保安部に関しては、私の方で処理させてもらった。この艦艇の軍医にも協力してもらう事になる、真田二佐、軍医の元へと案内してもらおう。この女性は、営倉に収容する」
「……指示に従わない場合は?」
「こうなるだろう」
ゲンドウが手を上げるとその意図を察知したガミロイドがライフルを撃ち、ハルナの顔スレスレに着弾した。
これはマジだ、碇ゲンドウは必要であれば手を汚す事をいとわない人間だ。
さっさと殺す事も出来るけど、従ってもらおうという意図が表明された事で、「今は誰も逆らえない」状況になってしまった。
「乗員には手を出さないで頂きたい。それが条件だ」
ようやくマダオの登場です