宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
「魂の解放と初号機コアユニットに沈んだ魂の引き上げ、私の願いの形だ」
「その為に、綾波君を利用したというのかッ!?」
「君達が培養クローンを回収し2番宇宙の綾波レイの為の依り代としたのは、私のシナリオ上の出来事でしかない」
「彼女は生きていたんだぞ!? 生きて、普通の人間だったんだぞ!?」
「普通、か。何をもって普通と定義する。AAAWunder最後の乗員であり、現在のAAAWunderがATフィールドを行使する為のピースにしてこの世ならざる少女、世界を渡った少女。私が綾波レイを利用したように、君達も利用していた。そこは変わらない」
プツンと何かが切れたような音がして、真田はゲンドウを壁にぶつけた。
「彼女は自分の意思で戦場に立ったッ!! そこを否定する事は断じて許さん!!」
「重要なのは過程ではない、結果だ」
「ふざけるなッ!! どうして綾波君を巻き込んだ!!」
「ユイの依り代であるからだ」
「依り代……だと」
綾波は何も知らないままゲンドウの計画に利用され、魂は初号機に閉じ込められた。
この男が何故指名手配になったのかが分かった気がした、手段を択ばないのは本当だ。
必要であれば世界と妻を天秤にかけて世界を犠牲にしてしまう、倫理と目的を天秤にかけて目的を取ってしまう、誰かの人生を勝手に奪う事も厭わない。
「ッ!」
真田は拳銃を抜き、震える手で照準を合わせた。
ゲンドウは___動じない、冷淡な目と無表情でその銃口を見つめるだけだ。
「今すぐ綾波君を元に戻せ。碇ゲンドウ、お前にはWILLEから射殺許可も下りている……!」
「撃った後は、どうするんだ」
「綾波君を元に戻す。彼女はハルナ君とリク君の大切な娘だ。お前が奪った分を私が取り戻せばいい」
「そうか」
ゲンドウは手袋を取るとその掌を真田に向けた。
その手は焼けただれ、大きな目玉がぎょろりと浮かぶ異形の姿となっていた。
そこから漏れる虹色の位相光、真田はこれを何度も見ている。
「ATフィールド……」
「イズモ計画の産物だ。イズモ4号で4度目の調整を受けたリリスの力で、私は年を取れなくなった。火星でSEELEの手で墜ちた4号は、睦月三佐の母と聞いている。SEELEも惜しい事をした。彼女のような被検体をどうして逃がしてしまい、どうして一条家が拾ってしまったのか」
「何を言っている……」
「SEELEの最大の過ち、その過ちから生まれたのが睦月夫妻だという事だ」
「どういう意味だ……?」
「イズモ計画、リリスの断片を人間の肉体に移植し、リリスを人間に適合させる実験であり、通常の人間を後天的にパイロットに調整する計画だ。この計画は後に終了し、渚カヲルという星渡りの少年が現れた事で付属パイロットの制作が始まった」
ゲンドウの声には、もう人間らしい感情が欠片もない。
ただ淡々と、かつて神を解析しようとした者の業だけが滲んでいる。
「……その計画に、暁薫さんが関わっていたというのか?」
「いや、彼女こそがそれだ。唯一、完全適合を果たした“人型リリス”だった。だが、彼女は逃げた。SEELEの箱庭を抜け出し、
真田の目が見開かれた。
まるで宇宙の理が音を立てて崩れていくような感覚に襲われる。
「まさか……ハルナ君が……」
「そうだ。リリスの断片を宿すイズモ4号と、人間の間に生まれた。つまり、睦月・ハルナ・暁――彼女こそ、人とリリスの完全なハイブリットであり、イズモ計画の究極の形でもあった」
「何故、適齢期を大幅に過ぎた状態でエヴァ初号機に干渉出来たのか。君は、深く考えた事があったか?」
「人間では無しえない規模のATフィールド操作と可視化。魂の知覚。AAAWunder、葛城ミサトとの精神世界での邂逅、40年の昏睡で身体的成長や老化が殆ど起こらなかった事、全て無意識に目を背けていただけだ」
「『人からだんだん外れている』などではない。生まれ落ちた瞬間から、人ではない何かであった」
「ハルナ君は確かに特異な存在だ。だが、あの子は“人間として生きる”ことを選んだ。リク君を愛し、仲間と笑い、傷つきながら前へ進んできた。それを“リリスの因子”だの“実験の成果”だのと理由を与えるな!」
真田の声が震えた。怒りとも、恐怖ともつかぬ低い音だった。
「愛、か……。それもまたリリス由来の生命の特性に過ぎん。他者と繋がろうとする衝動――それが人間の、そしてリリス系生物の過ちでしかない」
ゲンドウの掌の“目”がわずかに動き、周囲の空気が歪み、真田の髪が逆立つ。
「お前は……神を気取っているだけだ。自分の罪を、理屈で正当化しているだけだ!」
「罪など存在しない。人間は“結果”でしか測れん。私は結果を求めただけだ。私が、私の手で“ユイ”を取り戻した。ただそれだけだ」
「その為に人を、世界を壊すのか!」
「世界など、既に壊れている。君達が、“普通の人間”という幻想を守ろうと足掻いた時点でな」
真田の歯が軋む。
指先が引き金に力を込めかけ――止まった。
撃てば終わる。だが、それでは彼女たちは戻らない。
科学者として、彼は知らなければならなかった、ゲンドウがした事を、知らなければならなかった。
「……お前の目的は、“再生”ではないな。世界を壊すのでも、神になるのでもない。お前はただ――“妻に逢いたい”だけだ」
その言葉に、初めてゲンドウの瞳がわずかに揺れた。
だが、すぐに氷のような静寂が戻る。
「それを否定できる者がいるか? 誰もがそうだ。理想体も、時渡りの少女も。皆、失ったものを求めて彷徨っている。私は、自らの彷徨いを終わらせただけだ」
「終わらせる……? 違う、それは“奪う”だ!!」
銃口が揺れ、真田の瞳には涙が浮かんでいた。
「彼女たちは、あなたの道具でも、計画の部品でもない! 彼女たちは“生きている”。今を懸命に生きているんだッ! お前は、それに手をかけるべきではなかったッ!!」
「もう遅い」
「ッ!!」
もう遅い、その一言が真田の怒りを決壊させ、引き金は引かれた。
射撃訓練以外でロクに撃った事も無い一撃はゲンドウの身体を穿つ事も無く、背後の壁に焼け焦げた跡を作るに終わった。
「諦めろ、打つ手はない」
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「百合亜、外はどうなってるの?」
「分からない、外の情報が全部シャットアウトされてるから見えない。でも、ガミロイドが保安部を撃ってたって……言ってた」
「保安部……星名君は?」
「連絡が繋がらない、どうなってるのか分からない」
完全閉鎖状態のバイタルパートの向こう側からは、時折爆発音が聞こえる。
注入されて硬化したベークライトを破砕する為に爆薬を使っているのだろう、ここが破られるのは時間の問題だ。
しかし、分厚い隔壁の向こう側に手を出す事は出来ず、非戦闘員は息をひそめている事しか出来なかった。
ガンッ
「?」
音のした方に目を向けると、何の変哲もないダクトがあった。
過去にビーメラ星系でダクトを伝って移動した人がいたと聞いていたが、まさかな、と岬は思った。
ガンッガンッ
また音がした。
これは偶然じゃない、本当に誰かがいるんだ。
「硬すぎる、あの開発者はどれだけ頑丈にしたんだ」
「何度か蹴り飛ばせば開くはず、やるしかないです」
「星名君!?」
ガシャンッ!!
ダクトの換気口が蹴破られ、そこから長い足が突き出た。
保安部の灰色の艦内服と、黒いブーツとガミラスの駐在武官の服を見て、岬は間違いないと思った。
「百合亜!」
「星名くん!」
恋人の無事を確認した星名はダクトを足から下りるとそのまま岬を抱きしめた。
人の目もあるというのになんと大胆、後から下りてきたキーマンはため息1つにこうつけ加えた。
「後にしろ。終わったら好きなだけやっていろ」
呆れ混じりに聞こえた言葉に2人は飛び上がるように離れ、互いの状況を伝え始めた。
「でも星名君、何であんなところから?」
「それはね……」
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「危なかった……睦月さん達が使った通路、また使えたとは……」
「なるほど、空調ダクトの中か」
保安部が次々に殺されていく中、星名はキーマンを連れて空調ダクトの中に身をひそめる事を選んだ。
岬や他の乗員の事が気になるが、賢明な真田であれば侵入者を刺激しない選択を選んでくれるだろうと踏んで、今は動かない事を選んだ。
そして星名は、AAAWunderから放たれた巨大な信号の正体をPDAで検知していた。
「ギリギリの状態で超空間通信が放たれたから、届くのは1日後だ」
「遅いな」
「ガミラスとは違って超空間通信は遅れてます。残念ながら、今日は隠れてやり過ごさないとダメです。ですが教訓が活きました」
「AAAWunderが巨大なのが功を奏したな。空調ダクトがまさか人が中腰になれるくらいには大きいとは」
「元来AAAWunderはガミラス戦争末期の地球脱出船だったので、5000人以上の人間が同時に艦内にいても空調問題を起こさないように調整されてます」
音を立てないように歩を進めると、営倉に連行されていくハルナの姿が見えた。
プラグスーツ姿のままガミロイドに連れられて行く彼女は項垂れていて、表情は分からない。
でも、肌を突き刺すような鋭い感情が放たれている様に見える。
「キーマン中尉、頭の中で『無事です』と念じて下さい」
「いきなりどうし……気は進まないがワケは分かった」
ホラーゲーム仕立ての尋問で「頭に響く声」で怖がらされた忌々しい記憶がよみがえるが、手段でどうこう言える状況じゃない事は分かっている。
盗聴できるなら、やかましい位の勢いで念じれば少なくとも伝わるだろう。
((とにかく無事です!!))
……来ない物と思っていた返信はすぐに飛んできた。
(碇ゲンドウが艦橋を占拠、ベークライトは時間の問題。レイちゃんの魂が体に無い、碇ゲンドウを殺さず捕らえる事)
(私は動けない、死ぬ気で動け)
(碇ゲンドウは許さん。耐えがたい苦痛を味わせてやる)
「……母親という生き物は怖いな」
「最後の文だけ音量がやけに大きい」
(でも侵入者は不運だな。来るんだよな……艦隊が)
最後に発信された超空間通信が上手く地球に届けば、AAAWunderに大艦隊が到着する。
しかし、地球からテレザートまでの距離は2万光年を超えていて、とても1日で飛べるような距離ではない。
なので、1日5回ワープの強行軍でも10日は要する事になる。
「このダクトを伝って行けば、バイタルパートにも行けるのか?」
「配置上は。ただ、ベークライト注入に合わせて完全内気循環になっているから、どこか抉じ開けないと」
「了解した」
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「という事なんだ」
「何か、大変だったね」
ボトルの水を一気に飲み、一息つく星名を労わる。
幾ら巨大艦のダクトであってもダクトまで巨大という訳ではない。
広くても中腰で歩けるくらいで結局は匍匐前進をするしかないから、兎に角疲れるのだ。
「という事で、我々は睦月ハルナ抜きで船を奪還しなければならない」
「艦橋メンバーは?」
「分からん。だが下手な動きはしないだろうから、殺されはしないだろう」
「侵入者は?」
「地球製のガミロイドが多数。恐らくエアレーズングの時以上にいるだろう。生身の人間は1名。碇ゲンドウというらしいが、
「あぁ……終わったな」
集団のどこかからそう聞こえたが、キーマンはまさにその通りだと頷いた。
事あるごとに綾波を撫でまわしていて、綾波はそれを受け入れている。
養子と聞いていても本当の親子に見える振る舞いは艦内でも広く知られていて、それに手をかけたと聞けばゲンドウがどうなるかは容易に想像がついた。
というか、それを想定してハルナを営巣に入れて手出しが出来ないようにしたのだろう。
「営倉にはガミロイドが張りついていて入れません。それを見越して睦月さんは『死ぬ気で働け』と言ったと思います」
「怖い怖い怖い、こんな怒った事あるか?」
「ないな……いやあったかも」
「いつ?」
「第2バレラスで艦体肉弾戦してた時だけど、旦那さんの幻影見せられてブチ切れモードで幻影破壊したって*1」
「霊耐性のパラメータ振り切れてそうだな」
非常時にくすくすと笑い声が聞こえキーマンはまた溜息をついた。
でも、非常時でもまだ笑えるくらいの余裕があるならいいだろうと頭を掻き、作戦を考え始めた。
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「またここに入る事になるなんて……」
ダクトにもぐりこんだのは星名とキーマンだけではなかった。
ガミロイドの迎撃に失敗して退避する直前、山本とアスカは細身を活かしてダクトに身体を捻じ込み襲撃をやり過ごしたのだ。
ガミロイドには積極的に殺人をさせる命令が入っていないようで、今のところ銃撃による死者は出ていない。
でも機械である以上命令は書き換え可能だ。
ゲンドウが命令を書き変えて強硬手段に出る事も捨てきれず、大っぴらに動き回る事は出来ない。
「アスカ、取り敢えず機関科?」
「うーんどうかなぁ。ハルナさん軟禁されてるし多分レイがヤバい。娘好き好き状態のハルナさんなら自分そっちのけでガチでレイ優先するから……バイタルパートで物資貰ってからレイ探そう。というか探せって言ってくる」
「分かる。じゃあ医務室かな。居るなら多分そこだね」
経験者は強い。
それはまさにその通りであり、2人は知らないが星名とキーマンよりも慣れた動きでダクトを進み、バイタルパートがあるはずの方向に向かって移動を始めた。
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「で、来たと」
「そうか、お前たちは経験者か」
「まさかまたダクトの中を這いずり回るなんて思ってなかったけどね。あと、やろうと思う前に相談しなさい、こっちは経験者よ」
汗まみれで辿り着いた山本とアスカはボトルの水を一息に飲むと、キーマンから作戦を聞いた。
綾波がいる筈の医務室、ツインドライヴ制御の要である機関室、艦橋メンバーがいる筈のどこか、そして可能ならハルナの救助、これを目標にする。
この中で一番優先度が低い___今は難しいとなったのは、ハルナの救出となった。
「意見具申、睦月さんを救出してしまえば大体解決なのでは?」
「リスクが高い。この艦の営倉を星名から聞いたが、熱で常に監視されている。どれほど慎重に降りても熱感知で発覚するから、今は無理だ」
「だから抜きで奪還なのか……」
「以前は沖田艦長の喝で制圧出来ましたが、今回はありません。状況を悪くせずに少しでもいい方向に動かし、地球からの艦を待ちましょう」
「「「了解!」」」
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「ああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
営倉の壁に思い切り拳をぶつけたが、ただ痛いだけだった。
いの一番に拘束され自由を一気に奪われ、自分では何も出来ない無力さと守れなかった自責が一気に押し寄せ、奥歯が砕けそうな程に歯を食い縛った。
星名とキーマンが上手く身を潜めてくれていたから指示は押し付けたけど、こうして営倉に放り込まれると一機に噴き上がってきた。
そして、どす黒い憎悪も湧き上がる。
娘に手をかけ魂を抜いただと?
何のため、何を目的にして人の娘を使った?
何の目的で艦ごと占拠した?
何の目的で
何の目的で
何の目的で
何の目的で
何の目的で
何の目的で
何故、私が
何故、私が代われなかったのか。
「レイちゃん……ッ!!」
片目からしか流れない涙が頬を伝い、冷たい鉄の床を濡らしていく。
引き裂かれたような痛みが心から身体に伝わり、蹲り、静かに悶える。
槍のような物体を感じた時に、自分は咄嗟に自分の身を守った。
そうじゃない、そうじゃないだろう。
まず真っ先に綾波を守るべきだった。
槍のような何かからの干渉をATフィールドで防げたんだから、綾波にもそれをすればよかったんだ。
「碇"ゲ"ン"ド"ウ"……ッ!!」
仇の名を呪詛のように吐き出し、爪が食い込むほど強く拳を握っていた。
痛みを感じない、いや、頭の全てが怒りと自責と憎悪に向けられ、気付いていないだけだ。
どれほど憎悪しても、自責しても、言葉より先に涙が出てくる。
やがて、芽吹いた憎悪が明確な殺意へと変わっていく……
(涙で救えるのは自分だけだ。他の誰も救えない。だからもう、泣かないよ)
「誰ッ!?」
人の気配を感じた。
ここには誰もいない、閉じ込められた自分しかいないのに、もう1人別の気配を感じ振り返ると、そこはもう営倉じゃなかった。
硬い鉄の床と壁は消え、自分が「艦内にいない」事を認識するのに数秒の時間が経ち、ハルナはやっと理解した。
「旧AAAWunder……」
綾波と、葛城初代艦長がいた旧AAAWunder艦内が、まだ閉じていない。
誰もいない精神空間が閉じないなんて、ハルナの感覚が異常を訴えている。
(誰もいない艦内に、碇シンジの魂が残置されているかもしれない)
当たっていた。
残置された魂が、ハルナを呼んだんだ。
「綾波の、お母さん」
「……驚いた。本当にいたなんて」
渦巻いていたどす黒い感情はたった一つの投石___それも予想外の方向からの投石で揺らぎを見せ、渦巻いたモノのすぐ真横に理性が戻ってきた。
間違いない、この場にいる筈のない人間が旧AAAWunderにいる。
「碇シンジ君。ちょっと、助かったかも」
青白い光を纏った少年、碇シンジがそこに立っていた。
____________
綾波_____いや、碇ユイは目を覚まさなかった。
この為に禁忌を犯したというのに、何故目を覚まさない。
肉体をそのままにし綾波レイの魂を取り出し、初号機のコアからサルベージした魂をそのままよりそりである肉体に沈める。
そして取り出された綾波の魂は初号機に宿る。
方法は完ぺきだったはずだ。
SEELEが察知できない程の秘匿性で進めたこの計画は、妻を初号機から救い上げられる唯一の手段と自負していたというのに。
「私を拒絶するというのか、ユイ」
右手に埋め込んだリリスで感じても、碇ユイの魂はこちらに目を向けていない。
生きてもいない、死んでもいない、ただ魂の眠った肉体でしかない。
虚空を掴むように握り、ゲンドウは思慮と喪失に浸る。
(ユイを再構成する為のマテリアルとしてシンジが必要か否か、私は否を選んだ)
(願いを叶える為には報いが伴う。その報いが、他人の幸せを奪う事の罪だった)
(ユイの遺伝子とリリスを合わせた肉体に魂を封じ込める。ナギサシリーズを生み出す為の方法をSEELEに提案し、真の目的としてこの依り代を作った)
(誰もいない街で、私は何度もユイを探し走る夢を見た。だが、そこにいたのは全て依り代で、ユイはどこにもいなかった)
「何処にいるんだ、ユイ」
ゲンドウの声は、誰にも届かなかった。
_________________
「少し、落ち着いてきた」
現実から精神空間に飛ばされた衝撃で逆に落ち着きを取り戻してきたハルナは、まだ渦巻いているどす黒い物を自覚しながら、冷えてきた頭を働かせた。
「父さんが、あんな事を……」
「思い出しただけではらわたがおかしくなりそう。槍みたいな何かでレイちゃんと初号機の魂を移し替えたんだ。槍は……エアレーズングの時に被弾したやつから作ったのかも」
気付けばハルナとシンジは耐爆隔離室にいたが、感情的に爆発していた自分がいるのは何とも皮肉な事だ。
出入り口側がすべてガラスかアクリル板のように透明で、プライバシーの欠片もない。
尤も、2人しかいない艦内でプライバシーを訴えても、訴えられる相手などいないが。
「シンジ君、この船動かせる?」
「そんな、やった事ないし、僕には……」
(いいから、やってから言え)
呼び起された記憶に、14年先に進んだ友人が立っていた。
プラグの壁面越しとはいえ目の前でカヲルを失い憔悴しきっていた自分に声をかけて面倒を見てくれた友人だ。
「……分かった、ケンスケ」
もうどこを探してもいない友人に背中を突き飛ばされ、シンジは軽く礼を言った。
「?」
「出来るか分かんないけど、やってみます」
「レイちゃんも葛城初代艦長も、私達から制御を奪って艦を動かした。同じ存在のシンジ君でも、たぶんできると思う」
「はい……あの、綾波は……?」
「この艦を出て現実にいるよ。たぶん、シンジ君と同じ時間を生きたレイちゃんだよ」
それを聞くと、シンジはどこか安心したように息をついた。
「ハルナさん。僕は、父さんをもう一度止めたいです」
「いいの? 君の知っている父さんじゃないよ。君が知ってる碇ゲンドウよりもずっと残酷かもしれない」
「いいんです。綾波を助けれるなら、僕はやります」
やっぱり、同じシンジでも違うんだ。
統合庁舎で見たナイーブな印象の少年ではなく、一本の芯が通った少年だ。
このシンジが潜って来た出来事、出会った人達、分かれた人達が、このシンジを作ったのだろう。
「あの、ハルナさんは……」
「親には親の、落とし前の付け方があるの。そのうち分かるよ」
__________
左舷
ツインドライヴ機関室
「いくよ、3,2,1」
ガシャァン!!
機関室の真上のダクトがけ破られ、ガミロイドは小銃の照準を向けた。
しかし威嚇射撃がされるよりも速くパイロットスーツの両足がガミロイドの頭をからめとり、そのまま挟んで地面に叩きつけた。
常人なら頭部や首に大きなダメージを与える禁じ手もガミロイド相手なら解禁だ。
バイザーが割れ頭部からバチバチと火花を散らし停止したガミロイドを踏みつけてアスカは器用に着地した。
「うわ、グロ……」
「対人で使ったらなかなか悲惨になるからねコレ。ガミロイド相手なら遠慮なく出来るわ」
「助かりました、いきなり押し入ってきて銃口を向けつづける物ですから」
小銃を回収すると山本は山崎や他の機関科員に回すと、残った小銃でガミロイドの頭部を撃ってとどめを刺した。
「右舷でも同じように奪還をしています。多分今頃……」
右舷
ツインドライヴ機関室
人間を相手にしなくてもいいから寧ろ楽、加減無しで関節技もしていいという事で、バイタルパートに押し込められた本職の人間が立ち向かっていた。
「ガミラスさんの人形なんか、目じゃないわよ」
永倉がガミロイドの腕を関節技で逆向きに極め、あろうことかそのままへし折ってしまった。
空間騎兵隊は陸戦に使える技術や体術を極めていて、WILLEの中でもトップクラスの近接戦闘能力を持っている。
対ガミロイドは勿論、ガトランティスとの接触後には対ガトランティスも考えた体術にも取り組んでいて、それが今まさに有効活用されたのだ。
「やっぱ脆いわね、所詮は人間と同じね」
「人間の腕も引き千切れるのか?」
「アンタね、『出来る』と『やる』は大違いなのよ? 星名は全部回収した?」
「OKです。残敵無し、ありがとうございます」
「後はここにまた攻め込まれないように守るだけだね、隊長にバイタルパートに押し込まれたから窮屈ったりゃありゃしないわ。そういえば隊長はどこ行ったの? まぁ……流石に死んでないでしょ」
「意外とあっさりしてますね……」
「地獄の月面生き抜いてるからね。
「『ちょっとやそっと』扱いですか……」
保安部である以上荒事は覚悟していたが「控えめに言って蹂躙」な永倉を見ていると感覚がおかしくなりそうだと思った。
金属板の入った靴底でガミロイドの頭を踏み抜くと、永倉は一息ついて奪った小銃を構えた。
「で、あとはどうすんの?」
「艦橋メンバーってとこですね。ここは機関科の人に守ってもらって、次にいきましょう」
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そして18時間後、WILLEでは「ロンドン砲作戦」が決行された。
ロンドン砲作戦の元ネタは、ドイツで開発された「フランスからイギリスを砲撃する為の多薬室砲」V3 15センチ高圧ポンプ砲です。
どこかを砲撃するつもりはありませんが、20000光年以上の距離をどう短縮するかを考えた時にこれを思いつきました。
次回、ゲンドウ君は泣いても良いと思う。(・∀・)ニヤニヤ