宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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Reunion(再開)

「ヴッ……! 腹がッ!!」

 

 突然太田が腹痛に悶えてガミロイドの注意が逸れると、そこからはあっという間だった。

 古代と島、南部と相原がガミロイドを押し倒し、奪った小銃を鈍器にして森がガミロイドの頭を殴打したのだ。

 

 太田の腹痛はただの演技。

 だた1人に注意を集める為の大嘘であり、自信のある男衆と森が目線で示し合わせて腹痛役を押し付け合い、素人なりに組み立てた奇襲だ。

 

 倒れたガミロイドの金属音が狭い区画に反響し、誰も息をしていないことに気づいたのは数秒後だった。

 

「……効いたな」

 

 島のぼそりとした一言で、全員がようやく息を吐いた。

 あっさり倒せてしまった事に驚いていると、一歩離れた位置で身を守っていた市川が床に座り込んだ。

 

「何とか……終わりましたね」

 

「2対7だからな。力押しして小銃を奪えば何とかなるんだ。古代、そっち頼む」

 

「もうやっている」

 

 腰に巻いていたベルトで手と足をしっかり縛って転がしておくと、ガミロイドが回収していた自分たちの拳銃を回収して、古代と島はガミロイドが持っていた自動小銃を構えた。

 

 

ガシャン! 

 

 

 ダクトから大きな音がして小銃を向けるが、敵ではなかった。

 ダクトの換気口越しに星名とキーマンの姿が見え、古代は警戒を解いて小銃を降ろした。

 

「驚いたな」

 

「単純な力押しだ。ロボットに負ける程軟じゃないさ」

 

「その調子で頼む。サナダ二佐の姿がないが」

 

「恐らく碇ゲンドウが別で収監したかもしれない」

 

「だといいが。まぁ死んではないだろうな、愚策に進む男ではないのは確かだ」

 

 艦橋詰めの人員でも意外とタフで勇気もある事にキーマンは驚いたが、作戦の駒が増えた事を素直に喜んだ。

 そこからアスカと山本が綾波のいる筈の医務室に向かっている事と、ハルナの救出は後回しにしている事を共有すると、無線が鳴った。

 

「連絡を寄越すという事は、余程の事だろうな?」

 

『その生意気どうにかならない?』

 

「要件を言え」

 

『……レイだけど、まるで別人なのよ。魂が別のになっちゃってるのはマジみたい』

 

「やはり睦月ハルナの感覚は正しかったか。保護は出来たんだな?」

 

『まぁ籠城って感じになってるけど。クソメガネが来るまでは時間かかりそう』

 

 クソメガネ、確かに合っているなと思いながら、キーマンは次の指示を出した。

 

「じゃあそのクソメガネとやらから対象を守り通してくれ。思う所はあると思うが、ガミラス保安情報局内事部所属捜査官を信じろ」

 

『は?』

 

「正式な肩書だ。言いたい事は終わった後で言え」

 

 一方的に通信を切ると、不思議そうに見つめられる感覚にキーマンは咳払いをして止めさせた。

 

「どうした?」

 

「いや、何というか。まぁいいや。あとはどうするんだ、キーマン」

 

「そうだな……動ける駒が増えたのは良い事だ。体力に自信が無い物は小銃片手に機関室の方に向かってもらう。あそこをもう1度乗っ取られるのは面倒だから守備を増やす。体力に自信がある物は今から対象がいる医務室に向かう。碇ゲンドウがいたら殺さない程度に迷わず撃て」

 

 如何に碇ゲンドウの射殺許可が下りていても、空間騎兵のように銃の撃ち合いに慣れていない者がいる中必殺の一撃は決めにくい。

 だからキーマンとしては殺すつもりはないし、「殺さず捕らえる事」と指示を押し付けられているから捕縛を優先した。

 

「いいんだな、キーマン」

 

「殺さずに捕らえればあとは睦月夫妻が何とかするだろう。あの様子じゃ何発か殴っても落ち着かないだろう」

 

 ハルナから漏れていた肌を突き刺す様な殺気を思い出しながら、キーマンは心の中で碇ゲンドウの生存を祈った。

 敵の生存を祈るなど本意ではないが、子を奪われた母親の怒りは説明不要で測定不能、人が抱えていい感情の大きさを超える程に大きいのだ。

 

 


 

 

『マスター、本艦7時方向距離20光秒ノ地点ニワープアウト反応ヲ確認シマシタ』

 

「識別コードを確認」

 

『地球式ワープノ反応ト確認』

 

 レーダー手のコンソールに直接接続したガミロイド兵が報告を上げる。

 テレザート星の軌道にほど近い艦隊が強行偵察にでも来たのだろうと考えたゲンドウは、AAAWunderの火器管制を起動させようとした。

 

『システムガロックサレテイマス』

 

「マスターキーを使用する」

 

 ハルナと真田から奪ったマスターキーでオーバーライドを行うが、それでも火器管制は動かない。

 最高位の権限を使っても起動できない事にゲンドウは僅かな焦りを見せるが、この現象も閲覧した報告書に記載されていた。

 

「誰かが干渉している。システムではなく、人の意思か」

 

 ゆっくりとかざした右の掌にリリスの眼球がぎょろりと現れ、位相光を漏らしながらその意思の正体を知るべく干渉を始めた。

 アダムス組織に宿った人の魂がAAAWunderを管制し、波動エンジンの制御すら掌握した。

 秘匿された報告書に記載され、地球連邦政府時代には政府への開示すらされなかったが、まさかこれほどとはとゲンドウは驚いた。

 

 2番宇宙の推定西暦2028年頃に大破して自沈したはずのAAAWunderにそのような機能があったかどうかは、WILLEやSEELE、ゲンドウにも分からない。

 これは、想定外の奇跡だ。

 

 その奇跡が他世界から魂を載せ、計画外の綾波レイがこの世界に現れるきっかけとなった。

 

「違う……この干渉……お前は、まさか……シンジなのか……ッ」

 

『ワープアウト反応確認。0.5光秒ノ準光速度デ接近中。ワープアウト反応より艦種識別、未確認艦1」

 

 レーダー上に表示された艦影は僅か1つ、地球固有のワープアウト反応からガミラス艦ではないと分かっていたが、数が少なすぎる。

 AAAWunderを仕留めるのであれは、1個防衛艦隊レベルの戦力を回す必要がある。

 これはAAAWunderの大火力と速力と耐久力から推算される最低限の戦力であり、これ以上の戦力が当然必要だという結果だ。

 

『波動エンジンノ反応ヲ確認。パターン照合中』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『WILLE総旗艦艦隊所属BBS-NGFS-001 宇宙戦艦ヤマト』

 

 

 

「早すぎる……ッ!」

 

 信号発信から2日しか経っていない。

 いや、2日も経っていない。

 10日という余裕の猶予は______WILLEの馬鹿力によって容赦なく壊された。

 

 

 

 


 

 

 

 

 宇宙戦艦ヤマト 第1艦橋

 

「複数回の連続ワープ」を息つく暇もなく実行するそれは心身ともに疲弊をもたらす程の強硬手段であり、ロンドン砲作戦に参加した全ての()()()()()()()()()()も同様に疲弊していた。

 しかし、それはこの「デタラメ艦を抜きにして最強な艦」をテレザート星に送り届ける為の必要な事だ。

 

 そして青い水晶のような星を眼前にして、宇宙戦艦ヤマトは薄氷を脱ぎ捨てその視界に巨艦を捉えた。

 

「ワープアウト確認! AAAWunderを光学で見つけました!」

 

 若干青い顔をしている北上が状況を報告し、ミサトは艦長用の黒い宇宙服越しに指示を飛ばした。

 

「ロンドン砲作戦を最終段階に移行する。高雄! タウコアの完全開放を!」

 

「了解! タウコア完全開放、臨界稼働開始ッ!!」

 

 高雄がコンソール上の安全装置を機関長権限で解除すると、波動コアコンジットベイに収められたタウコアが伸長し、眩い光が放たれた。

 機関内部へのアクセスハッチやフライホイールから光の束が溢れ出し、ヤマトの艦体にも異様な変化をもたらした。

 

 第2世代艦と同じVPS装甲を纏っている筈だが、伝導管を伝わる青白い輝きが血管の様に浮き上がり、黄金の粒子と電子回路のような模様が浮き上がる波動エネルギーを放出している。

 

「やはりまだ損失があるか……ッ! 300秒は保証します!」

 

「結構! 睦月三佐の推測通りなら、すでに自律防御してるはずよ。日向君、青葉君、遠慮なく撃ちなさい!」

 

「地球の救世主に砲を向けるのか。既に波動防壁の発生は確認してますが何というかなぁ」

 

「射撃の訓練と思っておけよ青葉。主砲発射準備! ショックカノン、伝導回路開きます!」

 

「索敵誤差、ギリギリまで修正しました! 射撃盤連動よし!」

 

「撃てぇえ!!」

 

 ミサトの号令で48センチ3連装VSPSTが一斉に火を吹き、極限まで貫通力を重視した5速の弾道はAAAWunderの波動防壁に突き刺さる。

 臨界稼働で異様なほど強化された弾道は通常のVSPSTの弾道跡では起こり得ない稲妻を発生させて食い破りにかかるが「出鱈目」の称号を持つ艦艇は貫通を許さず、波動防壁に大きな波紋を残すだけに終わった。

 

 

「やっぱり硬いな。葛城艦長、過貫通はマズいですけど多少壊しても何も言いません」

 

「分かったわ。1個師団入れればこっちの勝ちよ」

 

 

 

 

 

 ________________

 

 

 

 

 ヤマトの本気の砲撃を防いだから平和という訳にはいかず、艦内には第1種戦闘配置を示す警報が鳴り響いていた。

 既に医務室に到着して籠城の手助けを始めた古代達にもその警報は届き、脊髄反射で艦橋へ飛び出そうとした。

 

「ガトランティスか?!」

 

「いや違う、波動防壁を揺らせる程のビーム砲撃が出来る相手は限られている。それも地球最強のAAAWunderの波動防壁だ。出来る相手は、僕が知っている中では1隻しかいない」

 

 南部が冷静に心当たりを探し始めるが、にわかには信じがたい。

 まず、地球からテレザートまではどんなに急いでも10日はかかる。

 こんな短時間で辿り着くなんてどんな手品を使ったのか、南部には分からなかった。

 

 だから、あくまで推測しかなかった。

 

「ヤマトだ。あの艦なら本気で撃てば揺らせるし、後先考えなければ防壁を抜ける」

 

「総旗艦が来ているのか!?」

 

「あくまで推測だ。でも僕が知ってる中でこんなマネが出来るのはヤマトだけだ」

 

「そのヤマトがそれ程馬鹿げた性能をしているとして、どうやってテレザートまで飛んできた?」

 

「それは、ヤマトに乗ってきた人に聞けばわかる話だ」

 

『……るか! ……してく……!』

 

 端末から変な音がして古代が耳を立ててみると、非常に聞き覚えのある声が聞こえた。

 少しアルトめの高さの声で、男。

 左腕が金属製の義手になって尚且つ飛ぶというビックリドッキリメカな人だ。

 

『聞こ……! ……答してくれ!』

 

「睦月さん!?」

 

『よし聞こえたな。今大出力で発信して無理矢理繋げている。ハルナいるか?』

 

「それが……営倉に収監され、綾波君も初号機に封じ込められているそうです」

 

 静寂、言葉を失うとはまさにこの事だろう。

 何かを叩く音と呼吸を落ち着ける音が端末から聞こえ、再びリクの声が聞こえた。

 

『やったのは例のド畜生だな?』

 

 ド畜生なんて今までリクの口から聞いた事も無い。

 それ程怒っている事が端末越しに分かり、冷房も付けていないのに医務室が一気に冷えたような感覚に包まれた。

 

「……恐らく。最初からオオスミに潜伏して初号機に綾波君が搭乗して稼働するタイミングを見計らっていたと思います」

 

『……分かった。生かさず殺さずで捕らえて生きてる事を後悔させてやる』

 

「睦月さん!?」

 

『出来ればそうしてやりたいけどレイちゃんが人殺しの家族の子とか言われたくないからな。これから艦体に穴をあけて1個師団を送り込む。ハルナの位置分かるか?』

 

「恐らくは営倉だ。ここから行けばまぁ間に合うが、くれぐれも営倉を狙うなよ」

 

『艦内構造は頭に入っている。問題はない。じゃあ妻を頼む』

 

 通信は一方的に切れ数秒間呆気に取られていたが、弾かれたように各々が動き始めた。

 子や妻を持つ人は強い、それこそ怒った時は平気でそういう事も言えてしまうくらいだ。

 

 世の中の家庭でそうであるかを問えば違う答えが返って来る事は分かっているが、生憎幸せ家庭の一例を近くで見ているから反射的にヤバいと感じてしまっている。

 

 何より、想定以上に速い「鬼」の登場に古代達は慌てていて、キーマンは盤面ごとひっくり返された作戦を組みなおす羽目になった。

 まさかゲンドウ側ではなく味方側にひっくり返されるとは、思ってもみなかったが……

 

「合法的に反則できる駒が手に入ったと思っておくか」

 

 考える事はやめよう、どうせリクが左ストレートでゲンドウを落とす(ロケットパンチをする)から。

 

 


 

 

 

「撃てぇえ!!」

 

 さらに砲撃を強め、砲身強度を犠牲にした一撃を捻じ込む。

 AAAWunderの波動防壁と言えど無敵ではない、必ず被弾経始圧という物が存在しこれが0になれば撃ち抜く事が出来る。

 通常の艦艇であれば被弾経始圧を削り切る前に80センチVSPSTに消し飛ばされるが、反撃が無い___出来ない状態であれば不可能は可能になる。

 

「撃て!!」

 

 更に一撃、南部からの指導を受けている青葉、古代からの指導を受けている日向が波動防壁の1点を常に狙うような精密射撃を何度も成功させている。

 それも艦体を絶えず動かしながらだ。

 

 その艦体を動かす役の長良も、日向と青葉が狙いやすいように艦体の傾きを常に一定に保ちながら操艦している。

 彼女もイスカンダル航海の功労者である島から操艦の極意を教わっていて、両舷スラスターや艦底部のスラスターが細やかに最低限で吹かされていて姿勢維持に気を配り続けている事が分かる。

 

(戦術長は武器の特性をすべて頭に入れないといけない。苛烈な戦場程、使える物は何でも使え)

 

(大砲屋っていうのは数値だけじゃない。目で、あとは感覚も使う)

 

(余りスラスターに頼るな。最低限の吹かしで姿勢を保ち続けろ)

 

 

(((分かっています!!)))

 

 各々の師の言葉を反芻しながら、攻撃の手を緩めずにヤマトはひらりひらりと舞い続ける。

 そして、10数撃目、ついに……

 

 

 

 

 

「来たッ! 破れました!」

 

「ロケットアンカー射出用意! 照準右艦首! 射出用意ヨシ、撃て!」

 

 艦首に供えられた錨が変形しロケット噴射で飛び出した。

 第2世代以降に搭載された停泊用の装備だが、これを投擲兵装として昇華させたのが02式噴進空間錨_____ロケットアンカーだ。

 通常は小惑星等に突き刺して艦を止める装備で、攻撃兵装として使えば当たり所によっては敵艦を止められる強力な武装だ。

操作が難しく当て難いのが現場の評価だが、日向はシミュレータ上では決して外さなかった。

 

 日向が設定したロケットアンカーは基部から火花を散らしながら目的の位置目がけて疾走し、その鋭い刃を超高振動状態にしてAAAWunderの装甲に突き刺さった。

 伸長して5mもある長大な刃だ、装甲を確実に貫通し、その刃は艦内にまで届く。

 さらに刃から返しが飛び出す仕様の為、アンカー自体は簡単には抜けないのだ。

 

「錨巻き取れ! ヤマトを横付けする! 総員衝撃に備えろ!」

 

 ギャリギャリと鎖が悲鳴を上げながらロケットアンカーが巻き取られていき、耐えきれなかったAAAWunderの装甲板が内殻まで綺麗に大きく剥がれ、艦内が見えた。

 

「長良、面舵ッ!!」

 

「了ッ解!!!」

 

 操縦桿を思い切り横に倒してスラスター全開、ツインドライヴの出力に押されて思い切り右に艦体を寄せていく。

 波動防壁を展開して艦体をぶつけると防壁同士が干渉し合い漏れ出したエネルギーが干渉し合い互いの装甲を叩き始める。

 

 波動防壁を一息に破壊するには常識外の攻撃力をぶつけるか、逆位相の波動防壁をぶつける事が要求される、例外は無い。

 それが例えAAAWunderのような地球最強の戦艦であったとしてもだ。

 

「被弾経始圧急低下! 接触中の防壁あと30秒!」

 

「睦月三佐!!」

 

「あと20秒!」

 

 波動防壁の干渉パターンを素早く読取り波動防壁の制御装置に新しい値を打ち込んでいく。

 しかし、波動防壁は全ての波動コイルで同じ波形の波動防壁を生成しているわけではない。

 その全ての設定変更は、リクと言えども片手間で終わらせられる事ではない。

 

 すぐ真横でマヤが半分受け持っていたとしても、多少の時間はかかる。

 

 

「あと5秒!」

 

 

 

 

 

 

「はい終わった!!」

 

 再設定された防壁が変調され、AAAWunderの波動防壁がヤマトの防壁を溶かし、融合していく。

 ミサトとリクが狙ったのはこれだ。

 お互いツインドライヴとはいえAAAWunderとヤマトでは出力に大きな差がある。

 当然、波動防壁の出力にも大きな差があり、防壁勝負でヤマトが一方的に破る事はどんなに頑張っても出来ないのだ。

 

 

 だからこう考えた。

 同じ波形の防壁であれば、大きい泡が小さい泡を取り込む要領でAAAWunderの防壁の内側に入れないだろうかと。

 

 

「融合完了、防壁内部への侵入完了!」

 

「突入部隊!」

 

 長刀を構えた震電が開口部に取り付くと、超振動機構で切断性能を向上させて装甲を更に切開していく。

 そして有り余る膂力でさらに大きくめくれ上がる開口部に2式空間機動甲冑*1を着た1個師団級の戦力がなだれ込み、銃撃には銃撃の白兵戦が始まった。

 

 オールウェポンズフリー、小銃からRPG-7、グレネードランチャー、空間機動甲冑でやっと装備できるような30ミリ機関砲も持ち込んで大火力での制圧を初めていく。

 

 

『突入班から艦橋。AAAWunder艦橋要員を確認。これより睦月ハルナさんの救出を開始します』

 

「葛城艦長、僕も行きます」

 

「気を付けなさい」

 

 艦橋を飛び出したリクは艦橋のすぐ近くにあるエアロックからガス噴射でAAAWunderに移乗すると、持ってきた12.7ミリ標準アサルトライフルを両手で構えた。

 

 火薬の暴力で擦り潰す様に攻撃を加えた結果、視界上にガミロイドの残骸が入らない事は無くなっていた。

 所々焦げ跡が目立つが、そこは後で処理しておけば問題ない。

 それよりも、リクを走らせ続けている理由はただ1つだった。

 

 

「ハルナ……ッ!」

 

 

 愛を誓い合った妻と、

 

 

「レイちゃん……ッ!」

 

 

 不器用に愛している娘がいるからだ。

 

 

 _______________

 

 

 

 ゲンドウは俯いていた。

 地球から艦隊が到着するまでの猶予は10日もあったはずなのだ。

 それを2日以下にまで短縮し「第2.5世代艦艇」が単艦で殴り込みにかかり制圧しにかかって来る事など想定外だった。

 

 手にしたモニターに映るガミロイドの残存数は見る見る間に減っていく。

 信号が途絶したことを示す通知を削除すると、残存ガミロイドの非殺傷命令を解除して「侵入者を殺す」ように指示を出した。

 

 ユイの魂をサルベージし、依り代に封じ込める事には成功したのだ。

 ここを凌ぎ、1個師団を残存兵力で殲滅し切れば時間の猶予はさらに増える。

 

 それならば、ユイが目覚めるまでの時間を稼げるかもしれない。

 

 

 ゲンドウは壊れていた。

 時間を求めた、ユイが目覚めないという否定を無意識に否定し続け、時間を求め続けているのだ。

 

 

「突入部隊より艦橋、碇ゲンドウを確認」

 

バンッ

 

 反射的に引き金を引いていた。

 しかし空間機動甲冑まで装備したフル装備仕様の空間騎兵に銃弾は決定打になり難く、容赦なく距離を詰めてくる。

 

「悪いな、お前には上層部から射殺命令が出ている」

 

「ユイを……私に時間を……」

 

「俺達から押し付けられるのは、罪と怒りだな」

 

 

 

ビキィィィィィィィイイン!! 

 

 

 

 極彩色の位相光が両者の間を隔て、空間騎兵は弾かれたように後ろに下がった。

 埋め込まれたリリスが生み出すATフィールド、その輝きが両者の間に拒絶の壁を生み出した。

 

「情報通りか。頼むぞ」

 

「構わないよ」

 

 1人の空間騎兵が空間機動甲冑を脱ぐと、その掌をゲンドウのATフィールドにかざした。

 刹那、その少年の掌から同じ極彩色の光が漏れ、それがATフィールドとゲンドウが認識するには数秒の時間が必要だった。

 

「ATフィールド……まさか……ッ!」

 

「初めまして、シンジ君の父上」

 

 一息に侵食し切ったフィールドを抜け空間騎兵は瞬時にゲンドウを拘束し、小銃を常時構えた厳戒態勢を取った。

 そう、この作戦にはMark.6に搭乗していたカヲルも参加していたのだ。

 

「手段は良かったかもしれない。仮死状態を続けてギリギリまで乗員に悟らせなかったからね。でも、WILLEには同盟国がいて出鱈目戦艦が大きな恩を売っている事を失念していたのはマズかったと思うよ」

 

「何だと……」

 

「縁の力という物だよ」

 

 

 

 ________________

 

 

 

 吹き飛ばされた隔壁の隙間に身体を捻じ込み何とか這い出ると、さらに走る。

 小銃がだんだん重くなっていく、膝がだんだん痛くなっていく。

 

 それでも、自分の心が体を動かし続けている。

 

「リクさん!」

 

 T字路の曲がり角で声をかけられ視線を向けると星名と小銃を構えたキーマンが走って来た。

 

「星名くんとキーマンか、ハルナは?」

 

「古代さん達が救出に向かっています。位置は営倉です」

 

「近いな。片方預ける、邪魔になって来た」

 

「分かりましたって重ッ!!」

 

 弾薬一杯のドラムマガジンを付けたアサルトライフルは星名が力んでようやく持ち上げられる程に重く、どれだけリクが本気なのかがうかがえる。

 

「やり過ぎだ」

 

「あとよろしく!」

 

 ついでにヘルメットも取りその辺に放り投げるとさらに走る。

 船外服が動きにくくて、何度も躓き、転ぶ。

 それでも走る、今はただ、妻を、娘を抱き留めたい。

 

 

 着弾で焼け焦げた壁面、粉砕されたガミロイドの腕、戦い続ける空間騎兵、その全てを追い越して、飛び出した。

 

 視界に映るは、いつの間にか短くした白い髪、泣き腫らした痕の紅い目、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ばか……何で来たのよ……嬉しいよ……!」

 

「何とでも言え。SEELEの件を丸投げしたからバカ確定だ」

 

 船外服越しでは温もりは伝わらない。

 それでもと求め、互いの頬が触れ合った。

 

 どちらからともなく、キスをした。

 

 これは夢じゃない、光でも届かない距離を飛び越えて、自分はここにいて、リクがここにいる。

 互いが互いの片割れを認識した瞬間、堤を切ったように涙があふれ、そのまま地面に崩れ落ちた。

 

 焦燥と後悔と憤怒と憎悪、身を焼き蝕んだような感情は一気に鳴りを潜め、互いを確かめるように強く抱きしめる。

 

 声を上げて泣き続けるハルナを、涙目のリクは抱き締め続ける。

 相当な後悔があったのだろう、切り替えはしたが、得体の知れない規模の感情が押し潰そうとしていたんだ。

 

 そう感じたリクは、ハルナに尋ねる。

 

「レイちゃんは医務室だな」

 

「でも……魂が……」

 

「ド畜生から聞き出す。カヲル君と空間騎兵が制圧してるはずだ。睦月から艦橋制圧班。状況は?」

 

 通信の相手はすぐに返って来た。

 

『睦月さんだね。シンジ君の父上は取り押さえられている。ATフィールドも僕が抑え込んでいるから、無力化は出来ているよ』

 

「さすが、着いて来てくれて助かった。拘束してるならそのまま空間騎兵と待機していて」

 

『分かったよ。そっちはどうかい?』

 

「いい所なんだ、あとはよろしく」

 

 一方的に通信を切ると、耳に賭けていたインカムも放り投げるとまた抱き締めた。

 

「強い……左腕痛い……」

 

「許して欲しい、ここまで飛んで来るの大変だったんだぞ?」

 

 金属で硬い左手も使って抱き締めている。

 いつもならハルナや綾波を抱きしめる時は使わないのに、まるでもう離れたくないと言うように力いっぱい抱き締めてくる。

 

 もう1度言う。

 船外服越しでは、温もりは伝わらない。

 

 それでも、と、互いの存在を、自らの欠けたピースに押し込んだ。

 

 

「……いい、許す」

 

 ほんの僅かな呻き声の後、ハルナは強く抱き返した。

*1
原作の5式空間機動甲冑

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