宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
「(絶句)」
「驚きましたか?」
「驚かない方が難しい。そうか、急行中のガミラス艦隊が手を貸してくれたのか」
「ドメル将軍との縁ですね。戦い以外で作りたかった縁ですが」
一通りの説明を聞いた事で真田は納得がいった。
対ガトランティスの全面戦争に備えて、ガミラス本星から3個師団と補助艦艇を纏めた軍団規模の艦隊が向かっていると地球との定期連絡で聞いている。
その軍団に協力要請をして、ガミラス政府が承認し、即時決行された、というのが大筋という事だろう。
でも、ここまでスムーズに事が進んで、動かせる最大戦力を躊躇なく動かして、ガミラスも協力して、一体何の冗談だと真田は疑問が拭えない。
「つまり、日ごろの行いが良かったって事です。もっと言えば縁ですね」
「またアバウトな……」
「取り敢えず碇ゲンドウは、厳戒態勢で営倉にぶち込んであります。取り調べと戻し方は保安部の尋問に任せます」
「君はやらなくていいのかい?」
「勢いで殺しそうなの然るべきところで」
綾波の魂が戻らない今、碇ゲンドウを地球に移送する訳にはいかない。
それに、処遇に処刑も選択肢に入れられてる以上はこの場で何とかするしかないのだ。
「ハルナくんは?」
「医務室で、レイちゃん__碇ユイさんの状態を確認してます。レイちゃんの体は碇ユイさんの遺伝子とリリスからできてます。馴染む前に戻さないといけませんが……命の選択をする必要があります」
「それは、碇ユイを戻すことに繋がる」
「ド畜生がやった事と同じことをするしかないならそうするしかないです。実際碇ユイさんは半分被害者でド畜生が勝手に連れ出したようなものだし」
「その辺りは詰めておこう。ワープの疲労がひどい事になっている筈だ、君ももう休みなさい」
「お言葉に甘えて」
一通りの説明と指針の固定が終わると、リクはハルナの元に向かった。
あれから医務室でつきっきりだ。
魂が入れ替えられる直前に何かあったとリクは分かっていたが、ハルナは話そうとしない。
ハルナは、娘より咄嗟に自分の身を守ってしまった事に深い自責を抱いているのだ。
壁に叩きつけていた拳は痣だらけで、佐渡が複雑な様子で手当てをしていたのが思い出される。
初めて母親になって、初めて子供への愛を抱き、そんな時に急に出てきた部外者に娘を利用されたのだ。
こうならない方がおかしいのだろう。
「状態は、変わりないみたいだな。魂は?」
「……ダメ、さっき初号機を確認し直したら、確かにレイちゃんの魂が入ってた。眠り続けていると思う。……何で、冷静なの?」
「冷静でいようとしないと、おかしくなってしまいそうだからだ」
「ごめん、そんなつもりじゃ……」
「起こってはいけない事が起こったからな」
肩を抱き寄せると、力なくハルナはもたれ掛かった。
熱を感じる事も無く、だらんとしたその様子は、無気力だった。
「リク、あのね……話しておかないといけない事があるの」
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「本当の最後の乗員、レイちゃんと同じ出身のシンジ君か」
「波動防壁も、FCSロックも、全部シンジ君がやってくれたの」
「レイちゃんや初代艦長が出来た事だから、最後の守人枠のシンジ君にも出来るという事か……」
最後の乗員は綾波でも、葛城初代艦長でもなく、旧AAAWunderに隔離されていた碇シンジであった。
SEELE壊滅のために奔走していた間にそんな事実が判明していた事に驚き黙り込んだリクは俯き何かを考え、覚悟を決めたようにハルナに向き直った。
「ハルナ、シンジ君はもう1人いる。SEELE対策で地球圏外に退避させる為に乗せて来てるんだ」
「SEELEに連れ去られた方の?」
「言い方……うんそっちのシンジ君。冬月さんも同行している。それで……シンジ君とユイさんを会わせてみようと思う」
「会わせてって……それでどうするの?」
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「……信じる」
手をそっと重ねて、意思を確かめ合う。
無気力に支配された体に小さな火がまた灯って、少しずつ命を動かしていく。
そうだ、動け。と体を起こしていく。
「やろう、次は?」
「あまり時間が無いからな、地球に帰る前にやる事が山積みだ」
第1会議室では全員入りきらなかったため、急遽食堂を貸し切って行われた作戦会議には、AAAWunderとヤマトの幹部クルー、第86独立機動打撃群___ノウゼン達を始めとした教導隊、秋水のパイロットを務めるイカロス小隊、そして新2号機を操るアスカだった。
「忙しい中集まってもらって済まない。AAAWunderとヤマトクルーも集めたのは、今後の動きをここで共有する為だ。まず、第86独立機動打撃群」
一斉に椅子から立ち上がり敬礼をする。
そういう堅苦しいのはいらないけどなと思いながら返礼し、「休め」というと、直立不動の姿勢を解いて肩幅くらいに足を開いた。
「移乗できるだけ震電を移乗させて、部隊は全員ヤマトに乗って弾丸特急で帰還。ガトランティス要塞攻略用戦略級戦術機の慣熟訓練に入ってもらう」
「戦略級戦術機とは?」
「驚け、地球史上初の惑星間航行人型決戦兵器だ」
リクがモニターに映し出したのは、震電を遥かに超える巨体と異常なスペックを抱えた人の姿をしたバケモノだった。
「イザナミ級戦略歩行航宙殲滅攻撃機だ。全高30.3m、全備重量130トン。艦艇用VPS装甲と新2号機に搭載された太陽炉の大型版を搭載し、主動力に小型化されたゲシュタム機関を搭載している。スペック上は上澄みレベルが乗ればガミラス1個機甲旅団と同等のガトランティス艦隊を全て落とせる機体だ」
事務的に明かされていくその戦神の詳細は、耳を疑う物だった。
日本神話の片割れであるイザナミの名を冠し、主動力にゲシュタム機関を小型化させ胸部に搭載し、肩部スラスターバインダーと腰部の跳躍ユニットに大型の太陽炉を合計4基搭載している。
レッドボックス指定をもれなく食らった永久の心臓を贅沢に電力供給元として、本来艦艇に搭載されるレベルの慣性制御技術を実装し、機体が耐えうる限りパイロットの対G保護を徹底的に保障する異常な能力を保有している。
さらに一定時間での生成量の制限はあれどほぼ永久的に粒子を生み出し、生み出す粒子をビームにも転用可能なその機体は、「WILLE技術部」と「第2世代艦建造で元気を取り戻した世界中の軍産系企業」と「愉快な完徹マッド共」が作り上げられた傑作だ。
そして震電とは圧倒的に違うのはそのサイズであり、震電の17.7mを大きく超える30.3mで全備重量はほぼ2倍、それでいて速度は震電の3倍ときた。
さらにさらに武装を全損した時用の備えも万全で、両掌部には輻射波動機構を内蔵し、ゲシュタム機関の膨大な電力で底上げされたマイクロ波が敵艦載機から敵艦橋まで破壊し尽くすという殺意に不足のない仕様だ。
「現在1個中隊分が初期ロットとして建造が始まっている。人類を守る為の史上最大の機動兵器で、WILLE司令部はその機体の半分を教導隊に、もう半分を階級問わず優秀なエースに預けるそうだ。既に全世界から選抜パイロットが集められている。彼等に遅れての到着になるが、精一杯訓練に励んでほしい」
「了解。第86独立機動打撃群、ヤマトでの帰還準備に入ります」
「乗せれる機体分はヤマトと相談して追って出す。次、式波二尉」
また立ち上がり敬礼、それに返礼するとリクは極秘扱いを受けた命令書を取り出して、挟んであったメモを取り出して読み上げた。
「命令書開封後、直ちに地球への帰還準備を行うように。この場で開けてもいいけど、他の大勢は見ようとしないこと、聞こうともしないように」
「ちょ、どういう命令なのよ」
「それは開けてからのお楽しみだ。開封して」
渋々開封して中身の命令書に目を通すと、その怪訝そうな顔はみるみるうちに驚愕に染まっていき、最後に飛び出したのは、
「アンタバカぁ!? マジでやるの!?」
このセリフだった。
「マジだ。既に月面での受け入れ態勢を整え、改修準備を進めている。ズォーダーのアディショナルインパクトを阻止するための切り札の為だ。同時に、新2号機もヤマトに移乗して帰還する事となる」
「ああもうWILLEが脳筋気質あるのアンタが原因じゃないの……りょーかい、式波二尉、命令書に従い地球へ帰還しますっ!」
「次、保安部と冬月さん。立たなくてもいいし敬礼もしなくてもいい。僕はそんなに偉くないから」
と言われても流れでやっているあたり、AAAWunderに乗ることになる人は一癖二癖あるのだろう。
渋々受け入れて次の命令を読み上げた。
「碇ゲンドウへの尋問を引き続き行う事。冬月さんも合流してくれた事で、知識の幅も増えた。レイちゃん奪還の為に使える情報が欲しいから、些細な事でも引き出して欲しい」
「了解です」
「碇が迷惑をかけた。この老骨で出来る事なら任せて欲しい」
「キツい役回りですが、お願いします。次、真田さん、マリさん、ハルナ、シンジ君。だから敬礼はいらない」
「いいから続けてもらおう」
「ああもう、レイちゃん奪還に注力。シンジ君は、あとで僕とお話だ。なるべく心して聞いてほしい」
「わ、分かりました……」
「君がどう動いても大丈夫な話だ。次、空間騎兵隊……敬礼はもう言わない事にする」
「さっさと命令寄越せよ」
「隊長アンタね」
「ガミロイド地獄で守り切れなかったのが喉の小骨みたいに引っかかっててな。挽回はしたいんだ」
「テレザート星の調査を開始。多分星自体には入れないから、何故入れないのか、どこまでなら近づけるかとかを調査」
「はいよ」
「最後に1つ。地球では対ガトランティス防衛計画の構築が最終段階に進んでいる。だが、これで地球圏とアディショナルインパクト儀式予定地である火星を守り通せるかはようやく五分を超えたくらいだ。そしてここにいる全員が生き残れる保証はどこにもない」
そうだ、ここから先の戦争は地球人類史上最大の大戦争だ。
ガトランティス対地球ガミラス連合軍、複数の星間国家が参加する「宇宙規模の世界大戦」であり、WILLEのどこで働いていても命の危険は付き纏う。
そう考えると、その先の言葉に詰まった。
「それでも、生き抜く事を諦めてはいけない!」
声を上げたのは、ハルナだった。
エヴァ搭乗に合わせて短くした白い髪と、故障で光を失った左の義眼が痛々しいが、小さな火がまた燃え上がり、残った生身の右目がぎらぎらと輝く。
「地球の為とか人類の為とか御大層な目的なんか掲げなくてもいい! バカみたいな日常や身近な仲間の為とか家族の為、愛する人の為に戦えばいい! 地球の平和なんてオマケで付いてくるだけ! 私も夫がいるからそうする!!」
「ちょ!?」
勢いで口走ったのかとハルナの横顔を見るが、人が変わったみたいに鼻息を荒くして顔真っ赤にして叫んだ。
「勝つぞ! 勝って未来を! 明日を見るんだ!」
そうだ、自分を勢いで押したり時に支えてくれたのは、ハルナだ。
「……そうだ、自分の手の届く人、自分の為に戦うんだ! 自己中とか言われても気にするな! 結局は地球救ってるからな! 総員拳を上げろ! やるぞ!」
「「「応ッ!!!」」」
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兎に角今後の方針は決まった。
ここまで戦場を支えてくれた震電部隊___第86独立機動打撃群と新2号機とアスカは帰還準備に入った。
人類を救うための戦略兵器と、「特機」と呼称された産物を出迎える為移乗を続ける面々の中で、各々感謝を伝えあったり、誓いを交わしたり、抱擁を交わしたりもした。
その中で、「特機」に乗り込む事となったアスカはリクとハルナの元にいた。
「レイを頼むわよ」
「分かっている。何とかする」
「何とかって言うとホントに何とかなりそうなのよね……。命令書を見て驚いたわよ。アレホントにやるの?」
「やる。この大戦限りの真の専用機だ」
「いいねそういうの。前任者が生きてるんだから私も例外なく生還ってとこね。で、名前は?」
「好きにしていい」
「りょーかい。じゃ」
アスカは帰還組の列に戻り、新2号機を起動させてAAAWunderから下艦した。
滑らかに空を泳いでいく機体はヤマトの第三格納庫に入ると、電磁アームが機体を掴んで収容されていった。
「命令書、ちょっとだけ見せてくれたでしょ」
「ああ見せた。レイちゃんが見てたらもっと驚くぞ。ただ、23世紀の力でどこまで出来るかだけど」
「起動は?」
「起動できるし稼働も出来る。あとはセンスだな。その辺は有り余ってるから特に心配してない。それより、いつ言おうか迷ってたんだけど」
「?」
「乗る為に切ったのか?」
肩くらいの長さに切りそろえてある白い髪にそっと触れて、恐る恐るリクが聞いた。
義眼が機能停止している事は左目の虹彩が消えている事で何となく察していたが、髪の事はなかなか聞けなかった。
言いにくそうにしたハルナだが、観念したのかポツリポツリと話し始めた。
「初号機でレイちゃんと出る時にさ、その……戻ってこれなかった時用に遺髪で……置いとくためだったんだよね……要らなくなったけど」
「また縁起でもない事を……泣くぞ?」
「泣いてもいいよ。私はもうひとしきり泣いたから」
「見られたくはないな、大の大人が泣くのは。全部終わったらにするよ」
「その時は抱き抱えて撫でてあげる」
「ちょっとやる気出たかも」
「へんたい?」
「酔って襲った人のセリフじゃないな」
「こらー!」
空元気でもいい。
上ばかり向いても下ばかり向いても、目をつむったままでも、そのままでは上手に歩けない。
打ち身だらけの心だがテーピングをして、今は折れないように頑張るしかないのだ。
「葛城艦長、後お願いします。復路もガミラス艦隊が送ってくれるので、ワープ直後の健康確認厳守でお願いします」
「勿論よ。問題が無ければ復路も2日以内に終了して、代理のアンドロメダを代われるわ。それと、そのバンダナ」
ハルナの腕に巻かれたオリジナルWILLEのバンダナをミサトが指さし、目を細めた。
「人類救う為に命を捧げたもう1人の私。話は聞いたけどホントなのね。この船に、戦い抜いた別の私がいたなんて」
「……私達が現在のWILLEを立ち上げたのは反NERV組織じゃなくて、純粋に地球と人類を守る為の史上最強の軍事組織としてです」
「そして葛城艦長を選んだのは、初代艦長と同じ事が出来ると確信したからです。だから私は、あの時沖田さんにバンダナを渡し、貴方を艦隊職としてスカウトしました。そして、それはずっと正しかった。レイちゃんが話してくれたミサトさんの戦い方、そのものだと」
そうだ、最初は打算だった。
テロメア異常のナノマシン治療が終了している今は相当元気だが、並行世界線では同じ人物が現れるという法則に当てはまっていて、初代艦長の力が相当なものだったので保護して引き込みをしたのが始まりなのだ。
そして、打算という言葉だけでは説明付かない程にミサトは強かった。
ロケットアンカーをAAAWunderに突き刺してヤマトを振り回させ、波動防壁の位相を同じにして強引に侵入したり、43回もの連続トランスワープを乗り切りケロッとしていたり、何かとおかしいレベルで強いのだ。
たまにいる「何かコイツ怖い」というレベルで、ミサトは強かったのだ。
「上層部の推測では、戦端が開かれるまではまだ1か月はあるわ。でもWILLEは10日前倒しになっても問題ないようにリソースを振って準備をしているね。民間リソースに支障が無い程度に軍事に振っているから、遠隔操作艦艇がかなりの数で量産されているね」
「波動砲抜きでどこまでやれるかですが、生え抜きで覚悟のキマった提督たちと4000隻規模のディッツ艦隊が向かっています」
_________
その数時間後 銀河系オリオン腕
ディッツ艦隊
空間機甲師団を束ねガミラス史上初の空間機甲軍団となったこの艦隊は、外洋に一度に派遣する規模としては最大級のモノになった。
ガミラス軍内で平時で運用されている戦力は「空間機甲師団」が最大であり、空間機甲軍団は前例が無かった。
それでも、「ガトランティスの総戦力は数十万単位であり、その全てが白色彗星ごと火星のインパクト予定地に進軍していて、儀式が発動されたら『最初から人類が存在しない世界』にされてしまう」という地球側の見解を受けて、この大派遣が決定された。
この地球側の見解に、ガミラス政府の半分は最初は懐疑的な姿勢を見せた。
シンプルに「文明を滅ぼしにやって来る」だけならまだ納得できる。
白色彗星が「アケーリアス系の天体級要塞かもしれない」というのも納得できそうだ。
でも、そこに宗教的な話が放り込まれれば、やはり懐疑的になる。
しかし、そこに気付け薬のように情報を放り込んだ女性がいた。
地球に残っていた赤木リツコだった。
赤木リツコ
これを受け取ったガミラス政府はエヴァンゲリオンType-null開発時の資料とエアレーズングの調査資料との整合性を確認し、すべて真実だと確認した。
全ガミラス臣民の移住という目的を前にして民族存続の危機と来れば、動かざるを得ない。
ガトランティス最大戦力を地球のWILLEと止めるためには何が必要なのか。
艦隊だ。
万単位ではなくても、最精鋭の艦隊だ。
そして、名将ガル・ディッツ大将を総司令官としたガミラス初の空間機甲軍団が組織され、第4、第5、第6空間機甲師団、次元潜航艦UX部隊を纏めた特別派遣空間機甲軍団は、総数4000を超える規模を抱えて太陽系に猛進していた。
「後方よりゲシュ=タム・アウト反応」
「やはり速いな。照合したな?」
「ヴィレ艦隊総旗艦、
真っ赤な裂け目から飛び出した艦艇は黒鉄色と赤色で染め上げられたヤマトだった。
両舷にデストリア級を重力アンカーで接続したトランスワープで既に旅程の3分の1を消化してきたのだ。
「ヤマトより通信」
「正面に回せ」
ディッツの正面のモニターにヤマトの艦内が映り、情報通りの肝の座った様子の女性艦長が現れた。
葛城ミサト、
『ディッツ提督。急な申し出の受諾、本艦を代表し感謝します』
「ガミラスはテロンに___スリーエーヴンダーに大きな借りがある。それを返したまでだ。旅程では戦端が開かれるまでには間に合う様だな」
『ご尽力のお陰です。引き続き、トランスワープ用の艦艇をお借りします』
「構わん。そのヤマトは強力な艦艇だ。戦略に大きな変化をもたらし得る以上、急ぎたまえ」
『感謝します。それでは、失礼します』
互いに敬礼を返し通信は切れ、艦橋越しに見えるヤマトは急いてトランスワープに入りまた光年の果てに消えていった。
短時間に40回以上のトランスワープを実行するというトンデモ作戦を立てたWILLEは勿論の事だが、それを実行してケロッとしている艦艇も常識を超えている。
なおディッツは知らないが、一部を除いたヤマト乗員はケロッとはしていない。
ワープ酔いで数名がダウンし、医務室に収容される程の強行軍だったのだ。
「船足を速めるぞ。全艦隊ゲシュ=タム・ジャンプ用意」
座乗艦である改ゼルグート級サレザレウスの艦橋から全ての艦艇に向けて命令が発せられ、4000隻規模の艦艇がワープの準備に入った。
母星の恒星系の名を冠するこの座乗艦は総旗艦であり艦隊の要だ。
ドメラーズ3世のノウハウを受け継ぎ物質転送機を搭載し対空防御にも気を配り、電磁投射砲の搭載と超重装甲に頼らない旗艦級戦艦として完成したこの艦艇は、艦首に決戦兵器を搭載している。
6000ミリ陽電子投射砲、つまりガミラス版火焔直撃砲だ。
蛮族の技術を取り入れるとは何事かと反発も大きかったが不本意ながら優れている事は変わりなく、シャンブロウ海戦で弱点として指摘した「空間波動エコー」を可能な限り減衰して内蔵兵器として搭載されたのだ。
その事実はゼルグート2世の悲劇を知る者からすれば驚くべき事であり、同時にガトランティスに対してのある種の「倍返し」でもあった。
実際、処女航海で遭遇したガトランティスの遠征軍を陽電子投射砲で焼き尽くした実績があり、今回の戦いではワープ阻害圏を迂回する伏兵を仕留める事も期待されている。
もちろん、物質転送機は航空機、ミサイルといった通常物質の転送も可能であり、エネルギーの転送はあくまで1機能でしかないのだ。
「全艦隊、ゲシュ=タム・ジャンプ」
ガミラスは屈辱も恩も忘れない民族だ。
その彼ら____4000隻を超える艦隊が虚空へと飛んだ。
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「碇ゲンドウ、WILLE諜報部及び上層部で重要指名手配扱いを受けた重犯罪者、というのが書類上の扱いです。実際は人類への反逆行為の可能性アリと判断された人物と上層部と睦月夫妻は判断しています」
「碇にそんな事が出来たとは……十中八九、初号機からユイ君を救い出したい為だけに行動したのだろう。図らずも、人類への影響が及びにくい宇宙での実行となったが」
「我々の予測も、時には外れるという事です。碇ゲンドウはどうやら、全人類を犠牲にして家族を取り戻すという行動に走らず、最小限の犠牲で取り戻す事を考えたようですね」
インパクト、それは海、大地、魂の浄化という工程を通して全人類の魂を1つに纏めて単一の完全生命体への進化をうながす儀式だ。
これは綾波の記憶から推測された物であり、SEELEとゲンドウが実行するかもしれないとWILLEはずっと警戒を続けてきた。
しかし、この世界のゲンドウは違った。
世界を犠牲にする事を流石に躊躇ったのかは分からないが、依り代となる犠牲者を使い、魂を入れ替える方法を実行したのだ。
これは推定西暦2015年(技術的には2050年並み)と23世紀の技術力の違いという点から発生した思考のズレだろうと推測された。
しかし、そのズレから生まれた思考が綾波を巻き込み、この「惨事」を引き起こしたのだ。
厳重警戒状態の営倉で項垂れるゲンドウは、急遽呪詛文様を仕込まれた手錠で両手両足を拘束されたままで椅子に縛り付けられていた。
リリスを右手に埋め込みATフィールドを行使していることも想定外だった。
物理的接触を断てる程に強力なATフィールドはハルナでも行使できない、それを人外の力を強引に取り込んだ事で行使できている事は警戒度をさらに上げる理由として十分すぎた。
「碇、お前は……」
「冬月……先生」
「口は聞けるようだな。消えたと思えばこんな場所で取り返しのつかない事をしてくれたな。まだユイ君から逃れられないのか」
「……冬月先生……私は……」
「聞かせてもらえるかな。どのようにしてユイ君の魂を睦月家の娘の魂に押し込んだのか」
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「衰弱はしているようだな」
「呪詛文様自体が体力を削っている、という事でしょう。拷問をするわけにもいかないのが現状なので」
「真田二佐、君がアイツから聞いた事と私が聞いた内容はだいたい一致している。睦月ハルナ君の感覚とも相違はないようだ」
「ロンギヌスのような物、恐らくロンゴミニアドか資料にあった本物の槍の複製でしょう」
亜空間回廊海戦で旧Wunderに発砲され過貫通まで引き起こした「呪いの槍」は、そのまま回収されて地球での解析に回った。
その副産物を使われたか、黒き月のリリスと共に眠っていた槍の複製を使われたのか、兎に角魂に干渉出来る規模のモノを使われたのは確かだ。
そして、それ以上にゲンドウから語られた事実の方が大きかった。
ハルナ君は人間とは言い難い、昏睡でも老化がほぼ起こらなかった事、暁薫という「リリスの断片を宿す人間」から生まれたイズモ計画の究極の形、それは彼女の先に暗雲を立ち込めさせるものかと思った。
が、それは起こらなかった。
ショックはあったが、それ以上に「娘の魂が戻ってこない」事がショックでそれどころじゃなかったのだ。
さらに考えれば、「何故リクも同じように昏睡時の老化が起こらなかったのか」という問題も解決できた。
それは血だ。
ガリラヤベースの事件の時、二人は同じ現場に倒れていた。
もしもその時、何らかの理由でハルナの血がリクの体の中に混入していたとしたら、同じ状態になってしまった事も「無理矢理」だが納得が出来る。
そしてそれも大した問題じゃないと後回しにされた。
リクもリクで一杯一杯だからだ、ゲンドウの尋問に関わらなかったのも「一杯一杯でゲンドウを殺しそう」と判断したからだ。
「ユイ君も今は睦月家の娘……レイ君の身体で会話が出来ている。アイツの計画は成功してしまったが、本人が会話する前に捕縛されたのは残酷な事だな」
「そして、彼女を元に戻すのが我々の使命です。碇ユイさんを初号機に戻す事になったとしても」
イザナミの全高は、ペーネロペーとサンダーボルトガンダムの中間くらいです