宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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breaking point(限界点)

 私は、黙って隣に立っている。

 シンジくんの肩の震えが手から伝わってくる。

 

 慰めの言葉なんて今の私は上手く言えないし、言葉にした瞬間胸の奥に溜まったどす黒いモノが全部溢れ出して、きっと私は取り繕えなくなる。

 ──目の前でレイちゃんの魂が奪われた光景が、焼き付いて離れない。

 

 だから私は、ただ“隣にいる”ことを選んだ。

 

 リクがユイさんに、静かに、でも逃げ場のない声で問い詰めていく。

 私はそれを横で聞きながら、自分の感情がまた少し波打つのを感じて、深く息を吐いた。

 

 ……あの人は悪い人じゃないことは頭では分かっているけど、“分かっている”ことと“許せる”ことは、まるで別物だ。

 

 ましてや──ゲンドウ。

 あの男の顔を見ただけで、私の拳は勝手に動いていた。

 顔面に拳を叩きつけた感触が、まだ手首に残っている。

 

 今ここで私が口を開けば、きっと同じことになる。

 だから私は沈黙を選んで、代わりにシンジの手をぎゅっと握った。

 この子は被害者で、私と同じだと思う。

 

 リクの声は、相変わらず落ち着いていた。

 怒っていないわけじゃないけど、私より深く怒っているのかもしれない。

 でも、彼はそれを理性で抑え込んでいる。

 リクは人を殺しかねない力"を持っている__というか身に着けているから。

 

 リクの左腕……あの義手は、リミッターを外したら腕の1本足の1本くらいなら平気で折れる。

 やろうと思えば頭蓋骨を握りつぶす事も出来てしまう。

 

 自分に「人を殺せる力」が付いているから、ゲンドウを自分から遠ざけたんだ。

 

 それと、彼がここに来てくれて本当に助かったと思っている。

 こんな状態の私じゃ、冷静さなんて保てない。

 “頼る”って、こんなに胸が軽くなるものだったっけ。

 

 そして全部終わったら──リクは、きっと。

 力を使い果たして、安心して、それで急に弱くなる。

 

 私はそれを受け止めるつもりだ。

 だって私は、彼の妻で、帰る場所だと思うから。

 

 ……何がとは言わないけど、柔らかい枕くらいには、なれる。

 

 だから今は、黙って隣にいよう。

 この子が泣くなら、一緒に泣いてあげる。

 怒りがこぼれそうになったら、握っているこの手を離さない。

 

 そうやって、私達はこの地獄の続きを乗り越えていくのだと、そう思った。

 

 

 

 

 

 _____________

 

 

 

 

 

 

 

「……分かってくれると思った、と。シンジ君の前ですけど容赦しませんからね。天才ってどこか抜けますよね」

 

 聞けば聞くほど呆れていくのをリクはため息とともに感じた。

 美人で頭脳明晰で心優しいが、独特極まりない人生観と死生観がこの悲劇を生み出していた。

 

 肉体が消える=死と捉えない理解困難な死生観は、重病で余命宣告された彼女に「エヴァ初号機の中に入る」という選択をさせてしまったのだ。

 

「あなたの死生観は本当によく分かりませんけど、あの実験であなたは公的には死亡扱いになっています。真相を知るのは冬月さんとマリさんくらいで、ゲンドウは何も知らないから1人で暴走した。SEELEに接触して、Mark.06を参考にしてエヴァも造ってしまって、レイちゃんクローンの身体まで作ってあなたの器を用意した。SEELEまで欺いた以上、常人が出来る事じゃない」

 

「……」

 

「貴方に狂わされたような物です」

 

 シンジが悲しげに顔を歪めるが、構わず続ける。

 これが君の家族だと見せるにはこれがベターで、残酷だった。

 それでも立っていられるのは、自分の心だけではなかった。

 

 それは、先に医務室で待っていたハルナがシンジに付き添っているからだ。

 ただ慰めも反論もせずにただ付き添っているだけ、目の前で今なお広がり続ける地獄を2人で直視しているだけだ。

 

 それに、ハルナはこの件に口を出さないし、上手く出せない。

 自分ではあっという間に感情的になって今は普段通りに考えられない。

 食堂での決起集会でやけくそ気味に叫んだのも、ほぼほぼ勢いのようなものだ。

 

 その点では、リクが飛んできてくれたことに痛いほど感謝をしていた。

 まだどす黒い物が溜まっていて、気を抜いたらそれが暴れ出して無気力になってしまいそうだ。

 幸い、綾波を奪われたのを「見ていない」リクはまだ現実だけに叩かれて軽傷な方だったので、今はリクに頼ろうと思えているのだ。

 

「……そう、ですね」

 

「言い訳は聞きませんが、理解してくれたなら今はそれでいいです。そして、あの初号機はどうやって造ったんですか?」

 

「どう、とは……」

 

「あれだけのものが数十年くらいで出来るとは到底思えない。基礎技術が必要だ。Mark.06がいたとしても、リバースエンジニアリングで解剖しても生体技術の解析からしなければならない。だから聞きたい、アレをどうやって造ったんですか」

 

 そう、どこから地球製エヴァンゲリオンが生まれたかのだ。

 Mark.06という世界を渡ったエヴァがいるとしても、2167年のMark.06現出から30年程で初号機ともう1機が生まれていた。

 エアレーズング主機の劣化複製品であるType-nullとはワケが違うフルスペック機体で、未確認の装甲材を纏い生体組織、そしてコアを持っている。

 

 機体を構成する要素は、1から10まで未確認の技術だ。

 30年という時間があったとしても、莫大な金が動いたとしても、無理があるのだ。

 

「SEELEが付属パイロットをMark.06現出前にあーだこーだと作ってたらしいですが、人工細胞技術が進んでいるとはいえ巨人を作れる程じゃない。どうして造れたんですか?」

 

 

「……造っては、いません」

 

 

「……そういうことですか」

 

 

 造ってはいない、1から造っていないのだ。

 Mark.06を参考にして1から建造した、あるいはMark.06の組織を培養して建造したのでもない。

 そうすれば答えは絞られてくるし、かなり身近な所に答えはあった。

 

 

「AAAWunderと同じ、別世界からの漂流物。違いますか?」

 

「……そうです」

 

 天を仰いだ。

 あの初号機も2番宇宙世界線の機体だったのだ。

 

「腕と足を切り取られた機体を回収した私達は、残されていた機体情報から復元し、実験を行いました」

 

「エヴァを主機にしていたAAAWunderがいるなら主機役のエヴァもどこかにいる筈と考えるべきだった……Mark.06とは違うエヴァの回収で、イレギュラーな機体と正統派が揃ったからゲンドウは機体を造れた」

 

「その機体は、ただの機体ではないね」

 

 

 パーテーションを潜って、カヲルが顔を出してきた。

 呼んでいないはずだったが、どこにいるのか探してここまで来てしまったのだろう。

 

「どういうことだ?」

 

「疑似的に神に近い存在になっていたんだ。尤も、その面影は今は薄れてきているけどね」

 

 いつものアルカイックスマイルは消え難しい表情を浮かべるカヲルは、少し長い話を始めた。

 あくまでカヲルの主観、自分が見て聞いて感じた事だけで構成され証拠も少ないが、少なくともカヲルが見てきた世界線上では、どの初号機も例外なく覚醒している。

 

 無論、策略があっての覚醒もあったため、この初号機もそうかもしれないだろうというのがカヲルの考えだ。

 

 

「NHG……ホースマンを動かしたエヴァはアダムスの器__アダムスのコアから造られた機体である必要があった。NHGもアダムスから造られた。でもAAAWunderだけは、アダムスを可能な限り排除して人が操れるように造られた」

 

「そして初号機を主機に迎えた」

 

「NERV側で何回やってもダメだったから、WILLE側で動いた時の話をするよ。僕は使徒であるから信用はされなかったけど、AAAWunderを知ることは出来た。元来有人仕様ではないNHGからアダムスを可能な限り削ぎ落し、L結界で満たされる世界で活動可能な有人艦艇として、ヴーセからAAAWunderへと改造された」

 

「主機も大問題だったから、代えたということか」

 

「いや、もっといい主機があったから代えたという事だね。アダムスの器よりも強い力を持つ初号機なら、NERVのNHG級と渡り合えるかもしれないと考えたんだろうね」

 

「……強い?」

 

 リクは眉を寄せた。

 単純な出力や演算性能の話ではないのは分かっているが、何故強いのだろうか。

 

「強い、というより──しぶといかな」

 

 カヲルはそう言って、少しだけ困ったように笑った。

 

「神になり損ねた存在はしつこい。完成された神は、目的を果たせば世界から退場する。でも初号機は違う。終わりきれなかった」

 

「シン化した初号機は人のかけた呪縛を全て取り払わず神に近くなった。生命の実と知恵の実の両方を得た訳ではないが、欠片は持ったと思う」

 

「難しいな……兎に角、神化経験のある機体だから、普通の機体よりも強いって事でいい?」

 

「乱暴だね、でもそれでもいい」

 

 急に放り込まれたよく分からない情報に頭をひねることになったが、初号機の出所は分かった。

 そしてエヴァが建造するにあたって使われた物も分かった。

 

 1つはMark.06、発見順で言えばこちらが速く、全ての始祖とも言える立ち位置にいた。

 もう1つは初号機。AAAWunderとセットでこの世界に落ち込んだ機体であり、当時の機能そのままに運用可能な聖遺物だ。

 

 

「……何かゴチャゴチャしてきたな」

 

「神話は人の都合のいいように書き換えられる事もある。ゴチャゴチャするのは当然だね。初号機を見たけど、綾波君の魂をシンジ君の母上の魂と入れ替える事は不可能ではないよ。シンジ君の父上が実際にしてしまったからね、もう1度同じ事を起こす事はできる」

 

「それじゃあ……!」

 

「善は急げ、ということになるね」

 

「それなら話は早い。シンジ君、時間を取らせたけど、2人で話す事を話しておきなさい。僕は暫く出ているから」

 

 そう言うと、リクはハルナとどこかに行ってしまった。

 

 

 

 

 _____________

 

 

 

 

 

 

 ぽすっ

 

「……」

 

 場違いな音がして、私の胸元にリクの頭が落ちてきた。

 額とか頬とかそのまま私の胸元に埋まり、ピリピリした雰囲気が嘘のように消え失せて力が抜け切ったように見える。

 

 ……顔、埋まってる。

 

 私は一瞬だけ目を瞬かせて、何を言わずに受け止めた。

 両腕を回して、リクの後頭部に手を置いた。

 

 リクが何も言わずに私に甘えにくるなんて、本当に珍しい。

 だいたい私が甘やかされる側だから、これは心身ともに相当疲れたんだ……

 

「……ありがとう」

 

 そう声をかけても、返事の言葉は無い。

 代わりに顔を突っ伏したまま頷いてきて、くすぐったい。

 

 さっきまであんな顔で、あんな言葉で、人と罪と家族を相手にしていたとは思えないほど弱弱しい。

 

「……おつかれさま」

 

 私はリクの頭に顎を載せる。

 逃げ場は作らない。

 SEELEからこっち、一息も休めなかったリクを、私は休ませてあげないといけない。

 

 

(本当に、甘え下手な人)

 

 

 私を甘え妻にしたというのに肝心の自分は甘え下手で、私がいないと息抜きが上手く出来ない。

 そして休んでいる様に見えて常に仕事をしている様なリクは、たまにこうなる。

 

(甘えさせられっぱなしなのは、私)

 

 私は何も言わず、ただ指先を動かす。

 髪を撫でて、少しだけ指を沈めて、また戻す。

 

 それを一定のリズムで繰り返す。

 

 逃げ場を与えないでも、引きはがさないでもない。

 ただ、「ここにいていい」と伝えるだけの動き。

 

 

「起きて……いる?」

 

 そう聞いても、リクから寝息は聞こえない。

 エヴァの呪縛モドキで、自発的に眠ることは出来なくなったから、眠れない。

 

 レイちゃんという例外中の例外で、「大きな魂に抱かれれば」眠れるみたいだけど、レイちゃんは今はいない。

 

 頭の重さが少し増した。

 

 

 ああ、完全に委ねてる。

 

「……誰も見てないから、さ。いいんだよ」

 

 その言葉を、聞こえるか聞こえないかくらいで伝える。

 

 返事はやっぱりない。

 でも、安心したと思う、呼吸がまた少しだけ深くなった。

 

 それで十分、今はそれでいい。

 

 

 呼吸の上下に合わせて、胸元がわずかに動く。

 それに合わせて、指先のリズムも自然と揃っていく。

 

 ……本当に、分かりやすい。

 

 全部終わったと同時に糸が切れて、自分で立つのをやめた瞬間、ここに落ちてくる。

 

(ずるいよね)

 

 こんなふうに無防備に委ねられると、離す理由が無くなってしまう。

 

 私は少しだけ腕に力を入れて、逃げられないように、でも苦しくないように抱え直す。

 逃げ場は作らないって、さっき、決めたから。

 

「……次はね」

 

 小さく、ほとんど独り言みたいに呟く。

 

「倒れる前に言って。私……受け止める準備、いつでもできてるから」

 

 でも人がいるときはやめてね?

 急に胸に突っ伏されるとさ、少しはビックリするんだよ?

 

 ……返事はないけど、さっきよりも深く息を吸ったのが分かった。

 

 それでいい。

 帰る場所でだけ、何も考えなくていいなら。

 それはきっと、今は正しいと思う形だ。

 

(ほんと、ブレーキ弱いんだから)

 

 でも、そのブレーキ役が私なら。それでもいいと思う。

 

 自分で自分を甘やかす事が苦手なら、私が甘やかす。

 

 私はまた、何も言わずに撫で続ける。

 

 ……これは、レイちゃんにはしてあげないんだから。

 

 

 _________

 

 

 

 

「ハルナっちサルベージの概要でき……た」

 

 もうマリさんこんな変なタイミングで来ないでください。

 あ、空気読んでそっと入って来てくれた。

 

「限界モード?」

 

「リクは甘え下手なんです」

 

 不思議、誰もいないし来ないと思ってたのに人が来て、私は顔が赤くなると思ってた。

 何だろ、愛おしい、可愛い、とか、そういうのがいっぱいになってる。

 

()は本当に起こりにくいからねぇ。お姉さんは何も見てないし何も聞いてないよ」

 

「真田さんにも言わないでください。婚約発表の時みたいに目を白黒させると思いますから」

 

「まーハルナっちの胸に埋もれてグッタリする時点で限界いってるからねぇ。真田さんにはテキトーに誤魔化しとくから。というかめっちゃ平常心じゃん」

 

「一家の妻なので」

 

「肝っ玉の方?」

 

「そういうのじゃないですよ。多分聞こえてると思いますけど、こうなったら暫くこのまんまなんです。ここにいていいよって伝えてあげないと、どこかで倒れちゃいますから。特に今は」

 

 

 

 

「珍しく、茶化さないんですね」

 

 モゾモゾとリクが頭を動かして、マリを見ている。

 半分しか見えてないはずだけど……くすぐったいんですけど。

 

「流石に弁えるって。シンジくん、ユイパイセンと話せてるよ」

 

「……ん、分かりました」

 

「まーいー感じに誤魔化しとくから、休める時に休みんさい。バイビー」

 

 マリさんは概要をベットの脇に置くと、そっと扉を閉めて行ってしまった。

 埋まったままのリクが概要に手を伸ばそうとするけど、先に私がゲットしてざざっと確認してみた。

 ……片手でリクの頭押さえて片手で資料めくるのはちょっと大変だけど。

 ごめんね、ちょっと苦しいかもしれないけど。

 

「……概要」

 

「私が見ておくから。休んでる時くらい、忘れよ」

 

「……ごめん」

 

「そこはありがとう」

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

 ___________

 

 

 

 

 

「……耳の先端が赤くなっているが、何かあったのか?」

 

「真田さん、そう言うのを聞くのは野暮ってもんですよ。休んでいただけですよ。リっくん、SEELEからこっち無休でしたから」

 

 マリが適当に誤魔化すのを聞きながら、リクはそっと顔を隠した。

 30分くらい顔を埋められていたリクは途中から羞恥と戦うこととなった。

 いい匂いはするし、場所が場所だけに柔らかいし、当の本人が恥ずかしがっていない。

 

 やわらかい笑みばかり浮かべて撫で続けられたものだから抵抗しようがなく、メンタルが多少戻ったはいいが羞恥心だけが残ってしまった。

 

「まぁ今はいい。地球からの定期連絡によれば、ヤマトは無事に地球に帰還し、第86独立機動打撃群と式波くんは予定通りの行動に入った。だが、8番浮遊大陸付近に白色彗星がワープアウトし、現在は沈黙を保っている」

 

「地球の様子は?」

 

「太陽系への敵戦力の侵入は確認されていないが、既にA801が発動された」

 

「絶対防衛命令……」

 

「どこまで出来るかは分からないが、安保理とアリア条約で波動砲の対艦隊使用は許可された。そして何より」

 

「沖田さんがいる、土方さんや世界中の提督たちも」

 

 古代が言葉を引き継ぎ、皆の顔が引き締まる。

 2199年時の航海とは違う。

 地球を守れる戦力がほぼゼロだったあの頃とは違い、戦力の蓄えがある。

 人数は少ないが、ガミラス戦争を生き抜いた生え抜きの覚悟のキマった提督が揃っている。

 

 背後の地球は、任せられる。

 

「ガミラス空間機甲軍団も最先方が残り1000光年の位置に到達した。エリダヌス40を大きく迂回するため3日の遅れが生じるが、太陽系での合流は可能だ」

 

「だったら私達は」

 

「レイちゃんとテレザートに集中すればいい」

 

「その通りだ。私と真希波君、碇ゲンドウの証言で作成したサルベージ計画に沿って、綾波君を救出する。その間にテレザート調査を行う。サルベージに関しては細かな問題は解決に向かっているが、問題はこれだ」

 

「問題となるのは、この楔です」

 

 新見が説明を引き継ぎ、床面のスクリーンにテレザートを模した球体と柱のような物が現れた。

 

「テレザート周辺には人型を模した柱状構造物が3本存在し、これがテレザートの覆う力場的結界を形成している者と思われます。ですが、ガトランティスがエヴァを用い複数本の破壊に成功したようで、推測ですが、封印自体は弱体化しているものと見ています」

 

「そいつを全部壊しちまえば入れるって事か。じゃあどう壊す?」

 

「壊す方向では進めません。恐らく、この場でショックカノンを斉射したとしても結界は破れません。波動砲は分かりませんが、惑星破壊クラスの攻撃を使う訳にはいかないので。ですが、力場の正体は分かりました」

 

「ATフィールド、エヴァンゲリオンが発生させる絶対恐怖領域であり、恐ろしい事に空間にも異常をきたしている」

 

 次に表示された空間計測結果には、目を疑う結果が表示されていた。

 

「本来見えないはずのテレザートが見えていてワープもしない理由は、その空間が複雑に歪んでいるからだった。まるで鎖で拘束されているようだ。柱ごとにやや異なるATフィールドを生成し、それらが相互作用しあいテレザートをこの時空間に縫い留めているのだろう。そしてそれを解くためには、残りの柱を破壊して結界を解くか、初号機を用いて結界を中和して侵入するか。或いはテレザートの調査を諦めるか」

 

 真田の口から意外な選択肢が飛び出し、一同目を合わせた。

 未知の現象への適応能力が異様に高い真田に「諦める」という選択肢を吐かせる程にテレザートの現状は難しい。

 

 確かに初号機はあるが、綾波のサルベージが成功しない事には一切動かせない。

 そして、テレサ側がこの封印をどうこうできるものとは思えない以上、このまま立ち往生するしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『航海艦橋より第1会議室へ! テレザート星に異常反応!』

 

 会議を遮った内線から発せられたのは、テレザート星観測に従事していた観測班からの報告だった。

 

「もっと正確に。何が発生しているの?」

 

『テレザート星全体より未知の発光を観測。……反物質です! 極めて大量の反物質の生成を確認!』

 

「対生成を起こしているのか……! 観測した反粒子は!? エネルギー反応は!?」

 

『反水素です! 観測限界値を振り切っています!』

 

「波動防壁展開! 反物質なら艦体に接触すれば対消滅を起こす危険性がある。最大出力で防御態勢!」

 

 古代も状況の危険さを把握し咄嗟に指示を出す。

 それと同時に安堵もしていた。

 もし反水素でなく「陽電子」や「反陽子」といった粒子であればどうなるか。

 装甲板を構成する原子に含まれる陽子や電子と対消滅を起こし、AAAWunderの装甲はグズグズに溶けることとなっただろう。

 

「第1種警戒態勢! 艦橋に戻る!」

 

 _________________

 

 

 

 

 その後、どう説明すればいいのか。

 まず、テレザートは自力で封印を破った。

 ここまでの苦労と苦難は何だったのかと一同頭に血が上りそうになったが、マリの発言が皆を諫める事となった。

 

「鎖が解けかけてたから自力で何とかできましたテヘ。じゃないの?」

 

 言われてみれば、ガトランティスは既に何本かの破壊に成功していた。

 もし残っていた柱が10本20本であればそうはいかなかったが、残り3本であれば対処可能だったのだろう。

 

 さらに、テレサの持つ力は、あらゆる願いを叶えられる。

 時に星座の形すら変える程の力を持つなら、自身に絡みつく鎖を解く事くらいわけないだろうと。

 

 そこで一同は思い出した。

 

 

(そういえばテレサ、高次元生命体だったな)

 

 

「おいおい……」

 

「何か封印解いちゃったね……主人公覚醒みたいな感じで、パーンって」

 

「言い得て妙。取り敢えず陸戦隊って感じかな? 秋水は残ってくれたし」

 

「分かっている。だから君達でポンポン進めるな。出来れば太陽系に戻るまで君達を休ませておきたいんだが……」

 

「そういう訳にもいかないのが現状ですよ真田さん、終戦になったら事後処理は大体他の人に投げて旅行行きますから。有給使えてないです」

 

「その有給で綾波君を旅行に連れ回しなさい。彼女はそういうことをほとんど経験してないから、いい経験にもなるだろう。確か……赤くない海を見に行った事があるらしい」

 

「赤くない海?」

 

「綾波君がいた世界では、セカンドインパクトで海は赤く染まり生物が住めなかったそうだ。だがそれを浄化して生物が住める海を作る研究が行われて、実際に成功もしていたらしい。何の因果かは不明だが、復活した海洋生物研究保護用にKOMPASSがメガフロート建設を行っている。君達なら見学位問題ないだろう。仮に三佐でも三尉でも、地球全体で見ても相当な人物になってしまっているから、どこも無理に断れない」

 

「なるつもりなかったです」

 

「そうだな……戦争が終われば、君達はどうするんだ?」

 

「考える暇もないです。でも私は……退役してみようかなって思います」

 

「退役?」

 

「キャリアを全消しするわけじゃないですよ? 今の設計局に民間からの出向の主任役ってことで入り直します。それなら、帰る場所になれるかなって」

 

 そう言うと、ハルナはリクの頭を捕まえ腕で拘束して自身の胸に押し付けた。

 

「!?」

 

「ハルナっちどしたのお姉さん折角ナイショにしてあげたのに!!」

 

 真田はフリーズ、リクはショート、マリはロールバックで吹き出し、肝心のハルナは特に恥ずかしがる事無く慈愛の笑みを浮かべていた。

 

「さっきこうしてあげてたんですけど、私はリクに甘やかされまくってたんだなぁって改めて理解して、それで、レイちゃんとリクが帰って来て甘やかせる場所になりたいなぁって思ってしまったんです」

 

「何だか原田君と同じようになってきたな。森くんも退役を考えているようだし、女性陣は伴侶を見つけると寿退職するのがテンプレートなのか?」

 

「真田さん違いますにゃ、あといい加減伴侶を見つけて下さいにゃ」

 

 

(((新見さんをとっ捕まえて幸せになってください)))

 

 

 偶然か必然か、リク、ハルナ、マリの心はシンクロした。

 コンピュータ人間の面影がさらに薄まった今であれば真田に相手を与える事もできるだろう。

 だが当の本人のアンテナが立たない限りは好意をキャッチする事も儘ならない。

 

「というかハルナさんは恥ずかしくないんですか? その、いくらなんでも……」

 

「何か恥ずかしいとかそういうのよりも別のヤツが色々先行しているみたいで。それにこの旦那様は私が支えてあげないとダメなんです。こんなブレーキ不良品な人はなかなかいませんから。あと、新見さんも婚期逃しちゃダメですよ30歳いってますからね?」

 

「ハ"ル"ナ"さ"ん"」

 

 この日、マリはいつも通りの悪い笑みを浮かべ、真田と新見をくっつける事を固く心に誓ったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、サルベージの概要を」

 

「その前にリク君を開放して冷ましなさい」




ハルナさん退役コースが確定しました
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