宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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第5章公開、おめでとうございます。
一通り落ち着いたので投稿します


Goodbye and Welcome Back(さよならとおかえりを)

ファルコンspec2、秋水に護衛されたシーガルがゆっくりとテレザートに降下していく。

地球やイスカンダルとよく似た青々とした海は星全体に広がり、あとは小さな小島が点々とするだけだ。

 

大陸と呼べるような大地は無く、真の意味で水の惑星だろう。

 

「現在、高度3400、風速3。大気組成は地球と何ら変わりありません」

 

「もう何が来ても驚かねぇぞ。今この場で女神様が出てきてもな」

 

護衛として斉藤、永倉、ガミラス側有識者としてキーマン、そして古代と真田が向かったその地はテレザリアムだ。

高次元に住まうテレサに会う事が出来るとされている窓であり、住まう次元が異なる者同士が存在できる場所だ。

 

そしてその場所は、1000年前以上の文明が書き残した伝説の場所であり、偶然と必然が重なり合わなければ辿り着く事が出来なかった場所だ。

 

 

「サルベージに立ち会いたかったが、睦月君達が押し飛ばしてきたからな……親として、譲れない部分があったのだろう」

 

「向こうには新見さんとマリさんがいます。赤木博士から概要の調整も入りました」

 

()()()()には感謝してもしきれないな」

 

疑似シン化第2形態に達した初号機から、赤木リツコ()()はシンジをサルベージした経験があった。

その記憶と経験が何処まで活きるかは分からないが、地球でサポートを続けるリツコは受け渡された副長としての記憶から推測も交えて、「魂の交換」とも呼ぶべき手段を構築した。

 

そのリツコはどこにいるかと言われれば、月面だ。

月面で接収した基地にとある機体を運び込み、実戦に耐えきれる改修と専属パイロットに合わせた調整を急ピッチで行っているのだ。

 

だから現場は嵐のようだ。

だが、そんな他の事に手が回らない中でも何とか時間を割いて、こうして「綾波レイサルベージ計画」を作成したのだ。

 

それが、10日だ。

10日間で組み立てられた救出計画は、2番宇宙で「封印軌道に安置されていた初号機からシンジをサルベージするために立案された計画」を骨子にして真田とマリの案のほぼ全てに赤で修正を入れたものであり、マリと真田は珍しく頭を抱えた。

 

知識の差はあるとしても、ここまで修正を食らうとは想定していなかったのだ。

 

学生時代の課題の添削を思い出す程の修正により明らかに確度は上がり、計画の送付から2日という時間で初号機はとある場所に運び込まれた。

 

AAAWunder中央船体、元々初号機が主機として格納されていた場所だ。

何故そこなのかは分からない、何故そこに運び込めば上手くいくのかは分からない。

でも確かなのは、綾波が守った初号機は確かにその場所にあった。

綾波は、シンジが二度とエヴァに乗らなくていいように、魂だけに成り果てようともその場を守り通した。

その場所であれば、初号機に囚われた綾波に干渉出来るだろうという一種の希望的な物だ。

 

そんな物にすがるのはどうかとも思っただろう。

でも、そうしようと言ったのはリクだった。

辛い心を周りから隠そうとしても限界がある、だったら希望的な物にでもすがろうと提案したリクが計画に捻じ込んだのだ。

 

リクもハルナも大きな負担を心に抱えている。

対処療法では根本的な物を取り切れないから不安げな顔とため息が増えていった。

そして、互いに体重を預け合う時が増えていた。

 

「テレザート上空、これより降下します」

 

「……今は、信じよう」

 

テレザリアムにぽっかりと空いた空洞に降下していくその時、目を疑う光景が映っていた。

巨大な人型をかたどった石像、突き刺さった槍、大破したテレザリアム、まるで侵略戦争が起こったような跡だ。

 

軌道上では観測できなかった痛々しい跡が次々と見つかり、野原になっている筈の場所にも槍のような物が突き刺さっていた。

 

「何か気持ち悪いな……」

 

「正直言って、睦月君達が来てなくて良かった。恐らく槍の類だ」

 

「初号機に仕込まれていると言われた、槍ですか」

 

「我々では感知できないが、異様な雰囲気だけは感じている。ここには元々無かったものだ」

 

見ると、石像では無い巨人も転がっている。

石像では無い巨人は四肢が千切れた物もあるが、石像になりかけているモノもあった。

 

石像が転がっているのではない、ここには石像になってしまった巨人が転がっているのだ。

 

エヴァに似た巨人、アダムやリリスと言った巨人に近いものがこの場に侵略したのだろう。

 

_________

 

 

一方その頃、軌道上のAAAWunderでは急ピッチで準備が進められていた。

 

初号機を秋水4機がかりで中央船体内部に押し込み、初号機を覆い隠す様に様々な装置が取り付けられていく。

エントリープラグ挿入口を囲うように電磁波計測装置が取り付けられ、コアに当たる部分には筒状の物体が据えられた。

 

その中には、赤黒い槍の破片が入っていた。

 

カシウスだろうか、ロンギヌスだろうか、それは分からない。

カヲルが見ても分からなかったが、それは確かに槍だ。

 

人が触れるには危険すぎる代物であり、カヲルの手により慎重に移動させられたそれは機械で固定されてピストンの要領でコアに突き立てられるように調整された。

あとは、エントリープラグを挿入してサルベージをするだけだ。

 

紙にすればちょっとした文庫本並みの分厚さの計画書に沿った準備は三交代制の人手をフル稼働させてノンストップで行われ、2日で用意された。

 

そして、シンジの頼みでとあることが行われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「出ろ」

 

「……」

 

「出ろって言ってんだよ」

 

「……何がしたい」

 

「聞くな。あと、僕があなたを殺さないうちに従え」

 

鉄色の義手がゲンドウの腕を掴み、引き摺って行った。

 

「僕に頼むなと言ったら星名くんに話をして、その星名くんが僕に頼んで来るとはな……」

 

間違えて手首を粉砕しないように細心の注意を払い、()()はゲンドウを医務室に引き摺っていった。

顔を見る事も無く兎に角引き摺っていき、医務室のドアを開けると手荒く放り出した。

 

「ユイさん、貴方もです。話すことは話してください」

 

そう言うと、リクは生身の腕の方でシンジを捕まえて医務室の外へ引っ張っていった。

誰もいない通路に辿り着くと、不満たっぷりな顔をシンジに向けた。

 

「頼むなと言ったら他を経由して頼むとは……シンジ君、君、両方に似て賢いけど、使い方に気を付けるように。星名くんから職務として押し付けられたからやったけど、本当はやりたくなかったからな」

 

「でも……なにも知らないところで、また戻されるのは……父さんが、また壊れると思ったんです」

 

「壊れるなら勝手に壊れれば……ごめん、そういうのじゃないな。少しでも会わせて整理させておけば、また狂う確率は多少は減るということにしておく」

 

「……はい」

 

「君はゲンドウと同じ才を持っている。人を動かせる力だ。道具にも刃にもなる……だから、軽く使うな。さっき君に使われたから分かるけど、危ないぞ」

 

「……」

 

「反省は後だ、才能の使い方は自分で考えなさい」

 

そう打ち切ると、リクは端末を取り出してオオスミにいるハルナに通話を繋げた。

 

「やることは終わった。そっちは?」

 

『あとは搭乗だけよ。管制室には冬月さんもいるけど、ホントにやるんだね? モニター越しという訳にはいかないの?』

 

「最後になるかもしれないから、一番近い場所で別れくらいさせる。恐らくだけど、タブハベースでのダイレクトエントリーの時は『見てはいたけど記憶を消されてる』だろう」

 

『……いいんだね』

 

「後のフォローはするから」

 

『だめ』

 

「?」

 

『……不器用だから、リクは。パパっぽくなってきてるけど、まだ全然』

 

「……自覚はある」

 

『あるだけマシ。でもね』

 

通信の向こうで、ハルナは一度息を吸った。

 

『「後のフォローはするから」って言葉、便利だけど。それ、シンジくんには“見捨てられないための約束”に聞こえる』

 

「……」

 

『今の彼に必要なのは、フォローじゃない。“壊れたら隣にいる”って実感』

 

「同じことじゃないのか?」

 

『違うね。フォローって言葉は上からなの。支えるって言葉は、横に立つこと』

 

少し間が空いた。

 

『……リク、私の旦那様は知識と技術で人類を救ってる。でも、父親をやるには、まだ優しさが真っ直ぐすぎる』

 

「じゃあ、どうする」

 

『簡単よ』

 

ハルナの声は、いつもより少し柔らかかった。

 

『止めないけど、終わったあとに「大丈夫か?」じゃなくて「一緒に考えるか?」って言ってあげて。多分、シンジ君はこの先、ユイさんだけじゃなくてゲンドウも失うと思う。死ぬわけではないと思うけど、2度と会えないと思う』

 

「……それだけでいいのか」

 

『それが一番難しいの。答えを出さないで、隣にいるって覚悟が要るから。私は一足先に母親になれたから、分かるよ』

 

通信の向こうで、微かに笑う気配がした。

 

『ね、リク。あなたが全部背負う必要なんて、ないのよ』

 

「……分かった」

 

『よし。じゃあ私は管制室にいるから』

 

通話が切れる。

リクはしばらく端末を見つめたまま、動けずにいた。

 

(……まだ全然、か)

 

否定はできなかったけど――それでもいい、とも思えた。

まだ途中で、不器用で、だからこそ隣に立てる。

 

「……行こう」

 

 

___________

 

 

 

医務室に放り込まれたゲンドウを待っていたのは、ユイだった。

申し訳なさそうな顔をしてベットから降り、そっとゲンドウの手を取ると、ゲンドウは信じられないような顔をした。

 

目の前で、ユイが生きて、自分の手を取っている。

サルベージに成功したはいいが空間騎兵1個師団の強襲を受けて、尋問と軟禁を受けたのに、何故

会えているのか。

 

重罪人と言われる程の事をして軟禁されたというのに、何故会えているのか。

 

 

 

「あなた」

 

「……っ!!」

 

「全てのキッカケは私。説明しなかった私に問題があるって、リクさんに怒られたわ」

 

ユイの声は、綾波の声だ。

それでも、ゲンドウにはユイの声に聞こえていた。

 

 

 

(名前、決めてくれた?)

 

(男だったらシンジ、女だったらレイと名付ける)

 

(シンジ……レイ……)

 

 

 

ユイがシンジを身籠りしばらくしたあの日、名前を考え、それを伝えたあの時。

幸せの頂点に立っていたあの時。

 

遠い彼方に置いてきたあの日が蘇り、ゲンドウは崩れた。

 

「あなた。これは言わせて欲しいの」

 

「……なんだ」

 

「また会えて嬉しいのは、本当よ。方法はアレだったけど、こうやって、貴方と話せたのはよかった事だと思う」

 

「ユイ……」

 

「ネオンジェネシス、その達成が私の願い。でも、人類すべてが消えることを望まない。できる事なら、貴方も彼らに協力してあげて」

 

「だが……私は……」

 

「分かるわ。あのリクという青年は」

 

悲しげな笑みをゲンドウに向けるユイは、ある事を考えていた。

ゲンドウとリクはどう違ったのか、どう似ているのか。

 

 

……両者とも不器用なのだ。

言葉ではなく、その行動でしか愛を伝えられない。

 

でも違ったのは、いつか失うものとして子を放り出す事を是とせず、守り通そうとする事。

どんな荒波と絶望に襲われようとも、その指針を放り出さない事だ。

 

「あなたと同じ不器用な大人だけど、最期まで子供を離そうとしない。1人で頑張ってしまって息継ぎが出来ないけど、墓まで行ってくれるくらいに寄り添う人がいる」

 

淡々と自分を落としながら言葉を紡ぎ、ゲンドウは何も言わずに言葉を聴いていた。

そうだ、自分たちは家庭を作ったが、およそ一般的と呼ぶにはふさわしくない物だった。

 

……いや、一般的という基準は何なのだろうか。

 

それは分からない、個として生きる世界にはその基準は人の数星の数ほどあり、自分たちが築いた家庭もまた、ある意味では一般的だったのだろう。

 

 

『時間です。ユイさん、機体の方へご案内します。ご準備下さい』

 

「もう時間ね」

 

「……ああ」

 

腰かけていたベットから降りたユイは穏やかな笑みのまま、医務室を後にしようとした。

言わなければならない。逃げてはいけないと自分で自分を蹴り飛ばしたゲンドウは、最後に声を出した。

 

「ユイ」

 

「なぁに?」

 

「……すまなかった」

 

「シンジにも、言ってあげてね」

 

「……ああ」

 

____________

 

 

テレザリアムに無事に侵入できた古代達は、長い長い一本道を進んでいた。

イスカンダルと同時期に芽吹いたであろう超古代文明であるテレザート文明はその古の空気を現代まで守り通し、複雑に彫り込まれた文様は多くの文明が遺したテレザート伝説を次々と肯定していく。

 

真田が構えるカメラとセンサーにはテレザリアムの内壁のスキャン情報が蓄積されていき、星間文明史上初のテレザート星上陸の記録を漏れなく保存していく。

 

「保存状態が良過ぎる。人工物ではあるが、1000年以上前に作られたとしても説明が付かない」

 

既に、未知の粒子らしきものが観測されている。

この世界では観測されていない粒子であるが、「粒子のようなもの」としか観測できず、エラーを吐き続けている。

カメラもセンサーもこの世界のルールに沿って観測を行う機材であり、通常空間と高次元の境目でここならば、両方の空間のルールが併存しているのだろう。

 

「時空そのものが歪んでいるわけではないが、今のところ、我々の身体に影響を及ぼす様な物はなさそうだな」

 

「……期待させたところすまないが、ここは巡礼地として何者かが来ていたのだろう。見ろ」

 

キーマンが指さした場所には、何者かの遺体が横たわっていた。

船外服のような物を着た遺体、民族衣装を着た遺体、骨だけになった遺体、多くはないが何体も転がっている。

 

石像になった巨人といい、この遺体といい、テレザートで何が起こっていたのか。

 

「道が開けた。ここが、終点だろう」

 

巨大な空洞に辿り着いたが、本当に空洞なのかと怪しく思えるほどに明るい。

だが、照明のような人工の光ではない。

陽光のような暖かさと直接目にしても目が眩まない明るさは、その目の前の球体から生まれていた。

 

大きくねじれ絡まりあう大樹の聖杯に包まれるその球体は、時々拍動のように明滅し、確実に「いる」ことを理解させてくる。

 

観測に意味はないとスキャナーを下ろした真田には、一種の諦めが生まれていた。

自分はこの世界の住人であり、高次元や他世界の理は分からない。

 

今は諦めよう、「今は」観測することに意味はない。

だが諦めたわけではない。

原因と結果は必ず繋がるから、いつかきっと分かる。

 

真田は、そう考えた。

 

 


 

 

ここは……エントリープラグの中。

 

髪が長い、そうだ。

 

碇くんが、もう、エヴァに乗らなくてもいいように、ここを守ってたのに。

 

今は、私がエヴァの魂になってしまっている。

 

 

強大なリリスの魂、私はその力の大半を生存に回して生きてきた。

 

お母さんとお父さんの元で暮らし始めてからは、だんだんとそうしなくてもよくなってきた。

 

体が強いわけではないけど、人並みに動けるし、人並みに食べたりもする。

 

お肉は苦手だから、お母さんに向けての文句をアスカにぶつけながら野菜丼を食べてた。

 

 

 

 

 

私は、そんな普通に見える日常を奪われた。

 

 

肉体を失った虚無感が押し寄せてくる。

 

 

霞のように世界に滲む自分の身体が見える。

 

 

碇くんをもうエヴァに乗せない為に、私はこのままここにいるべきかもしれない。

 

 

でも、そう決められない。

 

 

お母さん、お父さん、真田さん、真希波さん……碇くん。

 

 

いるのは分かっている、来ているのは分かっている。

 

 

 

それなのに、どうして私はここに閉じ込められてしまったのだろうか。

 

 

 

ナカナイデ、ワタシ

 

 

 

「誰……ッ?!」

 

 

 

10ニンメノワタシ

 

8バンメノワタシ

 

11バンメノワタシ

 

 

エアレーズングの私

 

 

「何故、貴方がまだ平静を保てていると思う?」

 

「……分からない。何故?」

 

「私達……表現を間違えた。訂正する。シャンブロウであなたが救った魂、理を犯し封じ込められた魂が、貴方を守り続けているから」

 

「私を?」

 

「取り込んで終わりではない。貴方は、奇妙な縁を作ってしまった。自分と同じ顔をした姉妹、魂たちとの奇妙な縁。他人と呼んでいいのか、自分の複製と呼んでいいのかも分からない奇妙な縁。それでも、どんな縁は無視できない」

 

縁、それは切っても切れないもの。

あの時には考えもしなかった人と人とのつながりの輪。

 

思えば、随分と深い縁を自分は作ってきた。

 

血は繋がっていないとはいえ、親子の縁を。

 

いい大人との縁を。

 

そして、魂との縁を。

 

亡くなってしまった人とも、縁を繋いだ。

 

コスモリバースとなった初代艦長___ミサトさんとの縁。

 

そして、碇くんとの縁。

 

 

 

(違う!! 綾波は綾波しかいない!!)

 

 

(だから今! 助ける!!)

 

 

 

この世界の彼に、同じ事はして欲しくない。

また、世界を壊した張本人にされるのは嫌だ。

 

 

 

人形の様だと言われた過去と、喜怒哀楽に振り回される今。

私は、今の方が好きだ。

 

 

 

だから、私は生まれて初めてこう思った。

 

 

 

 

「助けて……! お母さん……お父さん……碇くん……ッ!」

 

 

 

________________

 

 

 

レイちゃんのサルベージの参考になってしまったあの事件は、WILLEでは特一級機密情報として未来永劫封印されることになった。

公にできるような事件ではないのは当たり前の事だから、戦後には碇ゲンドウを収監することが議論されている。

安保理がそう決めたのを地球からの定期連絡で聞いたけど、私はそれで終わらせられない。

 

 

だから、死に物狂いで準備を終わらせたんだ。

 

 

『エントリープラグ、与圧区画より搬出。中央船体へ移動開始』

 

 

『運搬担当機は搬送に細心の注意を払って下さい』

 

 

『ロンギヌスクリッカー、安全装置問題無し。デストルドー反応微弱、個体生命への影響なし』

 

 

『本艦補機74改3式より起動用電力を充填中』

 

 

『全周波数帯での電磁波観測結果はグリーン。コア周辺の異常数値は認められません』

 

 

本当はオールガミロイドで半無人作業にしたかったけど、ヤマト突撃からの1個師団展開で7割がスクラップだから、どうしてもガミロイドを使った方がいい部分だけにしか使えていない。

 

事実、ロンギヌスという「波動防壁も無意味な特級呪物」がそこにあるから、下手をしたらデストルドーで人が壊れてしまうんだ。

 

その「どうしてもガミロイドを使わないとダメ」な部分には投入したけど、残りは甲板部とか手空きの要員をかき集めて200人体制で何とかゴリ押しした。

 

「連れて来た」

 

「うん……シンジ君、引き返すなら今のうちだよ」

 

『逃げたく……ないんです。綾波さんだけ戦ってて、助けられないのは……』

 

 

「レイちゃんが戻って来たら、付き添ってあげて欲しい。僕らは後始末で駆けずり回るから、誰もいないのはよくない。それとシンジ君。レイちゃんは……君ではない方の君を知っている。だから……どう接していいのか困るかもしれない。それでも、付き添ってあげて欲しい。この世界での、レイちゃんの最初の友人になってあげて欲しい。接する人は全員大人だったし、事情が事情で同世代と接する機会がほぼなかったんだ」

 

「私からもお願い。全部カタが付いたら、レイちゃんには普通だと思う生活を送らせてあげたいんだ。その為には、長官の胃に穴開けてでもやり切るわ」

 

「それはダメだ。ハルナの退役が通らなくなるのは困る」

 

娘を取り返す一大作戦の前だというのに軽口が飛び出すのは、やっぱり極度の緊張で張り詰めているからだ。

ゲンドウが通った道を逆向きに辿るこの方法はシンジが同乗する事で難易度がやや上がったけど、レイちゃんとユイさんの魂の入れ替えが起こった時「綾波にだけ激烈な反応があった」んだ。

私の場合と異なりシンジは感知できないけど、感知できるものがロンギヌスの影響を受けるとした場合シンジくんはロンギヌスの影響を受けないかもしれない。

 

それに、こうして乗れば、AAAWunderのシンジくんとも邂逅できるかもしれない。

勿論リクはその事もシンジ君に伝えてくれてるし、シンジくんはそれも知ったうえで初号機に乗り込んでくれた。

 

 

 

「エントリープラグ挿入完了。いけるよ、ハルナっち」

 

「シンジ君、ユイさん、始めるよ」

 

「「はい」」

 

 

ここから先で失敗したら、自分も元には戻れない。

この場でぐちゃぐちゃに壊れてしまって、二度と立っていられない心になってしまうかもしれない。

 

 

いや構わない、逃げるな、無事に終わったら、沢山泣こう。

 

そう決めて私は、号令をかけた。

 

 

 

 

「エントリースタート」

 

「了解、探査針打ち込み終了、精神汚染計測値はプラス02からマイナス05を維持、インテリアも固定よし」

 

「エントリープラグを注水。シンジ君、ユイさん、LCLに浸かっても生物は溺れない。慣れないと思うけど、物凄く重い空気を吸い込むイメージで肺を満たして」

 

下から上がってくるLCLにやはり驚いたシンジは、当然のように息を止めてLCLの中に浮いていた。

自分も経験した事だ、初見だと怖いよねコレ。

 

ユイさんは初号機へのダイレクトエントリーで既に体験済みだったのか躊躇なく肺を満たしてしまい、シンジ君も意を決して残ってた空気を全部吐き出した。

 

「シンジ君とユイさんのバイタル問題無し、プラグスーツで観測できる限り、血中酸素及び心拍血圧、脳波に異常なし。緊張しているだけ。次、第2次コンタクト入るよ」

 

マリさんと新見さんがコンソールを叩きさらに工程を進める。

 

「A10神経接続開始。LCL転化状態は正常。思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス、コミュニケーション回線開いて、リストオールクリア、シナプス計測、シンクロ率……99.89%!?」

 

「一旦止めて! フィード情報に異常ない?!」

 

「ありません。ハーモニクス全て正常値、コアからの異常反応ありません。恐らく……」

 

「シンジ君とレイちゃんは異母兄妹みたいなものだからだな……ユイさんが母かリリスが母かだ。そこに目を瞑れば親族どころか肉親だからな……レイちゃんが気付いているんだ」

 

 

「シンジ君、身体に異常とか、変な気配を感じたりする?」

 

『えっと……ありません。でも、凄く安心感があるというか……分かりません。あの、コアに綾波さんがいる事に、何か関係があるんですか……?』

 

「あると思う。確証はないけど、君が来ていて今初号機に乗っている事に気が付いているかもしれない。どちらかといえばいい兆候だ。サルベージに入る。ユイさん……ゲンドウさんに、最後に挨拶だけしてあげて下さい」

 

画面に引きずり込んでリクはゲンドウを立たせた。

これからこの男は戦後までの時間を営倉の中で過ごす事となる。

そこに本人の意思はなく、上層部の判断だ。

 

最後の面会、そうなるだろう。

 

「ユイ……」

 

『あなた……シンジをお願いね』

 

「私は……君の息子を捨てているんだぞ」

 

『それでも、貴方の子よ。リクさんが言っていたの、見た目は似てないけど才は受け継いでいるって。できれば、貴方にシンジを見守ってもらいたいけど、WILLEが許さないと思う』

 

「残念ながら。上層部に要望捻じ込んでも、これは却下されると思います。設計局の権限は大きいですけど、所詮はWILLE内の直轄組織なので我儘を通せる限度があります。ですが、面会を自由にするくらいなら通せるかと」

 

『リクさん……』

 

「大人にもできる事とできない事がある。組織にいるなら尚更だ」

 

悔しいが、これが現実だ。

エヴァを使えばインパクトを引き起こす事も出来るこの事実は安全保障上の問題に抵触してくる。

 

それに今回は人命が関わった、人が巻き込まれた。

 

心を抉られた人がいた。

 

それを全てなかった事にはできないが、あるべき形にできるだけ戻す事は出来る。

 

 

「シンジ」

 

『父さん……』

 

「……私はこの先、お前と暮らす事はできないだろう。暮らしたくもないだろう。それで構わない。私は一度お前を捨てているからな。それでも、お前との縁が切れる前に言わせて欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

「すまなかったな、シンジ」

 

 

 

 

 

 

 

『暮らせないかもしれないというのは……リクさんから聞いていた。WILLEから指名手配を受けている事も、世界の安全にもかかわるって事も、全部。でも……父さんがいた事、した事から、僕は逃げないから』

 

「死ぬことが清算とか言わせませんから無期懲役でも受け入れて下さい。じゃあ……サルベージを開始する」

 

(頼むぞシンジ君、君が君を助けてくれれば、君はエヴァを動かす為の経験を得られるんだ)

 

 

___________________

 

 

 

「始まった……」

 

旧AAAWunder艦内で1人立つシンジは、もう1人の自分の存在を感じていた。

初号機に乗っている自分、そして、そのコアに押し込められた綾波、1度シンジの元に転がり落ちてきたハルナ、そしてゲンドウの存在を感じていた。

 

自分はここから出ることはできない。

いや、仮に出られたとしてもどうやって生きるのか、シンジには分からなかった。

 

綾波が外に出られたのは、WILLEが綾波の肉体をゲットして、それを依り代にする事ができたからで、シンジの場合もそうするしかない。

 

自分のコピーなんてあるとは思えない。

 

だから、諦めてこのままここにいようとも思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は、僕なのか……?」

 

「えっ……僕がいる」

 

気付いた時には、自分はAAAWunderの甲板に立っていた。

耐爆隔離室の無機質な複合装甲の色ではなく、旧南極爆心地のような赤でもなく、ただ何もない真っ白な空間が広がっていた。

 

「リクさんとハルナさんに言われてここに来た。もう1人の僕もサルベージするために」

 

「僕を……?」

 

「僕は綾波さんを助けたいから、初号機に乗ることを決めた。その綾波さんも、今初号機から魂を救出している。僕の母さんが、綾波さんの身体に入ってしまったから、入れ替えているような感じになっているけど」

 

「でも、どうやってここから出るのか、分からないんだ」

 

「……方法はあると思う。エヴァに乗っている今の僕なら、同じ事がもしかしたらできるかもしれない」

 

「?」

 

「綾波さんは、リクさんの魂を通って今の身体に移っている。だから、君は僕と一緒にいればここから出られる。リクさんもハルナさんもそう考えている、僕もそう信じる」

 

 

そう言い切り、勢いよく手を差し出した。

 

 

「僕と来て僕!」

 

「っ!?」

 

「2人で綾波さんを……綾波を助けるんだ! アディショナルインパクトを起こされる前に儀式を壊して、エヴァの無い世界を造ろう! 世界の為なんかじゃない! 僕は! 綾波を助けたいからやるんだ!」

 

 

 

 

 

(誰かの為じゃない! あなた自身の願いの為に!!)

 

 

(シンジ君は安らぎと自分の場所を見つければいい)

 

 

(碇シンジ君、君は何を望むんだい?)

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、カヲル君。僕は往くよ」

 

(それが君の選択なら、僕は否定しないよ。縁が君を導くだろう。いや、もう導かれているか、自分で引き寄せたかだね)

 

その瞬間、2人の足元から光が広がった。

全長2500mの旧AAAWunderが光に飲み込まれていき、ヤマト作戦から残された破損個所が修復され、現在の姿に変わっていく。

 

大きく歪んだターレットリングは円形に戻り、現実のAAAWunderと同じ主砲が据えられた。

 

千切れ飛んだ装甲が生物のように癒着し、おびただしい数のVLSが出現した。

 

主機として据えられた初号機は消え、両舷第2船体にツインドライヴが納められた。

 

白一色に染められた空間がほどけていき、そこには漆黒の宇宙と散りばめられた星々、眼前にテレザートが現れていき、虚構(イマジナリー)現実(リアリティ)は溶け合った。

 

 

 

「行こう、もう1人の僕」

 

「ありがとう、もう1人の僕」

 

 

 

 

________________

 

 

 

まさかまた初号機に沈む事になるとはと、ユイは奇妙な微笑みを抑えられなかった。

 

最初は残り少ない寿命を超えてネオンジェネシスを迎えるために初号機に沈んだ。

今は身体の持ち主にこの体を返す為に沈む。

 

シンジの意識は、今何を見ているのだろうか。

 

リクの説明では、AAAWunderに封じ込められている別世界のシンジをサルベージするために向かっているようだが、ユイは今シンジが何処にいるのかが分かっていた。

 

アダムス組織、この艦の中央船体だ。

 

エヴァ由来、使徒由来の素材を持っている艦なら魂を封じ込めることもあり得ると思ったけど、やっぱりこの艦はおかしい、そして存在自体があり得ない。

 

本当は生まれる筈ではなかったんだ。

 

ここではない別の世界でインパクトが起こらなければ、別の世界のあなたがインパクトを起こさなければこの船はこの世界で生まれなかった。

 

イレギュラーは生まれなかった。

 

でもこの世界でこの艦が生まれたことで、人類の歴史が閉じず、2200年を越えた。

 

……話し過ぎたかと感じたユイは、やるべき事を始めた。

 

 

 

 

「あなたが、レイちゃん?」

 

「……碇くんの、お母さん」

 

「あら、聞いてたの?」

 

「聞いてない。でも、碇君と似てる」

 

「そっか……巻き込んで、ごめんなさい」

 

「……怖かった、寂しかった。エヴァの中は知っていたのに、とても寂しかった」

 

「そう……あなたも、エヴァのコアの中を知っていたのね」

 

綾波はこくんと頷くと、慎重に言葉を発し始めた。

 

「あの時は、碇くんが、もう、エヴァに乗らなくてもいいように私が残っていた。碇くんと一緒にサルベージされる事もできたけど、もう乗せたくなかったから」

 

「……ごめんね、シンジが今乗っているの」

 

綾波は気付いていたんだ。

リクが乗せたのだろうか、乗らざるを得ない状況を作ったのだろうか。

シンジの心は感じていたが、半分あり得ないだろうと思いながらこう聞いてきた。

 

「乗せられたの?」

 

「ううん、自分の意思で。あなたを助けたいから、乗ったの。リクさんから説明は受けていたよ。貴方のお父さんはあの人みたいにはなれないから、全てを打ち上げる事にしたの」

 

エヴァが2人の心を繋いでいた。

シンクロが2人の心を繋ぎ、彼の心に触れたから、助けるために乗った事を知ったのだ。

 

 

 

 

「私は、あなたを帰すためにここに来たの。元居た場所に戻り、あなたは元居た場所に戻る」

 

「……帰れるの?」

 

「あなたのお父さんとお母さんが、帰れるようにしてくれた。私は貴方に身体を返し、あなたは私にエヴァの身体を返す。それだけで、あなたは帰れる」

 

「……帰りたい。ここは、暗くて冷たい」

 

「人によって感じ方が違うのかもしれないのね。レイちゃん」

 

「何?」

 

「あの子を好いてくれるなら、あの子の事を見てあげて」

 

その言葉の意味を読み間違える程、綾波はおかしくなっていない。

ぶわっと顔が熱くなると、恥ずかしさと「そういう目で見てもいいのか」という感情が押し寄せた。

 

綾波は、シンジに「好き」を教わった。

でも、それは今の彼じゃない。

 

「でも……私の知ってる碇くんじゃない。好きになっていいのか、分からない」

 

「でも、シンジがあなたの事を好きになってくれるかもしれない。あなたが知っているシンジも、彼とともにいる事を選んでくれるかもしれない。あなたの事を、大事に想ってくれるわ」

 

「分からない。でも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かに言われてじゃなくて、私を助けるために乗ったのは、ぽかぽかする」

 

それを聞いたユイは、綾波の腕を掴み、上へと大きく投げ飛ばした。

光も届かない群青色の深淵から、光の揺れる水面へと、自分の意思とは関係なしに浮き上がっていき、思わずユイに向かって手を伸ばした。

 

「行ってらっしゃい。もう2度とここには来ない事」

 

自分を水面に引っ張り上げる手が体を引き上げていき、水が跳ねる音が耳に届く。

いつの間にか着ていたプラグスーツの感触が分かる。

誰かが叫ぶ声が聞こえる。

 

 

(そうだった、私は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綾波!! 綾波返事をして!!」

 

「医療班回せ! ハルナ今はあんまり揺らすな!」

 

「レイちゃん!! 自分の名前分かる!?」

 

LCLが完全に排出されたプラグ内に何人も乗り込んでいて、各々平静さを失っていた。

無我夢中で指示を出す大人、プラグスーツ越しに心拍と血圧を測ろうとする大人、冷静さが全部吹っ飛び一旦落ち着かせられている大人、そして_____

 

 

 

 

「綾波!!」

 

彼がいた。

白いプラグスーツじゃない、胸元に06と印字されたスーツを着ているが、間違いなく彼だ。

 

上手く物が見えない、目に入る光がまぶしすぎて、視界が白く飛んでしまっている。

でも分かる、誰がいるのかがとてもよくわかる。

 

無我夢中で指示を出しているのは、お父さんだと思う。

半分パニック状態で引きはがされたのは、多分お母さんだと思う。

今、インテリアに座って私を抱えているのは、碇くんだと思う。

 

「碇……くん……」

 

「レイちゃん精密検査で1回全身を確認しないとダメだ。 シンジ君はそのまま呼びかけ続けてあげて! あとストレッチャー!」

 

「レイちゃん!!」

 

「あっちょっ!? ああもう!」

 

制止を振り切って抱き締めてくるこの温もりは、目を瞑っていても分かる。

散々頭を撫でられ、散々抱き締められたからだ。

 

うるさいくらいの泣き声と雨のように降ってくる涙は、初めて見たと思うけど「らしい」と思った。

でも、私も人の事は言えない。

初めてお母さんの胸で泣いた時、同じようになったから。

 

 

 

「……おかえりなさい、レイちゃん……ッ!」

 

 

 

「ただいま……お母さん、お父さん……碇くん」

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