宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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harbinger(前兆)

 医務室の外に置いてある長椅子に座っていると、手術成功を待つ親の気持ちが分かる気がする。

 設計局の自室で流した昔の医療ドラマでこういうシーンがあったけど、まさか自分たちがこのシーンを体験するとは思わなかった。

 

「目、痛い」

 

「真っ赤じゃないか……後で佐渡先生に目薬貰わないとな。というか義眼の方にも目薬ってやってもよかったかな……」

 

「一応大丈夫。付けてるのは眼球型のやつだから周りの組織は機械になってないよ。でも壊れてるからなぁ……壊しちゃったし」

 

 本当にどうでもいい事で気を紛らわせていないと、長椅子の周りを延々と歩き回りそう。

 今レイちゃんは手術を受けているわけじゃなくて全身の精密検査をやっているだけだと言い聞かせても、さっきまでエヴァの中に囚われていた生死不明の状態だったので、どうにも言い聞かせきれない。

 

 

 

 

 

「終わったぞ」

 

 佐渡先生が出てきて、私は縮められてたバネみたいに椅子から立ち上がった。

 

「……大丈夫なんですよね?」

 

「多少の体力低下はあるが身体機能に問題はない。先に会ってあげんさい」

 

 

 ガタンッ

 

 

 すぐ後ろで倒れるような音がして振り返ると、リクが膝から崩れ落ちていた。

 

「良かったぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 肩の力、漸く抜けたね。

 

「今は本人の希望で肉無しポトフとお粥を混ぜてドロドロにしたやつを食べとるよ」

 

「いや自由だなうちの娘は……というか食べてても平気なんですか?」

 

「消化器系へのダメージも思ったより少ないんじゃよ。事故後に碇ユイさんが使い続けとったからじゃな」

 

「いや、ホントに……ぐすっ……自由だな……って……」

 

「自由にできる元気があるということじゃ。儂は部屋に引っ込んでるから、何かあったら呼びなさい」

 

 そう言うと、佐渡先生は畳の自室に消えた。

 ちょこちょこ何かあると2人きりにしてくれる周りの人に毎回感謝してる気がする。

 

 そっと医務室に入ると、決壊しそうなリクが真っ先に病室の引戸を開け、飛び込んでいった。

 

 

「レイちゃん」

 

「モゴモゴ……」

 

「……先に飲み込んでしまいなさい」

 

 

 ________

 

 

 

「お父さん苦しい……」

 

「生還直後に肉なしポトフ粥頬張る病人がいてたまるかもっとゆっくり食えよ。でもさぁ……ホンットに……よがったよ……」

 

 取り敢えず飲み込ませたら、冷静な夫はどこかに消えて子煩悩なお父さんになってしまってた。

 何て言うか、私達に赤ちゃんがやってきたらもっと凄い事になるよねコレ、もっとデレデレになってさ……パパって言われて嬉し泣きしたりとかそんな感じでさ

 

 とにかく、誰も見てなくて良かったね。

 今のうちに済ませちゃえ。

 

「今、どうなってるの?」

 

「そんなことどうでもいいだろう……気になるのか?」

 

「気になる。初号機で戦った時から何日も時間が経ってた」

 

「そりゃそうだよな……話せる範囲で話すよ。レイちゃんが初号機に囚われた時に碇ゲンドウがAAAWunderを制圧してしまった。被制圧時に緊急信号が出てたから地球がそれを感知できた。ガミラスの空間機甲軍団……ガミラスの大艦隊の支援を受けてヤマトは2日でテレザートへ飛んだ。で、空間騎兵1個師団を艦内に送り込んで制圧&僕はハルナと再会。その後アスカと震電組は超特急ヤマト号下り線で帰った。今頃地球だ。で、サルベージして今に至る」

 

「……これで2週間くらい?」

 

「おかげで休めなかった」

 

「……お疲れ様です」

 

「事後処理は新見さんマリさんその他大勢の方に取られた。休めってことだと思うから、個人的にやっておきたいことはやっておく」

 

「休んでないじゃない」

 

「頼まれた仕事じゃないから休んた内に入る、セーフ」

 

 あーあ、仕事中毒。

 私も人のこと言えないけどね。

 いーもん、私はこの大戦争終わったら退役して民間に降りるから仕事減るし、もういっその事リクも巻き添えにして夫婦仲よく退役してやろうかな?

 

(え、マジで僕も退役?)

 

(した方がいい、というか、して? キャリア全捨てじゃないからいいでしょ?)

 

「え、いや退役か……僕にもその話吹っ掛けて来るとはな……」

 

「レイちゃーん、第2世代艦設計してる時リクが飲んだ物なーんだ?」

 

「……ブラックのコーヒー?」

 

「エナドリ。コンビニの炭酸売り場で買える飲むドーピング剤。目がバッキバキになるやつね」

 

「……健康に悪い」

 

「そんなパパの健康が心配な人、てーあげて?」

 

 シュパッ

 

 ほらほら―レイちゃんが電光石火で挙手したよ?

 パパさんはどうするのかな?

 

「いや飲んだのは3缶位だし……」

 

「1つでも3つでも健康には悪い。楽できるところで柔軟に動いた方がいい。それに、お父さんとお母さんなら、民間に降りても藤堂長官とアポ無しで話せるくらいに立場は保証される」

 

「……つまり?」

 

「WILLEでの立場が変わるわけではない、柔軟に動けるし家庭の時間が一気に増える。楽」

 

「乗った」

 

「早いね!?」

 

 即落ちじゃん新米お父さんリクさん。

 まぁどうせ私も主任は続けるし、あのマッド連中を束ねられるのはそうそういないし、次に備えましょうって感じになりそうだし。

 

 よし、これで今後の立場決まったね。

 この大戦争終わらせて民間(デイブレイクにしようかな)から出向扱いになって三佐相当官くらいになる。

 定時退勤でご飯作って食べて風呂入って、それで……いちゃつく。

 

 あれおかしいな、戦争中なのに私の頭の中で死亡フラグ乱立してるじゃん。

 まぁいいや、どうせ全部へし折ればいいし。

 

「というかシンジ君、来ないね」

 

「ちょっと探してくる。どうせ話す事もあったんだ。……仕事じゃないからね?」

 

「分かってる。できれば会いたいから、連れて来て欲しい」

 

「はいはい」

 

 

 _________________

 

 

 

「母さん……ありがとう……ッ」

 

 オオスミ艦内に安置された初号機のその双眸は何も語ろうとしない。

 ただ、静かに彼を見つめるだけだった。

 

 綾波救出後の騒動後も彼はオオスミ艦内で初号機を見ていて、悩み、葛藤を続けていた。

 

 確かに綾波は助かった。

 でも自分は母をもう一度失うこととなった。

 

 ユイの価値観では肉体を失うことは死ではないのだが、それはシンジの価値観ではない。

 

 喪失という物が、胸中に渦巻いていた。

 

 それでも感謝を述べているのは、綾波に身体を返してくれたことに対してだろう。

 

 

 助けたいと思った子を助ける事ができた。

 

 

 でも、その過程がベストとは思えず、ベターなものに終わった。

 

 

 皆丸く幸せで終わりましたなんてハッピーエンドは存在しない。

 

 

 答えは出せないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦内1周しても見つからなかったからもしかしてと思ったけど、やっぱりここだったか」

 

「リクさん……」

 

「隣、いいか?」

 

 シンジが頷くと、リクはその隣に座り初号機を眺めた。

 こうして見上げてみると、全長80mの兵器___というよりも鬼に見えてくる。

 誰が何のためにこんなデザインにしたのかと疑問に思えてくるが、今大事なのはそこではない。

 

「WILLEの裏ボスとして言わせて欲しい。君が初号機に乗ると決断してくれたことを、上は困惑してたよ。特に長官はレイちゃんとそう変わらない年の子をまた戦争に引っ張り込みたくないってさ。でも、そう言いながら戦略に組み込み始めたって事は、初号機レイちゃんシンジ君はほぼ確実にアディショナルインパクト阻止の切り札になる。裏ボスとして、最大限にフォローをさせてもらうよ」

 

 シンジもその流れに乗ることを考えていたのか、拳が震えていた。

 リクはそっと手を重ねようと左腕を出したが、鈍い金属光沢が見え、生身の右手を重ねた。

 

「君が恐怖を隠してないのは、むしろ安心した。古いSFアニメみたいに主人公効果で恐怖無しで吶喊するようなアレじゃないのは助かる。それと……レイちゃんの父親として言わせて欲しい」

 

 シンジの方に向き直り、深く頭を下げた。

 

 

 

「ありがとう。君がいたからレイちゃんは生きて帰ってきた」

 

 

 

「頭上げて下さい! えっと、その……僕はただ乗ってもう1人の僕を助け出してただけで、実際に戻してくれたのは母さんです。だから、僕は……」

 

「それでも、最後の決め手は君だった。初号機に乗って、レイちゃんがその存在を感じ取る。レイちゃんと君の繋がりは、君が思ってるよりずっと深い。君が連れて来てくれたシンジ君は、レイちゃんの事をよく知っているし、レイちゃんが現実に戻ってくるための灯台のような存在なんだ。勿論君も灯台だ」

 

「打算、だったんですか?」

 

「半分は。もう半分は、流石に寂しいだろうと思ったからだ。旧AAAWunderがバカみたいに広くても、精神世界に1人ぼっちだからね。今頃、あの場所は閉じてしまってるだろう。最後に君は何を見た?」

 

 そう問われ、シンジは最後に見た景色を思い出した。

 ボロボロだった装甲、砲塔、大きく歪んだフレームが修復されていき、ケンスケに見せられた

 AAAWunderと同じ見た目になっていた。

 

「ボロボロだったAAAWunderが、新品みたいに変わっていったんです」

 

「へぇ……後でレイちゃんに会ってあげて欲しい。思ったよりもずっと元気だし、面会なら佐渡先生に一声かけてくれれば自由に出来る。人払いしてもらうように頼んでおいたから、レイちゃんの話を聞いてあげて欲しい。それと、君の疑問にも答えておかないとね」

 

 

「疑問?」

 

 

「君が悩んでるのは、こうしたのが正解だったのかなぁ……ってことだよね」

 

「どうして、分かるんですか?」

 

「イスカンダル航海で無理しすぎてね、人っぽいけど人じゃないような何かになったから。エヴァ由来の呪縛みたいだから、現代医療ではどうにもできない。それは今は置いといて、多分、一般論での正解はどこにもないと思う。○でもないし×でもない。誰かが決めつけていいモノでもないし、押し付けてもいいモノでもない」

 

「……」

 

「実は、シュトラバーゼという星に立ち寄ったときにハルナはズォーダーと言うガトランティス人に会ったらしい。時々届く報告書の1枚にそういうヤツの話が書いてあったんだ」

 

 リクは端末を取り出し、1つの報告書ファイルをスライドして「明らかに書式が違うページ」を出した。

 正規の報告書とは別にただ読んでほしかったから差し込んだページであり、報告書を受け取った上層部は書式の明らかな違いには触れずにプロファイリングに使った。

 

 そして、ハルナが本当に読んでほしいと願った人はこれを読んで深刻そうな顔をして、様々な感情が混ざってどう感じていいのか分からない状態になった。

 

 

「ガミラス艦艇1隻につき1人ずつ自爆する人間を乗せた。1隻だけ助けてやるから好きなのを

 選んでねって言う感じだ。こっちとしては、エンジンに自爆人間を近づけさせないようにすればいいだけだから、ガミラス艦のエンジンにダメージはなかったけどね。あの時ハルナ相当無理したみたいでさ……自分で拳銃持っちゃうし吐くし、レイちゃんは波動砲ぶっ放したし、真田さんは真田さんで責任背負っちゃうし。何かと大変だったらしい」

 

「……」

 

「僕が言いたいのは、『どれを選んでも何かを必ず失う選択』には正解がないということなんだ。何か得て何か失う結果は変わらない」

 

「……」

 

「ズォーダーの選択と違うのは、君は『選べ』といわれたわけではなかったということ。もしかしたら、僕が言外に言っちゃってるかもしれないけど、少なくとも言葉にはしてない。誰かに押し付けられて選んだようなことではないよ」

 

「よく分からないかもしれないけど、選択の結果に落ち込むか前を向こうとするかは君にしかできない。ズォーダーは絶望して、人類が最初からいなかった世界にしようと太陽系に向かっているけど、君はそうならない様に見える。少なくとも、得たものの方を向こうとしている」

 

「だったら、そのズォーダーという人は手に入れた物があったはずです。なら、何で人類を滅ぼそうとしてるんですか?」

 

 誰も考えようとしていなかった疑問がシンジの口から零れた。

 そうだ、何故滅ぼそうとしているのか、その根っこにあるモノは何なのか?

 ゲンドウは碇ユイを失ったという根っこがあったからここまでの騒動を起こした。

 

 

 

 なら、ズォーダーは何を失った?

 

 

 

 じゃあズォーダーは何が根っこになっている?

 

 

 

 選択をしたはずのズォーダーが何故ここまで狂って「人類を滅ぼす、なかったことにする」ために動いているのか?

 

 

「そりゃヤツの心の問題……いやまさか……両方失ったとしたら?」

 

「?」

 

「ハルナとレイちゃんどっちか選べと言われて片方選んで、相手が両方とも奪ってったらがっつり狂う自信がある」

 

 確信を得たような目をしたリクは懐から端末を取り出すと履歴を探して内線を繋いだ。

 

「マリさん、新見さんもいますか? ちょっとズォーダーのプロファイリングに加えて欲しい情報があります。地球にも送ってください」

 

『ん? 何加えんの?』

 

「妻子持ち、ただし、何者かに押し付けられた選択をしたら、提示側の手によって何もかも全て失った」

 

『何その救済しようのないベリーバッドエンド』

 

「救済もクソもない末期患者だと思うけどそれでお願いします。新見さん、カウンセラー的にはどうですか?」

 

『……最悪ですね。破滅願望というか碇ゲンドウとは別の角度で拗れて、「人類がいるからダメなんだ」と捻じ曲がってしまったのでしょう。ズォーダーは恐らく、人造兵士の中でも高度に考えられるタイプだったかもしれません』

 

「少数生産高級タイプ?」

 

『ハルナっちもハイエンドって言って煽ってたし相手はキレなかったから、んー多分? 世紀末感のある荒くれ連中のなかでも理性的に考えられる個体だろーね』

 

「報告書でマリさんが感想書いてたアレですね。ネット掲示板でやれとか言ったアレ。で、それにアケーリアスの遺跡が二郎系みたいにトッピングされたのが今のガトランティス……だとしたら」

 

『まじで死ぬほど滅茶苦茶マズいにゃ。ゲンドウ君がインパクトるよりもマズい。でも白色彗星とエヴァなんだよねぇ……向こう、NHG何隻かいるしいるってことはエヴァも確実にいる』

 

「アスカちゃんが何とかしてくれる、はず。あーでも機体は兎も角名前がなぁ……ほぼ確実にいつもの名前にしそうだし。あーあと地球でもプロファイリングしてるはずなので、すり合わせお願いします」

 

 シンジは不思議そうにリクの顔を見ていたが、何故か何とかなりそうな気持ちになった。

 細かい所まで理解が追い付かないけど、今は確実に危険な事は知っているし、自分がその一部に入り込んでいる事も理解している。

 人類全員をどうやっていなかったことにするのか、地球人だけなのか他の異星人もまとめてなのかも分からない。

 

 でも、不確かな状況でも妥協せずに動き回って状況を変えようとしている大人がいるのは、思春期の少年には眩しく映った。

 

「やることが増えた……ハルナとレイちゃんに小言を言われるな。まぁいいや、これは尋問得意班にお願いするか。星名くんとか」

 

「リクさん?」

 

「これだけは答えておかないと。選択に正解はない。もし自分で正誤を与えたいなら、結構経ってからにした方がいい」

 

 

 ____________

 

 

「綾波君……!」

 

 真田と古代達もテレザートから帰還し、綾波の生還を喜んだ。

 リクとハルナの次に付き合いが長い真田はまるで久しぶりに会った親戚のように嬉しそうに何度も頷き、その様子を見た事がない一同は目を見合わせた。

 

(真田さん……ですよね?)

 

(紛れも無く。真田さんいい年だから奥さん探したらいいんだけどね……)

 

 咳払いをして真田を元に戻すと、本題に入った。

 

「で、テレザートですが」

 

「……ああ、そうだな。全員を集めて報告はするが、この場で言ってしまうか。結論から言うと、テレサは確かに世界の始まりから終わりまでを見通す。ただし、テレサは現在の時空間を完全に見通せていないらしい」

 

「……というと?」

 

「それを今から説明する」

 

 

 _______

 

 

 

 約10時間前

 テレザリアム

 

 

 聖杯のよう形作られた大樹に、その球体はあった。

 拍動のように明滅するその球体は粒子のように解けていき、大樹もまた粒子となり消えていく。

 

 今まで見ていたものは幻だったのだろうか、それとも現実だったのだろうか。

 

 その区別の付け方はこの場所に限り存在はしないだろう。

 

 通常次元と高次元が交わるこのテレザリアムは、人の世でテレサに会う事ができる窓であり、そこではテレサの意思が大きく影響する。

 その気になれば星座の形も変えられるテレサからすれば、大樹を粒子にして消すくらい造作もないだろう。

 

 現れた真っ白な球体が花弁のように広がっていき、蓮の花のように広がる。

 その中心で祈り続けるのは1人の金髪の女神。

 あの世とこの世の狭間で祈り続ける女神にして、テレザート伝説を事実だと証明できる存在。

 

 

 女神テレサ、それは確かにそこにいた。

 

 

「何というか……目のやり場に困るな。何で服着てないんだよ女神さまは」

 

「隊長黙っててよ。こういう系キャラは大体服着てないかきわどい格好だって相場あるのよ」

 

 女神云々よりもかなりズレた斉藤の感想に永倉が突っ込むが、女神はやはり動かない。

 真田は何やら考え込み始め、古代は「始まった……」と内心肩を落としテレサに向き直った。

 

『私はテレサ、テレザートのテレサ』

 

「テレサ、我々はメッセージを受け取り、必死にここまで来ました。何故我々だったんです?

 貴方なら、全宇宙の誰にでも呼びかけられたはずだ」

 

『貴方方がここに来ることは、数ある宇宙でも不変の出来事。この世界では、貴方方の駆る船に理由があるのでしょう』

 

「AAAWunder……」

 

「テレサ、それはAAAWunderがこの世界で生まれた艦艇ではないから、そういうことなのですか?」

 

 その問いに、テレサは答えない。

 その代わりに、古代達の意識に未知の映像が飛び込んできた。

 

 赤茶けた地球から飛び立つ1隻の宇宙戦艦、それはAAAWunderではなく、WILLE総旗艦ヤマトだった。

 その艦は自分たちが経験した航海を寸分の狂いもなくなぞり、イスカンダルへ到達し、地球へと帰還した。

 そして地球は美しい青い星となり、映像は途切れた。

 

「これは……」

 

「総旗艦ヤマトが何故イスカンダルへ……テレサ、これは、本来この世界が歩むはずだった歴史ですね? それが、AAAWunderの登場で『この歴史を歩むための前提条件』が崩れ去った。違いますか?」

 

『そうです。これが、本来貴方方が通るはずだった道であり、貴方方の駆る船であるAAAWunderが消した道です。異なる道からの落とし物、高次元の高みに挑んだ種族が生み出した遺物が、この世界の終わりまで道を、霧で覆い隠してしまった。私は、この世界の始まりを見る事ができても、この先を見る事はできません。この世界の終わりを見通す事ができなくなったとしても、私は他の世界の歴史が進んだあなた方を信じ、こうしてメッセージを送りました』

 

「2番宇宙から落ち込んだ様々な遺物が不純物としてこの世界を掻きまわした。だからテレサははじまりから終わり、我々で言う所の未来を見る事ができなくなった。時間すら可視化可能な彼女でも見通せない……単一存在でなく、生きながら天国の門を潜ったテレザート人の集合意識であるテレサであったとしても、それはもう叶わないレベルでこの世界は不安定なのか」

 

「テレサ、確かに我々人類はその遺物とやらを使った。我がガミラスが生み出したType-nullや総統座乗艦も、元はその遺物から造られている。だがガトランティスもそれを手にしている」

 

 

『エルブズュンデ、ゲベート、エヴァンゲリオン第13号機』

 

 

「ハルナさんの言っていた艦名と一緒だ。それがガトランティスが鹵獲したNHGとエヴァンゲリオン」

 

『滅びを司る最後の巨人、貴方方がこの星の結界で使用した初号機も、それと対を成す『希望の機体』です。彼らがこれらを用いて成し遂げようとすることは、貴方方もすでに掴んでいる事でしょう』

 

「アディショナルインパクト。世界の選択儀式にして、マイナス宇宙への扉を開き虚構と現実を重ね合わせる儀式ですね?」

 

『世界の理を根底から破壊する儀式であり、ガトランティスの望みをそのまま叶える事も可能な儀式です。それを食い止めるためには、貴方方は、白色彗星帝国と対決せねばななりません』

 

「白色彗星帝国を倒す……ガトランティスの母星の白色彗星、アレは、アケーリアスの古代兵器ですね?」

 

『はるか昔、この全宇宙に人類の種をまいた古代アケーリアスは、生命の方舟である播種船 シャンブロウを作り出しました。そして、蒔かれた種が悪しき種となった時、それらを刈り取る安全装置を残しました。それが、滅びの方舟』

 

「星巡る方舟と対を成す方舟、あの重力操作も全て、アケーリアスの力か。木星規模の移動要塞を破壊しなければならないとはな……』

 

『イレギュラーを多分に含むこの世界は、私は見通す事はできません。ですが、それを強要した文明が1つだけ存在しました』

 

「それがあの巨像と結界を作り出していた楔」

 

『第1始祖民族。アケーリアスの高みにのぼり、テレザートにその手を伸ばした者達』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 年代不明

 惑星テレザート

 

 この星には人がいた。

 まだ生きながら天国の門を潜るずっと前の事だが、数百年前どころの話ではない。

 

 数万、良くて数千年前の出来事だ。

 

 今のテレサには、いつテレザート人がこの姿に結集したのかも分からない。

 

 そんな、遠い昔のある日の事だった。

 

 

 

 青い空、白い雲、広がる大海、そこに降り立ったのは、天使だった。

 真っ赤な光球を胸に埋め込んだ白い巨人が降り立ち、槍を携え歩みを進めていく。

 

 僧侶たちは狼狽え、逃げ惑う事しか出来ず、数少ない陸地は巨人たちに踏み荒らされ、あらゆる建物が崩れ、大地は均され、火が立ち上る。

 

 

 そのはるか上空、テレザートの衛星軌道上に見えない力場が生まれ始め、本来生まれる筈がないハロー環が生まれた。

 真っ赤な楔が空間に突き刺さり、星全体を力場が覆っていく。

 

 

 

 パシャッ

 

 

 

 音が聞こえる。

 

 

 

 パシャッ

 

 

 

 水風船がはじけるような音が聞こえる。

 

 

 

 1人の僧侶が隣を見ると、そこにいる筈だった友人がいなくなって、足元には橙色の水たまりが広がっていた。

 友人が来ていた民族服が、水たまりの上に浮いていた。

 

 

 

 パシャッ

 

 

 

 一切の前触れもなく、悲鳴を上げる隙も無く、彼も水たまりになった。

 

 

 

 寺院に詰めかける人々は、その怪異から逃れようと本殿に逃げ込む。

 だが怪異は津波のように迫り、転げるように走る人も容赦なく()()していく。

 

 やがてテレザートの大地に橙色のシミが見えるようになるころには、大地を彷徨う赤い光球がちらほら見られ始めた。

 

 それは魂、肉体という器の中に納まっていた魂であり、星を覆う光の膜は、魂を逃さないための檻だったのだ。

 肉体から魂を解き放ち、強制的に進化を促す儀式がこの怪異___惨状であり、魂は収束し1つの生命体と形を成そうとする。

 

 

 

 しかし、儀式は完遂されなかった。

 

 

 

 これは人為的な物だ、運命に抗えと魂は意図されていない方向へと結集を始める。

「彼ら」が想定していた一糸纏わぬ白い女性の姿ではない、彼らが崇める神、その姿へと結集していく。

 

 肉体が戻らなくてもいい、「奴ら」にいいようにもてあそばれるくらいなら、このまま生きながら天国の門を潜っても構わない。

 

 

 この理不尽から逃れられるのであれば、私達は選ぶ。

 もう2度とこの世に関われないとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付いたら、生者でも死者でもない、宙ぶらりんになっていた。

 できる事と言えば、ただ祈り続けるだけ。

 

 あの世とこの世の狭間に立ち、平穏を祈り続ける女神として、この世の始まりから終わりまでを見通す高次元生命として、ただここにあるだけ。

 

 それが、テレサの始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第1始祖民族の侵攻が全ての始まり、ATフィールドを飽和させ人の形を壊し、単一の生命へ進化させる儀式から逃げるためにテレサとなったと。いや、成らざるを得ない状況だったのか」

 

『全ての生命の目的は1つ。存続する事です。でもガトランティスは違う。彼らは、滅びを司る方舟を目覚めさせてしまった。この宇宙に住まう全ての人類を滅ぼすまで、彼らは止まらないでしょう』

 

 

「テレサ、世界に深く干渉できないのは分かっている。だが勝つ為の何かしらのヒントはもらいたい。ここまでの駄賃くらいは手に入れておきたい」

 

 キーマンがきわどい部分を突っ込むが、テレサは特に気を悪くしたような様子も見せず風景を切り替えた。

 画面の暗転のように景色が切り替わると、1隻の艦がいた。

 

『貴方方はここに来た。それは、この私も、縁によって貴方方と結ばれたという事です』

 

『縁とは、異なる者同士を繋げる力。重力にも似た確かさで、事象と事象を結び、次元の壁さえ越えて作用します』

 

 ツインドライヴを抱え空間を引き裂くAAAWunder、あの場で休戦に合意したデウスーラ2世、正史では生まれる筈の無かったナガト、タカオ、ユキカゼ三姉妹、地球、ガミラス、デスラー、WILLE、KREDIT、KOMPASS、エヴァンゲリオン。

 そして、リク、ハルナ、碇シンジ、綾波レイ。

 

『縁の力とは、あらゆる物理法則を超えた物。どれほど強大な暴力でも、決して覆す事はできないのです』

 

『時に痛みを伴いながらも、貴方達が紡ぐ縁が、白色彗星を打ち破るでしょう』

 

 

 

 

 

 

 

 _________

 現在

 AAAWunder医務室

 

 

 

「そのテレサ、何か言ってましたか?」

 

「縁が貴方を導くでしょうと言っていた」

 

「何たるアバウト!」

 

「いや神枠だからアバウトでも雰囲気出るだろ。神が正確に天気予報みたいなノリで戦術予報し始めたら逆に引くぞ?」

 

「それに、テレサが独自に介入した場合この世界は可変性を失い硬直する。高次元生命体が低次元に介入するのは世界のルール的にご法度なのだろう。だからアバウトに伝えてルールに抵触しないようにした。大方そんなところだろう」

 

「で、縁ですか。空間機甲軍団、デスラー艦隊、エヴァ、マッド共、WILLE達3組織、どれがどれだかですね」

 

「全部だな」

 

「納得です」

 

「確かに、限定する話でもないですね」

 

「さて、これからどうするかだが。私としてはこのまま帰ってしまってもいい。開戦の前には動きたいのだが」

 

「沖田艦長……じゃなくて、沖田幕僚長がいるから大丈夫だと思いますが」

 

「まぁー大丈夫。生きてる伝説提督1名と覚悟のキマった提督大勢がいるから。あと、増援も期待できる。でもたぶん開戦までに公試が間に合わないから電撃投入だな……」

 

「援軍?」

 

 

「ビッグゲストだ。計画書見せられた時は驚いた。これは終戦後にナーフできるかな……」

 

 

 

 

 

 マッド共の暴走に頭を抱えると、内線が響いた。

 

 

 

 

 

『ガトランティス艦隊総数10万が第11番惑星外縁に侵攻、開戦しました』

 

「……は?」

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