宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
彼らはガトランティス。
忠誠心と闘争本能を植え付けられた、人造兵士。
緑の肌を持つ、人の姿をした家畜。
破壊する事ができても、直し、生み出す事はできない。
クローニングで世代を重ね、生殖という概念をまず持たない歪なモノ。
1000年以上前の事だ。
有機溶液から生み出された屈強な肉体と溢れ出す闘争本能は、つねに「敵」に向けて放たれていた。
創造主であるゼムリアの命に従い、ゼムリアの兵器として星々へ戦を仕掛けていく。
それが彼ら、当時のガトランティスだ。
その創造主であるゼムリア人が済む惑星ゼムリア、そこは緑豊かな星だった。
地球人が見たらガミラス戦争以前の地球やビーメラ4を思い出すような見た目だが実態はかなり高度に発達した文明であり、戦争兵器として
そして、兵器「ガトランティス」の矛先は、いつも星の外に向けられていたわけではなかった。
内戦として他の貴族軍を壊滅させるときもあった。
ゼムリア人の娯楽として、剣闘士の真似事をさせられる時もあった。
このように、兵器「ガトランティス」はゼムリア軍が所有する物ではなく、ゼムリア各地の貴族軍が個々に所有する兵器でもあった。
そしてガトランティスには、ある種のリミッターがかけられていた。
それは知能の制限、具体的には、創造する能力が乏しかったのだ。
基本的にゼムリア側から兵器を与えられてそれを使い戦争に投入されてきたため、自分達で兵器を作るという概念が存在しないのだ。
だから後年に科学奴隷を捕り兵器開発を奴隷に強制させている。
あの火焔直撃砲もガミラス軍亜空間戦闘部隊を捕らえ転送投擲機を開発させ、盗掘で手に入れた別の文明国の兵器を組み合わせて生まれた兵器だ。
それからさらに数十年後、ゼムリア人はある種のタブーを犯した。
ガトランティス・タイプズォーダー。
屈強な肉体はそのままに高度で複雑な思考パターンを搭載し、ガトランティスの統率モデル、いわゆるハイエンドモデルとしてそれは生み出された。
その思考は人類と遜色ないレベルであったが、ゼムリア人はタイプズォーダーの製造過程で、知能制限リミッターを解除してしまった。
それ故に複雑な思考パターンを獲得できたのだが、それが全てのキッカケとなった。
統率者と言う立場もあってか、ズォーダーはゼムリア人と接する機会が多かった。
大半は統率者としてゼムリア人から命令を受け取ることだったが、そうではない事もあった。
最初は、ガトランティスにこんな事が許されるのかと疑問にも思った。
だが、そうしてしまったのだ。
ズォーダーは、1人の女性を愛した。
ゼムリア人の女性であるシファル・サーベラーを愛し、与えられた複雑な思考パターンは彼に愛を覚えさせた。
ズォーダーは彼女を愛し、サーベラーは彼を愛した。
子を持つことも考えたが、ガトランティスは人の姿を模しているだけで生殖能力を持たない。
だから、ズォーダー型の遺伝子とサーベラーの遺伝子をかけ合わせたクローンを赤子として製造し、その子供を我が子とした。
人間と変わらない思考能力はゼムリア人への忠誠心を押しのけ、サーベラーと我が子への愛情を膨らませていった。
サーベラーも同様に、ズォーダーを愛した。
しかし、ガトランティスとの間に生まれた恋を、ゼムリア人は軽蔑した。
兵器と愛を育む事など何事か。
ましてや自分の遺伝子と掛け合わせてクローンで子をもうけるとは何事か。
やがてサーベラーの周りのゼムリア人が皆軽蔑しても、サーベラーはズォーダーを愛した。
2人で、子の名前を考えたりもした。
クローンで儲けた子供は男児だったので、勇ましい名を、しかし優しくもなってほしいから、穏やかな名を送ろうと考え、こう名付けた。
ガトランティスの言葉で、穏やかを意味する「ミル」と言う名前だ。
ゼムリアの命で戦場に出て、ゼムリアに代わり統率し、指揮を執り、剣を振るい、血に塗れるが、それでもズォーダーの中に生まれてしまった「必ず帰る」という意思がズォーダーを突き動かした。
そしてサーベラーの待つ場所に帰ると、我が子に送った名のとおりに穏やかな気持ちになれた。
ズォーダーは、ガトランティスであって、ガトランティスではない。
人の見た目をして人ならざるもの、ガトランティス。
しかし彼は、愛に浸る時だけは人間になっていた。
_______________
統率者としての知能を与えられてから、もう1つの制限も外れてしまった。
それは、創造主であるゼムリアへの忠誠心だ。
それは創造主への反逆を企てる事が可能になった事を示し、ズォーダーは密かに計画を組み立て始めた。
だがそこはガトランティスと言うか何というか、所謂武力蜂起だった。
謀略や、国家転覆などと言った物ではなく、武力でゼムリアの首脳部を制圧してしまおうという物だった。
ズォーダーは秘密裏に仲間を集め、武力蜂起を扇動した。
ガトランティス兵士に刻み込まれた「統率者に従え」と言う命令が作用し、ズォーダーは大量の同志を得る事ができたが、同時に情報も漏れた。
「サーベラー!」
居室に戻った時、そこにサーベラーとミルはいなかった。
あったのは、争ったような形跡と血痕、何者かが発砲したという証拠である弾痕だった。
攫われた。
何者かは分からないが、そいつがサーベラーとミルを攫ったのだ。
自分に人間並みの思考能力があることが幸いし、そう結論付けることは容易かった。
次に結び付いたのは、反乱の計画が漏れているかもしれないという事だ。
自分がとても危険な事をしているという事は、サーベラーにも話していた。
サーベラーは、不安がっていた。
でも、それでも後押ししてくれた。
ゼムリアに生み出された統率型個体ではなく、ガトランティスという一つの人型種族の長として進む大切な人の背中を押したのだ。
その高度な知能は、誰がサーベラーとミルを攫ったのかをすぐにはじき出した。
「ガトランティス統率型個体タイプズォーダー、貴様を連行する」
「サーベラーはどこだ」
「この場で答える権限はない」
________________
「お前たちの集結ポイントを教えるか、妻子を見殺しにするか、選べ」
後にズォーダーを苦しめ続ける悪魔の選択だ。
片方を選べば片方を失うこの選択はズォーダーが始めた事ではあるが、きっかけはゼムリア人がズォーダーに押し付けた事だ。
サーベラーとミルを選べば、反乱の同志はゼムリア人に制圧され、皆殺しにされるだろう。
反乱の同志を選べば、サーベラーとミルは殺されるだろう。
大義か、愛か、それが前後からズォーダーを押し潰した。
ゼムリア人は、彼を法廷のような間に通し、責め立てる様に選択を強いた。
幾ら人間と同等の思考を持っても、ガトランティスに愛は大きすぎたのだろうか。
ガトランティスが幸せになってもいいのだろうか。
戦争兵器が幸せになってもいいのだろうか。
人造人間が幸せになってもいいのだろうか。
「妻と息子に手を出すな」
ズォーダーは、選択をした。
遂に口を割り、ズォーダーは集結ポイントを伝えた。
数日後に同胞たちの血の海ができる事を理解して、妻と子の命を優先した。
それから数日後、集結地点に集まったガトランティスの叫び声が響いた。
ビームの雨と爆発が、惑星ゼムリアの一角で吹き荒れた。
緑色の肉塊が飛び散り、血しぶきが上がり、大量の爆発が地面を肉ごと耕していく。
そこに残ったのはガトランティスだった物であり、ゼムリアはその光景をズォーダーに直接見せた。
「お前の選択が同族を殺した。分かるか?」
分かっている。
同胞よりも家族を優先したのは自分だ。
それでも自分は、ガトランティスには過ぎた代物____愛を選んだんだ。
「お前の妻子だ。返してやろう」
ドチャッ
ズォーダーの足元に転がされたのは、サーベラーだった何かだ。
冷たく、血に塗れ、真っ赤になった背中にはいくつもの銃創があった。
ドチャッ
生え始めた紫の髪、自分と同じ緑の肌、座りきってない首、何かを掴もうと伸ばした手。
ミルも、血に塗れ、こと切れていた。
「ああっ……」
「お前の選択の結果だ。よかったな」
よかったな。
よかったな、だと?
プチン、と何かが千切れたような音がした。
「約束をたがえたな、貴様」
「何を言い出す。もともと貴様らと結ぶ約束などn」
ズシャッ
一瞬で引き抜いた大剣がゼムリア人の身体に食い込み、そのまま膂力に任せて一気に振り抜いた。
けさ斬りになり二つに分かれた肉は情けなく血を吐き出しながら何も言葉を吐き出さなくなり、その男の護衛についていたゼムリア人も斬り殺した。
失った。
何もかも、失った。
自分についていくと賛同してくれた同志、妻、息子、全てを、彼らが奪った。
その瞬間、ズォーダーの内側がどす黒く塗り替わった。
黒く、黒く、闇とは違う、人類への絶望で塗り固められた黒は、一点の光もない。
プツンとか色が切れたズォーダーの中には、短絡した結論が生まれてしまった。
人類がいるからいけないんだ。
余りにも短絡的な思考で、当時のズォーダーは考え直す事すらしなかった。
そして、人類が持つどす黒い感情と言う物をズォーダーは理解したが、それをその身で抱えきり消していけるかは別だった。
その後の100年間、ズォーダーを見た物はいなかった。
分かっているのは、生き残った数少ないガトランティスを引き連れてゼムリアの宇宙艦艇を強奪、そのまま星系外に旅立ったことだ。
緑の肌を人の姿をした家畜が何をしたのかと、ゼムリア人は気にも留めなかった。
造る、生み出す事ができず破壊しか出来ない彼らは、たとえ長い旅に出たとしても「飼い主がいなければ滅亡する」と鼻で笑った。
それにガトランティスはまた製造すればいい、アレは我々の被造物であり兵器だ。
物であるなら、また生み出せばいい。
そしてそれは、100年後に大間違いだったことを思い知った。
彼らゼムリア人はズォーダー達を放っておくのではなく、血眼になって探し殺すべきだったのだ。
-ズォーダーの「選択」から100年後-
ゼムリア人の高度な文明は、防衛と言う目線から見ても高度に発達していた。
何層にも張り巡らされた防衛ライン、星系に何かが侵入したらすぐにアラートが発令される監視体制、ガトランティスに与えた戦闘艦艇を容易く凌駕する艦艇で構成された近衛艦隊、どの要素を注視しても鉄壁と呼べるものだ。
その鉄壁の宙を、理不尽が突き進んでいく。
惑星を飲み込むほど巨大な白い「何か」が、進行方向にある惑星、準惑星、衛星を粉砕していく。
足元に落ちている小石をけ飛ばす様に押しのけていき、ゼムリアの絶対防衛圏に侵入した。
ゼムリア人は必死だった。
アレは何なのだ、アレを動かしているのは誰なのか、何故あらゆる攻撃が効かないのか。
そして、白いベールが取り払われ、その全貌が現れた。
何かに掴みかかろうとする巨大な手に見えるその異様は、それが惑星規模の要塞だと理解させるのを遅らせる程だ。
あらゆる攻撃を無に帰し、押し潰し、爆炎1つ生まれることを許さないその理不尽は、ゆっくりとゼムリアを覆っていく。
そうだ、手だ。
道に落ちていた石を手で掴むようなそれは、尋常じゃない重力で公転軌道からゼムリアを引きはがし、ゼムリアはその理不尽に囚われた。
ハビタブルゾーンから抜けた事で星は急速に荒れていく。
海は荒れ狂い、竜巻が頻発し、日の光を受けられない植物、動物はたちまち絶滅していく。
ゼムリア人はシェルターに籠り難を逃れようとしたが、そこに思いもよらない種族が現れた。
獣のように大柄で、緑の肌、両手で構えるような大剣を片手で振り回す。
ガトランティス、彼らだった。
緑の肌が、返り血で真っ赤に染まっていく。
鈍い鉄色の件が、真っ赤に染まっていく。
嘗て忠誠を定められたその目は血走り、狂戦士と化したガトランティスはひたすらに100年分の恨みを晴らしていく。
よくも殺したな。
よくも殺したな。
よくも殺したな。
よくも、殺したな。
その狂戦士の一団の中に、ズォーダーはいた。
顔は更け、青みを帯びていた頭髪は白く染まり、それでもその肉体は鋼のように引き締まっている。
腰の大剣はあの日ゼムリア人を斬り殺した時と変わらず、錆びず、ひびの1つも入っていない。
その目は諦めと願望を奥に忍ばせ、惨殺されていくゼムリア人に目もくれず、目的のモノを探し当てた。
それは、ガトランティス人のアキレス腱であり、ゼムリア人が用意した保険だ。
破壊されると同時に、人造生命体を抹殺する装置。
ガトランティスを形作る人工細胞を破壊する安全装置。
ゴレム、ガトランティスが生存し続けるために押さえなければならない重要な物体だ。
やがてゼムリア人が殺し尽くされる頃、ゴレムは見つかった。
ゼムリア人が破壊する前に確保できてよかったと安堵しそれを「滅びの方舟」に運び込んだが、破壊することなく無効化する事はできなかった。
いや、リスクが高すぎて、手を出せなかったという方が正しいだろう。
ゼムリアの技術には分からない部分が多い。
100年前にゼムリア人の船を奪い動かせたのはいいものの、その全てを理解するには至っていない。
そんな状態でゴレムに手を付けるのは間違ってもできなかった。
その他の分からない物体は、重要な物以外は放置して、惑星ゼムリアは念の為捕獲し続けた。
その瞬間、この宇宙からゼムリア人とその文明が消えた。
-ゼムリア人絶滅から約780年後(地球換算で西暦2020年代)-
生殖で世代を重ねる通常の人間と異なり、ガトランティスはクローニングで世代を重ねる。
老化と言う生物の機能はあるため、クローンで生み出した兵士を人間の赤子から育て、世襲制でその戦力を維持し続けてきた。
同時に、科学奴隷や異星技術を捕るように奨励した。
何年経過してもガトランティスの特性は変わらず、兵器の自己生産は叶わなかった。
だからそういう技術的な部分はできる文明の奴隷に押し付けるしかない。
ズォーダーには策があった。
この滅びの方舟には、生命生成界面がある。
全てのガトランティスが生まれる胎盤のような場所だが、「生命」と定義しがたい存在である艦艇も植物のように生やす事ができる。
しかし莫大なエネルギーが必要となる。
どうあがいても無からどうやっても有は生まれない。
そのエネルギーを潤沢に生み出せるのが滅びの方舟だ___という事ではなかった。
何故かはわからないが、この方舟には主動力が存在しなかったのだ。
どこからかエネルギーを補給しているのか、エンジンがもともと存在していたが、アケーリアス人が抜き去ったのかは分からないが、この滅びの方舟には宇宙艦艇に標準搭載されるような半永久機関が付いていなかった。
だから、方舟の運航には別の資源を最悪な効率でエネルギー変換するしかなく、方舟奪取から700年以上経過しても人類の根絶が進まなかった。
_____________
都合よくかどうかは分からないが、ガトランティスはあるモノを拾った。
定期的に出撃する哨戒部隊からの報告だったが、ズォーダーも我が耳が機能障害を起こしたかと疑った。
現有艦艇を遥かに超えるその巨体、他の文明艦とは似ても似つかぬ主砲、大きく広げた翼、翼竜、鳥類だろうかと首を傾げるフォルムの巨大艦艇だった。
これは後に地球側がNHGと呼称するコードゼロ指定物だが、地球やガミラスが発見するよりも早くに彼らは遭遇してしまったのだ。
その技術はこれまで生け捕りにしてきた科学奴隷にも紐解けなかった技術の塊であり、当然ガトランティスにも紐解けなかった。
その数か月後、同型感が1隻確認され、それも鹵獲する事ができた。
どうやらこの巨大艦艇は複数隻建造された物であり、およそ戦闘には必要ないモノも装備されている事が分かった。
どのような意図で設置したかは分からないが、これを紐解ける科学奴隷を見つければ、解明に繋がるかもしれないと、ズォーダーは考えた。
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-ゼムリア滅亡から950年-(地球換算で西暦2190年代)
ガトランティスはとある科学奴隷を拾った。
ガミラスの護送船のようだが知ったこっちゃないと確保した奴隷は、ガミラス人でもなく近隣の星間国家のどの人種でもなかった。
護送船に乗せられていたのは、テロンという星の人間だった。
ガミラスと戦争を始めた銀河系の辺境の星の民と聞くが、その男は巨大艦艇を見るとこうつぶやいた。
「何でここにいるんだ……ッ!」
作り物の脳に電流が走った。
このテロン人は、この物言わぬ巨大艦艇を知っているのだ。
ならば解析も出来るだろう___そのズォーダーの直感は正しく、巨大艦艇のシステムは元々テロン人によって編まれたものであり、同じテロン人であれば容易に読み解く事ができた。
ズォーダーはその男に特別な待遇を許した、酒も、金も、女も。
何故そうしたかは分からない、だが巨大艦艇のシステムを読み解きその全貌を解き明かせばこの膠着した現状を打破できると何かが叫んでいたのだ。
やがて3年後、テロン人の男はその全貌を解き明かした。
船の名はエルブズュンデ、ゲベート。
とある儀式を行うために14年かけて建造された4隻のNHGシリーズの2隻らしい。
その儀式と言うのは虚構と現実を溶け合わせ、自分の理想の世界を生み出すための儀式であった。
4本の聖なる槍とエヴァンゲリオンなる巨人、エヴァンゲリオンイマジナリーという想像上の巨人を用いるこの儀式は、当時はイレギュラーな形式で行われたらしい。
足りない槍は黒き月を強制流用した。
使徒とも呼べるエヴァンゲリオン第13号機を使用した。
NHGを4隻用いることで「リリス」を人工的に再現した。
初見では何のことか分からない事だろう。
だが、これだけは理解した。
これは「最初から人類がいなかった世界」を作る事ができる説明書なのだ。
次に命じたのは、その巨大艦艇の動力を複製し、滅びの方舟の動力にする事だった。
これにはもう1人の科学奴隷が役に立った。
第1始祖民族と自称するその女性には、主機に使われていた巨人___エヴァンゲリオンの複製と回収した第13号機の再起動を強制した。
その女の言う所によれば、第13号機は既に使徒を喰らい覚醒を果たしていて、残留する人間の魂も載せたままだと言う。
何という幸運、ズォーダーとその取り巻きは自分の運に感謝した。
そこからは、自分の計画とガトランティス全体での計画の2本に分かれた。
ガトランティスとしては、全宇宙の支配、人類の根絶。
ズォーダーとしては、人類が最初からいなかった世界線にする。
やがて、主動力の複製に成功した。
次元の窓の鼓動から高次元粒子を引き込み蒸発の隙を与えず崩壊させ莫大な出力を得るその神の心臓は、まさしく生命の実だった。
これをあの巨人1体1体が備えているのかとズォーダーは目を見開いたのだが、どうやらそうでもないらしい。
これは元々生命の実を選んだ使徒が持つものであり、これと知恵の実の両方を喰らえば単一で最適化された生命への道が開けると第1始祖民族人は声高らかに言ったが、人の模造品である事を強く自覚しているズォーダーには何も響かなかった。
やがて主動力を数百と満載した滅びの方舟は、その機能の大半を休眠させながらではあるが驚異の性能を振るった。
生命生成界面からは艦艇が生え、空間跳躍が可能となり、有り余るエネルギーは方舟に血のように駆け巡った。
ゼムリアから持ち出した艦艇「カラクルム」を基にした「カラクルム級戦闘艦」を始めとしたガイゼンガン兵器群の建造、エルブズュンデとゲベートの解析から得られた知識を用いた「ティカル級使命遂行大艦」の建造、エヴァンゲリオンの複製、そしてもう1つの計画の準備もだ。
それは、テレザートの捜索と奪取。
何も自分の望みを叶えられる方法が1つと言う訳ではなく、実はこちらの方が確度が高かったりするのだ。
科学奴隷から吐かせた情報にもテレザート伝説が混じっていて、ゼムリアよりも古く言い伝えられてきている。
星座の形すら変えられる高次元生命体は宇宙の始まりから終わりを見通す女神で、その力を得たものはあらゆる願いを叶えられる。
それであれば、全宇宙の支配も人類の消去も思いのまま。
「始めよう」
________
地球換算で2203年
アリステラ星系第4惑星アリステラ4
計画は始まった。
儀式に従い誂えた神殺しの船、エルブズュンデ、ゲベート、その複製体である2隻を加えた4隻のNHGはアリステラ4に降り立ち、主を向かい入れた。
エヴァンゲリオン第13号機、遠き過去の世で覚醒を果たし何者かの願いを叶える神器と化した機体が降り立ち、槍を掲げた。
その瞬間、地が割れた。
局所的とはいえ、重力が死に絶えた。
束縛から解き放たれた岩塊が浮遊し始め、凄まじい爆発と引替えに聖杯は掘り出された。
黒き月と対をなす白き月、第一始祖民族が残した方舟。
人工的なリリスの再現を担うNHG級4隻。
神器であり、司祭でもある第13号機。
後は場所だ。
マイナス宇宙へ通じる扉などそうあるモノではない。
この次元から更なる上の次元へ渡った文明だけでも五指で数えるほどしかいないだろう。
それにマイナス宇宙はいわば舞台裏___空間位相が虚数値を吐き出し、自然現象では辿り着けない事象が自由にふるまえる空間だ。
通常空間とも亜空間とも違う未知の空間、というのが総評だろう。
それこそ「宇宙を引き裂くほどの力」がない限りは強行侵入は不可能だろう。
しかし、目星は付いていた。
あのテロン人が言っていた事が正しければ、ゾル星系の第4惑星に当たる赤茶けた星に、その門があるというのだ。
星が生来から持つ門なのか後天的な物かは分からないが、儀式の場である事は確かだろう。
「大帝の決は下った。帝星ガトランティス、前進」
白い闇は進んでいく。
ガトランティスという一つの集団の目的と、一人の男の目的の為に。
______________
「参ったな……」
「これが真実、これが大帝の成す事……ですって」
「成されちゃ困るってこんな事ォ!!」
冬月と星名が桂木透子____シファル・サーベラーの複製体(?)に尋問した結果がこれだった。
彼女がどうして1000年前の記憶を持っているのかは不明だったが、肉体も精神も記憶も何もかも完全複製可能だとしたら彼女がズォーダー前史を語る事もできると言える。
さらに、複製どころかある程度調整を施したうえで量産できるのだろう。
「それで、この報告書にある『ゴレム』ですね。ゼムリア人が安全装置を用意していたのはマジらしいですね」
「それも白色彗星の中に仕舞っちゃてると。ズォーダーをプロファイリングしたらどうなりますか新見さん」
「これまでの結果から考えると、一番近くに置いているかと。そしてゴレムがある場所には忠臣以外は入れようとしない」
「いわゆる玉座の間ってことですか。で、そのゼムリア人どうします?」
「どうもこうもない。このまま幽閉するしかないだろうデスラー総から譲渡された封印岩塊を使いコスモウェーブを遮断すれば今のところは問題ない。処遇については、終戦後に考えよう」
「ハルナさん、リクさん、真田さん、我々の目的は変わりません」
迷いの無い目で古代がそういうと、リクは右手で親指を立てた。
「帰宅準備だ。ワープは1日3回だけどやむを得ないから増やそう。ツインドライヴがぐずらないように徳川機関長の手伝いしないと……」
「問題は……これだ」
「エリダヌス40の白色彗星……」
「まだ星そのものは動いてはいない様だが、ひたすら艦隊を吐き出している。底が見えない」
「これがひたすら地球にやって来ると……気持ち悪。沖田さんの事だから偵察してると思いますけど、それの情報も上がって来てますか?」
「1万を超えている。これで数日前の情報だから、いまは桁が1つ変わっているだろう」
「10倍の方ですか? 10分の1の方ですか?」
「考えたくない方だ」
淡い望みも物量でひき潰されがっくりと肩を落とす。
手始めに数十万レベルで押し潰して、それで壊滅されたら御の字という所だろう。
問題は、1万にも満たない戦力でどう戦うかだ。
「今我々が考えても仕方がない。さて、古代、帰還の途に就こう」
______________
月面
タブハベース
(WILLEによる接収後、大規模整備が行われたため現在は稼働状態)
「気密と慣性制御が効いて本当に良かったわ」
元々カタパルトに直結する格納庫だったらしくエアロックらしきものはあった。
しかし年月という物は機械を老いさせるには十分で、エアロックから電磁カタパルトまで軒並み不調で重整備を施す事になってしまった。
更に波動エンジンによる電力供給と慣性制御機構を基地全体に組み込む事で完全無重力から1G環境下まで思いのままでの整備を可能にし、赤木を始めとした特別プロジェクトチームは例の機体を運び込み急ピッチで調整を進めていた。
「博士! 装甲板1番から5番はダメです!」
「いったん外して。無重力なら地上より簡単よ」
「ラチェットマン回せ! 1番から3番まず外すぞ!」
「可能なら全部VPSに置き換えるわ。色はアレで。オーダーよ」
「人気ですね」
「VPSの中で一番強度が高いからね。あとは好み」
「頭部装甲も新規の物が届きました」
「間に合わせるわよ、ATFエリミネーターを運用できるのはこの機体だけだから」
人類がその知恵1つで生み出した神の槍の模造品、ATFエリミネーター。
それの放ち手は目の前の巨人、4つ目と生えるような赤が特徴的なあの機体だ。
「エヴァ二号機、何が何でも間に合わせるわよ」
凄い単純な話、ガトランティスって「巨人じゃないゼントラーディ」なんです。