宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
「謹んで、ご報告申し上げます。ゾル星系に進攻を始めた第8機動艦隊第1群は、テロンの待ち伏せとガミロンの艦隊により、全滅いたしました」
「例の大砲、やはり彼らは撃つか。紛い物の星を砕き、船を黙らせたか」
「第2、第3群もゾル星系に進攻いたしm」
「全てだ」
ズォーダーの重々しい声は、ゲーニッツの報告を遮り黙らせた。
「恐れながら大帝、全軍の投入は以降の進攻計画に歪みを生じさせますが……」
「構わん。群司令には出陣に際し勲を与えよ。踏みつぶせ」
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戦時急造木星周回軌道衛星基地群 ガリレオベルト
総旗艦ヤマト第2艦橋CIC
「第11番惑星近郊のガトランティス艦、ほぼ全てが沈黙しました。それと……」
「どうした」
「艦橋___指揮所と思わしき場所での爆発が複数確認されました。……恐らくは自決かと」
「これがガトランティス……」
『オキタ幕僚長、これが奴らだ。化石のような価値観で生き、死をもってお詫びなどとぬかすやつらだ』
モニター越しに苦い顔をするディッツは、過去の小マゼランでの戦闘記録を思い出していた。
カラクルム級のような大型艦こそなかったが、ラスコー級やククルカン級、ナスカ級といった艦艇で構成された艦艇は侮ることを許さない。
それらを操るガトランティスは「戦って死ぬこと」を心の中心に据えているため、敗北を喫した時の次の行動が自決である事が殆どだ。
「各艦隊の状況は?」
「作戦US待機で衛星重力圏外に待機中です。奴らが現れた瞬間、即時ワープが可能です」
『よーいどん、だな。監視の方はどうだ?』
「太陽系内に各防衛艦隊から抽出したAMDホルスアイの有人艦1隻と護衛の遠隔艦3隻で編成した哨戒艦隊を回しています。跳躍封鎖は働いていますが、効くとは限りません」
『アケーリアス由来の技術が使われてるやもしれん。正しいと思うぞ』
警報音がCICに鳴り響き、報告が雪崩のように押し寄せた。
瞬時に太陽系の海図がエリダヌス40恒星系に切り替わり、白色彗星が表示された。
それだけではなく、白色彗星の周囲に計測域を超えた重力震が観測されて大型モニターにエラーを示す文字が表示されている。
「エリダヌス40の71艦隊から一報!」
「白色彗星周辺に計測域を超える重力震を観測しました。この宙域は
「星ごと来るというのか……ッ!? 待機艦隊全艦、第1種戦闘配置! 戦闘開始と同時に撃てるように準備を!」
艦隊かと思えばまさかの本星ごと飛んでくることにミサトは一瞬狼狽えたが、次にどうするか指示をすぐに飛ばした。
本来沖田の役割だが、脊髄反射の良い指示に沖田は特に咎めず被せて命令を発した。
「葛城君」
「物量に任せた中央突破。急激に上がった生産能力に任せた結果、戦略も何もなくなった戦い方。提督の皆様方の予測通りの事が起こりそうです」
「葛城君、艦の状態は?」
「今すぐにでも戦闘行動に移る事ができます。ですが、向こうは数十万単位でこちらは1万にも満たない数です。波動砲があるとはいえ、厳しい戦いになりますね」
「希望はある。それに、儂はガトランティスに突きつけておきたい事がある」
「それは……?」
「物量を過信する愚か者は、知恵に滅ぼされるという事だ」
「傾注! 11番惑星近海に大規模重力震!」
既に現れた第2波艦隊の後方に真っ白な塊がワープアウトを始めた。
木星規模の巨大要塞がじわりじわりと姿を現していき、その姿を哨戒艦隊が捉えた。
何もかも飲み込む白い闇、沈黙するカラクルムを飲み込む強大な引力、その白い闇から這い出る様に現れるカラクルム級、動く絶望。
モニター越しとはいえ、白色彗星をリアルタイムで見るのは沖田も初めてだ。
「現時刻をもって第1次防衛ラインは遅滞戦闘に移行する。無人砲撃を最後まで続行させろ」
躊躇なく指示を飛ばし、オペレーターは第1防衛ラインで砲撃を続けるローエングリン、戦闘衛星の出力をギリギリまで上げて自動砲撃を設定した。
最初から捨てることが前提の無人迎撃ラインのため、人命の事を気にしなくてもいい。
「冥王星、海王星を戦場に設定し、作戦USを実行する。全艦隊、号令があり次第所定の宙域にワープだ」
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「第1次防衛ライン、突破されました!」
「残存する無人攻撃システムは全機爆破しろ。最後まで逃すな」
「はいっ!」
自爆命令を受けたローエングリン、戦闘衛星が次々に爆発していき、少数ながらカラクルム級を巻き添えにした。
それでもカラクルム級は大規模な群れとなり、取り巻きのゴストーク級を連れて冥王星方向に突き進んでいく。
狙いはガミラス太陽系駐留基地だろうが、そこはもぬけの殻だ。
「観測は続けているな?」
「ばっちりです。白色彗星は微速前進、カラクルム級の群れは伸び始めました。予測進路は内惑星系、火星です」
『オキタ幕僚長、こちらも準備完了だ』
「ヤマトも前に出ます。正式に建造された波動砲搭載艦として前線に立ちます」
ガリレオベルトと火星、地球に防衛用戦力を残し、ほぼ全軍での出撃だ。
第1、第2、第5、第7、特派機甲軍団と太陽系駐留艦隊、特砲艦隊、この全ての投入となるため、ここで大損害を受ければ次の戦いが危うくなる。
だが、ガトランティスという災害を受け止めるには、今から行うこの作戦が初戦としては最も適しているのだ。
「内惑星哨戒艦隊から緊急連絡! 地球火星間軌道に巨大構造物の出現を検知!!」
「跳躍封鎖は?!」
「正常に機能しています! 通常のワームホール型ワープとは原理が異なるワープです!! モニターに出します!」
哨戒艦隊を内惑星系にも回していた事が功を奏した。
既存のワープ管制では防ぎきれないワープも観測する事に成功し、不意打ちにいち早く気付く事ができた。
しかし、問題はその巨大構造物だ。
全長はAAAWunderの5倍近くある12200m、全高は2300m、ちょっとした山と同等のサイズだ。
しかし小惑星といったモノではなく、明らかに鉄色をしている。
さらに砲塔らしきものも観測でき、極めつけに推進光もある。
間違いない、敵だ。
「……ッ!?」
「まだ情報は少ないですが明らかに戦闘艦艇です。地球へ向け前進しています」
「回せる艦隊は?」
「通常艦艇では破壊は困難です。それこそ、波動砲持ちか同等レベルの戦力を持った艦艇でないと……ッ」
『幕僚長、ハインラインです。こちらでも観測しています』
モニター越しに食い入るように入ってきたハインラインは、多少の危機感を顔に滲ませて敬礼をした。
本当にニアミスだったのだ。
地球火星間軌道で演習と最終調整を行っていたアメノハバキリ大隊は、イザナミ級の専用輸送艦として急遽改造を受けたアントノフ型の巧みな操艦で全機健在、超巨大戦艦のワープアウトを間近で観測する事ができた。
そのうえ第11増強戦術機連隊と第31可変戦術機連隊も無事であり、ガリレオベルトや地球からの司令を待ちながら戦闘準備を整えていたのだ。
「ハインライン一尉、どうするつもりだ」
『その超巨大戦艦はこちらで対処します。現時刻をもって、イザナミ級の全ての微調整を打ち切り、戦闘行動を開始します。第11、第31連隊もイザナミの援護に回します』
「出来るのかね、ハインライン君」
『できる事はできると言います。イザナミは本来震電の次の次の次くらいに生まれるレベルの機体です。サイズは小さくとも、現状最強の機動兵器である事を思い知らせます。それと、断層工廠に連絡を入れて、例の艦を動かす指示をお願いします。アメノハバキリ単体では破壊し切れません。そもそもカラクルムを雑に刈り取れるとはいえ、山クラスの巨大艦を破壊し切れるかと言われればそうではないのです』
例の艦と聞き、沖田は決断を迫られる。
まだ出すべきではない、報告では最終艤装も完璧ではないそうだ。
しかし、単純な戦闘能力はAAAWunderと同等である以上、出すべきだろうか。
『オキタ幕僚長、例の艦とは?』
「地球で改修中のコードゼロ指定物です。ミリーゼ君はいるかね?」
『幕僚長、ミリーゼです』
「現時刻をもってヴラディレーナ・ミリーゼ三佐を現場指揮官として一佐に昇格させる。野戦任官だ」
『私がですか?!』
「君しか出来る人がいない。君にはムリーヤからイザナミの指揮を執ってもらう。我々は本隊を叩かねばならない。超巨大戦艦を止められるのは、君だ」
急な野戦任官と重責がのしかかり、表情がこわばる。
勿論戦術機の指揮は何度もやった事があるが、自信があっても過信はできない、この大戦争ではもっとできない。
でも四の五の言っていられる状況でもない。
できる可能性があるのは、私だけだ。
『ヴラディレーナ・ミリーゼ一佐、了解しましたッ!』
「現時刻より、アメノムラクモ大隊及び第11、第31の両増強大隊の出撃を許可する。やりたまえ」
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地球火星間軌道
戦時改修アントノフ型超大型航宙特機輸送艦 ムリーヤ
「アメノハバキリ大隊総員に告ぐ。これから出向く戦場は、人類と地球のために命を賭けることになります。私も同様に、母艦の被弾で命を落とす可能性があります。ですが、敢えて言わせてください」
一息を挟み、ミリーゼはこう締めた。
「生き抜く事を、諦めないでください」
小娘の指揮で戦うのは誰も想定していなかっただろう。
本来はもっと高位の階級の指示で動く事を想定されていた部隊で、野戦任官の一佐が指揮を執ることなど誰も考えていなかった。
だが沖田も言った通り、ミリーゼの本来の階級は三佐だがその実績は二佐に上げてもいい位だ。
過去のガトランティスとの散発的な戦闘では返り討ちにした事もあり、第3防衛艦隊の航宙母機動艦隊で指揮を執った事もある。
「ミリーゼ一佐、我々は貴方のお父様___ヴァーツラフ元大佐の指揮に救われてきました」
一同敬礼する中、ノウゼンはミリーゼにそう伝えた。
「ヴァーツラフ……お父様の?」
「お父様のようにあってほしいとは言いません。それでも、指揮官として堂々としてください」
「あなたは……」
「元戦時編成スピアヘッド戦隊戦隊長、シンエイ・ノウゼン一尉です」
「お父様が指揮した部隊の……」
「教導隊は、ほぼ全員スピアヘッド出身だぜ」
「下手な指揮したらビームライフルな」
「お前なぁ俺らとタメだけど向こうが上官なんだぞ?」
「しーらね。ま、頼りにしておくわ」
本当に独特な雰囲気だ。
死の匂いに染まり切ったからだろうか、常に死と隣り合わせだったからどうか。
理由や雰囲気はともあれ、ミリーゼの肩に載るずっしりとした重責は幾らか落ちた。
「総員出撃用意! 各員は専用機に搭乗後、起動準備にかかれ!」
全天周モニターに映る情報のレイアウトは震電と変わらず、増設された量子型演算処理機構が画像処理と主機ゲシュ・タム機関の火入れの準備を開始する。
整備員がガミラス製波動コアを装填して離れると、ノウゼンはモニター越しに肩部装甲を見た。
堅牢な艦艇用VPS装甲に超高振動系工具で引っ掻き書いたメッセージが大量に残っている。
極東語、英語、中国、韓国、イタリア、フランス、ドイツ、ポルトガル語といった主要管区の言語で「生きて帰ってこい」と刻まれている。
見慣れない言語もあると言語解析にかけると、驚いたことにガミラス語もあった。
ゲシュ・タム機関関連でガミラス人が関わっていると聞いたが、過去に殺し合いをした文明からもエールを貰うのは何だか変な気分だと感じた。
それでも人類の1人として力を託してくれたことで一層気が引き締まった。
灰色を纏った機体がカタパルトにセットされ、鋭い眼光がツインアイに灯る。
全長30.3m、全備重量120トンの戦神は人類の英知の結集であり、それを操る精鋭も人類の希望だ。
『ゲシュ・タム機関始動用意』
イザナミの背部に繋がれた極太のケーブルに莫大な電力が流し込まれ、胸部フライホイールが回転を始める。
史上最強の戦略級機動兵器の起動はどこか儀式めいたものがあり、自分たちはいったい何を造ったのかと一瞬考えてしまう程だ。
その正体は半永久稼働可能な戦略機動兵器であり、生まれる時代がガミラス戦争の時期くらいにズレていれば
『フライホイール充填率103%。接続、機関始動』
『接続!』
胸部ゲシュタム機関が淡い紫の光を灯し、全身の装甲が灰色から真紅に塗り替わっていく。
本来は艦艇用であるVPS装甲を使い強度が最も高い赤色に設定した事で、勇ましい戦士の姿が現れた。
さらに胸部主機から生まれる莫大な電力を貪り始めた4基の太陽炉から大量の粒子が噴出した。
まるで宇宙戦艦の噴射で、たちまち橙色の粒子の嵐が吹き起った。
その奥で鋭く光る眼光は鬼のようにも、武士のようにも見える。
片手に単分子大刀、片手にビームライフルを携え、発進位置についた。
『電力生成量1億8000万kWで安定。粒子生成量2150㎥/sで安定』
『リニアカタパルトオンライン。粒子コンデンサ1番から36番、充填率93%。誘導システム異常なし』
ムリーヤの艦首に増設された非接触式カタパルトが展開を開始し、イザナミ級の両側に長大なレールを展開した。
従来型の航空機及び戦術機の射出方式は、腹這いか仰向けの状態でレールに固定してリニアで射出していた。
しかしイザナミ並みの巨体を射出する事はできず、そもそもイザナミ級自体がそれに対応していないため考え出されたのが、「強烈な磁界を展開しレールガンの弾の様に射出する」非接触式方式だった。
既にダインスレイヴやバリアントといったレールガン系で磨かれた技術を拡大発展させて生まれたこのリニアカタパルトにイザナミ級が納められ、青白い稲妻が浮き上がり始める。
『トリガーセクション、シアー開放準備よし。射出タイミングをパイロットに譲渡します』
「IM-01、シンエイ・ノウゼン。出る」
操縦桿を大きく前に押し込むと莫大な電磁気力で一気に射出され、イザナミ級は宙に放たれた。
赤で彩られた装甲、史上初の携行ビーム兵器、半永久稼働機関、時代を大きく飛び越える産物が続々と射出されていき、2分もしないうちに1個大隊36機が集結した。
それに乗り込む者たちはみな精鋭で、ガミラス戦争時に地獄を見て来た者達だ。
目立つ者を挙げれば、ファルコン系の1世代前のコスモイーグルで地球絶対防空圏を守り抜きカ2号作戦で加藤に迫る撃墜数を叩き出した旧北米管区組の「グラハム・エーカー一尉」。
ユーロからは帰還確率が低い作戦で何度も生還し、被撃墜歴を持ちながらも五体満足。
ついたあだ名は不死身の炭酸の「パトリック・コーラサワー二尉」。
ユーラシアからは天性の感覚で百発百中と圧倒的な反応速度を叩き出し戦術機の天才と謳われた乙女であり、現第8防衛艦隊司令官セルゲイ・スミルノフの養子でもある「ソーマ・スミルノフ・ピーリス三尉」。
そして震電や秋水では満足し切れなかった上澄み中の上澄みの1人1人がエースオブエース、特殊部隊、「こいつらでダメならどう頑張ってもダメだろ」の集まりは各々異なるカスタムが施された機体に乗っている。
左利きの機体、スラスターを増設した機体、ミサイルポッドをこれでもかと増設した機体、大刀を4本持った機体、収納式足部を意図的に増設した機体、技術班の汗と涙の結晶は36本の名刀を生み出したのだ。
「IMリーダーよりIM全機へ。目標、超巨大戦艦。出し惜しみするな、援軍の特艦が来るまで暴れ続けろ」
『『『了解ッ!』』』
「あと、前哨戦で絶対に死ぬな!」
『『『了解ッ!』』』
橙色の軌跡が宇宙に描かれ、36機の希望の機体が駆けていく。
艦隊殺しも可能なこの名刀は巨悪を断つのか、それは彼ら次第だ。
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ガリレオベルト
総旗艦ヤマト第2艦橋CIC
「イザナミ級全機、コンディション良好、発進しました」
「本隊の様子は?」
「冥王星軌道まで伸びています。戦略もクソもないですが、気になるのが面で展開している事です」
「面?」
「こちらです。EWACSからの観測情報を回します」
メインモニターに移ったのは、ガトランティス本隊の進行状況だ。
ファルコンspec2に早期警戒レーダーやマルチセンサーを内蔵したEWACユニットを装着した特殊偵察機が捉えたガトランティス艦隊は、アリの行列のように艦隊を伸ばしていくかと思えばどんどん広がり面上に広がっていく。
まるで巨大な壁で圧殺するような構えで、VSPSTの砲撃で撃沈されてもすぐに穴を埋めれるような布陣だ。
「波動砲対策か」
「一列になっていては綺麗に射抜かれますからね。開戦時に使ったきりですが、脅威とみなしてきたのでしょう」
「あるいは、イスカンダル航海のどこかで見られていたかだ」
艦長帽の奥の沖田の目がモニターを鋭く睨み、過去の戦いを思い出す。
ガトランティスとの初遭遇であるシャンブロウ海戦では使徒化した艦艇等も出現したが、カラクルムのような大型戦艦はメダルーサを除き見られなかった。
だから機動戦が主体となりラスコー級やククルカン級が主役としてナスカ級が航空機を吐き出していた。
しかし今回の侵攻は「本当に同じ文明なのか?」と沖田を始めとした提督たちを困惑させた。
8番浮遊大陸、2回にわたる第11番惑星侵攻。
この3つにはある程度の戦略が見て取れたが、今回のは戦略も何もないただの力押しにしか見えない。
まるで、「只突っ込ませれば勝てるレベルの物量」を得た様な振舞い方だ。
「作戦に変更はない。超巨大戦艦はイザナミ級に任せ、我々は本隊を叩く。特砲艦隊、第1から第5の全分艦隊を指定位置に飛ばし分断を行う。白色彗星に対しては総旗艦を用いた航行阻害を実行する。アンドロメダ級はヤマトに続き白色彗星の進路上、重力傾斜範囲外に飛ぶぞ」
「了解。地球に連絡し、総旗艦装備を使用します。北上、地球に繋いで連絡入れて!」
「電話一本でエックスナンバーとかイカれた戦争じゃん……りょーかいっ!」
エックスナンバー____北上の言うそれはオーバードウェポンの中でもかなり危険な代物で、極東事変やシュトラバーゼ、白色彗星接触時に振舞われた侵食魚雷「タナトス」もその1つだ。
他にも反射衛星を参考にして作ったものや遠隔操作艦だけに装着可能な物もあるが、総旗艦であるヤマトだけに装着可能な物もある。
それが、総旗艦装備だ。
「うっわマジか……艦長、幕僚長! 即行で許可出ました!」
「急げ」
「取付急げ! かなり巨大だから回せる作業機は全部回して!」
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AAAWunder
薄氷を脱ぎ捨て通常空間に戻ると、ツインドライヴは疲労を薄く浮かべながら落ち着いていく。
それは機関室や徳川のコンソールでも確認されていて、徳川は渋い顔をしていた。
「強行軍じゃな……いかに機関が強くてもこれは……」
「1日3回までのワープを5回、無理をしているのは分かってます」
島もイスカンダル航海とまた違う緊張を感じている。
あの頃はメ二号作戦後だったため背後の地球が襲われる事を考えなくてもよかったが、今回は現在進行形で太陽系に侵攻されているのだ。
第2世代艦と特砲艦隊、総旗艦ヤマト、特派機甲軍団、隠し玉もいるがそれで完全に防げるとは思えない。
現に地球火星間軌道に全長12キロの巨大戦艦が出現し戦力分断を狙って来ているのだから、底知れぬ戦力を感じる。
「考え込んでる?」
「雪、それと君達は……」
「ハルナさん達に頼まれちゃってね、レイちゃんとシンジ君に付き合ってるの」
「これ。配ってる。戦闘糧食らしいけど」
そう言って綾波が渡したのは、おにぎりだった。
どこから米を調達したかは分からないが、恐らくオムシスで入手したのだろう。
それになんでおにぎりなんだろうと一瞬考えたが、戦闘糧食と言われるとピンときた。
「うん、美味しい。綾波君が握ったの?」
「……聞いた通りの鈍感な人、お父さんの言った通りだった」
「え?」
「それ、雪さんが握ったおにぎりなんです……」
まだ鈍感な部分がある古代にシンジが答えを出す。
古代も森が握ったものとは思わなかったようで驚いた声を出した。
もっとも、料理に強いシンジが手解きしながら森が握ったものなので、厳密には彼女が握ったものではない。
「慣れないことしたなぁってのは思うけど……」
「いや、美味しかったよ!」
「初めてやったけど良かったぁ……」
将来を誓った人からちょっとした手料理を貰えたことに古代は元気を貰えたようだ。
そのままの勢いでシンジと綾波、森は手早くおにぎりを配っていく。
「綾波、ずっと持ってるけど僕が持つよ」
「ありがとう」
基礎体力が欲しくて基本的な運動をしていても、やっぱり重いものは重い。
ここは彼を頼ろうと思って、シンジにおにぎりをたくさん入れた籠を渡した。
「うわっ結構ある……大丈夫だったの?」
「少しは鍛えたから」
よく見ないと気付けない程度だが、確実に自慢している。
昔の綾波を「もう1人のシンジの記憶」で知っているシンジは、何だか温かい気持ちになった。
どうやら昔、綾波はシンジとゲンドウを引き合わせるために料理を練習していたらしい。
そのせいで一時期手が絆創膏塗れになっていたりもしたが、絆創膏の事をシンジに聞かれた時綾波は「内緒、もう少し上手くなってから話す」と言って誤魔化したそうだ。
「……顔、何か付いてる?」
「いや、何でもないよ……」
無を描いたような顔はどこに行ってしまっただろうか。
今の彼女は、希薄なだけにどこまでも誰よりも人間らしい。
綾波がリリスの魂で元々クローンとして生み出されたなんて信じられない。
「私がクローンでも、プログラムされた存在でも、もうあまり意味はない。とても大きくて良いエラーを抱えてしまってるから」
「エラー?」
森もさすがに気になり聞いてみると、綾波は掌を天井にかざして照明の明かりに目を細めた。
「儀式用に作られたはずなのに感情を持って、ごく普通の人として生きたいと願った事。とても普通の事なのに、SEELEやNERVにとってはとても不都合な状態。fatal error、深刻なエラー」
計画の破綻を意味するレベルのエラーは、ごくごく普通の人間の生活を望む事。
学校に行きたいと願い、シンジの事を友達を思い、ハルナとリクと一緒に普通の生活をしたいと願い、その先の人生の事を考える。
綾波レイという儀式用の人形だったころの面影はもうない。
NERV___人類補完計画というシステムの中では確かに深刻なエラーだが、そのシステムを抜け出した末に辿り着いたWILLEと睦月家では、エラーなんかではなく普通の状態だ。
(生きてて良かった)
調整と投薬と不調が続くあの時では思いもしなかった事も、今ではさらりと思える。
「儀式って、正直僕もよく分からない事が多いんだけど……綾波は、綾波だよ。過去がどうなってるのかは、もう1人から教えてもらったけど……未来は、誰でも進んでいいんだと思う」
どう答えるか迷った末にシンジが出した言葉は綾波の胸に届き、あの日の笑顔を思い出した。
「碇くん、ありがとう」
ヤシマ作戦____あの時手を差し伸べてくれた彼は、目の前の彼の中で生きている。
あの日の心に焼き付いた微笑みは、今も綾波の中でしっかりと生きている。
(ぽかぽかする……)
綾波がずっと迷っていた事は、どうやら晴れそうだ。