宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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ガンダムGhost、どうにもならなくなってしまったので書直し中です。
近く発進編を書き終えられると思います


Calamity 7 -強がりで、愛されたがりで-

「デカイ……ッ!」

 

「スゴいな……こんな大規模基地造ってたのかよ」

 

木星重力圏外にワープアウトし非戦闘宙域を進むAAAWunderの眼前に広がっていたのは、ガリレオベルトで待機する第2世代達だ。

 

作業用装載艇の群れが物資と人員を載せて動き回り、ラチェットマンと非武装の震電がコンテナ丸ごと抱えて飛び回る。

 

全領域汎用整備艦が大量のアームで装甲を取り外し、新しい装甲を手早く取り付けていくその光景は、まさしく前線基地。

 

それにしては「できすぎている」が、今はなにも考えないことにした。

ワープ直後の迎撃とワープに次ぐワープで疲労がたまっているのだ。

 

「ガリレオベルトより電文。特1宙ドックへ入港せよ、です」

 

「特1?」

 

「NHG用ドックってことだ。島、微速前進。航路は開けられてるが慎重に頼む」

 

普段の大出力を絞りに絞り穏やかに進み始めると、それは酷く緩慢に見える。

こうして並ぶと、AAAWunder がどれ程大きいのかがよく分かる。

 

元が地球脱出用の移民船であり、可能な限り多くの人類を乗せるために造られたため人類史上最大級となっている。

それが今では戦艦で、人類史上最強となっているとは___一体どこで何を間違えたのかと考える程におかしな話だ。

 

しかし、事実AAAWunderは操る乗員とハードの力のお陰でデタラメ染みた実力を持ち、ガミラスと対等以上に渡り合い同じNHGを沈黙させた。

 

命を守る戦闘艦として、本懐を達成してもなお生き続けているのだ。

 

 

 

「特1ドック入港完了。機関出力をセーブモードに、弾薬補給を最優先に。第三種戦闘配置のままで待機」

 

ここまで来たなら一旦安全だ。

全員の肩から緊張感が幾らか削ぎ落ち、表情のこわばりは消えた。

 

艦外では既にKREDITの作業員が甲板に取り付きメンテナンスハッチから情報を取得し始め、補給物資が満載されたコンテナを非武装の震電が運び始めた。

 

「古代、ガリレオ経由だが地球との回線も確立した。赤道祭の時のように、交信も行いたいのだが」

 

「分かりました。でも、人数が多いので、各々の端末で交信できるようにしてください」

 

「相原。通信系は一任している以上、乗員の端末接続を頼む。桐生君を付けるから、乗員の申し出には可能な限り聞いてやってほしい」

 

「さて……真田さん、守秘回線もありますよね」

 

「あるにはあるが……あぁ、そうだったな。好きに使ってくれて構わない」

 

_______

 

 

『無事で何よりだ。ああ、レイくんもいるね』

 

「はい、私は元気です」

 

『それで何よりだ』

 

最高位レベルの守秘回線を繋げた先は長官執務室、藤堂、加地、そして月村が顔を出していた。

 

「何か、丸投げしちゃってスミマセン」

 

『構わない。寧ろスムーズに進んだよ』

 

「言いますね……ノナタワーの方は?」

 

『地下大深度空間にいると見て動いたが驚いたことに、マルゴットや渚カヲルの封印場所にも繋がっていたよ』

 

高度に暗号化された見取り図が送信され、開封するとノナタワーの真の構造図が展開された。

地下深くまで、何と地下30階まで続きタカオ型が直立してすっぽり入る程の巨大空間が広がっていた。

 

「うっそぉ……用途は?」

 

『これの安置のためだった。レイくん、君は見ない方がいい』

 

「?」

 

「はい、見ざる聞かざるね」

 

教育上よろしくないならということで、ハルナは問答無用で綾波の目を塞いだ。

 

「見えない」

 

「あなたにはまだ早いから。長官、出してください」

 

次に表示されたのは、度し難い光景だった。

純白の巨大なシェルターの中には、脳が格納された立方体のケースが無数に並んでいた。

大量の電極が貼り付けられ、酸素を供給し続ける泡がひたすらに生かし続け、ずらりと正方形に並びその数300ときた。

 

「うぇッ」

 

「やっぱだめだレイちゃん外に出てて」

 

思わず手で口を抑えるくらいには酷い物だ。

あれが人間の脳か培養脳かは分からないが、内政首都の足元にこんな化け物が設置されていたことにめまいを覚えた。

 

無理矢理綾波を外に出すと深呼吸をして気分を正す。

 

「MAGIからアイディア貰ったのかこれ……一体何ですかこれ」

 

『正確な事は不明だが、恐らくはMAGIの拡大版とみていいだろう。有機脳を大量に並列接続した演算システム、これを解析するためだった』

 

更に表示された画像に、リクは前のめりになった。

間違いない、自分の直感が叫んでいる。

 

 

 

これは、AAAWunderの最後のパーツだと。

 

 

 

『吸いだした情報によると、2152年のAAAWunder引き上げ時に一緒に引き上げられたものだ。脊椎結合システムの一部で、これが……』

 

「やっぱり繋げて脊椎にしますよね……」

 

その解析は進んでいたようだ。

既に時間断層工廠を使って複製した分が大深度空間に運び込まれていたようで、WILLE計画発動による断層工廠の制圧までに何とか複製に成功していたようだ。

 

「これ、持ち出せますか?」

 

『組み込むというのかい!? どんな原理で動くのかも想像もつかないんだぞ!?』

 

「旧AAAWunderは、これのオリジナル版を使っていたんです。この艦が建造された時、脊椎部分に何かが通っていた部分があったんです。あの時はどうしようもなかったんですけど……そっか、

SEELEが回収して復元してたんだ……」

 

「長官、兎に角持って来てください。ガリレオにいつまでいられるか分かりませんけど、当時の能力を再現できるかもしれなんです! 申請通らないなら今すぐ辞表叩きつけます!」

 

『分かったから落ち着きたまえ! 君の勘なんだね!?』

 

「勘で悪かったですね! でも外れた事ありますか私の勘?」

 

『極東事変のアレ以外は大体当たってるからな……既婚者の勘もあるんだろう聞いているよ真田君から』

 

「アレホント死ぬほど痛かったですから……あ、そう言えば目壊しましたごめんなさい」

 

『あのさぁそっちを先に言おうね? 片目で平気かい?』

 

「010の操作できないかも……FL乗組員が使ってるブレスレットありますよね、アレでホロ使います。一応造ってる時に死ぬほど練習したので……」

 

一通りの言い合いが沈静化しバテた様子で肩で息をすると、壊れた義眼を瞼越しに触った。

人間の慣れというのは怖い物だ。

遠近感が掴みづらくたんこぶを作る事もあったが、最近はそんな事も無くなった。

 

遠近感が死んでいるからあれやこれやと人を頼るようになったがやはり慣れは怖い物だ。

 

 

『……負けたよ。脊椎結合システムは何とかしてガリレオに運び込む。恐らくその前に君達は出撃すると思うが、戻って来た時に搭載できるように準備は進めさせよう』

 

「ありがとうございます。あとそれと、行政に頼んでもらいたい事あるんです」

 

『?』

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

「移送?!」

 

「全てに片が付くまで、君のお父さんは地球で勾留される事となる。元が指名手配される程だ。冬月氏と一緒に明日中に移送されるから、話せる時に話しておきなさい」

 

真田からあくまで事務的に伝えられたのは、父の移送と勾留だった。

ユイと綾波に関する一連の動乱が終わった事で、後は司法の裁きを受けるのみ。

つまり、戦闘状態に移行するAAAWunderに乗せている必要は無くなったのだ。

 

「……シンジ君。今すぐ大人になれとは言わない。どこか子供っぽい大人は常に見ているからね。でも、親を失うことになることは、理解してほしい」

 

「……分かりました」

 

「それと、君の家族の件だが……綾波君と暮らしてみてはどうだろうか」

 

「綾波とですか!?」

 

「というより、リク君達の家でだ。ハルナ君はもう綾波君を娘と言っているくらいで、戦争が終わったら民間に降りて家庭を持つそうだ。提案の実体は、君達の安全確保のための外周警戒の手間を減らすためらしいが、プライバシーに最大限配慮させるように私からきつく言っておくからあまり気にしないでほしい。それで、もし一緒に住む事を望むなら、手を回す事もできるんだが……」

 

 

「でも……」

 

「別に断ってくれても構わない。君の好きにしてほしい。WILLEも、君の自由に付き合える」

 

そこで話を切り上げると、真田は元の作業に戻っていった。

WILLEは2人の安全を確保するために戦後は保安部による護衛を付けるそうだ。

プライバシーへの最大限の配慮がなされるならNERVと違って大丈夫だと思うが、シンジが気になったのはそこではなかった。

 

住んでもいいのだろうか。

まだ、綾波の事をあまり知らない。

 

 

 

 

__________

 

 

(教えてもらった綾波と、結構違う)

 

 

ハルナとリクの事をしきりに「お母さん」「お父さん」と呼んで、薄く幸せそうな顔をしている。

本人にあまり自覚はないが、知っている表情じゃない。

どこか嬉しそうな顔で、貰ったプレーヤーを握ってる。

 

親みたいな人を得て変わったんだ、と嫉妬してしまいそうだ。

 

 

 

自分の親は、もう会えないかもしれないのに。

 

 

(いいなぁ……)

 

 

分かっている。

間違ってるのは分かってるんだ。

 

変に嫉妬しても変わらないって、中学生なりに考えても分かることだ。

 

それで考えながら歩いていたら、無重力区画に到達していた。

 

「うわっ」

 

そうだ、ここはオオスミの初号機ドックだ。

整備をやりやすくするためにあえて慣性制御を切って宇宙と同じにしているんだった。

今は、僕と綾波が乗ることを前提にしてオーバーホール____一旦分解して整備をしているって聞いてたから、ちょっとだけ生臭い感じがする。

 

 

「シンジ君? あ、マスク付けてないじゃんはいこれ付けてね。この辺生肉みたいな臭いしてるからあとで服も洗うからねーって、何か悩んでんのお姉さんに話してみんさい」

 

「マリさん……」

 

「ちょい待ち。誰かに指揮押し付けてくるから。あ、新見さーんちょっとこれお願いしまーす。赤木博士のメモ書き通りにやれば事故起こらないはずなので」

 

「なるべく早めにね」

 

「努力しまーす」

 

_______________

 

 

「へー真田さんがね」

 

「綾波と暮らす事もできるって、言われて……」

 

「でどーなん、正直なとこ」

 

「分かんないんです。行ってもいいのかなって」

 

「んまぁ―WILLEが言う事も分かんなくないんよ。大人は責任取って戦後のレイちゃんとシンジ君の安全確保をしないといけないし、分散するより一か所に住んでもらった方が手間も減るプライバシーは真田さんが口酸っぱく言ってくれるならまぁ―大丈夫でしょ、真田さん結構影響力あるし」

 

「影響力?」

 

「今地球で動いてる宇宙艦艇の波動エンジンは真田さんが中心になって造ったんよ。made in SANADA、これはマジ」

 

「すごい人なんですね……」

 

「おまけにキャラ的に『どうだすごいだろ』ってしない人だから拍車かかっててね。いやいやそうじゃなくてそうじゃなくて……お姉さんとしてはさ、ガチで住んじゃってもいいと思うだけどね」

 

「いや僕があっち行ったら誰がご飯作るんですか? マリさんご飯作らないじゃないですが」

 

「痛い事つくにゃ……冗談ぶっこめるくらいには少し余裕あるじゃん。冬月先生も、多分送り出してくれると思う。そりゃレイちゃんの出自とか聞いて『ユイ君!?』とかなってたけど、レイちゃんは、マジでどこにでもいるタイプのただの愛されたがりなんよ。ユイパイセンとは何ら関係のない、ね」

 

「愛されたがり?」

 

「元が使徒が故にボッチだから愛を求めるってのも分かんなくないけどさ、1番効くのは、1人ぼっちしてたレイちゃんが親を持ったからなんよ。まぁー正式なやつじゃないけど、泣くし笑うし怒るし、愚痴の1つや2つぶつけるしだし。シンジ君、あの真っ白夫妻の間に挟まりたがってるのはさ、マジでどこにでもいるタイプの愛されたがりなんよ。もう使徒とかクローンとかじゃない、マジの14歳の女の子」

 

 

「その上でエヴァに乗るって言っちゃってるから、いっちゃえば、『愛の戦士』かな」

 

 

「……」

 

「あー分かってる分かってる、キャラ的に違うなぁってのは。でもさ、()()()()()()()女の子が今欲しがってるのはさ、案外母親だけじゃなかったりするんよ」

 

「それって……」

 

「気付かんかい。レイちゃんと初号機に乗ることになっちゃったからその辺ボンヤリになってんのかね。レイちゃんに必要なのは親だけじゃないんよ。シンジ君、君なんだよ」

 

 

 

「マリさん、会って来ます」

 

 

 

「行ってらっしゃい」

 

 

まだ暮らすかどうかは決めきれていない。

でも、会っておきたい、会いたい。

 

テレザートまで一気に連れてこられてそこから変えるまでの間だけだけど、もっと綾波の事を見るべきだった。

 

僕の知ってる綾波じゃなかったのは、彼女が……

 

 

_________

 

 

 

「レイちゃん、咄嗟に娘って言ったこと覚えてる?」

 

「嘘でも嬉しかった」

 

ガリレオベルトから望める木星の大赤斑は緩やかに回り、遠く外縁域の戦場から離れたこの場は前線基地の様相を呈していながら、羽を休める巨艦を癒している。

 

その展望室、綾波と、ハルナ、リクは出入り口にロックをかけて誰も入らないようにしていた。

 

「ちょっとここからの戦いさ、どうなるか分かんないの。また私達も怪我するか死んじゃうかもしれないんだ」

 

「……わかってる」

 

「だから、レイちゃんがここで生きてるよって証拠を残したくてさ、長官に頼んで行政にこれ出してもらおうかなって」

 

リクがタブレットを操作して、1枚の電子書類を表示した。

もう3年以上前、2人で婚姻届けを出した時のようだが、今回は違う。

 

迎え入れる為の物だ。

 

 

「睦月・レイ・綾波……」

 

 

養子縁組届、その電子書類だった。

 

「これ縁組の書類でさ、苗字の変更もできるからどんなのがいいのかなーって。綾波姓でも睦月姓でも好きな方選んでもいいよ?」

 

「……」

 

「レイちゃん……?」

 

綾波の頬に一筋の涙が落ち、タブレットがごとりと落ちた。

ダメだ、自分を抑えられない、あの時と同じだと感じた綾波___レイは母親の胸に飛び込んだ。

 

 

 

「怖い……お母……さん……強がれない……」

 

「知ってる。大人も完璧にできない事だから」

 

自分の知っているアスカのように虚勢を張ってみても、やる気十分だと見せびらかしても、内なる恐怖は消えなかった。

生きていたいと願っても、切り札として動けば待っているのは死かもしれない。

上手くいく保障なんてどこにもない。

 

時々、自分が強くなっているのか弱くなっているのか分からなくなる時がある。

N2ミサイルを抱えて第10の使徒に特攻した時が1番強かったかもしれないが、ハルナとリクという親に触れていると、感情が己を弱くするように思える。

 

人らしくなっていると言えばそれまでかもしれない。

でも、エヴァに乗って出撃していたあの頃には感じなかった恐怖心が、蝕んでくる。

 

 

エヴァに乗る理由を「絆だから」といった自分はもういない。

ここにいるのは、ただの14歳の少女なのだ。

 

 

「生きて帰れるかどうかわからない。人類がいない事にされてしまうかもしれない。それでも、戦うって言ってくれたことを、お母さんは一生誇りに思う。こんなこと会議じゃ言えないけど、失敗してもいい。お母さんとお父さんは、死ぬまでレイちゃんの味方」

 

とてもこんな事は言えない。

失敗してもいいなんて言えない。

公でこんなこと言うのは立場が許さない。

 

でも、今はWILLEの睦月・ハルナ・暁ではなく、綾波の___レイの母親として言おう。

 

 

 

 

「精一杯やりなさい。大人は死に物狂いで支えるから」

 

 

 

 

そうだ、死に物狂いだ。

今の地球人類は、死に物狂いで復興を続けている。

そうだ、たとえ片目を失っても、たとえ片腕を失っても、歩く事をやめずに来た。

 

死に物狂いは、慣れっこだ。

 

「我儘……聞いて」

 

「何でも言いなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私を、お母さんとお父さんの子に……して」

 

涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら、レイは精一杯の我儘をぶつけた。

私が消えても代わりはいる、その考えは愛で否定され、身体を得てからは親子関係を渇望するようになった。

 

お母さんと呼び続けたのは自分の勝手だ。

お父さんと呼び続けたのも自分の勝手だ。

親子関係を証明する物なんて、どこにもない。

それでも欲しかった、柔らかく、温かい、ごくごく普通の家族を。

 

もっと弱くなってもいい、泣き虫になってもいい。

 

ただ、せめて、人間らしく。

 

___いや、とうの昔に、人間に、なっていた。

 

「お母さんとお父さんがもういるじゃない……レイは私達の家族、睦月家の……自慢の娘よ」

 

 

 

______________

 

 

 

 

「これで、良かったんだな」

 

「生き残る理由を増やしてあげること。戦場に行く娘にしてあげる……1番大きな事よ。だから……リクも、無茶して大怪我しちゃダメだから」

 

「分かってる……ハルナ、これは……義務とかそういうのじゃないんだけど、レイちゃんを、未来永劫平和に暮らせるようにすることは、僕の死ぬまで続く役割だと思ってる」

 

「パパの役割?」

 

「何だろうな……あぁ、シンジ君、来てたのか」

 

「ごめんなさい、色々、聞こえちゃって……」

 

やってしまったなと頭を掻いたリクは、ここまでの経緯をシンジに伝えた。

養子縁組書類を地球から送ってもらい、レイの同意を得て縁組をした事。

苗字が変わった事で、正式に睦月家の娘となった事。

 

レイは、本当は強がっているだけだという事。

 

「今はまだ大丈夫だが、戦略もクソも無い程に余裕がなくなって来たら、君達には最終作戦が言い渡されるかもしれない。そうなる前に何とかするけど」

 

「最終、作戦……」

 

「ガトランティスがいない世界になるように、ガリラヤ跡地からマイナス宇宙に飛び込みインパクトを起こす。文字通り、文明1つを消し飛ばすレベルの最悪の作戦だ」

 

 

 

 

 

 

最終作戦、それはシンジとレイ、及びエヴァの戦線投入が決まったため考案された作戦だ。

しかし、その倫理的問題から草案そのものが一度棄却され、開戦直前に最後の手段として深い穴の底から拾い上げられたものだ。

 

エヴァ初号機、エヴァMark.06、聖釘へと変化した槍、そして、願いを唱えるパイロット。

マイナス宇宙に安置されていると文書に記載があるエヴァイマジナリーとゴルゴダオブジェクト。

神具と祭祀場、願いを唱える者が揃っているのだ。

 

完全な死海文書の解読ができているわけではなくカヲルの知識頼りな部分もあるが、人類はもう既にガトランティスを滅しうる手段を持っているのだ。

 

 

 

 

しかしそれは、14歳の少年少女に数百億単位での大量虐殺をやらせる事だ

 

 

 

これが、一度棄却された最大の理由だ。

 

人としてどうなのだ、大人としてどうなのだ、人類史上最大最強の軍としてどうなのだ。

 

あの日、幕僚会議に沈黙が満ちた。

 

誰も、「できない」とは言わなかった事が、何より恐ろしかった。

 

悪魔のささやき、禁断の選択、地獄への扉。

どのようにも形容できるだろう。

 

しかし、全人類は生き残らなければならない。

その為には代償もどこかで必要になってきてしまう。

現に、外惑星域では撃沈が出始めている。

 

もし明日、地球圏で数千万単位の死者が出れば。

 

もし白色彗星が内惑星系へと侵入すれば。

 

もしAAAWunderが沈めば。

 

その瞬間、“棄却されたはずの作戦”が再び机の上に現れるかもしれない。

地球人類は今、別の意味でも戦っているのだ。

 

 

 

「実は……1回僕もこの作戦に行きついてこっぴどく怒られたんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____

 

3日前

デウスーラ・エアレーズング戦線投入よりも前

 

 

 

「インパクトを起こす……そうかっ! 何も防ぐことを考えなくてもいいんだ!! 地球にはMark6の持っている槍と初号機があってシンジ君達がいる!! コッチにとって都合のいいインパクトを起こせるかもしれない!!」

 

「待ってリク!! もし起こしてもどんな世界に書き換えるの!? エヴァの無い世界? それとも……」

 

 

 

 

 

「ガトランティスが消滅した世界?」

 

 

 

 

 

それは、14歳の子供たちに大量虐殺に等しい事をやらせるのと同義だ。

インパクトによる存在の抹消で実際に殺傷する事とは異なるが、それでも命を刈り取る書き換えを実行する事となる。

 

確かに実行可能だが、正気で戦争を続けられている今、それを捨てる事ができるだろうか。

 

「ねぇリク、絶対そんなことやらせないで!! 上にも報告しないで!!」

 

「でも今も本隊との戦闘が続いている! 遠隔艦は兎も角、人命の被害も出ているんだぞ!」

 

「それとこれとは違う!! だからこんなこと考えてもいいっていうの!?」

 

「よくないよ!! でも……ッ!!」

 

手段が揃っている。

場所も、神具も、パイロットも確保できている。

 

あとは人の心を捨てるだけ。

それができる程リクは冷酷ではないが、現状が怪しく背中を押そうとしてくる。

 

 

「何しているんだ君達!!」

 

言い争いを聞いて、真田が駆け寄ってくる。

状況の落差に狼狽えかけていたレイが目で訴えかけると、ただ事ではないと真田は理解する。

 

「……ちょっと来なさい!」

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

「そうか……その可能性に辿り着いたか」

 

「真田さんも……」

 

「上層部も、自分たちが正気を捨てれば、すぐにでもインパクトを起こしてこの世界線の書き換えができるという事に辿り着いてる。幕僚会議で、同じような話が持ち上がりかけたんだ」

 

「沖田さん、じゃないですね」

 

「もっと別の提督なんだが、パイロットの倫理的問題があったから1度棄却された。たった1人で数百億人を虐殺することに等しい。今は、人類滅亡が避けられなくなった時の最終作戦とされている」

 

「……」

 

「リク君、君は結論を急ぎ過ぎたんだ。現状が後押しようとしていたかもしれないが、それはよくない。君は人間なんだ。コンピュータ人間ではない」

 

「真田さんが言わないでください……」

 

「私は今叱っているつもりなんだが」

 

「でも……アレがガトランティス全戦力なワケがないし、まだ1割にも満たないかもしれません」

 

「だから、大人たちが代わりに背負うこととなった。随分と大きな十字架だ」

 

真田がタブレットに表示したのは、白色彗星内部への突入作戦に関する要綱だった。

NHGとイザナミ級を用いた白色彗星内部への突入、彗星内部を攻略し、ゴレムを破壊する。

 

「桜花作戦……」

 

「寿命を全うした後であの世で裁かれるのは、我々大人という事だ。次元潜航艦による白色彗星内部への強行偵察が成功し内部構造の解析が完了次第、桜花作戦にこの艦は投入される。生きて帰れるかどうかは、現状では不明だ。投入戦力はイザナミ全機、AAAWunder。亜空間下支援としてUX級が4隻。AAAWunderには010が装着される」

 

 

「完成したんですか?! アレが?!」

 

 

「開戦前に何とか完成し、各種テストも断層内でできる分は終了した。あとは撃ってみるだけだが。それよりも、シンジ君達にガトランティスを消させる事は私としても反対だ。こちらがいつでもできる事を相手が察知しているかは微妙だが、それでもダメだ」

 

「真田さん……」

 

「我々は最後まで倫理を捨てちゃいけない。ここから、どれほど辛い道になってもだ」

 

「ハルナ……」

 

「……何」

 

気まずい、知らないうちに焦りが出て、あんな事を考えてしまうとは。

一見するとロクでもないが、今すぐ実行できて確実な作戦が、自分を歪めてしまった。

 

俯いたまま、真面に顔を見れない。

 

 

 

「面倒」

 

ガツンッ!!

 

がしっとレイが2人の頭を掴むと、向き合わせてから思い切りぶつけた。

雷でも落ちたような衝撃で目を回すと椅子から転げ落ち、額を抑えて蹲る。

 

「痛いんだけど?! ちょっと腫れてるけど!?」

 

「レイ君!? いきなりどうしたんだい!?」

 

「何で、NERVみたいな言い争いするの?」

 

「「うっ……」」

 

レイの言葉が、真っ直ぐに刺さった。

人の心を売ったような場所を、見た事があるからだ。

 

言葉にせずに「今、一番なっちゃいけない側に片足突っ込んでるぞ」とキツイ目で諭されると、漸く気付いた。

 

「さっさと仲直りしないと、養子縁組一切受け付けずに『ただのレイ』になるから」

 

「それはダメ!」

 

「却下!!」

 

「なら今すぐして。真田さん、端末ある? 私のやつ、連絡先が入ってないから貸して」

 

「分かったから仲直りするからやめろ!!」

 

これは本気でやろうとしている。

反則レベルのカードを切ってでも喧嘩を止めるつもりで、3年程度の関係であっても冗談がなかなか聞かないのは分かっている。

 

 

 

 

「レイ君、君……一挙手一投手が恐ろしいな」

 

「お父さんとお母さんがこんなに喧嘩するの、初めて見た。ショックな事を言わないとダメだと思った」

 

「その……頭ぶつける必要あったか?」

 

「どうしようもなくなったから、パワーで解決するしかなかった」

 

「リク君……君の娘、どんどんバイオレンスな方向に進んでいないかい?」

 

「困ったら暴力で解決する人じゃないから。心外。真田さんも私に謝ること」

 

「ごめんね、レイ君……」

 

冷たい目の少女と首を垂れる3人の大人、奇妙な絵面だ。

でも、レイの手が震えている。

 

魂が抜け落ちる程の大きな息を吐き、レイは崩れた。

 

「よかった……これ言うの、怖かったから」

 

レイにとって家族を手放すことは、自分の首に刃を当てているようなものだ。

 

このまま、3人は何も言えず、時間が過ぎていった。

 

 

 

 

______

 

 

 

 

「という事があった」

 

「レイが、そんな……」

 

「正直、レイちゃんがそんな禁じ手を使うなんて思いもよらなかったんだ。あの子のなかで家族はとても大きなものになってくれているけど……言うだけでも怖かった、そう言ってくれた」

 

物静かな少女はもういない。

意思を通すためには自分の大事なものにも手をかける程の頑固さと、無自覚な愛を抱えたごく普通の少女が、ただそこにいるだけだ。

 

「シンジくん、うちのレイちゃんを頼む。最終作戦が起こっても起こらなくても必然的にガリラヤ付近での戦闘となるし、有人艦は近づけない。NHGも、今の状態ではL結界を超えられるか怪しい。昔は堂々と進んでたらしいけど、L結界の影響を受けないアンチLシステムがこの世界にまだないんだ」

 

「……やります」

 

「頼むよ。多分僕らは桜花作戦に出向くことになるから、君達をここに残して白色彗星を潰すことになる。万が一の時は避けるけど」

 

「そんな……死ぬかもしれない作戦なんて……行かないで下さい!!」

 

「そう言うわけにもね、行かないのよ」

 

ハルナがタブレットに映し出したのは、AAAWunder に装備することを前提とした超大型オーバードウェポンだった。

 

OWX-X0000 

主機内蔵式VSPSC搭載型遠隔操作砲艦システム

サバーニャ

 

地獄の管理人であるザバーニーヤから命名された最終決戦装備は、波動コアを30基使用する大規模な装備であり、旧イソカゼ級の艦体構造を転用して造られた。

 

もともとあった有人区画を全て取り去り、生まれたスペースにユキカゼ型の波動エンジンをさらに改良した「量子場圧縮次元波動機関」を搭載。

 

高圧増幅光線砲塔の代わりに48センチ連装VSPSCを2基搭載し、高機動と高火力を実現させたこの装備は、その数30隻。

 

かつての旧AAAWunderが敢行したヤマト作戦と同じ()()ちで、死が蔓延るような敵地へと乗り込むのだ。

 

しかし1人15隻の操作は困難を極め、2人もシミュレーターで何十回と練習と調整を繰り返し何とか形になった、と言えば分かるだろう。

 

 

 

サバーニャは、2人が扱うこと前提で最適化されているのだ。

 

 

 

「多分他の人が扱えないから行かないといけないの。でも、宇宙遊泳でも何でもして戻るから。これは、念の為かな」

 

「必ず、戻ってきて下さい」

 

「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警報が、2人を戦争へと引き戻した。

 

『古代です! 跳躍封鎖の一部が崩壊、次元震も複数回観測しました!』

 

「何隻落ちてる?」

 

『まだ2隻ですが、音紋から見て次元潜航艦がいます!』

 

「瞬間物質移送器がパクられてるから他のも考えるべきだった。古代くんどうする?」

 

『UX級は2隻出せますが数が足りないので、試作特務艦、使わせてください』

 

「そりゃゲシュ=ヴァールとバラストの供与で造れてるし第2世代の家系だから舟殻強いけどさ、まだ可潜艦でしかないし潜航時間は10分もない素潜りみたいなもんだぞ!?」

 

『素潜りでも何とかなる作戦があります。位置さえ分かれば、ピンポイントで潜り撃破します』




さーて何が来るかなぁ?
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