宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
サレザー恒星系第4惑星 イスカンダル
王都 イスク・サン・アリア
クリスタルパレス
第5防衛艦隊による撤退戦開始から約2時間前
「ユリーシャ、サーシャ、私は、1つの決断を__いえ、選択を下します」
イスカンダル人は、とある時期を境にして消え去った。
どこへ消え去ったのかは星間文明間では判明していないが、それと同時にイスカンダル本星からも兵器の
しかし、唯一の例外があった。
クリスタルパレス地下、王族のみが立ち入りを許される聖域の一角に、それは残されていた。
宇宙各地へ散った波動コアの所在を監視する観測装置。
幾重もの柱に囲まれた巨大な波動コアのような筐体が、静かに青白い光を放っていた。
「イスカンダルがここ、サンクテルに身をゆだね、もう数千年。唯一の王族として世界とイスカンダルを見つめてきたけど、あの主義は間違っていた」
「主義……?」
「全文明の記憶化とサンクテルという名の理想郷。極めて利己的な行いにして、独善的な行為」
「その贖罪ができるかどうかは分からない。手をかけた惑星が多すぎる。それでも……」
「……」
「それでも、これが最初の一歩になればと」
ビーメラにもたらしたコアが、ガミラスにもたらしたコアと全く同じ位置にいる。
デウスーラ・エアレーズングのツインドライヴはその2つを掛け合わせたのだろうとスターシャは結論付けるとホログラムに手を触れた。
「イスカンダル最後の王族として、あまねく星々、その知的生命体の未来ために、波動コアを持つ2隻の封印を解く」
「可能性の読み込みと空間を裂かない完全なツインドライヴ。完全な同調と無限を宿した力……」
「私は、お姉様の選択に願いを添えるわ」
一歩進み出たユリーシャがそっと自身の胸元の宝石に触れると、イスカンダルの紋章が浮かぶホロが現れた。
そっと手をかざすと回り、捻じれ、スイッチのようなものが現れ、それを押した。
波動コアの管理装置のロックが1つ外れ、驚いたスターシャはユリーシャの方へ振り返った。
「生き延びる為に波動砲を使うことを宣言し、今も生き抜く為に____命を守る為に使う彼らに、そっと手を添えることはダメなの? アケーリアスの子の長女として、良くないことなの?」
「……っ!」
「生き延びて欲しい、明日へ繋げて欲しい。それが、イスカンダル第3皇女として__ちがう、ハルナとリクの友達として、この選択に願いを添えるわ」
「ユリーシャ、貴方……」
「これが、私達にできる、たった一つの冴えたやり方だから」
いや、この際冴えているかそうでないかは関係ない。
生き抜くために行動を起こせるかどうか、選択ができるかどうかが重要だ。
哀の星となったイスカンダルに動く力がまだあるかどうかだ。
地球、ガミラス、デスラーが既に選択をもって自身を示した。
次は貴方達だと、選択を決めた者から手を差し出されているのだ。
「ユリーシャ、サーシャ、波動コアの封印を解き彼らに力を託す。それをもってイスカンダルの選択とし、生き抜く事を示す」
「分かった、私もハルナとリクに生きていてほしい。だから力を託す」
「イスカンダルと罪を分け合いながらも、生き抜くためになお先へ進む彼らの背を押す。双子星のガミラスの長であった者、デスラーの背を押す為にも」
ユリーシャ、サーシャも決意を固め、スターシャはホログラムに手をかざした。
古代イスカンダルの紋章が揺らぎ、捻じれ、波動コアを模したホログラムへと変化した。
はるか昔に次元波動理論の基礎、応用、神髄までが込められた波動文明の中核、波動コア。
ガミラス、そして22世紀暮れの地球にもたらされた物は機能を制限した物であり、基礎を何とか扱えるレベルの文明に意図的に合わせられていた。
しかし、地球はその応用編をイスカンダル航海の最中に偶然実践していた。
ツインドライヴ、およそ9000年前のイスカンダルが「王族専用艦」に実装していた特殊な双連機関だ。
2つの波動コアを
そして、そこから放たれる波動砲は宇宙を引き裂くほど。
不完全であるがその応用編に辿り着いた事はスターシャに驚愕をもたらし、同時にノーヒントで辿り着いた事にある種の恐れを抱いた。
しかし、今はその恐れを抑え込んででも、力を託す選択をする。
「遍く星々、その知的生命体の平穏。――それが遠きイスカンダルが歩んだ道」
「死に等しき静寂を選んだ我らが、今ここに未来のための選択を下す」
「宇宙に散らばる救済の礎、波動コア」
「二つの星を宿し、命を救う戦闘艦達よ」
「AAAWunder」
「デウスーラ・エアレーズング」
「双つの鼓動を宿す奇跡の
「遠い星の戦士たちよ」
「愛の戦士たちよ」
「その身に宿す力の底を解き放つ」
祝詞とも呼べるその文言は鎖を取り払っていき、何重にもロックされたサーシャ・コアとビーメラ・コア、デウスーラ・コアの封印を解いていく。
唯一ユリーシャ・コアだけは例外だった。
ユリーシャ・コアは元々救済のためにもたされたコアではなく、地球へ向かう際に用いられたイスカンダル製恒星間連絡船シェヘラザードに使われていたコアだ。
極短期間での16万8000光年の走破と通常空間での極超光速航行を達成するために最初から封印等がかけられておらず、その力を存分に扱えるようになっていたのだ。
AAAWunderの異常な技術的進化の理由はそこにあったのだろう。
「サーシャ、波動コアを介し呼びかけます。」
______________
現在
「波動コアの封印を!?」
「やっぱり封印があったのか……ッ!」
ビーメラ・コアの分解解析結果はやはり正しく、スターシャが通信越しにその答えを示してきた。
その封印を解く事で何が起こるか、皆目見当もつかない。
だが、こうしてスターシャが封印開放の宣言をしているという事は、少なくともこちらに利がある能力だろう。
迷うな、今は一刻を争う。
その状況が古代を動かし、指揮官として答えを出した。
「スターシャさん! お願いします!!」
『分かりました』
スクリーン越しに手をかざすスターシャは空中に浮かぶディスプレイのような何かを操作し、最後にスイッチを顕現させた。
今まで波動コアの力を制限してきた安全装置で、それを解き放つためのスイッチがアレだろう。
『波動コア、完全開放……!!』
スイッチが力強く押し込まれ、ホログラムが金色に輝くとイスカンダル語の警告文が流星のように流れ始める。
それはAAAWunder艦橋にも同様に起こり始め、コンソールでその一部を拾っていた真田はイスカダル語ライブラリで翻訳を噛ませながら内容の精査を始めていた。
「これが波動コアの本当の力……ッ我々はではまだ創造すらできない力か……ッ!!」
『貴方達に力を託します。人類の未来を守る為、我らイスカンダルは貴方方の背中を押します!』
__________
「何じゃこれは!?」
「不明です! とにかく待避を!」
波動コアコンジットベイから迸る光は青白く、波動防壁にも似た透明さを保ちながら辺り一面に発散を始める。
更に変容は続き、コンジットベイのハッチを中心にして青白い結晶が波動エンジンを包んでいき、イスカンダル語で書かれた祝詞が浮かび上がっていく。
「解析は?!」
「やってる! これが、解析不能領域の正体……ッ!!」
コンソールにかじり付く真田は、イスカンダル純正波動コアからもたらされた莫大な情報を目で追いながらリアルタイムでの解析を続けている。
そして思い知った。波動砲、ワープ、ツインドライヴは、あくまで波動コアの基礎と応用の機能で実現していた能力であり、その奥に潜んでいた神髄はそれを凌駕するかもしれないと。
そして、古代イスカンダルはこの力を使っていたという事を。
その力にかけられた封印を何百年か何千年かぶり、或いはおよそ1万年ぶりかに解き、自分たちに託す選択をしてくれたことを。
やがて波動エンジンから始まった変容は艦体そのものにまで及び、装甲の継ぎ目や伝導管に沿って青白い光が走り、大波のような波動共鳴波を受けた改イソカゼの波動機関の出力が跳ね上がりを見たハルナは目を見開いた。
「タナトスの共鳴波装置でもこうはならないのに……ッ! これがイスカンダル純正コアの本当の力……ッ!」
そしてこの変化は、もう1隻の純正コア搭載艦にも発生していた。
「スターシャ。君も、選択をしてくれたのだな」
デウスーラ・コア、ビーメラコアを有するデウスーラ・エアレーズングの機関室でも同様の現象が観測されており、青白い光とともに結晶が機関を覆い、莫大な情報がタランがかじり付くコンソールに表示されていた。
「イスカンダルの御業、我々のゲシュ=タム機関では実現すらできない力が解放されたのか……ッ!!」
発信準備を進めていたデウスーラ・エアレーズングも青白く輝き、イスカンダル語に詳しい士官がツインドライヴを覆う結晶に浮かぶイスカンダル語の解析を始めている。
「開示機能の解析結果、断片ですが一部出ました!」
モニターに大きく投影されたのは、何かの概念図だ。
デウスーラ・エアレーズングを中心にして6つの影のような何かが浮かび上がるそれは、タランに衝撃を与えた。
「まさか……ッ!!」
最大6回のエネルギー急速充填、理論上はワープも波動砲も6連続で使用できるリボルバーのようなもの。
それが、イスカンダル製純正波動コアの真の力だ。
「ならば……ッ!」
その封印されし力を使うまで。
波動コアから伸ばされた回線を逆に辿り、その開示された機能に辿り着くと真田は躊躇無く起動させた。
名はまだ無い、既存機能と被ってしまうがこれがぴったりと思った。
「スーパーチャージャー、起動ッ!!」
2つの純正波動コア___ユリーシャ・コアとサーシャ・コアが再び眩い光を放つと、結晶に覆われたツインドライヴも呼応して微粒子と共に輝いた。
その瞬間、青く輝く艦体を中心として6隻の船が出現した。
姿形はAAAWunder、ツインドライヴと同等の莫大なエネルギーを抱えた青く輝く影が確かに出現して、そのうち1つがAAAWunderに重なった。
莫大なエネルギーが実像の艦体に瞬時に供給され、ミラーリングシステムを同時起動できるエネルギーが供給された。
そのまま重力子と斥力子と姿を変え跳躍、巨大なワームホールへと化けるといよいよ空間が軋み始めた。
事象の地平線が歪み始め、青白い艦体と共にさらに異常さを際立たせていく。
「嘘ぉ!? ミラーリング、起動圏内です!!」
「敵艦隊発砲!!」
一手早く光滅砲が斉射され、デブリを容易く飲み込み畝り突き進む。
しかし世界の異物とも呼べるワームホールが光の群れを大きくねじ曲げ飲み込んでいく。
まるで底の見えない穴、ブラックホールの類いだ。
しかし太陽系の運行に影響を与えず、砲撃のみを吸い込み攻撃そのものを無かった事へとしていく。
「アナライザー座標計算! ワームホール展開位置、主翼正面数10!!」
『了解!』
光滅砲を吸い込んだワームホールが霧散すると、すぐさま主翼正面にワームホールが再び顕現した。
先程よりも小振り、片翼に5つで計10つ。
やることはただ1つ、波動砲の発射に合わせて光滅砲を「撃ち返す」のだ。
「波動砲……ッ撃て!!」
青白く輝く艦体、従える量子仮想体、飛び回る改イソカゼ、ワームホール、そして波動砲。
第2船体艦首に充填され沸き立つエネルギーが一気に解き放たれ、ワームホールからは先程吸い込んだ光滅砲が放たれた。
12本の光が横並びに疾走し、防御手段を持たないカラクルム級が蒸発し、ゴストーク級、アポカリクス級も蒸発した。
まさか自分たちの決戦兵器が無効化されるどころか撃ち返されるなんて予想すらしていなかった事だろう。
当たり前だ、スターシャの選択が無ければ起こり得なかった事だから。
もしスターシャが選択を渋れば、ミラーリングを展開し切る前に砲撃されてAAAWunderは大破していた事だろう。
眼前に広がる閃光が対閃光防御を突き破り、余りの眩しさに目を細めるその時_____
「古代ッ!! 第2射用意!!」
「ッ!?」
解析に貼り付く真田が叫んだ。
「私の予測が正しければ、少なくとももう1度撃てる!!」
それは、波動砲を連射するという事だ。
最大で6回の即時装填が実現するそれを真田は見抜き、土壇場で指示を出し青白い影を引き寄せようとしているのだ。
「第5の退避も完了している、バラン星と白色彗星の時と同じように反作用で後退するんだ!」
「ッ再照準! 目標、彗星中心核!!」
「薬室及び強制注入機、強制冷却及び再始動確認! 充填できます!」
「No.2、重畳するぞ!」
再び青白い影が重なり、薬室内のタキオン粒子圧力が一気に120%となった。
冷却後の間もない再稼働に力強く答え、砲口には再び溢れんばかりの光が宿り、強靭な艦体を大きく揺らす。
「エネルギー充填120%! 照準固定!」
「改イソカゼ、主翼上部着艦よし! 供給管接合よし!」
「古代くん、カウント省略! 君の判断で撃って!!」
「はい! 総員対ショック対閃光防御!!」
______
「大砲を連射するのか!?」
「エネルギー充填に多大な時間を要するのではなかったのか!? 彗星正面より艦隊を引かせろ!」
「狼狽えるな」
玉座に身を沈めるズォーダーは重く響く声で場を沈めるが、その声の裏には苛立ちがあった。
テロン___地球は恐らく自分自身の計画を知ったうえで行動を起こしている。
だから、全軍投入ではなく余力を残し、防衛線を後退させて跳躍封鎖網を守り、切り札とも呼べるあの船を投入して力を示している。
未知の人型兵器の複製には成功したが所詮贋作。
波動機関を搭載した戦略兵器クラスの機体には成すすべがなく蹂躙され、超巨大戦艦は離反したデウスーラ___AAAWunderと同等の力を与えられたうえで撃破された。
目の前の敵か背後の地球か、自身の命か背後の命か。
そう選択を迫ったつもりだったが、第3の選択肢を持って強引に打ち破られ、選択肢が意味をなさない程の力で無かった事にされ、憤怒が底から湧き上がり始めていた。
そして、思いがけずズォーダーは選択を迫られていた。
艦隊を消滅させられるか、彗星の正体を解き放つか。
実はこの選択、ズォーダーにとってはどちらを取っても問題ない選択だ。
艦隊はまだ万単位での待機がある。
彗星は正体を明かせば畏怖を示す事ができる。
しかしそこではない、
その憤怒が、一瞬の遅延を脳髄に生み出した。
玉座から見える景色が眩く輝き、AAAWunderの波動砲が艦隊を消滅させた。
それだけではない、白色彗星の高圧ガスをやすやすと突き破ったのだ。
情動制御が成された人形であるサーベラーは自身の指示なしでは彗星の運航動作を行わない。
つまり、ズォーダーの判断が遅れなければ、高圧ガスでの打ち消しができていた。
それがさらに判断の遅延を生み、彗星本体の重力に引かれ限りなく光速に近づく波動砲が彗星都市帝国___滅びの方舟の一部を掠める。
だがAAAWunderの波動砲は1門ではない、2門だ。
かすめた1本とは別にもう1本が構造物に命中し、大きく破片を散らした。
ステンドグラスの文様を持つビルのような構造物が即座に瓦礫となり、その破片が新たに破片を生んだ。
木星規模の要塞からしてみれば切り傷、擦り傷程度だろう。
だが、ズォーダーの心理には1発のストレートが突き刺さった。
「敵艦が急速後退しています!!」
また出遅れた。
超指向性で重力場を用いれば捉えることなど容易いことだと言うのに。
動揺が何もかもを遅らせていく。
何もかもを遅らせ、神殺しの1隻を捉えるタイミングすら手からこぼれ落ちていく。
人類が最初からいなかった世界の構築、全宇宙の掌握、そして____。
握った拳には、血が滲んでいた。
「「づがれ"だぁ……」」
「……よしよし。それ、戻らないの?」
「「固結びみたいなものだから、戻すのにちょっと時間いるかも」」
全速後退でのワープで木星に引き返した事で、一応の脅威は去った。
既に跳躍封鎖網は新たに木星土星間に展開したため、どんなに近づいても敵は土星までしか近づけない。
だから、こうして「グダる」ことも可能だ。
困惑気味のレイがリクとハルナを撫でるその様子はシンジには奇妙に映ったが、とてもお疲れの様子なのでスっと部屋を出て軽食を取りに行った。
入れ替わりで真田が顔を出したが、見慣れた様子で近くの椅子に座った。
「……疲れているようだな。というかリク君もか、そういうことをする側の人じゃなかったか?」
「「真田さんもやってみますか? 多分自滅祭りですよ?」」
「いやいい。それよりも、あの封印が解けたことによる機能の解析が進んできた。資料は……いいか。そのままでいいから聞いておいて欲しい」
片手に持つタブレットを操作して、概略図を表示させた。
「まず、量子仮想体……分かりやすく言えば、前に付き合わされたレトロゲームの残機のようなものが出現させられるようになった。それを取り込めば急速補給が可能となっているため、波動砲やワープ後のエネルギー問題がほぼ解消されている。しかし、だからと言って波動砲の6連射ができるわけではない」
「冷却辺ですよね。よく2射目撃てましたね」
「波動砲周りの緊急点検をさせている。本来単発兵器だから冷却後の即時使用は想定されてない。それでも撃ててしまったが。各艦隊司令と地球にはそのように伝えてある。それに、恐らく武装への供給は本来の使用用途ではない」
「じゃあどうするんですか?」
「超長距離航行、もっと言えば連続ワープだ。開示された機能にはその連続ワープに関する情報も含まれていた。武装へのエネルギー供給にも使えると言うだけだ。スターシャさんとしては、本当はこっちで使って欲しいのだろう」
「こっちが武器関連で使うことも飲み込んで、封印を解いた。……昔、波動砲でスターシャさんが苦言呈したことありましたよね」
「イスカンダルでの謁見か。波動エネルギーは星を渡るための物と仰っていた。君たちなりの誠意を受けて、アリア条約という予想外の方向に進んだが」
「イスカンダルも選択をして、また進み始めた。コレで、方針は決まりましたね」
「ああ。桜花作戦の殴り込み艦隊にデウスーラが編入される。デスラー艦長の希望でもあったが、同等の能力を持った船をもう1隻用意できるのは心強い」
神殺し、そしてエネルギー補給問題が大きく解消されている人類側最強の戦艦が2隻も揃っている。
動員しない手は無いのだ。
真田の端末が着信音を鳴らし、機関部から連絡が入った。
2人も聞きたいのだろうと判断し、スピーカーにしてソファに置いた。
「私です。機関長、どうでしたか?」
『副長、やはりコンデンサ周りが厳しいかと。純度99%を超えるコスモナイト製ですが、浮遊大陸の時の様に溶けかからんかったのが奇跡です』
「交換作業を」
『予備があるので大至急取り替えます。ただ、なにぶん大きいので機関室周りをちょいとバラしてKREDITの手も借ります。兎に角土星沖までにはきっちり間に合わせます。それと、この波動砲の連射はどうにも単艦では耐えきれませんぞ』
「改イソカゼで負担分散。アレ小さいけど波動エンジン積んでますし、コンデンサ使いましょう、供給管繋がってますし、遠回りですけどできますよ」
「流路制御の修正はこちらで受け持とう。リク君とハルナ君は休む事。あんなトンデモナイ物を運用した後に仕事を押し付けるほど私は鬼ではない。綾……じゃないな、レイ君」
「分かってる。さっき聞いた時間まで甘やかしていればいいの?」
「徹底的にやってもらう。調整はマリ君と新見君の手も借りないとな。技術科総動員になりそうだ。じゃあ後は頼むよ」
「分かった。……お疲れ様です」
ぱたぱたと部屋を出ていく真田を見送ると、レイは一息に2人の強固なシンクロを解いた。
自身がリリスである事、人ならざるモノであったことはもうあまり気にしてはいないみたいで、使える物は使ってしまおうという心境の変化だろう。
「どう?」
「……ありがと、何かほどけた感じがする」
「自分で解く事は考えてなかった、違う?」
「レイちゃん頼みだったんだよね、戻す部分は。繋げることは分かるけど、アレは愛的なアレだし」
「愛?」
「信頼とか共感とかこの人になら命預けれるよねって感じのそういうやつ」
(意味が分からないけど、それが起こってしまうのがお父さんお母さん)
リリス因子、ATフィールド、ヒト同士のシンクロ、天文学的確率でそれらの要素が重なり合ってしまった結果がこの「よく分からない状況」だ。
そして、レイもある意味理解を諦めている。
人とエヴァのシンクロならまだ分かる、経験があるからだ。
ヒトとヒトのシンクロは前例も無く、何でできているのか理解できない、そもそもできないはずなのだ。
「……不思議だと思う。何で正気を保っていられるの?」
「お互いがお互いの心を覚えているからだと思う。だから、無茶苦茶な事をしても大丈夫」
「覚えれなかったら……?」
不機嫌そうに目を細めると、リクはバツが悪そうに眼をそらした。
1つ間違えれば自分が自分でいられなくなるんだぞと無言の圧で押され、負けた。
「……退役したら2度とやらないから」
「よし」
__________________
1時間後
スーパーチャージャーの機能開示を受け、AAAWunder第1会議室に艦橋メンバーが、
そしてデウスーラ・エアレーズングからもメンバーが集められた。
さらにヤマトから移動してきた沖田も足を運んでいた。
「また乗ることになるとはな……古代」
「はい」
沖田は古代の顔を見ると優しく目を細めた。
まるで家族を____我が子を見るような目だ。
「……立派になっているな。まだ若いが、指揮官になろうとしている」
「それは……まだ、自分は真田さんやリクさん、ハルナさんに支えてもらって、何とかやっている所です。沖田さんみたいには、まだ……」
「誰が、儂のようになれと言った?」
諭すように、沖田は言葉を続けていく。
「1人で戦えとは言わない。1人で背負えとも誰も言わん」
「……」
「儂もそうだった」
会議室が静まり返る。
「睦月君達がいなければ、AAAWunderは生まれなかった。徳川君がいなければ、波動エンジンは動かない。真田君がいなければ、技術面はもっと分からないだろう。あれ程すぐに把握してしまうのは、真田君くらいだろう。レーダー手は森くんや西条くんだろう。そして____」
「古代、お前がいなければ、AAAWunderは戦えなかった」
「沖田さん……ッ」
何も自分一人で背負うことはない。
波動砲の引き金を通してそれを学んだつもりだったが、やはり自分ではわからなかった。
戦術長として座る席は、波動砲の照準といった問題もあり必然的に誰よりも前になる。
だからなのかは分からないが、古代の後ろは多くの仲間が支えている。
それを、まだ理解し切れていなかった。
「後ろを振り返ることだ。そうすれば、お前を支える仲間がそこにいる」
言われてすぐに振り返ると、そこには確かに仲間がいた。
幼馴染で、航海長の、島。
砲雷長の、南部。
情報長の、新見。
気象長の、太田。
通信長の、相原。
機関長の、徳川。
副長の、真田。
最後の乗員であった、レイ。
1歩先で見守る、ハルナとリク。
そして、船務長___古代の最愛の女性の、雪。
「分かったか。お前は孤独に何かを抱える指揮官にはなるな。仲間を頼れる、そんな指揮官になれ。儂にはなれなかった。あのメ号作戦で真の目的を知っていたのは、儂とキリシマだけじゃった」
「それは……」
「だから、儂のようにはなるな」
あんな地獄のような時代と状況はもうごめんだと、沖田は言外に伝えていく。
健康上の理由とはいえ一度軍務から退いた身として、一時の平和に身を浸した事であの凄惨さが痛いほど分かった。
だから、同じ思いをして欲しくないのだ。
「儂はこれが終われば、第1戦を退く事となる。もう艦に乗る事も無いだろう。だから、数年以内にはなるが古代、お前をコイツの艦長に推薦する」
「自分がですか!?」
「駆け出しでも構わない。お前が望むなら艦長として、自分が満足できるような立派な姿になれ」
その言葉を受け止め、古代は_____
「はっ!!」
精一杯の敬意を込め、敬礼で答えた。
ネタバレ踏みたくないので、仕事休んで当日で行きたいのですが……土日に行きます