宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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Calamity 11 -託された力の使い方-

「ガーレ・ガミロン」

 

 AAAWunderで行われる合同作戦会議に出向くため、ディッツはバーガーを連れサレザリウスから内火艇を飛ばした。

 

 右舷第3格納庫に収容され格納庫内の与圧が確認できると、ディッツはバーガーと共に降り立つと、そこには彼がいた。

 

 アベルト・デスラー___永世総統であった男であり、今は放浪の身の男だ。

 

 それでも体は覚えているのだろう、彼が永世総統であった頃の所作を。

 

 唯一違ったのは、ディッツがいつもの所作をする前に、デスラーが先にそれをやった事だろう。

 

 

「別に妙な事でもない。私は総統を降りて、今は神殺しの船の艦長でしかない。航宙艦隊司令長官の君よりも先に敬礼をするのは当然ではないか?」

 

 と言われても、ディッツはまだ違和感を拭えない。

 それはバーガーも同じだった。

 

「デスラー総統……その、どうお呼びすれば……」

 

「まぁ、艦長とでも」

 

 困惑させているのはこちらの方かとデスラーは肩をすくめると、そう軽く答えた。

 

「……デスラー艦長」

 

「何だね?」

 

「……ヒス総理から伺っておりますが、変わられたというのは、本当なのですね」

 

 バーガーが恐る恐る口に出すと、デスラーは緑の艦長帽を手に取り胸に当てた。

 

「どうだろうか。変わったのかどうかは、自らでは分からないだろう。……諸君らは、ガミラス星の寿命の件をヒス君から聞いているだろう」

 

「持って50年。そして拡大政策は、ガミラス人に適した星を探す為なのだろうと」

 

「甥が吐かされたようでね。皆が我らガミラスの弱点を知っているうえで、君達の力を借りたく思う」

 

 デスラーは深く頭を下げ、こう続けた。

 

「ガミラス民族存続のため、私に手を貸してほしい」

 

 王という立場から降りたからなのだろうか、それとも一度下げた頭など軽いものだというある種の思想だろうか。

 

 立場に相応しき振る舞い、というものだろう。

 

 

「デスラー艦長」

 

 固着しかけた口を何とか開き、ディッツは続ける。

 

「貴方様がこれまでになさった事は、決して消えません」

 

「分かっているとも」

 

「……そして同じように、これから我々と共に成していく事もまた、決して消えることはありません」

 

 許しなどではない。

 デスラー本人もそれを望んでおらず、むしろ自身の所業を自らの傷とし抱えて生きていくつもりだ。

 

 それでも、この大戦を通して彼らが選んだのは、過去を消すことではなかった。

 過去よりも、今は手を取り合うこと。

 その選択をもって、デスラーは再び同胞の中へ迎え入れられた。

 

 

「デスラー艦長、でよろしいですな」

 

 やや重い声色の方へ顔を向けると、沖田が立っていた。

 やや鋭い目付きだが、何かを抑えるように深呼吸をすると敬礼をした。

 

「WILLE航宙幕僚長、沖田十三です。イスカンダル航海では、このAAAWunderの2代目艦長を拝命しておりました」

 

 それに倣い、デスラーも敬礼で返した。

 

「デウスーラ・エアレーズング艦長、アベルト・デスラーだ。皆が知るように、あの時は総統の立場にあった」

 

 まるで今すぐに殺し合いが始まりそうな空気感。

 過去の話とはいえ、独裁政権を木っ端みじんにしたたった1隻の超戦艦の艦長。

 過去の話とはいえ、地球全人口の7割を奪った戦争を起こした国の元首。

 

 全員が息苦しさを感じるかと思った次の瞬間、沖田は手袋を慎重に取り、手を差し出した。

 

 

 

「ディッツ提督と同じです。過去は消えません。我々が生きている限り、残り続けます」

 

「……」

 

「できることなら、貴方を拘束し地球で戦争責任を問いたい。貴方の拡大政策に巻き込まれた地球に対し、貴方が何を持って償うか」

 

「……」

 

「だが、代わりに問いたい。貴方は、地球かガミラスかを問わず全人類の未来のために、ここに足を運んだのですか?」

 

 古来から、国家の指導者には戦争の責任が問われてきた。

 歴史を振り返れば、敗戦後に為政者が裁かれた例は少なくない。

 それは、この宇宙でも同じだ。

 

 だが、今はそれをすべき時ではない。

 嘗てガミラスを「悪魔」といいながら戦ったあの記憶が、まるで爛れた傷痕のように脳裏に焼き付いていようとも、こうして人類のために集ったのであれば______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「拳銃がとても嫌いなお嬢さんがいると聞いて、念の為銃器の類いは置いて来ている」

 

 そこから紡がれたデスラーの言葉は、脈絡を得ないようなものだった。

 張り詰めた沖田もさすがに弛緩するしかなかったが、デスラーは構わず続けた。

 

「この船に乗り込むのは実を言えば2度目だ。1度目は強襲という形となったが、今回乗艦する前に、この船の乗員に危害を加えられる事も考えていた。もしそうなった時、タランには『反撃を禁ずる』様に厳命している」

 

 つまり丸腰、反撃もしない構えだというのだ。

 

「自らの立場は理解している。いずれ裁かれるだろうという事も、理解している。それを全て抱え、私はここに立っている」

 

 

「拳銃……あ、私の?」

 

「我がデウスーラをこの星の設計局に預ける時に、君の伴侶から聞いていた。そうなった理由は聞かされていないが、想像以上に深い物らしいとな」

 

 

(……ハルナに、銃を見せてませんよね。強めのトラウマがあるので、そうされるのは嫌なんです)

 

 

「あ、大使館の時の。覚えていらしたんですね」

 

「心の底から心配をしている顔だった」

 

 建前なのかは分からない。

 それでも、完全非武装で無抵抗の姿勢を示し、同じ戦場に立つということを「指揮官」の風格と共に伝えんとしているのだ。

 

 

「……貴方は罪を背負いなが歩み寄った。これで私が貴方を拒絶すれば、彼らに向ける顔がありません」

 

 デスラーの意志は固い。

 沖田も負けず劣らず固い。

 

 互いに手を結ぶがその顔に__沖田の顔に、怒りや憎しみは現れない。

 指揮官として、人として、男として、仇敵と手を結べるか。

 これも選択、沖田の選択だった。

 

 昨日の敵は今日の友という言葉がある。

 つい昨日まで敵対していたもの同士が、状況や立場が変われば今日は協力し合う間柄になるという諺だ。

 

 だが世界は諺のように簡単ではない。

 終戦後も因縁を持ち続けることも多々ある。

 怒りや憎しみが胸の内で燻り続けることも多々ある。

 

 それはいい。

 重要なのは、それを一旦脇に置いて手を組む選択を下せるかどうかだ。

 

 

「オキタ幕僚長、戦線参加の許可、深く感謝する」

 

 

 ______

 

 

 

「イスカンダル___スターシャさん達の波動コア封印解除によって、その全容が開示された。まだ解析が追い付いていないが、最優先で解析させた部分は安全に使用できることが分かった」

 

 地球上のMAGIシステム全てを繋いだ超並列演算機構、そしてAAAWunderのMAGI Achiralも繋いで演算能力を底上げした事で、急な能力追加にも何とか対応できた。

 

 そして真田の推測もこの解析で裏付けされ、こうして両者との作戦会議でお披露目と来たのだ。

 

 

 

「量子仮想体__余剰次元に記録されている可能性、もしくは多元宇宙に存在する純正コア搭載艦を設計図としてそのエネルギーをこの宇宙に顕現させているのが、スーパーチャージャーのおおよその仕組みだ」

 

「現在我々が使用するゲシュ=タム機関及び波動エンジンは、6次元空間の膜面の振動でエネルギーを取得している。このスーパーチャージャーは、それ以外の次元__5次元と7から11次元を用いている関係上、出現させられる量子仮想体は6つとなっている」

 

 

「「「???」」」

 

 

「このエネルギー急速充填システムは、武装に限ったものではない。むしろ本来の使い方は

 こちらの方だと……リク君どうした?」

 

「真田さん、タランさん、専門家が突っ走ったからその他が置いてけぼりです」

 

「「……」」

 

 

 漸く気付いた専門家どうした目を合わせ、どうした物かと頭を抱えた。

 仕方ないなとリクは重たい頭を働かせ、1つ何か思いついたように真田からタブレットを強奪した。

 

「お絵描きモードおーん、ハイ、これなんでしょうか」

 

「AAAWunder」

 

「ですね。今までは、波動砲を撃ったら再充填までしばらくかかります。これは、自前のエンジンでエネルギーを賄ってるからです。というかこれが普通です」

 

 これは皆理解している様で、一様に頷いている。

 

「で、スーパーチャージャーは、細かい事を省くと、エネルギーで造られた分身を待機させておくことができます」

 

 タブレットで描いたAAAWunderを選択すると、コピー&ペーストで線だけを複製して6か所に貼り付けた。

 それぞれに英数字とガミラス語の数字を割り振ると、説明を続けた。

 

「はい、これが予備のマガジンです。スーパーチャージャーはエンジンのエネルギー__いわば弾倉を使い切ったら待機してる予備に交換する事ができます。だから波動砲の第2射ができて、使い切りかけのエネルギーに更に継ぎ足してミラーリングができたんです」

 

 次に、色付きのAAAWunderの艦首から伸びる青色の線を描くと、エンジン部分に一旦バツを描いた。

 

「波動砲を撃ちました。エンジンは空っぽです」

 

 線画のAAAWunderを色付きに重ねると、色付きに付けていたバツを消した。

 

「はい、量子仮想体を重ねるだけで充填完了、全力戦闘可能です。重ねた分は戻ってきませんので、使い捨てみたいな感じですね」

 

「「「!」」」

 

 皆「しっくりきた」様で頷き、特に戦術科やガミラス側はこれの使い道を考え始めた。

 バーガー辺りはブツブツと「あれこれデスラー砲連発とかどうなんだ?」と言い始めたあたりからリクは前もって注意勧告をしておくことにした。

 

「一応断っておきますがバーガーさん、コレで波動砲6連射はできません」

 

「何でだよ。フルチャージが6回できるなら……あそっか。デスラー砲そのものの冷却追いつかなくてブッ壊れるわ」

 

「ええぶっ壊れます。ウチの第2射はコンデンサがギリギリ耐えてくれましたけど。だから、古代イスカンダルはスーパーチャージャーを使ってこんなことをしてました」

 

 お絵描きモードをオフにして格式ばった資料を表示すると、また会議室がざわついた。

 

「連続ワープ、量子仮想体を家臣みたいに従わせてワープ。最大6回チャージでかなりの長距離を飛べます。大昔のイスカンダルの覇権は、こういう遠くに行ける力があったからだと思います」

 

 よく見ると、ワープに必要なエネルギーを与えているだけであり、波動砲のように機器に多大な負担をかけるものではない。

 

 強いていえば、ワープ先座標の選定がハイテンポになると言うくらいだろう。

 

「……これ、別に短距離でもできますよね?」

 

 概念図を見つめていた古代が何かをひらめき、リクの方を向いた。

 

「どれくらいだ? 1光年?」

 

「1光秒もないくらいです」

 

 消費するエネルギー量にしては割に合わない程の短距離、わざわざワープで飛ぶほどの距離でもない。

 

 でも、古代も決して冗談で言った訳ではない。

 確信を持って目で概念図を見つめている。

 

「古代、君の意見を聞かせて欲しい」

 

「沖田さん……分かりました」

 

 タブレットをリクから借りると、古代はイラストのAAAWunderを動かした。

 

「まだ強行偵察結果が出ていませんが、白色彗星内部では、確実に全方位攻撃に晒されます」

 

 カラクルム級のつもりだろうか、黄緑で描いた宇宙戦艦の模型を大量に複製して、「撃沈された」という意味でAAAWunderにバツを重ねて描いた。

 

「如何に神殺しの船といえど対策は必要です。波動防壁も限界がありますし、第2世代のように全身がVPS装甲で覆われてる訳でもない。だから____」

 

 ここで、全方位で囲まれてるAAAWunderと量子仮想体を囲って選択し、包囲網から出した。

 

「包囲下からの緊急脱出手段として、極超短距離ワープを用います。彗星内部がある程度開けていることが前提ですが、上手くすれば、敵の決戦兵器をワープで回避することも可能だと思います」

 

「おい古代、それ瞬間移動をするってことか? だとしてもワープ先選定や重力場の問題、障害物とか問題は山積みだ」

 

 航海科としての島の意見も最もだ。

 ワープとは、本来そのように戦術機動に組み込めるものではない。

 精密な計算に基づいて慎重に行うもので、飛びたい時にその場の判断でポンと飛んでいいものではないのだ

 

「……じゃあ、地球上のMAGI全部借りる?」

 

「できるんですか!?」

 

「藤堂長官の鶴の一声で。AAAWunderとデウスーラをバカでかい観測機器に例えて、その結果を絶えず地球に送信。リアルタイムで空間解析を続け、飛びたい時に飛べるようにする。古代くん、これならどう?」

 

 人類の存亡を決める一大決戦、地球全土のコンピュータを借りることなど安いものだとリクは腕を組む。

 実際負担がかかるのは藤堂になるのだが、ワープ先の計算を時間を短縮できる手段はこれしかないのが現状だ。

 

 

「それなら、話はそう難しくない。無遅延超空間通信で地球とAAAWunder、デウスーラを繋ぎ、航路解析を絶えず行う。我々はワープ可能座標を常に把握し続けることとなり、回避したいタイミングで回避が可能となる」

 

 

「そして、純正コア搭載艦でありツインドライヴ搭載艦でもある我々に与えられたのが、コレだ」

 

 

 続いてモニターに表示されたのは、ひたすらに殴り書きされた資料だった。

 日本語だらけなのは真田、ガミラス語だらけなのはタランの資料だろう。

 

 

「便宜上、『原初ツインドライヴ』と呼んでいますが、デウスーラにも搭載されたイスカンダル純正コアを用いたツインドライヴの完成形です」

 

「現在の純正コアの同調率は100%に達していない事が判明した。だから、亜空間回廊海戦で宇宙が裂けた。だが、やはりというべきかイスカンダルは遥か昔の時点で完成形を生み出し、王族関係の艦艇に搭載していた。スターシャさんからの情報によれば、王族艦のエンジンはこの状態が常らしい」

 

 

「それが、波動エンジンが結晶に覆われた理由か」

 

「そこは何とも言えません……ですが、あれが所謂本領発揮という物なら、今は炉心周りの物理的なチェックができません。状態はそのままにしておきたい」

 

「弄れるのはソフトくらいなので、地球製エンジン本体にきっちり合わせられるように、現在WILLEの技術系部署が総動員となって調整を行っています。AAAWunderができればデウスーラも同じ設定が効きますので使えます」

 

 

「ただし、原初ツインドライヴとしての起動にはとんでもない規模の始動用電力が必要です」

 

 

 その下りでイスカンダル航海に赴いた者達はあの緊急出航を思い出した。

 地球から静止軌道へ向けて地球の全電力を注いでようやく起動できたあの1幕、アレと同じ事を木星でするのかと予想して唸り始める。

 

「ですが、波動エンジン自体量産されているのですから、KREDITの作業艦を総動員すれば……」

 

「それでも足りないんです。始動用電力は1隻辺り推定18億ギガワット。AAAWunderだけならともかく、神殺し次女がいますからね。明らかに足りません」

 

「普通のツインドライヴとして動かすのは……?」

 

「無理です。波動コアの完全解放によりツインドライヴはそもそも別物に近くなってます。機関のガワは同じですけど中身がどうなってるのか想像もつきませんので、原初ツインドライヴとして動かした方がいいんです」

 

 

「という事で、沖田さん」

 

 

「現在地球圏では、マイクロ波を用いた大規模送電準備が進められている。AAAWunder、デウスーラ・エアレーズング双方の起動のための送り込まれる電力は損失分も含めて40億ギガワット。これを地球圏より射出、サレザリウスの協力を得て木星圏へ転送し原初ツインドライヴを起動させる」

 

「サレザリウス……そうか!」

 

「その通りだ。大規模エネルギー転送ができるのは、メダルーサと同原理の物質移送機を持つサレザリウスだけだ」

 

 この件は既にある程度進んでいるようで、相談を受けていたディッツが説明を引き継いだ。

 

「サレザリウスの物質移送機は本来決戦兵器として運用するために設計されている。そのため想定外の用途となるが、確かに、エネルギーの転送事態は可能だ。しかし、転送するマイクロ波の口径を可能な限り絞り、転送時の取り零しを減らす必要がある。その為に、地球のオーバードウェポンを使う」

 

 さらに説明がリクに引き継がれ、床面モニターにとある兵装が表示された。

 

「ヒューベリオン、言ってしまえば反射衛星です。以前にガミラス国防軍より購入したものを分解解析、うちで量産したものですが、これを射線にギリギリ触れる位置に等間隔に配置してある程度跳ね返すことで口径を絞ります。配置する衛星はほぼ使い捨てですが、安いものです」

 

「安い……?」

 

 オーバードウェポンを使い捨てに__それも戦闘ではなく機関始動で使い捨てるというのだから皆同様に困惑した。

 しかしなりふり構っていられない現状がもう間もなくやってくる。

 この際気にせずに使ってしまおうというのだ。

 

「原初ツインドライヴ自体は今の我々の手に余る代物、言ってしまえば、文明レベルが1個か2個くらい上の力です。それを動かすなら、衛星の10個くらい安い代金です」

 

「口径を絞りサレザリウスで転送したエネルギーはガリレオベルトに到達、起動準備に入った2艦がそれを受け取り、原初ツインドライヴを起動させる。以降この作戦をシンヤシマ作戦と呼称します」

 

 

 

 ______________

 

 

 

 

「コダイ」

 

「無事なんだな、バーガー」

 

「地球がデカブツを貸与してくれてるんだ。オマケに付けれるようになったし、そうそうくたばらねぇよ」

 

 US作戦宙域から撤退に成功したバーガー達太陽系駐留艦隊も、今はガリレオベルトに集まっている。

 損耗は無視できない、ガミラス艦は今の地球第2世代にどうしても劣る以上、これは仕方のない事だ。

 だが特派空間機甲軍団が持ち込んだガミラシウム魚雷とオーバードウェポンを用いた中遠距離からの引き撃ちと高機動戦からの近距離砲撃で戦いを進め、未だ戦闘続行可能な戦力を確保していた。

 

 

「それでなんだが、俺、中佐から大佐になっちまった。んでとんでもねぇのに乗ることとなった」

 

「とんでもないもの?」

 

「デウスーラだ」

 

 その名を出した時、古代は心の底から驚いた。

 NHG級2番艦にして神殺しの船、あの超巨大戦艦を打ち破った現状最強クラスの艦艇にバーガーが乗り込む事となるとは、考えもしなかったのだ。

 

 そしてそれを語るバーガーも、複雑そうだ。

 

「なぁ、シャンブロウの時を覚えてるか?」

 

「忘れもしない。あれが、地球とガミラスの初めての共闘だった。色々、怖い事もあったけど」

 

「あ?」

 

「リクさんとハルナさんが、ガチギレしていた」

 

「あの温厚そうなのがか? マジで?」

 

「ああ……真田さんと博士が引き戻していたけど、あの2人倫理観捨てた事が大嫌いだから」

 

「人として普通だろそれ、むしろ安心しろよ」

 

 そう突っ込まれると古代も吹き出し、バーガーもつられて笑い出した。

 不思議な物だ、戦場で笑う余裕がまだ残っている。

 

 次の戦闘でどちらかがいなくなっているかもしれないというのに、不思議だ。

 

 

「脱線した。んで、デウスーラに乗ることになったんだが、俺はな、嬉しかったりするんだ。ああ総統座乗艦だからっていうのじゃないぞ」

 

 そう理を入れると、バーガーは続けた。

 

「オウカ作戦にAAAWunderとデウスーラが投入されることが決まったのはいいが、お前らと共闘した事あるやつは俺くらいしかいなかったんよ。だから呼ばれたってのが実際の理由だが、俺的には理由関係なく嬉しかったりするんだ」

 

「?」

 

「お前彼女のモリとかにも察し悪いんじゃねぇのか? まあいいや、シャンブロウん時、俺ら警務艦隊は闘技場の外で観戦するみたいな感じだった。仕方ねぇ状況だったからな、ありゃ超兵器VS超兵器だから、あの時の俺らじゃ手が届かねぇ戦いだ。それがさ、今思えば悔しかったなぁって」

 

「……」

 

「とんでもねぇ戦場に放り込まれる事となったけど、これでようやく肩を並べて戦える。しかも戦闘長___お前の戦術長と同じだ」

 

「バーガー……!」

 

「よろしく頼むぜ、1番艦殿」

 

「ああ」

 

 差し出された手を握ると、バーガーはワザと手を引き古代を強くハグをした。

 急な事に古代が驚いていると、バーガーは絞り出すようにこう言った。

 

 

「お前は死ぬんじゃねえぞ。俺は独り身だから死んで悲しむヤツなんて同じ軍のヤツらくらいしかいねぇ。だがお前は違う、彼女作って結婚まで考えてるやつが死んだらクソみたいに後味悪くなる。だからさ、死ぬんじゃねぇぞ。生きてりゃ案外何とかなるもんだから、生きること諦めんじゃねえぞ」

 

 

「……お前もな、切り込み隊長」

 

「へいへい」

 

 

 


 

 

 

 土星____英霊の眠るエンケラドゥスがゆっくりと周回し、数多の衛星を抱えるその星は、その環を水平線の様に携えている。

 

 その環は地球から望遠鏡で見れば美しい物だが、実態は岩塊や氷塊の集まりだ。

 それが土星の重力で集まり続け周回して今のような環になった。

 

 

 

 

 だが、もうそれは見れないだろう。

 

 

 

 

「土星宙域に観測不能レベルの重力震確認! 計測機器が振り切れています!!」

 

「敵艦隊多数を確認。数凡そ1000を超えさらに増大中!」

 

 地震を想起するほどの重力震が土星宙域を襲い、無数の氷塊が本来の軌道を外れ、環は崩壊を始めた。

 巻き上げられる砂塵の様に、岩塊、氷塊が飛び散り、それを押しのけるようにカラクルム級が進撃していく。

 

「白色彗星もワープアウトしました。嘆きの海も正常に機能しています、ワープ妨害成功!」

 

「ガリレオコントロールより稼働可能な全艦隊へ通達。白色彗星現出に伴い、作戦行動を開始する」

 

「土星表面に異常を確認。白色彗星の重力に引き摺られ、表面のガスの剥離が起こっています!」

 

「観測を続けろ。ガス剥離現象より、目標の重力危険域を測定して全軍に周知させろ。ただしこれが能動的に変化する事を忘れるな。相手はアケーリアスの兵器だぞ」

 

 

 

 ガリレオベルトに軌道上停泊を続ける第1から第8防衛艦隊、特派空間機甲軍団、太陽系駐留艦隊が一斉に動き出し、発進準備が進められていく。

 嘆きの海による跳躍阻害網が効いているとはいえ、ワープが普及した今なら木星から土星なんて近所のようなもの。

 阻害が消えればあっという間にひき潰されるだろう。

 

 

 だが間に合った部分もある。

 

 

『第3新東京よりガリレオベルト。シンヤシマ準備、最終段階へ移行。IMTS最終調整に移行します』

 

『03式レクテナ、デウスーラへの仮設作業完了、ケーブル接続に問題無し』

 

 原初ツインドライヴの起動準備___シンヤシマ作戦の準備が最終段階へ移行したというのだ。

 

 だが、その希望もあり得ない報告に塗りつぶされる。

 

 

 

「ガ軍偵察機スマルヒから映像来ました! 艦影ではありません!」

 

「形状は!?」

 

「……紡錘ではありません。これ……正八面体、正八面体です!」

 

「要塞か?!」

 

「それすら不明です!」

 

「……AAAWunderに送れ。知ってる人がいる筈だ」

 

 

 

 ____________

 

 

 

 

「スマルヒからの映像来ました! 正面に出します!」

 

 戦闘艦橋の全周スクリーンに大きく映し出されたのは、「異形の何か」としか例えられない「何か」だ。

 職人が削りだしたかのような見事な正八面体の青い結晶、鏡面の様に磨き上げられ土星を、星々を映し出す表面、ここまではいい。

 

 

 だがそのサイズが問題だ。

 推定で全長3キロ、正八面体である事を考慮すれば縦横高さで3キロの巨大構造物だ。

 

 

 

「っ!?!?」

 

「レイ?」

 

 無重力である事を忘れ思わず後ずさりをするレイの顔は、自身でも驚くほどに引きつっていた。

 今となっては「もう2度と受けたくない」と思える程の攻撃力、あらゆる攻撃を迎撃する砲撃能力、摩訶不思議な変形。

 

 シンジの声も耳に入らない、これが何故ここにいるのかも分からず、ただ唇が震える。

 

 

 白色彗星から何故これが現れたかは今は考えない。

 確かなのは、あれは制御された使徒である事だ。

 

 

 

「使徒……ッ!?」

 

「使徒!? あの正八面体が!?」

 

「攻撃方法も同じなら、強力なビームを撃ってくる……山が溶けるくらい強い……」

 

「デウスーラの球形砲塔のようなものか! ヤマトに繋いでくれ!」

 

 即座に海戦が開かれ、モニター上に沖田が映し出された。

 

『古代、こちらでも状況を確認した。彼女の回答は?』

 

「使徒です。シャンブロウの時の突発的に発生したモノとは異なりますが、恐らくあの使徒はガトランティス艦隊を攻撃対象と見ていません」

 

『友軍、いや、生物である以上は庇護対象か何かだろう』

 

「沖田さん、真田です。奴らがアリステラ4から白き月を持ち出している以上、そこに使徒__幼生体のようなモノが格納されていたとしても可笑しくはありません。それを洗脳の様な手段を用いて調整したとすれば……ッ」

 

「あの時は、エヴァで陽電子砲を撃って倒した……でも、アレは大きすぎる。効くか分からない。波動砲で狙っても、先に撃たれてやられてしまう」

 

「打つ手なしかよ!?」

 

 太田が頭を抱える。

 敵よりも先に見つけ、敵よりも先に狙い、敵よりも先に撃つ事が砲撃戦の重要要素だ。

 それが機械ではなく全て生物的な感覚で行われ、反射神経で撃ってくる。

 

 それ即ち、「殺られる前に殺れ」の究極系だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらでも見ているわ』

 

「赤木博士!?」

 

 

 

『久しぶりね。早速本題に入りましょう。レイ、あの使徒への近接戦は当時は無理だったわよね』

 

「無理。あの時は、碇くんが発進口で出待ちをされて撃たれた」

 

「アレは本当に痛かったって……言ってる」

 

 

『でもレイ、ここは宇宙よ。エヴァも震電やイザナミと同じように飛び回れる。貴方が使った初号機と同じようにワープで飛ばす事もできる。まぁ、時間がないから大型ブースターとスラスターで振り回す感じになるわね』

 

「……つまり?」

 

『通常の人型兵器と同じように高速戦闘が可能よ。だからエヴァを減速させる事なく飛び回らせれば、遠距離から狙い撃つ戦法は必要ない』

 

 だがそれができるのは誰なのか。

 ただエヴァをかっ飛ばすだけならレイにもできる、だが人型での3次元的な超高速戦闘などできるものは限られている。

 それこそ、戦術機を扱う者でもない限りは______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『エヴァ2号機を出すわ。機体の最終調整にあと1時間頂戴。それと、エリミネーターの持ち出しも上に申請して頂戴。練習が間に合わなくて今のアスカはATフィールドを中和できない。戦うにはそれが必要よ』

 

「式波二尉が!?」

 

『初号機のようなエヴァと異なり、パイロットと機体を繋ぐダミーシステムが用意されてるのよ。だから実質的な年齢制限である14歳の壁が低い。それに、SEELEのゴタゴタで私達はType-nullを地球で確保している。今の2号機は、それをアスカ用に改造した物よ』

 

「出せるんですね?」

 

『出すわ。それとマリも借りるわよ』

 

「ありゃ? 博士ワタシ30いくかいかない人なんですけど?」

 

『思考遮断ヘルメットをかぶってプラグに入ってもらうわ。あの使徒のATフィールドを破るために、大仕事してもらうわよ』

 

「うへぇ……まぁーいーか、こーゆーロボット物一回乗ってみたかったってのもありますし」

 

「直ちに月面に駆逐艦を飛ばします。ですが、その、プラグスーツは?」

 

 標準装備であるプラグスーツは特注品だ。

 その人の体格に合わせて作る物であり、レイとハルナの時は全身の採寸から行われた。

 古代もその工程を理解している以上、聞くのは自然だ。

 

「あ……そうだったにゃ」

 

「私の使いますか?」

 

 おずおずとハルナが手を挙げる。

 

「いや何というか……その……ハルナっちのやつだと小さいしキツいし」

 

「フンッ!!」

 

 やや鈍い音__「グギッ」と骨がズレる様な音が響き、マリはコメディのように無重力で力なく吹き飛んだ。

 ハルナは拳を握ったまま頬を膨らませる__背後に得体の知れない何かがいるような気配を背負ったままだが。

 

「気にしてるんですから言わなくてもいいじゃないですかァ!!」

 

 リクが額を押さえた。

 

「ハルナ、そこじゃない」

 

 画面越しのリツコは付き合う余裕が無いのか適当に横目に確認して溜息をついた。

 

『……そこは我慢させるから。気絶したままでいいから連れて来てね』

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