宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
心臓が複数あると言えば何があるだろうか。
最近の出来事から思いつくなら、ツインドライヴ搭載艦だろう。
タウコア、若しくはイスカンダル純正コアを2つ用い、6次元どころか7,8,9,10,11次元にまで干渉して膜面の振動で莫大なエネルギーを引き出す。
それは一騎当千の力を与えることとなり、たとえタウコアを使用した場合であったとしても単発エンジンを大きく突き放す出力を保証する。
今、木星宙域で起動作業にかかっている原初ツインドライヴも同じく、あるいは人類の想像を超える出力を発揮する事だろう。
何故この話を投げかけたか、それは__________
「コイツコア沢山あるんですけどふざけんじゃねぇよ!?」
「はぁ!!??」
こういう事だ。
本来使徒1つに着きコアは1つ、生物1体に対し心臓は1つと言わんばかりに原則を順守していた。
それはガミラス軍のアリステラ4での戦闘で把握されていて、確認されていた使徒も形態は様々ではあるがコアに関しては1つだ。
その原則を大きくブチ破ってきた使徒____第6の使徒は、コアを明確に3つ保有していたのだ。
「
「分かってるっての!!」
________________
「コアが明確に3つ……通常の使徒の三倍のエネルギー供給で、実質HPバーが3本。馬鹿げてるんですけど」
『そうね。一言で言うなら、エヴァ単機では殲滅不可能ね』
『じゃあどうするっていうの!?』
何とか距離を取り火力投射艦隊に出張ってもらう事で余裕が生まれたアスカが通信に参加するが、相手の反則級のスペックに呆れ半分怒り半分で怒鳴った。
それを軽く受け流したリツコはコンソールを叩き2号機からの観測結果を解析し続けて、攻撃結果を表示した。
『艦隊との連携ね。分かっているのは、ATFエリミネーターでフィールドを破れたという事は普通の波動砲でも破れるという事よ。チャージ時間の確保と着弾を保証できれば、波動砲でコアごと叩き割る事ができる。でも、相手は賢いから撃たれる前に撃って波動防壁ごと削り切られるわ』
『じゃあ私が囮になればいいじゃん』
「ですが、そんなリスクの高い事を押し付けるわけには……」
古代がこの残酷な命令をせき止めるが、実質これしかないかもしれない。
正気で戦争ができる余裕が少しずつ失われていく中、古代や各防衛艦隊の指揮官は「自分の考える、人としてやっていけない事」を避け続けている。
その禁じ手札を引く前に、戦争を終わらせたいのだ。
「古代くん、WILLEの手札を確認する。」
その重苦しい空気を切り替えるように、リクが腕を組んだ。
「シンヤシマ作戦の準備で持ってこれるものは全部持ってこさせている。あり合わせにはなるけど、波動砲を軸に組み立てるしかない」
古代が静かに視線を向ける。
リクは首を横に振った。
「僕は艦隊指揮官じゃない」
「だから、どう戦うかは古代くんに任せる。」
「でも。」
「その作戦が技術的に成立するかどうかは、僕とハルナ、それに真田さんで判断する。沖田さん言ってただろ、後ろ見ろって」
「!」
「できるかどうかは、我々で判断しよう。火力投射艦隊がいつまで時間を稼げるかは分からない。急ごう」
無駄に苦労を背負い込み、無駄に遠回りしてしまうのは困った癖だと森にも言われていた。
指揮官は背負うものが多いが何も全部を背負わなくてもいい、後ろには多くの仲間がいると沖田に教えられたばっかりじゃないか。
ばちんっ!
「よしっ!」
両頬を手のひらで軽く叩き、スイッチは切り替わった。
「10分だ。できる事を10分で書き出す。南部、北野、何でもいいから思いついた事を出して欲しい。真田さん、特砲艦隊からドレッドノートを4隻土星沖に回してください。使います。リクさん、ハルナさん、原初ドライヴの起動準備、あと何分縮められますか?」
「え、使うの? 40億ギガワットはそんなにすぐに飛んでこないよ?」
「それでも短縮をお願いします。いざとなれば、原初ドライヴからの供給を受けた波動砲で強引に吹き飛ばします」
「上に確認取るけど、多分2分か3分くらいだ。全地球圏の電力纏めて飛ばすんだから一気に時短は厳しいぞ。でも、可能な限りは急がせる」
「お願いします」
__________________
地球
第三新東京市
巨大なラチェットマンが資材コンテナを抱え、人間の様に器用に歩き回る。
非武装仕様の震電が低空を旋回し、吊り下げた超伝導ケーブルを所定位置へ降ろしていく。
全領域汎用整備艦は巨大な変圧設備を据え付け、無数のケーブルが蜘蛛の巣のように施設全体へ張り巡らされていく。
その光景は戦場ではない。
まるで巨塔を中心にした都市を建設しているようだった。
だが、その巨塔の正体は。
IMTS――衛星間マイクロ波送電システムだ。
一種の離島でもある月の万一のエネルギー枯渇、そして地球での停電に備えて建設されたインフラ基地であり、地球月間での送受電が可能とされている。
一部では砲撃機能が搭載されているとの噂が立っているが、確かにマイクロ波の性質を活かして超大型の固定砲にする事もできてしまう。
しかし射程制限があり、基本的に
_____サレザリウスという一種のインチキをしない限りは届かないのだ。
「地球、サレザリウス、木星の現在位置を確認。発射可能時刻を現時刻より240分後に設定します。続いて、TOKYO3、NEWYORK1、BRUSSELS2のIMTS仰角は一切の妥協も許さず調整してください。0.01度でもズレがあれば作戦は瓦解します」
『了解しました。しかし、それではサレザリウスの転送システムに照射ができませんがよろしいのですか?』
「良いわけがありません。ですがアレはマイクロ波でエネルギーの塊です。鏡のあてはありますので言う通りに調整してください」
『了解です。またご報告します』
通信が切れると、ハインラインはこめかみを押さえた。
鏡のあては確かにあるが、「恐らく地球史上最も高価な鏡」なので失敗は許されず、震電とイザナミの開発とはまた違う責任がのし掛かった。
「3ヶ所からのIMTS送電をヒューベリオンの反射衛星で1ヵ所に集め、焼損覚悟でサレザリウスへ飛ばす。まったく、地球もなかなかな切り札を切りましたね」
縁の下の力持ちどころか巨人なみの頼もしさであちこちで作戦を助けてきたハインラインだが、忙しく動き回る現場とは対照的にその頭は冷えていた。
(ズォーダーのプロファイリングからすると、彼はもう手段を選べないかもしれません)
(原初ツインドライヴが起動した時点で、戦力差は決定的になります)
(少なくとも太陽系内で異常気象が発生するほどのエネルギーを扱う以上、あの二隻とアメノハバキリ大隊を正面から止められる可能性は、さらに低くなる)
(だから相手は__こちらの準備が整う前に動くでしょう)
そのはるか上空、第三新東京上空にはオーバードウェポンが展開され始めていた。
光学兵器反射壁展開型ドローンコンテナ「ヒューベリオン」は、確かにガミラスの反射衛星を基にして作られている。
ガミラス製が巨大な反射翼を展開する方式ならば、ヒューベリオンは高分子展開膜を放出し、電圧制御によって瞬時に硬化し巨大な鏡面を形成する。
その展開速度は、ちゃっかり本家を凌駕していた。
そして特殊加工である「
まだ発展途中の技術であり最終目標は「波動砲の反射」だが、ITMS1基程度であればオーバーヒートと引き換えに反射可能だ。
だが3機分の出力ではメッキがはがれ、反射衛星は焼損する。
各分散首都上空の衛星を中継して北極上空の衛星にマイクロ波を集中し、それをサレザリウスにパスする。
嘗てのヤシマ作戦を大きく超える規模に地球重が再び一丸となり、NEWYORK1とBRUSSELS2でも同様の作業が行われ一切のタイムラグも許さぬ気迫で進められている。
そのはるか先の戦場、土星沖では地獄が展開されていた。
土星沖
「撃ち方始め!」
「撃て!」
ミサトの号令でナガト、タカオ、ユキカゼが一斉に砲火を放ち、その貫徹力がカラクルム級を串刺しにしていく。
既に大荒れの土星沖は撒き散らされたデブリと氷塊で満たされ、はるか後方の太陽の光を受けチラチラと光っている。
「敵艦、旧ハローエリアに入ります! 射程圏内です!」
「土星南極で潜伏中の部隊に連絡。スイングバイ狙撃を開始! 敵の気勢を削ぐ!」
その瞬間、土星南極付近から20本もの光が放たれた。
ダインスレイヴによる実弾砲撃____しかし光速の10分の1を超え、半ばプラズマ化した弾体が土星の重力で加速しながら大きく旋回、土星北極上空を猛スピードで横断しガトランティス艦隊を真上から襲い掛かった。
重力アシストを受けた剛速球、土星重力を巨大な加速器__あるいは砲身として使い重力井戸に理想的な軌道で飛び込ませて「光速の8分の1」を叩き出す確殺戦法だ。
1隻では運動エネルギーを受け止め切れない。
半ば恒星の欠片と化した弾体は艦体を貫き、そのまま2隻目、3隻目へと突き進む。
上手く当たればAAAWunderすら大損害の一撃をカラクルム級が防げるはずがなく、弾体は次々に貫通を成し遂げ、200隻以上が光球となった。
「効果あり! スイングバイ狙撃成功です!」
「狙撃艦隊は、護衛艦隊による対空監視を受けながら、撃ち続けて。彼らの進路を築くわよ。続いて、太陽系駐留艦隊によるガミラシウム弾頭攻撃に移る。リッケ司令に連絡」
「了解! ミランガルに打電、ガミロイド艦隊によるガミラシウム弾頭を用いた機動雷撃戦を開始せよ」
その命令を受け、深緑の獰猛な魚たちが一斉に目覚めた。
自殺行為にも等しい任務を受けたガミロイドたちは、自動人形が持つ冷徹さで指令を受諾。
ガミロイド管制能力を急遽付与されたミランガルからの指令を受けて挺身隊となり荒れる戦場に飛び込んだ。
突撃の航跡が幾筋も土星の輪を切り裂き、ガトランティス艦隊へ一直線に伸びる。
それは雷撃機ではない、自らが弾頭となった猟犬たちの突撃だった。
猟犬たちの群れの中には、地球へ供与されたガミロイドを艦橋へ据えた遠隔操作型ユキカゼ型も混じっていた。
旧イソカゼ型を凌駕する高機動性は、駆逐艦というよりも100m級の宇宙戦闘機だ。
リミッターを外せば慣性制御でも殺し切れないGがかかるのと引き換えに、ミサイルのような加速力と戦術機に迫れる機動力を得て突撃任務も熟せるのだ。
だが、WILLEはこれを有人艦の機能として正式に実装しなかった。
遠隔操作という概念が生まれてから、人命第一のWILLEにとってこれは受け付けなかったのだ。
改ゲルバデス級航宙戦闘母艦ミランガル
艦橋
「ファング03、05被弾。」
「ファング12、ガミラシウム弾頭発射を確認。カラクルム級三隻撃沈。」
「テロンファング部隊はゲシュ=タム・ウォールを展開。紡錘陣形を維持。その後方へファングを収容しろ。被弾率を下げる」
「ザーベルク」
艦橋に歓声はない。
あるのは、淡々と更新される損耗率と撃破数だけだった。
テロンファング__遠隔操作ユキカゼ型が矢じりのような陣形を組み、青白い波動防壁を展開した。
これは壁、敵艦隊の中でも突撃をするための傘で、ガミラシウム弾頭を使えるクリピテラ級、ケルカピア級、デストリア級を守りきるための防波堤だ。
そして加速、人間では軋みを上げる程のGもガミロイドなら耐えられる。
狙うは1点、
「ガトランティスが如何に大規模勢力であったとしても1隻1隻に人員が配置されている筈がない。ならばネットワークのハブの様に管制艦がいるはず。それが有人艦」
「地球の早期警戒機が掴んだ情報では、超空間通信がある1点からほぼ全方位に向かって送信されています」
「その群れが10以上。波動砲を除いて、とても有人では辿り着けない」
その有人突撃を単艦でゴリ押しできるバケモノが木星沖で起動準備中だが、ガミロイド艦隊による突破戦術も十分成立することが証明された。
唯一にして最大の問題は、重巡以下のガミラス艦は装甲厚が最低限しかなく、一撃で撃沈されやすいことだった。
しかし、その弱点は先頭を走るテロンファング隊__ユキカゼ型が展開する波動防壁によって大きく緩和されている。
青白い防壁を盾にした突破隊は、カラクルム級の密集陣形を正面から切り裂き、その奥に潜む有人管制艦へと迫っていた。
「テロンファング、ゲシュ=タム・ウォール臨界! 消失します!」
「装甲で耐えさせろ! VPS限界稼働!」
残りは装甲で耐えるしかない。
ユキカゼ型の装甲__VPS装甲が最大出力で稼働し、艦体は赤熱した鋼のような深紅の輝きを放った。
過剰電力により相転移に異常が生じ、ディアクティブ状態に戻せなくなる位相固定現象____本来は異常事態だが、帰還できないならと吹っ切れたこの現象はユキカゼ型に異常なほどの打たれ強さを与え、カラクルム級の苛烈な砲撃をその真っ赤な装甲で受け止めた。
ヒヒイロカネやオリハルコン。
人類は古来より、あらゆる神話の中で"決して壊れぬ金属"を夢見てきた。
だが、目の前で砲火を浴びながらなお突き進むその深紅の装甲は、誓って伝説ではない。
今この宇宙で起こっている現実だ。
だが、これが魔法ではなく科学である事が現実へと引き戻した。
「テロンファング04、貫通されました!」
「離脱させて自爆を! 巻き込まれるぞ」
「テロンファング01、正面装甲が限界に達します!」
「管制艦までは!?」
「残り1光秒!」
放たれたガミロイド艦隊___10個艦隊で数で押したにもかかわらず、その壁はやはり厚い。
カラクルム級の群れから放たれる豪雨の様な砲火は波動防壁とVPS装甲の輝きをむなしくも連打で押し切られ、また一隻一隻と撃ち落とされていく。
「ファングズ4、全艦ロストしました!」
「1番近いのは?」
「2です。射程圏内まで残り0.1光秒!」
「ファングズ2に指令。目標、有人カラクルム級へガミラシウム弾頭攻撃を開始! 群れを沈黙させろ!」
決死の指示を受けたファングズ2ガミロイド艦隊は後ろすら振り返らずさらに突貫を仕掛け、被弾を恐れず速力を上げていく。
最大船速を超える「機関一杯」まで上げられたエンジンがメインノズルから鋭い推進炎を吐き出し、人間ではなし得ない操艦で何と跳弾を繰り返していく。
ガミラス艦やユキカゼ級は正面から見れば装甲が傾斜している様に見える。
総旗艦ヤマトのようなスリムさは持っていないが、適切な角度で受け止めれば、跳弾が狙える。
しかしガトランティス艦艇の砲撃はミゴウェザーコーティングを容易く引っぺがす。
蛮族と侮る勿れと周知されてきた理由がここにあり、それを最も順守しているのは人間ではなく、まさかのガミロイドというのはおかしな話だ。
装甲の傾斜で辛うじて跳弾させる。
しかし、その代償として被弾箇所のミゴウェザーコーティングはごっそりと剥がれ落ち、外板ごと装甲を削り取られた。
それでも機関は生きている、推進炎は衰えない。
被弾、艦首の発光部が抉り取られるが、まだいける。
魚雷発射管が生きているなら、戦える。
さらに被弾、艦橋基部に命中し艦橋にまで爆発が起こるが、コンソールを介さずシステムと直接つながるガミロイドには些細な問題だ。
そして、金属の躯を超えて辿り着いた。
「ファングズ2、辿り着きました!」
「よくやったわ……ッ! ガミラシウム魚雷、撃て!」
燃え盛る艦橋、その勇敢な自動人形が引き金を引いた。
発射された魚雷はほぼ至近距離で有人カラクルム級に命中し、その爆発はミランガルにも中継されている。
核弾頭の一種でもあるガミラシウム弾頭が強烈な核反応を引き起こし、一瞬で光球となった。
それは役目を終えて機能停止するガミラス艦を弔う火葬の炎であり、侵略者であるガトランティスへの鉄槌でもあり、何もかもを焼き尽くしていく。
爆炎が収まるより早く、その影響は艦隊全域へ現れる。
「カラクルム各艦の姿勢制御に乱れアリ! 管制能力の喪失を確認!」
「管制艦からの超空間通信の一斉途絶を確認!」
「砲撃の停止を確認!」
「まだよ! 他の管制艦が制御を引き継ぐ前に倒し切るわよ! 他の状況はどう?!」
「ファングズ1残り3隻。弾頭魚雷搭載艦は1隻ですが、発射管付近に被弾し発射不能です!」
「仕方あるまい、弾頭魚雷を発射管に装填、艦首ごと突っ込ませて起爆しなさい!」
その非情とも呼べる指示を受けたデストリア級は、発射不能となったガミラシウム魚雷を抱えたまま最大戦速へ移行した。
回避も、防御もない。
狙うは有人カラクルム級ただ一隻。
次の瞬間、デストリア級は艦首から敵艦へ激突した。
艦首は衝突と同時に大きく押し潰されるが、その衝撃は弾頭を起爆させるには十分すぎた。
ガミラシウム弾頭が臨界反応を起こし、敵艦内部から爆発が広がる。
有人カラクルム級は逃れる暇もなく白い閃光へ飲み込まれ、デストリア級もまた、その使命を終えて炎の中へ消えた。
「さらに乱れを確認! 目標まであと2隻です!」
「次!」
辛くも辿り着いた1隻が魚雷を放つが、直前で迎撃されてしまい命中はしなかった。
しかし、ほぼ至近距離で生まれる火球は有人カラクルム級の艦橋部分を焼き尽くし、敵は機能不全に陥った。
だが他のファングズは虚しくも全艦ロスト、3隻の有人カラクルムが堕ち、その指揮下にあったカラクルム級約3000隻がオフラインとなった。
「全ファングズロスト!」
「目標に届いていないが仕方ない。アンドロメダに連絡!」
____
特砲艦隊旗艦
アンドロメダ級特砲航宙戦艦 アンドロメダ
艦橋
「ミランガルより暗号通信! 有人カラクルム3隻撃沈、急がれたし!」
「1隻足りないが、仕方あるまい……ッ! 全艦隊、波動砲用意!」
彼らの役割はただ1つ、統率を失ったカラクルム級を波動砲の斉射で殲滅することだ。
拡散波動砲から通常の波動砲に換装された今、艦隊殲滅兵器としての能力は望めない。
だから、かなりのお膳立てが必要だ。
発射準備の隙が大きいなら、隙を突けなくすればいい。
拡散しないから、面制圧ができる陣を敷けばいい。
「アポロノーム、アンタレス、艦載機発艦開始。対空陣形!」
アポロノームとアンタレスが背負う飛行甲板、かつての航空戦艦と同じく艦後部の甲板からファルコンspec2が飛び出し、一気に散らばり始める。
彼らは無防備になる特砲艦隊の護衛だ。
瞬間物質移送器による奇襲、特殊削岩弾のような兵器による波動砲の破壊、最大の手札が自爆の手札に変わらぬように守るのが役目だ。
「波動砲回路開きます! 非常弁全閉鎖!」
「目標、カラクルム級艦隊群各艦陣形を維持!」
「エネルギー充填120%、対ショック対閃光防御!」
シャッターが開き、青白い光球が膨れ上がる。
その光は大陸を破壊する力、そしてかつて星を砕いた力。
イスカンダルが覇を唱え愚行を起こした時代から続く、破壊の光だ。
「カラクルムに動きあり! 管制が復旧した艦艇を確認!」
「潰しきれてない頭か!? 重力子スプレッド、撃て!」
アンドロメダ艦首、せり出すように現れた小ぶりの砲塔から青白い礫が放たれた。
波動砲の予備チャージエネルギーの塊であり、アンドロメダにのみ許された攻防一体の武装、重力子スプレッドはゴボゴボと沸騰する振る舞いを見せながら弾き出され、特砲艦隊とカラクルム級の間を遮るように爆ぜた。
それは重力障壁____あのAAAWunderのワープを遮る程の障害物であり、ある物以外何物をも通さぬ壁だ。
「重力フィールド、展開確認!」
「特砲艦隊後方、援護艦隊より、共鳴波照射を確認!」
後方で控えていたナガト型がタナトスを装備して特殊共鳴波を発している。
本来は侵食魚雷を励起させるための装備、しかしその本質は活性波動共鳴波と抑制波動共鳴波にあった。
ただの超弦調律ではない。
余剰次元の振動を助け6次元の展開を大きく後押しする波であり、淡く光る波紋が広がり特砲艦隊を包んだ。
「エンジン出力さらに上昇!」
「敵艦載機確認! 艦爆です!」
「アポロノーム、アンタレス隊!」
ビーストモードで宙駆ける火薬庫となったspec2が高機動でデスバテーターに飛びかかり、最小限のミサイルで叩き落とした。
その上空を、「人間では耐えられない機動」で飛ぶ「黒く美しい戦闘機」が舞い上がった。
コスモフリップナイト___無人艦載機だ。
前進翼、尾翼無しの目を引くデザインで舞い、2基のゼロ型コスモエンジンでファルコンspec2を突き放すその機体は、人は乗らない。
複眼レンズが全てを見通し、コスモインテークが星間物質を吸い込みさらに加速し、何もかも叩き落としていく。
その先導役となるのは有人型フリップナイト__コスモメイヴを駆る戦闘機パイロット「深井零二尉」だ。
「そうだ、慌てるな」
王に着き従う忠臣たちであるコスモフリップナイト、その5機は散開しマイクロミサイルコンテナを切り離した。
その全てが完全遠隔操作、改イソカゼと同じく軌道を完全にコントロールされた何百発ものミサイルがデスバテーターを狙い疾走し、特報艦隊へ降りかかる脅威を射抜き続けていく。
続けてspec2も機銃とミサイルで応戦し、デスバテーターを叩き落とし頭上の脅威を取り除くのを見た山南は、波動砲の引き金を握った。
「艦隊上方の脅威の排除確認!」
「加害範囲からの退避急がせろ! 特に有人機は絶対だ!」
弾かれたようにspec2、フリップナイト、メイヴが退避を開始し、その航跡がはるか後方へと延びていく。
全艦隊の引き金が連動する今、山南が引き金を引けば42隻の波動砲艦が光を放つ。
浮遊大陸も吹き飛ばす光が、大艦隊に牙を剝く。
「波動砲、撃て!」
42頭の獅子が一斉に吠え、光の束が放たれた。
重力フィールドに直撃した1筋1筋の光はその膜を突き破り、しかし光は重力で束なり、単艦ではなし得ない極太の光へと収束された。
その5条の光、それもまた束なり破城槌のように力強い一撃となり、カラクルム級を飲み込んでいく。
群れは飲み込まれ、火球すら許さず消し飛ばされ、破城槌は白色彗星に突き刺さった。
高圧ガスの群れが破城槌を食い止めようとうねるが、活性波動共鳴波を受けた渾身の一撃を抑えきれない。
しかし威力は徐々に減衰されている様で、滅びの方舟に辿り着くころには1条の光となっていた。
それが天守閣を掠め、またズォーダーに大きな揺らぎをもたらした。
_____________
(どういうことだ……ッ!)
滅びに瀕した星の戦いとは思えない。
大雑把であるとしても、ガトランティスは戦略を使う。
それは各々が親から受け継ぎ子へと継いでいくもので、この場合地球は戦略で使える人間は少ない筈だ。
地球はガミラス戦争で軍がほぼ壊滅し、人口も半数以上が死に絶えた。
腕のいい
そしてこの軍の数だ。
環境が戻っているとはいえ何もかも1からの再出発となった星が、3年で用意できる戦力ではない。
たった3年で大砲を持つ艦隊を量産し、新しく戦術を生み出し、それを支える換装武器まで用意した。
(歩兵の様に武器を持ち替え、いかなる環境、いかなる敵とも戦える柔軟な戦術。いったい何故このようになった……ッ)
湯水のごとく生まれるカラクルムは、決して1発で墜ちる戦闘艦ではない。
甲殻類の殻の如く硬く、単独でも他の文明にとっては脅威。
纏まれば光滅砲で、軍団光滅砲で全てを飲み込む。
ゼムリアの遺産すらも投入したこの大艦隊が、何故……
あぁ、もう全て踏み潰してしまおう。
____
白い闇がうねり、沸き、引いていく。
霧が晴れるように高圧ガスが消えていくと、その姿が現れた。
巨大な手を模した籠の中に、幾つもの惑星が囚われている。
揺らめく光がステンドグラス状の模様に浮かび、鼓動のように脈動する。
係留されたカラクルム級が未だ何万と現れ、命あらば突撃する構えを取り続けている。
その天守閣の八つ目の赤い光が眼光を強め、威嚇するかのように見せつける。
滅びの方舟___アケーリアス人類は、その姿を初めて観測した。
『全艦に最優先命令! 直ちに後退!!』
「ッ?!」
『引くんだ! 無策で挑めば轢き潰される!!』
沖田がここまで焦る姿を、山南は見たことがなかった。
いや、焦っているだけではない。
命令系統を飛び越え、空間機甲軍団の艦へまで直接退避を呼び掛けている。
さらに青い親衛隊艦にすら、同じ命令を飛ばしている。
ただ事ではない。
ガミラス戦争の最中ですら、ここまで切迫した声を聞いたことはなかった。
あの戦争が、今になってひどく小さなものに思える。
「全艦、直ちに後退!! 急げ!!」
弾かれたように、山南も特砲艦隊へ重ねて命じた。
波動砲を撃った直後___本来なら機関を休ませ、次射に備えるべき状態だ。
だが、そんな余裕はない。
「機関最大! 構わん、回せ!!」
「しかし艦体負荷が――」
「構わん!! 今すぐだ!!」
42隻の艦艇が一斉に姿勢を変える。
推進器が唸り、波動エンジンが悲鳴を上げる。
艦体が軋むが、それでも回す。
急速回頭、後退、一秒でも早く、一光秒でも遠くへ。
特砲艦隊が今まで戦っていた場所から、逃げるように距離を取り始める。
誰も理由を聞かなかった、聞く必要がなかった。
沖田がここまで言うのなら、あれは「普通に戦えば危険な敵」ではない。
戦い方を間違えれば、艦隊そのものがゴッソリ消える敵だ。
そしてその背後で。
恐怖の権化が、ゆっくりと動き始めた。
「重力危険域の急拡大を確認! 凄いスピードです!!」
土星の環と星表面__中層まで散らした重力場がさらに広がり、半壊した土星がさらに食われ始めた。
ガス惑星は自らの重力でその球体を保っているが、それを一気に壊して一方的に食らうその有様は、バケモノだ。
「ヤマトより入電!」
「繋げ」
正面のモニターに沖田が映り、アンドロメダ率いる特砲艦隊が何とか逃げおおせたことに安堵の顔を見せた。
しかし状況は良くないようで、すぐに厳しい顔に戻った。
「沖田さん、アレが……」
『滅びの方舟。アケーリアスが遺した破壊兵器であり、人類に滅びをもたらすものだ。だが、ズォーダーにとってはアレは移動手段であり一兵器でしかないというのが実状だ』
「アディショナルインパクトを起こしうる火星へ赴くための足ですか……。やはり、作戦を進めるしかないのですか」
『地球の準備も完了しつつある。桜花作戦を実行に移す。地球へ連絡』
さーて、桜花作戦に出てくるオーバードウェポンを当てた人は、マジですごいです