宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
「撤退!? いや、まだ使徒いるけど!?」
『それどころじゃなくなった!!』
「はぁ!?」
『土星が半壊するレベルの敵がサイドメニューで付いてきてんだぞ!!』
「サイドメニュー!?」
『そっちに構ってる場合か!! サイドメニューに殺されたいのか!?』
「嫌に決まってるでしょ!!」
『だったら下がれ!! 使徒は後で考える!!』
色々とツッコミたいことはある。
だが、アスカもマリも、この場から逃げることには賛成だった。
80メートル級の巨体をスラスターで無理やり突き動かし、2号機と8号機が特砲艦隊に随伴して後退していく。
「アンドロメダから入電! ワープするから掴まれって!」
「助かる! って言って!」
「あいさ!」
アスカが2号機をアンドロメダの後甲板へしがみつかせる。
その直後、アンドロメダは一拍たりとも待たず、ワープ航法へ移行した。
視界が一瞬だけ歪み次の瞬間には、木星軌道。
先ほどまで土星沖で見ていた悪夢が、嘘のように遠くなった。
だがここで終わりではない。
木星の衛星軌道には、すでに戦力が集結していた。
第2世代艦艇、機甲軍団、太陽系駐留艦隊、親衛隊艦隊。
そして、その中心に鎮座する二隻。
神殺しの二隻。
原初ツインドライヴ搭載艦――AAAWunder。
そして。
原初ツインドライヴ搭載艦__デウスーラ・エアレーズング。
すでにKREDITの全領域汎用整備艦が巨人へ群がる小人のように二隻へ取り付き、シンヤシマ作戦のための最終調整を進めている。
ケーブルが伸び、作業艇が飛び交う。
接続端子が一つずつ固定されていく。
二隻とも、もう準備は整いつつあった。
地球全土から送られてくる電力を受け止めるための回路。
あとは号令一つだ。
_____________
「桜花作戦が発動された。レイちゃん、シンジ君、君達はガリレオに残るんだ」
「……ッ!」
「碇くん……私達は、切り札。ここで残って、第13号機を止める。世界を変えるためにも、私達は、残らないといけない」
「その世界変える最終作戦は最後の手段で、それをさせたくない大人が頑張るだけだ。だからシンジ君」
少ししゃがみシンジの肩を掴んだリクは、嘆願するようにこう伝えた。
「うちのレイちゃんを頼む。漸く家族になれたから死ぬつもりはないけど、この作戦はちょっと危険だ」
嘘だ、ちょっとどころではない。
神殺し2隻とアメノハバキリ大隊の全て、次元潜行艦隊が投入されるとはいえ、滅びの方舟に対しての攻城兵器としては少なすぎる。
未知数である原初ツインドライヴによる底上げがあるとしても、イスカンダルよりも高位の文明へと立ち向かえるだろうか。
「お父さん……」
「何も完全破壊が狙いじゃない。ガトランティスには、弱点が存在する」
それがゴレム。
ガトランティスを作った文明「ゼムリア」が用意した安全装置であり、情報に間違いが無ければ滅びの方舟天守閣に安置されている。
滅びの方舟の機能停止も重要だが、万単位で侵攻するガトランティスの動きを止めることが今は優先され、この作戦がたてられた。
1つ、原初ドライヴの最大出力で彗星に飛び込む。
2つ、波動砲を含めた全武装を用いた彗星内部敵戦力の排除と方舟内部への強行突入。
3つ、内部で暴れまわる神殺し2隻と、外から攻撃を加える連合艦隊(仮称)で、方舟の戦力を大きく削る。
4つ、アメノハバキリ大隊による天守閣への進撃と、可能であれば滅びの方舟の外装主機(?)の機能停止。
予想外だが、滅びの方舟は半永久機関を最初から持っていたわけではない。
アケーリアスがこのような歪な仕様でこんな物を生み出したのかは分からないが、ガトランティスはこの空白に使徒が持つ「コア」を何十何百と接続して方舟の運航を成し遂げている。
それを破壊すれば、もしや_____
「どこにあるかは分からないというのが、問題なんだけどな……」
「そんな曖昧な作戦で、本当に大丈夫なんですか!?」
「よくはない。でも、やらないと人類滅ぶからね。大怪我して帰って来るかもしれないけど、帰って来るまで、レイちゃんを支えて欲しい。できるか?」
子供に頼むには重すぎる。
それはリクもよく分かっているが、今のリクがレイの事で頼めるのは、シンジだけだ。
(やっぱり酷かな……)
他の人にも頼んでおくべきか、そう動こうとしたリクだったが……
「やります」
シンジの声は、震えていた。
でも、逃げたくないという意思に満ちていた。
それが人類を守るとか、世界を守るとか、そういう大きなものでなくていい。
ただ、傍にいる人を守りたいという小さなものでもいい。
14歳の少年少女が背負うなら、それくらいの大きさがちょうどいいんだ。
「だからリクさん。レイを……貴方の家族を、悲しませないでください」
「約束はできない。無傷で帰れたら最高だけど、そう上手くいく話でもない。でも、努力はする」
「……意地悪です、リクさんは」
「大人なんて、そういうものだ。君もそのうちこうなる」
そう言い残すと、リクは連絡通路を通ってAAAWunder艦内に戻った。
エアロックの陰に隠れるようにもたれ掛かっていたハルナは、辛いのを隠し切れていない顔で彼の顔を見た。
「ごめんね……多分私、グッチャグチャに泣いてしまうから……押し付けちゃうなんて……親失格だよ」
「そういう割には、僕らはまだ、親らしいことがほとんどできてないけどな」
「……そういう問題じゃないでしょ。レイちゃんにとって、私達は初めての家族なんだから」
「分かっている」
リクは苦笑して、ハルナの隣へ腰を下ろした。
しばらく、二人とも何も言わなかった。
艦内を走り回る整備員の足音、通信回線を通じて飛び交う指示、原初ツインドライヴの起動準備が進んでいることを示す、艦内放送。
世界を救うための準備は、もう止まらない。
「……怖いね」
ハルナが、小さく呟いた。
「うん」
「私、レイちゃんを遺していくのも怖い、シンジ君にお願いするのも怖い、滅びの方舟に突っ込むのも怖い」
「うん」
「……全部、怖い」
「うん」
リクは否定しなかった。
怖くないと言うことは簡単で、大丈夫だと言うこともできる。
けれど、それは嘘になる。
「僕も怖いよ」
だから、ハルナの手を握った。
「だから、帰ろう」
「……うん」
「僕らが親失格かどうかなんて、帰ってから考えればいい」
「帰れたら?」
「帰るんだよ」
ハルナが少しだけ笑った。
泣きそうな顔のまま、それでも笑った。
「……約束?」
「約束」
その手を、今度はハルナの方から強く握り返した。
もうすぐ二人は、神殺しの二隻と共に戦場へ向かう。
人類史上、誰も見たことのない敵へ。
勝てる保証などない。
生きて帰れる保証もない。
それでも、二人とも、死ぬためにここにいるわけではなかった。
帰るために、戦う。
そして帰ったら。
まだ何もできていない、親としての続きを始める。
それだけは、二人とも諦めていなかった。
_______________
「叔父上」
「何だね」
「本当に、往かれるのですね」
「無論だ。ランハルト……いや、クラウス。君はこれからどうする積もりかね。テレザート探索で彼の船に乗り込んでいたようだが、このまま作戦に付き合う理由はないぞ」
「ええ。貴方の目から見れば、理由はありません」
クラウス・キーマンにとって、この航海は厄介ごとが積み重なったものだった。
ハルナの手によってホラーゲームまがいの尋問を受け、反波動格子を没収され、碇ゲンドウの艦内制圧時にはダクトを這いずり回った。
今後体験することもないだろうと思うほど面倒な一幕の連続で、溜息をつかない日はなかった。
「振り回されることが多い航海でしたが……」
クラウスは、静かに笑った。
「託してみたくなりました」
「何をだね」
「地球とガミラスの繋がりを」
叔父は黙って彼を見る。
「それを体現しているのが、貴方様の船だと思います」
「……なるほど」
視線の先には、青い艦体があった。
デウスーラ・エアレーズング____それは、この世界のガミラスだけで生まれた船ではない。
別世界の地球で建造され、この世界へ流れ着き、ガミラスの技術によって蘇り、そしてこの世界の地球から新たな力を受け取った。
「別世界の地球で建造され、我らガミラスで復活し、地球で新たに力を受け取った」
デスラーは、その来歴を一つずつ噛み締めるように呟いた。
「なるほど……」
そして、僅かに目を細める。
「縁がどこかで途切れれば決して実現しない奇跡の船、というわけか」
「はい」
「君は、それに賭けるのかね」
「船にというより、この船を生み出したものに、です」
「……人の繋がりか」
「ええ」
クラウスは少しだけ苦笑した。
「これが終われば、どうする積もりかね」
「そうですね……大使館業務に戻るのもいいですが、貴方の航海にご一緒する許しを頂ければと」
「新天地探しか。そうだな……無事に戻れれば、私の旅に着いて来てくれるだろうか」
「ご一緒させていただきます。デスラー艦長」
______________
艦内に警報音が響き始め、戦闘艦橋の無重力に2人は浮かんでいた。
固く手を繋ぎ、眠るように浮かび2人の意識は旧AAAWunder航海艦橋にあった。
だが、様子がおかしい。
艦橋の全ての機器が陽炎の様にぼやけ、もう不安定な空間になっていたのだ。
「シンジ君がいなくなったから、この空間が閉じ始めていたんだ。僕らが入ったから持ち直している、ってとこか」
事実、航海艦橋しかもう残っていない。
外部へつながるハッチは開くものの、どこに繋がっているかもわからない虚空が広がっていた。
この空間を使えるのは、これきりだろう。
「私達がここで直接制御して、現実で古代くんが動かす」
「莫大な出力を余すことなく使い、全力戦闘をしながら全力で進む。足を止めれば終わり」
「古代くんも皆分かっている。だから、動かすよ、原初ドライヴ」
『分かりました。地球に連絡します』
現実の戦闘艦橋では、古代、島、森、徳川、真田、相原、太田、新見、そしてキーマンが配置に着き、今か今かと決行の時を待っている。
そのコンソールのうち徳川のコンソールには大量のモニターが増設され、管制室から山崎も追加人員で詰めていた。
「ツインドライヴに慣れたかと思えばいきなりとんでもない物を放り込みよって。それで真田君、こいつを動かせばエネルギー量はどうなるんじゃ」
「正直、排出回路を常に使わなければならない程まで増えます。しかし問題はそこではなく、覚醒した純正コアの底がまだ見えない事です。スーパーチャージャーも一機能でしかなく、解析は続いていますが、それでも完全解明までにどれほどかかるか」
実際は排出回路のバルブを最大まで開き、余剰エネルギーを只管宇宙へ吐き出し続けることで、漸く全身に収まる程のエネルギー量だ。
地球技術とイスカンダル技術の圧倒的な差を思い知らされ、徳川は目を白黒させた。
「つまり、全部使えるわけではないと?」
「本来なら、もっと効率よく受け止めて武装へ回すべきなんですが……今の純正コアは、そもそもの出力が想定を超えています。排出しなければ艦体そのものが保たない。副作用として莫大なエネルギーが未制御状態の波動防壁として動作すると考えられています」
「結局のところ、総量はどれくらいだ」
「正確な上限は分かりませんが、現時点の試算では――」
真田は徳川のコンソールへ表示された数値を指した。
「80センチ三連装波動砲塔でも用意しなければ、余剰を捨て続けることとなります」
「えぇっ!? その……波動砲を、通常兵器扱いにするんですか!?」
波動砲と言えば、今の地球の戦略兵器だ。
現にこの戦いで敵艦隊を殲滅した実績を持つそれを標準兵器扱いにする程の出力に徳川は目を回した。
「そのエネルギーを少しでも使えるようにするために、設計局からハルナ君が引っ張り出してきたモノを取り付けている。一応失敗作なのだが……」
「その……本当に大丈夫なんですね?」
「ボツを食らったお蔵入りの品だ。だが今回のような1体多数の作戦に使うと効果てきめんらしい。それよりも、コレだ」
正面モニターに表示されたのは、滅びの方舟の内部構造図だ。
滅びの方舟内部に強行偵察をかけた次元潜航艦隊、UX-01と04が無事に帰還したのだ。
「動力炉となるコア群の位置は、残念ながら特定はできなかった。だが、天守閣に続くと思われる隔壁らしき位置は確認されている」
「そこまで向かえれば、正気はある」
「そこからは、イザナミ級の出番だ」
____________
艦隊標準時を刻み続ける時報が静かに鳴り、艦内標準時0900を伝えた。
「時間です」
「白色彗星の動きは?」
「土星木星間軌道を進行中。ホルスアイ観測範囲に入るまで、あと30分です」
「何も起きなければ、だ。睦月さん、そっちはどうですか?」
『緊張してない訳ないじゃない。でも、これが終わればレイちゃん達を頼らずに戦争を終わらせられるから』
「そうですね……これより、桜花作戦前段階、シンヤシマ作戦を開始する。相原! 地球に打電!」
「了解! シンヤシマ作戦開始!」
艦内に警戒警報が満ち満ちていき、万が一の奇襲に備えて魚雷とミサイルが装填されていく。
さらに土星から退避した各防衛艦隊の空母系OW装備艦からspec2とフリップナイト、メイヴ、震電、秋水が飛び出し、防空体制を取った。
アポカリクス級やナスカ級と言った空母機動戦力は相変わらず脅威であり、物量に任せて魚群並みのデスバテーダーを投入されればひとたまりも無いのだ。
その厳戒態勢の中心、NHG級2隻を取り囲む全領域汎用整備艦がエンジンを最大出力で回し、大量のケーブルを伝って人類の希望へとエネルギーを与えていく。
「全領域汎用整備艦各艦、限界出力で稼働中」
「全レクテナ展開。AAAWunder、デウスーラ・エアレーズング、受電体勢に移行」
「『オウギ』から『ナスノヨイチ』へ暗号打電。『扇は上げた。鏑矢を待つ』」
AAAWunderとデウスーラ・エアレーズングが掲げたレクテナはパラボラアンテナのような「受け皿」の形状をしている。
それが宙に浮かび、「取手」とも呼べる部分からは極長高電圧対応ケーブルがまるで細かい根のように生えている。
1本のケーブルでは、その電力に耐えきれず一瞬で融けてしまうのだ。
その根の先には神殺しが2隻___原初ツインドライヴを授かり、人類の希望となった「命を救う戦闘艦」だ。
そして矢を射る者__地球でも動いていた。
地球
WILLE統合庁舎
作戦コードネーム「ナスノヨイチ」
「地球全地下都市、及び月面基地の発電設備の系統切り替え。全開閉器を投入、接続開始」
地球の全地下都市と月面基地から灯りが消え、医療機関や生命維持等の最低限を除き一斉に静まった。
それと反対に、各地下都市と月面基地の心臓を担う特大型波動機関がいっせいに唸り始め、地上のIMTSに莫大な電力を送り始めた。
地球から宇宙への送電は未経験ではない。
だが99年時の作戦は地球から低軌道への送電で、今回は複数の反射を挟み木星沖まで物質移送機で飛ばすというのだ。
「ヒューベリオン管制艦より入電。反射膜展開、空間磁力メッキの状態良好」
「反射角、リアルタイムで調整中」
「各管区発電設備は順次運転開始、出力限界まであと0.2」
「電力供給システムに問題なし」
「全インバータ装置に異常なし!」
「第1次遮断システムは順次作動中」
「各管区、全送電回路開きます!」
「電圧安定!」
艦艇クラスのエンジン出力に耐えられる極超大電力ケーブルに滝のように電力が流れ込み、その電力を生み出す波動エンジンは、まるで蛇口を一気に捻ったかのように凄まじい量を吐き出していく。
多少寿命を削ろうが今は関係ない。
エンジンを使いつぶして人類文明が存続できるなら、安い物だ。
「第二次接続開始します!」
「全管区、第1から第11変電所に投入開始」
「電圧変動幅問題なし!」
「電力低下は許容数値内、問題ありません!」
「第三次最終接続!」
「了解、全電力、IMTSへ!」
____
ラグランジュポイントL2
改ゼルグート級サレザリウス
作戦コードネーム「オイカゼ」
「瞬間物質移送器起動」
「転送先座標、2艦後方至近」
「ゲシュ=タム・ドライヴ過負荷運転開始。次元重複領域拡大」
凄まじい負荷に耐えながらゲシュタム機関を唸らせ、次元が僅かに歪んでいく。
この歪みを指向性のある物質転送波として照射するのがこの瞬間物質移送器だ。
だがサレザリウスはメダルーサ級と同じようにエネルギーの転送すら可能とし、艦首に陽電子直撃砲を搭載している。
それをまさか「中継器」として使うとは、ディッツも想定外だった。
「余すことなく送り切るんだ。作業艦と地球のドライヴの全電力でやっと起動できるのだからな」
____
予備電源で常夜灯のような薄暗さの中、各々はコンソールを睨みIMTSの状態に目を光らせていた。
「IMTSマイクロ波変換効率、91%で安定!」
「照射諸元最終入力。地球自転、重力誤差修正。衛星位置確認。1号から3号、静止軌道を維持!」
「カウント用意ッ!」
正面モニターにカウントダウンが大きく表示され、1ミリ秒の狂いも無く秒数を刻み始めた。
「サレザリウス、木星ともに準備よし!」
「カウントダウン開始!」
IMTSから初期照射が始まり、ガイドレーザーと紫に焦げた空気が天高く伸びていく。
真っ昼間であるにも拘らず人一人いない無人の都市で、轟音と灼熱と希望を纏い天を狙う。
「3、2、1、照射ッ!!」
波動砲を想起させる一瞬の膨張の次には、天へと延びる眩い光が紫の焦げ跡を残しながら宙へと駆け上っていく。
地球静止軌道、上空3万6000kmまで一気に猛進すると、最初の鏡が待ち受けている。
ヒューベリオン___反射衛星だ。
通常であれば莫大なエネルギーと加熱で消し飛ばす超大規模マイクロ波レーザーだが、空間磁力メッキを供えた反射衛星であれば、現状1回までなら反射できる。
「第1段反射!」
スラスター全力噴射、メッキをじわじわと融かす程の大出力マイクロ波が見事に北極上空へと反射されていき、大仕事を追えるとすぐさま冷却されていき絶対零度にまで近くなった。
「第2段反射!」
北極上空で待機していた反射衛星に3本の光が命中し、その勢いに負けぬように全力で耐える。
しかしメッキを瞬く間に融かされ反射板は損傷し、ほぼ全てを反射し切るころにはスペースデブリとなった。
そしてほぼ同時に発射された月面IMTSの光が合流した。
1本に収束された希望の光は北極上空3万6000kmからラグランジュ2付近に飛び、最後の中継ポイントへ向かっていく。
全長1000m、ドメラーズ3世の血を受け継ぎ特別派遣空間機甲軍団の旗艦を務める改ゼルグート級サレザリウスだ。
改ゼルグート級サレザリウス
艦橋
「第2次中継点による反射成功! 来ます!」
「エネルギー転送跳躍モード、展開!」
艦橋部と艦首に取り付けられたストロボ状の物質移送機が幾重にも重なる円環を発した。
あのメダルーサと同じくエネルギーを転送する機能を追加され、さらに元ネタのメダルーサを上回る性能は伊達ではなく、地球全土のエネルギーという「火焔直撃砲を優に上回る量」を送り届けられるのだ。
「転送まで、
サレザリウスを掠めるように飛んできたマイクロ波の奔流が円環へ巻き込まれ、残滓も残さず空間を飛び越えさせていく。
眩い閃光がセンサーを焼き、堪らず目を細めるが見届けなければならない。
地球とガミラス、全人類の命運を分ける決戦の始まり。
一丸となった人類が何を成し、これから何を成すのか。
(頼みますぞ!)
やがて全てのエネルギーが遥か彼方へ飛び去り、地球圏は再び静寂に満ちた。
__________
木星
ガリレオベルト付近
「内惑星方面、嘆きの海解除範囲より大規模な空間波動エコー! パターン無し!」
空間に大きな揺らぎが生まれ、そのわずかな時間の後には眩い光が突っ切っていった。
進路上にあるあらゆる微細なデブリを消し飛ばしながら現れ、真田はコンソールを調整して受電レクテナを微調整する。
惑星同士は絶えず動き続ける。
だからそれを込みにした誤差修正が必要となるが、今回はそんな時間も無かった。
「補正座標入力。角度よし! 受電態勢!」
巨大な受け皿がスラスターを吹いて角度を合わせると、マイクロ波の奔流は待ちきれないと言わんばかりに飛び込みすぐさま電力へ変換されていく。
1億、2億、3億と供給エネルギーが跳ね上がり、宇宙の絶対零度が機材を冷やしながら己の役目を果たしていく。
同様にデウスーラ・エアレーズングでも億単位の電力を受け取り、結晶に覆われたツインドライヴが遂に動きを見せた。
「給電率80%、14.4億GWです! 1番から20番までの回路接続を確認!」
「整備艦は!?」
「出力98%!」
「よし、現時点をもって整備艦からの給電を終了する。ケーブルをパージ!」
まるではじけ飛ぶようにケーブルが吹き飛び、行き場を失った電力が端子からバチバチと漏れ出る。
蜘蛛の子を散らしたように一気に退避を開始していき、NHG級の周りには1隻も存在しない「聖域」が生まれた。
『こちら機関室! 始動用電力の注入を完了! 火を入れられます!』
管制室からもGOサインが出て、徳川は旧Wunderの発進を思い出した。
こうして、また全人類が希望として託したエネルギーで始動する。
また、人類を救うために。
99年時とは比べ物にならない神力を宿し、今、鼓動が弾けた。
「原初ツインドライヴ、始動!」
「原初ツインドライヴ始動、フライホイール始動、室圧上昇中。出力105、第1次リミッター解除」
両舷に納める波動エンジンが重々しい音と共にフライホイールを回し始め、機関を覆う結晶が青白く鮮やかに輝き始める。
「周辺空間に異常発光確認!」
「炉心外展開か……! 続けて、第2次リミッター解除!」
「出力210、第2次リミッターを解除する」
薄く輝く宇宙が広がり続けていく。
木星域、ガリレオベルトも淡い光に包まれていき、極小規模な星雲が生まれたかと錯覚させて来る。
続いて第3次リミッター解除、淡い星雲がさらに広がっていき、やがて地球圏までを包み始めた。
「エネルギー充填、290%!」
「原初ツインドライヴ、回転数良好、いけます!!」
デウスーラ・エアレーズングでも同様に炉心外展開が起こり、同じく淡く青白く光る星雲が生まれている。
機関室は轟音に満たされ、船外服に身を包んだ機関員がコンソールを睨み、人外未知の罐から噴き上がる力を抑え込む。
「フライホイール接続!」
「AAAWunder、起動ッ!!」
「デウスーラ・エアレーズング、起動ッ!!」
その瞬間、全てが収束した。
太陽系全域にまで広がっていた淡く青白い星雲が一気に収束し、その全てがツインドライヴに収まった。
静寂に満ちた次の瞬間には艦体に異常な変容が始まり、全てのセンサーが異常な反応を事細かに記録していく。
艦体を構成する物質が原初ツインドライヴを起点として再構成されていく。
色鮮やかな装甲、アダムス組織、その全てが青白い光をオーラのように纏い、排出回路から噴出する波動エネルギーが奔流となり艦体を覆っていく。
それは「波動エネルギーに適合した状態」だ。
イスカンダルから見れば、AAAWunderとデウスーラ・エアレーズングは、「木造船に原子炉を乗せて動かしている」ようなものだ。
だからその能力を十全に使えていないし、全力を出せば器がエンジンに耐えられない。
エンジンを起点に変容がさらに進み、艦首まで覆われたその姿は化身そのもの。
もはや、これまでのAAAWunderではない。
これまでのデウスーラ・エアレーズングでもない。
地球の技術、ガミラスの技術、イスカンダルの力。
それらが互いの限界を補い、初めて一つの形へ辿り着いた。
ただ強くなったのではない。
ようやくこの二隻は、自らの力を使うための器になった。
この日2203年6月10日、銀河系の片隅で、神殺しは光となった。
「出力300を維持! 桜花作戦を開始する!」