宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
「方舟内部へ侵入成功! デウスーラ及び艦載機イザナミ級に損害無し!」
「速力の上限を最大戦速に固定!」
赤黒い、蠢く肉にも見える異様な巨大空間には、つい先刻前にブチ破った破孔から白い光が漏れている。
上下から柱のような何か、建物のようには見えないが、その怪しさは少なからず警戒心を持たせて来る。
今この方舟に乗り込んだのは神殺しの船2隻だけだ。
本来なら次元潜航艦も投入されるはずだったが、原初ツインドライヴの影響で次元境界面に「浮上困難な程の高波」が立ってしまったためガリレオベルトに待機せざるを得なかった。
亜空間下支援はない、それでも今はやるしかない。
「古代、物体の解析が完了した。アレは全てカラクルム級だ」
「あれが!? ですがサイズが……」
「不揃い、どうやら通常の建造方法ではなさそうだ。植物のように成長させる生体兵器じみた戦艦。これであれば、ガトランティスがカラクルム級を万単位で運用できることに説明がつく」
「波動砲を含めた全火器は、即時発射出来るように準備! 何が来るか分からないぞ!」
『おいコダイ、だいぶ気味悪ィとこだぞ。動くってことはねぇよな?』
「分からない。動いたら動いたで攻撃するしかない」
『アドリブにもほどがあるな』
その瞬間だった。
真っ白な海面のような「何か」が広がった。
「大規模な空間位相の反転を確認!!」
「っ!!」
あり得ない、艦橋越しに外からガラスのような破砕音が聞こえた。
音のする方向に目をやると、真っ白な海原___かつての地球でも見られた塩湖のような地平を突き破るように槍の様な艦首が現れた。
黒く、鋭く、二股に分かれた艦首。
歪な水晶のようにも見える構造物。
2対の翼。
そして、異形の鳥の姿。
それらが同航戦を仕掛けるように浮上してきたのだ。
「レーダーに感! 推定全長2000m、NHG級です!」
「空間位相面に新たな亀裂確認、さらに浮上反応を確認!!」
ガラスが割れる音が響き、さらにNHG級が浮上してくる。
AAAWunderとデウスーラ・エアレーズングを取り囲むように続々と取り囲んでいき、その数合計6隻。
頭数3倍で押し潰すつもりか、はたまた鹵獲を狙っての事か。
それは分からない。
だが、押し通るしかない。
「複製NHGか。量産ができるとはいえ、6隻も建造されていたとは……ッ」
「古代くん! オリジナルがいない!」
通信越しに旧AAAWunder艦橋から飛んできた一方に、古代は耳を疑った。
「じゃあオリジナルは儀式用にですか?」
「それしか考えられない。替えが効かないから、どこかに隠してあるはずだ!」
大事な物は隠しておく、急所を庇う姿勢だ。
人類がいなかった世界に作り替える為には、アディショナルインパクトが必要。
その神具として運用されるオリジナルNHG2隻とその模造品2隻は、どこかに必ず保管されている。
ならば今やることは、この贋作の群れを打ち倒す事ではない。
何とか振り切り、滅びの方舟の天守閣への道を切り開く事。
そして当初の計画通りにイザナミ級を進攻させる事だ。
「総員戦闘配置! イザナミ級を主翼上部に緊急着艦させ強行突破を図る! カレル163を思い出せ! あの時は大群だが今回は両手で数えるほどだ!」
『あの時は迎え撃つ側だった俺らが突破する側になるとはな。きっちりやらせてもらうぞ』
「全兵装使用自由! この空間を突破する事だけを考えろ!」
_____________
木星、ガリレオベルト近海は、嵐が巻き起こっていた。
ミサイル、魚雷、ビーム、戦略兵器の応酬、血で血を洗う血生臭い宙域、神にすら祈りたくなるほどの凄惨な戦場に、2隻の船が現れた。
ルクレティウス級4番艦コルネリウス、5番艦ポンペイウスだ。
火星近海を死守するためにアリアンロッド軌道からはるばる配備されたルクレティス1番から3番艦、その新たな姉妹たちが木星軌道へ現れた瞬間、さらなる暴風が吹き荒れた。
「4番艦、5番艦、射撃開始」
ナガト型アドミラル・ナヒーモフが管制を受け持ち、遠隔操作で放たれたそれは地球防衛のための力だった。
ハリネズミのように大量に設置された砲塔、オーバードウェポン取り付け口に設置されたローエングリン、ミサイル発射管からありったけの暴力が吐き出され、正確無比な掃射がカラクルム級を吹き飛ばした。
しかし大穴を開けようとすぐに埋まり、後続のカラクルム級が獣が如く突進を仕掛ける。
消し飛ばす、埋まる、消し飛ばす、埋まる。
無限ループ、終わりの見えない戦いだ。
「畜生め、殺しても殺してもゴキブリみてぇに沸いてやがる!」
「弾薬が持たねぇ! 補給が追い付いてねぇぞ!」
既に戦術機部隊にも多数の未帰還機が出ている。
猛烈な対空砲火にからみ取られ帰還も叶わなかった彼らの遺志を背負い、彼ら彼女らはその手に銃を、剣を取り、カラクルム級を撃墜していく。
パイロットたちは、歯を食いしばっている。
大粒の涙を流している者もいる。
破損したコックピット、ハッチの隙間から見える生の宇宙空間は美しくて残酷で、深い漆黒の大海原を、色鮮やかな光線が彩っている。
赤、青、黄緑、陽電子の矢が飛び交うこの戦場は、人類が今まで経験した戦場の中で最も危険で、最も美しい。
そして、死の匂いしかしない。
「IFFに感! 地球方面より管制ワープによるワープアウト反応!」
薄氷を纏った何十隻もの戦闘艦が現れ、その羽衣が解けていく。
ナガト、タカオ型にローエングリンを標準装備した火力特化艦艇、遠隔操作艦艇、その先鋒に立つのは、異形の艦艇だ。
アンドロメダ、しかしその異形さは同じ艦種とはとても思えない。
高さを抑え、そしてやや艦尾寄りに設置された艦橋。
甲板、両舷、艦底、兎に角火力を求めた大量の主砲。
艦首に誂えられた2門の「内蔵型ローエングリン」の砲口。
「何だこれ……波動エンジン反応確認、数2! あいつエンジン2つ乗せてます!」
「IFF確認、アンドロメダトライアル、アマテラスです!」
アマテラス、それは非波動砲搭載型アンドロメダ級の発展として目指された方向性の1つだ。
444mの船体にどれだけの兵装と機関出力を持たせられるか。
波動砲を安易に搭載できないこの世界で、通常火力級の兵器でどれだけの力を発揮できるのか。
そして生まれたのが、太陽を司る神であるアマテラスだ。
正式名称、AAAY-001アンドロメダトライアル1番艦第2.5世代技術限定反映型試作超弩級航宙重戦艦アマテラス。
読み上げるのも億劫になる程に長い名のこの戦艦には、総旗艦ヤマトとオーバードウェポンのデータがフィードバックされている。
全身ハリネズミと形容できるほどの主砲を持て余さぬようにナガト型の波動エンジンを2基搭載、太陽系内での運用を前提にすることで居住区画を大きく削り火力増強に注力し、波動砲に頼らない強力な防衛戦力のヒントの1つとなるはずだった。
そう、ただのヒントで、各種試験をこなし、結果次第ではあるが時を見て解体されるはずだった。
しかしガトランティスの戦力が規格外であることを受けて急遽同型艦としてアストレア、アスタロト、アスモデウス、アリュゼウスが建造され、この臨時艦隊に組み込まれたのだ。
アマテラス艦橋
「……ブッ飛ばしてやる」
「ダブルドライヴ出力上昇。コンデンサも繋ぎます!」
艦後部両舷に備え付けられた波動コンデンサからもエネルギーを引き込み、全ての砲塔が目覚めた。
ツインドライヴではないとはいえ2つ心臓を持つ以上は総出力はアンドロメダの約2倍、ツインドライヴを除けばこの戦場で最大の体力を持っているのだ。
「全目標ロックオン、砲塔自動追尾よし!」
燃え上がれ。
「各砲塔管制、死ぬ気で狙えよ!」
燃え上がれ。
この艦体も、結果次第で解体される身だったのだ。
「前方撃ち方……っ!」
燃え落ちろ、ガトランティスよ。
「始めぇ!!!」
ごぉっ、と突風が巻き起こったような気がした。
分厚い装甲の向こう側には確かに真空が満ちている。
それなのに、突風が巻き起こり、炎が荒れ狂うように感じた。
AAAWunderで生まれたマルチロックオン、強力な主砲である51㎝2連装VSPST10基、それを手持ち無沙汰にせぬためのダブルドライヴ、試験艦とはいえ遺憾なく発揮され、突風は炎をより一層猛らせていく。
木星沖は地獄だ。
だが、地獄でも煉獄でも生き残るしかない。
照射型で薙ぎ払う様に消し飛ばしていき、射線上は塵すら残さず、命の欠片すら残さず、無に帰していく。
だがこれでも一時の優勢を作り出すだけ、やはり通常火力だけでは押し切れない。
もっと強大な火力、一網打尽が可能な火力が欲しい。
「山南さん!!」
『抑えろ!』
アンドロメダ 艦橋
「射線上安全確保、警戒警報発令」
「艦内電源をバッテリーに切り替え、メインエンジンの全てを波動砲へ送り込む!」
ヤタノカガミを装備した遠隔操作タカオ型に守られながら、全ての波動砲搭載艦は波動砲の充填に入った。
主砲はおろか、波動防壁も使えぬ無防備な状態、必然的に僚艦に守りを頼むしかない。
「直上より、敵機多数接近!」
「正面ミサイル多数来ます!」
「タカオ迎撃開始! 甲板上戦術機も射撃用意、各機迎撃開始!」
タカオ型の対空装備が一斉に鎌首をもたげ、赤いパルスレーザーの光を豪雨のように吐き出した。
さらに対空に特化したエリナケウス装備型もアンドロメダの護衛としてパルスレーザーを連射し、弾幕を張り続ける。
それでも10数基の「被弾塗れのデスバテーター」が突っ込んでくる。
穴だらけで火を噴き、最早特攻でしか戦果を挙げられぬ状態、それでも燃え落ちる前に、アンドロメダ目がけて機体を急降下させて艦橋を狙う。
しかしそれも、寸前で震電の射撃に阻まれた。
まるで大昔の大戦だ。
特攻で戦果を挙げるあの大戦末期、価値観が違い過ぎるとはいえ戦争をすればどの勢力も一度は通るのだろう。
そしてミサイル、ゴストーク級から放たれた大量のミサイルが迫り、超巨大ミサイルまでもが波動砲艦の鼻先に迫ろうとしている。
『させんッ!!』
アマテラスの同型艦アリュゼウスが引き連れてきた「大量の黒い改イソカゼ」が一斉に砲撃で弾幕を張った。
リクとハルナが地球に残した「改イソカゼのデータ」を基にして、人間ではなく量子AIに操作させた群体制御兵装「ビットステイヴ」だ。
改イソカゼが「完全にシンクロした人間2人が操作する事を前提にされていた」ために量子AI操作でも劣化版程度にしかならないが、滅びの方舟のような死地で振り回すのと比べれば十分だ。
そしてAIと人間の違いは、合理の塊である事。
1隻のビットステイヴが、超巨大ミサイルに正面から突っ込んだ。
ローマの弓兵の如く揃ったゴストーク級から放たれた矢は無数、レーダー上で真っ赤な雲で表示される程に数が多い。
波動砲に泡を食って一斉射したのだろう。
後先考えずに打ちまくったのだろうが、これは痛い。
故に量子AIは、合理的な決断をした。
「ビット23、オーバーブーストの兆候アリ!」
ビットステイヴの波動エンジンが急激に出力を上げ、全ての安全装置が一気に外れた。
その瞬間に余剰次元が無制限に、そして連続で展開されていき、光球が肥大化していく。
そして炉心崩壊、爆縮、1つの衛星を吹き飛ばせるほどの大爆発がミサイルを全てのみ込んだ。
波動掘削弾、ガミラシウム弾頭魚雷、侵食魚雷、N2弾頭、そのどれもを凌ぐ暴力的な光は「爆弾となった波動砲」と同義であり、加害範囲にある原子1つ残さず素粒子へ分解されていき、微惑星も当然の如くのみ込んだ。
しかし捨て身の自爆でも食いきれなかったミサイルが波動砲艦隊に襲い掛かり、タカオと震電、秋水が必死にミサイルを迎撃する。
それでも被弾が起こり、ドレッドノートの艦体から火が噴き上がった。
波動砲発射シークエンスには辛うじて被害は出ていないが、これ以上の被弾は暴発を招くだろう。
「ダイヤモンド、デバステーション被弾。アンタレスにも被弾!」
「強制注入機作動を確認、安全装置1番2番解除!」
「総旗艦ヤマトより通信、トリガーをヤマトに集約し、同時射撃を行うとのことです!」
「了解した。トリガーを総旗艦に回せ!」
「艦隊戦術ネット、トリガー権限委譲します」
「全艦、エネルギー充填120%、発射可能です!」
「対ショック対閃光防御!」
総旗艦ヤマト
「トリガー委譲を確認! 全波動砲搭載艦の連動を確認しました!」
「対ショック対閃光防御!」
艦長席のコンソールが開き、拳銃型コントローラご現れた。
世界で最も重い引き金に指をかけ、ミサトは艦長として照準の奥を睨んだ。
カウントはミサトの抱える重圧を知らずに減っていき、指に触れていた引き金がほんの僅かずつ、僅かずつ離れていく。
「……っ!」
「葛城くん、それでいい」
司令席から聞こえる声は重く、幾つもの死地を乗り越えた厚みがあった。
「その重圧を全て背負う必要はない」
沖田がバイザーを上げ、ミサトを真っ直ぐに見る。
艦長として日も浅い、それこそ運命のように選ばれ、指揮官として駆け出し始めたこの世界のミサトには、重すぎた。
「君も、そのうち分かるようになる。これは、1人で引く引き金ではないことが」
ミサトの代わりに艦長席につくと、船外服のグローブ越しにコントローラを強く握った。
「儂の肩に手を」
船外服越しに触れられるのを感じると、沖田は遥か彼方の彗星で暴れ回る若者たちを見た。
(古代、真田くん、睦月くん、森くん、君達の勇気を儂に貸してほしい)
思えばイスカンダル航海の時は、沖田が自ら波動砲を撃つことはなかった。
艦長席から号令をかけ、古代が、そしてあのバレラスでの戦いでハルナとリクが撃っていたくらいだ。
指揮官として許可を出し、責任を背負う立場。
実際に引き金を引く立場。
やはり、重圧の種類が違う。
「目標、ガトランティス艦隊! 発射5秒前よりカウントを再開する!」
「全艦連動、発射5秒前!」
「4」
「3」
「2」
「1」
(スターシャさん、我々は生き抜きます)
「波動砲、撃てェ!」
若者達の勇気に背中を押され、沖田は力強く引き金を引いた。
吐き出されるは美しい光の咆哮。
だがそれは大陸を消し飛ばし、数を揃えれば惑星を亡きものとする「忌むべき力」と呼ばれるものだ。
地球はそれに条約の鎖を設けて「制御可能な獣」として扱っているだけだ。
その輝きが1点に収束し何もかもを押し流していく。
つい数年前までショックカノンまでしか知らなかった人類が持つには、やはり早いのかもしれない。
(星を殺しかねない力……我々は、禁断のメギドの火を手に入れてしまったかもしれない)
最初に波動砲を撃った時は、木星だった。
その威力に波動砲をメギドの火と例えたが、これはその比ではない。
いつか未来の人類が、「ガトランティス戦争で、我々はメギドの火で火遊びをした」と言うかもしれない。
恐らく悪しき所業だろう。
それを背負うのはこの世代の大人で、そのツケを支払うのは遥か未来の人類だろう。
現にツインドライヴで宙が裂けたのだ、波動砲の集中運用で空間が無傷で済むとはとても思えない。
いつかどこかの未来で裂けて、亜空間回廊海戦の時のような「災害」が起こるだろう。
それでも、今はやるしかないんだ。
___________
艦内で爆発が響いている、負傷者が増えていく。
運用に必要な最低限の人数まで乗員を絞り、主砲副砲も砲塔管制室を無人にして極力人死にが出ないようにしたというのにこれだ。
無数の砲撃痕が装甲に刻まれ、貫通痕が刻まれ、船を操る彼らの心にも、傷が刻まれていく。
赤黒く、この世とは思えない空間で振り切りをかけるAAAWunderとデウスーラ・エアレーズングの背後から、3隻のNHGが追撃をかける。
3隻は何とか落とした。
天守閣を落とす為のイザナミ級を抱えながらの戦闘で、何とか3隻だ。
今ここで彼らを消耗させるわけにもいかず、主翼に波動防壁とATフィールドを集中させたから、艦体への被弾は受けるしかなかった。
「艦尾6時方向、NHG3隻接近」
「増援はいないな?」
「レーダー上では感知できず、目視観測でも浮上兆候なし」
「全速で振り切れ、機関最大!」
鋭く長い噴射炎が突き飛ばしていき、敵NHGの射程から逃れようとする。
それを逃さんと獣の如く食らいつこうとする敵NHGは、あの球体型の砲塔のシャッターを開いた。
そして閃光、目も眩むほどの光が襲い掛かり、艦体が大きく揺れた。
青白く発行する艦体を打ち付ける閃光と砲撃は苛烈さを増していき、遂に艦尾にその一撃が食らわされた。
耐える、耐える、しかし加護は失われついに破断した。
「中央船体艦尾に被弾、後部主砲応答なし!」
「ダメージコントロール、隔壁閉鎖急げ!」
威光を失い元の色になった装甲が大きく捲れ上がり、後部の80センチVSPSTが丸ごと消えていた。
無人にしていたとはいえ、これを真正面から喰らえば神殺しでも敵わないだろう。
そして今はイザナミを守る為に防壁とATフィールドを主翼に一極集中させている。
艦体を守る術がないのだ。
『コダイ! 後ろのクソ野郎どもは俺らに任せて、とっとと前へ進んでイザナミを発進させろ!』
並走していたデウスーラ・エアレーズングが大きく回頭し、速度を落とし始めた。
「無茶だ! 1隻で3隻を相手にするのか!?」
『美味しい役をくれてやるんだ。黙って行けよ。それに、我らが艦長もお望みだ』
『後背は任せたまえ。人類を救える騎士を抱えるのは、君達だ』
無謀だ、無茶だ、自殺行為だ。
2隻で何とか3隻を落とせたというのに、1対3は勝ち筋が見えない。
それにあの砲撃は、原初ツインドライヴで強化された艦体をも撃ち抜く。
今は背後からの攻撃で収まっているが、包囲されて真正面から被弾すれば、間違いなく艦橋丸ごと消し飛ばされるだろう。
「……地球とのリンクを再確認、ワープ準備!」
「真田さん!?」
「ここはバーガー大佐とデスラー艦長を信じて行くしかない。滅びの方舟を止め、ゴレムの破壊を成し遂げる、それができるのはAAAWunderと、イザナミ達だ」
「ですが!」
「指揮官として覚悟を示せ! 古代進!!」
古代の両肩を強く掴み、思いをぶつけた。
指揮官は時に非情な決断を下さなければならない。
やはり古代は非情になりきれない。
決断が、覚悟が鈍れば、次は我が身だ。
「私達は示した。次は、君だ」
遠くで振動音がしている。
原初ツインドライヴの稼働音が響く艦橋、古代は歯を食いしばる。
心を殺してでも目的を果たすべきか、否か。
「古代くんが……進さんがどんな選択をしても……」
「雪……」
「その選択で、取り返しのつかない地獄になっても」
吐き出されたその言葉、力強く吐き出されたその言葉は、真っ直ぐな目とありったけの想いと共に彼に与えられた。
「私は、貴方を支える。どんなに険しい道でも」
根底に眠るのは、愛。
ただの愛だ。
人1人の純粋な想い、それでも、彼の背中を押すには十分すぎるほどだった。
『……指揮官、覚悟決まったか?』
「……あぁ。本艦はこれより、地球からのワープ支援を受け緊急短距離ワープを行う! 後ろを任せる!」
『死ぬんじゃねぇぞ。あと式は呼べよ。通信繋がってんのにこんなん聞かされちゃ出ない選択肢ねぇじゃねぇか』
「……後で会おう」
『……おうよ』
5隻の量子仮想体が展開され、その1つが実像に重なった。
ワープに必要なエネルギーが即座に補給され亜光速に加速すると、敵の追撃も許さぬ素早さでAAAWunderは輝く従者と先へ進んでいった、
____
「往ったな」
「そうですな。デスラー艦長、先に行かせておいてなんなんですが、生き残れるかどうかは怪しいですよ。不敬は承知ですが、中枢区画への退避を進言します」
「バーガー。不敬を承知で進言するならば、まず進言をしなければいい。我がデウスーラに撤退の二文字は存在しない」
「そのご様子では撃沈の二文字も無いですな。スターシャ猊下が我々に特大の掛け金を乗せてくださったんです。生き延びてお礼を申し上げなければそれこそ不敬というものです」
「あぁ……本艦はこれより、敵NHG級3隻の撃沈へ動く。困難な戦いになるだろう。命を落とすものも多くあるだろう。それでも我々は、生き抜くことを諦めてはならない」
そうだ、諦めてはならない。
新天地を探す、ガミラス民族を存続させる。
もう遠い彼方の時に交わした血の誓いの秘密は、いまやこの場に集まった将兵も地球も知っている。
ならば、私はその先鋒に立ち、これからも未来を作る。
「ガーレガミロン。我らガミラスの未来のため、諸君らの働きに期待する」
もう、「ガーレ・デスラー」は聞こえない。
それもそうだ、自分がしでかした事を考えれば当然の事だ。
ガミラス万歳でいい。
はるか先の未来、存続の糸を繋ぎ止め栄えていくガミラスの頂に立っているのが自分である必要はない。
急激な加速と共に時計回りにグルリと進路を変えていく。
ゼルグートを遥かに凌ぐ巨体で巡洋艦並みの旋回性能、2500mの船体とは思えない程の機敏さを見せたデウスーラ・エアレーズングは3隻の敵NHGに艦首を向けた。
「スーパーチャージャー、起動」
輝く従者たる量子仮想体が出現すると、そのうち1隻が主に我が身を捧げた。
ひとかけらも残さずエネルギーとして吸収されるとデスラー砲に光が灯り、艦体から溢れる余剰も吸い寄せられて数秒後には太陽と見間違うほどの光球となった。
「敵NHG、回避行動!」
「構うな。ノイ・デスラー砲、発射!」
放たれた光の嵐がNHGを掠め、装甲に焼け爛れたような跡を刻み付けた。
戦果を見ることもせずに突き進む光の嵐は、不揃いなカラクルム級を雑草でも扱うかのように散らかしていきデブリの海を生んだ。
しかしデスラーはココで終わらない。
景気よく発射しただけでお終いにせず、次の手札を出した。
「マグネトロンプローブ弾頭、魚雷装填」
「マグネトロンプローブ魚雷装填、照射装置も立ち上げろ!」
懐かしい、かつてアリステラで見つかった粘性生物を魚雷に詰めて、AAAWunderに放った事があった。
あれは惜しくも太陽という環境を逆手に取られて無に還ってしまったが、今回はそうはいくまい。
地球での大改修を受け、今大戦限定ではあるが地球製装備も供給されているのだ。
「プローブ諸元入力、よし!」
「撃て」
デウスーラ・エアレーズングの魚雷発射管から10本の魚雷が放たれた。
ガミラスらしくない灰色で武骨な弾頭のカバーが外れるとダーツの矢のようなプローブが四方八方に放たれて飛散したカラクルムの破片に突き刺さった。
「マグネトロンプローブ照射。操演開始」
超能力で物が浮くように見えているが、実際はマグネトロンウェーブで無重力空間で押したり引いたりしているだけだ。
だがインパクトは大きかろう。
虫の群れのように、しかし規律性を持って移動するデブリ軍に驚いたのか、NHGは内蔵火器で撃ち落としにかかる。
ガトランティスの速射輪胴砲塔の連射速度はバカにできない、主砲扱いの砲塔で対空防御ができてしまう程なのだ。
それに、デスラーとしては「撃ち落とされたくないプローブ」もあるのが実情だ。
だから自ら操演し、「撃ち落とされたくないプローブ」が付いたデブリを巧みに守りながらデブリ群を操っている。
十数のデブリが撃ち落とされた頃合い、デスラーは複数のデブリをNHGに力強く激突させた。
プローブが破損するほどの強烈な一撃、感情任せかと思われたが、1つのデブリが巨大な爆発となった。
「これは……ッ!」
「どのデブリが爆発するか分かるまい。助かりたければ、しらみつぶしに撃ち落とすしかないだろう。さぁ、どうする」
回頭を待つ程こちらは優しくない。
デスラーは懸案事項を1つ潰す事とした。
普通のデブリと「爆発するデブリ」を織り交ぜ投げつけていき、球形砲塔を生き埋め状態にする。
もちろん砲口近くに爆発物を丁寧に投げるおまけ付きで。
相手も馬鹿ではないようだ、生き埋めにされた砲台で無理に射撃をせずに、残っている砲塔を回してデウスーラを射界に入れようと狙い続ける。
それを高い機動性で振り切り続けるが、やはり数の差は残酷だ。
3対1。加速と旋回が少しでも狂えば、どれか1隻が側背に回り込んでくる。
「敵艦発砲!」
デウスーラ・エアレーズングには、標準装備としての波動防壁はない。
原初ツインドライヴから溢れ出る波動エネルギーが防壁として機能してしまっているだけであり、未制御状態では本家には遠く及ばない。
羽衣のように纏った波動エネルギーが貫通されていく。
威光を纏う装甲に痛々しい被弾痕が刻まれていく。
やがて貫通、装甲は威光を失い元の青い装甲に戻ると、大きくめくれ上がり爆発を起こした。
当たりどころが悪かったのだろう、艦尾付近からさらに爆発が始まり、たまらず区画丸ごと閉鎖して何とか食い止める。
「全門斉射ァッ!!」
意地を見せろ、誇りを見せろ。
たとえ、燃え落ちようとも。
60門一斉射、3隻同時に攻撃を叩き込み小さくない爆発が起こった。
さらにマルチプル・バルスを開き、量子仮想体をさらに1隻分つぎ込み一気に充填。
波動エネルギーの光が全方位を焼き払っていく。
「敵艦中破、いまだ健在!」
「マルチプル・バルス、右舷第2ユニット損壊。パージします!」
基部から弾き飛ばされたマルチプル・バルスが火花を散らし、火球となった。
原初ツインドライヴの無尽蔵のエネルギーを何とか使い切るために引っ張り出されたが、やはり過剰な力を相手にして寿命を一気にすり減らしてしまったようだ。
「カッコつけた手前撃沈されたら笑い話にもならねぇぞ! ダメコン怠るな!」
艦尾から始まり、遂に第2船体にも被弾を受け始めた。
この艦橋にも被弾の振動が響き始め、じわじわと死が迫ってくることが分かる。
敵NHGは中破、こちらは小破。
しかし数は向こうが上。
恐らく敵NHGは無人であり、人を乗せないが故の機動性はノイ・デスラー砲を回避しうる程だ。
神殺しが神に届きうる力を持っても、人の枠に収まっているままなのだ。
「左翼被弾!」
翼をもがれ、姿勢が崩れ始める。
焼け付く程にスラスターを吹かして立て直しさらに攻撃をしかけ、ありったけの魚雷を撃ち放つ。
中にはガミラシウム魚雷も含まれていて、一際大きな火球が敵NHGの主砲を幾つか奪い、さらに砲撃をお見舞いする。
それでも相手は牙を収めない。
牙を折ったかと思えば次の牙で食らいついてくる。
終わりが見えない、その時だった。
「亜空間ソナーに感! 次元境界面より急速浮上する艦影確認!」
何もない空間が光でざわめき始め、空間面が荒れているのが見えるようになってきた。
原初ツインドライヴの稼働で次元境界面が大きく荒れ「高波が立っている」今、浮上と潜航には多大なリスクが付きまとっている。
浮上ができても、潜航時に艦底にダメージを受けて深度調整が不可能になるかもしれない。
それなのに、それなのにだ。
それでも、異次元の狼達は、地獄に飛び込んできたのだ。