宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》 作:朱色の空☁️
ついに航空隊の話が書けます。テンションちょい高いです。
「艦の主制御を戦闘艦橋に移行開始。座席ロック解除。ヒルムシュタムタワー移動開始。」
航海艦橋の座席がアームによって持ち上げられ、戦闘艦橋に上昇していく。ただ今回は座席のみならず、航海艦橋の備え付け計器類も一緒に上昇していく。
オマケに座席は分割せずにそのまま上昇、床に格納されていた手すりが起き上がる。
つまり、航海艦橋の設備を丸ごと戦闘艦橋に移したということだ。これでは真下が死角となってしまうが、床を電圧をかけて構成素材の組成を変化させて透明にしてあるので問題なしだ。
「シークエンス終了。指揮系統を戦闘艦橋特殊作戦指揮仕様に移行完了しました」
真田が沖田艦長に報告する。ハルナとリクが準備していたのはこのプログラムである。元々Wunderの艦橋に備え付けられていたシステムであり、プログラムの調整が少し残ってたのだ。
「まもなく、艦載機発艦ポイントに到達します」
森がレーダーに表示されている艦載機発艦可能ラインに入ったとこで、沖田艦長に報告を上げた。
「うむ、艦載機発艦開始。隼を下ろせ!」
沖田艦長の命令によって、Wunder両舷第2格納庫に搭載されているコスモファルコンが発艦準備にかかる。
第2格納庫真下のハッチが解放され、格納庫内のドラムが回転する。
機体の乗った駐機パネルが射出口に到着すると、射出レールに機体が移動してリニアレールで宇宙空間に射出される。
「100 加藤、発艦する!」
加藤専用カラーのコスモファルコンも発艦していく。ファルコンのペイントはある程度操縦者の意向が反映される。例をあげれば、機首にサメの口を描いたりしている者もいる。ちなみに加藤機は灰、白、赤色をメインにして、垂直尾翼に『誠』の文字がペイントされた『落ち着いたカラーリング』である。
「EURO2 式波行きます!」
ユーロの狂騒の産物であるEURO2を駆るのはアスカだ。EURO2は白を基調として所々に赤色のラインが入っている。
そしてこの機体には機銃が機首に左右2門ずつ搭載されている。
垂直尾翼にはドイツ語で2と描かれている。
なお、今回の任務にあたり、赤木博士から「NT-Dは使わないように」と念を押された。
そして、第1格納庫でもコスモゼロの発艦シークエンスが進められていた。
第1格納庫のゲートが開き、まずはゼロを艦外に出す。そしてリフトでアップされてコスモゼロ発艦用カタパルトに固定される。
『古代戦術長、転属の件、ありがとうございます』
発艦前に山本が無線で感謝を伝える。彼女の乗機は機首が橙色をしたコスモゼロ2号機だ。古代の駆る1号機は機首が赤色だ。
「エンケラドゥスで見せた腕を買ったんだ。死ぬなよ、山本」
「はい」
『コスモゼロアルファ1アルファ2発艦せよ』
第一格納庫の航空管制室から発艦命令を受諾して、気を引き締める。
「アルファ1ラジャー Cleared for take off 」
「アルファ2ラジャー Cleared for take off 」
カタパルトがコスモゼロ二機をリニアで射出する。宇宙空間に解き放たれたゼロは、後部のエンジンノズルを唸らせて艦首方向に勇ましく発艦していった。
「航空隊全機、発艦しました」
あれだけ大量の戦闘機が発艦したのに敵は音沙汰なし、何の反応もない。
「静かすぎる、ほんとにここは敵地なのか?」
「敵さん、こちらにビビッて逃げてしまったんじゃないのか?」
「いや、この静けさは寧ろ脅威を感じる」
敵地が静かということは「逃げた」か「待ち構えている」のどちらかというのが歴史が証明している。
それは人類同士ではなく異星人との戦争でも証明が可能なはずだ。
そして、それを証明する機会は、思ったより早くやってくるのであった。
「これより電波管制を実施する。各機体での通信を敵基地発見時と緊急時を除き遮断する。各機、状況に応じて暗視装置を使用し、敵基地を捜索せよ。では、健闘を祈る」
『了解』
航空隊間で通信が遮断された。以後、緊急時を除いての通信が不能となった。
部隊はアルファ隊とブラボー隊、二手に分かれている。対してガミラスの基地と思われる熱源反応は十数か所。しかも、「熱源反応が観測されただけ」なので、その反応が無人施設のものだったりすることも必ずあるだろう。最悪なのは、その反応が偽物の反応だったということだ。
偽ということはそこに戦闘機殺しのトラップや迎撃兵器が設置されていることもありえなくはない。ガミラスの技術力がまだ完全に判明していない点も含めて全面的に警戒しなければならないが、機体操縦と索敵に集中している以上それらすべても警戒するのは無理だ。
従って、航空隊を2チームに分けた。そして決して一人にならずに最低限2人以上で飛行する。
こうすることで単独飛行の危険性を潰して、索敵精度を上昇させる。
「SID、冥王星地表面の熱源反応をマップに重ねてくれ」
《コマンド認証しました。ガミラスの施設と推定される熱源反応を、地図データにリンケージしました。》
(改めてみると多いな……これ全部が基地か、それともブラフか)
考え事をしながら操縦をすることは本来危険ではあるが、ここは戦場、敵地なのだ。索敵の目を光らせて考えながら飛ばないといけない。そんな古代の視界の端に、一つの閃光が灯った。
「なんだ?」
時は少しさかのぼり、Wunderは航空隊を発艦させてから冥王星の衛星である二クスの周回軌道を飛んでいた。見た目は悠々と飛んでいるが、艦内ではピリピリした空気が充満していた。まさに、「ただいま作戦行動中」である。
そこに、一筋の光が艦を揺らす。
ガガガガガァン!
「どうした!」
左に傾いた船体を修正しながら島が森に聞く。
「敵からのロングレンジ攻撃です! 発砲箇所はこちらの射程圏外からと思われます!」
「損害は?!」
「波動防壁で受け止めてギリギリまで減衰させましたが貫通されました。右舷第五装甲版に一部損傷を確認」
「発射点の特定を急ぐんだ。波動防壁はどうか?」
「右舷の被弾箇所以外は健在です。しかし、波動防壁を突き破るほどの攻撃をガミラスが行うとなれば、いくら波動防壁があったとしても、危険極まりないかと」
波動防壁、次元波動理論の応用で完成したWunderの盾で、実弾やビーム攻撃問わず、耐久力の限り攻撃をシャットアウトする防御兵装である。しかし、有効時間は20分で、戦闘が長期化した場合防壁消失によりこちらが不利になる。先程のように、強力な攻撃を受けて突破されることもある。
「解析室より通信です」
Wunder解析室から通信が入り、赤木博士とマリが通信ウィンドウに移る。
「艦長、先程の攻撃は、左舷10時の方向から行われたものです。しかし、その方向は宇宙空間です。普通、大型の砲台を運用するならば地上に設置するのが普通です。なのに攻撃は、装甲への入射角から考えると
つまり、敵は何らかの方法を使って、地上以外の所から撃ってきたということだ。
「許可する。真田くん、本艦の観測システムの使用権限を解析室に回してくれ」
「わかりました」
真田の操作によってWunderの観測システム及び、大型アレイアンテナの操作権限が解析室に移譲された。
「奴ら、一体どこから撃ってきたんだ?」
南部がイラついた雰囲気で呟く。
「それが分からないから調べるんだよ。艦長、いざと言う時はアンノウンドライブの斥力子で敵のロングレンジ攻撃を逸らします、こちらで準備を始めます。ハルナ、手伝って欲しい」
「分かったわ。でも、方角が分からない以上、全方位に重力変動を作らないとダメよ。MAGIとアナライザーに手助けしてもらわないとムリ」
『オ手伝イシマショウカ?』
アナライザーがまるで分かってたかのように手助けを買って出る。
「助かるわ、少なくとも直撃は避けたいから急がないとね」
「小惑星二クスの軌道から離脱を開始、射線を切るんだ」
沖田艦長の指示でWunderは軌道を離れて推定される敵の射程から離れた。
「攻撃は宇宙空間から放たれた。しかし、あれだけのエネルギーを撃つなら通常のガミラス艦艇の光学兵器では恐らくムリ、それは浮遊大陸で証明済み。大出力砲搭載艦? 有り得るけどそれなら熱反応でバレる。じゃあどうやって?」
赤木博士はコンソールを恐ろしい勢いで叩きながら考え続けていた。どうやって大出力ビームをこちらに撃ってきたのか? 波動防壁の被弾経始圧を、一部分とはいえ完全に削り取ったその攻撃は、恐らく現在まで確認されているどのガミラス艦でも不可能だ。
新型艦?? それとも大出力の砲兵器??
自分は研究職だが、艦船建造にも関わった。その時の知識を総動員しながら「あらゆる可能性を」予測した。
「赤木博士、観測結果が出ました! 本艦を中心として半径250キロ圏内に大型砲艦の存在は確認出来ませんでした。しかし、冥王星静止衛星軌道上に異常な個数のデブリが観測されています」
「デブリ? 元からあったものじゃないの?」
「ガミラス侵攻前の冥王星有人探査では、小惑星とその他デブリの観測が行われて詳細な個数が記録されましたが、先程観測した個数はそれを3倍程上回ってます」
「……そのデブリを光学観測出来る?」
不自然にデブリが多い事にヒントを見出した赤木博士は、一見観測データでは変哲もないデブリに焦点を合わせた。
そして、援軍も呼ぼうと考えた。
「こちら解析室です。真田くん、あなたもこっちに来てくれる? 意見を聞きたいわ」
『……分かりました。新見くん、あとを頼む』
『はい』
真田は戦闘艦橋から出て解析室に向かった。普通、戦闘艦橋は密閉されるので出ることは出来ない。しかし、戦闘中でも外へ出るためと、『緊急時に脱出するため』の非常出入口を設計に組み込んでいたため問題なしだ。
仕組みとしては球体上の戦闘艦橋の一部、人1人が通れるくらいの幅で液晶が消えて、消灯した液晶が上へスライドしてシャッターが上へ開くことで外に出られる。
「赤木博士、なにか分かったんですか?」
「まだよ、でもヒントみたいなものは見つかったよ」
「ヒントですか、やはり彼らは何らかのカラクリを使ってビームを撃ってる様ですね」
「そのカラクリのヒントがデブリにあるみたいなの。冥王星有人探査の時より圧倒的にデブリの個数が増えているの。まだ仮説の域を出てないけれど、あれは恐らくガミラスの衛星よ」
「……まさか、ビームを中継している?」
「どこかから発射されたビームを鏡みたいに反射して当てているってこと? 普通なら有り得ないけど、敵の力が分からない以上有り得るわね」
「御二方! デブリの画像が出ますよ!」
1人熱心に観測を行っていたマリが声をだいにして伝える、2人ご覗き込むスクリーンには、異形の人工衛星が映っていた。
「これが衛星?」
「やっぱりあのデブリは衛星だったのね」
「問題は機能ですが、どうやら衛星本体に稼働軸がありますね」
映った衛星の姿は真緑の大根の様な姿をしていた。スラスターの様なものは確認できたが、機能までは確認できない。
しかし推察なら出来る。
「真田くん、マリ、あの衛星が稼働したらどんな形状になると思う?」
「稼働軸が確認できただけで2箇所、反対側にも同様の物があるとして合計4箇所。恐らく傘を広げたような形状になると思われます」
「おやおや? 私と同じ考えだね〜」
マリも同じことを考えていたようだ。
「しかしあれほどの大出力ビームを弾くのは難しいわね、なにかバリアのようなものを張るのかしら?」
「んにゃ〜! 考えるとキリがないにゃ!」
「とにかく、あの衛星が冥王星宙域に大量に配置にされていたら、冥王星全体が射程圏内ということになる」
「つまり、ミサイルで衛星を潰していかないといけないのかにゃ」
ごもっともな意見である。すなわち近くの衛星を潰していけば、こちらに射線が届かないということだ。
「それもそうだが、砲台を潰さないとそれは一時の対処にしかならない。航空隊の報告がない限り、うかつには動けない」
「んにゃあ……」
そして、二度目の激震が艦を襲った。
「んにゃあ!!」
「艦橋! 今度はどこからだ!」
真田が通信回路越しに艦橋に呼びかける。
「右舷後部に被弾!」
船がどんどん傾いていく
「まさか、冥王星の重力に捕まった?」
敵地に引き寄せられていく船は、氷結した湾に落ちていく。
「エンジン出力低下!! 冥王星の重力圏に捕まっています!」
「島! このまま冥王星湾内に向かえ! 船体傾斜! 左舷45度! 足だけは絶対に止めるな!!」
「りょ、了解!!」
エンジン出力が下がっても舵は効く。Wunderは冥王星に降下しながら船体を左側に傾け、『氷結した湾を左翼で削る形で』飛び始めた。
「以後、船体を傾け主翼を用いた高機動反転を行う。敵に軌道を読ませたら終わりだ。」
「沖田艦長、ヤバい……、一応主翼はこんなことでは傷一つつかないけど」
リクがちょっと青い顔をしている。決して酔ったわけではないが、正直言ってこの船をこんな風に運用することは二人とも想定してないのだ。
「北米管区さんが精魂込めて主翼作ってくれなかったらさっきので若干不具合起こってたわね」
《回想》
「完成したんですね! 主翼!」
「何とか完成しましたよ。エプシロン社さんに特殊装甲の技術を教えて貰ってそれを主翼の素材に追加しました。耐熱、耐衝撃に強い翼ですよ」
「えっ、カイン社長が?」
「緊急時として、彼が技術情報を一時的に開示したの。宙帝さんにもよ『一番重要なパーツだから良い素材使わないとね』って」
「カイン・アルトス.......どこまでも心強い男だ」
《回想終了》
「解析室より通信です」
相原が通信を開くと赤木博士の声が一番に聞こえてきた。
『沖田艦長、敵は恐らくこちらの位置を完璧に把握しています。そしてこの攻撃は恐らく冥王星全体が射程圏内になっていると思われます』
「そんな! 敵はどうやって冥王星全域を射程圏内にしているんですか?!」
艦橋メンバーはどうやら大出力砲が何か所にも配備されているのだと思っていたようだ。
『まだ正確にはわかりませんが、恐らくガミラスはこの人工衛星を使ってビームを中継していると思われます』
次に表示されたのは冥王星周辺のデブリの分布図、そしてガミラスが使用しているものと思われる人工衛星の光学映像、そしてその衛星が変形した時の予想外見図だ。
『観測の結果、冥王星有人探査時に観測されたデブリの個数を3倍近く上回っています。これら全てが敵の衛星とするならば、実質我々はどこにいても狙撃されます』
真田が残念な事実を伝える。これまで二度も攻撃を受けてしまったのは、敵がこちらを観測して、適切にビームを反射して当ててくるだけの技術があるのだ。
『ですが、防げないわけではありません! 衛星の存在が判明した以上それらを潰していけば、一時的な対処にしかなりませんが、敵が選択できる衛星を減らすことで敵にとっての死角を作り出せるはずです』
マリが希望を伝える。中計地点を減らしていけば敵も狙えなくなるのだ。
『どうしようもない』わけではない、対処方法があるならばそれを実行していくだけだ。
「ご苦労だった。船体傾斜復元! VLS1番2番に対空迎撃ミサイル装填、敵衛星の分布図を入力!」
沖田艦長の指示で反抗に動くWunder。船体を、湾に対して垂直にしていた状態から元に戻してVLSに対空ミサイルを装填する。
「目標、本艦上空敵衛星。数6、距離120キロメートル!」
「対空迎撃ミサイル、発射!」
第2船体主砲付近のVLSから対空迎撃ミサイルが発射された。放たれたミサイルは、それぞれ設定された目標に向かって飛翔していく。衛星には自衛兵装が存在しないらしく、そのままミサイルの餌食となった。
「目標の消滅を確認しました」
森がレーダーから目標の衛星が消えたことを報告した。
『こちらも光学で観測していましたが、爆発時に衛星のものと思われる破片が攻撃箇所6か所全てで確認できました。ビンゴですね』
観測室からも確認していたようで、破壊したのは確かにすべて衛星だったようだ。
「うむ本艦は衛星カロンの周回軌道から敵衛星の掃討を開始する。目標個数が半分に達したのち、Wunderは再度冥王星に侵入する」
Wunderはミサイルとショックカノンを放ち、航空隊の進路を邪魔しないように衛星を潰し始めた。
『思ったより早く気付いたな、テロン人め』
シュルツの目の前のモニターには冥王星宙域全体に配備されている反射衛星の位置が示されている。
そして「衛星がロストしたこと」を示すバツ印が点在している。それは現在進行形でじわじわと増えていく。
「作戦第二段階に移行する。奴らが反射衛星に夢中になっているすきに、改デラメア級を敵艦に接近させろ」
「ザーベルク!」
シュルツは、とある文章を呟いた。それは故郷であるザルツの神話の一説である。
「神は、災いを振りまく不死鳥に病を与えた。死に至る病、そして……」
「『創世記神書第37章第6節』ですね。久しぶりに聞きました」
ヤレトラーが懐かしむようにその一説を聞いていた。ガミラスに併合されてから、デスラー総統を崇拝するように強いられてきたため、かつての文化を楽しむ余裕がなかった。
「あの船を見てから、どうしてもこの一節が頭の中を回っていてね。作戦コードを『不死鳥狩り』にしたのもそれがあったからだ」
「なるほど」
「改デラメア級、敵艦に接近します」
「わかった。では、死に至る病を送るとしようか」
作戦第二段階、イロウルによる「ヴンダーのシステムジャック」で確実に落とす。
シュルツは、まだ早いと思いながら、「勝ち」を確信していた。
ショックカノンが火を吹く。ミサイルが流星群を成す。
人工衛星という小さな目標にめがけて放たれた怒涛の狙撃と山のようなミサイルは、的確に衛星を潰していく。
それは力の流星となって冥王星の空を彩り、他の力を壊していく。
「敵衛星排除率、現在11%です。今現在Wunderを射程にできる衛星は、残り5機です」
猛烈な砲火によって今Wunderを射程にすることが可能な衛星は5機にまで数を減らした。
「よし、これより降下する」
「了解、冥王星に再降下します」
Wunderはもう一度冥王星に侵入していくが、
「艦長本艦の真下に小型艦艇を確認!」
「?!」
それは至近距離にいた。ステルス艦ゆえに、レーダーでは探知できなかった。その艦艇は中央構造物に接舷した。
そしてすぐさま飛び去った。
「敵艦、離脱していきます……」
「敵さん、何がしたかったんだ?」
南部が、去っていく艦艇を不思議そうに見ていた。そして異変はすぐに起こる。
ヴィー!ヴィー!ヴィー!
けたたましい警報音とともに、全周スクリーンにノイズが走る。
『緊急警報、MAGIシステムファイアウォールに不正アクセスによる接触を確認。ファイアウォール侵食率、22%』
「「??!!」」
誰も予想だにしなかった状況に一同騒然とする。
「リク! ハッキングはどこから?!」
「今調べる! ハルナ何とかせき止めて!」
「わかった!! 相原さん!! 解析室につないで!!」
「繋ぎます!」
MAGIはこの船を支える重要なシステムだ。それが何者かに攻撃されている。
2人は斥力防壁の構成を一時中止してハッキングの対処を始めた。怒涛のコンソール操作で全周スクリーンにウィンドウが沢山表示される。
「赤木博士!」
『ハルナさん?! 状況は?!』
「それよりMAGIの管理用アクセスコードください!! 時間がありません!!」
『わかった、転送するわ! 私たちはMAGI見てくるわ!!』
「現在逆探知を行っていますが、論理回路がおかしい、こちらの技術ではない!」
「ってことはガミラスか?!」
島が驚きながら聞く。先程一瞬接舷してきたのはガミラスのサイバー攻撃だったと思ったからだ。
「いいやガミラスでもない!! 真田さんが言っていたけど、エンケラドゥスで鹵獲したガミロイドを解析した時、システム構造上は僕らが作るAIと同タイプだった! つまり、僕ら地球人とガミラスは同じ数学と科学を理解する生き物! コンピュータとかに使う論理回路も必然的に仕様が酷似する! でもこのハッキングに使用されている論理回路は異常そのものだ!! これは仮説だが、ヒト型生物以外がハッキングしている可能性がある……!!」
リクがコンソールを叩きながら怒鳴るように説明する。腕が何本もなければ不可能な速度でタイピングして逆探知をする彼の額には汗がにじんでいた。
ハルナも同じだ。ハッキングをせき止めるのも逆探知なみに大変なはず。今はファイアウォールを何十層にも張り続けているが、いつ決壊するかもわからない。
「逆探成功しました!! これは……アンノウンドライブからです!!!」
「「なんだって!!」」
一同騒然とする。
そして……艦が大きく傾く
「ファイアウォール一部損壊!!
「レーダーに偽反応多数!!」
「舵が!」
「ヤバい……艦長!! メインシステムからMAGIを切り離す許可を!!」
「……! 構わん、強制解除だ!」
ハルナが管理用アクセスコードを打ち込んで管理用画面を開き、MAGIと船のシステム接続を完全に切り離した。
「接続解除確認! 本艦の管制システムをマニュアルモードに移行します!」
「
「くっそ……二人がかりでも無理だ! 抑えられない!!」
しかし、その時侵食が急に遅くなった。
「え……遅くなった?」
『間に合ってよかったにゃ~MAGIの計算速度と侵食スピードが比例していることに気付かなかったらアウトにゃ』
マリさんがくたびれたかのように伸びをしながら通信ウィンドウに映り込む。
『二人ともよくせき止めたわね、おかげでこっちで応急処置ができたわ』
「赤木博士、何をしたんですか?」
マリと赤木博士の後ろには、メンテ用のハッチが開放されたMAGIシステム
『
『とまあ、これで進行が遅くなった。2人とも、MAGIシステムの格納エリアに来てくれ。反撃するよ』
危機的状況の中、不敵に笑う真田が2人をMAGIシステム格納エリアに呼んだ。
そのまま2人は戦闘艦橋から非常口で出て、MAGIシステム格納エリアに向かって行った。
その頃冥王星前線基地ではWunderの光学観測が行われていた。
『観測所から入電、不死鳥は病魔に侵された』
『成功ですな、シュルツ司令』
冥王星前線基地では、作戦第2段階の成功を確認した事で基地要員の士気も高まっていた。
『作戦第3段階の準備を急げ、次は中継衛星をランダムに選択して射角を読ませるな。ヴンダーが、まだ衛星が存在するエリアに侵入次第、第3段階を開始する』
『ザーベルク!』
不死鳥は神殺しが降らせた光の矢に射抜かれ燃え落ちた。その灰から蘇ることは2度となかった
作戦開始から30分、Wunder航空隊は2機1組で敵基地の捜索を行っていた。
「なぁ〜根元、あの山本ってルーキー結構イケてない?」
SID《現在通信管制中です。通信は出来ません》
「そう固くならんくても〜」
そう言って艦載機搭載コンピュータに茶々を入れるのは航空隊の篠原弘樹だ。かつて、空間防衛総隊の火星方面軍に所属していた彼は、若手からは「篠さん」としたわれる人柄のいい人物だ。
(さて、この近辺の基地はここから2時の方角か)
行ってみるか……
篠原は、僚機にハンドサインで進路変更の旨を伝え、基地があると思われる方向へ向かって行った。
「こいつがハッキングしたのか」
「未確認のアメーバ状生物。仮説だけど、異常な環境適応能力と急速進化が可能と思われるわ」
「そうでもなければMAGIのハッキングなんて無理にゃ」
そう呟きながら技術屋&研究屋の5人は、モニターに映る未知の生物を見つめていた。
画像はWunder中央構造体、アンノウンドライブの一部分。敵の小型艦隊が一瞬接舷した箇所だ。
「しかし、この生物電子回路の様な文様が出てるわね、しかもこちら側の技術の」
「MAGIに触れて理解したのかも」
「ぎゃー!MAGI汚くなったじゃん!」
「そ!れ!よ!り!も!、どうやって対処するんですか?」
ハルナが珍しく声を荒らげる。
シンクロコードを15秒にしたとはいえ、侵食は止まってないのだ。早急に対応しなければMAGIが全部乗っ取られる。
「むむむ〜、ここは京大時代の先輩の知恵を借りますか!」
ここでマリが閃いた。彼女は元々、京都大学で形而上生物学を専攻していたのだ。『それ』で今回のハッキングをどうやって対処するのか、ハルナとリクは見当も付かなかった。
「どうするんですか? 相手は進化するんですよ?」
「その進化を極限まで促進してやるのだ! 進化の終着点は死そのもの!」
「そういう事ね、自己進化促進プログラムを送り込むのね」
「プログラムで攻撃か、我々らしい戦術じゃないか」
ここまで来て2人もようやく理解した。要するに、敵を進化させまくるプログラムで殺すという事らしい。
「作戦は
「「了解!」」
4人揃って赤木博士に敬礼をする。マリは少し遊び感覚でやってるようだ。
「あら、私軍属だったかしら?」
「雰囲気だにゃ!」
作戦前に和むチート技術屋集団なのであった。
《数分後……》
『Caution .The secret area of the MAGI system 3rd unit "Casper" will be opened. Please be careful of the staff in the vicinity』
(注意。 MAGIシステム3rdユニット《
警告音とともにCasperがせりあがってすくる。無機質で巨大な筐体の下には、おびただしい数のLEDを点滅させ、到底人知の及ばぬ速度で煩雑な計算を続けるCasperの計算ユニットがあった。
「これがMAGIシステム……」
「私も下の部分は初めて見たけど、こんなになってるんだね~」
どうやらマリも初めて見たようだ。
「MAGIシステムは秘匿技術の塊でね、おいそれと他の人に見せてはならないの。母さんの作ったオリジナルMAGIもそうなの」
「確か、このシステムの開発者は赤木ナオコ博士だったかと」
真田さんが思い出すように言葉を紡ぐ。
赤木ナオコ博士、MAGIシステムの開発者で、世界的なコンピュータ技術の科学者である。
MAGIシステムは、開発者の人格を三つの面に分けて、それぞれをユニットにしている。
この場合科学者のしての自分を
それぞれ異なる思考「対立思考」となっているので、人間特有のジレンマを再現して「合議」という形で計算結果、思考結果をはじき出す。
「でも、あなたたちなら問題なさそうね」
カバーが一部取り外されて現れたのは十数個の接続端子とMAGIシステム内部に入れる穴だった。
「あとはこれね」
そういって赤木博士は近くの作業台から分厚いファイルを持ってきた。
「これは何ですか?」
リクが興味深そうに見る。
「これは、MAGIシステムの裏コード集よ。元々国連に置いてあるMAGIのオリジナルには『これ』の原本として、システム内の通路に裏コードのメモ書きが大量に張り付いてるの。これはそのコピーよ」
「こんなにあるんですか?!」
ハルナがその裏コード集を読み漁りながら興奮する。
リクもハルナもコンピュータに関しては相当な心得があるが、隠しコマンドなどにはどこか疎いのだ。しかも隠しコマンドとかは単純に言ってロマンがある。
リクの目はキラッキラである。
「まさに、MAGIの裏技大特集だね」
「これほどとは……」
真田も驚きを隠せない。
「そして、これを使えば短時間でプログラムを組み終えることが可能だし、敵よりも一歩早く自己進化促進自滅プログラムを送り込めるわ、作戦上、
「私たちも作成に加わります」
「頼むわ、私は
「「「わかりました!!」」」
航空隊とWunderに続く第三の戦場がここに生まれたのであった。
反射衛星砲、発射ー!
赤木博士とマリがいなかったら反射衛星に気づかなかったかと思われます。
ちなみに、作中に登場する『創世記神書』は、惑星ザルツに伝わる聖書の様なものです。
文明があるなら特定の神を崇拝してるだろうと思い、今回ザルツの宗教神話として付け加えてみました。
災いを振りまく鳥と言ったら、地球の宗教神話上ではフェネクス(不死鳥、ソロモン72柱の悪魔)で、ガンダムUCでも出てきます。金ピカカッコイイです。
さて、艦艇解説の方に「改ゼルグート級」を出しました。改ゼルグートに搭載された「100cm大口径陽電子カノン砲」の設定がまだ正確にできてません。そもそも口径の時点で「大きいのか小さいのか分からない」ので、SFアニメ二詳しい識者の方々、本兵装に対して意見いただけないでしょうか?
さて、次の話では冥王星前線基地をボコります……!
(^-^)/ではでは
追記 4月28日
とんでもない間違いをしてました。重力子では防げませんでした。陽電子は地球の重力に引き付けられるので、余計危ないです。ただ、斥力子なら「反重力」なので、いけるかもしれません。
そこを修正しました。