宇宙戦艦ヴンダー 《Reise zu einem Wunder》   作:朱色の空☁️

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2話分の内容がぎゅうぎゅう詰めです

メ2号作戦終結です。
ここで、主がやりたかったことその2をやります


科学考察を行った部分がありますが、もしもわかりにくい部分があれば、訂正を行います。


ヒトの力

 タイピング音が響く格納エリアは無機質な空間だ。MAGIの巨大な筐体と備え付けのコンソール、明かりくらいしかない。そんな寂しい空間で戦いを繰り広げるのがハルナとリク、真田、マリと赤木博士だ。

 

 敵に攻撃を受けたMELCHIOR(メルキオール)BALTHASAR(バルタザール)を正常化して、侵入してきた敵を倒すための「自滅促進プログラム」を作成中だ。

 

「マリさん。聞いてもいいですか?」

 

「ん~。何にゃあ?」

 

「マリさんの先輩ってどんな人だったんですか?」

 技術屋たちの戦闘開始から20分、自滅促進プログラムが少しずつ形になり始めたころにハルナが口を開いた。シンクロコードを15秒単位に設定してあるとはいえ、BALTHASAR(バルタザール)侵食まであと1時間半。あまり時間がないはずだが、プロが三人集まれば仕事も早い。こうして余裕もできるものだ。

 

「私の先輩の話か~。まだ遊星爆弾が落ちる前、8年前くらいかなあ。私は飛び級で京都大学の形而上生物学研究室ってとこにいたの。全ての生物は神によって作られたっていうことが前提になっている学問ね。そこにいたのが冬月コウゾウ教授と碇ゲンドウくん、そして私の先輩にあたる綾波ユイ」

 

「そのユイさんってどんな人だったんですか?」

 リクが気になって続きを求めた。

「何~? 気になるの~?」

「そういう意味で言ったわけじゃ……」

「あれ? 誰もそういう意味で言ってないよ。あれ~リク君、も・し・か・し・て?」

 

「ちがいますよ!!」

 まんまとマリの罠に引っかかったリクは、顔を少し赤くして膨れた。

 

「アッハハ、めんごめんご。そうねえ、ユイ先輩は一言でいえば変わった人だったわね。多分京大で一二を争ってもおかしくない頭脳だったけどどこか抜けててたまにドジをする。京大一の気難しい人であったゲンドウ君を『可愛い』とか言っていたね」

 

「なんか面白そうな人ですね。会ってみたいです」

「残念だけど、もう会えないの」

 

「??」

 

「ユイ先輩は、国連の計画に召集されたとか言って、それから94年に、亡くなったという報告が来たの」

 その事実を語るマリの顔は少し暗かった。いつも通りの笑顔をしているが、どこか影がかかったようだった。

 

「でも、暗くなってても良いことないよ、前を向いて歩かないとね。『幸せは~歩いてこない♪ だから歩いてゆくんだね~』っていう歌があるみたいにね」

 

「それ、『365歩のマーチ』ですよね。だいぶ昔の曲ですけど」

 ハルナもこの曲を知っていたようだ。

 

「どんな曲??」

 その歌を知らないリクが興味を示した。

「じゃあ歌ってみるね、ハルナっちも歌ってみてよ~」

「わかりました」

 

 

『幸せは~歩いてこない♪ だ~から歩いてゆくんだね♪』

 2人のソプラノボイスが無機質な格納エリアにこだまする。

 

『一日一歩♪ 三日に三歩♪ 三歩進んで二歩下がる♪』

 2人の息はピッタリ、2人からは見えてないが、MAGIシステム内部で作業をする赤木博士と真田も聞き耳を立てて聞き入っていた。

『人生はワン・ツー・パンチ♪』

「こんな感じね。どうだった?」

 2人の歌は透き通ったきれいな歌声となった。これを艦内放送で流してもいいのではと思ってしまったリクなのであった。

 

「明るい歌詞ですね。それより二人とも、歌が上手……」

 リクは素直な感想を口にした、それが思いのほか2人には嬉しかったようで、

「んにゃあ、照れるにゃあ」

「もう、なんか恥ずかしいじゃん……」

 2人ともデレたのであった。特にハルナ、白銀の髪に対比する形で顔は赤くなっている。

 

 

「2人とも、歌なら艦内放送で好きなだけ歌わせてあげるから今は集中よ」

 赤木博士がMAGIシステム内部から声をかけた。

「そんな! 恥ずかしいです!!」

「ハルナっち~、Shall we sing??」

 

(終わった……)

 逃れられない羞恥心に一人もだえ苦しむハルナであった。

 

 

 

『こちら艦橋、新見です。波動防壁がまもなく臨界に達します。暁さん、睦月さん、お2人が作成していた斥力防壁をアナライザーと私で引き継いでもよろしいですか?』

 

 波動防壁が切れかかっている。メ2号作戦開始から既に1時間は経っているが、波動防壁を『連続展開』ではなく、『こまめに切っていた』ので、通常の3倍ほど長持ちしたのだ。

 

 しかし、波動防壁を発生させる波動コイルの寿命の問題で、そう長く持つものではない。

 

「新見さんお願いします! アナライザー聞こえる? あとお願い!」

 

『了解シマシタ!』

 

 斥力防壁の作成と維持は新見とアナライザーが引き継いでくれた。これでもう心配はしなくていい。

 

「さあ、巻いていくよ〜」

 マリの呼び掛けで技術屋集団はペースを上げていくのであった。

 

 

 


 

 

 

(作戦行動開始から丸1時間、動きはないね……)

 

 EURO2に乗るアスカは冥王星の空を眺めていた。氷結した大地、霞むことのない星空、ココが敵地であっても見とれてしまう情景だ。

 

 アスカは操縦席の計器に軽く目を走らせる。

 高度、スピード、エンジン出力、レーダー……。全てに異常は見受けられない。

 

 そして、自分の右に取り付けられてるキーパッドを見る。

 電卓のように見えるが、入力を拒むように透明なカバーが覆い被さる。

 

 それはNT-D起動用のキーパッド、そこに「666」と入力すれば機体のリミッターが解除され、その身を広げ、獣のごとく、敵を慈悲も容赦も与えず堕とす。

 

 一撃必殺の諸刃の剣である。

 

「まもなくオブジェクト5ね」

 アスカは加藤機にゆっくり近づいてハンドサインを送る。

 

(2時の方向にオブジェクト5です。向かいます)

(了解した。俺も同行しよう)

(感謝します)

 

 2機のコスモファルコンは敵基地と思わしき反応に向かった。

 

 

 しかし、

「えっこれって基地? 小さすぎるけど」

 まさかハズレ? その思考に浸る余裕を与えることなく、

 

 

「マズイっ!」

 無人砲台がビーム弾を連射してきた。

 

 

「こちら式波! 通信管制解除します! ガミラスの無人基地と思わしき構造物を視認! 現在、敵基地からの攻撃を受けています!」

 

『式波二尉! 引くぞ!』

「何故ですか! EURO2ならやれます!」

『ココが偽ってことが分かっただけでも儲けもんだ! まずは無人施設の反応を潰すことに集中だ!』

 

「……了解しました」

 

 好戦気味のアスカはやや不満気味に引き下がった。それはとあることを思い出したからだ。

 

 

 

 軍隊で1番厄介な敵は「命令に従わない部下」である。

 全体を引っ掻き回し、時に仲間を道ずれにして無駄死にしていく。

 

 彼女がユーロ空軍に入隊した時に上官から聞いた言葉だ。

 

 それを思い出したアスカは渋々とはいえ引き下がれた。

 

 

 

(とりあえずWunderに報告ね)

 

 

 

「こちらEURO2、式波です。コード「オブジェクト5」は敵の本拠地ではありませんでした。このまま近隣の反応に向かいます」

 

『了解した。加藤、式波両名は引き続き、ガミラス基地の捜索任務を続行せよ』

 

「了解、そちらの状況は?」

 

『……こちらは、敵からのアウトレンジ攻撃を数発受け損傷。なお、MAGIシステムにハッキング*1を仕掛けられました。現在赤木博士や真希波さん達が対応してます』

 

(いや、いくらなんでもヤバくない?!)

 

「大丈夫なんですか?!」

 

『今はまだ大丈夫です! そちらもお気をつけて!』

 

「了解しました」

 

 

(博士、マリ、ハルナさん、リクさん、真田副長……そっちは頼みます。こっちで見つけるから……!)

 

 その思いに呼応して、EURO2のエンジンが響かない真空に雄叫びを上げスピードをあげていく。

 

 そしてそれに加藤もピッタリついて行く。

 

 

 

 太陽系最果ての戦いはまだ終わりそうもない。

 

 


 

 

『何? 戦闘機だと?』

『はい、第138環境改造用無人プラントです。ですが、プラントの迎撃砲台稼働の数瞬後に撤退したとのことです』

 戦闘機確認の報を受けたシュルツは疑問に思っていた。

(なぜ攻撃してこなかった? だが敵がいるというのは事実だ)

 

「ヴンダーから艦載機が発艦していたのか……。ゼードラーを発進させろ」

「ザーベルク!」

 

 

(こちらの位置を確認したいようだが、そうはいくか)

 

 


 

 

「赤木博士、どうですか?」

 

「もう少しよ、真田くんあなた凄いわ。私一人じゃ多分間に合ってないわよ」

 

「こういう時こそ協力ですよ?」

 

 MAGIシステムCASPER(カスパー)内部、そのコアに目を向けながら「頭の中にMAGI入れてそうな2人」は話していた。

 

「しかし、見れば見るほど奇怪なシステムですね。MAGIのコアがまさか人間の脳のようなものだとは」

 

「人格をコピーする上で、どうしてもメモリーではなく、ギリギリまで脳を模した『有機ユニット』が必要だったの。もちろん人間の脳じゃないわ?」

 

「そうだったら倫理観もあったもんじゃないですよ」

 

 そう言いながら真田は赤木博士から手渡された針状の端子をその有機ユニットに差し込んでいった。

 

「繋がったわ、これで最終組み立てが出来るわ」

 

「作戦変更して、あらかじめプログラムをパーツ単位で作って良かったですね」

 

「臨機応変に行けば早いよね」

 MAGIシステムは3機揃ってようやく真の性能を発揮できるが、1機だけでもその処理能力は折り紙付きだ。

 MAGIシステムの外で自滅促進プログラムを作る彼女らもMAGIシステムにサポートしてもらうことで驚異的な速度で作成しているのだ。

 もちろんサポート無しでも十分速いが。

 

 

「あとは私だけでも問題なさそうね」

「じゃあ、私は外で奮闘する3人の様子を見てきます」

「お願いするわ」

 

「3人とも、状況はどうだい?」

「こっちも順調です。あと15分もあれば完成するかと」

「ハルナっちとリッくんホントすごーい! 百人力にも千人力にもなるよ~!」

 

「マリさん大げさすぎです……」

 

「ホントのことだモーン」

 

「ちょっと見せてくれないか?」

 

 真田が3人のパソコンを見ると、おびただしい量のコードが画面上を埋め尽くしていた。

 一見「なんのこっちゃ??」と思いたくなるプログラムだが、敵の特性を逆に利用した『自滅促進プログラム』である。

 巧妙に仕掛けられたコードが幾重にも展開して敵を死へと誘う。まさに電子の猛毒。

 

 

 これを送り込まれる相手に同情してしまう真田であった。

 

 

「本当に君たちは末恐ろしいよ、ここまで殺意満点のプログラムを書くとは……」

 

「こちらにちょっかいをかけてきたんですから、お返ししないといけませんよ」

「ただでは帰さないにゃ!」

「僕もちょっとイラッってきたので」

 

 実をいうと真田もだ。なかなかずる賢い手で攻撃してきた彼らに「イラッ」とまではいかないが、少し腹が立っていた。

 実際、ハッキングプログラムを赤木博士と作っているとき、「これなら防げないだろう?」と巧妙にクラッキング用の経路と手段を複数作っていたのだ。

 

(そしてそのコードを見た赤木博士がにやにやしてたのはまた別の話)

 

「この感じだとそっちも最終組み立てに入ったみたいだね」

「はい、あとはデバックして3人分のコードを繋げるだけです」

 

 

 

『こちら艦橋、新見です。斥力防壁の形成、完了しました』

 

「ありがとうございます! アナウンサー、お疲れ様!」

 

『私ニトッテハ朝飯前デス』

 アナウンサーが調子に乗る。見た目は機械なのに人間味であふれてる彼は、立派なクルーである。

 

 

「さーてこちらも終わらせますか、あと10分くらいで完成よ」

 

「よし、休憩終わり、ラストスパートだ」

 

 

 

 

MELCHIOR(メルキオール)による艦内スキャン完了》

《艦内に『こちらから起爆可能な』爆発物は確認ならず》

《大出力の主機を2機確認》

 

《本システムと艦の制御システムとの接続状況を確認……オフライン》

 

《……臨時通信経路構築開始、主機制御システムをリプログラミングののち、オーバーロードによる爆散を実行》

 

 


 

 

 冥王星の宙を駆ける2機のコスモゼロ。古代と山本の機体だ。通信管制はアスカが解除したので各機体間で音声通信は可能だ。

 

 

「式波二尉と加藤が確認したオブジェクト5は無人ユニットだったな」

 

『そのようですね、そして今は他のエリアを探しているはずですが……』

 

「どうした?」

 

『もしかしたこちらに来る可能性があります。オブジェクト5はこの近隣ですので、もしかしたら』

 

「来たら来たでありがたいが……団体行動は控えたほうがいい」

 

『今は隠密作戦のはずですから』

 

「そうだな」

 

 通信を切った古代は、ふと宙に目をやる。変わり映えしない星空の下で飛び続けることにそろそろ飽きそうになっていた。

 

 そとにはオーロラが美しいカーテンのように広がっていた。

「オーロラ? ここは冥王星のはずだが」

 

『古代一尉! 前方のオーロラに異変!』

 

 山本の言葉に反応して、オーロラに目をやると、オーロラの一部が輝いていた。我々が知る限りこれは、自然現象ではない。

 そしてその輝きから飛び出してきたのは、戦闘機であった。地球製のものとは異なるが、基本的な形状はこちらのコスモファルコンに近い。それが3機飛び出してきた。

 

 

「山本、見つかってないようだな」

『はい、ギリギリですが。古代一尉、恐らくあの中に基地があるかと』

(あのオーロラが基地を隠しているのか? 暁さんや睦月さん、真田副長なら理論的に考えそうだが、俺はそういうのはわからない。なら……)

 

 

「山本、あの中に飛び込むぞ!」

 

『……! 了解!』

 

 二機は、相手に気づかれないように近くの峡谷の間隙を縫うようにして飛行、そのオーロラに飛び込んだ。

 その瞬間

 SID《警告! 警告! センサーが解析不能なエネルギー放射を感知! 警告! 警告!》

 SIDが警告メッセージを読み上げるが、2機は、覚悟してそのオーロラに飛び込んだ。

 

 そして、キャノピーから見える景色が、一変した。

 

 どこを見渡しても何も見えない。たとえるなら、大雪の日の真夜中に、車を高速で走らせたときに近いだろう。

 

 そして二人を襲ったのは、収まることの知らない震動。

 機体の体勢を保てているのかすら怪しいこの状況に耐えながら、2人は前だけを向き、行く先を見つめていた。

 

 そして、嵐のような震動から解放された、2人の眼前に広がっていたのは、クレーターに造られた巨大な基地であった。

 

 

『古代一尉!』

 古代も確信した。

「ああ、ここが基地だったんだ!」

 

 

 


 

 

 

「真田さん、完成しました! デバックも完璧です!」

 声高らかに完成宣言を行うハルナは、格納エリアの鉄製の冷たい床に仰向けになる。

「んにゃあ~。リっくんハルナっち、お疲れさん~!」

 マリは2人を押しつぶす形で倒れこむ。完全にオフ状態である。

「グハッ!」

 それがとどめになったのか、リクから「攻撃を受けた時の声」が漏れ出る。

 

「上に乗ってくるとか想定外ですよ……」

 

「いいんじゃないのぉ~リっくん? 『親方! 空からメガネの女の人が!』なーんてね」

 

「相変わらず変なネタばっかり持ってきますね。でも面白いですよ」

 マリは奇妙な程古いネタばっかり持っている。作業中に歌っていた365歩のマーチとか、200年くらい前の歌である。そういう趣味なのだろうか? 

 

 

「はいはーい3人とも、殺意満点の自滅促進プログラムはできたみたいね。こっちも準備完了よ」

 赤木博士がMAGIシステム内部から顔を出し、様子を確認する。3人とも思いっきり脱力してるあたり、完成してるのだろう。

「了解! 流し込み準備します!」

 

 王手まであと一歩と来た技術者軍団は半分勝ったつもりで最終段階に駒を進めた。

 

 

 

 しかし、1つの警告音が5人を窮地に立たせる。

 

 

「なんの音?!」

 

「ちょっと見てよコレ! MELCHIOR(メルキオール)が!」

 マリが珍しく緊迫した顔でタブレット型端末を突きつけてくる。

 それはWunder制御システムの全体図である。中心にMAGIシステムが鎮座しているが、現在全ての接続が解除されている。完全なスタンドアローン化を行ったのだが、MELCHIOR(メルキオール)が制御システムとの臨時通信回路を構築しようとしていた。

 相手は人類史史上最強のコンピュータだ。

 

 

「乗っ取るつもり?!」

 

「まさか……マリくん! その通信回路がどこに伸びているのか調べてくれ!」

 真田は少し青ざめた顔でマリに聞いた。

 

「はい!」

 マリはタブレット型端末を操作して痕跡をたどっていった。そもそもサイバー攻撃をする時は痕跡をなるべく残さず行うのがセオリーだが、これは痕跡がバッチリ残っている。そして、敵が残した足跡をたどっていくうちに、1つのシステムにたどり着いた。

 

「いやいやいや……大ピンチだにゃ。真田さん! その通信回路は波動エンジンの制御系に繋がろうとしてます!」

 

「……!!」

 あと一歩で敵は波動エンジンを掌握しようとしている。それがどんなに危険な事か、一同瞬時に察した。

 

 

 

 エンジンが掌握できたのなら、出力の操作は思いのまま。

 

 ならば、急激な出力上昇で意図的にオーバーロードを引き起こし、自爆させることも可能だ。

 

 

「直ちにエンジンの停止を!!」

 ハルナが焦った様子で進言する。しかし、今Wunderは冥王星の重力圏内を航行中だ。重力推進への切り替えは準備が必要、高度な演算が必要だが、それを支えるMAGIは敵にクラッキングを受けている。アナライザーは斥力防壁の維持を続けている。

 

 

「無理だ! 停止させたら冥王星に落ちるぞ!」

 

「じゃあどうやって?!」

 ハルナは危機的状況で慌てやすい。その際論理的思考が停止してしまう事を、本人は理解しているのだが、そんな事を気にしていられるほど余裕がなかった。

 

 

「今やるしかない! ……ここでケリをつけよう」

 その騒動もリクの一声で終いとなった。

 

「そうねぇ、敵は通信回路の構築に躍起になってるあたり、その他にリソースを回す余裕が無いのかもね。その証拠にBALTHASAR(バルタザール)のリプログラミングを途中放棄し、侵入の痕跡がそのままになってるとこもね」

 

 赤木博士も乗り気だ。論理的に考えて、今がチャンスだと踏んだ。

 

「私たちは地球人代表だにゃ、ならば宇宙生物からの攻撃を代表として返り討ちにしてやるにゃ」

 マリは好戦意識高めだ。

 

「敵にはもう後がないんだ。ならばこちらが素早く王手を取るまでだ」

 真田は得意げな笑みを浮かべながら指の間接を鳴らす。

 どうやらやる気のようだ。

 

 

「ハルナ……今が最初で最後のチャンスなんだ。やろう」

 リクがハルナの肩に手を置いて優しく語る。

 

 

(もう! なにやってんの私! 私らしくない!)

(今までリクの姉みたいにしてたけど、これじゃ私が妹みたいじゃん! ああ恥ずかしい!!!)

 

 

「分かったわ! 奴らに仕返ししてやる!」

 ハルナの目は燃えていた。敵に窮地に立たされたから? それもあるが、一番の理由は「恥ずかしい思いをしたから」である。

 羞恥心が原動力なのはいいのか? と考えたくなるが、それはあとだ。

 

 

 

「赤木博士! 大至急準備を始めましょう!」

 ハルナがやる気満々で動き出す。それに呼応して準備が急ピッチで進められていく。

 

 

 

 戦いは、最終局面にもつれ込んだ。

 

 


 

 

「式波二尉、10時の方向を」

 突然加藤が通信を入れてきた。

 その先を見ると、そこには、美しいオーロラが見えていた。

 

「オーロラ? 綺麗だけど、ココ冥王星ですよ?」

 

「何か妙だ。二尉、オーロラってどのようにできるんだ?」

「オーロラですか? 確か地球圏では、地球の磁気圏に荷電粒子……つまり太陽風が衝突することで発生してます。ん? 太陽風?」

 アスカはどこか引っかかる部分があった。

「どうした?」

 

「加藤隊長、冥王星ではオーロラなんて起こりませんよ! 太陽系最果ての星まで荷電粒子は届きません!」

 

「じゃああれは、敵のバリア?」

 

「恐らく基地全体をステルス化するためのフィールドです。その向こうには……」

 

「奴らがいる」

 アスカの言葉を引き継ぐ形で加藤が結論づける。

 

「各機に通達! オブジェクト5付近に敵基地と思われるエリアを発見! これより位置データを各機に転送する! 到着後は、敵が発生させたと思われるステルス化フィールドに飛び込み、奇襲を仕掛ける!」

 

 

 

『了解!』

 

「こちら式波! Wunder聞こえますか? オブジェクト5付近に敵基地と思われるエリアを発見、これより確認に向かいます」

 

『了解。こちらもクラッキングの対処が完了次第、敵基地殲滅に加勢する』

 

 通信はここで終了した。

 

(Sind Sie bereit?)

 

 ガミラスに覚悟を問うアスカであった。

 

 


 

 

『警告! -本艦上空ニ高エネルギー反応ヲ確認!!』

 戦闘艦橋全体に、アナライザーが警告を発する。

 

「船体傾斜取り舵いっぱい!」

 Wunderは冥王星の大地に対して垂直に近い体勢をとった。

 垂直ではなく「垂直に近い」である。

 地面に対して船体を斜めにすることで、疑似的に傾斜装甲を作っているのだ。

 

 斥力防壁は作ったが、それで真正面から受けるのは愚策だ。

 しかし、傾斜装甲なら跳弾させることができるかもしれない。

 

 

「来ます!」

 森がレーダー反応から着弾を警告する。

 本来なら波動防壁で食い止めたいが、あいにく臨界に達しているため使用不能、おまけに防壁を貫通してくるため実質意味がない。そこで、斥力で防ぐのだ。敵の砲撃は陽電子を使用している。つまり、敵の装甲を「対消滅を使ってえぐり飛ばしてくる」。凄まじいほど高出力の熱線でもない限り、防げるはずだ。

 

 

ガガガァン!! 

 

 艦全体に激震が走る。斥力防壁に陽電子ビームが衝突した時、ビームの速度と質量によって防壁を超えて振動が襲ったのだ。

 そして、大急ぎで現座標から離脱する。地表の爆発を避けるためだ。

 

 陽電子ビーム砲はいわば「最強の水鉄砲」。水の代わりに陽電子を使い、それを束にして光速で発射する。

 冥王星には大気はほんの微弱ながら存在していて、その希薄な大気を媒介にして振動が伝わったようだ。

 

「各部状況報告!」

 

「真上より敵の敵の長距離狙撃を受けましたが、損害はゼロです!」

 

『ヤリマシタ!!』

 アナライザーは嬉しそうに頭を回転させる。自分の得意分野である「演算」で船を守れたのだ。

 

「防壁損耗率60%です。至急、修復に取り掛かります。アナライザー!」

 

『オ任セクダサイ!』

 すぐさまアナライザーが再計算を行い、艦直上の斥力防壁を再構築していく。アンノウンドライブが生み出した斥力子を量子転位させて、計算された配置位置に固定。斥力子が発する斥力は、重力子の「引き付ける力」とは反対に、「引き離す力」であり、一つ一つは小さい力だが、大量に配置することで一種の見えない壁を生成している。

 しかし、斥力子の斥力は全方位に発生しているため、ただ配置しただけだと、斥力の力で『Wunderが押し潰されてしまう』ので、斥力防壁の内側に重力子を少量ながら配置、防壁内側に発生する斥力をある程度打ち消して、「Wunderが問題なく耐えられる位の斥力」にすることで、防御と船体強度のバランスを保つ。

 

「船体強度問題なし、成功ですね」

 新見が嬉しそうに艦長に報告する。

 

『こちらアルファ1、古代だ。敵基地を確認した。これより位置座標を送る』

 

「受信しました。……オブジェクト5の近隣? こちらでは確認できなかった位置です」

 

『対象の基地は、特殊な光学迷彩を利用して基地全体を遮蔽している。それにより、熱源、光学観測が不能だったのだろう』

 

「了解した。古代、その基地に光学迷彩システム本体とビーム砲台らしきものは確認できるか?」

 

『光学迷彩システムらしき尖塔は基地外周部に確認できますが、ビーム砲台は確認できません』

 

「艦長、その砲台は海中に設置されているものかと思われます。海中ならば砲台を隠すことも可能ですし、冥王星の外気温ならば、ビーム発射時の熱で溶解した氷結した湾も瞬時に凍結します。隠すにはうってつけかと」

 新見が大雑把であるが推測をする。データが少なく、推測に使える材料が少ない分、自分ならどこに設置するか? と考えたのだ。

(一度撃たせるしかないか……)

 

 

「古代、光学迷彩システムと思われる尖塔の破壊を開始せよ、同時に大口径ビーム砲台の位置を目視で確認せよ」

 

『肉眼……でありますか?』

 

「そうだ、目だ」

 

『了解。古代、山本両名は、遮蔽システムの無力化及び、ビーム砲台の所在の確認につきます』

 

「うむ。相原、隼各機に通達、敵基地の位置は、オブジェクト5近隣」

 

「いえ、問題ないかと思われます。すでに、加藤機と式波機が敵基地に到着しています。それと、捜索範囲全域に散開していた機体が、そのポイントに集結しています」

 森がコンソールを操作して、各機体の位置情報を全周スクリーンに投影した。

 たしかに加藤機と式波機に機体が集結している。

 

 

 

「なら、問題はないか。問題はこちらか……相原、MAGIシステム格納エリアにつなげ」

 

「了解、繋ぎます」

 

『艦長、睦月です』

 

「そちらの状況は?」

『まずいです。MELCHIOR(メルキオール)が波動エンジン制御系に接続しようとしています』

 

「波動エンジンに? エンジンを臨界にさせて自爆させるつもりか」

 

『侵入経路的にもそれが濃厚です。現在、急ピッチで敵へのクラッキング作業を行っています』

 

「了解した、終了次第連絡を頼む」

 

『了解』

 

 

 

 

 

 

 

「赤木博士、状況は?」

 

「もう少しよ。クラッキングプログラムはCASPER(カスパー)にうまくなじんでいる。自分の能力として身に付けたようね。マリ、自滅促進プログラムをこちらに頂戴」

 

「あいあいさー」

 マリが渡したパソコンにはおびただしい量のコードが書き込まれている。それを見た赤木博士は、にやりと笑い、

 

「素晴らしいわ……短時間でここまでよくやったわ」

 

 とマリをほめた。

 

 マリはいつもの笑顔を崩すことなく、

「3人協力プレイの成果ですよ」

 と応える。

 あとはこのコードをCASPER(カスパー)に読ませて実行可能にするだけだが、一歩早かったのは、敵だった。

 

「まずい、MELCHIOR(メルキオール)の通信回路が完成しかかっている! 赤木博士、マリくんそちらを頼む。暁くん、睦月くん、時間稼ぎだ!」

 

 

「「はい!」」

 3人は手近なコンソールに飛びついて、ファイアウォールを展開していく。しかし、MELCHIOR(メルキオール)を奪い、BALTHASARを侵食した敵は実質処理能力が上がっている。いわば、MAGIに人間が挑んでいるようなものだ。じり貧だ。

「クッソ、どんどん割ってくるじゃない!」

「敵はMELCHIOR(メルキオール)を持っている、それにBALTHASAR(バルタザール)も侵食してたから処理法力は計り知れないわ!」

 

 そこで、真田がひらめいた。敵に余裕がないなら、その隙を突くしかない……。

 

「2人とも! 敵が通信回路構築にかかり切りならば、侵食途中で放棄されたBALTHASAR(バルタザール)を奪い返せるかもしれない! ここは私が抑えるから、まずは2人でBALTHASARを奪還してくれ!」

 

「「はい!!」」

 真田の指示通り、BALTHASAR(バルタザール)の奪還に着手した2人は、コンソールの接続先をBALTHASAR(バルタザール)に変更。ハッキングを仕掛ける。

 

 BALTHASAR(バルタザール)内はもぬけの殻だった。

「真田さんの言ったとおり、ここに奴はいない」

「でも用心はしてたみたい、トラップやファイアウォール*2、こっちに逆侵仕掛けてくるような趣味の悪いものとかあるわ」

 まあ、それらは回避するか無力化するかで捌いていく。一応ハッキングのルート上にある障害物のみに対処しているので、その他の障害物は作戦が終わってから掃除するしかない。

 

 

「あった! 管理権限のアクセスポートだ!!」

 

 これを書き換えれば管理者権限を2人のものにすることができる。しかし、それに触れた時、

 

 

「えっ……。これって、暗号?」

 2人を阻むように降りてきたウィンドウには、おびただしい桁数の数列が並んでいた。

「古いRSA暗号か……。真田さん! アクセスポートが暗号で守られてます!」

 

「暗号の種類は?!」

 

「RSA!」

 

「解けるか?!」

 いくら何でも無茶苦茶だ。RSA暗号は、「暗号化されたデータを自分だけの秘密の方法で独自に解読するもの」で、復号には、暗号化時に使った手法は使用できない。

 

 

 実質復号不可能だ。

 

「いや、やります。やり方は見たことあります」

 そう、リクはこれを知っている。何故かって? 

 

 

 では、これを知ることになった経緯を話していこう。

 

 

(回想)

 

「この映画がまた面白くてねぇ~」

「一族で世界の危機に立ち向かうなんて今の人類みたいですね」

「あんな感じで勢いよくエンターキー押してみたいにゃ」

 木星から離脱した後、リクとアスカはマリの部屋でとある映画を見ていた。

 

 そこには、おびただしい桁数の数列の暗号を解く主人公が映っていた。

 

「それにしてもよくこんな昔の映画持ってるわね。内容はまあまあ良かったけど」

 アスカが半分呆れながらマリに聞く。

 

「それね~1世紀前の名作が保管されているアーカイブ庫から借りてきたの~。ユーロから旅立つときに無理を言って、気に入ったやつをイスカンダルへの旅のお供にしたのにゃ。それでこれの解き方なんだけどねぇ……」

 

 

(回想終了)

 

 

「いけるか?」

 

「やるしかありません」

 リクの目は、緊急時ではあるが自信に満ち溢れていた。胸ポケットに入っていたメモ帳とペンを取り出して、準備を始める。

 

「……! リク、大変かもしれないけれどそっちお願い! 真田さん加勢します!」

 

「ありがたい……。敵はこちらの防壁を割り続けることに必死だ。相手が割るよりも早く防壁を展開するぞ」

 

「はい!」

 

 リクはメモ帳を開くなり、その数字の羅列をひたすら書き写していく。

(まずは全部書き写す……)

 

 RSA暗号を手書きで解くこと自体、「初見では無理」である。

 しかし、解法はわかっている。あの映画を見た後、マリが解説していたのを覚えていたからだ。

 

(桁数は512桁、nを素因数分解してモジュロ演算の公式に当てはめて2桁ずつ計算、これを約250セット……!)

 

 

 リクは格納エリアの床にメモ帳を置き、ひたすら計算していく。すでに床には、破られたメモ用紙が散乱している。どの紙にもびっしり計算式が書かれていて、一部判読不能のものもある。

 

 そして、計算速度が落ちることなく進めていく。

 

(あと少し……)

 

「赤木博士! まだですか?!」

 

「あと1分!!」

 

 脳細胞が火花を散らし、複雑な計算を一部暗算で処理していく。

 背後で聞こえる会話も今は遠くに響くようにしか聞こえない。

 

 集中が限界寸前に達し意識が切れそうになるが、かろうじて意識を保ち計算を続けていく。

 

 

 そしてラストの計算を終えた。

 

「解けたぁ!!!」

 

 そのままふら付く体でコンソールに駆け寄り復号化した答えを打ち込んでいく。

 

 その答えは一切の間違いがなく、行く手を阻む壁は瓦解した。

 

 

 

「いまだ!!」

 リクはコンソールを操作して管理権限を奪う。それはあっさり完了してBALTHASAR(バルタザール)はこちらの手に渡った。

 

BALTHASAR(バルタザール)、奪還完了!!」

「よくやった!! 直ちに操作権限をこちらに回してくれ!」

「回します!!」

 

 

「防壁展開! BALTHASAR(バルタザール)を使って、押し返す!」

「博士!!」

「あと10秒!!!」

 

 防壁を張り続ける真田とハルナ、防壁を割り続ける敵。その拮抗は崩れ、防衛を行う真田とハルナの優勢となる。こちらの勝ちは敵に自滅促進プログラムを送り込むことだ。

 そして、敵を押さえ込みこちらが王手をとる。

 

 

「博士、OKです!!」

「押してっ!!」

 

 その王手を決めたのが赤木博士とマリだった。

 勢い良く押されたEnterキーを引き金として、慈悲の欠片も見当たらないプログラムが敵に容赦なく流入する。

 

 

 

 そして敵は、

 制御の効かない進化に飲み込まれその身を滅ぼした。

 

 

 

「……MELCHIOR(メルキオール)の正常化を確認、及び波動エンジン制御系への侵攻、止まりました……」

 ハルナが疲れきった声で艦橋に報告する。

 

 

『よくやってくれた。……あとは我々に任せてとにかく休んでくれ』

 

 沖田艦長の声に、いつも以上に「心配の感情」が含まれていた。

 沖田艦長との通信も切れ、疲労困憊でフラフラなハルナはリクの元へ行き、

「リク……お疲……うわっ!」

 

 足がもつれてリクに倒れ込んでしまった。

 それをリクはギリギリ受け止めて、ぎこちなくではあるが抱きしめた。

 

 

「……お疲れ様、ハルナ」

「/////お疲れ……」

(最後に抱きしめてくれたの、私が目覚めた時だったな……)

 

 

 

 ここに、もうひとつの戦場が幕を閉じたのであった。

 

 

 


 

 

 

「発射」

 古代がコスモゼロからミサイルを放つ。

 遮蔽システムを構成しているはずの尖塔を破壊する古代と山本。

 放たれたミサイルは寸分の狂いもなく尖塔を破壊していく。しかし、敵も黙ってみているはずもなく、

 

「古代一尉、敵戦闘機の離陸を確認しました!」

 

 ガミラス軍の戦闘機が複数機離陸して、こちらに向かってくる。攻撃されるのも時間の問題だ。

 

 古代と山本は敵攻撃機のビームバルカンを避け、斜め下方向に逆噴射、意表を突く動きで敵機の背後を取り撃墜していく。

 

 しかし、数が多すぎる。

 たった2機で複数機の相手など無茶だ、いくら腕が良くても数の暴力で押しつぶされる。

 

 山本もゼロの高機動性を利用して、敵機のうしろに回り込み機銃を叩き込んでいるが敵機は増え続ける。

 

 

 

 そして、敵機がコスモゼロを照準に捉えた。

 

「っ! ロックオンされた!」

 敵機からミサイルが放たれ、それをフレアを使って回避する。しかし、敵機がこちらを回り込み挟み撃ちにしてきた。

 

 

「クソっ! 前後の敵を落とす! 合わせるんだ!」

 

『了解!』

 

 瞬時に意図を理解した山本は、乗機を垂直に急降下、背面飛行に近い姿勢を取らせ、機首を後方の敵機に向ける。

 

 古代も機体を垂直に急降下地表と機体が垂直になるような体勢で機首を前方にいた敵機に向ける。

 

 

 そして同時に機銃掃射を行う。

 まとまっていた敵機はすぐさま火球となり、古代と山本の連携がピンチを脱した。

 

 

 しかし数の暴力は、鮮やかな連携さえも押しつぶす。

 

「多すぎる!」

 山本が悪態をつく。戦争にとって数の力は、単純ながら強大な力となる。

 

 質より数の現実を突きつけられた2人、その2人を狙うザルツ人操縦士はほくそ笑んだ。

 

『テロンの戦士よ、ここまでだ』

 

 操縦桿の引き金に手をかけた時、突如アラームが鳴り響く。

 

『どうした?!』

 

『渓谷より、テロンの戦闘機群が多数出現! 3機撃墜されました!』

 

『なんだと?!』

 

 

 コスモゼロは速度をさらに上げて振り切った。そして通信が入る。

 

 

 

「古代戦術長、騎兵隊の到着です!」

 古代の通信機に入ってきたのは、篠原の陽気な声だった。

 

 コスモファルコン全機が急降下しながら敵戦闘機を攻撃。機銃の掃射で敵戦闘機を一気に火球に変えていく。

 

「加藤、篠原! 助かったぞ!」

 

『数と質の両方持ちならこっちが勝ちなのよ』

『調子に乗るな篠。数を質でカバーできるのは確かだが』

 調子に乗る篠原を咎める加藤。確かに加藤と篠原はベテランの戦闘機乗りだ。一家言あるのだろう。

 

『山本さん、古代戦術長。ここは私たちが倒し切りますので、お2人でビーム砲台の位置を特定してください!』

 アスカは、EURO2の四連機銃で敵機を撃破しながら、古代に重要な役を頼んだ。

 

 EURO2の実践データを積むためにも、戦闘を行いたいのだろう。

 

 

「了解! 後を頼む!」

 

『いってらっしゃいませ~戦術長殿』

 相変わらず篠原は調子に乗る。

 

「さあ、どこからでもかかってこい!」

 初戦闘に気合を入れるアスカであった。

 

 

 

 

「こちらアルファ1、古代だ。敵ビーム砲台の捜索を開始する」

 

『了解した。推定される位置としては、地下、または氷結した湾内と推定される。したがって、発射時に飛翔するビーム軌道より設置位置を確認する必要がある。ビーム発射を促すため、本艦はおとりとして現座標に留まる』

 

「了解。発見次第、座標を転送する」

(さて、いつ敵が撃ってくるか……)

 

 

 

 

「遅いっ!」

 EURO2が敵機に機銃を叩きこむ。そもそもスペックが違う、技量にも大きな差がある。

 そんな状況でこちらに攻撃しても、回避されて裏に回り込まれて反撃されてお終いだ。

 

 機銃の威力は折り紙付き、次はミサイル。レーダーに映る敵機をマークしてロックオン、射程圏内に入ってから

「SAA-1、ファイア!」

 機体下部の内蔵型兵装ユニットが開き、ミサイルが発射される。

 宇宙版の空対空ミサイルは、超音速で敵機を追尾して着弾。確かな効果を主に見せつけた。

 

 今回のEURO2は追加兵装のない通常形態で、備え付けの兵器以外はたいして違いはない。

 

 素の戦闘力をチェックするには最適な状況だ。

 

 さらにミサイルを撃ち込む

「SAA-3、ファイア!」

 敵に放たれたミサイルは、一切の迷いなく着弾する。

 

(最高の機動性ね、さすが私の愛機)

 

 

 初戦闘に満足しながら仕事を片付けるアスカなのであった。

 

 


 

 

『ヴンダーめ、現在の位置は?!』

 

『観測衛星からの位置情報です。基地東方のこの位置です』

 冥王星全体のマップが表示されて敵艦の位置がマークされる。

 シュルツは焦っていた。基地への侵入を許し、迎撃に戦闘機部隊を発進させたのにかかわらず、敵の増援によって戦闘機部隊は崩れてしまった。

 おまけに遮蔽システムは機能を停止させられた。

 これはすべての元凶、災いを呼ぶ不死鳥ヴンダーのせいだ。そうだ違いないと、シュルツは考えた。

 

 そして、すぐに葬ろうと思った。

 

 

『使用可能な衛星を選択後、発射せよ! 必ず撃沈するのだ!!』

(おのれテロン人め……)

 ザルツの宗教神話には、このような1節があった。それをシュルツは失念していた。

 それを覚えていたらシュルツは判断を間違えなかっただろう

 

 

 創世記神書第37章第2節

 不死鳥は舞い降り、大地に混沌をもたらした。混沌は業火を呼ぶ。

 

 

『エネルギー充填完了、反射衛星調整完了』

 これできめる……。

『反射衛星砲、発射ぁ!』

 

 敗北へのスイッチが強く押された瞬間だった。

 

 


 

 

 放たれた一条の光線は宙を駆ける。今まで誰の目にもつかなかった光線が、2人の目に留まった。

 

「あの下か!」

 

『確かに氷結した湾内なら、外気ですぐに湾が氷結しますね』

 湾を見ると、ビームは、氷を突き破っていた。

 

「こちらアルファ2、山本。敵ビーム砲台の位置を確認。座標を転送します」

 

『了解。アルファ2及びアルファ1は、直ちに退避、ブラボー隊の戦闘に加勢せよ』

 

「了解しました」

『よくやったな、山本。良い初陣だった』

「ありがとうございます」

 

 山本の心は、頭上の宙の様に澄んでいた。

 

 

 

「あらよっと! 後ろががら空きなんだよね」

 篠原が急加速急反転で敵機の背後をとる。そして撃墜。

 

「篠! 新人たちのアシストに向かってくれ!」

「りょーかい!」

 実のところ、ヴンダー航空隊には新人もいる。国連宇宙軍の圧倒的人材不足により、熟練のパイロットが少なくなってしまっている。そのため防衛大学を卒業したての、俗にいう一兵卒ぎ多く所属しているのだ。

 

 

 そのルーキーたちは各々でタッグを組み、2機で敵戦闘機を撃破していた。

 一機が誘い込み、敵機がそれに夢中な隙にミサイルを叩きこむ。

 機銃でもいいが、味方への誤射が起こってしまう。

 

 

「おーおー、考えたねー」

 

『篠原さん! 今のところ被撃墜なしですがそろそろキツいです!』

 

「わかった~。加勢するわ」

 篠原が機体のエンジンを唸らせ、敵機に突撃する。フリーな敵機に狙いを定め機銃で穴だらけにして、爆発する前に退避する。

 

 

「お前ら~。これはまだ危ないからマネするなよ~」

 教官気取りの篠原だった。

 

 


ガガァン!! 

 

 

「また砲撃か!」

『航海長、心配ゴ無用デス』

 完全にナメ切っているアナライザーは、片手間に斥力防壁を修復し始める。

 今回は、船体を傾斜する前に砲撃を受けた。しかし、防壁は受けきった。

『損耗率70%! カナリ削ラレマシタガ大丈夫デス』

 

 

「艦首回頭、第1主砲に3式弾装填」

「3式弾、時限信管セット完了」

「敵ビーム砲台の座標を入力、砲身角度調整」

『3式弾、軌道計算完了!』

 

「3式弾、撃てぇ!」

 轟音とともに3式融合弾が3発放たれた。ショックカノンでもいいのではと思われるが、目標座標は遥か山の向こう、直進するビームでは狙うことができない。

 しかし、実体弾である3式融合弾なら、滑空砲のように放物線を描いて着弾させることの可能だ。

 発射前に、着弾座標を何らかの方法で確認してそこまでの弾道の計算を行わなければならないが、ガミラス艦にも十分効果のある、ガミラスから見たら「古臭い武装」だ。

 

「着弾まで、10、9、8、7、6……」

 南部が着弾までの秒数をカウントする。その間に、発射された弾頭は推進装置なしで計算通りの軌道を描き、ビーム砲台が隠匿されているポイントに飛翔する。

 

「……3、2、1」

 3式融合弾が狙い通りのポイントに着弾する。

 時限信管*3が冷酷に時を刻み続ける。その役目を終える瞬間、弾頭を爆発させた。そして、反射衛星砲台が破壊された。

 

 

 山岳の向こう側に、真っ黒な煙が立ち上がる。しかし、こちらからは煙は見えるが破壊したのかが見えない。

 

『こちらアルファ2山本、敵ビーム砲台の破壊を確認』

 

 脅威は去った。斥力防壁を展開したまま強行攻撃を行うのも可能だが、演算リソースを大幅に喰う結果になるし、MAGIシステムの支援が受けられない今そんなことをしたら、アナライザーのキャパを超えてしまう。

 

 

「斥力防壁の維持を解除! 第1から第4主砲に3式弾装填! 敵基地の座標をもとに軌道計算を行え! VLS、舷側短魚雷発射管準備! 相原、航空隊全機に離脱命令を出せ!」

 沖田艦長の命令により、ヴンダーの主砲塔が旋回し、目標の方向を向く。

 

 

 

 

『航空隊各機に通達! これより、実体兵器による敵基地への攻撃を行う! 全機離脱! 繰り返す、全機離脱せよ!』

 ヴンダーの実体弾をほぼすべて用いたフルファイア攻撃が行われようとしている。

 

「全機離脱! 繰り返す! 全機離脱!」

 古代が共通回線ですべての機体に呼びかけた。

「おーし! 俺らの仕事は終わりだ! 危険な雨が降ってくるぞ!」

 

 加藤も僚機に回線で呼びかけて、団体でまとまって、基地の上空から撤退していく。

 古代と山本は最後尾で、全機撤退完了を確認してから敵基地上空から離れた。

 

 

「こちらアルファ1古代、全機撤退完了!」

 

『うむ、南部、射撃開始!!』

『フルファイア!』

 少しテンション高めの南部の声が聞こえた。

 

 

 

 

 ヴンダーから多数のミサイルと12発の3式融合弾が放たれた。

 VLS全基で48発、舷側短魚雷発射管で36発。それプラス3式融合弾12発。計算されつくした合計96発の怒りのフルファイアは、ガミラス冥王星前線基地全体を焼き尽くすくらいには十分すぎる威力だった。

 

 そんな業火の海の中で、ガイデロール級1隻とデストリア級2隻が離脱していく。

 

 

「敵基地の破壊を確認。離脱していく艦隊を確認しました。識別コード戦艦1、超弩級1です」

「主砲をショックカノンに切り替え」

 離脱していく艦を追うようにヴンダーが回頭し、砲塔を向ける。

 

「ショックカノンへの切り替え完了、捉敵よし」

「敵戦艦回頭! こちらに突っ込んできます」

 レーダーの反応を、森が的確に報告する。

 

 敵戦艦が陽電子ビームを放ちながら突撃してくる。それを的確に狙い、ショックカノンが放たれた。

 

 一矢報いようとしていた船は、無残にも散っていった。

 

 

 その向こうで、ガミラスの超弩級戦艦が急加速を行い、ワームホールに突入した。

 

「敵艦、ワープしました」

 

 

(ガミラスの冥王星基地はこれだ終わりだ。地球に遊星爆弾が降ることはもうない)

 

 

 

 ここに、ヴンダーの最初で最後の積極的攻勢作戦「メ2号作戦」が終了した。

 

 

 

 

『艦長より総員に通達、これにて、メ2号作戦を終了する。諸君らの奮闘に感謝する。ありがとう、以上だ』

 

 散らかったままの格納エリアでそれを聞いていた技術者集団は、片付けに追われていた。

 今回一番頑張ったといっても差し支えないリクは、床に散らかしたままのメモ用紙を集めていた。

 

「リク散らかしすぎ……まあ、あの状況じゃ仕方なかったけどね」

「ホント大変だったよ……」

 

 メモ用紙は今後の参考にということで一通り集めてどこかに保管することにした。

 ハルナがそのメモ用紙を目にしたとき、あることに気づいた。

 

「あれ? これって私があげたやつじゃない」

 2年前の誕生日にハルナは、このメモ帳をプレゼントしていた。この時代ではなんでも電子化されていて、紙に何か書くこと自体めったにない。

 

「うん、この時代にメモ帳なんて珍しいなあと思ってたけど、なんとなく大事なものに思えたからいつも持ってたんだ。今回はこれに救われたよ、ほとんど使ってしまったけど」

 そう言いながらはにかんだリクの笑顔に当てられたのか、ハルナは少し顔が熱くなってしまった。ハルナが「誰でも狙い撃ちな顔面凶器」なことで忘れがちだが、リクも整った好青年である。

 

 

「おやおやハルナっち~お熱かな~?」

 すかさずマリが茶々を入れる。

「違いますよ!!」

 顔真っ赤なハルナは全力抗議を行うが時すでに遅し。マリのいじり攻撃は現在フルファイア中だ。

「3人とも、片付け!!」

「「「はーい(にゃ!)」」」

 

 

 作戦後にほほえましい情景を展開する5人衆であった。

 

 

 宙を駆けるヴンダーはまもなく冥王星軌道から離脱し、太陽系の玄関であるヘリオポーズへと向かう。

 巣を飛び出した不死鳥は、見知った風景と別れを告げて外の世界へと飛び立とうとしている。

 

 

 でも大丈夫だろう。根拠も何もないが、確信はある。

 

 奇跡の名を冠した船は外洋へと漕ぎ出す。その翼は折れない意思の形だ。

 

 

西暦2199年2月14日

 メ2号作戦完遂

 ガミラス冥王星前線基地の壊滅を確認

*1
システムに侵入して、システムの構造を解析したりプログラムの改変をする行為

*2
外部の許可されてない通信(不正アクセス)から守るための防壁

*3
「信管」とは、爆弾を爆発させるためのパーツ。時限信管は弾頭が発射された直後に作動して、爆発までの秒読みを開始する。そして0になったら弾頭を爆発させる




お待たせしました。祝20話です。
( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆

この話を書いていた真夜中に、評価バーの方に色が付きました。ふとした思い付きで書き始めた「一歩間違えたらカオス」な作品が、まさかここまで多くの人に読んでいただけたこと、そしてここまで話が続いた事が今でも信じられません……!
読んでくださっている方々、お気に入り登録、評価してくださった方々、改ゼルグートのアイデアをくださった方々、誤字訂正情報を送信してくださった方々、本当にありがとうございます。第20話という節目ということもあり、簡潔ではありますが主なりの感謝の言葉としてここに書かせていただきました。
本当にありがとうございます!(*´▽`*)

今回の話は、内容的にウクライナ紛争をイメージさせてしまう可能性があり、掲載するかどうか悩みましたが、原作よりも表現を簡易的に…アバウトに書き換えて掲載することにしました。
修正前はかなり細かく書いていたので「アウトかなぁ」と思ってましたので、そこだけです。

RSA暗号は、実際に映画「サマーウォーズ」でケンジくんが夜通しで解いていたものです。
リクが解いていて暗号は、それよりも簡単なものです。
RSA暗号の解法を解説したサイトのアドレスをここに載せておきます
https://it-trend.jp/encryption/article/64-0056

少しずつハルナとリクをくっつけていきます
次回は太陽系赤道祭でも書こうかな

しばらくは国家試験の勉強に集中したいので、ペースは2週間に1度の鈍行気味になります。場合によってはお休みする可能性があります
……(゚Д゚;)。oO( oh.no…)

サイドストーリーは1話完成しているので、近日中にうpします。


最後に、この作品の校正を手伝ってくださった皆様に、お礼申し上げます。
ありがとうございました!
では皆様、次章を乞うご期待下さい。
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